金魚
金魚
彼女の部屋は塔のうえで、
彼女は外を知らなかった
ゆがんだガラスの窓をとおして、
空飛ぶサカナをながめていた
天蓋に張りついたサテンの金魚が、世界でいちばんのミステリーだった
彼女はそれを、空飛ぶサカナの標本だと思っていた
金色の羽に大きな黒目
それと、とんがっていない口
飛び交うサカナのどれとも違う
世界でいちばんのミステリーだった
それはきっと特別だからだと、彼女は考えた
そして自分も特別なのだと、
はるかに下の、かすんだ世界を見て思っていた
それでも彼女は退屈だった
ほんとうの謎を解き明かしたかった
空飛ぶサカナの正体と、
かすんだ世界の真実とを
いつか金魚が動きだして
彼女を誘って一体になって、
金色の光の粉に変わって
サカナの群へと溶けていく……
そんな光景を夢に見て、
彼女は今夜も、まくらを抱いた。