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魔族転生  作者: 桃源郷
第三章 新天地
25/30

放棄した自重と夜空の飛行といつも通りな4人

戦場送り組の集合場所にて、いきなりトラブル発生です。主人公達は無事に出発できるのでしょうか?



第三章 第二部の開幕です。


どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。

「いえ。真っ平です。と言うか、寒気がしますね。ケイくん以外に触れられるなんて想像もしたくないです。次に同じ事を言ったら、本気で殺しますよ?」

ルーシアの明確過ぎるくらいな不快感を示す台詞に、ド外道な発言をした屑が厭らしく表情を歪めた。

「ほぉ・・・いいだろう。この場で手足の腱を切って、戦場での便器代わりにしてくれる。精々泣き叫んで兵士達を喜ばせることだな」

そう言って腰から下げた剣を抜こうとした屑が、半歩前に出た瞬間に爆発、四散した。

「え?」

間の抜けた声を洩らしてキョトンとするルーシア。その場には理解不能の事態が起きたことによる静寂が訪れた。

「コラ、ルーシア。送られる戦場の場所がまだ分かってないのに煽るなよ」

「あ、す、すみません。つい・・・」

「まぁ、いいけどな。こいつだけが案内役でもないだろうし」

そんな俺とルーシアの会話の後、周囲がざわめきを起こし始めた。理解不能の現象に、恐慌状態になった奴らも出てるみたいだ。元々悲壮感が漂いまくってた連中だから、キャパオーバーしたんだろう。


まぁ、どうでもいいけど。


「戦場の場所が分かったらもういいの?」

「ああ。俺達だけで一足先に戦場に行くからな」

「一足先に? スピカを呼ぶのですか?」

「ああ」

「うわ。大騒ぎになるんじゃない?」

「いーよ。自重期間はこれにて終了。見下してきてくれた奴らの度肝を抜いてやろう。ただし、作戦は'いのちだいじに'でな」

「はいっ。もうケイくんの手を煩わせるようなことはさせませんっ」

「了解しました。ケイクイルさんの敵は殲滅します」

「いや待て、セシリア。'いのちだいじに'な? 無茶と無理は絶対にするなよ?」

「はい。もっとケイクイルさんに抱いてもらいたいですから」

セシリアに釘を刺したら、返しでおもいきり赤面させられてしまった。


セシリアもちょっと赤くなってる辺り、恥ずかしいんだろうけど、俺はそれ以上だっての!!


「オ、オイ。何が起こったんだよ? お前ら、何か知ってるんだろ? お前らだけが平然としてるし」

そんなことを考えてたら、動揺だらけの声が掛けられた。声の方を振り向くと、紅魔の男子が3人で怯えた表情をして立っていた。


見たことない連中だな。これまでの絡みはナシかな。まぁ、記憶に残ってない可能性も高いけど。


「さてな。動揺しても分からないものは分からないから無視してるだけさ」

「うっ、嘘吐け!! 案内役がどうのとか言ってただろうが!!」

すっ恍けた返事に激昂する紅魔男子Bくん(名前を聞く気もないからテキトー)。

「もし、何らかの手段で()()さっきのをしたんだとしたら、喧嘩を売ってきた奴や余計なことを吐かす奴を無事で済ませる意味があると思うか?」

目を細めながらそう言ってやると、紅魔男子3人が揃って顔を真っ青にして引き攣らせて、そのまま無言で立ち去っていく。


うんうん。状況判断は大切だよ、君達。


「・・ケイが久しぶりに腹黒くなってる」

「失礼な。状況を上手く利用してるだけだろうに」

「ふふ。流石はケイくんです。これで、余計なことを言う魔族はいなくなりましたね」

「先程の魔法は《機雷(マイン)》と《防壁プロテクティブウォール》ですか?」

他に聞こえないように、小声で問いかけてくるセシリア。


まぁ、まだ魔法を公表するのは早いか。戦場に着いてからの方が面倒が少なそうでいいしな。


「当たり。《機雷:爆裂エクスプロード・マイン》でブッ飛ばして、《防壁:強風ハイウィンド・プロテクティブウォール》で血とかを防いだ。出発前に汚れたくないし」

「相変わらず魔法の連続発動が速すぎよねぇ」

セシリアに小声で答えた俺に、同じように小声で呆れたように言うカサリナ。


まぁ、それが魔力量に並ぶ俺の2つ目の取り柄だからな。



カサリナの言葉通り、俺は魔法の連続発動についても、保有魔力量と同じくこの4人の中でトップを保ってる。スピカを調教する結果になった大量の《機雷(マイン)》に関しても、これがあったからこそできたことだ。まぁ、この魔法が1つの発動(インヴォケーション)(キー)で、同じ魔法なら連続発動可能な性質を持ってることも理由の1つになるんだけどな。


・・・ただ、あくまでも()()()()()()の話で、1発目の発動に関してはルーシアの方が圧倒的に速かったりするんだけど。《増強(エンハンスメント)》に関してだけで言えばセシリアがNo.1だし、カサリナとはあんまり変わらないけど、元の肉体ランクの差のせいで動き出しが敵わないし・・だから、魔獣狩りのときに全く出番がなかったワケで・・・・・ハァ。なんで俺の特性って妙に継戦力に偏ってるかなぁ・・・


そんな風に自分の力に微妙に嘆いていたら、街の中から鎧姿の魔族2人が荷馬車に乗ってこっちに向かってやってきた。


「な、なんだ? この大量の血痕は」

「・・ここは街の外れとはいえ、まだ魔物が現れるような場所でもない筈だが・・・オイ。そこの。一体何があった? ここに残しておいた兵士はどうした?」

さっきの屑が四散した跡の1番近くにいた俺達に視線を向けて、紅魔の男性が声を掛けてきた。

「さぁ? 何があったのかは理解不能だけど、白魔の兵士ならその血溜まりになったよ」

「なっ!?」

「理解不能とはどういう意味だ?」

動揺の声を上げるもう1人の紅魔の男性に対して、最初に声を掛けてきた方は怪訝な顔をして問いを重ねてきた。

「理解不能だから理解不能なんだ。いきなり爆発四散した。分かるのはそれだけだ」

「・・・うむ。しかし、そんな事態が起こったにしては冷静だな? 他の者は随分と怯えているようだが?」

「ここにいる誰かが何かをしてさっきの白魔をどうにかしたってのなら、随分な笑い話になるな。戦場の人手不足を補う為の時間稼ぎ要員、それも、使い捨て前提にされるような肉体ランクの低い奴に原型も留められないくらいにバラバラにされて、しかも、その相手は無傷でしらばっくれる余裕すら持ってるんだから。それとも、さっきの白魔はそんなに弱かったのか?」

俺の言葉に、声を掛けてきた方の紅魔は思案顔になって、少しの間沈黙した。動揺全開の紅魔の方は何か言いたげだけど、口を挟もうとはしない。


ふむ? この紅魔の兵士はそれなりに偉かったりするのかね? まぁ、少人数とはいえ、数を率いるんなら指揮を取る立場の奴は必要だもんな。道中には魔物も出るんだし。


「・・まぁいい。アイツは無駄に問題を起こしてばかりだったからな」

「よ、よろしいのですか? 何か危険な魔物が現れたのだとしたら、放置するのは危険なのでは?」

「そうならば、ここにいる使い捨ての駒は全滅しているだろう。そうでないのだから、捨て置ける問題だ。仮に、その小僧に殺られたのだとしても、[前兆の子]などに簡単に殺されるような雑魚に価値はない。ここにいる駒以下のゴミだ。違うか?」

隊長(仮)の言葉に、動揺しまくりな方が黙って首肯した。


なかなかに豪気な判断なことで。っつーか、ハッキリ'使い捨ての駒'って言い切るのな。率直で分かりやすいからいいけど、他の連中の悲壮感が増したぞ? いくら弱いって言っても、士気を下げさせたら余計に使い物にならんだろうに。

こりゃ、軍の状態が不安だなぁ。いくら魔法があっても、たった4人で全部を何とかできる筈もないんだし、味方を増やすことも考えないとな。いや、味方ってより部下とかか? まぁ、その辺は追々考えていこう。







それから、隊長(仮)の指示で戦場送り組の点呼が取られた後、戦場に向けて一同揃って出発した。


まぁ、揃ってと言っても、他の連中は俺達を警戒しまくってるらしく、全く近寄ってもこないけど。


出発してから延々と進み続けて、日が暮れてから野営することになった。流石に、夜間の強行軍まではしないらしい。

ちなみに、近付こうとしてきた魔物は《《機雷(マイン)》でかなり離れた場所で全部駆除してきたから、戦闘は1回もナシ。目的地を聞き出すまでは無駄に絡まれたくないし。


「んで、この荷馬車は何なんだ? 物資の補給か?」

「そうだ。貴様らの口に入る物は一切ない。それと、言っておく」

「ん? 口の聞き方云々なら全部聞き流すぞ」

「・・・・いい度胸だ。[前兆の子]とはいえ、流石はフォルティス家の一員というわけか?」

「ふぅん・・・俺を知ってるのか」

「名門フォルティス家の恥としてな。ガグドル将軍閣下から、貴様をフォルティス家の者として扱う必要はないと指示を受けている。つまり、貴様が強気でいられる理由はもはや存在しないということだ」

完全に見下した目でそう言い捨てる隊長(仮)。


なるほど。俺の態度をフォルティス家の権力があるからこそだと思ってるワケね。


「まぁ、一族の権力は都合良く使ってはいるから、完全に間違いでもないか」

「何?」

「いや、気にすんな。こっちの話だ。んで、先に聞いとくけど、俺達が向かわされてる戦場ってのはどこにあるんだ?」

「・・・貴様。俺の言ったことが理解できんのか?」

「そっちこそ、俺の質問内容が理解できんのか?」

そう言い返した瞬間に背筋が粟立つ感覚が生まれて、咄嗟に口の中だけで《増強(エンハンスメント)》を唱えて発動、



したのに、俺が動くより先にセシリアが隊長(仮)の首に短剣の刃を当てがっていた。


やっぱりセシリア速ぇぇぇ・・・


「ぐ・・」

「強者に従うのが、魔族の流儀であり掟の筈です。ケイクイルさんの質問に答えてください」

「・・チッ。魔導生命体ごときに遅れを取るとは・・油断が過ぎたか・・・」

「余計なことは口にしなくて結構です」

「ついでに、あなたも変な動きはしないでくださいね?」

「なっ!?」

セシリアの冷たい声音に続いて、いつの間にかもう1人の兵士の後ろに回って首筋に剣を当てているルーシアが、全く目が笑ってない笑顔でそう言った。当然のように、驚愕の声を上げて硬直する紅魔兵士A(メンドくさくなってきたから、テキトーな呼び方)。


驚くわなぁ。俺もビックリだよ。視界に入ってた筈なのに、いつそこに移動して剣を抜いたのかサッパリだもんよ。何? この子達。前よりまた強くなってない? 俺の出番、この先大丈夫?


「早く答えた方がいいと思うよ~? その2人は特に、ケイの為だったら何でもするから、あたしみたいに優しくないわよ?」

そう言ったカサリナも、いつの間にか隊長(仮)の背後に回って剣を抜いてた。


え、えぇ~・・・カサリナの動きまで認識できてなかったんですけど・・・ゆ、唯一接戦できてた相手なのに・・もしや、もう勝てないんじゃなかろーか? なんでそんなに魔法の発動も動きも速くなってんの? 俺の知らない内に、何か効果的な特訓方法見つけでもした?


「ぐ・・・プリーマアシー峠だ」

「プリーマアシー峠・・では、南方の純人族との戦場ですね?」

「・・・南方と西方の劣等種族共が手を組んだらしい。それで戦力が不足しているのだ」

「分かりました。ありがとうございます」

そう言ってセシリアが刃を引くと同時に、隊長(仮)が抜刀して斬りかかろうとして・・・そのまま、地面に顔からダイブした。


オイ。待て。カサリナの動きがマジで見切れなかったぞ。鞘の方で殴ったのだけは分かったけど、その軌道が全然見えなかったとか・・・マジでか。これ、完全に俺が最弱なんじゃねぇの?


「まったく。大人しく答えるだけにしとけば、痛い目に合わずに済んでたのに」

「殺してはいないのですか?」

「ないない。コイツまで殺しちゃったら、他のメンバーが戦場まで辿り着けないかもしんないでしょ? 戦争は数だって、昔にケイが言ってたから、それはあんまり良くないかなって」

「なるほど」

「それなら仕方ないですね」

カサリナの言葉に、アッサリと納得してみせるセシリアとルーシア。


いやぁ、ホント怖いわ、この子達。俺にはメチャクチャ甘くて優しいのに、それ以外に対する容赦のないこと。この感じなら、付け込まれることもないから安心だな。


・・・しかし、マジで俺は何もしてねぇな・・・


自分の活躍が皆無なことにガックリきていると、紅魔兵士Aを解放したルーシアと、セシリア、カサリナも俺の傍に戻ってきた。

「場所は分かりました。プリーマアシー峠でしたら、私に埋め込まれた知識の中に位置情報がありますからご案内できます」

「そっか。ありがと」

「カサリナちゃんが気絶させた兵士さんが目を覚ます前に移動しておいた方が面倒が少なくて済みそうですけど、どうしますか? もう暗くなっちゃってますけど」

「面倒が少ない方がいい。それに、スピカの速度なら少しの時間でもここからは十分に離れられるよ。だから、もう少しだけ頑張ってくれ」

「はい」「はいっ」「余裕余裕~」

セシリア達の返答を受けて、スピカを呼ぶ為の指笛を鳴らす。視界の端で怪訝な表情を浮かべる奴らが目に入ったけど、スルー。説明する気もないし、しなくても分かる話だし。


しかし、パニックになるだろぉなぁ。


そんなことを思っていたら、

「ギュァァァァァァッ」

暗闇の空からスピカの鳴き声が響いてきて、その巨体がゆっくりと俺達の前に着地した。同時に、声にならない悲鳴が空気を震わせた。

「な、何故、こ、こんな所、に黒竜(ブラックドラゴン)、が・・・」

紅魔兵士Aの絶望に染まった呟きが、静かになった夜の空間にやけに響いて聞こえる。けど、

「スピカ、久しぶり~。ちゃんとあたしのこと、覚えてる?」

「ギュァ」

「早かったですね。偉いですよ、スピカ」

「ギュァァ」

「私とはデートのときに背中に乗せてもらってますから、そんなに久しぶりでもないですけど、元気そうでよかったです。寂しくなかったですか?」

「ギュァギュァァ」

そんな空気をサラッと無視して、カサリナ達はスピカに声を掛けながら撫でてやってたりする。スピカも撫でやすいように頭を下げながら、律儀に答えてるみたいだし。


あ~あ。見ろよ。他の奴ら全員が完全に硬直してるぞ。理解不能もいいトコだよなぁ、普通に考えたら。


そんなことを考えながらセシリア達とスピカのやり取りを眺めてたら、スピカが平伏するかのように俺の前で完全に体を伏せさせた。

「ギュァァ」


・・・呼び出したら、毎回俺の前でこうするよなぁ。もしや、最初に'敵対するつもりがなかったら、俺の前で伏せてみろ'ってなことを言ったせいか? 毎回、敵対の意志がないことを証明してるとか? ・・・・完全にトラウマを植え付けちまったんだなぁ。ごめんな、スピカ。


「日も暮れてるのにごめんな、スピカ」

いろんな意味で可哀想なことをした気がして、できる限りに優しい声で優しく頭を撫でてやる。

「ギュルァ」

目を細めて気持ち良さそうな鳴き声を洩らすスピカ。


すっかり懐いたモンだな。ホント、助かるよ。


「さて、スピカ。とりあえず、セシリアの指示する方向に軽く飛んでくれるか?」

「ギュァァ」

「ありがとな。まぁ、今日は少しでいい。行くぞ」

「「はい」「うん」

セシリア達から先にスピカの背に跳び乗っていく途中で、碧魔の女の子が2人近付いてきた。

「こ、この黒竜(ブラックドラゴン)を従えてる、んですか?」

「ああ。可愛いだろ? 俺達のペットだな」

「ペッ・・・」

俺の返答に絶句する碧魔の女の子2人。

「くく。まぁ、そういう姿勢でいてくれりゃ、俺達も無駄に敵対しなくて済む。じゃあ、戦場でな」

そう言って、俺もスピカの背中に跳び乗って、そのままスピカに飛び立たせた。


いやぁ、いいリアクションが見れた。このまま戦場に降りてやったら、もっと面白いかもなぁ。こっちの手札を隠したままで力を見せつけるのに、スピカは最高の手段だな。それで敵対する奴が減ればよしだ。


「それにしても、よく戦争は数だなんてこと言ったの覚えてるな、カサリナは」

「だって、それまでは強い魔族が1人いればいいって教えられてたのに、ケイは真逆のこと言うんだもん。納得できたけど、ビックリよ?」

「カサリナちゃんは色々とケイくんに教えてもらってますよね・・・私にもその理由を教えてもらえないですか? 知りたいです」

「簡単な話だぞ? 例えば、肉体ランクSSの奴がいたとする。そいつ相手に、仮に俺と同じC+程度の奴が襲い掛かっても無駄だよな?」

「はい。間違いなく瞬殺されると思います」

「でも、それが100人でかかれば? 1000人なら? 1万、10万で延々と襲い続けたらどうなると思う?」

「・・・なるほど。確実に疲労は溜まっていきますし、いくら肉体ランクが高くても戦闘状態を維持できなくなったら、ずっと下のランクの攻撃も通じるようになりますね」

「だろ? スピカみたいに無条件に硬くて強い体があるんならともかく、魔族の肉体ランクによる強さはあくまでも鍛練の結果に得られるものだ。無防備な所を狙われたら、ランクが意味を失う。それは俺達も同じだ。魔力が尽きたら並の魔族程度の力しかないんだから」

「・・・つまり、私達にも手勢が必要だということですか?」

「まぁ、俺達で戦争に勝つつもりならな。でも、軍が全滅しようが、俺達が生き残るってのなら味方が俺達だけでも何とかできるよ。《転位(ディスロケーション)》で逃げればいーんだし」

「「「あ・・・」」」

俺の言葉に、セシリア達の間の抜けた声が重なって洩れた。

「・・・・・・ケイって、やっぱり反則じゃない。存在自体が」

「オイコラ」


存在自体が反則とか言うな。生き残る為の最善を考えてるだけだってぇの。


「どれだけ強くなっても、逃げるということを当然の選択肢に入れられるのはケイくんだけですよね。やっぱり流石です」

「あ~、確かに。なんか'逃げるのは恥'みたいな風潮あるもんなぁ」

「死んじゃったら意味ないし、勝てない相手に意地張っても痛い思いするだけなのにね~」

「カサリナさんも、ケイクイルさんの考え方が染み付いてますね」

「あ~、うん。ケイって特殊なんだけど、納得しちゃったからね。ケイみたいに腹黒くはないけど」

「腹黒言うな。使えるモノは何でも使うだけだろ」

「ふふ。何でも()()()使う、ですよね」

そう言って、ルーシアが後ろから抱きついてきた。

「あっ!! ちょっ!! ズルい!!」

そう言いながらカサリナが俺の腕に腕を絡めてくるのと同時に、セシリアもシレッと反対の腕に腕を絡めてきた。


あの、嬉しいんだけどね? 緊張感とゆーものをだな・・・ハァ。まぁ、いいか。戦闘中なワケでもないんだし。


いつも通りなノリのセシリア達に苦笑しつつ、スピカの背に乗って夜空をしばらく飛び続けた。このノリをいつまでも守れるように、密かに気合いを入れて。

強力な攻撃魔法は魔族の間では完全に廃れたモノとなっています。魔族にとっての魔法とは生活魔法を示すもので、攻撃力はほぼ皆無に等しいのです。なので、白魔の兵士が爆散させられたことは理解不能な異常現象にしか見えないんです。状況的に主人公達が'何か'をしたとは察せられますけどね。

また、黒竜はトコトン強力な魔物で、通常であれば軍の一個大隊を以て討伐するような相手です。肉体ランクがSS以上の魔族であれば単独で相対することも可能ですが、空を飛ぶ相手には不利は否めません。魔法を使えない場合、対空攻撃手段が限られていますから。それだけに、紅魔の兵士が表情を絶望に染めて、他の魔族達は騒ぐことすらできなかったのです。



では、これにて第三章 第二部を閉幕とさせていただきます。


お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。

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