七節・大魔術師と如月の謎
そして、ゴルダラ王国がツジゲン帝国城に突入を仕掛ける。戦闘機は全機撃墜、騎兵隊は鋼龍の自爆により半数削られ、ゴルダラ王国は疲弊しかかっていた。だがまだエースのジョン、如月と彗星の如く覚醒したスカスの三人が残っているのが不幸中の幸いということだろうか。
正門から全軍突入を仕掛ける。先陣を切るのはやはり、如月の魔法だった。
「マジク・バインド!」
今唱えた魔法は、魔法使いにとって一番の天敵、『魔封じ』だ。魔法さえ封じれば少数となってしまったゴルダラ王国の兵でも抵抗することができる。
ツジゲン帝国城は、かなり閉鎖的な作りになっている。市街地の作りがほぼ大通りというものが存在せず、曲がりくねった迷路のような城下町で全体的に目印になるものがほぼないため、どこに城があるのかすらわからないような作りになっている。
それに、通り中に魔法陣が敷き詰められ、別の通りに亜空間転送されている為、どんなに進もうが城郭にたどり着けないような仕組みにもされている。
だが如月は、魔法陣を瞬時に発見し、解除していく。次々と隠れていた兵士が発見され、続々とツジゲンの勢力が削られていく。
「しかし…魔法になるとさっぱりわからないなぁ」
スカスはつい独り言をもらす、体術や武器の扱いをこなせるようになったが、魔法は全くの専門外だ。ツジゲンの魔法がゴルダラ王国のオーソドックスだっただけに、スカス自身魔法自体をここまで沢山の数を見ることだって初めてだった。
気がつくとスカスだけ周りとはぐれてしまっていた。
「あれ?隊列から逸れた覚えはないんだけど…」
するとスカスの目の前に謎のローブの男が現れる
「お前は…?」
「この国の魔術の第一人者である、マジク・アルケミスだ。お前を拘束する」
「何ッ!?」
「これで貴様は国王から逃れられまい、『テレポータ』!!」
するとスカスの足元に円形の空間が開き、途端にどこかへ飛ばされてしまう。そしてマジクは如月の方へと向かう。
「見知らぬ少年よ、君は国王様に選ばれた。国は違えど、羨ましい奴よ…」
一方その頃、如月たちは順調に歩みを進める中、ジョンはスカスが居なくなっていることに気づく。
「如月、さっきからスカスの姿が見えないぞ」
「大丈夫だ、あとで多分見つかるから。それに、このまま進めば順調に城に着くぞ」
あと少しのところで唐突に、如月の眼の前にマジク・アルケミスが立ち塞がる。
「ここから先へは行かせないぞ、異世界人。」
「!?、鎖国しているのに何故俺のことを知っている」
「フン、大魔術師に見抜けないものなどあるものか」
「長話してる場合か!先手必勝!!!」
そう言ってジョンがマジクに斬りかかる、やはりと言ったところだろうか、マジクは攻撃が当たったと同時に攻撃を亜空間移動して回避した。
「亜空間解除!!!」
瞬時に如月は陣を張り、マジクを亜空間から引きずり出し、マジクとの正面からの戦闘に挑む。するとマジクは、如月に挑発するかのように言葉責めを仕掛ける。
「私は貴様の正体を知っている、だから私はここで貴様に倒される。どうあがいたとしても…だが貴様相手にどこまで挑めるか、私自身も興味があってね」
「くっ…貴様どういうつもりだ」
すぐに魔術決戦は火蓋を下す、如月は得意の炎の魔法「ソルブレイザー」を放ち、マジクは亜空間へと次々に吸収していく。
「いくら魔法を放ってもマジクに吸収されていく…どう対策をとればいいんだ…」
「フン、貴様なぞこの亜空間に閉じ込められて一生そこで過ごすがいいさ、喰らえ!亜空間転送魔法!!『マジク・アブソプション』!!!」
そう唱えると、如月の持ち堪えていた足元がマジクの亜空間へと吸い込まれていく。
「くっ、うわああああぁっ!!」
シュッと、如月を吸い込んだ亜空間が閉じられる。
「さあ、次にこうなりたい奴はどいつだ?」
如月が吸い込まれたせいか、全ての兵士にどよめきが走る。
「くそ、このまま引き下がっててたまるか!」
そう声を上げたのはやはりジョンだった。
「不意打ちを仕掛けたのは見事だったが、貴様らには魔法の心得自体存在しない。その時点でお前たちはもう敗北しているのに未だに気づかないのか?」
ジョンが再び斬りかかる、やはり攻撃が全くと言っていいほどマジクに当たらなかった、だがジョンはこれでいいのである。なぜならこれは、如月が亜空間から帰還するまで時間を稼ぐ作戦だからだ。
魔法を使えるのはこの軍では1人しかいない、だからこそこの戦況を立て直すには彼の力が必要だと信じて
その頃如月は、亜空間に閉じ込められたままだった。
「くそっ、どうしてだ!俺はこんなはずじゃなかった!」
「俺はこの世界の最強で完璧だ、そしてみんなに俺を認めさせるんだ!最強じゃなきゃいけないんだ!!なのになんでどいつもこいつも俺を追い越していくんだ!!!」
1人になって初めて露わになった如月の独白、現実というものは自らが努力しなければいずれ誰かに置いて行かれていく。それの繰り返しだ、そんな事に怯えながらこの世を生きて行かなければならないのはとても辛い事だ。だが努力せず、ある意味天然で能力を持っているだけのものはいずれ置いて行かれる。その天然だけで世界が動いていれば、それは思考を止めた人間と同じである。つまりそこらのネズミと大差ない、という事だ。
だが如月は、亜空間を崩壊させる魔法を突然思いつき、脱出を試みる。
「ここから出る!何もない真っ暗な場所はもうこりごりだ!」
ジョンはまだ、マジクに効きもしない攻撃を繰り返ししていた。
「ハァ…ハァ…かれこれ一時間か…このくらい稼げばそろそろ…」
「遊びは終わりだ、次はお前が亜空間に閉じ込められてしまえ」
すると突然、マジクの目の前に亜空間が現れ、ぬるりと如月が戻ってくる。
「マジク・アルケミス…今度こそお前を俺が倒す!」
「ほう…やはりこの程度ではお前を倒す事は出来ないか。ならばかかってくるがいい、死に物狂いで私が相手になってやろう。」
「『マジク・バインド』!!最初からお前にこれを仕掛けておけば良かったんだ!」
「そんなもの、大魔術師である私に効くはずもないだろう。暗闇に入って脳が縮んだのか?」
「くそっ!」
「ならば食らうがいい、『ソルファイゲン』!!!」
「バリアンウォール!!」
マジクの放った魔法を間一髪で防ぐ、だが、如月の魔力は亜空間から脱出した時点でもう尽きかけていた。次に魔法を放てばもう魔力は残されていない、マジクの隙をついて渾身の一撃を込めるしかない。
如月は今までの戦法と転じて、剣戟でマジクの攻撃に抵抗する手段に打って出る。
「はっ!ふっ!」
「剣に頼ろうとは、貴様さては魔力を切らしたな?魔法使いたるもの、魔力を切らすとは情けない!」
「ジョン!悪い、もう一度助けてくれ!」
「ああ、了解!!」
やはりマジクにはいくら攻撃を与えても無意味だ、いくら切っても切っても攻撃が当たらない。だが、痺れを切らし、勝利を確信したマジクが先手を仕掛ける。
「トドメだ、貴様らもろともチリになるがいい!」
「ソルファイゲン!!」
「いまだ!やれ如月!!!」
「ああ、『ファイゲン・ブレイク・ソード』!!!」
この魔法は、ソルファイゲンの無属性最強魔法の能力を剣に通して最大限に放つ文字通り、如月に残された最後の一撃、因みにこの技を使うことができる剣はファルクスのみである。
「ぐわああああっ!!!はあっ、あと一息だと思っていたんだが、貴様にまだそんな隠し球があったとはな!流石だよ!」
そう一言残し、マジク・アルケミスはそのまま倒れていった…
「はあ…はぁ…、こいつ、とんでもねぇ強さを持ってやがったな」
「おそらくこれ以上の敵は出てこないだろう、よし!城に突入するぞ!!」
『うおおおー!!!』
「待ちたまえ、ゴルダラの諸君。」
城の上から大きな声が聞こえる、そこにいたのはツジゲン帝国の皇帝、アルリだった。
「我々はこれ以上の戦力を有していない、ここで降伏しよう。そして、君たちの国王と会談の場を設けてもらいたいのだが…」
「それは降伏と受け取っていいんだな」
「ああ、分かれば早々に我が国から立ち去るがいい。」
『うおおおー!!!』
「勝った!我々はツジゲン帝国に勝利した!」
「よし、退却準備!」
そして誰もがスカス・マダを忘れ、ゴルダラ王国に退却していく。
だがスカスを置いていったことが、これから如月を追い込むことになるとは、この時点では誰も知る事はなかった。