暴走告白とお説教と未来の為の決意
ハイライトが消えた瞳のカサリナとルーシアに連行された主人公の運命や如何に!?
第二章 青年期 第十一部の開幕です。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
カサリナとルーシアに両腕をガッチリと拘束された俺は、そのまま近くの酒場の個室に連行された。セシリアがオロオロとしながらついてきてたけど、地雷を全力で踏み抜きかねないセシリアにはとりあえず口を噤んでもらっておいた。
ごめん、セシリア。ド直球で'キスしまくってました'なんて言ったら、マジで怖いんです。
「でぇ? ケ~イィ? セシリアはどうしてこんなに嬉しそうで幸せそうなのかしらぁ?」
をふぅ・・質問がド直球でキタ・・・
「クスクスクス。私達には帰ってからって言ってたのに、セシリアさんとは一体何をしていたんでしょうねぇ?」
いやあの・・・すんません、その件が完全に意識から消えてました。セシリアがどうこうじゃなくて、そういう方向に意識が向かってくれないんです。
「ケイくぅん? だんまりなんて酷いですよぉ。それとも・・・言えないようなことをしていたんですかぁ?」
「い、いや、待て。とりあえずは冷静に話をしよう。な?」
「あたし達はレーセーよぉ? ね~ぇ~?」
「クスクスクス。そうですよぉ。変なことを言うケイくんですねぇ」
絶対に冷静じゃないよな!? 目からハイライト消えてるし!! なんか背後に般若が見えるし!! 笑ってるけど、目が全く笑ってないし!!
「お話し、聞かせてくれますよねぇ? ケ・イ・く・ん?」
「あ、あぁ~、うん。誤魔化すつもりはないけど・・・」
これは話の順番を間違えたら炎上するヤツだ!! 前世のクレーム案件と同じだ!! 話の流れの持っていき方を間違えたら、本気でマズイ!! クレーム案件とは危機感が全然違うけど!!
「そ、その前にだな、カサリナとルーシアへの返事をしなきゃと思うんだけど」
俺の言葉に、カサリナとルーシアの表情が引き攣った。
え!? ナニ!? この話を選択したの、間違い!? でも、ここまで言ったらもう引き下がれないし!! どこかにリセットボタンとかない!?
「・・・ヤダ」
「カサリナ?」
「そんなの聞きたくない・・聞かなくっても分かるもん!! どうせケイはセシリアが好きなんでしょ!?」
涙をポロポロと溢しながら叫ぶカサリナ。
「あたしのことはいっつも子ども扱いだもん!! 女の子としてなんて見てくれてないもん!!」
「ま、待て待て待て待てっ!? マジで待って!? いや、確かに昔はそうだったかもしれないけど、カサリナのことも好きだぞ!? 女の子として!!」
「ウソっ!! セシリアとばっかりイチャイチャしてたもん!!」
「十分にカサリナともしてたと思うんだけど!? アレ以上とか、俺のキャパ完全に越えるわ!! 前世での28年間、女っ気皆無だった俺の耐性の無さを舐めんなよ!? 告ってからむやみやたらと可愛らしくなりやがって!! ドギマギしっ放しだっての!!」
「え・・・」
「普段は元気ハツラツ過ぎて女の子っぽさが薄れてる癖に、噛みながら告白とかあざといっての!! 俺なんぞ相手にモジモジしながら赤くなるとか、想定外もいいトコだぞ!? 馬鹿みたいに可愛くなってる癖に!! ルーシアも普段は控えめな癖にグイグイ来るし!! 照れながら積極的とか、俺を悶え殺す気かっての!! 自分がメチャメチャ綺麗になってることに自覚ないだろ!? お前らくらい可愛かったら、別の男見つけてさよならされるとずっと思ってたっての!! 彼氏なんぞ紹介されたら真剣に落ち込むって思ってたんだぞ!? 可愛くて人の為に真剣に怒れるような優しいお前を奪られてたまるかって何回も思ったわ!! 綺麗で強いのに争い事を嫌って穏やかに笑ってるお前の隣をいつか奪われると思ったら堪らんかったっての!! 魔族のイケメン度は異常に高いし、今世でも並な自分のルックスをどんだけ呪ったと思ってんだ!? せめて強くなろうと思っても、お前もルーシアもアッサリと俺より圧倒的に強くなりやがって!! 魔族の男としての基準が悉くアウトじゃねぇか!! 口説く度胸も出ないっての!!」
俺の魂からの叫びが終わると、カサリナもルーシアも耳まで真っ赤になって俯いてしまっていた。
・・・・・あれ? 俺、今、何を口にした? 勢いでとんでもなく情けなくて恥ずかしいこと言ってませんでしたか!? 支離滅裂だったような気もするし!!
「あ、あたしは、その、ケ、ケイ以外の人なんかに目を向けたことなんかないし・・・ず、ず、ずっとケイだけ、だもん」
「そ、そそそそそ、そんな風に、その、思ってもらえてたなんて、えと、その・・・ケイくんより素敵な人なんて想像もできない、ですよ?」
「ちょい待ち。今のナシ。勢いで言わなくていいことまで言った気がする。一旦忘れよう?」
「え、ヤダ」「無理です」
「忘れてくれぇぇぇぇぇっ!! 返事と言うか告白と言うか、そういうのにしちゃカッコ悪過ぎだろ!?」
「全然格好悪くなんてないですよ。その、ケイくんがそんな風に想っててくれたって、えと、その・・・凄く、嬉しいです」
「う、うん」
ルーシアの言葉に頷くカサリナの照れ臭そうな様子に、ガックリと肩を落としてしまう。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・セシリアのときも勢い任せだったし、今回に至っちゃ完全に暴走ぢゃねぇか・・・締まらねぇぇぇぇぇぇっ!!
「えへへ。そっか。ちゃんと女の子として見てくれてたんだ」
「ふふふふふ。どうしよう、嬉し過ぎておかしくなっちゃいそうですよぅ」
ニマニマと頬を緩めまくるカサリナとルーシア。そんな2人を見て、軽く溜め息が洩れてしまった。
こんなのでも喜んでくれるんなら、それでいい・・のか? セシリアのときも、半暴走みたいな感じの勢い任せだったけど、喜んでくれてるし、これで間違っちゃいないんだよな? くそぅ、'ごめんなさい'以外の反応だとサッパリ分からん・・・もっとカッコよく、いや、せめて普通に告白したかったんだけどなぁ・・・
「あ~、なんだ、その・・・これからは恋人としてもよろしくな」
「うっ、うん!!」「はっ、はいっ!!」
カサリナとルーシアが物凄く嬉しそうにそう返事をしてくれると、俺の服の裾がギュッと握られる。その感触に視線をセシリアに向けると、セシリアが悲しげに俺を見つめていた。
「セシリア?」
「ご主人様・・・」
「ど、どうした?」
「・・・カサリナさんとルーシアさんがご主人様の恋人に・・なるんです、よね?」
「そ、そうだな。返事と言うか、改めて告白してオッケーもらったワケだし」
「・・・あの・・その・・・・・・・」
何をどう言っていいのか分からないといった様子のセシリアに、首を傾げてしまう。
ど、どうしたんだ? カサリナ達が恋人になるのが嫌ってワケでもなさそうだけど・・・・あ・・・
「ご、ごめん、セシリア。愛してるとしか言ってなかったよな。俺、セシリアにも恋人になってほしい」
「・・本当、ですか?」
「ホントにマジでっ。家では言い忘れてたというか初めて笑ってくれたのが嬉し過ぎて暴走気味だったって言うかっ・・と、とにかく、本当だよ。じゃなきゃ、あんなにキスしたりしないしできないよ」
「は、はい。私のご主人様」
悲しげだった表情を一変させて、赤くなりながら体を寄り添わせるように軽くもたれてくるセシリア。
フゥ・・・いかんいかん。肝心なことを言ってなかったとか、最悪じゃんか。いろんなモンが頭から吹っ飛んでたんだなぁ・・・半暴走どころか、完全に暴走してたんじゃねぇか。
「・・ケイ? 'あんなにキスしたりしない'ってどういう意味?」
自分の暴走加減を内心で反省してたら、絶対零度の声が耳に届いてきて、ビクゥッと体が震えてしまった。
し、しまったぁぁぁぁぁっ!? セシリアに地雷を踏み抜かせないようにしといて、俺が全力で踏みにいってたら意味ねぇぇぇぇぇっ!!
「・・・ケイくん?」
「はっ、はいっ!!」
「ケイくんがセシリアさんのことを好きなのは、もう昔から分かってました。分かってます。分かってますけど!!」
「せめて、あたし達に返事してくれるまで待ってくれたっていいじゃない!! しかも、'あんなに'なんて言うくらいにいっぱいしてたんでしょぉっ!?」
「ただでさえ私達は出遅れちゃってるのに、そんなのズルいです!! ケイくんは他のことには何でも気が回って気遣ってくれるのに、そういうところだけは昔から鈍感過ぎます!!」
「ちょっとそこで正座!! もうこの際だから、ケイの鈍感さがどれだけ酷いか教えてあげるから!!」
「ちょ、ちょっと待った!! 俺が鈍感って、それなりに人の感情には鋭い方な筈だぞ!?」
「「どこが!?」」
俺の抗議に、カサリナとルーシアの全否定する声が重なった。
◇
そこから、俺の過去の発言や態度について、如何に女心が理解できてないか、何気ない一言が悲しかったか、好意的な態度や言動をスルーされてどんなにショックだったのかなど、延々とダメ出しと説教を食らってしまった。
そ、そんなの分からんってぇのぉ・・・それをそう解釈するのって、下手すりゃ自意識過剰なナルシストじゃんかぁ・・・
そんなことを言い返してみたけど、呆れ顔をされてしまった。
「あたしとルーシアの普段の態度とか表情見てたら分かるわよ。普通はっ」
「そうですっ。カサリナちゃんがケイくんのことを好きなのだって、すぐに分かったんですよ?」
「あたしだって、ルーシアがケイを好きになってたのにはすぐに気付いたわよ。まったく・・・いつからだか分かる? ルーシアはもう会ってすぐよ、すぐ」
「え、す、すぐって、あれってまだ5歳の頃の話だろ?」
「だぁかぁらぁっ!! 辛くて苦しい毎日をいきなり楽しい毎日に変えてもらったのよ!? 好きになんない方がおかしいじゃないっ! ルーシアってば、いつもいつもいつもいつも、ケイのこと王子様みた「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」あ」
俺の反応にヒートアップしたカサリナが、ルーシアの悲鳴で言葉を遮られて、'やっちまった'的な顔をする。
「カサリナちゃん!! 言っちゃダメってあんなに言ってたのにぃぃぃぃっ!! そっ、それならカサリナちゃんだって、ケイくんのこと、何でも知ってて何でもできて、英雄譚の英雄みたいに格好い「うきゃぁぁぁぁぁっ!?」」
「ごめんごめんごめんごめんっ!! もうこれ以上言わないからっ!!」
「ダメです!! カサリナちゃんも反省してくださいっ!!」
顔を真っ赤にしながら、カサリナに容赦ナシの反撃をするルーシア。カサリナも真っ赤になりつつ、お互いになんだか楽しそうだ。
・・・楽しそうで何よりなんだけど、1番照れ臭くて恥ずかしいのは俺なのではないでしょーか? 被弾しまくってんだけど。
しかし、これは鈍感って言われても仕方ないのかもしれないよなぁ。セシリアのことも勘違いしてたし、カサリナとルーシアが小さい頃に俺を好きになってくれてたのには気付いてたけど、まさか大人になっても続くくらいに真剣だなんて思ってもみなかったもんなぁ・・
内心でそんな風に反省しながら、はしゃぐようにお互いの小さい頃に抱いていた俺への想いを暴露し合うカサリナとルーシアを眺めていた。
でも、やっぱり1番恥ずかしいのは俺だぞ!? これ!! 流れ弾が直撃しまくりだよ!!
◇
一頻り騒ぎまくりながら夕食も済ませた後、俺達は酒場を後にして、ブラブラと薄暗くなってきた街を適当に歩き始めた。
なんとなく真っ直ぐに帰る気になれず、誰が言い出したワケでもなく、自然とそうなっていた。この辺りは、長年の付き合いだからこその以心伝心ってヤツなんだろうな。言わなきゃ伝わらないことも当然あるけどさ。
「ね。ケイ?」
「ん? なんだ?」
「出発まであと18日よね」
「そうだな。どういう環境に放り込まれるのか分からないけど、こんなにのんびりできるのは当分無くなるだろうなぁ」
「ご主人様は私が必ず守ります」
「頼りにしてる。でも、くれぐれもムチャは止めてくれよ? 俺が生き残ってても、セシリア達に何かあったら意味がない」
「意味がない、ですか?」
俺の言葉に首を傾げるセシリア。
「当たり前だろ。恋人同士になって、一月もしない内に戦場行きが決まっちまってるんだぞ? そこで万が一のことなんかがあってみろ。一生トラウマだぞ」
「・・・・はい。分かりました。万が一の事態を引き起こさないように、全力を尽くします」
「うん。これからもずっと一緒にいてほしいから、マジで頼んだぞ」
「それって、ケイくん自身に何かあってもダメなんですよ?」
「分かってるって。もっと恋人っぽいことしたいし、その、なんだ? その先だってあるワケだし。死んでる場合じゃないだろ?」
「そ、その先って・・・・それって、その、えと・・・・お、お嫁さん、とか?」
真っ赤になりながら言ったカサリナの問いかけに、ルーシアもセシリアも真っ赤になってしまう。俺は顔から湯気が噴き出してきそうになりながら、明後日の方向に顔を向けてしまう。
えぇいっ!! 照れ臭いっ!! そゆことをハッキリ言ってくれるな!! まだ付き合い始めたばっかりだっての!!
「さ、先々の話だけどな。今日、ちゃんと恋人同士になったばっかりなんだしさ」
「う、ううううう、うん。そ、そうよね。気が早過ぎって言うか、恋人してからの方がいいって言うか・・・で、でも、ケ、ケイ以外となんか考えられない、からね?」
「私も、ですよ? いつか、その・・・ケイくんの、お嫁さんになるのが、夢、ですから」
「ん、まぁ、だからその・・・いずれな。改めて俺からお願いするよ」
「あっ・・・あの・・・・・ご主人様・・・」
倒れるんじゃないかと心配になるくらいに赤くなりながら言うカサリナとルーシアに応えると、戸惑いと困惑を全開にするセシリア。
この流れなら、流石に確信が持てる。セシリアはまだ自分の気持ちを明確に言葉にするのが苦手だしな。まぁ、突発的に感情が爆発したみたいな不意打ちを食らわせてくれるけど。
「セシリアも、俺に愛想を尽かすようなことがなけりゃ、いずれ改めてお願いするよ。魔導生命体だからどうとか言うなよ? セシリアだから言ってるんだから」
「は、はいっ。私のご主人様」
心底嬉しそうに笑顔を浮かべるセシリア。誰が見ても、ハッキリと分かるくらいの笑顔を向けてくれるのは、やっぱり嬉しい。
嬉しいんだけど・・・メチャメチャ照れくせぇぇぇぇぇっ!! なんで恋人期間開始初日に求婚紛いの台詞を口にしてんだ!? ブッ飛び過ぎだろ!!
「あ、そ、それで、ね? 戦場に着いちゃったらのんびりなんてできないだろうし、あと18日あるんだし、その間に、デ、デート、しない?」
モジモジしながらそう言うカサリナ。
あ、なるほど。残りの期間を言い出したのはそういう意図だったのか。確かに。戦場でデートなんぞしようもないだろうし、できたとしても、メチャクチャ殺伐とした感じになりそうだもんな。
「そうだな。でも、'最後の思い出に'とかって考えでデートはしたくないぞ? 縁起でもない」
「え?」
「すぐには無理だろうし、年単位で時間は掛かるだろうけど、俺達は生きて帰ってくるんだ。どうせ考えるなら、'最初の思い出に'だ。だろ?」
そう言うと、カサリナとルーシアがそれぞれ腕に抱きついて、
「うんっ」「はいっ」
笑顔でそう答えてくれた。
「セシリアも付き合ってくれよ?」
「は、はい・・・ご主人様と、デート・・・」
返事の後に、何か呟きながら真っ赤になって俯いてしまうセシリア。
我ながらベタで気障なこと言ってるとは思うけど、これが本音だしなぁ。似合ってないかもしれないけど、勘弁してくれ。俺達の立場は弱くて、厳しい状況に追いやられるかもしれないけど、絶対に誰も死なせない。前世も含めて、初めての恋人ができたんだぞ? しかも、来世のそのまた先までの幸運を使い果たしても無理だろってくらいのド級の美人と美少女が3人もだぞ? 死なせてたまるかっての。
これまでは目立たないように、目を付けられないようにってできるだけ大人しくしてた。でも、戦場に着いたら自重の時間はもうおしまいだ!! 敵対する奴は、魔族だろうが純人族だろうが、全部まとめてブッ飛ばす!!
締まらない告白ではありましたが、やっとお互いの気持ちをしっかりと伝え合いました。それに伴い、主人公は共に生き残る為の決意を明確に固めました。これにて、目立たないように振る舞ってきた自重と自粛の期間は終了です。
では、これにて第二章 第十一部を閉幕とさせていただきます。
お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。
追伸:次回から閑話を3つ挟んで新章に入る予定です。閑話は週1で更新予定ですので、よろしくお願い致します。




