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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、女蛮勇族救出戦線編
86/179

75時間目 「課外授業~ほうれんそうは忘れずに~」2

2016年5月18日初投稿。


続編を投稿させていただきます。

タイトルの一行に関しては、忘れると大変な事になりますよ、と言う意味で使っていました。

もうおわかりいただいたと思いますが、ジャッキーさんの事でした(笑)


75話目です。

鬱展開が続いていたので、今回はコミカルなタッチを目指しました。

まぁ、ただの後日談の説明みたいな会になってしまっていますが、気が向いたら改めて改稿します。

***



『なんぞ、お主も懲りぬものだな………』

「………うるせ」


 虚空を見つめたままぼんやりと、背後から掛けられた声にもおざなりに。


 暗闇の中、脚を抱えて蹲ったまま、時間が過ぎるのを待つ。

 最近は、こうして眠るとすぐに、アグラヴェインが夢の中へと誘ってくる。


 これが、対話だけをメインにしている訳では無い事は、知っている。

 オレの魔力の扱いや、調整の仕方、ついでに彼の能力を顎で使う事へ小言が少々。


 だが、昨日一昨日と3日も連続したんじゃ、そろそろお互いに見飽きてくるものだ。


『………ほぅ。では、我が、主に力を貸す必要はもう無かろう?』

「………それは勘弁、……って前にも、同じようなやり取りしなかった?」


 そうそう、一昨日の夜にこんな感じの事言ってたよ。


『主が性懲りも無く、我が教えを真面目に聞かぬ故な、』

「………今は、放っておいてよ。小言も、慰めも、聞きたくない…」


 結構、ナイーブなの。

 特に今は。


 ゲイルの事とか、ローガンの事とか、考えなきゃいけないことたくさんあり過ぎて。

 それに、発覚した頬に傷のある冒険者の事とか、火縄銃が出回ってるかもしれない事とか、またしてもゲイルが隠し事をしている事とか。

 調べなきゃいけない事もそうだけど、どんどん仕事が増えていっている。

 投げ出す事も出来ないし、投げ出して良い事だとも思えないから、消化していかなければいけないことだとは分かっている。


 でも、さぁ………。


「なにも、こんなに重なる事無いじゃん………」

『………まぁ、主には主で、大変なこともあろうが、』

「………もう、嫌だ」


 嫌な予感が、止まらない。


 久しぶりに、こんな泣きごとを言ったような気がする。

 以前は、この異世界に召喚された事で、うんざりしていた時だっただろうか。


 それでも、あの時は生徒を守る為、と奮い立つことは出来た。


 今だって、生徒達の事を考えれば、やってやれない事は無い。


 ………でも、


「………どうすりゃいいの?どんな顔して、生徒達に言えば良いの?

 オレ達と同じ召喚者が見つかりました。でも、犯罪者だったので、殺しましたって…」


 思えば、初めての人殺しの時も、オレは同年代の子どもを殺した事を思い出す。

 あれは、確か口封じだっただろうか。

 見ちゃいけないものを見ちゃっただけの、普通の少年だった。

 ミラノだ。

 イタリアだ。

 ストリートキッズだった筈だ。


 なんで、オレ、子どもを手に掛けた事実の方が、多いんだろう。

 思えば、細菌テロで村を一つ焼いた時も、真っ先にオレが指名されたんだっけ。

 ルリみたいに、お偉いさんとか指名手配犯とか、言うなれば成金の豚野郎でも良かった筈なのに。


 ………そういう、立ち位置だったのかもしれない。

 だからこそ、思う。

 今更だとは、思う。


「オレ、このまま、生徒達の事教えてて良いのかな?

 アイツ等の事、これからどんな顔して、戦地に送り出せば良いのかな………」


 揶揄でも何でも無い、オレの本音。

 聞いているのが、アグラヴェインだけで、誰にバレるでもないと思ってしまったからこそ、ポロリと零れてしまった本音。


 同時に、瞼からも涙が零れてしまった。


『………主の考えている事は、分かる。

 だが、主が教えたからこそ、あの子ども達は成長したのではないか?』

「………そんなの、結果論だ」

『結果こそが、物を言う。それとも、主は、子ども達に中途半端な教えを施し、戦地で無様に惨たらしく死んでいく事を望むと言うのか?』

「ッ………そんなことあるわけないだろ!?」


 アグラヴェインからの不躾とも思える問いかけに、ついカッとなってしまう。

 涙も拭う暇も無く、怒鳴り散らした。


 記憶が、ダブった。

 オレが、今日殺して来た青年達の顔が、『異世界クラス』の生徒達へと変わる。


 最初に殺した見張りの青年は、体格からして浅沼に近かっただろうか。

 昏倒させた2人は、榊原と香神と同じぐらいだったように思える。

 山中は、どちらかというと紀乃と体格がそっくりだった。

 だとすれば、樋上は河南だろうか。


 彼等の話では、他のクラスメート達も魔物に食われたか、殺されたかして死んだと言う。

 残りの生徒達が、魔物に食われ、あるいは盗賊に殺され、森の中で物言わぬ死体となって誰にも知られずに死んでいく。


 そこまで考えてしまえば、もう駄目だ。


「助けられた、筈なのに………ッ!」


 歯を食いしばった。

 唯一握り込むことのできる右手が、怒りややるせなさで、痙攣を起こしたように震える。


 この感情が、もう何であるかも分からなくなりそうだった。

 そんなオレを、アグラヴェインは静かに見ているだけだ。


 癇癪を起こした子どもを見るような眼で、オレを眺めているだけだ。


『………どの道、あの程度の小物達では、無理があっただろうよ。

 今のお前の生徒達は、幸運に恵まれているからこそ、今を生きている』


 そう言って、やれやれと言わんばかりに、首を振ったアグラヴェイン。


「………でも、オレは…!」


 オレは、その答えに納得は出来なかった。

 納得したくなかったのだと思う。


 どの道、オレは彼等に顔向けできない事をしてしまった。

 あの場にもし、彼等の一人でもいれば、こう言っただろう。

 「助けてあげよう」、と。


 しかし、オレはそれが出来なかった。

 その選択を出来なかった。


 あの時は、それで良かったと思っていたが、今更ながらに性急過ぎたと自覚してしまう。

 悔やんでも、悔やみきれない。


 だが、


『主がいたから、今の生徒達は生きていると言っている』


 ぶわり、とオレの目の前で、待った闇。

 炎のような形をした闇が、眼の前で火の粉を散らすようにして揺らめいた矢先、


「………ふっ…ぐッ!?」


 目の前にいたアグラヴェインが、何の前触れも無しに振るった刃。

 大刀の刃は、寸分狂う事無くオレの腹へと突き立っていた。


 痛みは無い。


 途端、体から抜け落ちていく力。

 そのまま、抜けきった力のままに、仰向けの大の字に転がった。

 実に無様な格好である。


『………何度も言わせるで無いわ。主の生徒達は、主が教師であったが故に生きている。

 それを何故、喜ぼうとしない?

 魔法を扱えるようになり、生活に余裕が出来て、欲でも出たのか?

 この世界は、弱者が情けで生き長らえることが出来る程、容易では無いのだ』


 どっぷり、と刺し貫かれたままだった大刀を、引き抜かれる感触がした。

 文句を言いたい。

 死なないからと言って、オレの扱いが雑過ぎると。


 しかし、それと同時に、オレの意識が霞がかっていく。


 ………強制的に誘ったりする癖に、強制的に叩きだしたりするとか。


 ただ、彼の言葉の一つ一つが、何故か耳に残っていた。

 その通りだ。

 いつか、考えた事もある。


 オレが、教師じゃなかったら、生徒達がどうなっていたのか。

 想像もしたくなかった。

 けど、彼の言うとおり、弱者が情けで生き長らえることが出来る程、この世界も簡単では無いのだ。


 もしかしたら、オレはただ、彼に甘えて愚痴って、この状況を打破する為のヒントを貰いたかっただけなのかもしれない。


 ………そう考えると、彼には申し訳ない事をした。

 折角の、オレのマンツーマンの指導の時間を、ただの説教の時間に費やしてしまったのだから。


 次にここに来た時は、もう少し素直に言う事を聞いてあげよう。

 その時には、今抱えているオレの問題も解決していればいいな。



***



 眼が覚めると、窓からの日が眩しかった。


 ………思った以上に、眠ってしまったようだ。

 日が中点を過ぎているのが分かる為、既に昼も過ぎたことだろう。


 まぁ、貧血と体力の限界で気絶したのは、朝方だった筈の為、そう考えると短いのかもしれないが。


 それにしても、少しばかり昨日は無茶をし過ぎた。

 今回ばかりは、言い訳は出来まい。

 生徒達には勿論、オリビアにも。


 なので、今日だけは大人しくしておこう。

 明日から、やらなきゃいけないことはわんさかあるのだが、それも今日だけはお休みした方が良いだろう。

 ………休まないと、多分、伊野田と榊原あたりに軟禁されるだろうし。


 ううっ。

 教師の威厳、どこ行った。


「………さて、差し当たって、やる事リストだけは書き出しておくか」


 最近、どうしても多くなってしまった独り言を呟きつつ、ベッドから起き上がる。


「……っと…」


 途端、ぐらりと揺れる視界に、まだ貧血気味だという事を自覚した。

 しばらくそのままの体勢で、眩暈をやり過ごし、眼をぱちぱちと瞬かせる。


 流石に、あれだけ流血すれば、回復も儘ならんだろう。

 傷が早く治る体質の事は、もう便利だからそれで良いとか思ってはいたが、血液や体力が戻る訳では無いようだ。


 しかし、ふとそこで、


「………っと、起きてるぞ。入って良い」


 扉の前に、見知った気配。

 おそらく、生徒達だろうが、知らない気配も一緒になってる。


「あ、良かった。起きてたんだね」

「ああ…」


 扉を開けた際に、顔をそっと覗かせたのは榊原だった。

 オレの顔を見るなり、へんなりと眉を下げた彼。

 機嫌は良さそうだが、無理をした前科がある手前、要注意だと思っている生徒の一人でもある。


 そんな彼の顔を見て、ふと昨夜の青年達の顔が浮かんだ。

 だが、その感情は、やるせなさや後悔とは別のものだった。

 アグラヴェインの言うとおり、オレがいたからこそ、彼等がこうして元気に生活出来ている。

 そう考えると、後ろめたくは感じても、彼等に申し訳無いとは思わなかった。


 さて、そんなことよりも、彼の用事は一体なんだったのだろうか。


「………体調はどう?食欲は?」

「あー…、まぁ、貧血はあるけど、大丈夫。食欲はあんまり無いかな」

「そっか。じゃあ、お腹空いたら教えて?今回は、お粥作っておいたしね」


 おお、お粥か。

 コーンミルも嫌いでは無かったけど、日本人としては素朴に米を食べたいと思っていた。

 まぁ、この異世界での食生活、米が主食に出来る程裕福では無いんだけどね。


 とはいえ、ありがたかったので、素直にありがとう言って置いた。

 その途端、きょとりと眼を瞬かせて、先ほどのようにへんにゃりと眉尻を下げた榊原は、少しばかりあどけなくて可愛いと思ってしまったのは余談である。


 閑話休題それはともかく


「今日は、千客万来なんだけど、とりあえず、先にこれからお世話になる人連れて来たよ?」

「………千客万来?」


 あれ?

 今日、そんな予定組んでたっけ?

 はて、と首を傾げてしまう。

 千客万来という程、挨拶に来る人間は限られている。


 最近は、変な勧誘も無く、一時期増大していた貴族連中の入学希望も大分減った。

 騎士団が護衛の名目で良く来る以外は、『聖王教会』のお使いさんとか、いつもの商売人ぐらいしか訪ねてくることは無かった筈だが?


 とまぁ、そんな事はさておき、


「先にこれからお世話になる人、って?」

「ほら、ローガンさんとその妹さんだよ。薬、持ってきてくれたんでしょ?」


 ああ、そういやそうだった。

 ローガンと彼女の妹さんと聞いて、オレはすぐさまベッドから立ち上がった。


 榊原も、オレの動きを察知して、顔だけを覗かせていた扉を開け放つ。

 ………そういや、オレ寝起きなんだけど、格好としては大丈夫?


「…あ、お目覚めになって良かったです」


 そんなオレの心情はさておき。

 榊原が開け放った扉の先には、ローガンとよく似た赤い髪をした、可愛らしい顔の少女が立っていた。

 勿論、姉であるローガンもその背後に立っている。

 2人並ぶと、ますます妹さんのこじんまりとした様相が、際立つなぁ………。


「お互いさまです」

「ふふっ、そうですね」


 内心の事もあって、苦笑を零して出迎える。

 少し部屋の中は散らかっているが、資料室ともなっている部屋なので少しぐらいは勘弁して欲しい。


「目覚めて良かった。改めて、お前に感謝を」

「気にしなくて良いよ。むしろ、オレ達の問題に巻き込んで、悪かった…」


 皆までは言わないが、今回の件は少なからずオレ達と同じ異世界の人間が関与していた。

 なので、それも含めれば、今回はローガンにお礼を言われるようなことは、妹さんを助け出したことだけだ。


「私からも、お礼を言わせてください。

 私だけではなく、お姉様の事も助けていただきまして、本当にありがとうございました」

「オレは、大した事はしていませんから、お気になさらずに」


 苦笑から、微笑みに切り替えて、差し出された妹さんの手を握る。

 アンジェローナさん、だっけ?


 やっぱり、こじんまりとした華奢な手は、ローガンと握手した時とは違って柔らかかった。


「………お前、さっきから私と妹を、比較しているんじゃなかろうな」

「別にそんな事無いし。………まぁ、似てないとは思ったけど、」

「やかましい」


 そんな事を考えていたから罰が当たった。

 ローガンにオレの内心を見透かされてしまっていたらしく、オレでも縮み上がってしまうような冷やかな視線が一つ、突き刺さる。

 妹さんは苦笑をしているが、オレは苦笑どころか微妙な顔のままで、硬直せざるを得なかった。


「………とはいえ、助けて貰ったことに変わりはない。

 それに、体調がまだ万全ではないようだから、拳骨は大目に見てやろう」

「体調悪かったら、拳骨食らうところだったのかよ」

「そ、そう言う訳では無いが、」


 良かった、体調悪そうに見えて。

 常ならば考えないだろう事を考えつつ、再度苦笑へと切り替えた。


 とまぁ、改めて自己紹介、というか挨拶を受けたのだが、


「………そ、そう言えば、お前。

 冒険者ギルドのマスターと知り合いだったのか?」

「へぁ?」


 ふとしたローガンから問いかけ。

 表情は、苦々しいのか胡乱気なのか、はたまた驚愕だったのか定かでは無い。


 ………冒険者ギルドのマスターって?

 それって、言わなくても分かったけど、ジャッキーの事だよね?


「………げっ!!」


 ふと、そこで思い出した。

 思い出したくない事まで思い出した。


 ………オレ、落ち着いたら、アイツに連絡するって約束、すっぽかしてねぇか?



***



 慌てふためいてダイニングへと降りれば、案の定。


「よぉ、良く眠れたかよ?この、すっとこどっこい」

「うわわわわわ………」


 ダイニングの空気が、薄紫色かどどめ色(笑)に染まっているのを確かに見た。

 効果音を付けるなら、ずもももも、とかそんな感じ。


 どうでも良い事を考えている暇が無いのは分かっているが、恐怖心からどうしてもそれ以上先に進めなくなってしまったオレのチキン具合。

 ダイニングに降りた時、そこにいたのは先程ローガンも言っていた冒険者ギルドのマスターであり、彼自身もSランク冒険者である獣人の偉丈夫。

 ジャッキーだった。


 そして、そんな彼はソファーに寛ぎつつ、昼間から酒を飲んでいた。

 おそらく、校舎に置いておいた、貰い物の酒だろう。

 銘柄に見覚えがあるもの。


 なんて、またしてもどうでも良い事を考えていたが、


「………良かった、ギンジ。目が覚めたようじゃな」


 そんなジャッキーを接待していただろう、ラピスがホッとした様子で振り返った。

 ………いや、マジでゴメン。

 アンタに、そんな事までさせてしまうつもりは無かったのに。


 ちなみに、ラピスと同じく接待をしていたであろうライドとアメジスも、オレにほっとした顔を向けていた。

 こちらの2人は、疲労の色すらも濃い目。

 ………いや、マジで、本当にゴメンなさい。


「わ、悪かった!ちょっと、立て込んでて、色々やる事もあったもんだから…!」

「おぅ、話は、こっちの別嬪さんから聞いたぜ。

 真夜中に北の森に行ったのも凄ぇもんだが、盗賊退治までやってきたって事ぁ、随分と元気だったようじゃねぇの」


 わぁい、完全にオレの行動がバレていらっしゃる。

 というか、今の台詞、完全に嫌味だよね。

 うん、分かる。


「………そ、そうなんだ。色々問題があったもんだから、先にそっちを片付けようと思ってて、」

「それで、オレへの連絡は忘れちまったんだろうなぁ。まぁ、良いさ。

 お前も『予言の騎士』だの、教師だの、冒険者としてだのと忙しそうにしているのは、知ってるからなぁ」


 知っていらっしゃるのなら、何故そこまで怒ってるので?

 と、聞きたくても聞けない、この状況。

 ついでに、オレの脚は先ほど、ダイニングに足を踏み入れようとした階段の真下で、止まってしまっている。


 ………本能的に、これ以上近づけない。

 だって、前にも言ったけど、ジャッキーってオレの師匠に、雰囲気だけは…(以下略)


 北の森の作戦中も、何か忘れているとは思ってたけど、これだよ!

 完全に、頭からすっぽり抜け落ちてたよ!


 生徒達の期末試験と監督お願いしといて、投げっぱなしとかマジ有り得ねぇ!

 しかも、その報告を受ける予定だった筈のオレが、すっぽり忘れたまま音信不通とかも、マジで土下座ものじゃねぇかよ、畜生め!


「いや、もう、本当にゴメンなさい」

「………悪いと思うなら、とっととこっち来やがれ」


 ゴメンなさい。

 無理です。

 足が動いてくれないんです。


 とは、流石に言う事も出来ず、ふらふらとした足取りで、やっとこさ彼のいるソファーへと辿り着いた。


 ダイニング入ってから突き刺さる、哀れなものを見るような生徒達の視線が、どこか安心感があるなんて思いたくなかった。

 昨日から、なんか情けない格好しか見せていない気がする。


 ………ゴメンよ、生徒達。

 オレ、今日で死ぬかもしれない。


「………随分と、青い顔してやがるが、体調は回復したのか?」

「え?…あ、ああ。なんとか……」

「………この別嬪さんから聞いたが、随分と派手にやったらしいな」


 あ、あれ?なんか、心配されてる?


 というか、鼻をすんすんと鳴らされた後、眉を顰められた辺り、もしかしてオレ臭う?

 ………あ、そういや、3日ぐらい風呂も水浴びも出来てねぇわ。


「血の臭いも凄いな。お前だけのもんでも相当じゃねぇか?」

「………派手にやらかしたからな」


 ラピスがどういった説明をしたのかは分からないが、先ほどのジャッキーの言葉を借りつつ苦笑い。

 とりあえず、お茶を濁すって感じで。


「無茶したなぁ、テメェも。

 生徒達も心配してたようだから、少しは安静にしておけよ」

「ああ。今日のところは、休んでおくよ」


 うん。

 ………本当にオレも久しぶりに無茶をしたもんだよ。

 おかげで、まだだるいもん。


「………血臭に加えて、きな臭い臭いまでしてやがるし、一体何をしたらそうなるんだか、」


 と、呆れながらのジャッキーの台詞には、オレはまた苦笑いしか出来なかった。

 あんまり、この校舎の中で詳しい事は話したくない。


 多分、彼の言っているきな臭い臭いとは、硝煙とかの臭いだろう。

 後、魔物避けが焚かれてたらしいから、その麝香みたいな臭いが移ってるっぽい。


 獣人って鼻が利くとは聞いていたけど、そんな臭いまでわかるものなんだな。


 ………間宮も相当だと思っていたが、やはり獣人も相当なもんだ。

 あれ?

 そういや、間宮どこいった?


 話が逸れた。


「まぁ、今回はこの別嬪さんと、あっちの女蛮勇族アマゾネスの言い分に免じて、許してやっても良い」

「え?あ、うん」


 別嬪さんはラピスの事だろうけど、女蛮勇族アマゾネスって事はローガンか?

 ローガンが何か言ったの?


 きょとり、と眼を瞬かせたまま、彼女を振り返る。

 罰の悪そうな顔をしていた彼女が、オレの顔を見てふと視線を逸らした。


 ………いや、視線を逸らされても困るんだけど、何を言ったの?

 ってか、オレの顔に何か付いている?

 めっちゃ気不味そうな顔されてんだけど、ねぇちょっと。


「あ奴がお前の代わりに弁明をしおっただけの事よ」

「弁明?」


 頭の上にクエスチョンマークが乱舞していたであろうオレに、補足してくれたのはラピスだった。

 彼女も彼女で、苦笑交じりである。


「まぁ、詳しくは本人から聞くんだな。

 その言い分を聞いたからには、オレはそこまでテメェを咎めようとは思ってねぇし、」

「………えっと?……うん、分かった」


 咎められないって事なら、それで良いけど。

 まぁ、後でローガンとじっくり話す必要もあると思ったから、ラピスと並行して彼女からもどんな説明をしたのかは聞きたいけどね。


 ってか、まだちょっと気になるのは、ジャッキーの言い回し。

 許してやっても良いって、言い方はどういう意味だろう。


「………えっと、何か用事があった、とか?」

「生徒達の期末試験とやらの報告って用事があった筈だが、すっぽかされた」

「うっ!…いや、その、本当に、ゴメン」


 ううっ、やっぱり根に持たれてるんだけど…!


 けど、今のでちょっとだけ分かったかも。

 もしかしたら、何か条件があるのかもしれない。


 そう思って、胡乱気な表情で首を傾げてみると、


「おっと、察しが良いな。ちょっと頼まれて欲しい事があるんだが、」


 やっぱりそうだったらしい。


「………とはいえ、今日はもうオレは校舎から動けないぞ。

 休まないと、本格的に女神様と生徒達から、監禁宣言されてるからさ………」

「何も今日中とか言う程、オレも鬼じゃねぇよ」

「あ、なら良いけど…」


 ああ、良かった。

 これからまた仕事しますって言ったら、言った通りオリビア各位からマジで縛られる可能性があったし。


 話が逸れた。


 さて、そんな彼の条件とは?


「テメェの生徒達の訓練内容を見学させてくれ」

「………はっ?」


 なんか、思った以上にジャッキーの申し出が突飛過ぎて驚いた。



***



 そんなこんな、彼の突飛な条件に関して、色々と話を纏める。

 幸いかどうかは分からないが、この時期はギルドマスターとしての大がかりな仕事がほとんど無いと言う事。

 なので、明日以降の1週間程度を目安に、ジャッキーがウチの校舎の訓練を見に来る事になった。


 本当にそんな条件で良いの?って聞いたら、3ヶ月足らずでAランクになった生徒がいた為だと聞いた。


 ………はい?

 オレ、そんな話一言も聞いてないんだけど?


「………だって、先生帰ってきて早々、バタバタしてたじゃん?」

「オレ達だって、空気ぐらいは読めるさ」

「というか、あの状況では話す暇も無かっただろう?」


 ソフィア、香神、永曽根に揃って苦言を呈されてしまった。

 エマ、徳川、浅沼からも温い視線が送られてきている。

 その通りだ。

 二の句は告げない。


『ゴメンなさい』


 それに対して、何故か一緒に謝ったローガン。

 確かに、彼女の勘違いが原因でバタバタしていたのはあったけど、もう気にしてないから…。


「報告に関しては、纏めておいてやったから後で確認しやがれ」

「あ、ああ。本当に悪い。それと、生徒達の監督、ありがとう」


 しかも、ジャッキーはわざわざ期末試験の報告を書類に纏めて、持ってきてくれたようで。

 もう、何から何まで、本当にありがとう。

 そして、マジでゴメンなさい。


 さて話が逸れたが、どうやら今回の期末試験では、生徒達が相当頑張ったようだ。

 なんでも、Eランク・Dランクの依頼の中に、Bランク相当の依頼が故意に混ざっていたらしく、運悪くそれを引いてしまったA班の香神、エマ、徳川が大変な目にあったようだ。

 それでも、彼等はディルやサミー、ジャッキーの助けを借りて見事に解決したらしい。

 ………本当に、彼等の成長には驚きが隠せないよ。


 そして、ランクアップしていた件もそう。

 そのBランク相当の依頼解決の功績も兼ねて、ジャッキーが生徒達にランクアップをさせてくれたらしい。

 その際、生徒達が一つ、ないし二つもランクを上げていたようだ。

 元々のノルマは無くなるが、また新たにノルマが発生してしまうのは仕方無いとしても、これは見事なものである。


「………って事は、さっき言ってたAランクが、少なくとも3人に増えたのか?」

「そういうこったな」

「………おちおちしてると、オレも抜かされるかもしれねぇな」


 ぞわり、と背筋が粟立ったのは、オレが生徒達に抜かされる恐怖を感じてか。

 それとも、生徒達の成長具合に、オレ自身が喜んでいるのか。


 そのうち、Sランクが出るかもしれない。

 一番近いのは、おそらく間宮と永曽根だろう。


 でも、分かった。

 ジャッキーが、オレ達の訓練を見学したがった理由。


 こんな短期間で、ランクを上げるなんて事は早々無い事だろうから。

 見れば、ローガンやライド、アメジスが戦慄したような顔で、固まってしまっていた。


 ………ってか、その顔を見ると、もしかしてローガンも冒険者登録してたの?


「………わ、私もSランクなんだが、」

「………うわぁお」

「おう!これまた、随分と面構えの良い姉ちゃん(・・・・)が仲間入りか!歓迎するぜ!!」


 またしても、ここにいたよSランク。

 そして、何故か違和感が無いという神秘!

 彼女がSランクだったとしても、驚いていないオレがいるよ………。


 ………なんだろう。

 ウチの校舎は、そんな奴等が集まる溜まり場みたいになっているのかしら?


 だって、まだ言って無いだろうけど、隣の別嬪さんもそうだからね?

 ちらり、と目線を向けると、にっこりと笑顔が返ってきてしまった。

 だから、テメェは笑うんじゃねぇよ。

 直視できないって言ってんだろ!


 それは、さておき。


 ………Sランク冒険者って、ダドルアード王国には少ないけど、全大陸を見ると意外と多いのかな?

 頭を抱えつつ、ジャッキーへと視線を戻す。


 この流れだし、そのまま言っちゃっても、文句は無いだろうから。


「ちなみに、ここにいるラピスも元Sランク冒険者。

 そこにいるライドとアメジスは、冒険者登録を希望しているんだけど、」

「…は?……ってか、おい!いきなり、変なカミングアウトすんじゃねぇよ!

 こんな別嬪さんが、Sランク冒険者だったって事か!?」

「見かけによらずね」

「一言余計じゃ、お主」

「………しかも、その流れで普通説明するか?」

「変なハードルあげんじゃねぇ!!」


 結局、文句を言われたけど、気にしない。

 いや、だって紹介するって話、約束してたもん。

 これ以上、すっぽかしたくはないし。


 ジャッキーは眼を白黒させながら、オレとラピスを交互に見つめていた。

 ………いや、オレの顔を見たところで、彼女が元Sランク冒険者って事実は消えないと思うんだけど…。


 あ、もしかして、オレが嘘吐いているとか思われている?

 やだなぁ。

 そんなしょうも無い嘘吐くぐらいなら、もっと言い訳上手いでしょ?


 ………自分で言っておいて、ちょっと凹んだ。

 気を取り直そう。


「ただ、彼女に関しては、どうも失効しているらしいんだ。

 再度、Sランクとして登録出来るのか、もしくは新規になるのか教えてくれる?」

「………いや、まぁ…その言い回しからすると、マジなんだな………」


 うん、マジ。

 分かってくれて、助かるよ。

 だから、説明プリーズ。


 と言う訳で、かくかくしかじか。

 ジャッキーから受けた説明は、登録自体は可能との事だった。

 冒険者ギルドで配られる証明書ともなる銅板プレートは、約400年近く変化していないらしい。

 登録の際に銅板プレートに読み込ませた血の記憶が残っていれば、十分再発行出来る手はずになっているようだ。

 まぁ、どの道、一度は冒険者ギルドに行く事になりそうだな。

 ラピスの今後の冒険者としての活動についてはライド、アメジス両名が冒険者登録してからになるようだ。


 このまま行くと、この校舎に暮らす3名がSランク冒険者って事になりそうだな。

 末恐ろしいというか、素直に恐ろしいわ。



***



 なんて事をだらだらと喋っていると、


「先生。また、馬車が来たよ。今日でもう、6台目」

「………馬車?」


 ひひーん、と馬の嘶きを上げながら、校舎前に停まる馬車。

 見るからに豪奢な装飾をされた馬車と、その御者の格好を見る限り、貴族で間違いなさそうだ。

 しかも、6台目ってことは、相当な数じゃありませんかい?


 ………えっと、今日、何かそんな予定あった?

 ソファーから立ちあがりがてら、玄関先の窓を覗いて首を傾げてしまう。


「(………年度末が近いとの事で、貴族連中が躍起になっているようですよ)」

「うおっ!?………いつの間にいたんだ、間宮」


 そして、そんなオレの背後には、いつの間にやら現れた間宮がいた。

 ちょっと、眼の下に隈が出来ている辺り、眠っていないのかもしれない。

 ………何していたんだろう?

 それと、師匠の背後にいきなり現れるの止めなさい、って何度言ったら分かるの?


 ってか、年度末って?


「(ダドルアード王国では、新年と晦日と同じく、13ヶ月の節目を3月としているようです)」

「ああ、分かった。あっちでの決算月だな」

「(こくこく)」


 今現在が、2月の始めだから、約2ヶ月余りで下半期の年度末になる訳だ。


 あ、それでか。

 来期からの入学を希望する貴族連中が、またしても押しかけて来たって事ね?

 早い方が良いと言うのは当たり前のことだしね。


 ついでに、この世界では晦日と新年、それから1月の末にある騎士採用・昇格試験の間は、政治的な集まりやパーティーなどを自粛する傾向がある。

 それは、『聖王教会』が1月丸々を、『聖月(※女神様に粛々と祈る月だそうだ)』としている事が一つ。

 後一つは、政治的な催事を王国側として、規制しているから。

 家族間でのパーティーなら勝手にやって良いけど、政治的な駆け引きになるだろうパーティーは遠慮してねって事。


 なので、2月に入ってからは、貴族達はこれ幸いと動き出す。

 最近減ったと思ってたのも、実はそういう風習があった訳だ。


 あれ?って思うかもしれないけど、1月に膨大に増えた貴族達の件は、おそらく催事と見做してはいなかった。

 そもそも、希望の届け出だけだったので、催事とは見做されない。

 国王が貴族達に一応、釘をさしてくれたってのもあるだろうけど、2月に入ったらそれも緩和されてしまった。

 ついでに、騎士採用・昇格試験の際に焙れてしまった貴族の子息・子女がこぞって、こちらに流れ込んで

くるって事だ。


 以上、間宮くんが説明してくれた、この世界での貴族事情でした。


 ………もう、面倒臭いったらないね。


「………お前も、随分忙しいなぁ」

「………本当にねぇ…」


 うんざりした顔を隠す事すら出来ないまま、ジャッキーからの苦笑に応えた。


 ………いや、待てよ?


 ふと、ジャッキーの顔を見て、それから生徒達の顔を見て、


「………良い事、考~えた♪」


 閃いた。

 窮地では無いが、これから続くであろうイベントを乗り切る為の閃き。


 入学希望は、受け付けられない。

 でも、貴族の子息・子女達も、騎士採用・昇格試験に落ちてしまって後が無い。

 だから諦めきれずに、性懲りも無くやってくるのだ。


 なら、良いだろう。

 受け入れぐらいはしてやる。

 ただし、それは試験(・・)を合格できたら、って事だ。


「お前、今凄い悪い顔してんぞ」

「あ、分かる?だって、悪い事考えてるもん」

「………怖ぇよ」


 失礼だな。


 あ、でも怒らないよ。

 お前には、悪いけど、さっきの条件を少しだけ変更して貰いたいから。


「何考えてんだ?」

「んふふ。内緒だよ」

「………だから、怖ぇよ」


 オレには、アンタの胡乱気な顔の方が怖ぇよ。


「(どう致しますか?追い返すのも、容易ではないですが…)」

「じゃあ、編入希望だけ受け入れて?家名と親の名前、子どもの名前、後緊急の際の連絡先だけ聞いて、そのまま帰って貰って良いから」


 そう言えば、間宮は首を傾げつつも了承したらしい。


「えっ、嘘!先生、貴族まで、生徒にするつもり!?」

「んな余裕はありません~」

「えっ?じゃあ、なんで編入希望の受け入れなんて、」

「………上げて、落とす戦法さ」


 にっこりと笑えば、やはりオレの笑顔はNGだったようだ。

 生徒達がこぞって、壁際に後退した。

 ………これもこれで、失礼だな。



***



 その後、先ほどの条件を更に、細々と変更してからジャッキーは帰って行った。

 去り際には、また飲みに行こうと誘われたので、喜んでOKした。

 彼には、生徒達の期末試験の事も含めて借りが出来るので、奢ってやってもまだ足りないぐらいだしね。


 ………そういや、飲みと言えばゲイルの奴、今日は見かけなかったな。

 まぁ、どうせ王国への報告やら、家の事とかで忙しいんだろう。

 ローガンの妹の救出も済んだんだし、アイツの事は、またしばらく放っておこう。


 さて、そんな事はさておいて。


 貴族の編入希望が、また更に3件程増えた辺りで、


「改めて、お前達に紹介する。

 女蛮勇族アマゾネスのローガンディア・ハルバートと、アンジェローナ・ハルバートさんだ」

「よろしく頼む。ローガンと呼んでくれ。

 それから、色々と手間を掛けさせて済まなかった」

「お姉様ともども、よろしくお願いします。私の事は、アンジェで結構です」


 生徒達に、改めて彼女達2人を紹介する。

 今日から、校舎で同居して貰う事になっているので、頼むから仲良くして欲しい。


「ファーストコンタクトがあまり良くなかったことで、思うところはあると思う。

 だが、彼女は勘違いをしていただけだし、オレとしても気にしていない。

 それに、以前、オレの窮地を救ってくれた、命の恩人である事は変わらないから、皆も許してやって欲しい」


 そう言って、生徒達にオレが頭を下げる。


 彼女達のおかげで、薬に関しての研究に目途が付く。


 それに、アンジェローナ改め、アンジェさんには、オレ達異世界人の関係で大変な思いをさせてしまったという経緯がある。

 イーブンだと割り切って、オレの命の恩人という面だけを見て貰えたら嬉しいもんだ。


 ちなみに、盗まれてしまっていた荷物に関しては、無事だった。

 あのあばら家の荷車に積まれていた荷物は、売りさばく予定だったもののようで、手つかずのままだったからだ。

 ………あらゆる意味で、ホッと一安心。


 話が逸れた。


 生徒達は、少し難しそうな顔をしている面々もいたが、頷いてはくれた。

 それに、これからローガンには、もしかしたら冒険者としてだけでは無く、ウチの校舎で働いてもらう事になるかもしれないから、仲良くしていて欲しいんだ。

 ………槍の扱いに関しては、ゲイルと同レベルよ、彼女。

 いや、マジで。


「それから、遅くなってしまったとは思うが、改めてシャルが戻ってくることとなった。

 シャルと一緒に、彼女の母親であるラピスも、この校舎で暮らす事になるから、今後ともよろしく頼む」

「よ、よろしく!」

「ほほほ。改めて、よろしく頼むぞ」


 次に、大分遅くなってはしまったが、シャルとラピスを紹介。

 シャルは復学で、ラピスは新しく医務員として、ウチの校舎に就職して貰う事となる。

 二人とも森子神族エルフである事は既に分かっていると思うので、改めて生徒達への口止めは忘れない。

 まぁ、大まかな内容は、以前話してある筈なので割愛、と。


「それから、こちらの2人はラピスの義理の弟ライドパーズと、妹のアメジスエル。

 2人とも、冒険者登録をして、この街で暮らす事になったから、訪ねて来た時には歓迎してやってくれ」

「改めて、ライドパーズ・ウィズダムだ」

「アメジスエル・ウィズダムよ。冒険者として顔を合わせることもあるだろうから、よろしくね」


 そして、彼等2人の事も忘れずに紹介しておく。

 校舎で一緒に暮らす訳では無いが、ラピスやシャルの肉親として、また冒険者として顔を合わせることは多いだろう。

 なので、生徒達には知っておいて貰う。

 ついでに、彼等が闇小神族ダークエルフである事を伝えたが、これもラピス達同様に口止めは忘れずに。


 それからは、庶務連絡とさせて貰う。


「今日は流石に休むが、明日から本格的に医療開発部門を立ち上げる事にした。

 メンバーは、ここにいるラピスが責任者で、アンジェさんが主任。

 研究メンバーとしては、河南と紀乃。それから、伊野田にも入ってもらう事にした」

「あ、えっ?はい」


 いきなりで伊野田が驚いているようだったが、これは実はラピスからの要請だった。


「お前は、『聖』属性の攻撃アクティブ型と防御ディフェンス型両方を扱える。

 医療開発部門で主軸として研究する『ボミット病』に、少なからずお前の助けが必要となるらしい」

「後で、私が説明をしてやるから、ちと時間をくれんかの?」

「わ、分かりました」


 とまぁ、急遽メンバーに抜擢された伊野田も納得したところで、そんな感じかなぁ。


 後はオレも、流石に部屋に引っ込んで、朝起きがけに言ってた「やることリスト」を更新しようと思う。

 ジャッキーから受け取った、期末試験の内容にも目を通さないといけないし。


 ………。

 あれ?また、何か忘れている気がする。

 何だろう。


 あっ!

 思い出した!

 ジャッキーに例の冒険者の事、何か知らないかと聞こうと思って忘れてた。

 失敗したなぁ、もう。


 まぁ、また近日中に来てくれるって言うし、その時でも良いか。


「それから、間宮も今日は休んどけよ。

 明日からの修練は、いつも通りに戻すつもりだからな」

「((ぶるり)…………了承しました)」


 なにやら悪寒を感じた様子の間宮には悪いが、先に言っておく。

 オレ達も、流石にそろそろ次の段階に進んだ方が良いと思うので、明日からの修練はハードになる予定。

 まぁ、もしかしたら、オレも根を上げるかもしれない。

 ………生徒達に抜かされないように、お互いに頑張ろうね。


「(ただ、少しばかり、報告したいことがございますので、後でお部屋にお伺いします)」

「………うん?まぁ、良いけど」


 なんだろう、報告したいことって。

 ………そこはかとなく、嫌な予感がするのはオレの気のせいか。



***



 まぁ、なにはともあれ、これで色々と目途が立った。

 それに、詰まっていた予定も解消されつつあるから、今後増えたであろう仕事もプラマイゼロだと考えれば良い。


 ふと、気持ちが軽い事に気付いて、苦笑を零す。

 昨夜もそうだったが、精神世界でもグダグダ悩んでいた事が嘘のようだった。


 今更気付いたけど、精神世界でアグラヴェインに刺されたのって、今回で2回目になるんだよね。


 以前の時も、貯め込み過ぎてたけど、今回も今回で相当だったようだ。

 それが、すっきりしているって事は、また『断罪』してくれたみたいだな。

 ………本当に、頭が上がらなくなっちゃうねぇ、まったく。



***

知らず知らずのうちに、アグラヴェインさんに癒されていたらしいアサシン・ティーチャー。

寡黙な兄貴分、って良いですよね。

作者の願望です。


登場人物がまた増えて来たので、そろそろピックアップデータを再開しようと予定しております。

まぁ、基本的には見たまんまですので、閑話程度として楽しみにしていただければ幸いです。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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