2人の友人と戦闘訓練目標といつもの喧嘩
僅か3年後には戦場送りとなる事が決まってしまった主人公とルーシア。そこに着いていく事を決めたカサリナ。普通なら明るくなんてとても振る舞える状況ではない筈なのですが・・・
第二章 青年期 第二部の開幕です。
どうぞ、最後までお楽しみくださいませ。
それからカサリナの家に向かい、俺は誕生日を祝ってもらった。
気心の知れた友人達が腕を振るってくれた料理は意外な程に美味かったし、中身は元28歳のおっさんだけど、<おめでとう>と心からの笑顔で言ってくれるのはやっぱり嬉しい。2人共、超絶美少女だしな。
「ねぇ、ケイ?」
「ん? どうした?」
「訓練って明日から始めるのよね?」
「ああ。俺はジェイスのおかげで多少は動けるようになってるけど、ルーシアはからっきしだろうしな」
「ジェイスのおかげって・・・訓練扱いなんだ、アレ・・」
「兄様に勝負を挑まれるのを訓練扱いできる同い年の子なんて、絶対にいませんよ・・」
脱力した様子で言うカサリナとルーシア。
「そこは魔法のおかげだな。あぁ、そうだ。戦地に行くなら、肉体強度レベルはしっかりと把握しとかないとマズイんだけど」
「? どうしてですか?」
「生き残る為さ。受けても全く問題が無い攻撃なら受けても構わないけど、受けたらマズイ攻撃は躱すか威力を殺さないと生死に関わる」
「あ、なるほど。それを正確に見極める為には自分の肉体強度を把握しておかないといけませんもんね」
「そういう事だ」
「しかし、どのように確認されるおつもりですか?」
「1番手っ取り早いのは誰かの攻撃を受けてみるとかなんだけど。ジェイスとか」
「ダメです」「やっ、止めてくださいっ。そんなの危な過ぎますっ」
俺の意見を即座に却下するセシリアとルーシア。
まぁ、そう言うと思ってたよ。セシリアは過保護だし、ルーシアも心配性だし。
「そんなのダメに決まってるじゃない。もし、耐えられない攻撃だったらどうするのよ?」
嘆息混じりに言うカサリナ。
お前もか。大概心配性だなぁ。まぁ、こいつは気が優しいからな。
「まぁ、それには一理あるから、いきなりAランクってのはどうかとは思うけど」
「ランクの問題じゃないのっ! あんたが大怪我したりしたらシャレになんないでしょっ!!」
「ご主人様に危険な事はさせられません」
「危ない事は止めてましょうよ。ね? ケイくん」
「っても、それ以外に確認する方法なんてあるか?」
「・・・・うちの鑑定士に見させましょ」
「ダメだ。面倒な事になりかねない」
「どうしてよ!?」
「カサリナはともかく、俺とルーシアは[前兆の子]なんだぞ? それが、いきなり高ランクになってみろ。騒ぎになって魔法がバレる」
「う・・・」
「そうなったら、きっと上級貴族の魔族からは命を狙われますね。自分達の地位と誇りを魔法なんて弱者の証でひっくり返される事になるんですから」
「だろうな。特にフォルティス家なんて怖そうだ」
声を僅かに震わせて言うルーシアに、軽く同意の言葉を続ける。
まぁ、そんな事態になるような迂闊な事はしないけど。カサリナ達も魔法を秘密にってのは守ってくれてるしな。
「・・・しかし、だからと言って危険な行為を見過ごすわけにはいきません。ご主人様に万が一の事があったら・・・・」
「低いランクからでも不安か? 例えば、魔法無しのルーシアに殴ってもらうとか」
「あっ、あたしがケイくんをですか!? 絶対に無理ですっ! 嫌ですっ!! それならあたしを殴ってくださいっ!!」
俺の言葉に、珍しく大きな声で完全拒否の言葉を口にするルーシア。
「そ、そこまで嫌なのか?」
俺の問いに、コクコク頷くルーシア。
「うむぅ・・・・じゃあ、とりあえず、ある程度以上に動けるようになってから実戦訓練してみて確認してくか」
「実戦訓練?」
「ああ。魔獣狩りでな」
「魔獣狩り!? それって訓練所の最終訓練課題じゃない!」
「そ、そうなんですか?」
「そうよっ! しかも、高ランクの魔族を2人は含んだ6人以上のパーティーで行くのが普通だっていうヤツよっ!?」
「高ランクっても、A+程度が限界だろ? S以上はレアなんだし。俺1人でもAランクのジェイスがまるで相手にならないんだから、さほどムチャとも思わんけど」
「う、う~ん・・・そう言われちゃうと・・・・・そのケイに余裕でついてっちゃうルーシアとブッチギリで上の動きしてるセシリアがいるしなぁ・・・」
「んで、カサリナは俺と同等以上。少なくとも、動きと腕力に関しては低く見積もってもAランク以上な魔族が4人いるんだ。低ランクを含めた6人パーティーよりかは戦力は上だろ」
「・・・・そんな風に改めて聞かされると、なんだかとんでもないですよね。低く見積もってA以上って・・・・」
「そうですね。やっぱりご主人様の魔法は凄いです」
「まぁ、動けるようになってからだけどな」
「うん。分かった。でも、魔獣相手にわざと攻撃受けるとかは無しだかんね」
「分かってるよ。さすがに魔獣相手にそんなムチャはしたくない。同じ魔族ならともかく」
「目標にする魔獣のランクは訓練結果次第、でしょうか?」
「いや、目標設定をして、そこを目指す。だから、狩る魔獣は黒竜だ」
「「「黒竜!?」ですか!?」」
俺の設定した目標に、悲鳴に近い声を上げるセシリア達。
「いや、あくまでも目標な。俺も本でしか知らないけど、アレを狩れるくらいになっといたらまず死なんだろ?」
「そ、そりゃそうでしょ。黒竜を狩れた魔族なんて、英雄譚に出てくる魔王ケイグラル様くらいよ?」
「ご主人様のお名前を考える時に参考にした魔王様ですね」
「そうなのか?」
「はい」
「スケールデカいな・・・名前負けするっての」
「そんな事ないですよっ。ケイくんは凄いんですからっ」
「ははは。ありがとな、ルーシア」
力説してくれるルーシアの頭を撫でてやると、一気に耳まで真っ赤になって俯いてしまうルーシア。
「・・ケイって、ルーシアの頭、よく撫でてるわよね~?」
ジト目で言うカサリナ。
「そうか? 特に意識してないけど」
「そぉなの」
不満そうに言うカサリナの頭を撫でてやると、カサリナも真っ赤になってしまう。
「んじゃ、これでいいか?」
「べっ、別になっなっ、撫でろなんて・・・」
言いながら俯いていってしまうカサリナ。
撫でられるのがそんなに照れ臭いか? どうにも妹感覚が抜けきらないから気軽にしてたけど、そろそろ自重しなきゃならんかなぁ。人間で言えば思春期頃だもんな。うん、自重しよう。まぁ、恋愛対象になってるとも思えんけど。何せ、外見が・・・
いや、考えるのは止めよう。俺の精神衛生上、非常によろしくない。
「ご主人様?」
「ん?」
セシリアの方に向き直り、目が合うと、何故か僅かに目を逸らすセシリア。
「・・・いえ、なんでも、ないです・・・・」
「? どした? 珍しい」
「いえ、私にもなんだかよく・・・・・」
戸惑いを混じらせた声音で言うセシリア。
「?? まぁ、何かあるんなら言ってくれよ?」
「はい。ご主人様」
答えて首肯するセシリア。
なんだなんだ? ホントに珍しいな。何かあったら絶対に言ってたのに。ここじゃ言いにくいとかなのかね? 帰ったら聞いてみるか。
それから、カサリナとルーシアが作ってくれた料理を平らげて、明日からの訓練の待ち合わせを決めて解散。いつもならカサリナを送ってからルーシアって順番なんだけど、今日はカサリナの家にお邪魔してたから、ルーシアを送るだけ。カサリナに見送られて、家路に着いた。
「もう送ってもらわなくても大丈夫ですよ? いつも悪いですし・・・」
「バーカ。気にすんなっていつも言ってるだろ? この時間も楽しいんだしな」
「は、はい」
赤くなって俯いてしまうルーシア。
「え、えと・・・ありがとう、ございます、ケイくん」
「おう」
照れながらも礼の言葉を口にするルーシアに、軽く言葉を返しておく。
ルーシアは未だにイジメられてるんだよなぁ。直接手を出してくる馬鹿は大概駆除したけど、懲りない奴は懲りないし。ルーシアも反撃できれば、間違いなく負けないだろうけど、気が優しすぎて手を出したがらないからなぁ。まぁ、逃げの一手でも捕まる事なんかないみたいだけど。
「でも、またあたしに文句言ってくる子がいても放っておいてくださいね? 紅魔のケイくんから手を出しちゃったら大変な事になっちゃいますから・・・」
「あぁ。この前の事言ってるのか? 別に問題なかったぞ? なぁ?」
「はい。奥方様は全く取り合われませんでした。信じてもなかったようですけれど・・・」
「まぁ、[前兆の子]が他の部族の奴を叩きのめしたとか信じられんだろうからなぁ。ナザリド辺りがやってたら褒めちぎってそうだけど」
「も、問題なかったんですか? 部族間の戦争だとか言ってた大人もいましたよ?」
「なんか言ってたみたいだなぁ。でも、俺が[前兆の子]だって分かったらズコズコと引き上げていってたぞ?」
「あ・・・[前兆の子]に負けたなんて事は・・・・」
「ああ。[前兆の子]に負けたって事は、圧倒的にその一族よりも劣ってるって事になるんだから、大事にはしたくないだろ。一族の恥以外の何物でもないだろうし。便利なもんだ、[前兆の子]ってのは」
「べ、便利、ですか?」
「ああ。こっちが勝ったら、相手はどれだけ手酷くやられても自分の名誉の為に文句も言えなくなるし、負けたとしても[前兆の子]に見栄もくそもないんだから、誰に咎められる事も無い。楽なもんだろ?」
俺の言葉に、くすくすと小さく笑うルーシア。
「ん? なんか変な事言ったか?」
「い、いいえ。ごめんなさい。ケイくんは本当に凄いなぁって思って」
「へ?」
「[前兆の子]なんて、どこの一族でも冷たくされていて産まれた事を嫌がってる子ばかりなのに、ケイくんは初めて会った時から堂々としていて、今も[前兆の子]が便利だなんて凄く前向きな事を言ってて・・・信じられなかったんですよ? ケイくんも[前兆の子]だなんて」
「まぁ、変わり者だからな、俺は」
「うん。でも、ケイくんのおかげで[前兆の子]として産まれてきた事が嫌じゃなくなっちゃいました。ううん、[前兆の子]として産まれてきて良かったって思ってます。そのおかげでケイくんともカサリナちゃんとも仲良くなれましたから」
「ははは。そりゃよかった。もうルーシアも俺と同じく変わり者の仲間入りだな」
「はいっ。ケイくんとおんなじですっ」
嬉しそうに言うルーシア。
そっか。明るくなったとは思ってたけど、[前兆の子]っていうコンプレックスは多少なりとも解消されてるんだな。そのキッカケになれたってのなら、ホントに嬉しい限りだ。
「おい! ケイクイル フォルティス!!」
微笑ましい気持ちになっていた所に、耳慣れた声が飛んできて、俺達は足を止める。
うわぁ・・・また来たよ、懲りない奴が・・・・
「人違いでーす。さ、行こう」
「そんな言い逃れが通用すると思うのか!?」
サラッと恍けてそのまま歩き出そうとした俺の前に回り込んできて吠えるジェイス。
「今日こそはこれまでの借りを返させてもらうぞ!」
「だからぁ、リベンジマッチをするんなら絶対の自信を付けてから来いってのぉ・・・前から大して時間も経ってないのに、勝てるわきゃないだろーが・・・100年後に来い、100年後に」
「コ、コケにしやがって・・・」
呆れ返って言う俺の言葉に、怒りで顔を赤くして肩を震わせるジェイス。
「ケ、ケイくん、あんまり怒らせちゃダメですよぉ。兄様も強くなっていってるんです。危ないですよぉ」
「ご主人様。煩わしいのでしたら、私が片付けますが?」
「待って、セシリア。片付けるって、殺すのはダメだぞ?」
「はい。当分の間、ベッドから動けなくするだけにします」
「魔導生命体ごときが、この俺を片付けるだと!? 舐めるのも」
「セシリアは俺より圧倒的に強いぞ?」
ジェイスのセリフを遮って放った俺の一言に、ジェイスは硬直してしまう。
「本気になったセシリアには触れる事もできやしないんだから」
「バ・・・バかな・・・・魔導生命体ごときが・・・・・・」
「ついでに言っとくけどな、ジェイスよ? セシリアを侮蔑するような発言はこれっきりにしとけ」
「何・・?」
訝しげな顔をするジェイスを睨み付けると、ジェイスは顔を引き攣らせて、僅かに後退りする。
「壊すぞ」
「うっ!?」
「警告は1度までだ。いいな?」
「グッ・・・俺に言う事を聞かせたければ、実力で聞かせてみせろ!!」
ヤケクソ気味に言い放って、俺に殴りかかってくるジェイス。
ハァ・・まぁ、こいつは正面切って一人で俺に向かってき続けてる辺り、根性だけは大したもんなんだけどなぁ。ルーシアの件を心底反省して改めて、こういう無駄に上から目線なトコがなけりゃ、少しは認めてやれるのに。
昔と違って、瞬間的に発動できるようになった魔法を使い、ジェイスの振るう拳を躱して、すれ違い様に腹に拳を突き立ててやる。
「ガッ!?」
額にビッシリと脂汗を浮かべてよろめくジェイスの腹を膝で蹴り上げると、ジェイスはそのまま地面に倒れてしまう。
「これで納得か?」
「バ、カな・・・たっ、た、2発で、こ、こん、な・・・・・」
這いつくばったままで言うジェイス。
まぁ、俺が手を出したのって5歳の頃以来だもんなぁ。信じられんのも分からんじゃないけど。
「まぁ、好きに悔しがっててくれ。お前がどう言おうが俺の勝ちは勝ちだ。魔族の誇りがあるんなら、勝負の前に口にした言葉は守れよ」
「グッ・・・」
俺の言葉に、顔を伏せるジェイス。
勝負で決着を付けた事には四の五の言わないってのが、強さを絶対の価値としてる魔族の誇りだ。物凄くシンプルで分かりやすいけど、やっぱりどうにも俺の肌には合わないんだよなぁ。こういう時には話が楽でいいんだけど。
「さ、行こうか」
「あ、は、はいっ」「はい。ご主人様」
セシリアとルーシアの返事を受けて、3人揃って再びルーシアの家へと足を進め始める。
「今日はどうして手を出したんですか? いつも兄様が動けなくなるまで躱して終わらせてるのに」
不思議そうに問いかけてくるルーシア。
「あいつに言う事を聞かそうと思ったら、完全に格の違いを見せつけてやんないと無理かなって思ってさ」
「言う事を? あ、セシリアさんの事、ですか?」
「ああ。一般的には魔導生命体が召し使いな立場にあるのは分かってるけど、セシリアは俺の家族だからな。あんな態度は看過できない」
「わ、私は気にしていませんよ?」
「俺が気に入らないんだよ」
動揺した声で言うセシリアに、キッパリと言い切ってやる。
「は、はい。私のご主人様」
言いながらそっと俺の手を握ってくるセシリア。
おぅ? これはもしかして、喜びを表現する為に手を握ってきてるのか? メチャクチャ恥ずかしいと言うか、照れ臭いと言うか・・・・いや、嬉しいんだけどね? それなら、笑ってくれる方がもっと嬉しいんだけどなぁ。未だに、泣きそうな顔とビックリした顔しか見た事ないし・・・なんとなくは読み取れるんだけど、ハッキリ笑ったトコは全くだもんなぁ。
ルーシアがいる俺の右側からの視線が痛いような気がしながら、努めて平然としてルーシアを家まで送り届けていった。
別れ際に、普通なら耳には届かないくらいの小さな声で<ケイくんのバカ>って言ってたのが、悶えるくらいに可愛かったのはルーシア本人には秘密にしとこう。照れ屋なのは昔から変わってないからなぁ。そこがまた可愛いわけですが。
厳しい状況にも拘わらず、主人公達が微塵も暗くなっていないようです。それは魔法によって強くなっている自信がそれぞれの根底にあるからなんです。何せ、イジメっ子達を悉く軽く撃退してきた主人公と同等以上の力がある事を実感しているんですから、心に余裕が持てても不思議ではありませんよね。
そんな中でも、主人公は確実に生き残れるようにと目標を敢えて高過ぎる程に高く設定しました。誰一人として、決して死んでほしくないからこそのムチャな目標設定なんです。
では、これにて第二章 第二部を閉幕とさせていただきます。
お付き合いいただいた皆様に感謝を。よろしければ、次回もまたお付き合いくださいませ。




