五節・覚醒
「くそ、なんで砲弾の球が消えてくんだよ!」
「あれは間違いない、国中に敷かれた巨大魔法陣だ。それの仕組みは触れた物体を亜空間に吹き飛ばす代物だ、このままじゃラチがあかない、俺が解除する!」
如月の戦闘機が敵の魔法陣に踏み込む、魔法陣の解除を試みる。如月には魔術の心得があり、亜空間転送の対策呪文を唱え突入する事ができる。
魔法陣に如月の機銃が降り注ぐ、大量にヒットすれば完全に魔法陣を崩す事ができる。
「ん?何か如月の方向に向かって行くぞ」
目視できる範囲で見るとあれは間違いなくソルガリオスタイプの巨龍だ、すると兵士たちにどよめきが走る
「如月の援護に向かわなければ」「あいつこのままじゃ墜落しちまうぞ」「ダメだ、魔法陣はまだ解除されていない。援護に向かえば俺らもろとも亜空間にぶち込まれるぞ」
それにしても、巨龍が出現した以外ツジゲン帝国に動きは全くと言っていいほどない。先に砲撃を仕掛けたのは一体なんだったのだろうか…おそらくツジゲン帝国はそれすらも計略の内なのだろう。先に砲撃を浴びせる事によってゴルダラ王国の緊張を強め、ツジゲン帝国に攻撃を仕掛けさせる事が狙いだったのだろう。
ソルガリオスの攻撃が如月の戦闘機に襲いかかる。如月はさまざまな属性の魔法を仕掛ける、だがそれに応じるかのようにソルガリオスの魔法も放たれる。まさにその様は膠着状態、だがその戦況を変える大きな一手が如月にはあった。
如月はソルガリオスから離れ、地上の魔法陣の方向に向かって降下する。ソルガリオスはそれを追う、如月は地上につく寸前の場所で転回する。するとソルガリオスが地面に激突し、魔法陣が完全に抉れ、完全に跡形もなくなる。
「今です!ソルガリオスに砲撃を!!」
一斉にソルガリオスに放たれる砲弾、前回のように、人間だけの戦況ではないため、ソルガリオスは成すすべも無く倒れていく。
そして地上部隊のジョンが号令をする、
「全員、突入ーーーーー!!!」
『ウオオオォオーーー!!!』
続いて戦闘機部隊も同時に進軍する。それに呼応するかのようにツジゲン帝国の魔法使いたちも進軍を開始する、やはり魔法使いだけではなく、数多のドラゴンも前線に投入されている。
早速前線部隊のジョンが戦闘を開始した、ツジゲン帝国の魔法使いは遠距離攻撃を得意とした戦法でジョンを一切近づけない作戦に打って出る、だがジョンにとって魔法使いの攻撃は対処するまでのない攻撃で、全て無駄な動作も無く防いでいく。
先に根負けしたのはツジゲン帝国の魔法使い達だ、その隙をついてジョン達が切り裂いていく。
「す、すごい…ジョンは前から強かったけど、ここまで強いとは思いもしなかった。」
ジョンは実際のところ、人を斬るのは好きではない。なぜならば、彼はゴルダラ王国が今のように領土を拡大している以前、ブロンダは別の国だった。その時敵国としてゴルダラ王国が侵略を仕掛けた戦争の話を父や母などから聞いていた、その為、戦争するという事に心の痛みを感じている。それは勿論のことスカスも同じだ、なのに如月は戦争を仕掛けることを率先して進めていったのだろう…噂によれば彼のいた日本という国は非戦国家だったらしい、彼はひょっとしてその国の過激な思想家だったのだろうか…でも見た目からは彼はただの少年にしか見えない。活動家にしてはあまりにも若すぎる。
「なんでだろうな…うーん」
「ほら、武器が壊れた奴が待ってるぞ、手を休めるなよスカス!!2ヶ月鍛えりゃぼちぼちいいだろ!」
「は、はいぃ!!」
相変わらずアメジさんはどこまでも厳しい、だけど2ヶ月も相手にしていればこっちもいい加減慣れてくる。
一方如月の戦闘機隊は、苦戦を強いられている。案の定如月は魔法を使いこなせるが、一般兵士は使う事ができない。そのため、ドラゴンの多彩な魔法を防ぐ手立てがほぼないのだ。
「ぐはぁっ!こちら、立て直せません!」
真っ逆さまに地上に落ちていき、豪雷の如き爆発を起こし墜落する。また一機、また一機と…
「くそっ、あんな空に飛ばれちゃこっちも助けに行かれないな」
如月もその事には気がついている
「チッ、少し見込みが甘かったか。ツジゲン帝国、どこまでも準備を重ねていたようだな」
「しょうがない、マジカル・ティーチ!!」
すると戦闘機隊に魔法の技術が与えられ、反撃の狼煙が上がる。
「こいつはスゲェ!これが魔法か!」
魔法は覚えたてだが、戦闘機は乗りこなしている。戦闘機の機動能力を活かし、ソルガリオスを各個で対処し始めた。
ゴルダラ国王は笑う
「流石は我が婿だ、ここまでの魔法と技術を持ちながら、我が娘に惚れられるとは」
「やめてよソル父さん、照れるじゃない。」
ゴルダラ国王、ソルアス・ゴルダラ。穏健派に見せかけて、過激派な国王。その為か国民には慕われている、見せかけの善意は全てを滅ぼすという事にあまり気づかれないのである、だが今はほとんど如月に骨抜きにされている。その証拠に国王の玉座には冷暖房完備、電灯もLEDと異世界の技術で至れりつくせりである。
だが戦況は、地上部隊が押され始める事態になる。地上に鋼龍ダイタロスが迫り始める、流石にこの規格外のサイズに規格外の魔法。どうあがいても苦戦を強いられるのである、するとダイタロスに地上部隊が気を取られてしまい、武器整備隊の周辺の守りが手薄になる。そこにソルガリオスが突撃を仕掛けてきた、工房に爆音が鳴り響く。
「ぐほぉっ!」
「ア、アメジさん!?」
アメジさんが瓦礫の下敷きになる、スカスはすかさずアメジさんにのしかかった瓦礫をどかそうとする、だがかなり重いのがのしかかっていたようだ、スカスの腕力では、とても持ち上げることができない。瞬間、誰かに腕を掴まれる。それが誰かと下を向くと、アメジさんだった。アメジさんは瀕死の体を振り絞り、スカスに言葉を遺す…
「スカス…お前は武器の気持ちを十分に理解した…その力を存分にあの龍にぶちかましてやれ…そして、お前はこの腐れきった国を…救え!!」
スカスは泣きそうなのをこらえ、嗚咽交じりにアメジさんの言葉に応える。
「……はい!アメジさん!俺の戦い、見ていてください!!!」
「ああ、これで満足してあの世へ行ける…」
ガクッとアメジさんは倒れる…もう完全に息は無くなっていた…どんどん身体が冷えていくのがわかる、これが死だ。戦争だ。奪われたものは返ってこない。
そうしてアメジさんの方から振り向く、そしてビシッとソルガリオスを睨み、決意を固める。
「…アメジさんの仇だ、かかってこい!魔轟龍ソルガリオス!!」
「グオァーーーウッ!!」
ソルガリオスは爪の攻撃をスカスの方に仕掛ける、ソルガリオスの放った爪の先にはもうスカスはいなかった。一瞬の隙にソルガリオスの腕を切り裂いていく、武器の特性をよく理解している為無駄がなく、かつ繊細な動きをし、ソルガリオスを蹂躙する。
ソルガリオスもすかさず魔法を仕掛ける、だがそれらを全て完全に見切る。そしてソルガリオスの顔面に二撃浴びせる。
「グアアアアアッ!!!」
ソルガリオスの目が潰され、一瞬のうちに巨翼をぶった切る。ソルガリオスは完全に動きを止めた…スカスは戦闘の疲れで、そこで倒れ込んでしまった。その時、スカスが握った剣は…返り血や欠けの一つもなく、新品同様の輝きを放つ。
この国を救ってくれ…その言葉に込められた意味は今後のスカスや如月、そしてジョンにも重くのし掛かるが、そのことはまだ誰も知らない。
少なくとも、この戦いが終わるまでは。
遅くなりました、誰も待ってはいないとは思いますが。