打ち明け話と与えられない出番と予期せぬ遭遇
色々ありまして、超長期間、投稿が滞ってしまっておりました。楽しみにしてくださっていた方々には、心より謝罪申し上げます。
第二章 青年期 第七部の開幕です。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
適度な休憩を挟みつつ、歩き続けた俺達は日が暮れ始めてから野宿の準備を始めた。
日が沈むまでは時間はあるけど、完全に日が暮れてからだと何をするにしても大変だから、野宿の時は早めに準備をするものだとセシリアが言うので、全員それに素直に従ったのだ。何せ、魔道生命体であるセシリアの知識量は半端ない。あらゆる事態において、魔道生命体は主人の力になれるように徹底して知識を埋め込まれて造られるからだ。
まぁ、昔のセシリアは知識に対しての経験が全く伴ってなかったから、ツッコミ所は満載だったワケだけど。
「さて、焚き火用の薪はこんなもんで十分かな」
「はい、ご主人様。あとはテントの準備と食事の準備だけです」
「あ、テントはいらない。必要ない」
「え? しかし、夜は冷えますので、風を遮る物が無いと体調を崩してしてしまいかねませんが・・・」
「寝床は魔法で作るんだよ」
「へ? そんな魔法、教えてもらってないわよ?」
「まぁ、ゴーレム作成魔法の応用だからな」
「あ、ケイくんにしか使えなかった魔法?」
「ああ。まぁ、外観は趣も何もない感じにはなるけどな。《創造》」
目の前で地面が盛り上がり、壁と屋根を形成していく。
「うわぁ・・こんな事もできるのね、魔法って・・・」
「どんな魔法も使い方次第だってこったな。さ、中に荷物運んで飯にしよう」
「はい。ご主人様」「そうね」「はいっ」
即席の小屋に入り、携帯食糧で食事を済ませる。味気のない食事にはなったけど、こればっかりは仕方がない。
前世の世界を思い返してみたら、インスタント食品とかレトルト食品とかってメチャクチャ便利なもんだったんだなぁって思う。お湯を入れたり温めたりするだけでそこそこ美味い飯ができるんだもんな。作り方なんか知らないから、再現のしようもないけど。
「ケイくん?」
「ん?」
「どうかしましたか? なんだか、遠くを見るような目をしてましたけど・・・」
心配そうな、そして、どことなく不安そうな顔をして言うルーシア。セシリアとカサリナも似たような顔をして俺を見つめてくる。
「いや、何でもない。ちょっとボーッとしちまってただけだよ。っつーか、3人揃ってなんて顔してるんだよ? そんなに変なツラしてたか? 俺」
「いえ…ただ、ご主人様は時折何かを懐かしまれるような、少し悲しそうな表情をされますので・・」
「へ?」
セシリアの言葉に、思わず間の抜けた声を返してしまう。
「そんな顔してたか?」
「してたわよ。ここ最近、よくそんな顔してるし・・」
「それに、思い返してみたら、ケイくんは昔からたまにそんな顔をしてた気がします」
カサリナとルーシアの返答に、頬を掻きながら苦笑を洩らしてしまう。
うぅむ。そんな顔をしてるつもりなかったんだけどなぁ。もしかして、無自覚に前世の世界を恋しがってるんだろうか? そんな大した思い入れはないつもりなんだけどな・・・まぁ、あの死に方はショックではあったけど。
隣に座っているルーシアがギュッと俺の手を握ってくる。
「私はこれまでずっとケイくんに助けてもらってばっかりで、甘えさせてもらってばっかりだったけど、それでもケイくんが辛い思いをしてるんならちょっとでも力になりたいです。ケイくんのおかげで私も少しは強くなれたと思うから、もう甘えて助けてもらうだけの私じゃないですよ? 頼りないかもしれないですけど・・・」
「あたしも、その・・ケイの力になりたい・・・ケイって昔っから何でも1人でできちゃうし、あたしなんかじゃ何にもできないかもしんないけど・・・このままじゃ、ケイ、どっか遠くに行っちゃいそうで・・」
「私もご主人様の助けになりたいです」
「ん・・ありがとな」
3人の真剣な、そしてその疑いようもない好意からの言葉に素直に礼の言葉を返す。かなり照れくさいけど。
前世の世界に未練が全くないって言えば嘘になるのかもしれない。でも、それ以上に俺は今の人生、いや魔生を楽しんでる。それは間違いなく前世の記憶を持って転生したおかげだ。今までそれを誰にも言った事なんてなかった。言っても理解されるとも思えなかったし、前世が人間だなんて言った時のセシリアに反応が怖かったってのもある。何せ、魔族は人間と、この世界では純人族って呼ばれてるけど、完全に敵対しているんだから。
でも、こいつらには話してもいいかもしれない。魔族としては異端な考え方を持ってて、魔法なんて忌避されるものに熱中してる俺を受け入れて、こんなに心配してくれてるんだもんな。もう長い付き合いでもあるんだし、これ以上隠し事をするのはやめにしよう。
「そんな顔をしてるつもりはなかったんだけどな。まぁ、昔を思い出して懐かしんでたんだよ」
俺の言葉に不思議そうな顔をするセシリア達。まぁ、例によって、セシリアの表情の変化は俺にしか分からん程度だけど。
「昔、ですか?」
「ああ。俄には信じられない話だろうけどな。ここに、魔族としてこの世界に生まれてくる前の、所謂、前世の記憶ってヤツだな」
「へ? ぜ、前世?」
「おうよ。じゃなけりゃ、3歳の子どもが魔導書を読み漁ったりなんかしないっての」
「さっ、3歳!? ケイってそんなちっさい頃から魔法の研究なんてしてたの!?」
「おう。異常だろ? 普通に考えりゃ」
「・・まぁ、ケイだから納得はできるけど」
「オイコラ。そりゃどーゆー意味だ?」
「だって、ケイって変わり者だし」
「ちょっとビックリしちゃいましたけど、初めて会った頃から魔法の研究をしていて、新しい魔法まで作り出してたんですから、振り返って考えてみればおかしくはないですよね、魔道書を読み始めた時期としては」
「まぁ、そう言われたら・・とにかくまぁ、そんな時期から魔法に興味を持って他のは前世の記憶があったからなんだよ。人間として生きてた前の世界には魔法なんてなかったから、憧れてたしな」
「ニンゲン?」
「あぁ、こっちで言うトコの純人族だな」
「え!? ケイくん、純人族だったんですか!?」
「おう。まぁ、前世の世界じゃ純人族以外の人種族はなかったんだけど」
「そ、それじゃあ、この戦争に行くのは嫌なんじゃないですか? 生まれ変わる前とは言っても、同族相手なんですから・・」
「まぁ、複雑な気分ではあるわな。だからって、味方をしようとも思わんけど」
「本当ですか? ご主人様。私はご主人様が敵対されたくないと仰るのであれば」
「心配すんな。複雑ではあるけど、変な感情移入して、万が一にもお前らに何かあったりしたら、その方が嫌だ。それに、この世界の純人族だったわけでもないし」
「ホント? 無理してない?」
「ああ。ってか、そんな心配以前に、俺に対して思うトコとかないのか?」
俺の言葉に、何故かキョトンとした顔をするセシリア達。
「ある?」
「えっと・・・ケイくんはやっぱり凄いなぁってくらい、かなぁ?」
「ご主人様が前世の記憶を持っていようと、前世が純人族だろうと、今は私の仕える主であることには何も変わりはありません」
「だよねぇ。ケイはケイだし。他の魔族と違うトコが1つ2つ増えたって、それこそ今さらだし」
あまりにもあっさりと受け入れられてしまって、拍子抜けしてしまった。多分、今の俺は相当の間抜け面をしていると思う。
なんだかなぁ。拒絶されたいワケじゃないから、嬉しいのは嬉しいんだけど、俺が今まで隠してたのが馬鹿みたいじゃないか。
「何よ? その顔。そんなのであたし達がケイのことをどうこう言うとでも思ってたの?」
「普通は多少なりとも、何かあるんじゃないかと思わんか? 前世とはいえ、純人族だぞ? しかも、異世界とか、頭がおかしな奴だと思われるようなことを言ってるってのに」
「ふふ。他の魔族だったら、そうかもしれないです。でも、ケイくんですから。あたしの世界を明るくて楽しいものに変えてくれたケイくんなら、何だって信じられますし、何だって受け入れられちゃいますよ」
不満そうに問いかけてきたカサリナの言葉に、脱力気味にそう答えると、照れ臭そうにそんなことを言うルーシア。
いやあの、そんな好意全開なこと言われると、俺の方が照れ臭いんですけど。なんか、ルーシアは色々と開き直り過ぎでないかい? 照れ屋なトコは変わってないけど、ド直球発言が増えてるよ?
「そんな浅い付き合いでもないでしょ。もう10年以上も一緒にいるのに、失礼しちゃうわ」
「いやまぁ、そう言われると・・・ごめん」
「ふふ。嘘よ、嘘。あたしだって、そんな秘密を持ってたら不安になっちゃうもん。何を言われるか怖くて、誰にも言えないかも。だ、だから、その・・・何て言うか・・・えと・・・打ち明けてくれて、嬉しい」
赤くなって、モジモジしながら言うカサリナ。
いやだから、この可愛い生き物は一体誰なんだよ!? 女の子っぽさに欠けるくらいに元気ハツラツなのが、俺の知ってるカサリナなんだけど!? 告白されてから、一気に可愛げ増したよな!! ありがとうございますっ!!
内心で2人の幼馴染の可愛さに悶えまくってると、セシリアがスッと肩を寄せてきた。
「セ、セシリア? どした?」
「え? あ、い、いえ」
俺に声を掛けられて、自分の行動に気が付いたらしく、ほんのり僅かに頬を染めながら、戸惑いの声を洩らすセシリア。
セシリアはマジで心臓に悪い行動を、無意識にしてくるよなぁ。それに本人も戸惑って照れまくりなんだから、少し自重してください。どうリアクションするのが正解なのか、前世の経験が役に立たない部分なんです。
「むぅ・・・セシリアさん、狡いですっ」
「あっ!? ちょっ!? ルーシアまで!? あ、う、うぅ~・・・」
そんなセシリアに対抗して、逆サイドから肩を寄せてくるルーシア。焦った声を上げつつも、恥ずかしくて動くに動けず、涙目になってしまうカサリナ。
えぇいっ!! ホントに無駄に可愛いなぁっ!! こういうときの正しい対応なんか分からんってのに!! 何か言わないといけない気持ちになるだろ!!
「あ~、うん、カサリナ。背中でよかったら、空いてるから」
「え!? べ、べべべべべ、別に、あ、あたしはだっ、だ、抱きつきたいなんて・・・」
「じゃあ、俺が抱きついてほしいからってのでいいだろ。言っとくけど、俺も大概照れ臭いんだからな?」
「う、うん・・・じゃ、じゃあ、し、失礼しま、しゅ」
俺がそう言うと、湯気が出そうなくらいに真っ赤になりながら後ろに回ってきて、噛み噛みになりながらも俺の前で手を結ぶようにして抱きついてくるカサリナ。
普段のキャラとこういうときの行動力が反比例してるよね、キミタチ・・・どっちも可愛くていいけどね!! これでよかったんだよな!? こういうときの対応は、これで間違ってないんだよな!? くそぅ、前世の記憶と経験がマジでこういうときには役に立たない!! グー○ル先生に答えを教えてもらいたい!!
そんなことを思いながらも、受け入れてもらえたことに安堵して、その日の終わりを迎えたのだった。
手は出してないぞ!? 前世から数えて、40年以上も女っ気なしだった免疫ナシ故のヘタレっぷりを舐めんな!! これだけ密着されてても、キスすらできんわっ!!
◇
それから俺達は、ヴェルデ山脈にある竜の峰へと足を進めた。昨日までは姿を見せなかった魔物も、チラホラと現れはするようになった。
うん、現れはするんだけどな・・・
「《増強》」
魔法で身体能力を上げたセシリアに、文字通り、瞬殺されるファンタジーお馴染みの雑魚、ゴブリンの群れ。
速過ぎて、残像ができてるんですが。ゴブリン相手に、本気になり過ぎてません? っつーか、セシリアってば、戦闘訓練の時より、さらに動きが鋭くなってるよ。訓練時でさえ、全然ついてけないのに・・・
「《氷の刺》!!」
気合いの入った可愛い声で、無数の鋭い氷の刺を、大猪の魔物、ラフボア4匹に打ち出すルーシア。
刺の数が多過ぎて、もはや氷の壁だぞ、それ。ラフボアが一瞬でミンチになってるぢゃねーか。
「《豪炎》!!」
'今度は自分の番!'とばかりに、ノリノリで巨大な炎を発生させて、全長5mはあった熊の魔物、ダガーグリズリーを消し炭にするカサリナ。
待て!? 骨も残らんってのは、オーバーキルもいいトコだぞ!? 魔力に余裕もありそうだから、文句が言いにくいけど!!
とまぁ、そんな感じで、魔物は瞬殺されまくっている。
ただ、1つ、俺の意見も聞いてほしい。
俺にも出番をくれ!! 唯一の男な俺が戦闘で出番ナシってどゆこと!?
いやまぁ、確かに、近接戦闘じゃセシリアには逆立ちしても勝てないし? 元の肉体ランクの差があるせいで、接戦には持ち込めても、カサリナにも勝てないよ? それに、魔法に対する抜群のセンスを持ってるルーシアには、遠近両方共、マトモに戦ったら歯が立ちませんよ?
だからって、俺の出番が全くなくていいワケないだろ!? 実戦訓練だよ、これ!! 実戦訓練!! 俺も戦わないと、意味がないんだよ!! 何より、女の子に戦闘を任せっきりとか、男としてガチクズじゃんか!!
そんな俺の意見に、
「ご主人様に迫る危険は、私が全て排除します。ご主人様は命令してくださるだけでいいんです」
「私も強くなったっていうところを見てもらいたいですから。でも、アドバイスをもらえたら嬉しいです。ケイくんはちゃんと見ててくださいね」
と、似たようなことを言うセシリアとルーシア。さらに、
「普通に戦ったらケイが1番弱いんだし、仕方ないんじゃない?」
歯に衣を着せぬカサリナの言葉が、俺の急所を貫いて、思わず膝を着いてしまった。
セシリアとルーシアが大慌てでフォローを入れてくれるけど、こういうときのお約束と言うべきか、フォローがフォローになってなかったのは言うまでもない。
ドちくせぅ・・・何でもありなら、誰にも負けない自信があるんだぞぉ・・・
◇
若干、俺が落ち込みつつも、道程は順調そのものに進んだ。というか、順調過ぎた。片道10日は掛かる筈の道程を、2日も短縮してしまったのだ。これは、道中の魔物撃退をあまりにもサクサク済ませ過ぎたからだろう。中でも、狼の魔物、ブラッドファングの10匹単位の群れをほんの数分で壊滅させたのは、明らかに魔族の常識を無視してる。
「・・・ブラッドファングの群れって、普通の最終訓練課題に選ばれるような魔物なんだけどなぁ・・・こんなに強くなってたのね、あたし達って」
とは、ブラッドファングの群れを3人で壊滅させた後の、感じ入るように呟いたカサリナの台詞だ。
ブラッドファングは大きな群れを作る習性がある為、かなり厄介な魔物として認識されている。それをアッサリと壊滅させられたことで、強くなっていることの実感が一際湧いてきたんだろう。セシリアとルーシアも、カサリナの呟きを聞いて、感慨深げに頷いてたし。
・・・そうだよ、3人だよ。セシリア、カサリナ、ルーシアの3人だよ。くそぅ。3人して、俺が向かおうとする方から退治していきやがって。セシリア達ごとブッ飛ばすワケにもいかんし。おかげで、ここまでずっと出番ナシだよ・・・
俺の不満はともかく、そんな感じで予定よりも早くにヴェルデ山脈の麓に到着したわけだ。で、ここから山を奥に数時間程進むと、目的地である竜の峰がある。標的もそこにいる筈だ。
なので、決戦前に打ち合わせをしようと、セシリア達が俺の傍に集まったときだった。
「ゴァァァァァァァッ」
物理的衝撃を伴うかのような咆哮が、俺達の頭上から響いてきた。その直後、凄まじい風が上から吹き付けたかと思うと、
〈ドォォォォンッ〉
重く硬いものが地面に落ちるかのような音と地面から伝わる震動と共に、唐突にそれが姿を現した。
それの鈍い光沢を持った黒い鱗は、傷付けることを容易に想像すらさせない程の頑強さを感じさせ、両の前足に生えた爪は、何物をも切り裂くことが容易だろうことを想像させる程の鋭さを見せつける。そして、口元から覗く牙は、こちらの死を間近な現実として感じさせる威容を誇っていた。
全く予期していなかった、黒竜との遭遇である。
改めまして、長い間、投稿を滞らせてしまったことを謝罪致します。誠に申し訳ございませんでした。
実は、仕事の関連で、少し精神的な疲れが限界にきてしまっておりまして、筆を取ることが全くできなかったんです。
その後、復調したものの、今度はスランプに陥ってしまい、全く筆が進まないという情けない事態に。気晴らしに、投稿予定のない話を好き勝手に書き殴っては消して、書いては消してを繰り返してました。半年以上、そんなことを繰り返して、ようやく執筆についても完全復活した次第です。
【魔族転生】については、書き貯めが全然できておりませんので、とりあえず、今後は2週間に1回を最低目標に更新を続けていく予定です。よろしければ、暖かい目で見守りつつ、今後もお付き合いいただければと思います。




