四節・暗躍と開戦
「ゴルダラ王国へ送り込んだ龍はどうなった」
「ええ、予定通りに狩猟されたようです。」
「そうか…ここまでは手筈通りだな、我らツジゲン帝国にとってはこの程度のことはまさしく挨拶がわりだ。奴らには更なる地獄を味わってもらう、我らの領土を勝手に渡すわけにはいかないからな」
ツジゲン帝国…ゴルダラ王国の隣国に位置する国、五十年前から鎖国状態のままで、ゴルダラ王国もツジゲン帝国の行動をつかむことは一切できなかった。だが、先日現れたソルガリオスと名付けられた龍はツジゲン帝国でさまざまな改造が施された龍で、この龍をゴルダラ王国に送り込んだのは、その龍を素材とした武器を作ることによりその剣などが発信機がわりにする為だ。総合的に見ると敵に塩を送った様にも見えるが、実はこれは大掛かりなスパイ作戦だったと言うことになる。
何気なく危機的な状況に瀕している中、ゴルダラ王国はソルガリオスから作られた武器を大量に生産している。その生産している中にも、スカスもアメジさんもいた。そそくさと作らなくては手が追いつかないほど忙しいようだ。
「おら!手を止めんじゃないぞ!俺だって開業以来ここまでのてんてこ舞いになるのは初めてだ!」
「は、はい!!」
スカスがこんなに表に出てもバレないのは、おそらく兵士たちも工房にいるやつなんか構っているほど暇じゃないからだ。何より戦争への準備の為に、砲弾や薬草、支給用食料の手配、そして訓練となにかと忙しい日々になっているようだ。
そんな中如月は、ルナスに振り回されているようだ
「ねぇ、次はここのお店に行こうよ〜」
「はいはい」
ルナス・ゴルダラはこの国の王様の一人娘で、王位継承者とほぼ確定づけられている。性格は見ての通りおてんばでわがままな人だ。ルナスは魔法が使えるところに惚れたらしいが、この国には魔法が使える人が限られていて、魔法が使えれば誰でもモテるって噂らしいが、この国で魔法を覚えるってのは無理な話だ。何故ならこの国にかつて存在していた魔法は、隣国のツジゲン帝国から教えられた技術だったりする、その為、この国は魔法の進歩が数段遅れているのだ。
その上未来人の知識を持っている、そこまで凄ければモテないはずもないのである。
如月烈火は副業として、発明家としての側面も持ち合わせている。最近ではコンロを発明した。
電気は自らの魔法で代用していて、近々テレビも作ろうとしているらしい。
「さてと、次は戦闘機でも作ってみようかな」
「戦闘機?何です、それ」
「ああ、この世界で分かりやすい様に言えば人が乗れる鉄の飛竜だ。」
「へえ、それには何が必要なんです?」
「鉄と油、あとはゴムかな?それが揃えばあとは魔法で整える、と。」
「わかりました!家臣に採らせてきますね」
「ああ、よろしく」
烈火が戦闘機を作るという噂は瞬く間に広がった、その話はもちろん、スカスにも伝わった。
「え、鉄の飛竜!?しかも人が乗り込む?こんな忙しいときにあいつは何を考えてやがるんだ」
「ああ、魔法って本当に何でもありだな。俺らも鉄の整形を手伝えってよ」
脳の理解が追いつかない、まるで訳がわからない。だが未来人だ、おそらく手筈通りに進むのだろう。
いつも使っている鉄を平べったく成形する、あんまり慣れない作業だが、いつも作っている剣よりは単純な作業だ。
するとそこに、如月がこちらに来て話しかけてくる。
「調子はどうだい?スカスくん」
「げっ!?如月…僕を国王に晒し上げるんじゃないんだろうな」
「いやいや、今の状況、そんなことして何になる。それに、あの時は勝手にぶっ倒れてごめんな」
「…国王の娘はしっかりしつけといてよ」
如月は少し微笑みながら言う。
「ああ、できる限りのことはするよ。」
「平らにした鉄は出来るだけこっちに持ってきてくれると嬉しいんだが」
こうしてまた、この国は如月の言いなりに事が進む。だがやはり、いくら如月が近代兵器を作ろうとも、全てはツジゲン帝国に監視されていることにも気付かずに…
「ほう、奴らめ妙な兵器を作っているな…だがいくら貴様らが逆らおうとも、こちらからは全て筒抜けだ。こちらも奴らに対抗する兵器を作るまでだ…」
「あの鋼龍の調整は順調か」
「はい、50パーセントは」
「ならば十分だ」
鋼龍ダイタロス…鋼の鎧を纏い、最上級魔法ソルファイゲンを使いこなす龍。サイズは今までとは違い、一つの村程度なら入りきるほどの巨大さだ。
そしてツジゲン帝国周辺には、巨大な何重もの魔法陣トラップが仕掛けられており、並の人間には近づくことすら出来ないほどの仕掛けが込められている。
ツジゲン帝国はなぜ鎖国状態に陥ったのか、それは今の皇帝アルリ・ツジゲンに変わってからの出来事だった。ある日突然ツジゲン帝国の鎖国を宣言したのだった、当然その時は反対意見を言ったものもいた、だがその者たちは皆処刑されるか、国外逃亡を企てるかと、反対意見を悉く弾圧したのだった。まさしく独裁国家である
今現在はそんな状況で、反対意見があるものがいれば処刑されると怯えながら市民は暮らし、反論を唱えないものはアルリ帝王に従い、讃え続けている。
だが魔法の研究だけは日々進歩しており、魔法を利用して竜の強化や竜の洗脳などを行い自らの軍の兵器としている、その中の第一人者のマジク・アルケミスは竜の鱗を通じて遠視する魔法を発明し、兵器として転用した。アルリ帝王は一代でここまで鎖国国家を築き上げ、魔法を利用して不老不死を手に入れることすら可能とした。
「クックック…私が一代で築き上げたこの魔術国家、貴様らに破る事ができるかな?」
「アルリ様、いつ攻撃を始めますか?我々は皆準備万端です。」
「まだだ、この戦いは…先に手を出した方が負ける」
迫りつつある戦争への道、二つの国はやはり、争う事でしか成り立つ事は出来ないのだろうか…
見せかけの平和と恐怖で抑圧された魔の国、正反対に見えて一体の国々、スカスの言っていたあぶない側面というものがここへ来て信憑性を増す。
そうして両陣営共、着々と戦争への準備が進む。ゴルダラ王国は戦闘機の操縦の訓練、訓練中にも事故が発生し、何人もの兵士が亡くなったが、これから起こる戦いに比べれば少ない犠牲で済んだのが不幸中の幸いかもしれない。
ツジゲン帝国はより一層、魔術師の訓練と改造龍の作製に勤しんでいる。封建的な政権だが、努力するものは大切にする国柄だ。だが少し才能がなければふるい落とされ、その場で殺される少年少女も少なくはない。
そして準備に2ヶ月をかけ、作戦開始の五分前…
スカスは前線の武器整備係を任され、ジョンは二番部隊の隊長に配備され、如月は戦闘機部隊の隊長を任された。
号令は国王が執る。
「前線砲撃隊用意…」
砲撃隊に緊張が走る、ここから血生臭い闘いが始まると思うと誰だって恐怖で手が震える。
「放て!!!」
次々と放たれる砲弾を、ツジゲンの領土に着弾するたび弾丸が虚空の彼方に消えて行く…
「どうなっている!?奴らの魔法陣は化け物か!」
「食らうがいいゴルダラの国王よ…我らが50年かけた魔法の真髄をとくと味わうがいい…」
異世界というものは、現代と言われている世界と異なるということを意味しているが、異世界で暮らす人々から見れば現代こそ異世界である。どんな世界に暮らしていても違う文化を無理矢理押し通す事は、他ならない侵略行為である。
そのことを理解する事ができれば、ゴルダラ王国に勝機は訪れるのであろうーーー