戦闘訓練と育ての親と大きな誤解
時間が経ち、主人公達はまた大きく成長しました。今度は外見的にではなく、戦闘力の面で。
しかし、どんなに成長しようとも、口にしていないと分からない事もあるものです。それは、例え、どんなに長い時間を共に過ごしていても・・・
第二章 青年期 第四部の開幕です。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
戦闘訓練開始から3年弱。30日後にまで俺達が戦地に送り出される日が近付いてきた。
これまでの期間、剣や槍などの武器の使い方や基本的な体術などの訓練所でも実施されているらしい内容に加えて、俺達は魔法の練度を上げる訓練も徹底して行った。
魔法は練度が違うと、発動までの時間も持続時間も威力もかなり変わってきてしまう。それは初めて身体能力全般強化魔法を初めて使った時に実感済みだ。さらに、いくら強化していても、体を上手く動かせないとやっぱり戦闘力は落ちてしまうらしい。訓練を始めたばかりの頃は、模擬戦をやってもセシリア以外の2人には余裕で勝てていたんだけど・・・
「それじゃ、いきますね?」
「おう。30秒は持ってやる」
ルーシアと向かい合って、互いに身構える。
「お2人とも、お怪我の無いように」
「ちょっとくらいなら治癒魔法ですぐに治るけど、大怪我はダメだかんね?」
「はいっ」「はいよ~」
「始めてください」
俺とルーシアの返事が重なり、セシリアが開始の合図を出す。
それと同時に、俺もルーシアも身体能力全般強化魔法を発動。俺は全力でルーシアに襲い掛かっていく。しかし、ルーシアは余裕の動きで俺の拳を紙一重で躱して、死角から掌打を放ってくる。勘だけでギリギリなんとか躱して次の動きに移ろうとした所で、先にルーシアの蹴りが俺を吹っ飛ばし、体制が崩れた俺に足払いをかけてくるルーシア。目では追い付いていても、ルーシアの速過ぎる動きに俺の体がついてこず、なす術なく地面に倒され、そのまま組伏せられてしまう。
「えへへ。また勝っちゃいました」
「んぁぁぁぁぁっ! 手も足も出てねぇぇぇぇっ!! 何秒持った!?」
「んっと、大体8秒くらい、かな?」
ルーシアは押さえ込んでいた俺を解放するが、カサリナから告げられた余りにも短過ぎる時間に打ちのめされて、地面に突っ伏してしまう。
ま、前よりもさらに短くなってやがる・・・・
「無理だってば。セシリアと唯一まともに戦いになるのがルーシアだけなのに」
「ドチクショォォォ~・・・カサリナにも勝てやしねぇし、何故に元祖の俺が1番弱いんだよぉ・・・」
「で、でも、ケイくんが魔法を教えてくれなかったら、こんなに強くなれませんでしたよ? 全部ケイくんのおかげですっ。だから、そんなに落ち込まないでくださいっ。ね?」
呆れ気味に言うカサリナと、慌てて必死のフォローをしてくれるルーシア。
「はい。ルーシアさんの仰る通りだと思います。ですから、元気を出してください」
地面に突っ伏したままの俺の頭を撫でながら言うセシリア。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・情けねぇぇぇぇ・・・・確かに魔法のセンスはルーシアの方が圧倒的に上だし、身体能力全般強化魔法に限ってはセシリアは頭3つ分くらい飛び抜けた効果を発揮してる。それに、カサリナとは魔法の増強率に大差は無さそうだけど、元のランク差がそのまま出ちまってるんだから、理屈としては納得できなくはない。できなくはないんだけど、やっぱりこの様は情けねぇぇぇぇっ!!
いや、別にこいつらに負けたから致命的にダメなわけじゃないけど、男としてのプライドが・・・何か対抗策は無いもんか・・・・
「ハァ。まぁ、こればっかりは仕方ないか・・・・」
立ち上がって、服に着いた砂埃を払う。
「あ、でも・・・・」
「? 何か思い付いたの?」
「・・・・・いや、これはダメだな。お前らには使えん」
「? どんな手よ?」
「ケイくんの考え付く事って凄い事ばっかりだから聞いてみたいです」
「ご主人様、私もお聞きしたいです」
怪訝な顔のカサリナと、目を輝かせるルーシア、興味津々な様子のセシリアの視線が俺に集中する。
「いや、まるっきり暗殺者な発想だぞ? ≪転位≫」
転位魔法を発動させて、ルーシアの後ろに出現。そのまま腕を前に回して手刀をルーシアの首に当ててみせる。
「!!」
ビクンッと体を震わせるルーシア。
「こんな感じ。相手が単独で、しかも、初見の相手なら、確実に息の根を止められる」
「そ、そそそそそそっ、そうですねっ! こっ、これは、その、抵抗、できない、ですぅ・・・」
フラッと俺にもたれてくるルーシア。
「おっと、ごめんごめん。そんなにビックリさせちまったか?」
「いっ、いいえっ。あのっ、えと、そのっ」
肩を持って支えてやると、弾かれるように離れて、耳まで赤くなって俯いてしどろもどろになってしまうルーシア。
そんな勢いよく離れんでも・・・別に他意は無いんだし、あんまり嫌がんないで。泣くよ?
「ケ~イィィ~? 何よ? 今の」
ジト目になって低い声音で言ってくるカサリナ。
「な、何って、転位魔法だよ。見せた事あるだろ? それに、これだけはなんでか俺しか使えないみたいだから、俺の唯一のアドバンテージになる方法かなって」
「ご主人様、そういった実験は私にしてください。私はご主人様の為に在るんです」
「セシリアッ、そういうのってズルくない!?」
「しかし、これまでもご主人様の新しい魔法の実験と実証には私がご一緒させてもらってましたから」
「これまでも!? ケイ!? どういう事よ!?」
「ど、どうって、新しい魔法の対人効果の実証実験には誰かに相手してもらわないと・・・あぁ。危険な事は一切させてないぞ? 今みたいな攻撃的な手法を思い付いても、そういうのは怪我が無いように試せるヤツしかやってないし」
「そういう事ぢゃないぃぃぃぃっ!!」
俺の返答に、地団駄を踏みながら絶叫するカサリナ。
え、えぇぇぇぇ・・何を言ってんのかサッパリ分からないんですけどぉ・・・・
ルーシアは俯いたまま何かブツブツ言ってるし、カサリナは怒ってるし、セシリアもいきなり不機嫌だし・・・付き合いは長くなっても、やっぱり女の子の考えてる事はサッパリ分からん・・・・
よし、ここは話を変えよう。
「ま、まぁ、それはともかくとして、これで一通りの訓練は完了。明日は体をゆっくりと休めて、明後日から魔獣狩りに出掛けるとするか。」
俺の言葉に、カサリナはさらにジト目になって睨んでくる。
「露骨に話を変えたわね?」
「い、いや、ほら、準備は大切だろ? 魔獣狩りにはそれなりに時間もかかる筈だから、野宿になるだろうしさ」
「それはそうだけど・・・」
ツッコミを流してのさらなる強引な話題転換に、不納得そうに同意を示してくる。
よし、無理矢理もいいトコだけど、話は変わった! さすがに、もう昔程には簡単には誤魔化せなくなってるなぁ。まぁ、もうすぐ18歳なんだから、それも当然か。
「目標の魔獣は何にしますか? ご主人様」
「え? 最初に言ったろ? 黒竜」
「本気で言ってんの!?」
「まぁ、ヤバかったら即行で退却するけど」
「た、退却と言っても、黒竜の住み処の竜の峰まで行っちゃったら、簡単には逃げられませんよぉ?」
「大丈夫だって。俺の転位魔法で一瞬だから」
「「「あ」」」
不安そうだったセシリア達の表情が、一気に拍子抜けしたものに変わる。
「・・・そっか。ケイの転位魔法だったら、囲まれてようが遠かろうが全然関係無いんだ」
「まぁ、転位の距離に限界はあるけどな。精々徒歩半日分ってトコだ」
「もしかして、もう試したんですか?」
「ああ。あ、でも、4人で跳んだら、結果が変わるかもしれないか・・・念の為だ。1回跳んでおこうか。まだ時間は大丈夫だよな?」
「うん」「はいっ」
それぞれ首肯するカサリナとルーシア。
「最大で半日って事でしょ? それくらいなら平気よ。まだ午前中なんだし」
「よし。じゃあ、行くぞ? ≪転位≫」
俺の魔法が発動すると、その瞬間に周りの風景が変わる。
「す、凄い・・・凄いですよっ、ケイくんっ。もう完全に街の外に来ちゃいましたよっ」
「うわぁ・・・あれって、街の外壁よね? 遠くに霞んでるんだけど・・・ホントに凄い・・・」
転位魔法の結果に、珍しくテンションが上がっているルーシアと、半ば呆然とするカサリナ。
カサリナとルーシアは遠距離転位をしたのは初めてだもんな。実際に体験したら驚きもするか。
しかし、こういう反応が返ってくると、なんとなく優越感に浸れるなぁ。最近の模擬戦じゃいいトコ無しだったから、ちょっと自信回復。
「でも、転位の距離は縮まってるな。街が見えてるって事は精々5、6時間分ってトコか?」
「恐らくですが、それくらいかと思います。しかし、退却の距離としては十分過ぎるくらいかと思われます」
「だな。よし、じゃあ、実際に歩いて帰って距離を測ってみるか」
「オッケー」「はいっ」
カサリナとルーシアの返事を受けて、一同街へと足を向ける。
後は出発の準備をして本番だな。さて、どこまで俺達の力は通用するんだろうな? まぁ、さすがに勝てるとは思えないけど、勝負にはなると思うんだけどなぁ。
そして、翌朝。竜の峰までの道程に必要な物を揃える為に、セシリアと2人で買い物に出た。
竜の峰までは片道で約10日。食糧と水はしっかりと準備しとかないと、下手をしたら、途中で野垂れ死にだ。今の俺達の力量を測るのを目的にしてるのに、そうなったら笑うに笑えない。それに、街から離れたら道中にも危険はある。お決まりのモンスターだ。まだ実際には見た事は無いけど、結構定番な奴らがいるらしいのだ。
それに、戦場に出発する前にやりたい事がある。それをする前に、セシリアに確認しとかなきゃならない事があるのだ。セシリアが俺に仕えたままの状態で俺がそれを実行しちまったら、セシリアも屋敷にいられなくなっちまうんだから。
「セシリア?」
「はい。何でしょうか? ご主人様」
「セシリアは本当にいいのか?」
「? 何がでしょうか?」
「一緒に戦場に行くのが、だよ。危険なのは確かだろ? 当たり前みたいについてきてくれようとしてるけどさ」
「勿論です。私の主人はご主人様ですから」
「でも、またフォルティス家に仕えるようにすりゃ、その必要もなくなるだろ?」
俺の言葉に、セシリアはまた泣き出しそうな程に悲しそうな顔をして、足を止める。半歩遅れて俺も足を止めて、セシリアと向かい合う。
う・・・予想はしてたけど、やっぱり強烈な罪悪感・・・・でも、事が命に関わる話だ。<主人に仕える>っていう魔導生命体の存在意義を満たすだけなら、俺に付き合って危険なトコに行く必要も無い。それに、セシリアはここまで俺を育てて守ってきてくれた。マゼリシオ婆さんに与えられた<兵力となるように育てる>って役目は十分過ぎる程に果たしてくれたって言っていいだろう。優しいセシリアになんだかんだでずっと甘えてきちまったけど、俺もいい加減、親離れをしないとな。
「ご主人様には、私はもう必要ありません、か?」
「居てくれた方が嬉しいけどさ。もうすぐ俺も18だ。セシリアがいなくちゃ生きてけないような子どもじゃないよ。安心してくれ」
「・・・・・・嘘、吐き」
「え?」
「・・・ご主人様は、嘘吐きです」
「へ?」
「昔、ご主人様は仰ってくれました・・・用済みになるなんて2度と言うな、と。わ、私を家族みたいなものだと」
「それはそうだけど、今回は」
「私の主人はご主人様だけですっ!! ご主人様のバカッ!!」
今までに聞いた事のない大声にハッキリと怒りと悲しみを乗せて言い放って、セシリアは走り出してしまう。一瞬呆然としてしまうが、俺は慌てて後を追う。
セシリアがあんな事を言うなんて・・・そんな風に思いながら俺の側にいてくれたなんて、正直、思ってもみなかった。だから、あんなに甲斐甲斐しく世話をしてくれてたのか? だから、あんなに心配してくれてたのか? 単にセシリアの性格なだけだと思ってた・・・
くそっ!! 俺の鈍感大馬鹿野郎!!
セシリアがずっと保護者目線だった事を、主人公は<それがセシリアに与えられた役目だから>だと思っていました。そう命じられたのをしっかりと聞いていたからという事も理由の1つです。前回で表面化したセシリアの心境の変化も、ずっとそう思っていたから時間が経っても気付けていなかったのです。
主人公の言葉にショックを受けて走り去ってしまったセシリアに主人公は話を聞いてもらえるのでしょうか?
では、これにて第二章 第四部を閉幕とさせていただきます。
お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。




