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異世界防衛戦線  作者: 暇人
二章・綻び始める幻想の世界
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八節・この世界の真実と新たなる出会い

気がつくと僕は、薄暗い部屋の中にいた。この光景は、前にも一度だけ見たことがある。何故か僕の身体が太っていて、そして周りには龍の死骸より臭い匂いのするゴミの入った袋の数々。あとは煌々と点けられたテレビと呼ばれるもの…前は確か、如月に会った日の夜のことだ。ドラゴンを大量に倒して、疲れていてその日泊まった宿屋で見た夢だ。確かその時見た夢ではそこにあるドアから出たら、老夫婦がいて、何故だかすごく喜ばれて、よくもわからないうちに目が覚めてたんだっけ。

まあとりあえず、せっかくもう一度同じ夢を見たんだ。そのドアから出ないでこの臭い部屋をよく調べてみるとしますか。まずはすぐ傍にある机だ、ここにもごみ袋が乗っかりまくっているから、退かしてから調べてみる。

すると、机の上には下手くそな絵と文章が書かれていた。僕らの国で使われている文章とはまるっきり違う文章のはずなのに、僕はその文をスラスラ読むことができた。「何々?、タイトルは『引きこもりが異世界で、無双してもいいですか?』それで主人公は…如月烈火!?道理で経歴不明なのに強い訳だ。そしてヒロインは…えっ!?十一人も?しかもやっぱりルナス王女も入っている…」

そしてこの作品を読んでいくと、僕の歩んできた国や他国との戦争はあるけど…流れが大きく違っている。ツジゲン帝国が信じられないくらいに弱く設定されていたり、ほとんど国王の娘とか宿屋の娘やらとイチャイチャしてるだけの話だ。なんだこれ、三文芝居でもこんな酷いのはなかなかないぞ。恋愛を描きたいのか、闘いを描きたいのかまるではっきりしていない、素人目から見てもこれは酷いと感じざるを得ない。

だがこれで一つの疑問がはっきりした、如月は何故あそこまで都合よく強くいられるのか、それはこの物語の主人公だからだ。この国、いや、この世界と言ったところだろうか。

そういえば、流石にここまでリアリティのある夢だ。今の僕の名前を知らなきゃいけないような気がする。

机の上をよく探すと太った体のおっさんの写真が載った札みたいなものだ。そこに名前が書いてあった、その名前は「田中浩」年齢も書かれていて、2018年現在では52歳らしい。よくもまあこんな都合のいい話を描けるものだ、52にもなった年寄りが。

「ぐはっ!?はぁ…はぁ…」

「気がついたか、ゴルダラの選ばれしものよ」

「あなたは!?アルリ・ツジゲン!」

「名前を聞かせてもらおうか、名前を聞かなければ、君をなんて呼べばいいか分からない。」

「スカス・マダ、スカスって呼んでください。」

「スカス・マダ…ひっくり返せば異世界語でダマスカスという国名になるな。」

「やはり君も所詮は奴の手の上と言ったところか」

「奴の手の上…まさか、あの如月…いや、田中浩のことかな?」

「田中浩か、やはり君もあれを見ているのか」

「あれ?ひょっとしてアルリ皇帝様もあの夢を…」

「ああ、その現象は我々の魔術の研究の過程で発見されたものだ。魔術の研究には根源を知ることも一つの過程だからな」

「スカス君、君にはこの世界の真実を知る必要がある。ゴルダラを変えたいんだろう?」

「はい、それがアメジさんからの遺言なので」

「君が見た夢の中には、我々の国や、人々が描かれた小説があったはずだ。それは君が予想する通り、この世界の骨格だ。田中浩の作り出した幻想の世界で我々は存在している」

「え?じゃあ僕らは一個人の中の存在って言うことなんですか?」

「そうだ、だが何故我々は田中浩の部屋の中に入れるだろうか。君はそれが分かっているか?」

「いや、知りません。」

「だろうな、その現象にはそもそも起因する原因があってな。それは、如月烈火がいるだろう、彼こそが田中浩の正体だ。」

「…やはり、如月が。」

「ああ、そして田中のシナリオ通りに進まない者だけがあの夢を見ることができる。だから君はこの私に選ばれた」

「最初からそれが狙いで、ゴルダラ王国に戦争をわざわざ仕掛けたんですか」

「その通り、核心に突入した君をわざわざ探すためにね。」

「じゃあ…これから僕はどうすればいいのですか」

「如月烈火に対抗する力を君に教えよう、それをするには我々の試練を乗り越えて行ってもらう。君こそ、マジク・アルケミスを超えてみせろ」

「…如月を殺すということは、この世界を破壊するということですよ、そんなの…僕は…」

「よくよく考えてみろ、如月は、この世界をあの薄暗い部屋のように引きこもっているだけだ。そんなもの思考を止めた動物と同じだ、引きこもりの背中を、誰が押してやれると思う?」

「…僕らだけです、でも…その時は僕らの世界ごと消えて無くなるんじゃ…」

「それは心配しなくていい。奴の妄想の世界はここで終わりだ、如月が居なくなればこの世界は正しい光を取り戻す。」

「誰か一人にとって都合のいい世界なんて存在はしない、僕だってそうしたいと思います。」

「よし、なら決まりだな。君を如月に対抗する力をつけてやろう、だが今はこれから私はゴルダラの国王と会談がある。君は待って居てくれ」

そうして、皇帝は僕の前から立ち去っていく。まさか僕が敵国の秘密兵器にされるなんて…こんなんまさしく呉越同舟だ、立場がまるで違っても、まさか利害が完全に一致してるだなんて思いもしなかった。それも横の国は50年前から存在に気がついていたなんて、まるで頭が上がらないよ。

「おい、貴様。」

やたらと高圧的な態度で話してきたのは、皇帝の守護魔導士の女だった。多分僕と大差ない年齢だと思うけど…なんで皇帝の守護魔導士まで上り詰めたんだろう

「は、はい!?」

「ゴルダラはどんな様子だ。」

「い、異世界人がどんどん変なことを伝え続けています。」

「そうか、相変わらず腐り切っているな。」

「スカスとか言ったな、皇帝の魔術訓練は厳しいぞ。君に耐えられるかな?」

「…失礼ながら、お名前」

すると何故かその女は食い気味に言う。

「スペク・アルケミス、大魔術師の一人娘だ。」

「ス、スペクさんの魔法を拝見したいんですが…我々の国では魔法というものがほとんど認知されてないもので…」

「いいだろう、アルリ皇帝が来られるまでまだ時間がある。我々の魔法を特別に見せてやろう。」

「魔法というものは、イメージしたものを詠唱と共に放つことが最も重要とされる。これは基本中の基本だ」

「クリスタ!!!」

その詠唱と共に、スカスの目の前に落ちる結晶の塊。何もないところから詠唱だけで結晶を作り出すことだってできるのだ。

「す、すごい!これができるのはゴルダラでは如月烈火だけだった!!」

「はぁ…あの国ではこの程度の魔法すら閉じられてしまっていたのか、やれやれ、こいつの修行の先が思いやられるな。」

こうして、まさかまさかの展開で、ツジゲン帝国の味方をすることになり、ゴルダラ王国に反旗を翻すこととなった。そして更に、(恐らく)新たなる仲間のマジク・アルケミスの一人娘である、スペクとちょーっとだけ仲良くなるのだった。

実のところスカス・マダは20年近く生きてきて、誰一人として彼女が出来たことがなかった。この出会いが、スカスの一生の伴侶になるとは、スカス自身も…気づくわけもないでしょうね。

とはいえ、漸く真の敵が見えてきたのだ。何故が見ることのできる未来人の夢、その夢が、この世界の仕組みを紐解く中枢になっていて、その未来人をこの世界から引っ張り出すというはっきりとした目標ができた。最初はゴルダラという国で一生適当な仕事に就き、適当に家族を養い、適当に死んでいくことを思い描いていた一人の少年が、誰かの為に、この世界を賭けて戦うことを誓ったのだ。次に如月烈火とスカス・マダが戦う時が最後の戦いになるだろう、その時には、スカスがより一層人として強くならねばならない。そうしなければ、この世界と戦うことすらままならないだろう。

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