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魔族転生  作者: 桃源郷
第三章 新天地
26/30

到着した戦場と純人族の砦と竜の息吹

スピカの背に乗って、飛行デートを楽しむこと3日。上空から戦場を視界に収めることができる所までやってきた。


いやまぁ、戦場に向かう道中だったのに何言ってんだって感じだけど、そんな感じだったんだから仕方ないだろ。緊張感皆無だったんだから。


でも、流石に目の前に戦場があると、ゆる甘な空気も引き締まった空気に変わる。


「正面から攻めるには厄介な砦ですが、スピカに乗る私達ならば攻め込むのは容易そうですね」

「あ、またこっちの兵士が吹っ飛んだ。待ち構えられてるって分かってるのにひたすら突撃って、ホントに馬鹿ばっかりなのかしら?」

「私達はケイくんに色々教えてもらっていますから、そう思うんだと思いますよ? 魔族の基本は突撃からの正面突破だけですし。'脳筋'って言うんでしたっけ? ああいうのを」

「はい。頭まで筋肉でできているかのような力押しでしか物事を考えられないことを、ケイクイルさんの前世の世界ではそう言うそうです」

「・・・あたし、別の意味でもケイに出会えてホントに良かったって思っちゃうよ。肉体ランクの高さに物を言わせるだけのゴリ押し・力押しの軍隊になんか加わりたくないもん」


・・・・た、多少は引き締まった空気に変わる。うん。多少は。完全に他人事な言い草だけど、戦況に目を向けてるんだし、魔族の軍の問題にも目を向けてるんだからな。


・・・・・・3人共、俺にくっついたままだけど。


「スピカのおかげで、本来の予定よりかなり早くに到着してしまいましたけれど、どうしますか?」

「歩いて向かってたら、一月半は掛かる筈だもんね~」

「早速、ケイくんの力を見せつけますか?」

「うんまぁ・・・いいんだけどさ。カサリナはもうちっと緊張感持とうか。そりゃ、スピカに乗って飛んでる間は安全なんだけどさ」

「分かってるって。降りるときには気を引き締めるから。あたしだって、その、ケイに抱いてもらいたいんだし・・・だっ、だから、怪我なんか絶対にしないからっ!!」

真っ赤なりながら言うカサリナに、俺まで顔が熱くなってしまう。


ぬぁぁぁぁっ!! もうっ!! だから、お前はそういう無駄に可愛らしいことを言わないっ!! またゆる甘が戻ってくるだろ!!


「ん、んん・・まぁ、なんだ・・・それならいい。とっ、とにかく、この突撃戦は今回の補充要員が参加予定にはなかった戦闘だろうから、少しだけ様子を見て動きを決めるぞ。ここまでの高度に届くような攻撃手段は考えにくいし、魔族にも純人族にも気付かれてないとは思うけど、油断はしないように。いいな?」

「はい」「はいっ」「うっ、うんっ」

セシリア、ルーシア、カサリナからの返事が重なったところで、俺は戦場に再度目を向ける。


流石に遠いから細かいトコまでは分からないけど、こういうときにも役に立つのが魔法なんだよな。


「《視覚強化ヴィジョン・ストレンジスニング》」

魔法で視覚を強化すると、一気に戦場が間近に見えるようになった。


っつーか、近過ぎた。調節調節っと・・・よし。ある程度の俯瞰した視野を確保できたな。


「視覚の強化ですか? そんな魔法もあるんですね」

「《増強(エンハンスメント)》の基になってる魔法の1つをイジっただけだけどな」

「イ、イジっただけって・・・」

「《増強(エンハンスメント)》の基になってる動体視力強化の魔法も視覚に働きかける魔法だからな。その魔力構成をちょっとイジってやったら、視覚全般が強化される魔法ができたんだよ。まぁ、完全に偵察用だけどな。《増強(エンハンスメント)》に組み込むのは無理だったし」

「そんなの試してたんだ・・」

「あ、そう言えば、何回か《増強(エンハンスメント)》の魔力構成を変えたって、教え直してくれたことがありましたよね。凄いですっ。完成したと思ってた魔法の完成度をさらに上げることも考えてたんですねっ」

「あ~、まぁ、そういう側面もあるにはあるんだけど・・・」

「ケイのは半分趣味だもんね。それでも凄いのには変わりないけど」

呆れ半分にそう言うカサリナ。


見抜かれてやがら。


そんなやり取りをしていると、俺の強化された視界の中でまた魔族の兵士が吹っ飛んだ。

「あれ?」

「どしたの?」

「・・・今、俺の視界の中でまた兵士が吹っ飛んだんだけど、いきなり兵士達の足下の地面が爆発してた」

「は?」

「何かが砦から飛ばされてるのかと思ってたけど、違う・・・セシリア」

「はい」

「火薬・爆薬ってのは、少なくとも魔族の持つモノの中には存在しないんだよな?」

「はい。火や何かの刺激で爆発を起こす物質というものは存在しません。過去に事故でそういった現象が起きたことはありますが、意図的な行為として任意で爆発を起こすことに成功したという事例は私に埋め込まれた知識には存在していませんので。例外はケイクイルさんの魔法だけです」

「まさか、純人族は魔法を使うということですか?」

「まぁ、そうだとしたら、魔族が魔法を'弱者の証'だなんて嫌うのも理解できるよな。魔族は純人族を劣等種族って見下してんだし」

そう言いながら、また吹っ飛ばされる魔族の兵士達の足下を注視する。


むぅ・・・発動する時の魔力構成が視えないな・・地面の下に魔力構成を潜ませてるのか? それとも、魔法じゃない? 魔族に火薬とか爆薬に類する代物がないからって、純人族側にも存在しないって思い込むのは危険だな。そういうのがあれば、大砲とか銃なんて物もあるかもしれないし、遠距離狙撃ができるような銃があったりしたら致命傷だ。


「んで、今も視てるんだけど、爆発する瞬間にも魔力構成が視えない。魔力構成を地面の下に潜ませてるだけかもしれないけど、魔法以外の手段の可能性もある」

「爆薬とか火薬とか? でも、それってケイの前世の世界にしかないんじゃないの?」

「魔族の技術知識の中にそういう代物がなかっただけで、純人族にはあるかもしれないだろ? 俺も火薬とかの取り扱い方を知らないから、積極的に調べようとも開発しようともしてなかったし。それに、魔法の方が使いたかったし」

「ケイくんでも知らない知識を純人族が扱える可能性があるとは思えませんけど」

「いや、可能性は考慮に入れておくべきだ。昔に火薬の話をしたときに、銃とか爆弾の話はしたろ? 遠距離狙撃が可能な銃なんかがあったりしたら、マジで致命傷になりかねない。まぁ、流石にスピカの鱗を貫けるようなモンはないとは思うけど、前世の世界じゃ、分厚い鉄板を貫通するような銃もあったからなぁ・・・」


まぁ、文明レベルが明らかに違うから、流石に対物ライフルみたいなのはないと思うけど。

あ、でも、魔法と併用してたら、レールガンみたいなのがあってもおかしくないのか。まぁ、アレは俺と同じように元の世界の知識を持った主人公が異世界の魔法とかスキルと組み合わせた結果だから例外でいいのか? でも、異世界転生なんていうファンタジーな事実が、ここで実例としてあるからなぁ。


「念の為、戦場に立つときには自分の前に《防壁プロテクティブウォール》を常時展開を基本にする。あと、地雷みたいな技術があるのは確定だから、敵陣に突っ込む必要があるときには《増強(エンハンスメント)》も常時最大展開でいこう。魔族の兵士が1発でやられてないってことは、威力は大したことないから、《増強(エンハンスメント)》を全開にしてりゃ、俺達なら影響は最小限に留められる筈だ。ただし、アレが最大威力とは限らないから、突っ込むときでも無闇には突撃しないように」

「「はい」」「分かった」


さて、ここで見てて得られる対策が必要そうな情報はこんなトコかね? 敵の方は砦から出てこようとしてないし、見せてくれてる遠距離攻撃は弓矢とか投擲ばっかりだから、あんな程度なら普通に躱すか防ぐかできるし。


「さて、お次は相手方の防御性能と危機対策能力を見せてもらいますか」

「へ? どうやって? 魔族の兵士達は砦に全然近付けてないわよ?」

「そりゃもう、俺達には移動式の砲台みたいな奴がいてくれるじゃないか。魔族も純人族も戦いに夢中で上空に注意を向ける奴はいないから、絶好の不意打ちチャンスだろ?」

「うわぁ・・・」

「ケイくん、容赦も油断もなさ過ぎて素敵ですぅ~」

「はい。流石です」

若干引いた声を出すカサリナに対して、ルーシアとセシリアはうっとりしたような声で褒め言葉を口にした。


お前ら・・・なんか、俺がやることは全肯定しそうな勢いだな。ルーシアは前からそんな気配があったけど、セシリアまで。コレに乗せられないように自戒しとくようにしよう。調子に乗ったら、痛い目に合うかもしれないんだからな。


「《防壁:暴風ストームプロテクティブウォール》。よし、準備完了っと。スピカ、初陣だ。派手にいくぞ!!」

「ゴァァァァァァァッ!!」

俺が掛けた声に、スピカが咆哮を轟かせて応えた。途端に、眼下の戦場の動きが止まり、砦や魔族の陣所に動揺した動きが見え始めた。

「標的、純人族の砦!! 薙ぎ払え!!」

俺の号令に合わせて、スピカが砦に向かって竜の息吹(ブレス)を解き放った。


豪速で突き進む黒い光が砦の門に突き刺さった瞬間、轟音と共に砦の防壁どころか、砦内の建物を周辺の地面ごと吹き飛ばして、大爆発が起こり、かなり離れた俺達にまで凄まじい衝撃波が襲ってきた。けど、スピカごと包むようにして前方に展開した《防壁プロテクティブウォール》がそれを悉く防いだから、こっちには影響ナシ。


しかし・・・スピカの竜の息吹(ブレス)、前に見せてくれた溜め有りの竜の息吹(ブレス)よりも威力がありそうだったな・・

もしかして、戦場が見えてからすぐに竜の息吹(ブレス)の溜めを始めてくれてたんだろーか? なんという忠竜ぶり。


竜の息吹(ブレス)が当たった瞬間の様子は見えましたけど、凄い土煙で結果がすぐに確認できませんね」

「風の魔法で粉塵を払いますか? ケイクイルさん」

「いや、視界を確保が必要なのは相手の方だ。その対処も含めて、どう動くのか見たい。向こうが風魔法で粉塵を払ってくれたら、警戒の対象に魔法が確実に入れられるし、未知の技術が使われてるならそれを確認したいからな」

「なるほど。了解しました」

「スピカ、凄かったよ~。頑張ったね~」

「ギュァァ」

カサリナがスピカを褒めてやると、嬉しそうな声で鳴きつつ、俺の方を見つめてくるスピカ。


'褒めて褒めて'って声が聞こえてくる気がする・・・やっぱり忠竜度が上がってる気がするなぁ。


「よくやった、スピカ。先に溜めを始めてくれてたんだな。偉いぞ」

「ギュルァァァァッ」

「いや、待て。連射はこの先でな? スピカにはまだまだ活躍してもらうから、今はちょっと落ち着け?」

「ギュァ」

やたらと張り切った声を上げるスピカにそう言うと、心なしかションボリされてしまった。ちょっと可哀想だから、首筋を撫でてやっておく。


・・・なんか、パトラッシュって名前に改名してやりたくなるなぁ。いや、しないけど。


「スピカの言ってることが分かるんですか?」

「いや、なんとなくだよ」

「スピカってケイのこと大好きだもんね。あんなにボコボコにされたのに。黒竜(ブラックドラゴン)ってそういう習性とかあるのかしら?」

「さぁ? 黒竜(ブラックドラゴン)をペットにしたなんて話、物語にも出てきたことないからな。詳しい生態なんか知ってる奴はいないだろ」

「そうですね。ケイクイルさんが史上初の黒竜(ブラックドラゴン)を従わせて手懐けた魔族だと思いますから」

「流石、ケイくんですっ。伝説の魔王ケイグラル様も目じゃないですねっ」


待て。それは持ち上げ過ぎだ、ルーシア。無駄にハードル上げないで。4人中、最弱疑惑があるってのに。しかも、かなり濃厚に。


「あ、魔族の陣所の方に流れた土煙は晴れてきましたよ」

「・・・なんか、さっきの余波だけでボロボロ?」

「細かい所までは見えませんが、そのようですね。随所で兵士が走り回っているところを見ると、壊滅的な被害というわけでもなさそうですが」

「あ、走って戻ってきてる。吹っ飛ばされた兵士も結構多そう。あ、あっちの兵士達はフラフラしてるっぽい。肉体ランク、低いのかしら?」

「ですね~。ケイくんなら咄嗟に《増強(エンハンスメント)》か《防壁プロテクティブウォール》で耐えていたでしょうに。やっぱりケイくんは凄いです」

「待て。俺も不意を打たれたらどうしようもないからな? 1発目の魔法の発動は、もうルーシアには全然敵わないのを忘れてないよな? だから、あんまりハードルを上げないでください」

「ふふ。謙虚ですよね、ケイくんは。私も力に溺れて油断しないように見習いますっ」

俺の現実を見据えた言葉にも、何故か俺を持ち上げる発言を被せてくるルーシア。


うぁ・・・この子、本気(マジ)で言ってるよ・・目がキラッキラしてんだもん・・・オイ? セシリア? なんでそこで黙って頷いてる? 感心したような目で見られるようなことは何一つとしてないぞ? 油断しないようにしてくれるのはいいんだけど、ハードルの高さが棒高跳び以上の高さになってないか? やめて。基本的に、ハードルは乗り越えるよりも潜り抜けるようなのが俺なのに。


思わず、助けを求める視線をカサリナに向けると、苦笑いされてしまった。

「そんな目で見ないでよ。仕方ないじゃない。ルーシアにとっては自分の世界を変えてくれた王子様で、セシリアにとっては幸せな生き方を与えてくれた凄い人なのよ?」

「? 何をそんな当たり前のこと言ってるんですか? カサリナちゃん」

「ほらね?」

トドメを刺されて、思わず項垂れてしまう。そこにカサリナが歩み寄ってきて、頬にキスをしてきた。

「自信持ってていいんだってば。もう10年以上一緒にいても変わんないモノなのよ? ケイは自分への評価が低すぎなの」

「そうでもないと思うんだけどなぁ・・」

脱力気味にそう呟くと、カサリナが赤くなりながらギュッと抱き締めてきて、

「・・・あたしだって、変わってないもん。どんな英雄譚(ヒロイックサーガ)の英雄より、ケイの方がずっと素敵。大好き」

囁くようにそう言った。一気に顔から湯気が出そうなくらいに熱くなってしまう。


ぐぅぅ・・な、なんつー照れ臭いことを・・・だから、お前はなんでそういう可愛らし過ぎることばっかり・・・その気になっちゃうだろ。前世の経験があったとしても、男なんか根本が単純な生き物なんだぞ。


「ん・・・これからも変えられないように頑張るよ」

そう言って、カサリナを抱き締め返す。

「愛してる」

「ふぇっ!?」

「その気にさせたんだ。最後まで付き合ってもらうからな」

「うっ、うううう、うんっ。あっ、あたっ、当たり前じゃないっ」

真っ赤になりながら腕にギュッと力を込めるカサリナ。そこに、俺の顔の両サイドから、ジトーっとした目がカサリナを覗き込んできた。

「うぇっ!?」

「カサリナちゃんは何気なくケイくんをデレデレさせ過ぎです」

「自然とそうできることが羨ましいです」

「そ、そそそそ、そんなつもりないわよっ!!」

「むぅ。天然とかズルいです。やり方を教えてほしいのに」

「だーかーらぁ~っ!! 違うってばぁっ!!」

そんな緊張感皆無のゆる甘な空気が戻ってくる中で、砦を包んでいた土煙が晴れてきた。楽しく騒ぐセシリア達から俺はこっそりと意識を逸らして、土煙が薄くなって視界が利くようになった場所へと視線を向ける。視線の先には・・・





そこにあった筈の砦が、大規模なクレーターと瓦礫の山と化していた。

投稿ペースを上げる為に前書きと後書きはこれから無しでいかせていただきます。ここの部分で何気に時間が取られてしまうことが多いので・・・


中途半端な所からの改変になりますが、変わらぬお付き合いをいただければ幸いです。

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