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魔族転生  作者: 桃源郷
第三章 新天地
29/30

獣人の村と懐いた子ども達と後始末

「ところで、1つ聞いてもいいか?」

「何?」

「さっきそっちの子が言ってた'悪魔の爪痕'って何のことだ?」

「へ? 兄ちゃん、知らないのか?」

完全に放心して固まってしまっている狐耳少女に視線を向けながら問いかけてみると、子ども特有の気安い口調で意外そうにそう言うライザ。大人達は揃って顔を引き攣らせて、中でも母親らしきイヌミミ女性は顔色が真っ青になってたりする。


心中お察しします。機嫌損ねて俺達が暴れたりしたら洒落にならないもんな。まぁ、そんな心配はいらないんだけど。


「ああ。魔族の中では聞いたことないな。んで、ライザ、でいいんだよな? 少年の名前」

「うん。ライザレンドルっていうんだけど、みんな'ライザ'って呼んでるから」

「俺もそう呼んでもいいか?」

そう言うと、ライザは満面の笑みを浮かべて、

「うんっ!!」

元気よく頷いてくれた。途端に、

「ライザだけズルイよぉっ!! 僕、バルディックだよ! バルって呼ばれてるんだ!!」「あたしはメイティっ! メイティルイナだよっ!!」「オレ、サザルナルドっ!! サザルだよ!!」「アタシはティファルティアだからティファっ!!」

怒濤の勢いで子ども達が一斉に自己紹介をしてきてくれた。


お、おぉ・・世界が違ってもちびっ子達のパワーに圧倒されるモノがあるのには変わりはないもんだな・・・


「ま、待て待て。そんなに一気に言われても、聞き取りきれないから。一旦落ち着いてくれ」

押し寄せるように迫るちびっ子達をそう言って宥めにかかる。




それから、子ども達と俺達は互いに自己紹介をした。それと、悪魔の爪痕に関することも含めて、この村のことについても聞かせてもらえることになった。



ライザと同じイヌミミの少年バルディックこと、バル。7歳。

重傷だったウサミミ少女のメイティルイナこと、メイティ。7歳。

ウサミミ少年のサザルナルドこと、サザル。8歳。

ライザにお礼を言うように注意を促した猫耳少女のティファルティアこと、ティファ。9歳。

猫耳少女のルルリアンナこと、ルル。7歳。

俺が最初に助けた狐耳少女と同じ狐耳少女のリリアテュリスこと、リリア。8歳。

狐耳少年のヤルザナイスこと、ヤルザ。8歳。

自己紹介の喧騒で我に返った狐耳少女のフレアルイサこと、フレア11歳。

んで、ライザは10歳。


以上、9人がこの村の子ども全員だそうだ。()()



何でも、去年の春先に見たこともない強力な魔物が前に村があった場所の近くに現れて、村が襲われたらしい。そのときに、大勢の村人が殺されて、子どももかなりの数が死んでしまったんだとか。それで、仕方なく前の村を捨てて、元の村から大きく離れたこの場所に新たに村を作ったらしい。

そのときになんとか逃げ出せた人達も、全員が無傷だったワケでもない。子ども達の話から察するに、その魔物は致死性はなさそうではあるけど、毒持ちっぽい。その魔物に付けられた傷が爛れて皮膚を変形・変色させてしまうらしいから。


フレアもその傷が原因で、顔の右半分が醜く爛れて腫れ上がっていたらしい。さっきの子ども達から上がった大歓声は、それが跡形もなく綺麗に治っていたからだったみたいだ。まるで自分のことのように喜んでやれるなんて、この子達は優しくて友達想いなんだなと少しほっこりした。



友達が亡くなったことを思い出して、涙ぐんでしまいながらも、そのときのことを話してくれたライザ達の頭を順番に撫でながら口を開く。

「教えてくれてありがとな。でも、辛いことを思い出させて悪かった。ごめん」

「ううん。兄ちゃんが知らないまんまでそいつと会ったりしたら大変だし、俺達がいつまでも泣いてたら、あいつらも安心してビエスドミニで暮らせないからな」

「ビエスドミニ?」

「うん。死んじゃった獣人の魂が行く所だよ。そこで生きてる間の苦しさとか悲しみとかを元気に変えて、またここに戻ってくるんだって」

俺の疑問に、フレアが答えてくれた。


なるほど。天国とか極楽浄土とかと似たようなモンか。しかし、そういう思想が根付くってことは、もしかして、獣人の生活とか立場はかなり厳しいのか? 死後の世界に救いを求めるのは厳しい現世に耐える為に生まれる考え方だとかって、前世で学生時代に習ったような気がするんだけど・・


「なるほど。ありがとう、フレア」

「うっ、ううんっ」

真っ赤になって俯いてしまいながらも、頬を緩ませるフレア。


照れ屋な子だな。ライザ達も素直で元気で心根が優しいみたいだし、獣人の子どもはマジで魔族のクソガキ共とは大違いだ。街に置いてあった本には'獣混じりの家畜だ'とかって書いてたけど、腕力とか権力とかでゴリ押しばっかの魔族の方が本能だけで生きる獣みたいだよなぁ。


「んじゃ、大人の中にも悪魔の爪痕が残ってる獣人がいるんじゃないのか? いたら、試しに治してみようか?」

「な、治せる、のか?」

「治せるに決まってんじゃん!!」

「見てなかったの~? アタシ達の怪我もキレーに治してくれたじゃないっ」

「フレアちゃんの悪魔の爪痕だって、ケイお兄ちゃんが来てくれるまでどうしようもなかったのに、綺麗になってるんだよ?」

「うん。それに、ボク、盗賊に斬られて死んじゃったと思ってたのに、ケイさんが助けてくれたんだよ? ケイさんにできないことなんかないよっ」

狼顔の獣人が発した問いかけを、ライザ、ティファ、メイティ、フレアが次々と確信に満ちた声で肯定していく。ルル達までもが凄い勢いで首を縦に振りまくってたりする。


い、いや、ちょっと待って!? '試しに'って言っただろ!? 無駄にハードル上げないで!? 特に、フレア!! 高評価してくれてるのは嬉しいけど、後でガッカリさせたくないから認識改めてくれ!! できないことの方が多いんだから!!


思わず助けを求める視線をカサリナに向けると、苦笑を浮かべられて、

「期待に応えてあげてよ。ケイなら大体は何とかできるでしょ?」

そう言われてしまった。その言葉に、ガックリと肩を落としてしまう。

「ハァ~~・・ハードルがドンドン上がっていきやがる・・・」

「あ、あの、俺達は無理でも構いませんから」

俺の呟きに、狼顔の獣人が気遣いの言葉を掛けてきてくれた。申し訳なさそうに耳が垂れてる辺りから、その心情が窺えてしまう。気付けば、怯えと恐怖、戸惑いに染まっていた獣人達の空気に、労るような、同情するような空気が大幅に混じってたりする。


く・・・怯えとかが薄まったのはいいけど、これはこれで情けねぇ・・・


「こうなりゃ自棄だっ!! 全力で片っ端から不調も怪我も治してやる!! そっちの意思は無視だ、無視!! そこから全員動くなよ!! 《治癒(キュア)》ーーーーーッ!!!!」

魔力構成を個人から複数範囲に変えて、有り余る魔力を全力で注ぎ込んだ治癒の光が獣人達を包み込むと、獣人達から驚きと戸惑いの声が上がった。


治癒(キュア)》は淡い光が体を包むエフェクトがあるから、驚かせたら悪いと思って、警戒を解きながら治療してくつもりだったけど、もう知らん!! ちびっ子達の期待に全力で応えてやろうじゃねぇかっ!! もうどうなろうがどう思われようが、後の事は野となれ山となれだ!!


「お、おぉ・・・悪魔の爪痕が・・」

「と、盗賊共にやられた傷が跡形もなくなったぞ・・」

「ちょっ!? あなた!! 耳が!!」

「え? あ!? 15年前に斬られた耳が元に戻ってる!?」

「な、なんじゃ? 腰と膝の痛みが消えおったぞい?」

「これは驚きですねぇ、お爺さん」

「ち、治癒魔法というのはこんなにも凄まじいものなのか・・・」

悪魔の爪痕と獣人達が呼んでいる魔物に付けられた傷痕や今の傷、さらには、古傷や腰痛・関節痛までもが治ったという声が重なってざわめきとなった。


をぅ・・・全力の《治癒(キュア)》って、関節痛も治せて、欠損部位の再生までできるのか。知らんかった・・確かに、身体構造を正常に戻すように魔力を構成してるけど、そんな大怪我を治療する機会も関節痛の治療を試したことなんかもなかったもんなぁ・・・


「すご・・《治癒(キュア)》ってここまで治せるのね・・・」

「ケイくんの保有魔力量があってこそだと思いますよ? 今の《治癒(キュア)》に使われた魔力量は、私なら軽めの魔力枯渇症状が出そうなくらいでしたから」

「あ、なるほど・・・魔法は籠めた魔力の量で威力も効果の高さも変わるもんね。っていうか、ケイってばホントに魔力お化けね~」

「流石、ケイクイルさんです」

「ありがと。ちょっと自信回復だな。こういうトコ以外じゃ、もうセシリア達には敵いそうにないし」

「ハァ・・相変わらず自己評価が低過ぎなんだから」

呆れたように言うカサリナに、セシリアとルーシアも頷いてたりする。


いや、客観的に実力を評価したらそうだと思うぞ? 殺る気でなら話は別だろうけど、それも自信ないし、そもそも、セシリア達相手に殺る気になるのが無理だし。


そんなことを思っていたら、ウサミミのお爺さんが集団の中から歩み出てきた。

「魔族の御仁よ。ケイクイル様と仰られたかの?」

「さ、様はやめてくださいよ、お爺さん。呼び捨てで構いませんから」

「そうもいきますまい。この村を助けてくださり、皆の胸の深い傷となっておった悪魔の爪痕を消し去ってくださり、さらには村を守ろうと戦ってくれた若い衆の怪我や儂らの古傷や他の痛みまでも取り去ってくださった恩人ですからのぅ。まずは、ケイクイル様方に深い感謝を。儂はこの村の長をしております、ナガルディーヴァと申しますじゃ。村を代表して感謝申し上げますじゃ」

そう言って、深く頭を下げる村長さん。それに倣って、他の面々も頭を下げてくる。腰が抜けて立てなくなったままの獣人も多いけど。


う、うぅ~ん・・・恩を売って拠点確保の交渉を有利に進めたいな~とか思ってたのはその通りなんだけど、フレアが殺られかけてたのを見て単純にブチキレてただけだからなぁ。怪我を治してやろうとしてたのはその交渉の為だったけど、結局は強引にやっただけだし。

まぁ、感謝してくれてるんならいいか。


「分かりました。感謝は受け取らせてもらいます。でも、このままここで話し込んでるワケにもいかないでしょう。何人かは犠牲者が出てるみたいですし、住まいを壊された獣人もいるでしょうから。よければ、手伝いますよ? ライザ達から村の事情はききましたし、人手が足りないでしょう?」

「よろしいのですかな? 何やら交渉事がおありと仰られておりましたが」

「落ち着いてからで構いませんよ。急ぐ話でもないですし。あぁ、勿論、すぐに村を出た方がいいんならそうします。純人族の支配領域内の村で魔族が見つかったりしたら厄介でしょうし」

「えぇっ!? なんでだよ!?」

「ケイさんともうちょっとだけでいいからお話ししたいよ、ボク・・」

ライザとフレアに続いて、ちびっ子達が口々に滞在を望むようなことを言いながら俺に群がってきた。

「ははは。ありがとな。そう言ってくれただけでも助けた甲斐があったってもんだ。まぁ、でも、俺も俺の都合が良くなるように助けにきたって部分もあるんだ。だから、村長さんの意見に文句は言っちゃダメだぞ? 皆が安全に安心して暮らしてく為に考えてくれてんだからな」

そう言いながら、ライザ達の頭を順番に撫でていく。不満そうではあるものの、それ以上は言わなくなった。

「・・話に聞いておった魔族とは似ても似つきませんのぅ、ケイクイル様は」

「俺達は魔族の中ではトコトン異端なんですよ。いろんな意味で、ね。多分、一般的な魔族はその話から大きくは離れてないと思います」

「異端、ですかの?」

「ええ。俺は一族の落ちこぼれの出来損ない扱いでしたし、魔法は魔族の中では弱者の証として忌避されてますからね」

俺の言葉に、村長さんはおろか、他の獣人達全員が大きく目を見開いて固まった。


あれ? 何? そのリアクション。そんなに驚くような話か?


「ま、魔族とはそこまでの猛者が集う種族なのですかの?」

「ブ、黒竜(ブラックドラゴン)を従える魔族を、お、落ちこぼれの出来損ない扱いなんて・・・じょ、冗談、ですよね?」

「あ、そういうことか。すんません、誤解させましたね。'魔法を使わなかったら'の話です、それ。魔法有りの俺達を相手にして脅威になり得るのは・・・まぁ、魔族全体から見れば極少数だと思います」

俺の言葉に、引き攣った表情を緩める獣人の大人達。

「そうでしょうな。そうでなくては、何故にこの長年に渡る戦争で純人族が負けておらんのか説明がつかんわい」

「兄ちゃんより強い魔族なんかいるのか?」

「いないよ、絶対。一瞬で盗賊達を潰しちゃったんだもん」

「だよね~。ケイお兄ちゃん、スッゴイもん」

「怪我もキレーに治してくれたしねっ」

「ボクを抱っこして走ってても凄く速かったんだよ? 目を閉じてたけど、風がビュンビュンいってたもん」

村長の納得に、ちびっ子達の絶賛の台詞が続いて思わず苦笑いが洩れてしまう。


ちびっ子達からの評価が高過ぎるなぁ・・少なくとも、ここに3人、俺より強い奴がいるんだけど。


「まぁ、それはともかく、手は必要ですか?」

「・・・お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうかの? 仰る通り、儂らには人手が足りておりませんでな」

村長さんがそう言うと、ちびっ子達から歓声が起こった。


なんか、やたらと懐かれた? 素直なのはいいんだけど、単純過ぎて将来が不安になっちまうなぁ・・・







それから、俺達は村長さん達の指示の下に襲撃後の後始末を手伝った。



壊された家の壁や扉、窓は《創造(クリエイト)》ですぐに直せたけど、亡くなってしまった獣人まではどうしようもない。小さな村で数も少ないだけに、亡くなった獣人の骸を前に、生き残りの獣人達全員が涙を流して嗚咽を洩らしていた。


不幸中の幸いだったのは辱しめを受けたような痕跡がなかったことくらいか。襲撃開始から然程の時間が経たない内に俺達が来た(村長さん談)から、そんな時間もなかったんだと思う。


「盗賊連中は何を奪いにきたんだ?」

「全部ですよ」

作業をしながらの俺の問いかけに、狼顔の獣人が怒りを噛み殺すようにして答えを口にした。

「全部?」

「そうです。食料もだし、俺達自身も売り物になりますから」

「・・奴隷ってことか」

「魔族の支配領域では獣人はいないんですか?」

「ああ。少なくとも、俺は見たことがないな。純人族は獣人を奴隷にしてんのかよ」

「ええ。アイツら、俺達を'獣混じりの亜人'って蔑んで、家畜扱いしやがるんですよ」


何て言うか、テンプレだな。ラノベじゃありがちな話だ。現実にそういう立場の獣人達にとっては堪ったモンじゃない話だろうけど。


「獣人の国とかってのはないのか?」

「噂には聞いたことはありますよ。別の大陸の話になりますけどね」

「別大陸かぁ。それじゃ、簡単には移動できないか。海にも魔物はいるって話だし」

「はい。だから、俺達は森の奥や山の奥に隠れて生きていくしかないんです・・・」

「他の獣人達もそんな感じか?」

「恐らく、ですが。それぞれが隠れ住んでるので、同族でも互いの居場所を知らないんですよ」

「あ~、なるほど。芋蔓式にやられるのを防ぐ意味じゃその方が都合がいいワケか」

「おかげで、対抗しようもなくなってしまってますけどね。あの魔物に襲われたせいで、この村じゃ戦えるのは俺達5人くらいしかいなくなってしまいましたし」

疲れた笑みを浮かべてそう言う狼顔の獣人。


多勢に無勢ってワケか。団結しようにも居場所が分からなかったら他の集団に合流もできないし、この村に至っては戦力が無さ過ぎて捜しに出るワケにもいかないだろうし。こんな深い森の中の村なだけに、脅威は純人族と前の村を襲った魔物だけじゃないからなぁ・・・完全にじり貧じゃねぇか。

でもまぁ、それなら、俺達にとっては都合がいいか? 口振りからして純人族の味方をすることもないだろうから、ここの獣人達が受け入れてくれた上で拠点にできたら揉め事にはならないだろうし。それに、この村の連中にとっても、俺達が用心棒代わりになるから、今回みたいな襲撃があっても、魔物に襲われるようなことがあっても被害は最小限で抑えられるし。


何より、オタク心を滾らせるケモミミは魂の財宝だろ!! 過酷で救いのない環境なんぞに放置したくない!! なんとか村長とか他の大人達を説得せねば!! 幸い、ちびっ子達は俺の味方をしてくれそうだし!! なんか懐かれてるっぽいから!!

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