88時間目 「課外授業~騎士と武器商人と召喚者~」 ※流血・グロ表現注意
2016年6月29日初投稿。
続編を投稿させていただきます。
まだまだ、怒涛の一週間が終わらない現状に、すでに主人公ではなく作者がげんなりしております。
88話目です。
いきなり、ウィンドウズ10にアップデートされてしまった所為で、パソコンの勝手がよくわかりませぬ……(´・ω・`)
***
目の前で、ゆらゆらと揺れる灯火。
その奥で、爛々と殺気に濁った、射抜くような眼が光っていた。
暗く湿った空気に、どこかの地下である事は分かる。
黴臭い上に、食べ物の饐えた臭いがして、ガンガンと痛む頭が更に悪化していく。
朦朧とする意識。
目の前がぐるぐると回るような感覚に、眩暈すらも感じた。
かろうじて動く首以外は、ほとんどが拘束されていると見なくても分かる。
椅子のようなものに座らされているが、手や足には冷たい革と鉄の感触があった。
拷問器具か何かなのか、ほとんど身動きは出来ない。
「さて、アビゲイル坊ちゃん。気分はどうだい?」
「………さい、あく…だ」
「そうかい、そうかい。結構なことだ」
ランプの仄かな灯りの下、進み出て来た一人の男。
無造作な短めの黒い髪で、色白の青年だ。
意識を失う前に見た、青年と一致した。
ギンジから、『ハル』と呼ばれていた、自棄に装飾品で着飾った、見た目が姦しい青年だった。
そして、その時に、誰と一緒だったのかも、もうとっくの昔に思い出している。
「どうして、……こんなことを…?」
なかなか舌が動いてくれず、途切れ途切れな言葉。
なんとか言葉として紡いだが、はたして音として伝わっているのかいないのか。
「………兄、さん…」
「………。」
ランプの光の届かない、暗い部屋の奥に彼はいた。
怒りか怨みか、はたまた殺意なのか。
濁った瞳をオレに向けて、オレの兄であるシュヴァルツ・ウィンチェスターはそこにいた。
どうしてこんな事になったのか、少し曖昧ながら、それでも察しは付く。
姉さんが乗っていた馬車に、半ば無理やりギンジに押し込められた。
乗せられた後は、姉さんからの発狂しそうな小言を食らいながら、これまた発狂しそうな彼等の視線を受けて、居心地の悪い時間を味わっていたのだ。
その最中、兄さんが突然話し掛けて来た。
問いかけてきたとも言う。
8年以上前から音信不通だった兄さんは、会うと委縮してしまうような威圧感すらも昔と全く変わっていなかった。
しかし、問い掛けをされたのは、珍しい事だ。
自分は、片手で数える程度しか覚えていない。
それ以前の記憶に残る前ならば何度もあったのかもしれないが、物覚えが付いた頃には、もう兄はオレに問いかけるどころか、話しかけることすらしなかったのに。
その突然の質問の内容は、『予言の騎士』であるギンジについて。
そして、そんな彼に纏わる噂や風聞の真偽だ。
一瞬、言われた意味が理解出来なかった。
どう答えたら良いものかも、分からなかった。
ましてや、YESかNOか、答える暇さえ無かった。
それに答える前に、オレを今覗き込んでいるハルと言う青年に、ナイフで太ももを突き刺されたからだ。
あまりの激痛に意識が軽く飛びかけた。
なんとか絶叫は堪えたものの、それもほとんど意味を成さず。
気付いた時には、目の前が真っ暗になっていた。
おそらく、ギンジが言っていたように、毒が塗られていたのだろう。
彼が持っていた、大振りのナイフに。
間謀を使って調べた内容の中にも、毒を扱う事は書いてあった。
だというのに、オレはその警戒すべき件をすっかり忘れていた。
気付けば、この状況である。
しかも、毒はまだ抜け切っておらず、先ほどから冷や汗とも脂汗とも判断のつかない汗がこめかみを伝っている。
背中は、既にびっしょりと濡れてしまっていた。
「さて、そんな質問はどうでも良いんだ。
オレ達の質問にアンタは答えるだけで良い。
この意味は、分かるな?」
分かるのは、分かる。
だが、その質問に対して、オレは答えたくなかった。
答えようとは思わなかった。
「………ああ」
だというのに、口は勝手に言葉を吐き出す。
か細い息と、朦朧とする意識の中で、口だけが鮮明に動くのが分かった。
………不味い。
脳内で、警鐘が鳴らされている。
「アンタは、誰だ?」
再度、質問を受けた。
簡単な質問だが、これにもオレは答えたくない。
「………アビゲイル・ウィンチェスター」
答えたくないのに、口は勝手に動いている。
不味い。
これは、自白剤と同じ作用のある毒だ。
「アンタの職業は?」
やめろ、答えるな。
「………王国、騎士団、騎士団長…」
気持ちとは裏腹に、唇が音を紡ぐ。
「アンタの属性は?」
駄目だ、これ以上は。
「………『聖』属性、…『雷』属性、…『風』属性…」
それでも、唇が閉じられる事は無かった。
「わぁお、トリプルってやつかよ。
じゃあ、一番得意な魔法の属性は?」
もう、止めてくれ。
「………『雷』属性」
止めようとしても、止まらない口。
いっそ、縫い付けてしまいたいとも思ってしまう。
言葉と共に、抗う気力も抜け出ている気がした。
些細な質問ばかりだったが、ハルと呼ばれた青年は、満足したかのように頷いた。
おそらく、薬がどれだけ効いているのか、確認をしたのだろう。
そして、後方にいた兄へと視線を向け、顎をしゃくる。
昔から好きだった酒のボトルを煽った兄さん。
ボトルをテーブルらしき場所に置いたと同時に立ちあがり、彼はオレの前まで歩いてきた。
ランプの下に、照らし出される秀麗な面立ち。
髪の色さえ違わなければ、オレとそっくりな兄さん。
しかし、今はその表情も影も、全てがオレとは間逆のように思える。
例えるなら、地獄の閻魔だ。
「聞きたいことは、山程あるが、まずは最初の質問に戻ろうか?」
そう言って、にやりと笑った兄さんは、近くにあった椅子を足で引っ掛けて寄せる。
そこにどっかりと座り、前のめりになったかと思えば、
「『予言の騎士』について、お前はどう思っている?
あの優男が関わっている噂が、どこまで本当でどこまで与太話か、教えろ」
開口一番、兄さんはオレが意識を失う前にされた質問を、再度行なった。
言葉通り、最初の質問に戻るつもりだったようだ。
どう答えるべきなのか、オレには分からない。
だが、口は勝手に動く。
確か、オレも彼と出会う前に聞いた噂話が要因で、彼に対してかなり喧嘩腰で対応してしまった。
それに対して、彼は隠し事はしながらも、理由まで交えて語ってくれた。
「………子ども達を囲っている噂は、嘘だ。
………生徒達が奴隷などというのも、嘘だ…。
肉体関係も、………生徒達の誰とも、持ってはいない。
………女神様も、列記とした、『聖王教会』の女神様で、………彼とは眷族として、契約している…」
思えば、醜悪な風聞であると言わざるを得ない。
騎士団の一部の蛮人どもが悪意を持って流した噂は、彼だけでなく生徒達も、女神様すらも蔑んでいるものばかりだった。
その他にも、色々と醜悪な風聞は存在した。
やれ、生徒達を夜な夜な閨に招いて乱交をしているだの、無理な同衾を強いているだの、風呂に連れ込んでいた等の下劣な噂。
または、騎士達を決闘で云われなく処刑しただの、でっち上げの嘘で王国から金品を騙し取っただの、騎士達の弱みを握り、これまた奴隷のように扱っているだのと、本来の話を歪曲されて広まった噂の数々。
いまでこそ、鎮火したとも言える火種ではあるが、まだ騎士団の中にはそう言った醜聞を信じている者も多いと聞く。
彼と対面すれば、寛大なギンジの性格上有り得ないと、すぐに理解は出来る。
しかし、彼と会う機会のある騎士達は、かなり限定されている。
醜悪な噂は落ち着いただけであり、また何かしらの云われない不祥事が発覚すれば、簡単に燃え広がるだろう。
ぽろぽろと、空気を吐いているのと同義に、言葉を吐き続ける口。
シュヴァルツ兄さんは、オレの様子を見て少しだけ眼を瞠っていた。
背後で、メモか何かを取って、噂と照合しているだろうハルと言う青年も、言葉が進むにつれて眉を顰めていった。
「証拠はあるのか?」
「………オレには、アイツの記憶が、………半分だけ、存在している」
ああ、馬鹿なことだ。
この話は、絶対に漏らしてはいけない秘め事で、オレだけでは無く、ギンジにとっても最悪な露見であるというのに。
案の定、兄さん達の目線は、ぎろりと鋭くなった。
しかし、薬で饒舌になった唇は、止まる事は無い。
「魔族に身体を、乗っ取られ、彼を襲った夜に、………予期せず、オレの中に、彼の記憶が残った」
「その記憶は、どこからどこまでだ?」
「………子どもの頃の記憶から、3年前の、療養生活まで…」
「………療養生活?アイツ、何か怪我でもしてたのか?」
駄目だ。
これ以上は、駄目だ。
こんな話、これ以上は………ッ!
「…………。」
「無駄だ、抗っても。
………それとも、無駄に抗って、更に薬を追加されて、廃人になりたいのか?」
そう言って、持っていた羽ペンを、瞬く間にナイフへと入れ替えたハル。
「………いっそ、廃人にしてくれ」
だが、オレの本心は、やはりこの話を拒んでいたようだ。
彼の不名誉を、彼の知らないところで、こんな形で吐き散らすぐらいなら、廃人にでもして欲しい。
おそらく、彼がこの事を知れば、烈火の如く怒るだろう事も分かっている。
だったらいっそ、今此処で殺して欲しいとも思った。
「チッ…!テメェの弟は、面倒臭いな」
「………昔から、頑固ではあったな。…親父にそっくりだ」
「………それは、兄さんも一緒…だ」
「うるせぇよ、黙れ」
本音を口にしてしまう薬の所為で、殴られた。
強かに頂いた拳は、昔と変わらず重く、痛かった。
「んで?アイツ、療養生活の前は、どんな大怪我したって?」
結局、ハルによって、戻されてしまった話題。
オレが、絶対に言ってはいけない、彼自身の秘密。
彼が絶対に知られたくないだろう、絶対の秘密。
「………蛇を操る、異人に鹵獲された。
………人体実験と言う、拷問と、………男に輪姦され、辱めを受けた…」
「…………嘘、だろ」
「………。」
眼が零れ落ちそうな程に瞠った兄さん。
絶句したハル。
想像に絶する、凄惨な過去だったろう。
それを、今でこそ見なくなったものの、毎夜毎晩夢にうなされ続けた自分だって、未だに信じられない所業の数々。
体に差し込まれる、細長い管の束。
変色した身体の一部に、身体を這い回る蛇の感触は、鮮明すぎる。
まるで塗料で塗り潰されたかのように、黒い影が光を遮って言葉を発するのだ。
「………『おはよう、実験体』………」
あの言葉は、オレにとっても既に禁句だ。
もし、ギンジから言われたとしても、オレは彼を殴ってしまうだろう。
この質問をした彼等はといえば、その場で真っ青な顔で硬直してしまっている。
兄は、今さっき飲んだばかりの酒を、吐いてしまいそうだ。
「………蛇が嫌いなのは、その所為だ。
………オレも、もう蛇は嫌いだ。
………腕の麻痺は、その時の後遺症だと、言われていた………。
………療養はしても、もう動かない、と………医者らしき、男性と女性に、相次いで、言われていた…」
彼が受けた屈辱も、腕が動かない要因も、文字通り洗いざらい話してしまった。
ましてや、薬で饒舌になった口は、他にも色々な事を答えてしまっている。
彼の髪がウィッグである事も、その下の色が銀色である事も、更には身体変化として眼球の色素が反転する事や体に、蛇の鱗が浮き出る不思議な刺青の事すらも。
薬の所為とはいえ、オレはまた彼を裏切った。
もう、元の関係に戻るどころか、この世で生きることも許してもらえないかもしれない。
彼に知られれば、間違いなくオレは首を落とされる。
有無を言わさず、殺される。
色々な意味で、涙が零れて来た。
「………ギンジは、それでも、裏切らなかった。
………彼の世界で、仲間と認識していた者達を、………どれだけ甚振られても、売ろうとはしなかった………」
強情な性格の所為で、彼はあんな体になった。
「何度も…、何度も………甚振られて、それでも、彼は仲間を売らなかった………。
業を煮やして、魔術師のような男が、『サイキン(※細菌)』という、毒のようなものを、………体に埋め込んだ………」
死ぬか、生きるか、好きな方を選べ、と。
死を選ぶならば、そのまま放置される。
生を選ぶならば、そのまま放逐される。
………仲間達を死に至らしめる、兵器として返還するという意味で。
勿論、彼は死を選んだ。
そして、放置された。
まるで、襤褸雑巾のように、実験に使われただろう死体が散乱する不衛生な地下の一室に。
そうして、誰にも知られずにゆっくりと体の機能を停止させていく。
幸いにも、死ぬよりも先に、助けが来た。
救援としてやって来たのは、彼が後輩として可愛がり、また同僚として背中を追い続けていた青年で、
「………彼は、助け出した瞬間に、大泣きした………。
喉が張り裂けるのでは、無いかと思う程の、絶叫を上げて………。
………それを、ギンジはただ、眺めているしか、出来なかった………」
「もう、良い!…止めろッ!」
「………ッ、」
話せと言った癖に、今度は止めろと言われる。
理不尽極まりない。
だが、今は、その理不尽さがありがたかった。
これ以上、不用意に彼の過去を、吐き散らす事はしなくて済む。
もう、手遅れだと分かっている。
それでも、これ以上は話さなくて良いと思うと、安堵の溜息が洩れた。
そこで、兄さんがふらり、と席を立った。
暗がりに向かい、灯りの届かない場所に行ったと同時に、嘔吐く。
やはり、吐き気を感じていたようだ。
意地が悪いとは思うが、
「………自業自得、だ………」
「………。」
素直に口を吐いて出てしまった言葉だったが、咎める者はいなかった。
絶句したまま、まるで人形のように硬直してしまっているハル。
兄さんは、本格的に吐いているらしく、こちらに構っている暇は無さそうだ。
「………踏み込む、な…。頼むから、これ以上、………ギンジの事は聞くな」
「………ッ、そうも、いかねぇんだよ」
「………ああ」
懇願をしても、彼等はまだオレに尋問を続けるつもりだったようだ。
………何故、こんな事をするのだろう?
兄さんの真意が、今のオレにはどうしても読み取れない。
「どうして…?」
「………黙って、口を緩めてりゃ良いんだよ、お前はッ!
ハル、続けろ!………噂とかは、もうどうでも良い」
「………分かった」
ただ、尋問の内容については、切り替えるらしい。
自棄にあっさりと、追及が終わった事に、再三の安堵の溜息が洩れた。
だが、それがお気に召さなかったのか。
意味もなく、ハルから殴られて、口端が切れた。
「次の質問だ。
お前から見て銀次は、どう見える?」
「………見栄っ張りで、強情だ………。
しかも、すぐに無茶をして、怪我をしてばかり、で………」
尋問相手がハルに切り替わっただけで、結局何一つ変わらない。
どれだけ持続時間のある薬が使われたのかは分からないが、未だに抜ける様子は見られない。
普段以上に、饒舌に話している所為か、喉が乾いた。
喉が張り付いて痛みを発しているのに、言葉が止まる事は無い。
ただ、これに関しては、薬が使われていても使われていなくても、オレは間違いなく本心を話しただろう。
彼は、優しい。
真面目で勤勉だし、年齢以上に達観していて、冷静過ぎる。
自分でも、見ていて怖いと感じるところが多々あった。
昔の自分と比べるべくもない。
必要以上に寛大で、オレの事も何度も許してくれた。
怪我をさせた事も、怯えさせてしまった事も、泣かせてしまった事だって何度もあるのに、その都度何度も許してくれた。
最近では、ローガンの時も同じように、許していた。
お互い様だったと言いながら、ラピスですらまだわだかまりを持っているような事を、彼はすぐに許していた。
その時、ローガンが隠れて泣いていた事は、知っている。
彼の寛大な心に感動し、そんな彼に甘えてしまった自分の不甲斐無さを恥じて。
彼女の気持ちは、オレも良く分かった。
もう、しばらく彼とは、まともな口も利けていないものの、オレも同じだったから。
アイツは、そうして、誰かの心の隙間を埋めようとしてくれる。
欲しい答えを、簡単に返してくれる。
会話をする上で、彼はそうして本心を探り、真意を見極めてくれるからだ。
たまに悪戯に貶されたり、からかわれたり、それこそ罵倒されたりもするが、それも戯れだと分かっている。
なのに、少し鈍感なのは、玉に瑕だろうか。
イノタやソフィア、エマ、オリビア、シャルは勿論のことながら、彼に教師以上の好感を持っているだろう。
見ていて分かる。
しかも、最近ではラピスやローガン、果てはアンジェ殿やアメジスまで、彼を熱烈な視線で見ていた。
何故、気付かないのか不思議でならない。
気付いていて、気付かない振りをしているのかもしれないとは思うが、それがどうしてなのかは分からない。
自分の事は、無頓着すぎて、思わず怒りを感じる事はしょっちゅうだった。
寝る時間まで削って職務をし、また酷い時には食事すらも削っていた。
なのに、鍛練もこなし、授業もこなし、校舎の雑務をこなし、『予言の騎士』としての本業もこなし、果てには背負わなくて良い面倒事まで背負い込み、それをこなす。
死にかける事は、最近では日常茶飯事だ。
討伐隊の時は、オレが連れ出したのが悪かったと思っている。
だが、次のSランクの特別依頼をこなした時の事は、十中八九無理をし過ぎだと思った。
その次に死にかけたのは、魔力が暴走した時だったか。
騎士採用試験では、乱入した『天龍族』相手に、要らぬ大見栄を切っていた。
シャル達の親子の関係に立ち行った時は、徹夜で2日以上も動き回っていたのでは無かったか。
………いや、あの時は、オレの所為でもあったのだ。
恨み事は、オレが言われるべきことであって、彼に言うべきものでは無い。
だが、その後のローガンの時と、召喚者達の件は別だ。
ローガンの時など、特に冷や冷やした。
腹にハルバートの一突きを受けてまでも、相手を止めようと考えるか?
普通だったら、考えない。
オレも、そもそも考えないし、考えられなかった。
だが、彼はそうした。
背後にいたラピスやシャル達を、危険な目に合わせない為に。
無頓着すぎて、怖い。
命に対する執着が、元々無いのか、薄っぺらい薄氷のように思えてしまう。
だから、構わずにはいられない。
無理をしていないか、無茶をしていないか、怪我をしてしまわないか、それこそ死んでしまわないか。
オレが護衛に付いているのは、決して命令だけでは無い。
最初は命令ありきだった事は素直に認める。
だが、今では違う。
いまでこそ、彼とは上手く行っていない。
だが、それは自分自身に落ち度があったからであって、決して彼が悪い訳では無い。
行くのが億劫で、最近は吐き気にも襲われるが、それでも、オレは彼の護衛を辞める訳にはいかない。
知らないうちに、死んでしまいそうだったから。
オレが護衛につかなかった事で、彼がいつの間にか土に還っていたなんて事になったら。
そう考えるだけで、オレは怖くて眠れない。
女子組一同が感じている好感とはまた違う、一種の庇護欲染みた感情だ。
弱いのだ、彼は。
大人びて見えても、心はまるで雨の日に寒さに震える捨て猫。
達観しているのは長所でもあるが、同時に短所。
彼は、見栄を張って、本心を隠してしまう。
脆弱過ぎる精神は、間違いなく過去が原因だろう。
記憶の中にあった、師匠の奥方とその赤子、そして師匠の死に際。
あれは、凄惨に過ぎる。
人体実験の事もそうだが、人のする所業とは思えなかった。
その所為で、彼が泣き喚いた夜の事は、未だに鮮明に覚えている。
吐いて、泣いて、喚いて、蹲っていた小さな背中が、この時ほど脆弱に見えた事は無かった。
あの小さな背中を摩っていた夜は、彼が子どもにしか思えなかった。
疲れはあるだろうに、無理をする。
痛みはあるだろうに、無茶をする。
恐れはあるだろうに、死に向かう。
なのに、弱音を吐かない。
決して精神が強い訳でもないのに、抱え込むから。
弱い心を、見栄や虚勢で隠し通して、しかもそれを成し遂げてしまうから、オレは彼が怖いのだ。
勝手に自分で抱え込んで、背負い込んで、いつの間にか、何の痕跡も残さずに死んでしまいそうで。
………記憶の中に残っているような、襤褸雑巾のように。
「………情け、ない…。
自分が、これほど情けなく、無力な人間だとは、今まで思った事も無かった…」
ぼろぼろと、言葉が落ちる。
それと共に、眼から冷たい滴が、頬を伝って落ちる。
「………もう、オレには、どうする事も出来ない………。
これだけ、アイツを裏切り続けて、どの面を、下げて………会えば良いのか、それすらも、分からない」
「………だが、会うのが怖い以上に、アイツが消えるのが怖いのだ………。
まるで、アイツは、………湖面に浮いた氷だ………。
いつ沈むかも分からない、………溶けて、崩れて、………いつ消えてしまうかも、分からない………」
「………なのに、オレは、アイツに………何も出来ない。
………何も、してやれない……。
………友人だと、共犯者だと、………戦友だと言ってくれたのに、オレは何も、返せない………」
「………今だって、そうだ………。
オレは、アイツの為に、なることどころか、………不利益な事しか、していない………。
アイツだけの過去を、………オレだけは、秘匿しなければ、………いけなかった、筈だったのに、………ッ」
自分では、止められない。
言葉も、涙も。
もういっそ、殺して欲しい。
こんな風に、彼の不名誉な過去を、掘り返されるなんて。
そして、それが自分の口からだなんて、考えたくも無かった。
聞かないでくれと願っても、叶わない。
それなら、いっそ抗い続けて、廃人になってしまった方が良い。
「………もう、止めてくれ………。
オレに、これ以上、アイツを………、裏切らせないで、くれ」
切実な本音を吐き出すが、ハルの表情は変わらない。
むしろ、表情が無かった。
ある意味、恐怖を感じる。
得体の知れない生物を目の前にしたような、それこそ以前の合成魔獣を前にした時のような、不気味さを感じる。
何を考えているのか、分からないのはギンジも一緒。
だが、彼はまだ感情が滲んでいて、人間らしいと感じる部分が多い。
しかし、眼の前の彼はどうだろう。
人間としてでなく、むしろ人形のようにも見える。
オレの情けない独白にも似た自白を聞いて、何を考えているのだろうか。
この男だけは、まったく読めない。
「………チッ。与太話ばっかり掴んで来てんじゃねぇよ、ハル」
そこで、一通り吐いてすっきりしたのか、兄さんが戻ってきた。
顔は青白いが、また酒を煽って気付けでもしているようだ。
「………悪かった、ヴァルト。情報が少なくて、裏付けまで取れなかったから、」
「………まぁ良いさ。あの優男が、極度のお人好しって事だけは分かったからな」
そう言って、悪い笑みを浮かべた、兄さん。
嫌な予感がする。
頼むから、これ以上、何も聞かないで欲しいのに。
「………大丈夫か?」
「………話聞いただけで、ここまで来るのは久しぶりだな」
吐いてすっきりしたとは言っても、まだまだ青い顔をした兄。
それはそうだ。
ギンジの凄惨な過去の話は、聞くだけで精神的な負荷が凄い。
彼も以前言っていたが、とりあえず吐くレベルだというのは、夢の中とは言え追体験をしている自分にも分かる。
しかし、兄達はまだ聞きたい事があるらしい。
もう、止めてくれ。
「………止めて、くれ…」
「止める訳には、いかねぇんだよ。
これでも、オレ達だって危険な橋を渡ってるつもりで、覚悟は決めてんだ………」
先ほどまでのにやにやとした笑みは消え、代わりに苦々しげな感情を滲ませている兄さん。
ハルも、同じような表情をしていた。
どうして、そんな顔をしてまで、聞きたいのか理解に苦しむ。
だが、質問は続けられた。
無情に、非情に。
「あの優男は、なんで『タネガシマ』を欲しがっている?
あの武器の有用性は認めるが、あの優男1人が独占して、利益があるものなのか?」
『タネガシマ』という言葉には、残念ながら心当たりが無い。
しかし、武器と聞いて、そして彼が欲しがっていたと聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、あの長距離での攻撃を可能とする、爆音の元。
銃だ。
それを、ギンジは『ヒナワジュウ』と言っていたか。
「………あれは、この世界にあってはならない、異世界の技術だ」
「それは知ってる。こっちにはハルがいるのを忘れんな」
「………なら、その危険性も分かる筈だ………。
長距離且つ、相手へ察知をさせない、………超高範囲からの攻撃を、可能とする武器だ………」
自身も、あの武器に関しては、危険である事しか分からない。
そして、その対応策すらも、まったく分からない代物だ。
それがもし、『白竜国』をはじめとした『竜王諸国』に渡った時、どうなるのか。
それだけは分かる。
現在は、戦時下とは程遠い情勢ではあるが、海に面した潤沢な土地として知られるダドルアード王国は、過去何度も戦禍に晒されて来たのだから。
「………あの武器が、敵国に渡れば、また戦役が起こる………。
オレも兄さんも、あの戦役には参加しただろう?
………あの地獄が、またこの世の現実となる………。
………そうなれば、ダドルアード王国は、今度こそ滅亡する………」
それだけの力を、有用性を持っている武器だ。
現に、Sランク冒険であるローガンが、察知すらも出来ずに瀕死の重傷を負った。
彼女が、実は数百年の長きに渡って『紅蓮の槍葬者』の異名を取る冒険者だったと知ったのは、割とつい最近だったのだが。
そんな彼女ほどの手練が、成す術も無かった。
回避の術もなく、察知も出来ず、索敵範囲外からの奇襲は、いかな修練者でも防ぎきる事は難しいだろう。
「………あの武器は、危険だ。………ギンジも、そう考えていた………。
そして、オレも、彼の意見に、賛同している………。
あれが、他国に渡った時、………この世界は、また戦争の渦中に、」
もう、あの地獄絵図を見たくないのは、オレも一緒だ。
ギンジも言葉は濁して誤魔化してはいたが、記憶の中にはしっかりとその時の光景が焼き付いている。
しかも、彼の世界の戦争は、オレ達の世界程生易しくは無い。
どこから、鉛玉が飛んでくるかも分からない。
どこに敵が潜んでいるかも分からない極限状態で、更に武器の性能で戦局が左右される世界。
虐殺にも近い。
以前、彼が使っていた『キャリバー50.』や『ブルドック』といった連射式は、彼の記憶の中では、日常茶飯事のように使われていた。
あの武器の火力を考えれば、魔法など要らない。
そして、今、兄さんが言った『タネガシマ』という武器があれば、連射式の悪魔の武器が考案出来てしまう。
戦争は嫌だ。
意味もなく、惨たらしく死んでいく。
人が、魔物が、魔族が。
その中に、オレも含まれるかもしれない。
彼も含まれるかもしれない。
彼の生徒達も、ましてやオレの家族達も含まれるかもしれない。
ギンジの気持ちは痛いほど分かる。
オレも同じ気持ちを味わっているからだ。
「………オレも、兄さんも、知っている戦場は、ギンジにとっては、飯事のような世界だ………。
そんな戦場の光景を、………あの武器は、簡単に塗り替える………。
………ギンジも、オレも、それが嫌なんだ………。
出来れば、もう、………記憶の中とはいえ、あんな光景を、知ってしまったら、………もう、二度と戦争を、体験したくはない………」
二度と繰り返されてはならない、戦禍。
それ以上に、惨たらしいギンジの記憶の中の戦争も。
あの戦禍を、現実のものとしない為には、ここで『タネガシマ』なる武器の流通は、止めなければならない。
たとえ、無駄骨だったとしても、今一時だけは。
「………兄さん、頼むから、ギンジに、あの武器を、渡してくれ………。
アイツならば、悪いようには、決して使わない………。
………どれだけ、危険であるかも、どれだけ、………異端であるかも、ギンジは理解している………」
「………。」
頼む、という気持ちだけ。
涙が止まらないまま、懇願を続ける。
虚ろに彷徨っているだろう視線は、なけなしの気力をかき集めて、兄へと向けられる。
どれだけの効果があるのかも分からないまま、オレは兄さんを見つめ続けた。
「………シュヴァルツ、兄さんも、………『ヴィンセント』、兄さんも、苦しんできたのは、知っている………。
全部、………オレの所為だと、分かっている………」
この話をするのは、シュヴァルツ兄さんにするのは初めてだ。
もう、とっくの昔から、オレが彼等の秘密を知っているのは、初めて明かす事になる。
覚悟は決めた。
死ぬ覚悟も出来ている。
ここまで話してしまった以上、オレの余命が数日のものだとも分かっている。
どの道、ギンジに知られれば、オレは生きてはいられないだろうから。
だからこそ、最後の最後で、命を賭して。
おれの命と引き換えに、この件が片付くのであれば、冥土の土産には丁度良い。
「………兄さん達が、『闇』属性である事は、………もう知っている」
「………ッ、」
「ヴィンセント兄さんも、シュヴァルツ兄さんも、………生まれ付き、『闇』属性だったという事は、もうとっくの昔に気付いて、いたから………」
自分がまだ何も知らず、幼い考えで彼等を慕っていた頃。
兄達と共に過ごす事を禁じられ、途方に暮れた。
父にどれだけ強請っても、母にどれだけ懇願しても叶えられなかった願い。
それが、結局自分の所為だったと気付いたのは、成人してからの事だった。
「家を出ていった、兄さん達の部屋には、………精霊が、残っていた。
………ほとんどが、『闇』の精霊で、オレは………やっと、この時、父に接触を、………禁じられた理由を知った」
これは、間々あることだ。
好かれた属性の精霊が、部屋や家に住みつくのである。
その人がどれだけ精霊に愛されているのか、という尺度ともなることが多い。
そして、幼き頃から精霊の姿を目にする事が出来る自分は、その精霊達がどこにいるのかも分かっていた。
実は、精霊達と隠れ鬼をして遊んだ事もあるなんて事、ギンジの前では絶対に言えなかったけれども。
兄達や姉が家を出て、戻ってくる事すらも無くなった時。
恥ずかしながらも、成人したばかりであるにも関わらず、寂しさに涙を呑んだ事もあった。
妹が生まれたばかりと言う事もあって、父や母には言えなかった。
それよりも、男児であるのに情けないと、叱責されるのが怖くて言えなかった。
寂しさを紛らわせるために、兄達の部屋をめぐった。
その時だった。
兄達の魔法の属性を知ったのは。
長兄であるヴィンセント兄さんの部屋には、家を出てかなり経過しているにも関わらず、『闇』の精霊達
が居付いていた。
次兄のシュヴァルツ兄さんの部屋も、同様だった。
姉の部屋には流石にいなかったものの、それでも魔力の残痕を見て確信した。
兄達は、魔法の才能が無かった訳では無い。
『闇』属性であったから、父に冷遇されたのだと。
そして、その時。
顕現していた自分の属性は、奇しくも反属性ともなる、『聖』属性と『雷』属性であった。
だから、父がオレばかりを構い、兄達を追い出したのだ。
そう考えた時、自身の存在が兄達を苦しめる結果になっている事を、どうしようもなく恥じた。
自身の属性の事も、自身の存在すらも、恥じた。
だが、その時には全てが遅かった。
父に進言しても、耳を貸して貰えない。
逆に兄達に、何か出来る事は無いかと、騎士団内で接触を試みようとした。
だが、それも、相次いで素気無く断られた。
ヴィンセント兄さんには、『お前は、父の言いなりに、自分の仕事をしていればいいのだ』と。
シュヴァルツ兄さんには、『お前に出来る事なんて、一つも無い』と。
悔しかった。
どうしようもなく、己の存在が疎ましくなった。
自分自身が憎らしくなった。
その時ばかりは、荒れに荒れた。
今でも覚えている、若いころのやんちゃな過去だ。
酒を飲み、騎士団でも禁止されていたカナビスの草を吸い、夜な夜な街へと出掛けては、飲み歩いて。
執事に窘められても、母に嘆かれても、父に呆れられても知った事では無かった。
今にして思えば、あの時期が一番、何も考えていなかったように思う。
女に走らなかったのは、姉さんの影響が強かったせいとは思っている。
妹が生まれたばかりということもあって、そちらの方面で内面の発散を求めなかったのは幸いだった。
出来れば、ギンジにも知られたくない過去である。
そんな話は、まぁ、どうでも良いが。
オレが言いたいのは、兄達をこれ以上苦しませない為に、オレが出来る事をしたいということ。
命を賭して、父を説得する。
長兄を『終着点』からも連れ戻す。
あわよくば、シュヴァルツ兄さんも、ヴィクトリア姉さんも、もう一度あの屋敷で暮らせるように。
その為に、オレは命を賭ける。
「………ギンジは、ヴィンセント兄さんの、属性も、知っている。
………アイツも、『闇』属性を、………強大な、上位の精霊を、腹に巣食わせている………」
「………ッ、まさか、」
「………信じるかどうかは、勝手にすれば良い………。
だが、それを前提に、オレは、………ヴィンセント兄さんの事を、任せた………」
同じ属性である、相談役として。
そして万が一『ボミット病』を発症した時の為の、命綱となって貰う為に。
それが、果たされるのが、いつになるのかは分からないが。
土台は既に、ギンジが予期せず作ってくれた。
「………父は今、顧問役を解任、されている………。
失脚したも同義で、………数ヶ月のうちには、当主としても、引退する予定になった………」
これは、近いうちに発表されることだろうが、それまでに知らせたい人間がいる。
今目の前にいるシュヴァルツ兄さんもそうだったが、ヴィンセント兄さんにも伝えておきたかった。
そして、それを伝えたことで、この家族間の馬鹿げた関係を終わらせたかった。
「………現在、最も当主に近いのは、オレだと、思う………。
………だが、オレは、それを辞退するつもりだ……」
まぁ、どの道、それまで生きているとは思えないが。
「………父の事は、オレがなんとかする………。
………だから、当主には、貴方達が付いて欲しい………。
いきなりの事で、戸惑う事もあるだろうから、………ヴィンセント兄さんと、シュヴァルツ兄さんの2人で、協力して、………ウィンチェスター家の当主になって欲しい」
「………オレは、元の名前は捨てた」
「………いや、まだ、捨てられていない………。
………だって、兄さんは、ギンジの前で、………認めてくれた、じゃないか………」
「………ッ」
捨てたのであれば、オレとの関係を明かす理由は無かった。
オレ達だけが分かっていれば、それで良かった秘事を、ギンジの目の前で明かしてくれた事。
おかげで、オレが彼に怒られたとしても、別にそれは良かった。
今にして思えば、ああして明かしてくれた事が、どれだけありがたかった事か。
まだ、兄さんは、憎んでいるとはいえ、オレを弟だと思ってくれていたと、同議だったから。
「………それがどうした?
オレは、テメェが、あの優男に知らせてないのを、暴きたかっただけで、」
「………暴く必要も、無かったのに暴いた………。
………言わなければ、分からなかった事は、事実で、………否定したとしても、兄さんは明かしてくれたのが事実だ」
それが、どれだけ嬉しかったか、伝われば良かったのに。
「言わなかったのは、………オレが貴方に、会いたかったからだ………」
「………何?」
ああ、こんな時ばかりは、使われた自白剤が心強く思えた。
丁度良い。
紛れも無い本心を、心置きなく吐き出せる。
そして、それを薬の所為に出来る。
「………名前を聞いた時から、人相を聞いた時から、オレは、………貴方だと分かっていた………。
………でも、オレがもし、それをギンジに言ったら、アイツはきっと、連れて行ってはくれないと、分かっていた………」
あの時は、既に、兄達との確執はギンジに話してあったからな。
帰り際、憤怒の形相で言われた通りだ。
オレの音信不通の兄が、例の武器商人だと聞けば、ギンジはオレを同行させてはくれなかっただろう。
「………手紙を出しても、姉さんに言伝を頼んでも、兄さんは、………何一つ応じては、くれなかった………。
………オレが、貴方に会う為には、この方法で、………便乗するしかなかった………」
恥ずかしいと思えども、薬のおかげで饒舌な口は良く動いた。
………どうせ死ぬなら、全てぶちまけてしまえば良いのだ。
開き直るのが、ここまで楽だったなんて思わなかった。
「………なんで、会う必要があった…?」
そうして、薬の所為で本心を洗いざらい吐き出しているオレを見て、兄は何を思うのか。
既に、朦朧として濃淡すらも分からない視線の先で、兄の顔は歪んで見えた。
せめて、その表情が、いつものにニヒルな笑みである事を、望むばかりだ。
苦しませたい訳では無いから。
「………会って、………話が、したかった………。
8年ぶりに、どんな罵詈雑言でも、良いから、………声が聞きたかった……。
………ッ、ほんの少しでも、元気な、姿を………見たかった、だけなんだ………ッ」
喉を鳴らして、オレはまた涙を零す。
ここ数日は、オレとしても情けないほど、明らかに涙を流し過ぎている。
本当に、34歳にもなって、情けない。
酸欠にでもなっているのか、目の前は既に真っ暗になりつつあった。
泣き過ぎた所為か否か、頭痛も酷い。
背中は汗でびっしょりと濡れているが、襟元は涙でべしゃべしゃだ。
本当にもう、恥ずかしい。
穴があるならば、埋まりたい。
けど、薬の所為だと思えば、まだマシなのだから不思議なものだ。
オレのこんな情けない姿を見て、兄はどう思うのだろう。
きっと、情けない、もしくは呆れた奴だと、見下しているのだろう。
それで良いのだ。
今まで苦しんだ分、オレの事など、見下してくれ。
笑ってくれ。
それで、心が晴れると言うなら、喜んでオレは彼の笑いものになるから。
だから、
「………頼む。………もう一度、ギンジに会って、………あの武器を、渡してくれ………」
ギンジの願い。
「………戻ってきて、ください………。
ヴィンセント兄さんも、シュヴァルツ兄さんも、………ヴィクトリア姉さんも、皆大事な、オレの家族なんだ……」
オレの願い。
「………もう、これ以上、貴方達を、苦しませる、………馬鹿な弟は、いなくなる………」
そして、オレ自身がいなくなるという、彼等にとっての嬉しい結末を添えて。
寂しくは思う。
けれど、それで彼等が幸せならば、オレはそれで良い。
悲しくは無い。
「………父にも、母にも、認めさせる、………認めさせてみせる………」
『闇』魔法が危険だという認識は間違いだ。
確かに強大な力を持っていて、制御は難しいのかもしれない。
だけど、その有用性は、ギンジが全て示してくれている。
そして、オレ自身も、身を持って知っているのだから。
「………兄さん達の、属性が危険でない事は、オレが証明する………」
「………八ッ………、どうやって、」
鼻を鳴らした兄さんの声は、先ほどよりも遠いと感じた。
「おい、そろそろ、中和剤を飲まさないとマズイ」
「………分かってら」
ハルの声に、焦りが滲んでいるのは、微かに分かった。
時間が迫っているのは、分かっている。
オレも、もう意識を保つのが、限界だから。
けど、これだけは言っておかなくてはいけない。
ギンジの願いも、オレの願いも、彼等が望むだろう結末も言った。
残りは、この一つだけ。
これだけは、伝えておきたかった。
だって、
「………オレも『闇』属性を持っている………」
オレも、兄さん達と、同じだから。
息を呑む気配。
この時ばかりは、素直にうれしい。
兄弟として、同じ属性を持って生まれる事が出来たのが、誇りだと思えたのだから。
そして、そのおかげで、彼等に少しは驚嘆を与えられただろう。
優越感に、少しだけ笑った。
その瞬間、ぶつりと、眼の前の光景が途切れる。
意識が、闇に落ちる瞬間は、こんなに唐突なのだと、初めて知った。
***
これは、何の冗談だ?
起きぬけに考えたのは、その一つだけ。
まるで、あの時の再来だ。
あの後は、確か姉さんの事務所のソファーで目が覚めたのだったか。
ご丁寧に、服も全て着替えさせられていた。
太腿の傷も、殴られた時に付いた血の跡も、薬か何かの所為でびっしょりと濡れていたシャツも全てが嘘のように。
姉さんもその場にいたが、オレの事を頻りに言い包めようとしていた。
ただ倒れただけだの、気付いたら横で眠っていただけだの、終いには兄さん達の事まで夢か何かを見ていただけだと、言い含めて。
腹が立った。
何事も無かったかのように接していた姉さんに。
裏切って兄さんにオレを差し出した癖に、当たり前のようにオレの姉であろうとしている姉さんに。
………ギンジも、おそらくこんな気持ちだったのだろう。
今更になって、彼の気持ちに気付くなんて。
なによりも、それを信じようとしていた自分にも腹が立った。
薬を使われたとしても、裏切りを行った事実は変わらない。
そんな無様な失態を、無かった事にしたがっている自分にも腹が立った。
怒鳴り散らして、姉さんの制止も聞かずに飛び出した。
薬が残っていたのかもはや、酔っ払いの千鳥足にも近いままでなんとか帰路に付いた。
あの夜の事は、もう正直思い出したくも無かった。
だが、話さねばならない。
だからこそ、たとえ蛇蠍の如く嫌われようが、オレはギンジにひっ付いて過ごした。
ひたすら、彼と話を出来る機会を待った。
それも、この現状のおかげで、ぶち壊されてしまったのだが。
先ほども思ったように、今の状況はあの時の再来だ。
手脚を鎖か何かで拘束され、周りは暗い。
そのうえ、また薬を使われているのか、頭がカチ割れそうに痛む。
まぁ、痛みはそれだけでは無いのだろうが。
襤褸布か袋かを被せられて、周りの詳細は分からない。
ただ一つ、分かるのは、あの時以上の痛みに苛まれていることである。
どこが痛いのか、むしろ怪我をしているのか、毒の所為で痛みを感じているのかも分からない。
勝手に呻き声が漏れそうになるものの、口が張り付いているのか声も出ない。
声が利けなくなる呪いや、威圧感から黙りこんで口が利けないならばともかく、血か何か張り付いて唇が動かないなどという経験は初めてだ。
それとは別に、依然とは違う事もある。
あの時はオレ一人だったが、今度は隣に見知った気配も鎮座している。
ギンジだ。
そんな中、
ぼそぼそと、隣で聞こえていた話し声。
そのトーンが、変わった。
おそらく、ギンジが気が付いたのだろう。
「ゲホッゴホッ……ぁ、ひ…ッ!」
「おいおい、まだ何もやってねぇぞ?」
「………や、やめろ…ッ!離せ…!」
「だから、何もやってないって言ってんだろ?
やるのはこれからだし、そのまえに解放するなんて勿体ない事するわけねぇだろ?」
現状を見てか、彼の気配が怯えたものへと早変わり。
この状況は、駄目なのだろう。
昔、拘束を受けて酷い扱いを受けた彼からしてみれば、この状況は悪夢以外の何物では無い。
止めてやりたい。
なんとかして、彼だけは助けてやりたかった。
なのに、張りついた唇は一向に動いてくれない。
交わされる言葉が進むうちに、ギンジの気配が二転三転と変わる。
怯えから戸惑い、そこへ怒りが混じって、おそらく今頃は腸が煮えくり返っている事だろう。
その怒りの矛先は、おそらくオレだ。
分かっている。
彼にとって、オレは既に裏切り者だ。
しかし、ハルはそのギンジの気配の変わりようを見て、楽しげな気配と笑い声を上げている。
心無しか、ギンジの悪巧みの種明かしをした時のような声に似ていた。
そこで、頭に被されていただろう襤褸布が剥ぎ取られた。
荒い生地が傷口をやすりの如く掠めていったのか、どこが基点かも分からなかった痛みが頭へと集中した。
暗闇から仄かなランプの灯り程度には明るくなった視界。
今は、そんな仄かな灯りですらも、眼に染みる。
「………ッ、な、………ッ!?」
「………、う゛…っぐ…ッ」
今さっきの痛みを受けた時に、思わず歯を食いしばっていたのか、張りついていた唇が剥がれていた。
おかげで、無様な呻き声まで上げてしまったが。
驚きに染まったギンジの眼と、一瞬だけ交錯した気がした。
しかし、まるでカーテンのように視界を邪魔する黒髪の所為で、彼には気付いてもらえなかっただろう。
彼はそんなオレの姿を見て、乾いた悲鳴を無理矢理飲み込んでいた。
怯えている姿は、まるで子どもだ。
そんな姿の彼を見ると、再三感じていた庇護欲が動かされる。
なんとかして、彼だけは助けてやりたい。
そう考えて、なんとか唇を動かすが、残念な事も一言二言がやっとだった。
思った以上に、体へのダメージが大きい。
その苦し紛れの一言二言程度では、ハルが止めてくれる筈もない。
そもそも、止めてくれと言って止めてくれる敵も少ないだろうが。
「またこのような汚い場所での御接待、誠に申し訳ない」
そこで、また別の声が響く。
しかも、その声は恐怖や怯えを露にしたギンジの真後ろからだ。
ぞくりと総毛立つ、地を這うような声は間違いなく兄の声。
あの夜以降、何度もオレの事をあざ笑うように夢の中に現れたシュヴァルツ兄さんだ。
「ッ…ぁ……ッ、ーーーーーッ!」
そんな兄があろうことか、ギンジの首筋に手を触れる。
駄目だ。
ギンジにとっては、そこを触られるのすら悪夢なのだ。
オレだって記憶を共有しているのだから分かる。
あの記憶の共有以来、オレも首筋を触られるのが家族であっても駄目になってしまったのだから。
ギンジが暴れる度に、古めかしい拘束具を備えた椅子が軋む。
しかし、その音を聞いて笑い声を上げるのは、兄さんとハル。
「ははっ。………あの時の優男っぷりは、どこに行っちまったんだかね」
そう言って、楽しげな声のまま、ギンジの耳元へと唇を寄せている兄さん。
怒りで、眼の前が染まる。
それ以上は、止めろ。
どれだけの声をあげられたかは分からないものの、確かに制止を呼び掛けた気がする。
その瞬間、
「五月蝿ぇよ、お前は…」
兄さんからの、再三の冷たい声音。
目の前で風切り音すらも上げて、振り落とされた酒の瓶。
強打されたこめかみから、真新しい鮮血が溢れる。
「ッ………!」
また一つ増えた怪我の痛みに、一瞬意識が遠のきかけた。
しかし、それとは別に身体の至るところから発する痛みが、気絶すらも許してはくれなかった。
呻き声すらも上げられない。
眼を見開き、ひたすらに痛みに耐える。
心の中で、口に出した事も無い一通りの罵詈雑言は吐き続けていたと思う。
脂汗すらも傷口に染みる。
歯を食いしばろうとしたが、再三の頭痛に襲われてそれすらも出来なかった。
「………おっと、落ちたか…?」
「ああ?………意外と早かったな」
そこで、ギンジの気配が一瞬だけ揺れ、落ちた。
気絶したのだろう。
分かるとも。
オレだって、気絶したい。
これが夢だと、何かの冗談だと思い込んで、眠ってしまいたかった。
だが、痛みは現実のものだ。
気絶することも、ましてや夢だと思う事も出来そうにない。
「………なぁ、こんな事して、何の意味があるんだ?」
「怖気付くなって、何度言えば分かる?」
しかし、オレが気絶していると勘違いしているのか、彼等はふと雰囲気をがらりと変えて、またぼそぼそと話し始めた。
先ほどは愉快そうな口ぶりだったが、今はかなり真剣だ。
それも、シュヴァルツ兄さんが主導して、ハルを言い含めているようにも聞こえた。
「先方にはもう話が付いちまってる。
これ以上は引き延ばしも出来ねぇし、失敗するとこっちもヤべぇんだ」
「………だけど、何もここまですることねぇだろう?」
「これだけのことやってでも、確認する価値があるからやってんだろうが…」
………ああ、なるほど。
少しだけではあるが、合点が行った。
兄さんは、ただ悪戯な興味本位で、このような真似をしている訳では無いのだと。
先方というのは、おそらく例の『タネガシマ』とやらの売付先だろう。
既に引き延ばしも出来ない程に時間を消費し、更には売買に失敗すれば兄さん自身も身持ちが危ない。
時間が無い上に、それこそ後が無い。
だから、兄さんはこのような強硬手段を取っていた。
理由に納得出来たは良い。
だが、所業には納得出来ない。
そんな事をしてまで、確認したいのは何だ?
オレに対して、薬まで使って確認した他に、聞きたいこととは何だ?
「………何を、確認したいんだ…?」
口に出た言葉は、またしてもあの時と同じ。
喋ろうとした訳では無いというのに、口が勝手に動いてしまう。
また、あの薬か。
うんざりとしたが、あの時同様に都合が良いとは思った。
「………なんだ、まだ起きていやがったのか」
「こっちはこっちで、しぶといな」
先ほどの真剣な声音はどこへやら、兄達は会話を止め、オレをあざ笑うかのように鼻を鳴らした。
ただ、その行動には、虚勢が含まれていると今なら分かる。
彼等も、悪戯に他人を陥れている訳では無い。
「………こんなことまでして、確認したい、事とは、何だ………?」
「………チッ、耳聡い奴だ」
「白状しちまえよ。このままだと死ぬかもしれねぇんだから、冥土の土産に理由ぐらい話してやれば?」
縁起でもない事を、演技では無く本気で口にしたのはハルだ。
言葉遊びでは無いが、洒落にもならない。
だが、
「………死なれちゃ困るんだよ。
やって貰いたい事は、山程あるんだからな」
どうやら、兄はオレを生かしたいようだ。
ここまでやっておいて、いざとなると死ぬのは困るなんて、なんて鬼畜な兄だろうか。
あてつけに舌を噛んでやろうとも思ったが、流石にそこまでの気力も覚悟もまだ足りない。
そも、まだギンジに全てを白状してもいないので、死にたくはないのだが。
どうせ死ぬならば、ギンジに殺された方がいい。
冥土の土産には、それで充分だ。
いや、考えるのはやめよう。
今はオレの死にざまでは無く、兄の真意を知りたい。
「………何故?」
「………この優男が、あの校舎で開発しているのは何だ?
ハルの情報じゃ、草やらハーブやら、茶の原料を集めているとか言っていたが?」
ああ、なるほど。
再三の納得に、胸がすぅと軽くなった。
おそらく、集めている材料は、『ボミット病』の材料だ。
良く来る商売人の発注記録を検閲した時に見かけたが、確かに茶の原料を買い込んでいた。
しかし、表向きには出回っていない薬の材料だと言えば、彼等はどんな顔をするのか。
しかも、それが『ボミット病』の特効薬になるなんて。
そして、そうかと、もう一つ納得したと同時に安堵したもの。
どうやら、最近になって取り逃がした間諜のうちの一人は、やはりハルだったようだ。
危険な事には変わりないが、特定出来たことだけは僥倖だ。
「………『ボミット病』の、特効薬だ。
………詳しい材料や、用法は、オレも知らない………。
………ギンジは、現在、その病気への、薬を、研究、している………」
「………マジかよ」
この世界の、もしくは精霊達の生まれと共に、蔓延っていただろう死病。
その病魔に打ち勝つ術を、彼は研究しているのだ。
薬の原料が届いた今は、試薬試験を行っていると片聞きした程度ではあるが、きっと彼はそれを近いうちに市場へと出す事になるだろう。
以前聞いた『医療開発部門』とやらも、本格的に指導しているようだし。
「薬が効いているから、嘘は吐けねぇだろ」
「………んなこたぁ、分かってんだよ。驚いただけで、疑っちゃいねぇ」
そこで、何故か気安い掛け合いとなった2人。
当たり前のことを言っているハルに、兄さんは軽く小突いていた。
「………フ」
ふと、笑ってしまう。
「何笑ってやがる?」
「………テメェ、馬鹿にしてんのか?」
まぁ、その分の代償は、有り得ない程に痛かったが。
手の拘束とは別に、手の甲に骨すらも砕いて突き立っていたナイフが引き抜かれた。
それでも、麻痺して来たのか。
今は、薬の所為で痛む頭ぐらいしか知覚出来ないのが幸いだろうか。
…………何故、笑っているのか。
そんなもの、決まっている。
いつぞやの、オレ達のやりとりにそっくりだったからだ。
今となっては懐かしい、ギンジとオレのやり取り。
当たり前の事に突っ込みを入れてしまって、分かっていると小突かれるのはしょっちゅうだった。
酷い時は、もっと手痛い反撃も受けた。
シュヴァルツ兄さんがギンジで、ハルはオレ。
あの時に戻れるなら、どれだけ良いか。
だが、ここまで悪化してしまった関係は、もう戻せないと分かっている。
もう二度と戻ってこない昔に、指を咥えて見ているだけだ。
そんなことより、
「………ゴホン。次の質問だ。
なんで、この優男は『ボミット病』の薬を、開発しようとしてんだ?」
聞かれると思っていた質疑は、意外と遅かった。
咳払いも、聞こえた気がする。
おそらく、今までのやり取りを見られていたのが気恥ずかしかったのだろう。
兄から感じる威圧感がいっそ、刺さる程痛いと思った。
再三の憧憬に、苦笑を零してしまう。
「………ギンジ自身が、その患者だからだ………」
「………マジかよ」
「………だから、」
「うるせぇ、分かってる!」
もう一度繰り返されそうになったやり取りに、また笑みが浮かぶ。
まぁ、仕返しが怖いので、あまり表立って笑いたくはないのだが。
「………他にも、生徒の一人や、教会にも、患者がいて、その治療を、約束している………。
………以前、『白竜国』国王、陛下との、盟約の先延ばしに、この治療薬の、開発を、宣言した、経緯も、あるが………」
さて、この答えに彼等はどんな顔をするだろうか。
目線を少しだけ上げると、酷く驚いた視線とかち合った。
嘘は言っていないし、そもそも薬の所為で嘘が言えないのだから、本当の事だとは分かっているだろう。
思わず、口元に愉悦が浮かぶ。
他にも、驚く彼等を尻目に、薬の力を借りた饒舌な口を動かした。
オレが以前、ギンジに兄を任せようとしていた理由。
兄が発症したという報告は無くとも、危険性が高い。
そして、その属性が『闇』属性に多く、そもそも発覚しなかったのが理由だとも。
「………。」
「………。」
ふと、そこで気付いた。
自棄に、眼の前の2人が静かである事に。
………驚きだけでは無く、怯えている事にも、気付くことが出来た。
「………ッ!!」
何の事は無い。
オレ相手に怯えている訳ではないと、すぐに分かった。
そして、知らぬ間に畏怖を覚えていたことを、遅ればせながら理解した。
びきり、と隣から聞こえた音に、息を呑む。
ついでに、がしゃりと鳴り響いた金属音は、拘束が外れた音なのだろうか。
途端、眼の前が真っ暗になるかのように、暗転した。
気を失った訳では無い。
世界が、全ての輪郭も色も消して、真っ暗な闇の中へと変貌したのである。
闇の中、と思い至ったのは、
「………ギ、ンジ…?」
隣で、先ほど気をやった筈の、ギンジだった。
彼が、目覚めた。
不気味な程の、炎とも見紛う覇気を顕現させながら………。
***
さて、いろいろフラグを突っ込んでおきながら、まだまだ全く活かせていないとかいうダメっぷり。
以前、ゲイル氏がお姉様とお兄様方に掻っ攫われた後のお話し。
そして、今回のハル氏からのアサシン・ティーチャーをまとめて誘拐事件にリンクさせた形となります。
ちょっと文脈がおかしくなってしまって、分かりづらくなってしまっていると思います。
かなりの勢いとノリとテンションで書き殴ってしまったので、時間が出来た時に改稿するかもです。
誤字脱字乱文等失礼いたします。




