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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、新参の騎士編
88/179

77時間目  「道徳~知りたかった真実と、知りたくなかった事実~」

2016年5月25日初投稿。


続編を投稿させていただきます。

改稿作業がなんだか手詰まりだったのに対し、何故か本編が勝手に進んで行くので先に本編を投稿しました。


77話目です。

***



 ラピス達と話し合った結果、医療開発部門の今後の活動方針はかなり詳細に決まった。


 まず、責任者やらなにやらは、先ほど決めた通り。


 その後は、薬の試薬試験を行って、改良・研究を進めて行く。

 試薬試験に関しては、結局ラピスに押し切られてしまった。

 ………とても、遺憾ではあるが仕方ない。

 彼女とミア、つまり、大人と子どもの両方で、試薬試験を行っていくことになった。


 正直、試験段階が短すぎると感じたが、オレの実体験もあるから、そこまで詳細には必要ないとの事。

 確かに、効き目は良かったし、副作用も出なかったからな。


 ちなみに、アンジェさんが持ってきてくれた『インヒトレント』の種は、とりあえず植えるかどうかは保留。

 ………というか、魔力総量の高い場所ってどこだよ。

 少なくとも、校舎の近くではそんなところ無いと思うんだけど?


 まぁ、しばらく保留だ。


 残りの『タデレイン』と『ドラゴボーン』については、代用が効くのかどうかも確認する必要があるだろう。

 なんか、『タデレイン』はともかく、『ドラゴボーン』は代用出来る気がする。

 だって、あれ、骨に含まれている炭酸カルシウムとか、珪素に沈静作用があった筈だから。

 ………『ドラゴボーン』に魔力的なファンタジー要素があるなら、無理だろうけどね。


 次に、『商業ギルド』へ赴き、人間領で手に入れられる原料を手配。

 『ショウケイオール』、『ダンデライオン』、『ジュジュブ』の3つだ。

 いつもの商売人でも良いし、薬関連を主に扱っている商人を紹介して貰うのでも良い。


 ついでに、『商業ギルド』で商標登録、もしくは出店登録のようなものは取ってきた方が良いだろう。

 確か、以前ゲイルから聞いた話で、新しく事業を始めるなら申請しておいた方が良いって言われた筈だったから。


 なんて、彼から聞いた話をしていたからか、


「済まん、ギンジ。ちょっと良いか?」


 ノックの後、リビングの扉が開けられた。

 その先から聞こえた声は、今しがた考えていたゲイルである。


 心無しか、硬い表情をしている。

 それに、どちらかというと、疲弊しているように見えるのは気の所為か。


 噂をすればなんとかとは言うが、突然の彼の出現についつい眉根が寄った。

 なんにせよ、彼とは3日ぶりだ。

 ジャッキーが来ていた時も、彼は今回の事件の後始末と騎士団関連の雑務に追われて不在だったから。


 ………仕方ないので、時間だけは取ってやる事にしよう。


 彼が報告したい事で、もし大事な事が紛れ込んでいたら、オレも大変な目に合うからな。


「………ああ。時間は取れるけど?」

「なら、少し顔を貸してほしい。手間は掛けさせない」


 呼び出しを受けたので、ラピス達には目線で詫びをしてソファーから立ち上がる。


 リビングの扉を出た際に感じた、背後からの気遣わしげな視線が少しばかり苦々しく思えた。



***



「(………それで、報告って?)」


 あれは、2日前の夜だった。

 オレが昏睡から目覚め、ジャッキーが来て、ラピスやローガン達を紹介して。

 と、慌ただしかった日の、丁度その夜。


 報告がある、と言っていた間宮。

 そんな彼の報告を聞く為に、生徒達が寝静まったであろう時間を見計らって、彼を部屋へと呼び寄せた。


 ベッドの上に座り、オレの執務机の椅子に座った間宮と対面する。


「(………今日は、散々だったようですね?)」

「あ…?…う、うん、まぁ」


 報告よりも先に、間宮は雑談から始めた。

 彼の視線は、オレ、というよりは、オレの背後にあった。


 オレの後ろには、オリビアがすーすーと健やかな寝息を立てていた。

 彼女は、一日中オレから離れてくれなかったのである。


 離れた途端、オレがなにかしらの無茶をするのでは無いか、と心配しているかのようだった。

 前科があるので否定は出来ない。

 なので、今日一日は彼女の好きなようにやらせておいた。


 まぁ、それはともかく。


「(例の召喚者達の事と、騎士団としての対応。残りは、アビゲイル氏の事です)」

「………。」


 お互いに聞き耳を立てられないように唇だけで会話をする中。

 間宮からの報告を聞く。


 しかし、発された報告の最後の一つに対して、オレは、物の見事に分かり易く口を噤んでしまった。


 間宮もそれを見て、理由は分かっているのか苦笑を洩らす。


 面目ないというか、正直情けない。

 師匠の癖に、弟子に感情を読み取られるのはどうなんだ。


 ………正直、もうしばらくはアイツの事は、考えたくねぇんだけど。


「(先程は席を外しておりまして、失礼致しました。

 昨夜、銀次様が眠ってしまわれてから、色々とやる事があったので、)」


 と、口を噤んでいたオレに対し、最初に間宮が行ったのは謝罪だった。


 いや、もう、なんて出来た弟子なんでしょ?


「(いや、良いよ。オレが眠っている間にまで働いて貰ったんだ。

 文句を言ったら罰が当たるだろ?)」

「(銀次様の手足として働くのは当然のことです)」


 こんな情けない師匠でも、師匠として敬ってくれてうれしいよ。

 (※この後、例の『魔法陣』の実験に差し出されるとは、露ほども考えられなかったけどな)


 そして、その後間宮が続けたのは、報告。


 1つは、例の召喚された異世界の青年達の事だった。


 オレが気を失ってしまった後。

 間宮は、あのあばら家で家探しを行い、彼等の身元が証明できるであろう物品を回収して来たようだ。

 ついでに、あばら家の中に残っていた、盗品らしきものも回収。

 他の盗品等の荷物と一緒に、騎士団へと預けてきた。


 身元証明出来る物品として残っていたのは、2つ。

 学生証と財布。

 学生証や財布は5人以外の者も含まれていたようで、誰が誰なのかは定かでは無い。


 受け取って確認して見ると、黒ずんだ古めかしい血の痕があった。

 彼等は、死んでいった友人達の分も回収していたのかもしれない。


 名前が判明しているのは、山中、樋上、大倉の3名だけ。

 残りは、顔も見ずに殺してしまったので、残念ながら写真での照合も出来ない。


 ただ、それでも彼等が元々、どんな顔をしていたのかだけは分かった。


 この世界では異世界となる現代で育ってきた、活発そうな子ども達の顔がそこにはあった。

 髪を染めていたり、ワックスで固めていたり、ピアスを付けていたり。


 写真自体が有り得ないこの世界では、豪華な位牌だ。

 死体は置き去りにしてしまったが、暇を見て墓を作ってやるくらいの事はしてやろう。


「(全員がK県の県立高校の出身だったようですね。住所も、その近郊になっております)」

「(………K県ってかなり遠いな)」


 驚いた。

 都内では無かったようだ。


 遠いというのは、オレ達が転移した時にいた校舎からの事だ。


 校舎自体が都内某所に位置していたので、少なくとも都内の生徒達なのかと勝手に思い込んでいた。

 だが、彼等は随分と遠く離れた場所から召喚されていたようだ。

 ………召喚に関して、場所の規則性は無いのか?


 とはいえ、やっぱり高校生だったか。

 学生証の学年を見ると、入学したてだったのか1年生ばかりだった。

 ………2年もこの世界にいたって事だし、高校生活なんて本の数ヶ月しか満喫できなかったろうに。


「(それから、冒険者ギルドでも確認してみました。

 直近2年間の間に、北の森で特殊な服装をした複数の男女を見つけた。

 もしくは死体を発見したという報告が、少なくとも4件ありました)」

「(………4件もあったのか。それで、生存者は?)」

「(生存者は0です)」


 0。

 そうか、ゼロだったのか。

 またしても、やるせない気持ちが湧き上がる。


「(見つけたとしても、言葉が通じずに逃げられたそうです。

 死体に関しては言わずもがな。

 それに、冒険者ギルドでは、死体となった冒険者や旅人の死体は、見つけ次第火葬する風習があるそうで、既に遺品も残っていないかと、)」

「(………火葬にするのか?土葬じゃなくて?)」

「(詳しい事は聞いていませんが、土の中の死体にも魔物が取り憑いたりするので、その予防策として骨だけにしてその場で埋めるそうです)」


 ああ、なんかそれも聞いたことがあったっけねぇ。

 確か、『闇の靄(ダークヘイズ)』だったか?


 もれなく、女生徒の格好した肉人形とか、フルチン吸血鬼とか思い出すから、もう忘れようと思っていたのに………。


 閑話休題それはともかく


「(彼等の死体は、あばら家ごと焼却しました)」


 報告を続けた間宮の言葉に、ふと眉根が寄った。


 間宮はいつも通り、まったくの無表情を貫いてはいた。

 だが、オレの贔屓見か否かは分からないが、どことなく苦々しい顔をしているようにも思えた。


「(………悪かったな。キツイ仕事、最後に任せちまった)」

「(お構い無く)」


 まだ15歳の少年に、流石にさせるべきことでは無い。

 そりゃ、オレが15歳の時には、既に裏社会デビューして紛争地帯を駆け回ってはいたけどさ。


 と、そこまで考えて、思考を止めた。


 止めよう。

 間宮はオレとは違うのだから、比べる必要はない。


「(証拠は隠滅出来たとは思いますが、目撃証言などは流石に消せないでしょう。

 しばらく、クラスメート達の北の森での行動や、冒険者ギルドでの依頼受付は規制した方が宜しいかと、)」

「(………そうだな。そうするよ)」


 あの召喚者達と、ウチのクラスメートは何の関係も無い。

 だが、そんな事をこの世界の人間に言ったところで、学生服やブレザーを着ていた彼等の姿を見れば言い逃れは難しいだろう。

 ならば、先にそう言った芽をつぶしておくに限る。


 ………学生服に関しては、本格的にリニューアルした方が良さそうだ。

 これもやることリストにメモしておこう。


「(ちなみに、例の召喚者達が盗んだものに関しては、騎士団に全て預けてあります。

 おそらく、持ち主が分かり次第返還、もしくは遺品として返還する事になるのでしょう)」


 次に間宮が続けた報告は、彼等の犯罪の証拠品ともなった盗品等。


 まぁ、そうなるわな。

 オレが見た事もある『商業ギルド』の模様の入った袋なんかもあったし、持ち主が早めに見つかる事を祈ろう。


「(ただし、オレ達が動いた事に関して、騎士団には緘口令を敷いてあります。

 持ち主が分かったとしても、騎士団が漏らさない限りは表沙汰にはならないでしょう)」


 うん、分かった。

 オレが眠っている間だったのに、そこまでよく手配してくれたよ。


「(もっとも、手配してくれたのはアビゲイル氏です)」

「(………。)」


 そして、またしても口を噤む。


「(しばらく、忙しくなるとの事で、伝言を頼まれております)」


 噤んでいたオレの顔を見てから、またしても苦笑を洩らした間宮。


「(『今回の件は、内密に処理をしておく。対応は自分に任せて欲しい』、だそうです)」

「(………任せるも何も、最初からそのつもりだっつうの)」


 正直言えば、ありがたかった。

 今回の事で、オレ達以外の異世界の人間の存在が発覚してしまったから。


 だが、その事実を葬り去る以上、オレ達の今回の行動は、詳細を知らない騎士団にとっても少々不可解な遠征になってしまう。

 だが、ゲイルが緘口令を敷き、更に『盗賊・山賊の討伐』だったと処理する事で、オレ達への追及は最低限に抑えられる。


 今は、アイツの事が信用出来ないが、背に腹は代えられない。

 今回ばかりは、彼の肩書きと好意に甘えておくしかないようだ。

 ………そのうち、熨斗付けて借りは返してやる。


 そして、最後の報告となったのは、勿論そのゲイルの事で、


「(………正直、オレもアビゲイル氏には、不信感がありました。

 ですので、あの作戦の終了の後、帰路に付いた彼を尾行したのです)」


 ………はい?

 まさか、あの作戦の後に、まだお前は動き回ってたの?


 口では言わなかったが、顔に出ていたのだろう。

 オレには休めと言う癖に、自分はどうした、青少年?


 ぼきっ、と片手だけで指を鳴らしたら、間宮が慌てて手を胸の前で振った。

 最近伸ばし放題になっている髪をぶんぶんと振り乱して、彼は身体を縮こまらせている。


「(す、すみませんでした。で、でも、必要だと思ったのです!

 ………アビゲイル氏の言動には、どうにも不信な点も多かったですし……ッ!)」


 それは、オレも重々承知しているんだけどねぇ。

 だけど、それとこれとは話は別だ。

 オレはまだしも、お前はまだ15歳の青少年だって事を忘れるんじゃねぇぞ。

 発育不全で、これ以上身長が伸びなくなったら、どうするつもりだよ。


 って、またしても話が逸れたな。

 胡乱気な顔をしながらも続きを促せば、間宮はホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。


 それにしても、尾行とはよくやったもんだ。

 間宮のハイスペックぶりには、感心しっぱなしだな。


「(アビゲイル氏はあの後、騎士団を引き連れて、朝方にも関わらず国王へと報告へと向かいました)」

「………。」


 なるほど。

 ほうれんそうは、大事にすべきだとは思うが、まさかこんなに早く国王へと報告しちまうとはねぇ。

 しかし、自棄に早すぎると思うのは、オレの考え過ぎか?


「(どうやら、冒険者ギルド以外でも、以前から異世界からの召喚者の報告は上がっていたようです。

 今回は、その召喚者達が事件を起こしたことでオレ達の目に留まる事となってしまった。

 ………そして、どうやらこの件に関しては、アビゲイル氏は勿論、国王も既に周知だったようです)」

「(………バレなきゃ、オレ達に報告は要らないって思ってたって事か)」

「(そうらしいですね)」


 また一つ、この王国に対しての疑心が強まった。


 秘匿していたのは、何もゲイルだけでは無い。

 この王国の国王までもが知っていた。

 それも、オレ達に報告すべき内容だったにも関わらず、報告していなかった。


 その真意は、一体何だ?



***



 そんな王国ともども、疑心が募るゲイルが、今はオレの目の前でシガレットを吹かしている。


 なんか、凄い違和感。

 今さっきまで、2日前の夜の回想をしていた所為か、余計にね。


 先ほど呼び出されてから、聞き耳を立てられないように、とオレの自室へと向かった。

 椅子に座ったオレと、床に座ったゲイル。

 最初はベッドを進めたのだが、彼はさっさと床に座って気にするな、と。


 それが、オレには拒絶のようにも思えた。

 対等では無い、と自分に言い聞かせているようにも見えた。


 今はそれが、逆にありがたい。


 甘えてしまったり、彼の地位に助けて貰ったこともある。

 しかし、今回の事も踏まえて、以前の裏切り行為は覆せない。

 友人としてではなく、騎士団長という一人の人間として、仕事上での関係を貫くべきだ。

 オレは、その方がお互いの為にも良いと思っている。


 ………シガレット吸いながらってのは、どうかと思ったけどね?


 まぁ、細かい事は言わない方向だ。

 3日ぶりに見た彼は、自棄にやつれているように見えて、少し哀れだ。


 結局、オレはそのままの状況で、彼からの話を聞く事となった。


「………んで?何の用だって?」

「………。」


 だが、用件を問い質せば、返ってきたのは無言だった。

 思わず、イラッとした。


 ので、腰のホルスターから拳銃を引き抜けば、


「………ッ、例の件の進捗状況を話したかったんだ!

 そ、それから、個人的に必要になるだろう、書類の手配もしたいと、」


 先ほどのだんまりは何だったのか。

 また、嘘を吐こうとして、何か考えていたのかどうかは不明ながら、拳銃にビビったのかすぐにゲロった。


「………まずは、進捗情報を聞こうか」


 そう言う事なら、オレも話は聞く。

 椅子に腰かけた体勢のまま、オレもシガレットを取り出して一服した。


 その間に、ゲイルが胸元から引き出した紙。

 おそらく、メモ帳か何かだったのだろうが、裏面には書類だと思しき文字が踊っている。

 ………兵糧管理とか書かれているけど、それ使って良かった奴なのか?


「召喚者達の件は、あらかた全て片付けた。

 元々、盗賊の掃討という名目のつもりで騎士団を動かしていたので、詳細な記録も残さなくて良い。

 騎士団には、緘口令だけを敷き、今回の事は秘密裏に終わらせた」

「ご苦労さん」


 ここら辺は、既に間宮からの報告で聞いているものだ。

 労いだけをして、先を促す。


「盗品に関しては、既に手配済みだ。

 マークの残っていた物品や持ち物は、『商業ギルド』へと渡りを付けて随時返還していく。

 また、そう言った目印を持たない旅人や連合商会への返還は、『冒険者ギルド』やそれぞれの元締めと連携して、返還対応を行う予定となっている」

「………分かった。それだけか?」


 この盗品に関しても、既に間宮から報告を受けている。

 別に、突っ込む必要も内容も、特に無い。


 しかし、ゲイルは何故か難しそうな顔をしたままであった。


 まぁ、良い。

 他に用件もあったようだから、そっちかもしれない。


「………例の武器に関してだが、」


 歯切れ悪く、口にした彼の『例の武器』とやら。

 おそらく、火縄銃の事を言っているのだろう。


 残念ながら、例えゲイルであっても、あの武器の仔細は明かせない。


「悪いが、あれはオレ達のところで管理させて貰うぞ」

「それは、分かっている」


 そこで、ふとゲイルがまたしても、胸元から引っ張り出した何か。

 それは、封筒のようだった。


 というか、封筒だな。

 蝋印はどこのものだろうか、と眼を凝らすが、その前に彼から渡された。


「オレの姉上に書いて貰ったものだ。中身は紹介状となっている」


 姉上?

 ………というと、以前シャルの買い物の際にお世話になった、ヴィッキーさんか?


 彼女の事は知っているけど、紹介状って?


「勝手ながら、武器を扱っている商会や、武器商人の宛が無いか確認して来た。

 そこで、書いて貰ったのが、この紹介状だ」

「………。」


 思わず、口を噤んでしまった。

 そして、無意識のうちに、机の鍵の付いた引き出しに入れておいた、やることリストを探してしまう。


 オレが、今後やろうと思っていたリストのうちの一つ。

 それが、先ほどゲイルが言っていた武器を扱っている商会や武器商人への、コンタクトだったからだ。


 だが、やる事リストは、依然として机の中に入れたままだった。


 ………驚いた。

 遂に、コイツは空き巣までやったのか、と疑ってしまった。


「………べ、別に盗み聞きも盗み見もしていないからな?」

「ああ。今確認したよ」


 となると、コイツは自発的に思い付いたって事になるな。

 ………まさか、そんな事に頭が回ったなんて、ちょっと信じられないんだけど。


「………紹介状は、2つ。1つは、お前が持っている裏ルートの商売人だ」


 そう言って、ゲイルはオレの手元を見る。

 確かに、オレが知っている名前の商売人の名前だ。


 裏ルートというのは、以前ラピスが開発していた魔法具を買い集める為に使った、独自のルートである。


「もう1つの紹介状は、ほとんど新規と言っても過言じゃない。

 それに、王国内でも裏社会と密に接している分、危険だと思われる」


 ゲイルが、苦い顔をしていた理由が、少しだけ分かった気がする。

 オレも知らない訳じゃない。

 裏社会に精通しているのは、結構多い。

 政治家、好事家、権力者、暗殺者、そして、武器商人。


 接触するとなると、それ相応のリスクが高まる。

 彼は、それを危惧していたのだろう。


「………ただ、姉上が知っている、というのは気になった。

 だから、独自に調べてみることにしたのだが、少しだけお前達に関わっている事が関係した」

「………何?」


 ふと、ゲイルが苦々しく呟いた声に、嫌が応でも反応してしまう。


 ヴィッキーさんの紹介ってのも気になるし、ゲイルが調べた結果がオレ達にも関わっているとなると、余計に気になる。

 ………というか、ヴィッキーさん、何者?

 普通の商売人だと、武器商人なんかと渡りを付ける理由なんて無いよね………?


 と、背筋が薄ら寒くなったところで、ややあってゲイルが口を開いた。


「………噂が出て来た。些細な噂だが、割と広まっている噂だ。

 ………武器商人の護衛に付いている人間が、異世界からの異邦人という話だ……」

「なんだと?」


 その言葉に、今まで吸っていたシガレットが、口から零れ落ちた。



***



 ゲイルや、王国への不信。

 その真意を知りたいと思っても、話してくれる訳では無いだろう。


 だから、オレ達はある仮説を立てていた。

 間宮から、報告を受けていた夜にだ。


 あくまで、仮説ではあるが、突然知らされた時に、動揺してしまう事の無いように。


 それは、異世界人達の存在と、オレ達との関係にも関わっていた。


「(あくまで、予想ではあります。

 王国側としては、何らかの理由が合って、オレ達に別の召喚者達の事を知らせたくないのでしょう)」


 そう言って、先ほど話していた王国への真意に対する、予想を口にした間宮。

 オレも、その見解に異論は無い。

 客観的に見れば、そうなる。

 自明の理だ。


「(しかし、その理由が、オレ達には見当が付きません)」


 うん、オレも見当が付かないんだけど。


 ちょっと、整理して考えてみよう。


 オレ達とは別の召喚者達の情報は、前々から王国に入っていた。

 冒険者ギルドにも情報があったぐらいだから、騎士団なら相当だったのだろう。

 だが、それをオレ達に知らせたくない。


 考えられる可能性は、2つ、ないし3つ。


「(1つは、オレ達の『予言の騎士』と『教えを受けた子等』の伝承に関わっている可能性だな)」

「(………それは、オレ達以外の異世界の人間を受け入れる準備が無いと言う事でしょうか?)」


 受け入れる準備とか言うよりも、そもそも『石板の予言』を崩したくないんだろう。

 『聖王教会』は国教でもあるから、王国側としても国民に『予言』に関して間違った認識を持たれたくない。

 オレ達を擁立する前だったら、受け入れは可能だったのかもしれないけどね。


「(2つ目は、過去にも異世界からの召喚者達がいた。

 その時の召喚者達がなんらかの犯罪を犯した、あるいは害厄を齎した事があった)」

「(あー………だから、あまり受け入れたくなかったのでしょうか?)」

「(………オレ達が召喚された当初の段階で、拘束されたのもこの所為かもしれないな…)」


 そう考えると、オレ達が召喚された当初の騎士団の、あの大袈裟な対応も納得出来るんだよね。


 魔族か何かと勘違いしていた、と濁してはいたけど、もしかしたらオレ達異世界人の格好を見て、害悪だと騎士団の方で勝手に判断したのかもしれない。


 ………あれ?

 でも、その場合は、その後の掌返しがちょっと早すぎるな。

 過去になんらかのトラブルがあったなら、もう少し時間が掛かるとは思うんだけど……。


「(3つ目は、………考えたくないけど、山中の言っていた通り、オレ達が偽物である可能性、か)」

「(………女神の加護を受けて、これだけ魔法の才能にも優れているというのに、ですか?)」


 小首を傾げてしまった間宮に、オレはちょっと苦笑を零す。

 自分で、魔法の才能に優れているとは、オレは絶対に言えないんだけど………。

 まぁ、オレや自分だけでは無く、クラスメート全員の事を言っているのだろう。


「(前々から思ってたけど、『予言の騎士』って言い張っておきながら、何一つ証拠が無いんだよね)」

「(………証拠………ですか?)」

「(ほら、騎士団なら鎧とかの色や家柄で見分けるだろ?

 王国としての国旗や家紋、『聖王教会』の紋章なんかも、証として使われている)」


 手紙の蝋印に使ったり、判子のような形で書類に押してあったりする。

 騎士団の証、王家の証、教会の証。

 そのどれもが、一目見てそれだと分かる、考え抜かれた紋章を象っている。


 でも、オレ達『予言の騎士』と『教えを受けた子等』には、物的証拠が何一つ無い。

 あるのは、認識だけだ。


 そして、それを言い張っているのは、オレ達と国王、『聖王教会』だけである。


「(一体、何を持って『予言の騎士』なのか。

 それが分からない限り、『予言の騎士』として何をすれば良いのか分からないよね)」

「(女神の加護だけでは、不十分でしょうか?)」

「(その分、オレは魔法を使えない。『闇』属性は、表向きには絶対に使えないだろう?)」

「(確かに………)」


 もし、本格的に証拠を見せろ、と言われてしまうとどうしようもない。

 以前『白竜国』や『竜王諸国』からの引き抜きを受けた時も思ったが、情報が自棄に広まるのが早かった。

 その分、認識も早いと思っている。


 けど、もしこの世界のどこかで、まったく別の召喚者達が名乗りを上げ、『予言の騎士』と言い張った時、見分ける為には一体どうすれば良いのか見当もつかない。

 今回のように、別の召喚者達の存在が明らかになった事で、絵空事ではなくなってしまった。

 もしかしたら、有り得てしまう可能性は高い。


 そして、その時になって不利になるのは、間違いなくオレ達だ。

 なにせ、オレは『闇』属性だし、それを扱う技能も中途半端だからだ。


 いくら、『聖王教会』の『神託』があったからとはいえ、幾らなんでも受け入れて貰う事は難しいだろう。


 だが、既に王国側としては、『神託』を信じた上でオレ達を擁立してしまった。

 他の国に対しても、通達は終わっているし、今更オレ達が偽物だったとは言いだしにくくなっている。


 そう考えると、諸々の事情が見通せるようになる。


 魔族と人間との関係や、下手な宗教団体でも無い『聖王教会』が関わってしまっている。

 その所為で、今現在では非常に難しい状況を生んでしまっているのだ。


「(………だからといって、別の召喚者達の存在を隠そうとする必要はありますか?)」

「(あるよ。オレ達の存在は、国政を揺るがしかねないからね)」


 だって、普通は『白竜国』の時のように、一国の国王様の前に立つなんて事はまずあり得ない。

 そして、その国王様と1対1(タイマン)で話をさせて貰うなんて事もね。


 王国側としては、それが当然の権利だと思っている節があるし、既にその権利をオレ達も使ってしまった。

 貿易の件にも口を出してしまったし、盟約に関しても先延ばしにさせる為に交渉もしてしまった。


 その交渉の結果、半年という期限を設けて貰い、それを今も消費している最中だ。

 もう、オレ達は勿論、王国側としても後には引けない。


「(だからこそ、オレ達以外の他の召喚者達の事を表沙汰にしたくないのは、王国側も一緒だと言う事だ)」

「(しかし、それを共有するかどうかは、また別、という事ですか)」

「(そういうことになるな。

 ………ゲイルとの関係回復は、しばらく無理だ。情報を伏せられたままなんじゃ、話も出来ない)」


 オレは、そう結論付けた。


 しかし、


「(ただ、その報告の際に、アビゲイル氏がオレ達に知らせるべきだと主張したのに対し、それを国王が却下したという経緯もあります)」

「(………何?)」


 ゲイルが、オレ達に知らせるべきだと主張した?

 そして、国王がそれを却下した?

 なんだろう、それはどこか、逆転しているような気もするんだが………。


 オレは、てっきりゲイルが、情報を握り潰そうとしたのかと思っていたのに、


「(………少し、後ろめたい気持ちはあったようですよ。

 正直、オレも今はあまり信用出来ないとは思っていますが、国王へと報告をした際の彼は、非常に真摯にこの一件を受け止めていたように思えますから)」


 それは、少しだけ、オレの猜疑心から来る、早とちりだったようだ。


 間宮は、実直な感想を述べた。

 どうやら、彼の眼から見れば、ゲイルの行動は少なからずフェアに見えた様だ。


「(………その後、言い募る事はありませんでしたが、少し不服そうにしていたのも覚えています)」

「(………演技の可能性は?)」

「(オレの尾行に気付いていたのであれば、そもそも報告すらしないでしょう)」

「(それもそうか………)」


 ゲイルは、少なくとも、話すつもりでいた、ということか。

 それも、あの時は無理だったが、国王からの許可を得れば秘匿する必要はないと判断したのかもしれない。


 だとすれば、話ぐらいは聞いてみる価値はある。

 もしかしたら、国王からの口止めを受けてなお、彼なら話してくれるかもしれない、という願望が少なからずあったから。



***



 今日、この校舎に来て、彼は何を話すつもりだったのか。

 どんな気持ちで、ここに来たのか。


 彼から踏み込んできた。

 召喚者に関する情報について。


 オレ達が、あーだこーだと真意を探っていた、その答えと共に。


「………正直、眉唾物では無いかと思っている。

 しかし、例の召喚者の件があった以上、半信半疑ではあるが、信じていない訳でもない」


 異世界からの召喚者が、武器商人の護衛を受け持っている。

 ゲイルが齎した一報は、オレの背筋を凍らせた。


 だって、それは、有り得ない。

 有り得ちゃいけない。


 つまり、それは戦闘能力の有無を確定しているようなものだから。


「………護衛を出来るだけの人材が、異世界から来たって事になるのか?」

「そう、なるな。………おそらく、お前と似たような境遇ではないかと、考えてはいる」


 ゲイルは、苦々しい顔のまま、オレへと視線を向けた。


 オレと同じ境遇、と考えれば答えは一つだ。

 軍事関係者、及び、裏社会での実戦経験を持つプロ。


 この世界では、割と危険は至るところにごろごろと転がっていた。

 今も転がっている。


 まず、騎士団は必ず、武器を携帯する。

 これは、義務付けられていることだ。

 何故か。

 それは、街中であっても、危険があるからに他ならない。


 騎士ですらそうなのだ。

 所謂、裏ルートやそう言った面々にコネクションに精通している人間が、武器を持ち歩かない訳が無い。

 更には、その人物達は、ある程度の危険は排除出来るように訓練している者がほとんどだ。

 たまに、何の武芸にも秀でていない人間もいたりはするが、そう言った者は護衛を雇う。 


 そこで、ふと思い出したのは、アグラヴェインの言葉だった。

 『弱者が情けで生き長らえることが出来る程、容易い世界では無い』という、あの一言だった。


 先ほど落としてしまったシガレットを、踏み付けた。

 奥歯を噛み締める。

 口元が、僅かに歪む。


 アグラヴェインの言葉の通り、この世界で生き抜くにはあらかじめ力が必要だ。

 金の力も、権力もそうだが、まずは腕っ節。

 護衛なんて、それこそ戦闘能力に秀でていなければ、まず見向きもされない。

 名が売れなければ、この世界では使ってもらえず、落魄れるのがほとんどだからだ。


 しかし、その護衛が異世界人だとなれば、話は別。


 それは悪夢だ。

 先ほども言ったように、軍属や関係者、プロ。

 微細に言えば傭兵、スパイ、暗殺者やスナイパー、エージェント。


 ただでさえ、現代では技術が進んでいる。

 この世界の暗殺者では考え付かない事も、現代の暗殺者なら容易に考え付く。


 一酸化炭素中毒で殺すなんて事、この世界の人間は考えないだろう。

 そもそも、一酸化炭素中毒自体が、何かしらの毒だと勘違いしている輩が多い。

 急所一つを取っても、ゲイルとオレでは認識が違った。

 オレは鳩尾だと言っても、ゲイルにとっては腹で、腎臓や延髄も、彼にとっては脇腹と後頭部程度の認識だった。


 圧倒的に、この世界では情報量が少ない。

 その情報量を保有しているのが、オレ達現代で生きてきた異世界の人間だ。


 しかも、その人間が裏社会人であれば、尚の事。


 つまり、オレですらも、危険だと言う事だ。

 しかも、オレには左腕が使えないというハンデがある。

 もし、暗殺者やエージェントが出てきた場合、オレだけでは分が悪い。


「………どうする?例の武器に関しては、出来る事なら早めに動いた方が良い。

 オレも動いて欲しいと思っている。

 だが、その人物がもし、噂通りの人物だとしたら、かなり危険な場所へと足を踏み込む事になるぞ」


 そして、徐に立ち上がる。

 その手には、またしても、紙束が握られていた。


「………噂ってのは、」

「この中に、書いてある。オレも、あくまで噂だと思ったので、ごちゃごちゃと書いてしまった。

 だが、最後の一枚に要約してある」


 そう言って、その紙束もオレに向けて、差し出された。

 厚い。

 そして、少しだけ重いと感じた。

 紙質の問題が、気分の問題かは分からない。


 最後の一枚、と言っていた紙は、まるで手紙のように折り畳んであった。


 危険だ、と脳内で警告が鳴っている。

 以前は、早く調べたくて仕方無かった武器の件が、今はどうしても調べたくないと逃げ腰になってしまっていた。


 正直に言うなれば、この紙束だって見たくない。


「出向時期は、お前に任せる。

 ただ、出来ればオレにも知らせて欲しいと思っている」

「………。」


 オレは、彼のそんな言葉に、返答は出来ないままだった。


 色々と戸惑ったり、動揺したり、ついでに憤っていたり。

 感情が重なり過ぎて、ぐちゃぐちゃになって、何をどうすれば整理出来るのか分からなかった。


 踵を返した彼の背中を見送って、苦く顔を歪ませることしか出来ない。


 内容もそうだが、お互いの対応もそう。


 もう、以前のような関係には、戻れないのかもしれない。



***



 しかし、その後、


「オレの用件で、大まかな内容はその程度だ。

 ………後、国王陛下の要件が一つだけあるのだが、」


 彼が退室しようとした時、徐に振り返った。


 顔は、なんとも言えない微妙な表情になってしまっている。

 どちらかと言うと、罰が悪そうだ。


 そこで、合点が行った。


「………馬鹿息子とやらの受け入れの件ならもう知ってるぞ」

「………済まん。『よろしく頼む』だそうだ」


 どうやら、国王陛下も噂に惑わされた一人のようだ。

 何の?

 勿論、貴族家の編入希望の受け入れだよ。


 ………全員、最初から落とすつもりだって、今コイツに言ったらどうなるんだろう?


 お互いがお互いに、微妙な表情のまま固まった。

 何にせよ、締まらなかった。



***



 その夜の事だった。


 間宮を呼び出して、ゲイルからの報告を共有する。

 場所は屋根の上。


 月が自棄に綺麗に見えて、少しだけ悔しい。

 こんな日は、月見酒でもして、ゆったりでもぐったりでもしていたい。

 ローガンもラピスも酒はイケる口のようだったので、今度飲みにでも行きたいとか思ったりもした。


 けど、それを許さないのが、ゲイルからのメモだった。


 これには、例の武器商人の護衛に付いているという、男についてまとめてあった。


「(男性。20代後半から30代。短髪の黒髪。

 細身で長身。他に身体的特徴は無し。

 ただ、ナイフか短剣に精通し、毒や薬も扱っている事は知られているらしい)」

「(………異世界の人間にしては、大人しいですね)」

「(いや、そうでもない。毒も薬も扱うにはそれ相応の知識が必要になるし、リスクも高い)」


 こっちの世界の人間で、毒や薬を扱う人間はそう多くない。

 ゲイルの談ではあるが、裏社会での毒や薬の流通もそこまで多くないらしいから、信用は出来るだろう。


 そして、毒も薬も、扱いもそうだが管理がとても難しい。

 この世界には、冷蔵庫なんてものも無いから、基本的には常温管理。

 あるいは、魔法で凍らせたりするもんだから、かなり雑な扱いになってしまう。

 酷いものは毒性を無くしたり腐ったり、薬に関してもそれは同様だ。

 まぁ、そういったものでも、体に害悪があれば良いって考えなのかもしれないが、それにしたってお粗末過ぎる。


 一時期、毒蛇に噛まれたらどうすれば良いかとゲイルに聞かれたことがある。

 何の嫌がらせだ?と思ってしまったが、彼もオレの記憶を見てから、ずっと対処法が気になっていたようだ。


 処置法としては、タンニンが含まれる茶等で洗い流し、血清が無いなら最悪炙れと言ったら、ドン引きしていたけど。

 同時に、酷く感心していた。

 彼等には、血抜き以外の方法は分からなかったようだ。


 そう言ったこともあって、この世界の人間は毒には疎い。

 扱える人間が限られているのだ。

 そして、警戒しているのは、王族や貴族ぐらいなものだしね。

 そうなると、この護衛が毒や薬に精通しているというのは、異世界人としての知識や経験とも考えられる。


 次に、この護衛の普段の行動や、きな臭い噂について。


「(護衛の仕事をしているのは勿論だが、ほとんど出歩く事は無いようだな。

 その代わり、武器商人がいるところには必ずいるらしい。

 その際には、武器商人の代わりに、脅し、集り、尋問、拷問と………、結構気性も荒らそうだ)」

「(………まぁ、裏の人間なんてそんなものですよね。

 銀次様が温厚すぎるだけで、)」


 そう言ってくれるとありがたいけど、いつもの修行中の事思い出してみろ。

 オレのどこが、温厚だ?


 そう言ってにっこりと笑いかければ、間宮も思い至ったのかマナーモード。

 この話は、強制終了だな。


「(それから、彼が関与していると思われる事件が、少なくとも数十件。

 そのうち、死人まで出ているのは、20件を超しているとなると、)」

「(………そこまで分かっていて、何故騎士団は逮捕出来ないんでしょう?)」

「(大人の事情って奴だよ。物的証拠が無いってのが一番だろうが、第一に問題なのが武器商人。

 この武器商人、裏でも表でも武器商人で通していて、実際に騎士団に武器を卸していたりもする)」

「(なるほど)」


 武器商人の名前は、シュヴァルツ・ローラン。

 先ほど言ったように、騎士団にも武器を卸している武器商人として、このダドルアード王国では有名だ。

 敏腕も然ることながら、他にも幾つもの工房を持ち、魔法具の開発や冒険者向けの道具等の販売も行っていて、市場をほぼ独占しているような状況だ。


 ………なんで、こんな人間にヴィッキーさんは伝手があったんだろう。

 もしかして、魔法具関連かなぁ?


「(だから、この男が関与していると分かっていても、騎士団としてはおいそれと手出しが出来ないのさ)」

「(野放しなんですか?)」

「(少なくとも、シュヴァルツ・ローランが手綱を握っている状態らしい。

 まぁ、最近ではそう言った事件に関与する事の方が、少なくなったようだけど)」


 それは、何故か。

 武器商人シュヴァルツ・ローランが市場を、ほぼ独占したからだ。

 商売敵がいなくなり、護衛としての仕事以外の行動は少なくなった。

 そう考えるのが、妥当だろう。


 勿論、裏ルートにはまだまだ武器を扱う商売人がいるものの、微々たるものだ。

 そして、ゲイルの調べによると、彼等は今更シュヴァルツ・ローランに対抗できる程の力は無く、着々と吸収されつつあるらしい。

 実際に、傘下に加わっている武器商人達も多いようだ。


 ここまで、本当によく調べたもんだな。

 ………まぁ、アイツも貴族の家だから、子飼いか間謀はいるのだろうけど。


「(………まずは、スマートに行こう。渡りを付けて、武器の買い付けに行く)」


 ゲイルの事はともかくとして、まずは偵察だ。

 異世界人だと言う護衛についても、まずは敵対をしない方向で進める。


「(応じなかった場合は、どうします?)」

「(作戦をBに移行。

 少し手荒になるが、シュヴァルツ・ローラン所有の武器庫や工房を片っ端から探索だ)」


 ただし、間宮の言う通り、オレ達を拒絶、あるいは忌避する様子を見せるようなら、その場合は忍び込んで探す事にする。

 勿論、探し物は、火縄銃やマスケット銃の類である。


 まぁ、まだこの紹介状を使う前の状態だ。

 あまり、良くない方向へと話を持って行くのは、止めておこう。


 なにはともあれ、この件に関してはゲイルのメモも、情報共有も以上だ。

 他にも護衛に関しての恐い噂はいくつかあったようだが、半信半疑なのでまとめられてはいなかった。


「(出向くのは、ゲイルの予定が合った時にする。

 勝手に動き回って、また粗探しでもされるのは迷惑だからな)」

「(了承しました)」


 とりあえず、武器商人の件は、目途だけは立ったと思って良いだろう。



***



「(それから、もう一つオレからの報告がある)」


 さて、話は変わるが、空気も変えよう。


 明るい話題だ。


 と、言っても、オレ達には嬉しくないニュースなのだが。


「(オレ達は知るよりも無かったが、先日、滅びた筈の国が2つ、相次いで復活したらしい)」

「(………2つもですか?)」


 間宮が、驚いた表情をしているのが見えて、オレも苦笑。

 オレも、読んだ時には驚いた。


「(1つは、北西に位置する、フライヤ独立国。

 王権制では無く、国民から選出された議会で、国政に当たる民主主義国家だな)」


 ここは、元々『竜王諸国』の『黒竜国』、『赤竜国』の国境に面していた中小国家。

 しかも、以前は王権制だったのだが、『人魔大戦』の最中、国そのものが攻め滅ぼされたらしい。


 しかし、今回その国が、新たに独立国家として復活。

 街の様相として細々とやって来てはいたが、今回国として興す事を決めたらしい。

 王権制では無く民主制という所は、この世界でも非常に珍しい国家体制だ。


 ただ、領地が面しているのは、結局『竜王諸国』だ。

 属国になるのか、ダドルアード王国と同じく貿易国となるのかは定かでは無いが、戦争が起こるようなことが無ければ良いなと思うだけである。 


「(それから、もう1つは『新生ダーク・ウォール王国』。王権制の新興国だ)」


 以前は『暗黒大陸』からの防衛を担っていた、北東のダーク・ウォールという国だった。

 しかし、この国もまた『人魔戦争』の折に攻め滅ぼされて、ほとんど街程度の規模しか無かったらしい。

 だが、最近になって王族の生き残りがいたことが判明。

 各地に散らばったダーク・ウォール出身の者達が集まり、『新生ダーク・ウォール王国』として復活。


 今現在は、王族の生き残りである、以前の王子が王様の代理。

 ただ、結構な歳を召されているらしく、ゆくゆくは娘である姫に王権を継がせて一世とするつもりらしい。


「(………しかし、この話が何かあったので?)」

「(ところがどっこい。

 2つ目の国に関して、オレ達に嬉しくないニュースがあるんだなぁ、これが)」


 確かに、これだけを聞くと、所詮は大陸の端と端。

 ダドルアード王国からも、大陸の北に位置する遠方の国である。

 他人ごとでしかない、と思われる。


 しかし、


「(国王とゲイルが、オレ達に召喚者達の存在を伏せたかった理由が、この国なんだよ)」

「(………どういう事です?)」


 ゲイルからのメモと、最後の紙。

 それは、全くの別物だった。


 全く、別の内容が、折り畳まれていた手紙には書かれていた。


 そして、その紙こそが、オレ達の知りたかった真実だった。


「(『新生ダーク・ウォール王国』は、『予言の騎士』と『教えを受けた子等』を擁立している。

 今は、各地に派遣して、魔物退治やら街の復興作業、それから各地の『聖王教会』支部の巡礼を行わせているそうだ)」



***

最近、結構な頻度でシリアス展開ですが、そろそろなんとかして話題を明るい方向へと持って行きたいと思っております。

ゲイル氏との関係性もこれ以上悪化させたくないのに、あまりにも本編がシリアス過ぎて、またしても仲直りをさせる暇が無い。


そろそろ恋愛も書きたいけど、本編にぶちこめるリソースが無い………だと?


まぁ、細々と活動していますんで、そこまで根を詰める必要はないのかな、とも思っております。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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