正義
この作品は黛クロナさん主催五月雨コンの参加作品となります。
昔、争いがあった。
事の発端は人間の中から特殊な能力を持った者たち(ホルダー)が生まれ始めたことだ。
その数は爆発的に増え人類の3分の1を占める数まで登っていった。
そうなると一つの問題が必然的に浮上してくる。人種差別だ。
人間はホルダーを「化物」呼び忌み嫌い排斥しようとした。
それに対してをホルダーは人間を「劣等種」と呼び排斥に対してその能力を持って抵抗した。
争いはホルダーたちが優勢だった。しかし、一部のホルダーは目指すべきは殲滅ではなく共存ではないのかと異を唱え、人間を守るために他のホルダーたちと戦った彼らは後に「ホルマン」と呼ばれた。
しかし人類は自分たちを守るために戦っているホルダーたちも化物と一括りにし排斥し排除しようとした。
ホルダーと人間、2つの陣営から狙われたホルマン達は絶望の中1人また1人と命を落としていった。
そして残ったのはたった1人のホルマンだった。
彼は争いごとが苦手だったが人間を信じ、人間の自由のために望まぬ拳を振るい戦った。
そして彼はたった1人で戦い続けた。人間は殺さなかったがホルダー達はその力の強大さから手加減できず殺してしまうことが多々あった。
男は戦いこそが己の全てと人間を滅ぼすため嬉々として力を振るった。
戦い続けているうちにその後ろには男を慕うもの、男の力に心酔するもの、男のおこぼれに与ろうとするもの等様々なホルダーが連なっていった。
気づけば男はホルダーのために戦う救世主と呼ばれ男の旗のもとに一大軍団が築かれていた。男はそれを見ても気に留めず、好きにしろとだけ言い残すとまた1人で走り出した。
そして始まった人間とホルダー同士の戦争はホルダー側の優勢で進んでいった。しかしある時そこに障害が現れる。
人間との共存を目指す存在「ホルマン」達だ。彼らはホルダー達から離反し、人間側について戦った。
しかしホルマン達は信じていたはずの人間達から裏切られ、全員命を落とした。
はずだった。
ホルマン達の中でたった1人生き残った彼は心折れず人間の自由のためにホルダー達に立ち向かっていった。
彼の力は強力で何人ものホルダーたちが命を落としていった。命を落とさなくても消耗状態のところを突かれ人間に殺されたホルダーも大勢いた。
最初の方はその力を面白いと感じ戦ってみたいと感じていた男はある日、自分の中でその感情が憎しみに変わったのに気づいた。
男の中ではいつの間にか他のホルダー達に対する仲間意識が芽生えていたのだった。
その日から男はホルダー達の王を名乗り始めた。元々素質があったのだろう男が直接指揮を取り始めると、一時はホルマンの手によって互角となっていた勢力図がまたたく間にホルダー優勢に傾いていった。
しかしそれでもなお決定打が打てないのは人間に与するたった1人のホルダー。彼を倒さねば勝利はないと男は決闘を申し込んだ。そして二人は誰も知らない場所で相対した。
見つめ合った二人はまるで図ったかのようなタイミングでは駆け出した。
彼の能力は「超人的な身体能力」、男の能力は「強力な念力」
彼が殴りかかれば男は念力で自分の前の空気を固め盾にすることで防ぐ。男が念力で付近の瓦礫を浮かせ投げつければ彼はその手足で持って瓦礫を粉砕する。そうして始まった戦いは辺りの地形を変えながら三日三晩続いた。
そして迎えた四日目、お互いの手の内が全て割れている状態で決定打が打てずにいると、雨が降り始めた。
男はその水を念力で集め圧力を加えて射出することで即席のウォーターカッターを作り出した。彼はそれを己の強靭な皮膚で防御するが水圧に押され皮膚が徐々に切れ始める。
異変に気づいたのは男の方だった。水に掛けることのできる圧力が弱くなっている。彼の方も気づき始めた。自分の力が弱くなっていることに。
その原因は今降っている雨だった。人間が開発したこの雨はホルダー達の能力を弱めそして消滅させてしまう。そんな雨が今世界中で降っていた。
お互いが異変の正体に気づいた瞬間、2つの銃声が響いた。
人間達は能力が消えたホルダーたちが何かの拍子に能力を取り戻せばまた自分たちに危機が及ぶと、全世界で雨が降るのと同時にホルダー達の掃討作戦が行われたその最初の標的こそホルダーの中でもっとも強力な力を持ったこの二人だった。
銃弾の雨が二人の体を貫いていく。銃声が止まるとそこに残されたのは二人の死体のみだった。
たった一日の雨がこの地球上から全てのホルダーを消し去った。
この雨が止む頃には地球上から全てのホルダーが姿を消していた。粛清を逃れたホルダーも能力が消え、ただの人と変わらなくなってしまった。
それから数年後、二人が戦った場所には小さく簡素な墓が建てられているだけだった。
彼は人間のために戦った。
男は同族のために戦った。
命をかけた二人の戦いは一日の雨で一瞬で終わりを告げた。
これから先少しづつ二人のことを知るものは減っていくだろう。そしていずれは零になる。
そう、まるで雨上がりのように。