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魔族転生  作者: 桃源郷
第二章 青年期
13/30

和解と戸惑いと少しの我儘

主人公の誤解にショックを受けたセシリア。猛省する主人公。2人は元通りに戻れるのでしょうか?


第二章 青年期 第五部の開幕です。

どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。

走り出したセシリアを追いかけ始めた俺だけど、全く追い付けない。むしろ、徐々に差が開いていっている。元々の肉体ランク差があるだけに、純粋な身体能力でもセシリアには勝てないのだ。

しかし、今のセシリアは魔法を使ってはいないみたいだ。もし、使われてたら、即行で見失ってしまっていただろう。

「≪増強(エンハンスメント)≫!」

魔法を発動させて、一気にセシリアとの距離を縮めて、

「セシリア!」

後ろからセシリアの手を掴んで、足を止めさせた。

ご主人様(マスター)・・・」

振り返って、涙を溢れさせた瞳で俺を見つめるセシリア。


うっ!? 泣かせちまった!?


「・・・ご主人様(マスター)ッ」

そのまま俺をぎゅっと抱き締めてくるセシリア。

「・・・捨てないで・・・・・私の主人(マスター)ご主人様(マスター)だけなんです・・・・」

「セシリア・・・俺は」

「他の主人(マスター)なんて要らないっ! 危険な所でもどこでも構わないっ! 私の居場所はご主人様(マスター)の側だけっ!!! 捨てな」

セシリアの悲痛なまでの叫びを遮るように、俺もおもいきりセシリアを抱き締め返す。

「っ・・・ご主人様(マスター)・・・」

「ごめんな、セシリア・・・」

「っっ」

言葉を詰まらせて、さらに涙を溢れさせ、嫌がるように首を振るセシリア。

「ごめん。そんな風に思ってくれてるなんて、考えてもなかったんだ。マゼリシオ婆さんに与えられた役目の為だけだと思ってた。だから、セシリアには新しい主人に仕えてもらって、安全なトコで幸せに過ごしてほしかったんだ」

ご主人様(マスター)のバカ・・・私はご主人様(マスター)に仕えていられるのが幸せなのに・・・・バカ・・・・・」

「ん。ごめん。ホントに鈍感大馬鹿野郎だ、俺は」

ぎゅ~っと俺を抱き締めてくるセシリア。

「それでも・・・こんな大馬鹿野郎だけど、これからも一緒にいてくれるか?」

俺が言い切ると同時に、不意に唇を重ねてくるセシリア。


!?!?!?!?


いきなり過ぎる不意打ちに、一瞬で頭の中が真っ白になって全身の血液が沸騰したかのように熱くなってしまう。

「はい・・はいっ・・・私のご主人様(マイ・マスター)・・・」

唇を離して、表情こそ大きくは変わらないものの、今までに見た事がないくらいに嬉しそうな雰囲気を全開にするセシリア。


え、えっと、何? 今のは・・・まさか、キスされた!? え!? つまり、え!? どういう事!?


完全に言葉を失い、口をパクパクさせていると、不思議そうな顔をしてくるセシリア。

「? ご主人様(マスター)? どうしましたか?」

「ど、どうしたって言、言うか、い、今のキスって・・・」

俺の言葉に、キョトンとした顔をした後、目を白黒させながら見る見る内に顔を真紅に染めて、よろけて尻餅をついてしまうセシリア。

「セッ、セシリア!?」

慌てて膝をついて側に行く俺。

「え・・・・あ・・・・・・」

ますます赤くなって、俯いてしまうセシリア。

「だ、大丈夫か?」

「は、い・・ご主人様(マスター)

俯いたままで答えるセシリア。大いに恥ずかしがってはいるようではあるものの、その様子はどう見ても混乱しまくっているようにしか見えない。


え、えぇ~・・・・まさか、無意識に勢いでやっちゃったって感じか? 自分でもどうしてやったのか、全然分からんって感じだぞ、これ・・・・ 前の人生からの通算での最初のキス(ファーストキス)が無意識のキスかぁ・・・いやまぁ、嬉しいのは嬉しいんだけどね? 軽く破裂しそうなくらいに脈拍上がりまくってるし。

でも、どういう意味なのか、スッゲェ気になる。本人に聞いた所で、<分からん>って答えしか返ってこなさそうだけど。


「・・・・どうして、でしょう・・・?・・・・胸が、痛くて、苦しい、です・・・・」

「ハァ・・それ、嫌な痛みか?」

予想通りなセシリアの言葉に対する俺の問いかけに、全力で首を横に振るセシリア。


良かった。これ、後悔されてたら、本気で立ち直れる自信がなかったぞ。


「ん。じゃあ、今はもう深く考えるな。正直、俺も照れ臭くてたまらんし」

「あ・・」

顔を上げて、俺を見つめてくるセシリア。その表情には明らかな不安の色が混じっている。

「喜んでるっての。見て分かれ、言わすな、余計に照れ臭い上に恥ずかしいっ」

「は、はい。すみません、私のご主人様(マイ・マスター)

謝りつつも、何故か嬉しそうに言うセシリア。

「ほら、立てるか?」

手を差し伸べると、また顔を赤くしながらその手を取って俺と一緒に立ち上がるセシリア。

「さ、買い物済ましちまおう」

「はい」

セシリアの返事を受けて、再び歩き始める俺とセシリア。歩き始めるとすぐに、セシリアは俺の服の裾を指で摘まむように掴んでくる。


ナニコレ? 物凄いハズイ上に照れ臭くて堪らんのですが。あ、もしかして、不安なのか?


「もうあんな事言わないよ。俺はずっとセシリアの主人(マスター)でいるから」

「はい。私のご主人様(マイ・マスター)

「ごめんな」

「・・・・・・・・いいえ」

かなりの間を空けて首を横に振るセシリア。


おぅ・・・・これはもしかして、かなり怒ってる? 返答にこんな間が空いたのなんか初めてだぞ。


「そ、そう怒るなよ。悪かったってば。セシリアがあんな風に思ってくれてるなんて思いもしなかったんだよ。魔導生命体の主人が替わる事なんかよくあるみたいだし・・・」

「私の主人(マスター)ご主人様(マスター)だけです」

やや憮然として言うセシリア。


うわぁ・・・やっぱり怒ってらっしゃる・・・・・


「も、もう分かってるよ。だから、そう怒るなよぉ」

「・・・・・怒ってなんかいません」

プイッとそっぽを向いて言うセシリア。


いや、確実に怒ってるだろ・・・どうやってご機嫌を取るか・・・・・


さして良い方法も思いつかないまま、なんとなくでセシリアの頭を撫でてみる。

「機嫌直してくれよ。な?」

顔を赤く染めながら、驚いたように俺を見つめてくるセシリア。

「は、はい。私のご主人様(マイ・マスター)

目を白黒させながら首肯するセシリア。


フゥ・・・・セシリアってば素直。同い年にしては単純過ぎる気もするけど、おかげで助かった。俺にはこれ以外の手段が思い浮かばなさそうだからなぁ。ホントに、こういう方面の経験値だけは他の奴らと大差がないか、下手すりゃそれ以下だよなぁ。

転生してるって事を考えると、かなり悲しいモンがある。ドチクショウ・・・





それから、買い物を済ませて屋敷に戻り、特にやる事がなくなった俺は自分の部屋に戻ってベッドでゴロンと横になった。


考えてみたら、やる事がない状況って字が読めるようになってからは初めてだな。小さい頃は研究かカサリナ達と遊んでるか魔法の修練をしてたし、戦場行きが決まってからは戦闘訓練もあったしなぁ・・・なかなかに充実した日々を送ってたもんだ。

戦場に着いたら、もうのんびりなんかできる機会なんか無いだろうし、今日はのんびりダラダラできる最後のチャンスって感じかね? いやまぁ、生き延びて帰れる事があればそんな事もないんだろうけど、それは望み薄だよなぁ。死ぬ気は毛頭ないけど、[前兆の子]が戦地を離れて休暇を与えられるとは思えないし。でも、武勲を立てればそうでもないか? 親父殿みたく出世すりゃ、いくら[前兆の子]でも蔑ろにはできないよな?

でも、戦争の相手が相手だからなぁ・・・正直、そこに関してだけは気が重い・・・かつての同族(・・・・・・)を相手に殺し合いをしなきゃならんのだもんなぁ・・・・

あ~あ。魔王サマも侵略戦争なんかいい加減諦めて止めちまえばいいのに。休戦と開戦を繰り返して約1000年だっけ? それで1回も侵略に成功してないのに、諦めが悪いと言うか、気が長いと言うか・・・


寝返りを打って、もう見慣れた天井を見上げる俺。


いかん、考えてたら本気(マジ)で憂鬱になってきた。ここまで休まずに突っ走ってきたからあんまり考えずに済んでたってのに、暇な時間のせいで余計な事を考えちまってるな・・・

今はもう、俺は魔族なんだ。それに、死なせたくない奴らがいる。俺だって死にたかない。でも、[前兆の子]に戦場行きを拒否できる権利なんか無い。抵抗してみても、戦う相手が変わるだけの話だ。それなら、戦うしかない。戦って勝つしか生きる術がないんだから。


「勝ち続けるさ。その為の魔法でもあるんだ」

握った拳を天井に向けて突き出しながら呟いてみる。そこに、ノックの音がする。相手は確かめるまでも無い。[前兆の子]である俺を訪ねてくるのは1人しかいないのだ。

「開いてるよ~」

扉が開く音がして、静かな足音が近付いてくる。

ご主人様(マスター)。暇を持て余してはいませんか?」

セシリアの言葉に、思わず苦笑してしまう俺。


何故に分かった? ホントにセシリアは俺の事をよく理解してくれてるもんだ。これを単なる役目としての義務だって思ってたんだから、俺の鈍感さはどうしようもないのかもしれないなぁ。2回目の人生だってのにコレなんだから、マジで救いようがない。


「暇だよ。やる事がない1日なんか初めてだ」

「そうですね。ご主人様(マスター)は小さい頃からずっと魔法の研究をされていましたから」

「セシリアは? 暇か?」

「はい。ご主人様(マスター)の研究のお手伝いもなくて、休憩のお茶の準備もなくて、何もする事がありません」

「俺の事ばっかりじゃないか、それ・・・・もうちょっと自分の為に時間を使ってもいいだろうに」

「私のしたい事がご主人様(マスター)のお世話なんです。なのに、ご主人様(マスター)は何でもご自分でしようとしてしまいます」

「いや、飯の準備とかは完全に任せてるじゃんか。俺が作るより圧倒的に美味いから」

「は、はい。私のご主人様(マイ・マスター)

嬉しそうにして、仰向けになっている俺の枕元に座って頭を撫でてくるセシリア。

「では、昼食は何にしましょうか?」

「セシリアが作ってくれるもんなら、何でもいいよ。どれも美味いし」

「はい。私のご主人様(マイ・マスター)・・・」

嬉しそうに応えるセシリア。


こういう風に嬉しそうにしてくれてるのも、やっぱり、役目としてやってるからだけじゃないから、なんだろうなぁ・・・うん、改めてセシリアの言ってる事とか反応とかを見てたら、他の魔導生命体との違いなんかいくらでもあるな。

でも、なんでセシリアはここまで俺に尽くしてくれてるんだろ?

単純に役目だからってだけじゃないのは、さすがにもう分かってる。赤ん坊の頃は俺の体調を心配してあんなに動揺してたし、常に俺を抱いて片時も離れずに世話をし続けてくれた。魔法の研究を始めてからは、俺が一息つくタイミングを把握して俺の好きなお茶で息抜きのティータイムを作ってくれてた。それ以外にも、思い返したらキリが無いくらいに徹底して俺に尽くしてくれている。産まれた頃から今に至るまでずっとだ。それだけに不思議なんだよなぁ。俺に拘るキッカケが思い当たらない。


ふと我に返ると、セシリアが顔を赤くして俯きながらチラチラと俺を見ている事に気付いた。

「ん? どした?」

「い、いえ、あの・・・ご主人様(マスター)が、ずっと見つめてくれていますから・・・」

セシリアの言葉に、顔が少し熱くなってしまう。


な、なんでそんなリアクションするかな!? ここ3年くらいで急にそういうリアクションが増えてきてるから、スッゲェ心臓に悪いんですけど!? 心拍数の上昇の仕方が半端無いんですが!?


「あの・・・ご主人様(マスター)。お願いしても、いいでしょうか?」

「な、何?」

「・・・・・やっぱり、一緒に寝たい、です」

「ブッ!?」

脈絡も何もない唐突過ぎるセシリアのお願いに、思わず息を吹き出して身を起こしてしまう。

「な、ななな、何を急に・・・セシリアも恥ずかしいからって言ってただろ?」

全身が熱くなっているのを自覚しながら言う俺。


あれは、セシリアが俺に対しても恥じらいを見せ始めた頃、一緒に寝るという約束の日の夜の事だ。照れ臭さを必死で圧し殺して一緒にベッドで横になって目が合った瞬間に、セシリアは顔を真っ赤にして硬直してしまったのだ。それで、<やっぱり恥ずかしいし照れ臭いから、一緒に寝るのはおしまいにしないか?>という俺の言葉に、セシリアは頷いて一緒に寝るのはそれが最後になってたんだ。

それを何故に・・・


「は、恥ずかしい、です。でも、今日は一緒がいいん、です」

俺の服の裾を指で摘まむように掴みながら言うセシリア。


ぐ・・・今日はって言われると弱い。誤解してたせいで泣かせちまってるし・・・・そのせいでやっぱり不安が残ってんのかなぁ・・・それなら、完全に俺のせいだし、照れ臭いのも恥ずかしいのもその他諸々も我慢しなきゃ、だよなぁ・・・・・ハァ・・・・・


「分かったよ。セシリアがそうしたいんなら、今日の夜は一緒に寝よう」

「ありがとう、ございます・・・私のご主人様(マイ・マスター)

ハッキリと照れを表情に浮かべて、嬉しそうに礼を口にするセシリア。


うわぁ・・・・これ、今日は眠れるんだろーか・・・・明日から魔獣狩りに出発だってのになぁ。

何とか事態が収束した今回の誤解騒動。主人公が誤解していた原因はご理解いただけたでしょうか? 本来ならば覚えている筈もない産まれたばかりの頃の記憶が、セシリアの行動をその役目からきているものだと思わせていたのです。

勿論、それだけではありません。前世から女性に縁の無かった主人公にとっては、セシリアのような美しく可愛い女性に尽くされる理由が他に思い当たらなかったというのも理由の1つです。

どちらも、前世の記憶があるからこその弊害と言えるでしょう。経験があるというのも、良い事ばかりではないようです。


では、これにて第二章 第五部を閉幕とさせていただきます。

お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。

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