閑話 ~それぞれの想い・ルーシア編 1~
ルーシア視点の閑話です。主人公と出会うまでのルーシアが置かれていた環境と状況についても触れています。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
ケイくんは私の世界の総てを変えてくれた魔族です。孤独と恐怖と苦痛だけの日々を、愛するケイくんと大切なお友達のカサリナちゃん、優しいライバルなセシリアさんと過ごす明るくて楽しくて、まるで宝石みたいな毎日に変えてくれたんです。
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ケイくんも私と同じ[前兆の子]。その一族の落ちこぼれで、誰からも何も期待してもらえなくて、虐げられて、とても冷たい眼で見られて、産まれてきたことを後悔するのが普通な環境にいる筈でした。でも、ケイくんは出会った頃から[前兆の子]だなんて信じられないくらいに堂々としてて、強くて、賢くて、優しくて、強かで、常識に縛られない自由な魔族でした。
ケイくんは紅魔族なのに、泣いていた白魔族の私を慰めてくれたり、私を虐めていた兄様やそのお友達をまとめて一捻りにしてしまったり、紅魔族が白魔族と一緒にいるのが気に入らない他の白魔族の子達が喧嘩を吹っ掛けてきても簡単にやっつけてしまったり、[前兆の子]であることを'便利でいい'だなんて言い切ったり、家柄のことなんて普段は気にも止めてないのに、ケイくんの屋敷に仕えている執事さんがケイくんの行動に口出ししようとしたら、一族の権威を平気で振りかざして黙らせてしまったり・・・他にも例を挙げたら、切りがないくらいにケイくんは強くて格好良くて型破りな魔族だったんです。
その中でも、何より魔族の常識を無視しているのが、ケイくんの魔法。弱者の証って言われて嫌悪される魔法を、自分から進んで学んで、自分で新しい魔法まで作っちゃって、それを強くなる為だからって堂々としてるんです。
そんなケイくんのことを好きになるのに、時間なんて必要ありませんでした。苦しい毎日を、耐えるだけで何も楽しいことなんてなかった日々を、楽しくて次の日が待ち遠しくなるような毎日に変えてくれたんですから、当然ですよね。ケイくんは私の王子様なんです。
・・・カサリナちゃんにそれをバラされちゃったときは物凄く、もうメチャクチャ恥ずかしかったですけど。もぅ・・・ホントにカサリナちゃんははしゃぎ過ぎなんです。ケイくんの恋人になれたのが嬉しいのは、物凄く嬉しいのはスッゴく分かるんですけどね。結局、私も一緒になってはしゃいじゃったんですし。
私も十分に浮かれてるみたいですね。まぁ、浮かれない方がおかしいんですけど。だって、そんな愛するケイくんの恋人になれたんですから。
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そんなとっても嬉しい、記念すべき日の次の日の今日。私は1人、私にとっての牢獄だった場所にいました。大きな屋敷の広い庭の端に適当に建てられた掘っ建て小屋。[前兆の子]である私の家です。
物心ついた頃には、もうここで寝起きしていました。ガゼナスさんが食事や着替えを持ってきてくれてましたけど、冷たい眼で見られて、碌に会話もしてくれなかった。兄様の機嫌が悪いときには、憂さ晴らしの為に何回も殴られて蹴られて、泣きながら土下座して謝るまで許してもらえなかった。虐められるのが嫌で外に逃げ出しても、ここ以外に帰れる場所もなくて、結局はここに戻るしかなかった。ここは私の牢獄だったんです。
まぁ、そんな場所も、ケイくんと出会ってからは私の家に変わったんですけどね。兄様達に虐められることもなくなって、ガゼナスさんの眼も気にならなくなってから、むしろ、誰にも邪魔されない、いい環境だと思えるようになったのもケイくんのおかげです。
この家も、これでも昔よりは見れるようにはなったんです。ケイくんに出会って、魔法を教えてもらって、いろんなことができるようになったから、自分で街の外から木材を伐ってきて雨漏りの酷い天井や隙間風だらけの壁を修理して・・・でも、ケイくんとカサリナちゃんには絶対に見せられない。使われなくなった動物小屋に住まわされてるなんて、惨めで格好悪過ぎるから。
ケイくんもカサリナちゃんもこんなことで私のことを悪く思ったりなんかしないのは分かってます。ケイくんは勿論だけど、カサリナちゃんもとっても優しくて、泣いてばかりの私の代わりにいつも怒ってくれる素敵な女の子だから。
出会ったばかりの頃はいつも私の為に怒ってくれてて、2人だけで遊んでたときは'あたしがルーシアを守ってあげるからねっ!!'って、イジメっ子達を追い払ってくれてました。気弱で泣き虫だった私は、そんな強くて優しいカサリナちゃんのおかげもあって、笑えるようになったんです。ケイくんが王子様なら、カサリナちゃんは私の騎士様です。こんなこと、絶対に本人には言えないですけどね。恥ずかしいですもん。
だから、これは単純に私の見栄です。大好きな人達に格好悪いところを、みっともないところを見られたくないっていう、ちっぽけな見栄。
「さて、と。あと17日だけだけど、見苦しくないくらいには仕上げなきゃ。《防壁:岩石》」
瞬時に組み上げた魔力構成と唱えた魔法の発動鍵に従って、掘っ建て小屋の四方を岩でできた分厚い壁が囲みました。
「もう1回っと。ここはちょっと丁寧にしないと・・《防壁:岩石》」
さっきより慎重に組み上げた魔力構成と、さっきと同じ発動鍵を口にすると、掘っ建て小屋を囲んだ壁の四方向それぞれから新しい岩壁が伸びてきて、その中央で交わるようにして天井ができました。イメージ通りにできたので、隙間1つナシです。おかげで真っ暗になっちゃいましたけど。
「床は・・・あとでいいかな。《斬撃:暴風》」
次は風の刃で岩壁を斬り抜いて、出入口と窓を作っていきます。
こんな感じで、私は今、自分の住む家を造っています。前から色々と考えてはいたんですけど、兄様に初めて正面から反抗したのをきっかけにして、自分の周りを変えられるだけ変えてみようと思ったんです。
・・・・ちょっぴりウソです。そういう気持ちがないわけでもないんですけど、今日はカサリナちゃんがケイくんとデートの日で、ケイくんがカサリナちゃんを家まで迎えに行くって言ってたんです。それで、私もお迎えしてほしいなぁって思って、でも、こんな掘っ建て小屋に住んでるなんて見られたくないから、急いで見た目だけでもって造ってるんです。住むだけなら、掘っ建て小屋で十分ですからね。ケイくんのおかげで雨漏りも隙間風も無くせましたし。
ケイくんだけが使える《創造》の魔法が使えたらよかったんですけどね~。そうしたら、もっと簡単に、もう少し可愛い見た目の家が造れたんですけど。
ふふ。こんな所に住まされてたなんて知ったら、カサリナちゃんはまた怒ってくれるんだろうなぁ。ケイくんは・・・意外と過激なところがあるから、ちょっぴり怖いかも。ジニランフ家が消えちゃう、とか十分に有り得そう。
うん。やっぱりこの家は見せられないです。そんなことになったら、魔法のことが他の上級貴族達にバレて余計な騒動になっちゃうかもしれませんから。戦場に着くまではできるだけ大人しくしておこうってケイくんが言ってましたもんね。
・・・・・・・あれ? '戦場に着くまでは'? 今頃気付きましたけど、ケイくん、戦場では自重ナシのおもいっきり大暴れするつもりなんじゃ・・・? スピカちゃんにまた大暴れする機会があるとか一緒に楽しもうとか言ってましたし・・・
・・・・・・・・うわぁ。とんでもないことになりそう。
そんなことを考えてる内に、家の改造が終わりました。
「なっ!? なんだ!? これは!?」
作業が終わったかと思ったら、驚いたような声が聞こえてきて、何の断りもなく、ガゼナスさんが入ってきました。
むぅ・・・女の子の家にまた断りもなく・・・
「ガゼナスさん。私の家に入るときは、必ず一言断りを入れるようにお願いした筈ですけど?」
「知るか!! ジニランフ家に仕える俺が、どうして出来損ないの貴様の指示に従わねばならん!! それより、これは何だ!? 何をした!?」
私の指摘に、激昂してそんなことを言うガゼナスさん。
う~ん・・・今までは騒ぎにならないようにって黙って流してましたけど、ケイくんが自重する気を無くしてるんなら、もういいかな? 兄様にも反抗したことですし、ガゼナスさんにも黙ってもらいましょうか。
「黙ってないで答えろ!! この出来ゾォっ!?」
ケイくんに否定してもらった言葉をまた繰り返そうとしたガゼナスさんのお腹に、私の爪先が深々と突き刺さりました。当然、《増強》済みの一撃です。強化ナシの私の肉体ランクはC-なので、そのままだと魔導生命体であるガゼナスさんには全く通用しませんからね。
《増強》を使ったときの私は、同じ魔法で強化したケイくんすら上回ります。勿論、何でもありの殺し合いになったりしたら、ケイくんに勝てる筈もないですけど。まぁ、そもそも、ケイくんと殺し合いなんて死んでも嫌ですし、有り得ないんですけどね。何かの間違いで、万が一、ケイくんと本気で戦わないといけなくなったりしたら、絶対に自殺しますし。いえ、それ以前に、ケイくんに殺意なんて向けられたらその瞬間にショック死します。考えたくもないです。
「ナ゛・・・」
ちょっぴり思考が逸れちゃいましたけど、そんな私の一撃を受けたガゼナスは大量に血を吐いて、有り得ないことが起きて、それが信じられないような顔でその場に倒れました。
あぁっ!? せっかく造った新しい床が汚れちゃった!? もう・・・後で水魔法で洗い流しておかないと。
「ガゼナスさん? これも以前に言いましたよね? 私を'出来損ない'なんて呼ばないでくださいって。私の名前はルーシアです」
それは、ケイくんが私にくれた救いの言葉。だから、それを汚すような言動も行動も絶対に許さない。
これまではケイくんに迷惑を掛けないように振る舞ってましたから、血を吐く思いでそれを受け流してましたけど。あ、でも、兄様に関しては、ケイくんが魔法の練度確認になるって言ってましたから、ケイくんの役に立ってる間は何を言われても何とも思いませんでしたね。最初の頃はケイくんのことが心配で堪りませんでしたけど。
でも、それももうおしまいです。今回の魔獣狩りで、ケイくんの力が実戦で十分に通用することが確認できましたし、戦場では自重ナシで実力を示していくつもりみたいですから。もうケイくんの言葉を汚す馬鹿な存在を見逃す理由はないですし、ケイくんの手を煩わせたりしません。
勿論、ケイくんがケイくんの力を大々的に公表するまでは見せびらかすような真似はしませんけどね。ケイくんの迷惑になるようなことは絶対にしたくないですから。
「聞こえましたか? ガゼナスさん?」
「ガハッゴフッ」
問いかけても、ただ血を吐いて咳き込むだけのガゼナスさん。
あぁ、また床を汚して・・・ハァ。同じ魔導生命体でも、セシリアさんとは大違いです。セシリアさんはいつでもケイくんのことを第一に考えていて、ケイくんの為に行動して、ケイくんの迷惑になるようなことはしないのに。まぁ、ガゼナスの主は私じゃないですから、その差なのかもしれ・・・・って、それだけな筈がないですよね。
セシリアさんは、魔導生命体としては有り得ないことですけど、ケイくんのことを愛してますから。それに、表情は分かりにくいですし、淡々とした喋り方をしますけど、実は凄く優しいんですもん。
主人でもない、むしろ、フォルティス家にとって警戒するべき一族であるジニランフ家に産まれてきた私にも優しくしてくれました。転んだときにはソッと手を差し伸べてくれて、ケイくんに伝えたいことがあってもなかなか言い出せなかった頃はそれを察して取り次いでくれて、皆でピクニックに行ったときには私の分まで美味しいお弁当を作ってくれてました。
・・・・・・・・だから、悔しいですけど。物凄く悔しいですけど!! ・・ケイくんがセシリアさんを1番好きなのは仕方ないと思うんです・・・だからって、いつまでも負けてるつもりなんかないですけどね!!
「ヴ、ア゛・・・」
ガゼナスさんの呻き声で、ハッと我に返りました。
い、いけないいけない。セシリアさんのことになると、ついつい思考に集中しちゃうんですよね。今はガゼナスさんの処理が先です。これ以上床を汚されたくないですからね。
「お返事がもらえないみたいですから、念の為にもう1回だけ言っておきますね? 私の名前はルーシアです。2度と出来損ないなんて呼び方はしないでください。次は殺します。あぁ、それと、私にやられたなんて言わない方がいいですよ? '[前兆の子]に一撃で倒された'なんて言ったら、気が狂ったと思われてきっと廃棄処分にされちゃいますから」
'別にあなたが廃棄処分になっても構わないんですけどね'という一言だけは言わずに、そのままガゼナスさんを外に投げ捨てました。それから、水魔法を使って汚れを洗い流して、ようやく一息つけました。
カサリナちゃん、デート楽しめてるかなぁ? 昨日はおもいっきりはしゃいじゃったから、照れちゃって逃げ回ったりしてなかったらいいんですけど。カサリナちゃんも意外に照れ屋さんですからね。デートの話を切り出したのはカサリナちゃんだし、カサリナちゃんは私の騎士様だから初デートの順番を譲りましたけど・・・失敗だったかなぁ? 時間を置かせてあげた方が落ち着けたかも・・・
ケイくんは女の子の扱いだけは慣れてないみたいですから、ケイくんに期待するのは酷かもしれませんし。前世を含めても私達が初めての恋人だって言ってましたから仕方ないのかもしれませんけど、少~しだけデリカシーが欠けてますしねぇ。
・・・・・・・その方がいいんですけどね。それくらいの欠点がないと、普段が頼りになって格好良くて堪らないんですから、照れさせられっぱなしで顔が見れなくなっちゃいそうですから。
カサリナちゃん、頑張って!! 私も初デート、頑張るからっ!!
◇
その翌早朝。まだ辺りが薄暗い時間に目が覚めてしまいました。昨日、最初はカサリナちゃんを心配したり応援したりする余裕があったんですけど、時間が経つに連れて、初デートのことを考えると胸がドキドキしてきて、全然落ち着けなくなっちゃいました。おかげで、昨日はほとんど眠れてなかったり・・・
隈なんてできてないですよね? 初デートで隈だらけの顔なんて、一生後悔し続けますよ・・・
私の家には鏡なんてないですから、手製の桶に張った水で即席の水面鏡を作って確認です。幸い、隈ができてたり寝不足っぽい顔もしてないです。
よかった。あとはケイくんが来るのを待つだけですね。なんだかやらなくちゃいけないことがあるから、昼過ぎに迎えにきてもらえるって話でしたよね。だったら、時間は十分にあります。とにかく、この胸のドキドキをどうにかしないと、デート中にケイくんの顔が見れなくなっちゃいそうです。少しだけでも落ち着かないと。
◇
それから、深呼吸をしてみたり、軽く体を動かしてみたり、お料理をして意識を逸らそうとしてみたりと、色々と試してみたんですけど・・・・
ぜ、全然効果がないですよぉ・・むしろ、ドキドキが激しくなっちゃってるぅ・・・
全身を包む高揚感のせいで少しも落ち着けなくて、手製のベッドの上で手作りの枕を抱き締めてゴロゴロバタバタしてると、
「ルーシア~。お待たせ~」
愛しい愛しい魔族の声が聞こえてきました。聞き間違える筈もない、愛するケイくんの声です。その声が聞こえた瞬間に、私は反射的にベッドから昨日造ったばかりの出入口へと駆け出しました。
「おっ、おはようございますっ。え? あれ? こ、こんにちは?」
ケイくんの顔を見た途端に胸がさらに暴れ出してきて、いきなりいっぱいいっぱいです。それに、顔どころか、全身が熱いです。
「まだ昼にはなってないし、'おはよう'でいいんじゃないか? っつーか、まずは落ち着け」
「はっ、はいっ」
柔らかい苦笑を浮かべながらそう言ってくれるケイくんに、上擦った声で返事をする私。
あぅぅ~・・・あ、頭の中がグルグルしてて、全然落ち着けないですよぉ。ケイくんったら、今日もやっぱり素敵過ぎるぅ・・
「相変わらず照れ屋だな、ルーシアは」
そう言って、私の頭を撫でてくれるケイくん。
あぁ、ダメですよぅ・・・いきなり蕩けちゃいそう・・・
◇
それからの時間は全部が夢見心地で、ずっとふわふわした綿の上を歩いてるみたいな感覚でした。考えてみれば当たり前だったんです。だって、ケイくんと完全に2人きりになるなんて、帰り道を送ってもらっていた頃のほんの少しの時間の間だけ。それも、15歳になるまでだけだったから、3年ぶりの2人きりだったんです。
そんなの、浮かれるなって言う方が無理な話です。
だから、デート中にずっとおもいっきりケイくんの腕に抱きついたままで歩いてたことも、夕食のときに'あ~ん'なんてやっちゃったことも、《転位》で移動してスピカを呼び出して、夕暮れの空を飛んでいた間に思わずキスしちゃったことも、全部仕方ないんです!! むしろ、ケイくんが悪いんです!! 態々デートプランを練ってくれて、ケイくんから手を繋いでくれたり、照れて赤くなってくれたり、スピカの背中に乗るときにお姫様抱っこしてくれたりされたら、おかしくなっちゃうのが当たり前なんですからっ!!
そんな'幸せ'って言葉じゃ全然足りないくらいに幸せ過ぎるデートの帰り道。ケイくんが照れ臭そうな顔で口を開きました。
「ルーシアって、照れ屋な癖に積極的だよな。でも、可愛過ぎて俺が挙動不審になりそうだから、俺がもうちょっと慣れるまで抑えてくれると有難いかなぁとか思うんですが」
「えっと・・・・それってつまり、もう押し倒してもいいってことですか?」
「会話のキャッチボールしようか!? どこをどう解釈してそういう結論が出た!? っつーか、それは男と女の役割逆!!」
「おっ、押し倒してもらえるんですかっ?」
「台詞の最後だけ拾わないでくれる!? どんだけ高性能に都合がいい耳してんだよ!?」
「え? 違うんですか? だ、だって、もうケイくんのことが大好き過ぎておかしくなっちゃってるのに、か、'可愛過ぎて'なんて言われたら・・・抑えるどころか、加速しちゃいますよね?」
「いや、そんな'それが当然の理'みたいな顔して言うな。俺でもおかしいって分かるレベルにおかしいからな? その理屈は」
「どこがですか?」
何がおかしいんでしょうか? 本気でサッパリです。押し倒すときの役割が逆というのは分かるんですけど。だって、ケイくんに優しくしてもらうのも嬉しいですけど、ご、強引に迫られるのもそれはそれで・・・
「い、いや、あのな? 長い付き合いではあるけど、恋人になってからはまだ3日目で、しかも、今日がルーシアとの初デートだろ? 些かどころか、ぶっ飛ばし過ぎだと思わんのか」
「は、恥ずかしいですけど、ケイくんにならいつでもっ」
全身から火が噴き出しそうなくらいに熱くなりながらそう答えると、ケイくんも真っ赤になって目を逸らしちゃいました。
「・・・参った。だから、マジでちょっと抑えて。今世の体はまだ若いせいか、色々と暴走しそうで怖い。肉体に精神がおもいっきり引っ張られてんなぁ・・・」
「え、えっと・・ケ、ケイくんは私と、その・・・そういうことをするのは嫌、ですか?」
一抹の不安が胸を過ります。でも、明らかに照れた様子のケイくんを見てると、それが杞憂なんだろうなとも思わせてくれます。
「嫌だったら抑えてもらわなくても平気だっての。なんつーか・・・度胸がね? 前世と合わせて、40年以上独り身やってたワケなんだよな、俺は。んで、それ故のヘタレっぷりが全開状態になってんだよ。でも、勢いでとか済ませたくないし。分かる?」
「え~っと・・・・・慣れてきたら、その、お、押し倒してもらえるってことですか?」
「んん、まぁ、そうなる、か。だから、ゆっくり頼むよ」
「はいっ」
ケイくんの出してくれた肯定の言葉で、ちょっぴり芽生えた不安が根刮ぎなくなって、勢いよくそう返事をしちゃいました。
それから、ケイくんに家まで送ってもらいました。火照った体と心が少しずつ普段の状態に戻っていって・・・・
おっ、押し倒してもらうのをおねだりしちゃったぁぁぁぁぁっ!? はっ、はしたないですっ!! 恥ずかしいですっ!! あぅあぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・う、浮かれ過ぎて本当に完全におかしくなっちゃってたよぅ・・・恥ずかしくて死んじゃいそう・・・もっ、勿論、いつかはケイくんとそういうこともしたいですよ? したいですけど、ケイくんの言う通り、まだ恋人になれたばかりなのにぃ~・・・'ぶっ飛び過ぎ'って言われて当然ですよぅ・・・
でも・・・気のせいじゃなかったら、ケイくんも嬉しそうにしてくれてましたよね? 慣れてから、かぁ・・・・は、恥ずかしいですけど、普段からもう少し大胆になって、早く慣れてもらえれば・・・・
そんなことを考えて、記念すべき初デートの夜を1人ベッドの上をバタバタゴロゴロしながら、幸せな未来に想いを馳せて過ごしちゃいました。
もうすぐ戦場に向かうことになりますけど、そんなのどうだっていいです。ケイくんがいれば、そこが私の居場所で、それが私の幸せなんですから。
でも・・・・戦場に行くまでの間でまたデートしたいです。今度は、私から誘って・・・
ルーシアは主人公とカサリナ、セシリアの3人以外には関心も興味も全くありません。過酷な環境から救い出してくれて、不幸に抗う力を与えてくれた主人公達が自分にとっての総てとなった為に、他人への対応の判断基準が'主人公達の邪魔か否か'に集約されてしまっているからです。
その為、自分を過酷な状況に追い込んだ者達への復讐心などは皆無です。なので、ガゼナスへの反応にそういった感情は微塵も含まれていません。ルーシアが語っていた通り、主人公からかけてもらった救いの言葉を否定されたからというだけなのです。ルーシアにとっては何よりも大切なモノですから。
蛇足な話
他部族であるルーシアの家を訪ねた主人公は、正門からは入っていません。入れません。部族間での対立がありますから。事前にルーシアから教えられていた場所から塀を飛び越えての不法侵入だったりします。なので、デートに出発するのも、2人揃って塀を飛び越えて外に出てたりします。
住居の外観や迎えにきてもらう際のこういった手間の問題は重々承知の上で、主人公のお迎えを熱望したルーシアなのでした。
お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。




