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魔族転生  作者: 桃源郷
第二章 青年期
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閑話 ~それぞれの想い・カサリナ編 1~

カサリナ視点の閑話です。主人公とカサリナの出会いを簡潔に纏めた思い出から、第二章第十一部の後までを詰め込みました。


どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。

あたしには好きな、ううん、大好きな魔族がいる。小さな頃に出会った、他の魔族とは全然違う変わった魔族。







声を掛けてくれたのはあいつから。

「どうした? 何泣いてるんだ?」

そう言って、慰めるみたいに頭を撫でてくれた。他の魔族だったら弱い者扱いするなって怒るところだけど、あたしはその優しい声と優しく頭を撫でてもらったことが素直に嬉しかった。


そういう感性の違いがあたしがイジメられていた原因。親からも'魔族としての誇りを持ちなさい'ってよく叱られていたあたしの性格。


でも、あいつは、ケイだけはあたしのそういうところを認めてくれた。

「アホらしい。何でもかんでも噛み付けばいいってモンでもなかろうに。君は十分に強いよ。馬鹿にされてもイジメられても、自分の気持ちに正直になれてるんだから」

そう言ってもらえて、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。自分でも自分がおかしいんじゃないかって、自信が無くなってきてたから。



一頻り泣いてから、自己紹介をして、友達になろうってあたしから言い出した。ケイも喧嘩ばっかりの他の魔族の子達に嫌気が差してたらしくって、喜んで受け入れてくれた。あたしも凄く嬉しくて、一緒に遊んでる時間が楽し過ぎて、顔を合わせた日はあっという間1日が終わってた。


でも、ケイはあんまり外に出ない子で、2日か3日置きにしか遊んでくれなくて、それだけが不満だった。


ある日、ケイと遊んでたら、あたしをイジメてた奴らが絡んできた。弱虫なあたしと一緒にいるケイのことまで馬鹿にされて、物凄く腹が立った。なのに、ケイは笑いながら、

「いいね。お前ら。こういうクソガキになら、どんなやり返しをしても心が痛まないから助かる。新作魔法の実験台になってもらおうか」

そんなことを言った。


今思い返してみたら、あの笑顔は物凄く怒ってたから出てきた笑顔だったんだと思う。メチャクチャ怖かったんだもん。


そこからは驚きの連続。いきなりイジメっ子達の服から物凄い数の虫が出てきたり、それに大慌てになったイジメっ子達の足下にいきなり穴が空いてイジメっ子達が落ちてったり、そこにどこからか穴いっぱいになるくらいの数の虫が降ってきたり・・・ワケが分からなくて、あたしはキョトンとしてたと思う。


だって、意味不明でしょ? ケイの魔法のことを知らなかったら、今でも絶対に大混乱よ。


それから、穴から這い出たイジメっ子達は、全身を虫だらけにしながら泣いて逃げていっちゃった。何がなんだか分かんなかったけど、それを見たあたしは大笑い。だって、'自分は強いんだ! だから言うことを聞け!'とか偉そうに言ってた奴らが、虫にビックリして泣きながら逃げてくんだもん。あんな奴らの言うことに傷付いて、メソメソしてたのが馬鹿馬鹿しくなっちゃったのよね。


・・・今思ったら、アレは泣いても仕方ないと思うけどね。あんな数のタッバにいきなり集られたら、間違いなく今でもパニックになっちゃうわよ。そう考えたら、ケイってば昔っから容赦ナシだったのよね~・・・・まぁ、そういうトコも好きなんだけど。


それからもケイとは外で会う度に一緒に1日中遊んだ。同い年なのに難しい言葉を普通に使って、いろんな考え方を持ってたケイに、あたしはいつでもいろんな質問をしてた。その度に、あたしの世界が広がってくような気がしてた。それまでと同じものを見ても、同じ事を言い聞かされても、見え方も捉え方も変わってきてた。段々と、誰に何を言われても、落ち込んだり悲しくなったりすることがなくなっていってた。


自分はこれでもいいんだって思えるようになってきてたからなんだと思う。だって、誰よりも変わってて、他の誰も言わないようなことを、他の誰も認めないことでも、ケイは全然気にしてなくて堂々としてたから。


ケイのことが好きだってハッキリ自覚したのはいつのことだったのかは全然分かんない。最初はただの友達、遊び相手としか思ってなかった、と思う。多分。


あ~、でも、セシリアにはしょっちゅう嫉妬してたしなぁ。やっぱり最初から好きだったのかも。ルーシアが友達になってからは、ルーシアにも軽くヤキモチ焼いてたし。


とにかく、いつからかはハッキリ分かんないけど、大きくなるにつれて、ケイのことが好きって気持ちもドンドンおっきくなっていった。親にお見合いさせられたこともあったけど、ケイより素敵な魔族なんていなかった。あたしの目にはずっとケイしか映ってなかった。

たまにケイが遠くを見るみたいな目をするのが、凄く不安になった。すぐにいつも通りになっちゃうから、どうやって聞けばいいのかも分かんなかったけど。ううん。違う。それを聞いちゃったら、ケイがどこかにいなくなっちゃうんじゃないかって、怖くて聞けなかった。


だから、ケイがいなくなったりしないように、ずっとケイの傍にいられるように、ケイのすることは何でも一緒にやった。ケイが魔法の研究でまた引きこもりたいとか言ってきたときは、泣き喚いてイヤだって言ってやった。強くなって馬鹿にされたりしないようになりたいからって始めた魔法の練習が、いつの間にかケイと一緒にいたいからって理由に変わってた。ケイの15歳の誕生日のときに、ルーシアと2人だけで作った料理とケーキを美味しいって言って喜んでくれたときは、泣いちゃいそうなくらいに嬉しかった。ケイが傍にいるだけで幸せでいっぱいだった。


ちょっとデリカシーが足りなさ過ぎて怒ることはあったけど。

だって、もっと女の子っぽくしてたらモテそうだとか、お見合いを断ったら'もったいない'って言ってきたりとか、安全なトコで幸せになってほしいとか、好きな相手に言われたらショックじゃない? 女の子として見てもらえてないみたいで・・・


だから、魔獣狩りに出た日に、セシリアの様子がいつもと違って見えたときは悲しくて寂しくて気が狂いそうになった。嫉妬で頭が埋め尽くされた。


その後は、もう完全にあたしの気持ちがバレちゃって、死ぬ程恥ずかしかったけど。ケイが真っ赤になったりしてくれるから、余計に。


スピカをペットにして、初めて空を飛んだときのケイは凄く可愛かった。あんなにはしゃいでるケイなんか初めて見たんだもん。もう10年以上一緒にいるのに、またケイの新しい顔を見つけられて、益々好きになっちゃった。


ズルイのよ、あんなの。いつも大人っぽくて落ち着いてて、1人で何でもできちゃう癖に、子どもみたいに無邪気にはしゃいじゃってさ。それなのに、あたしがよろけたらちゃんと抱き止めてくれて・・・そういう優しいところは変わんないんだもん。


街に戻って、夕方にまた皆で集まった後はもう頭の中がグチャグチャになってた。またジェイスが絡んできたりしてたけど、もうそんなのどうでもよかった。

だって・・・セシリアが凄く幸せそうに、嬉しそうに、ハッキリと分かるくらいの笑顔になってたから・・・それで、ケイも、どことなく嬉しそうにしてるように見えたから・・・


ケイがセシリアのことを好きなのは昔から分かってた。他の誰にも向けない顔を、セシリアだけには向けるから。あたしには向けてくれない、困ったみたいな、でも、嬉しそうな顔を。


そんな感情が爆発しちゃって、もう絶対に嫌われたと思った。


・・・・全然逆の結果になっちゃったけど。まさかケイもあたしのこと、好きでいてくれてるなんて思ってもみなかった。嬉しくて嬉しくて、どうにかなっちゃいそうだった。セシリアといっぱいキスしたって聞かされてやっぱりちょっと悔しかったけど。でも、やっぱりケイと恋人同士になれたのが嬉し過ぎて、もう前みたいに頭の中がグチャグチャになったりなんかしなかった。


むしろ、浮かれ過ぎて、ルーシアの言ってたことをついポロッと溢しちゃったわよ。ルーシアもおもいっきり浮かれてたみたいで、そこからはお互いに照れながら、恥ずかしがりながらの暴露のし合いになっちゃった。







・・・・・でも、ちょっと落ち着いて考えてみたら、アレってただの惚気よね・・しかも、本人の前でとか・・・・完全に浮かれ過ぎてテンションおかしくなっちゃってたのよぉぉぉぉぉっ!! どぉしよぉぉぉぉぉぉっ!? どんな顔してケイに会えばいいの!? 恥ずかしくて死んじゃうぅぅぅぅぅぅぅっ!!


ケイと恋人同士になれて、デートの約束もして、恥ずかしいけど、それ以上の浮かれ気分のままに帰ってきてから、なかなか眠れなかった夜が明けて。ほんのちょっとだけ冷静になったあたしは、ベッドの上で枕を抱えて転げ回っていた。理由はこの心の叫びの通り。


ホントにどうしよ!? どうしたらいい!? あたしが言い出したからって、ルーシアがデートの順番を譲ってくれたけど、これなら2番目の方がよかったかも!? どっちにしても絶対にこんな感じになってるけど!! ケイは昼までには迎えにいくとか言ってたし!! 何かしなくちゃいけないことがあるとか言ってたけど、その用事が長引いたりしないかな!?



あ、でも・・・それだとデートの時間が短くなっちゃうから、やっぱりソレはナシで。



と、とにかく、準備だけはしとかなくちゃ。ど、どんなカッコしたらいいんだろ? 小さい頃は何回も2人で遊んでたし、ルーシアとセシリアも一緒に4人で魔法とか戦闘の訓練はしてたし、その後にブラブラ散歩したりとかご飯食べに行ったりとかもしてたけど、は、初デートだもんね。や、やっぱり可愛い格好? で、でも、いつもと違い過ぎても狙い過ぎみたいでダメかもしんないし・・・お見合いのときに着せられたドレス? うぅ~、何かソレはヤダなぁ。綺麗なドレスだったけど、他の魔族に見せる為に買われた服なんか、ケイの前で着たくないし・・・いつも通りも、なんだかなぁ・・・いつもちょっとでも可愛く見えるように気合いは入れてたけど、初デートなんだし・・・・・ちょ、ちょっとだけ大胆にいってみよっかな? ケイに女の子として見てほしくて買ってみたけど、結局、恥ずかしくて今まで着れてないのがいくつかあった筈・・・こ、恋人同士になったんだったら、それくらいいいわよね?


そんなことを考えながら、あれこれとクローゼットから服を引っ張り出して、なんとか着ていく服を決めて、準備を終わらせた。そこに、うちの魔導生命体のガイナがあたしを呼びにきた。

「カサリナ様。フォルティス家の方がお見えです」

そう言われた途端、あたしの顔は火を噴き出しそうなくらいに熱くなった。

「え、あ、ちょ、ちょっと待って」

ガイナの言葉にそう答えるのがやっと。


どうしよぉぉぉぉぉっ!? もう来ちゃったじゃない!! ケ、ケイだけよね? どんな顔すればいいのよぉ・・


そんな風に1人でワタワタしてたら、

「よ。迎えにきたぞ」

開かれた扉から、ひょこっとケイが顔を出した。

「え?・・・・・・っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

状況をすぐに理解できなくて、理解できた途端にあたしの口から悲鳴が飛び出したその場に踞って顔を隠しちゃった。

「を、おぉ・・予想以上の音量が・・・」

「なっ、なんっ、なんでぇ!?」

「いや、カサリナのことだから、朝になって冷静になったら、昨日のことが恥ずかしくなって出てこないんじゃないかと思ってな」

「カサリナ様。お引き取り願いますか?」

「ダッ、ダメ!! ガイナはもういいから!!」

「かしこまりました。失礼致します」

とんでもないことを言い出したガイナに、反射的に立ち上がって追い払った。


せっかく来てくれたのに帰らせるとか有り得ないわよ!! ホント、こういうトコはセシリアと大違いなんだから!! セシリアはいつだってホントにケイの為に、ケイのことを考えてるのに!!


そんな風に、同じ魔導生命体なのに、主に対しての気遣いとかそういう面に関してのセシリアとの違いを改めて実感してたら、ケイと目が合った。途端に、あたしの顔が耳まで一気に熱くなっちゃって、顔を俯かせちゃう。


うぅ~・・・か、顔が見れないよぉ・・・


「あ~、ん~・・・よし」

ケイの何かに迷ってる声が聞こえたかと思ったら、何かにギュッと抱き締められた。

「・・ふぇ?」

顔を上げると、至近距離に真っ赤になってるケイの顔。


ケイに抱き締められた・・・?


それが分かった途端に、胸が暴れ出した。


胸の音がうるさいくらいに凄い。絶対にケイに聞こえちゃってる。でも・・・


ケイってあったかい・・・腕も硬くて見た目より太いのよね・・・胸板もガッシリしてて・・・やっぱり鍛えてるからなのかなぁ・・・あ、ダメだ、これ・・・蕩けちゃってる・・・ドキドキが凄いのに、もう離れらんないよ・・・


「お~い。カサリナ? カサリナ~?」

「はぇ?」

「いやあの・・・なんだ。照れ臭いなんてモンじゃないから、そういう顔してじっと見つめないでくれる?」

「むりぃ・・・頭がボ~っとしゅるのぉ」

「ちょ、え、あ、カサリムグッ」

気が付いたら、ケイとの距離がゼロになってた。


ケイの唇の感触・・あったかい・・・気持ちいい・・・もう全身熔けてくみたい・・・


「い、いきなり・・・ひ、必死で練ったデートプランが・・お前なぁぁぁぁぁ・・・」

「えへへぇ・・キス、しちゃったぁ・・・? キ、ス・・・? あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

今度は顔から首筋まで燃えたみたいに一気に熱くなった。

「ケッ、ケイのせいだからね!? いきなり抱き締めたりするからぁっ!!」

「ちょっ!? 何その理不尽!?」

「だって、ワケ分かんなくなっちゃったんだもん!! いきなりギュッてしてくれたりするからっ!! ずっとこんな風にしてもらいたかったのに、これまで全然してくんなかった癖にっ!!」

「付き合う前にこれはないだろ!? っつーか、俺にできるワケないだろが!!」

「ルーシアにはしたもん!! 転位魔法で暗殺的などうこうとかって言って!!」

「へ?・・・あっ!? アレはそういうんじゃないだろ!? 後ろから首をカッ切る動きだっただろうが!!」

「でも、後ろからギュッて感じになってたもん!! ルーシアなんか喜び過ぎて倒れちゃってたじゃない!!」

「アレ、喜んで倒れてたのか!?」

「しかも、セシリアにはそういうのいっつもしてるって言ってたし!!」

「魔法の実験に託つけてセクハラしてたみたいな言い方しないでくれる!? 《増強(エンハンスメント)》と《転位(ディスロケーション)》以外は接触そのものがなかったっての!!」

「転位魔法のときはまたセシリアとだけイチャイチャしてたんじゃない!!」

「してねぇぇぇぇぇっ!! 手を繋いで転位しただけだっての!!」

「ホラァッ!! 手、繋いだんじゃないのよ!! あたしだってケイと手を繋いだりギュッて抱き締められたりキスしたりしたいもん!!」

「いやまぁ、その・・・俺もそりゃ、そうしたいと言うか・・・っつーか、ちょっと落ち着け?」

そう言って、ケイがあたしを離そうとするから、おもいっきり抱き締めてしがみついてやった。

「って、力強っ!? どんだけおもいっきり抱き締めてくれてんの!?」

「離れたくないんだもん!! 今日はもうここでずっとイチャイチャするのっ!!」

「ここで!? 初デートなのに!? 外出ないのか!?」

「出ない!!・・・出たくないよ。ずっとくっついてたいもん」

そう言うと、ケイがあの顔をあたしに向けてくれた。セシリアにしか向けなかった、あの困ったみたいな、でも嬉しそうな顔を。

「分かったよ。ったく・・・人が必死で考えたデートプランを出だしからブッ潰してくれやがって。やたらと可愛らしいから文句も言えないし・・・」

そう言ってケイは、いきなりお姫様抱っこで抱き上げてくれた。

「ひゃっ!?」

「でも、カサリナの部屋とか、限りなく落ち着かないから場所だけは変えるぞ。親父さんとかお袋さんとかが来たら、気まずいなんてモンじゃないし、ぶっちゃけた話、親父さんが怖ぇ」

「と、父様が? なんで?」

「娘の父親は怖いってのが俺の前世からのイメージなんだよ。《転位(ディスロケーション)》」

そう言って、どこに行くのかも言わないまま、ケイが転位魔法を発動させた。


で、次に目を開けたら、街が下に広がってた。

「えぇぇぇぇっ!? こっ、ここって、魔皇樹の頂上!?」

「おう。今日のデートプランの最終到着地、の予定だったトコだ」


魔皇樹。

幹がかなり急な坂みたいな感じの螺旋状に伸びる樹で、あちこちで枝同士が絡まり合って楕円形になってて、その中にはこの樹の種が作られてる。その種が物凄く美味しくて、平民貴族に関係なく、街の人のおやつになってたりするのよね。この樹は街のあちこちに生えてて、街の外にはあんまり生えてない。多分、魔物に食べられちゃって、そのときに折られたりするからだと思う。

で、街の真ん中にはメチャクチャおっきな魔皇樹が生えてる。もう何千年も前からあるらしくて、街のシンボルにもなってる。大き過ぎて、人が普通に登れちゃうくらい。楕円形になってる種枝なんか、あたしをお姫様抱っこしてるケイが普通に立ってられるくらいに広い。高いトコまで登れば景色もいいから、デートスポットにもなってるんだけど・・・


「頂上まで登る魔族なんかいないわよ・・・メチャクチャ高いから地味にしんどいし・・・見てよ。屋敷が掌サイズよ?」

「でも、いつか頂上に来てみたかったんだろ?」

ケイの言葉に、あたしは目を見開いてしまう。

「約束したからな。いつか連れていってやるって。カサリナが疲れて歩けなくなっても、俺が引っ張っていってやるってな。まぁ、転位魔法っていう反則技を覚えたから、引っ張ってやる必要はなくなったけどな」

「・・覚えて、くれてたんだ・・・・あんな約束・・・」

嬉しくて、嬉し過ぎて、ポロポロと涙が溢れてきちゃう。

「・・まだ、2人だけの頃、だったよね・・・探索ごっこで・・・」

「ああ。街のあっちこっちを歩き回って、いろんな物を見つけてははしゃいでたよな。んで、この樹の麓の種枝の所で、いつか2人で頂上まで登ろうって約束したんだったよな」

「うん・・・うんっ」

「そーいや、頂上でカッコいい男の子に告白してもらって~とかってのも言ってたな。まぁ、その夢はッ!?」

余計なことを言おうとするケイの唇をあたしの唇で塞いでやる。


まったく。いい雰囲気なのにからかおうとするとか、こういうトコがデリカシーに欠けるって言うのよ。

まぁ・・・・ケイらしくて、そういうところも好きなんだけどね。


「そうよ。叶っちゃったわよ。大好きな人にお姫様抱っこで連れてきてもらっちゃって、キスまでしちゃって、言ってたのとはちょっと違う形だけど、言ってたのよりずっと素敵な形で叶っちゃったわよ。文句ある?」

頬がゆるゆるになっちゃってるのを自覚しながら、頑張って睨みながらそう言ってやると、ケイは真っ赤になりながら目を逸らしちゃった。

「い、いや、'叶わなくなったな'って言うつもりだったんだけど・・・」

「へ?」

「・・・・カサリナ。お前、絶対に男の趣味がおかしいからな?」

「まぁ、そんな気はしてるのよね~。母様が連れてくるお見合い相手って、周りじゃカッコいいって評判の魔族ばっかりだったらしいのに、全然そんな風に思わなかったんだもん」

呆れ顔で、でも、ちょっと嬉しそうに言うケイに、そう言って頬っぺたにキスしてやった。





それから、魔皇樹の種枝の上で、ケイにお姫様抱っこ状態のままで座ってもらって、暗くなってくるまでずぅ~~っと、キスしたりキスされたりイチャイチャしまくってた。軽口を叩き合いながらっていういつもと同じようなノリなんだけど、いつもよりずっと幸せで、初めて甘い空気が流れてて、いつもよりずっともっと楽しくて、あたしの頭の中も心も蕩け切っちゃった。


こんな幸せいっぱいの初デートなんかしたら、絶対にまたしたくなっちゃうわよね。ルーシアとセシリアとのデートもあるけど、出発までにできるだけまたデートしたいなぁ。次も、その次も、魔皇樹の頂上でお姫様抱っこしてもらいながら、いっぱいいっぱいキスしたい。また蕩けるくらいにキスしてほしいな。それに、戦場から帰ってきてからも。








・・・・戦場に行ってから帰ってくるまでデートナシなんか、我慢できるのかしら? あたし・・・

カサリナの可愛らしさが伝わっていればいいなぁと思うカサリナ編でした。



補足:作中の'タッバ'というのは、【友人とやり返しと銀髪少女】にて主人公が語っていたバッタみたいな虫のことです。



お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。

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