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魔族転生  作者: 桃源郷
第一章 幼年期
6/30

実験と賭けと新魔法

自分を追い込む事で、普段よりも高い成果を得られる事ってありますよね。追い込み過ぎると自滅したりもしますが・・・

主人公はどちらのパターンになったのでしょうか?


第一章 幼年期 第六部の開幕です。

どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。

それから、カサリナとルーシアを送って帰宅した。


さすがに、ルーシアは家の前まで送ると無用なトラブルが起こりかねないから家の近くまでだけど、究極に緊張してたなぁ。歩いてる時に右手と右足が一緒に前に出てたし。誰かに送ってもらうのは初めてで、誰かと喋りながら並んで歩くのも人生初だそうだから、無理もないかもしれないけど。

しかし、ルーシアはなかなかに過酷な環境にいるみたいだ。ますます今回の実験は成功させなきゃいかん気がしてきた。まぁ、そうでなくてもセシリアの事があるから、とっとと完成させてしまいたくはあるんだけど。


「セシリア」

「はい。なんでしょうか? ご主人様(マスター)

「今回の魔法の研究結果は目に見える成果が欲しいんだ。だから、魔力構成の理論を完成させたら、少し実験に付き合ってほしい」

「分かりました。どんな実験でもお付き合いします」

「ありがと」

「しかし、ご主人様(マスター)の身に危険が及ぶような事はしないでくださいませんか? 危険な事は私が代わりにしますので」

「大丈夫だ。実験自体にも危ない事は一切ないから」

「しかし、新しい魔法を開発されるんですよね?」

「だーかーら~・・もういくつかは成功させてるんだってば。カサリナと遊ぶ時にずっとついてきてたんなら見てるだろ? 特定の物体の転位魔法は、新しく理論構築して復活させた魔法だぞ?」

「どんなに優れた魔法の使い手であっても、絶対の成功の保証は無いとの記述がありました」

「いやまぁ、それはそうだろうけど・・」

いつもの平淡な口調ではあるものの、一歩も譲る気配を見せないセシリアの言葉に、思わず脱力してしまう。


本気でトコトン心配性だなぁ。でもまぁ、こういう時の丸め込み方はもう心得てますが。


「大丈夫だよ。万一の時もセシリアが守ってくれるだろ?」

「は、はい。私のご主人様(マイ・マスター)

返事を返すセシリアの言葉にほんの僅かに喜びの響きが混じる。


よし。まだこの手は通用してるな。

セシリアは頼りにしてるってのを表に出すと、大概の事は頷いてくれるのだ。まぁ、本気で頼りにはしてるんだけど。しかし、素直過ぎて、たまに心が痛む。なんか騙してるような気になってくるんだよなぁ。実際に、魔法の暴発なんかからは守りようもないだろうし。

それだけに、魔法の暴発っていう事態だけは細心の注意を払って回避しなきゃな。万一にもそれで俺が怪我をしようもんなら、セシリアがどれだけ気にするか分かったもんじゃない。場合によっては、また自分を廃棄処分にするとか言いかねないんだから。




それから、普段よりも少し根を詰めて研究に取り掛かった。

今回の魔力構成の理論構築は、もう復活済みの腕力の増強魔法と素早さの増幅魔法、それと新しく買った魔導書に記述のあった動体視力の強化魔法と反射反応の強化魔法、肉体強度の増強魔法の5つを合成して1つの魔法にする事を目的にした。

動体視力と反射反応、肉体強度の強化魔法は、腕力と素早さの強化魔法と基本構成が同じだったから、カサリナ達と別れた日の内にあっさり復活完了。目や反射に関する強化は別物かと思ってたから苦戦するかと思ってたから、そこは幸運だった。肉体強度と反射反応の上昇具合だけは確認できてないけど、他はそれぞれ単独で使えばそれなり以上の効果が実感できた。重ね掛けが有効なのも実証済み。

でも、それぞれの強化を1つ1つ行うのは余りにも効率が悪い。ドリューシャに絡まれる時なんて大概が唐突なのに、そんな悠長な事をしてるとその間にセシリアが俺の盾になってしまう。それじゃいくら魔法で強化できても意味がない。だから、即事発動可能で、必要な身体能力は全て強化・増幅ができて、それでいて上昇率は単独強化魔法と同等以上のものが必要となるのだ。




そして、4日目の夕方。

「・・・完了~・・・・」

魔導書をパタッと閉じて、そのまま机に倒れ込むように俯せになる。


なんだ、このクソ複雑な魔力構成は・・・2つ以上の要素を同時発動させるのがこんなに難しいもんだとは・・・・・カサリナに教えてやるって言ったけど、これ、そう簡単には使えるようにはならないぞ。


「お疲れ様です。ご主人様(マスター)

俯せになった俺の頭を撫でてくれるセシリア。

「お~・・・ありがと~・・・・マジで疲れた・・・・・」

「無理もありません。もう夕方ですよ」

「ゲ、マジか。さっき昼飯食ったばっかりな気がするのに」

セシリアの言葉に、顔を上げながら言う俺。

ご主人様(マスター)の集中力は素晴らしいですから」

ぎゅっと俺を抱き締めながら言うセシリア。


いや、あの、セシリア? なんかスキンシップの頻度が上がってませんか? この4日間、何かあったら抱き締められてる気がするんですが。


「う、うん。それで、魔法の効果を実証したい。対人でどれくらいの効果が発揮できるのかをな」

「対人、ですか?」

俺を離して、怪訝な口調で問うセシリア。

「ああ。ちょっと場所も欲しいし、中庭に行こう」

「はい」

セシリアの返事を受けて、中庭に向かって移動を開始する。何故か、手を繋がれて。


やっぱり絶対にスキンシップの頻度が上がってる!! 今までは屋敷内で手を繋いでくる事なんか無かったぞ!?


「セ、セシリア?」

「はい? なんでしょうか?」

「いや、なんで手を繋いでんのかなって。屋敷の中なら危なくはないだろ?」

「え?」

言われて、不思議そうに俺の手を握った自分の手を見る。

「・・・・どうしてでしょうか?」

「いや、俺に聞かれても・・・」

セシリアの言葉に、思わず脱力してしまう。


無意識か? 無意識なのか? 過保護の心配性も極まってきたな、おい。そんなに新しい魔法の開発で心配させちまってたのか?


「お嫌でしょうか?」

「それは無いって」

悲しそうに言うセシリアに即答すると、握られる手にぎゅっと力が入る。

「はい。私のご主人様(マイ・マスター)

ほんの僅かにだけ嬉しそうな響きを声に混じらせて返事をするセシリア。


まぁ、いいか。別に誰に見られるわけじゃないし、5歳児が保護者と手を繋いで歩いてたっておかしかないだろう。多分、相当に心配かけたんだろうし、少しくらい恥ずかしいのには目を瞑るとしよう。



中庭に到着してから、セシリアと少し距離を取って向かい合って立つ。

「セシリア。何か俺にしてほしい事とかあるか?」

「え?」

疑問の声を上げて、首を傾げるセシリア。

「ちょっとしたゲームをしたいんだ。魔法の効果を実感する為にな。でも、その為には手加減とかは無しで頼みたいんだけど、ただ手加減無しでって言ってもセシリアは手加減しちまうだろ?」

「あ、いえ・・・」

俯いてしまうセシリア。

「別に責めてるるもりはないんだ。この体格の差じゃ何をするにしても、ハンデがあるんだから手加減したくなるのは分かる。本気のつもりでも、無意識に手を抜いちまうだろうしな。でも、それじゃ実験には不適当だ。だから、景品付きならと思ってさ」

「景品、ですか?」

「そ。これからやるゲームで、俺に勝ったら何でも1つ言う事聞いてやるよ」

「え!?」

「セシリアがしたい事、俺にしてほしい事、何でもいい。それがゲームの景品。勿論、俺が勝ったらセシリアに言う事聞いてもらうぞ?」

「わ、私はどんなご命令でもいつでも従います。ですから、それだとご主人様(マスター)が勝った時の景品の意味が無いのでは・・・」

「添い寝終了して、俺が下で寝るって言ってもか?」

「!!」

セシリアの表情が真剣なものに変わる。

「・・・そんな事はご主人様(マスター)にさせられません」

「じゃ、勝たなくちゃな」

「はい。申し訳ありませんが、全力を出させていただきます」

至極真剣な口調で言うセシリア。


おぉ~。思ったよりも簡単に乗ってきたな。どれだけ俺を下で寝かせるのが嫌なんだか。


「それじゃ、ルールを説明するぞ。俺が逃げる。セシリアは追いかけて俺を捕まえる。捕まえられたら俺は全力で抵抗するけど、10秒間捕まえたままでいられたらセシリアの勝ち。日が完全に暮れたら俺の勝ちだ。場所は中庭に限定でな」

「日暮れとなりますと、あと2、3時間はあります。場所が限られると、ご主人様(マスター)にとって不利ではありませんか?」

「だからこそ、実験になる。不利な状況をはね除けるだけの力が必要なんだからな」

「分かりました」

セシリアの返事を受けてから、ポケットからコインを出す。

「このコインが地面に落ちたらスタートだ。即行で捕まえてくれても構わないぞ」

「はい。申し訳ありませんが、すぐに終わらせます」

真剣な表情で身構えるセシリア。


よし。完全に本気だな。実験開始だ!


コインは俺の指に弾かれて宙に舞う。俺はそれと同時に魔力の構成を練り始めるが、完成前にコインが地面に落ちてしまう。


チッ。練度が足りてないのは覚悟の上だったけど、本気で要訓練だな。


心中で舌打ちをして、一瞬意識がセシリアから逸れてしまうと、次の瞬間にはセシリアが目の前に来ていた。

「速っ!?」

慌てて逃げようとするけど、完全に真剣(マジ)なセシリアはそれを許さず、俺をガッチリと拘束する。


うおっ!? 全く身動きができねぇ!? 全然痛くないのに、器用だな!?


「1、2、3」

即座にカウントを始めるセシリア。


よ、容赦ねぇ~・・しかし、ようやく俺の魔法も完成。これからが本番だ!


「≪増強(エンハンスメント)≫」

魔法が発動してから、全力でセシリアの拘束する腕を引き剥がして離脱する。距離を取った俺を見るセシリアの表情にはハッキリと驚きが浮かんでいる。


よし! 腕力に関しては十分に上がってる!


「・・・これが、ご主人様(マスター)の魔法の効果・・・・凄いです」

「まだまだ練度が足りてないけどな。発動までに時間が掛かり過ぎだ。で? 諦めるか?」

「いいえ。次はもう離しません」

言い切ると同時に俺に迫って腕を伸ばすセシリアだけど、俺はその腕を同等以上のスピードで躱して、距離を保つように動く。


よしよしよしっ!! 初動の加速も、その後の動きもセシリアに対抗できてるぞっ!! これなら、多少強い奴が相手でも、子どもの喧嘩には十分過ぎるくらいだっ!! 少なくとも、今のドリューシャがセシリア以上って事は有り得ないだろうし、完全に対処できる筈っ!!




その後も、俺はセシリアの動きを上回る動きを発揮して、捕まる事なく時間が過ぎていく。

しかし、セシリアの表情にほんの僅かな焦りが浮かんできた頃、いきなり動きが落ちてしまう。

「ゲッ!?」

動きが落ちた瞬間を見逃さずに、セシリアは即行で俺を拘束する。

「1、2、3、4」

また即座にカウントを始めるセシリア。


マジか!? 魔法の効力の時間切れ!? 1時間くらいしか持ってないぞ!?


慌てて魔法を再発動させようと構成を練り始める俺。

「7、8、9、10。私の勝ちです。私のご主人様(マイ・マスター)

しかし、俺の魔法の発動の前に、セシリアの安堵を混じらせて言う言葉が俺の耳に届いた。


うがぁぁぁぁっ!? マジで魔力構成の練度不足だぁぁぁぁっ!! 発動までに掛かる時間が長過ぎる上に、発動を維持できる時間も短過ぎる!! ここまで練度不足が致命的な影響を出すとは思ってなかったぁぁぁぁっ!!!


「うぅ~・・・悔しいけど、セシリアの勝ち、だな」

ガックリと肩を落として言う俺。

「あ・・え、と・・・・」

その様子を見て、オロオロし始めてしまうセシリア。

「いや、ありがと。今後の課題がハッキリとした。セシリアに勝つ事が目的じゃないんだから、今回の実験は大成功だよ」

「は、はい」

俺の言葉に、ホッとしたように返事をするセシリア。


いやまぁ、でも、悔しいのは悔しいんだけどな? 勝つつもりでやってたし、勝てるかなぁって思ってたし、拘束から脱出できて捕まえられる事もなかった間は勝てると思ってたし。

しかしまぁ、そんな事言うと、セシリアは気にしそうだからなぁ。


「よかったです。ご主人様(マスター)は私と一緒に寝るのがお嫌なのかと」

「そこか!? 心配してたのは!」

「はい。床で寝る程だと・・・」

セシリアの言葉に、思わずため息を漏らしてしまう。


言ってる事は分かるけどさぁ・・・ハァ。5歳児の体じゃ、何を言っても無駄か。普通はそんなに意識するような年でもないもんな。


「そんなわけないだろ。単純に照れ臭いだけだっての。俺も男なんだぞ?」

「はい。私のご主人様(マイ・マスター)

そのままぎゅっと俺を抱き締めるセシリア。


ほら、やっぱり無駄だった。全然聞いちゃいねぇ・・・


「ハァ。それじゃ、とりあえず降ろしてくれるか? んで、部屋に戻って晩飯にしよう」

「はい。ご主人様(マスター)

俺を降ろしてからそのまま手を繋ぎ、一緒に部屋に向かい始める。


やっぱり手は繋ぐのな・・・まぁ、なんか嬉しそうだからいいけど。


「んで、何をしてほしい?」

「え?」

「セシリアの勝ちなんだから、何でも言う事聞くっつったろ?」

「あ、はい。しかし、私がご主人様(マスター)になんて・・・」

「そういうのは言いっこ無しだ。そうじゃなかったら賭けの意味が無くなるだろ?」

「しかし・・・・」

「頑固な奴め・・んじゃ、命令だ」

「え?」

「セシリアが俺にしてほしい事を言うんだ。これは命令」

「は、はいっ」

僅かに戸惑いを混じらせつつも、ハッキリと返事をするセシリア。


何故に賭けの内容を実行させる為に、負けた方が勝った方に命令しなきゃならんのだ・・・まぁ、別にいいけど。セシリアが相手だし。


「・・・何をお願いすればいいんでしょうか?」

「いや、俺に聞かれてもな・・・セシリアが何をしたいかってだけでいいんだぞ?」

「はい・・・しかし、私はご主人様(マスター)の側に居られる事が何よりの望みです。それは今は叶っていますし・・・」

「何も無いのか? 些細な事でも構わないぞ? と言うか、些細な方が俺は楽だし」

「はぁ・・・あ、それでしたら」

「お? 何だ?」

「またご主人様(マスター)とお風呂に入りたいです」

「ブフゥッ!?」

セシリアの言葉に、一気に全身が熱くなる。

「なっ、なななななっ!?」

「ダメ、でしょうか?」

シュンとなってしまうセシリア。

「い、いや、ダメって事も嫌なわけでもないんだけれどもね!? なんでそうなんの!?」

「以前はご一緒させていただいていましたけれど、もうお1人で入れると言われてご一緒できなくなってしまいましたから。ご主人様(マスター)はお風呂をご一緒の時にはとても嬉しそうにしてくださっていましたし」

セシリアの言葉に、さらに体が熱くなる。


う、嬉しいのは否定できないけど、そんなに顔に出てましたか!? うわっ、マジで1回死にてぇっ!! 恥ずかしいにも程があるっ!!


「よろしいでしょうか?」

「え、え~と・・・・・それがいいの、か? セシリアは・・・」

「はい。ご主人様(マスター)がお嫌でなければ」

セシリアの最後の一言に、ガックリと肩を落とす俺。


か、完全に逃げ道を塞がれた・・・嫌じゃなきゃって、拒否したら嫌だって事になっちまう。そしたら、確実にセシリアは落ち込む、よなぁ・・・・


「・・・分かった。今日はそうしようか」

「はい。ありがとうございます。私のご主人様(マイ・マスター)

僅かに声を弾ませて礼を口にするセシリア。


嫌なわけじゃないし、嬉しいんだけど、やっぱり体が持たないんだよなぁ・・・然り気無く<今日は> って限定しといたけど、まさか継続する気ではいないよなぁ・・・・

賭けの報酬として、セシリアは単純に主人である主人公の喜ぶ事を選択しただけなんです。魔導生命体は主人に仕える事が存在意義ですから。

しかし、セシリアの主人公への過保護さは単純に<主人への忠誠心>というものからだけのものなのでしょうか? もし、そうなら、それはそれで主人公にとっては寂しいものになりますが・・・それもいずれ明らかになるでしょう。


では、これにて第一章 第六部を閉幕とさせていただきます。

お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。

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