モルモット
バカンス最終日、チェックアウトの為、各寝室にて皆帰り支度の荷物整理をしている。
ひとみとななの寝室にて何やら会話をしていた。
ななが首飾りのペンダントを首に付けようとしていて、ひとみがななに話し掛けた。
「それって、はなちゃんのだったっけ?」
「見せてもらってもいい?」
なながひとみの方に振り向き、ペンダントを付けるのを止めた。
「うんっ、いいよ。」
となながペンダントをひとみに手渡す。ペンダントを色々と眺めてから蓋を開けてみる。
金髪頭の幼い少女がモニター画面に写っていた。はなの姿だ。
このペンダントはかな、さなの父親からなな、はなの誕生日のお祝いにお揃いで貰った物だ。
貰った時の事はまだ幼過ぎて覚えていない。オリジナルの物で何処にも売っていないと。
小型端末機器みたいな物で色々と仕掛けがあるようだが、良く分からないそうだ。
その時のかなやさなは非常に羨ましかったようだ。
ひとみがそのモニター画面を見つめ、黒髪頭のななに話し掛ける。
「昔って、二人とも金髪頭だったっけ?」
ななが頭を触りながら、ひとみに答える。
「そうだったかな。お母さんが黒に染めたみたい。」
「もう金髪には戻らないけど、今の方が気に入っているし・・・」
ひとみがそれを聞いて、少し驚いていた。
「私がなな達と出会った時はもう黒髪だったね。」
「そうだったかな?余りよく覚えてないけど・・・」
ななは昔の記憶が曖昧になっており、うろ覚えの様だった。
ひとみはそれ以上の話は止めて、ペンダントの蓋を閉じて、ななに手渡した。
「さぁ、さっさと支度して行こうっ!」
とひとみがななに声掛けをし、準備を済ませ、広間に集まった。
ホテルのロビーでチェックアウトを済ませ、家路につくのだった。
ここで語らなければならない事がある。ななとはなの関係だ。
ななやはなが宇宙都市で生まれ育った頃の話である。
ある宇宙都市の医療施設にて金髪の双子の女の赤ちゃんが産声を上げた。
姉はなな(実験番号77)、妹ははな(実験番号87番)と名付けた。
まみ博士の長年の野望により、研究、実験の為に生まれたのだ。
かなやさなの父親の名前は優。優博士は物体転送装置を発明する程の頭脳明晰で、
誰からも信頼が厚い。まみ博士も頭がいい方であったが、それ程ではない。
男性の研究者からは上から目線で見られる事も度々だった。
後程、冷凍睡眠装置を開発するが、娘達(かな、さな)の手助けがなければ出来なかった。
実権の欲しいまみ博士は優博士に近づき結ばれたのだった。
ななとはなの父親は優博士ではなく、内密にどこからか入手したのか
まみ博士が人工授精によって産んだ。最初から愛情は持っていなかったのだ。
双子のかなやさなにも同様に愛情はなく、才能だけを利用したかった。
まみ博士の家計は特殊で、瓜二つの双子の女の赤ちゃんしか生まれてこなかった。
男の子が欲しいのに生まれて来なかったりで、長年、男両親から恨まれたり、
まだまだ男性中心の世の中であった。
まみ博士は小さい頃から男性に対して劣等感や妬みがあったのだ。
優博士はそんな事は関係なく娘達(かな、さな、なな、はな)に愛情を注いだ。
ななやはながいずれ殺されたりはしないかと役立つ様にペンダントを渡した。
モルモットの価値として終了したななやはなは、幼い頃、かなやさなの容姿に
似ていたので、直ぐに見分けが付くように髪を黒に染めたのだった。
またいつの日か役に立って貰うために・・・、側に置いておく事にした。
そして何年かの月日が経ち、翔やひとみに出会う・・・
ある宇宙都市の実験施設で子供達がかくれんぼをしていた。
なな、はな、ひとみ、翔の4人だ。かなとさなは母親の手伝いでここにはいない。
ひとみが鬼のようで、3人を探していた。
「ななちゃん、この部屋に隠れよ!誰もいないし!」
はなが一緒に逃げているななに声を掛ける。
立ち入り禁止の部屋だったが扉は開いているようだ。
「大丈夫かな・・・うーん・・・」
なながはなに返事をすると、
「大丈夫だよ!入ろうっ!」
と言って中に入っていった。そしてはながいつもお姉ちゃんがたまに悪戯している様に
私達も髪型を変えてひとみを騙そうと提案したのだった。
もし見つかっても見分けが出来ず、間違ったらまたひとみを鬼にしてしまえばいいと。
ななとはなも瓜二つの双子少女で見分けが付かない。
いつも髪型をなながポニーテールで、はながツインテールにしていた。
それをお互い逆に結んだのだ。
なながツインテールに、はながポニーテールになった。
その光景を見ている2人の存在。一人は翔で実験室の扉の前で見ていた。
探しているひとみの影が見えたので、その場を直ぐに離れた。
ひとみは立ち入り禁止の部屋(実験室)は素通りしてしまった。
もう一人は別室の監視モニターからで大人の女性だった。
注意もせず、ただ画面をずっと見ているだけだった。
この実験室には、まだ未完成段階の生命体転送装置があった。
試運転の途中で、研究者達は鍵をかけずに会議室で緊急会議をしていたのだ。
「ここの中(送信用)に隠れよう!」
「はなちゃんはあっち(受信用)に隠れてっ!」
となながはなに言った。送信装置の扉は開いており、中にななが入っていった。
ななは暫くして眠くなり、眠ってしまった。
受信装置の扉をはなが開けようとするが開かなかった。
この時、受信用は送信信号が来ないと扉が開かないように設計されていた。
なぜなら受信用にも人が入ってしまうと、送信用の人と受信用の人とで
混線が起こり危険な状態になるからだ。
扉の開かないはなは、別の場所に隠れて暫くして眠ってしまった。
そうこうしているうちに研究者が戻り、気付かずに試運転を開始してしまった。
その音にはなが気が付き、駆け寄るが遅かったようだ。
「ななちゃんが、ななちゃんが・・・」
「ななちゃんが・・・」
はなが研究者の一人に言い寄るが、研究者のもう一人が子供の髪型を見て話し掛けた。
「ななちゃんはあなたでしょ。ここは立ち入り禁止よ!」
「危ないから、出なさい!」
と連れ立たれて実験室の扉の外に追い出されてしまった。
扉の外で叫び続けるポニーテール(ななの格好をしている)のはな。
「ななちゃん、ななちゃん・・・」
やっと送信装置に入っている誰かに気付くが、時遅し状態だった。
未完成段階の生命体転送装置が起動されてしまった。
一部始終の動作が終わると、受信装置の前に研究者が集まり扉を開けた。
受信装置の中にあったのは、少女が身に着けていた衣服やアクセサリーのみだった。
急いで送信装置の扉を開けると髪の解けた何も身に着けていない少女が意識を失い、
横たわっていた。
医療室へ運ぼうと少女を抱えて飛び出していく研究者。その姿を見てショック状態の
ポニーテール(ななの格好をしている)のはなは叫び続けていた。
「ななちゃん、ななちゃん・・・」
「ななちゃん、ななちゃん・・・」
とはなも過呼吸状態になり、その場で意識を失ってしまった。
後から駆け寄ったひとみと翔はまだまだ子供だったので、
何が起こっているのかさえ分からなかった。
ただ翔は髪を入れ替えたポニーテール(ななの格好をしている)が
はなだって事は分かっていた。
ななの格好をしていたはなが気が付いたのは、その事件から数日が経っていた・・・
「ななちゃん、ななちゃん・・・」
「私はななちゃん・・・私は・・・」
と呟いていたはなのベット脇に一人、まみ博士がいた。
「あなたははなでしょ!」
とまみ博士が言ってもはなは呟くのだった。
「なな、なな、私はなな、なな、なな、なな・・・」
「私はなな、なな・・・」
幾ら説得せずも埒が明かないし、責め立てると其の内に発作や癇癪を起し、
意識を失ったりするので、はなの事をななと呼ぶ事に決めた。
ななとはなの個人データも入れ替えてしまった。
一方の本当のななは未完成段階の生命体転送装置の影響からか
意識は全く回復せず、体が動かせない状態になっていった。
ただ魂の抜けたもぬけの殻の状態になったとは思えず、
後々の研究の為、完成間近の冷凍睡眠装置を使って、保存する事に決めた。
そして、子供達には、はなは事故で亡くなったと報告した・・・
翔だけは本当に亡くなったのは、ななちゃんではないかと思っている。
なお、もう一人の別室の監視モニターから見ていた大人の女性は
まみ博士だったのだ。人体実験での結果も見てみたいと思っていた。
またかなとさなには髪型を変えて悪戯は絶対にするなと注意した・・・
以上が事の発端である。




