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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、女蛮勇族救出戦線編
85/179

74時間目 「課外授業~ほうれんそうは忘れずに~」 ※流血表現注意

2016年5月17日初投稿。


続編を投稿させていただきます。

ローガンさんの再会編、やっと後半戦が終わります。

後、二話ぐらいで今回の章は完結し、また新しい章へと移行したいと思っています。


74話目です。

※今回も、多少流血表現を含んでいます。

***



 森からの奇襲の最中、窮地に陥ったオレ達。

 ひっきりなしに飛んでくるナイフを、弾き、あるいはいなし、と繰り返してみても、事態は好転しない。


 しかも、飛来するナイフには、ご丁寧にも『防魔』とか言う属性が付与されているとか。

 おかげで、間宮に予防策として張って貰った『風』の防壁も、紙同然となってしまっていた。


 それに加え、オレは太腿へとナイフを受けて、既に出血多量。

 本日の夕方に負傷してから、大した時間も経っていない。

 おかげで、貧血は更に悪化し、頭痛が酷く、眼の前が揺れ、ナイフをさばく腕にも力が入らなくなってきた。


 一体、相手がどれだけのナイフを持ち歩いているのか。

 と、うんざりする中で、駄目かもしれないと情けなくも諦めようとした。


 しかし、そんなオレの前に立ちふさがった影。

 竜か蛇かは分からないまでも、長大な身をくねらせるようにして森へと殺到した炎。


 『風』魔法なのか何か、柔らかい風を纏いながらふわりとオレの前に降り立ったラピス。


 よほど急いで来てくれたのは、彼女の髪や耳を隠していたフードは脱げてしまっていた。

 東の空が白み始めた薄闇の中、銀色の髪が朝露のように輝いている。


 白い肌に、銀色の髪。

 眼の色は、緑がかった青で、いつもは理性的な光が、今は爛々と好戦的な光を宿していた。


 風によってまくれ上がった外套や、その下のロングスカート。

 滑らかな肌質の美脚が、オレの目の前で晒される。


 体のつくりは女性だと、見るからに分かる。

 だというのに、オレはどうしてもその後ろ姿に再三の既視感を覚えてしまう。


 そんな事ある訳が無いのに。

 ………そんな事があったら良いな、とか思ったことはあったけどね。

 いや、何。

 性別の逆転問題さ。


 オレが知っている彼は男で、ラピスが女だったってだけの話。


 閑話休題それはともかく


 そんなどうでも良い事を考えていたオレの前に立ちふさがった彼女。

 森へと『火』属性魔法を放った余韻すらもあればこそ、その場で更に、森へと向けて手を翳した。


『『土』の精霊達よ!我が前に堅牢なる防壁を!『土の壁(アース・シールド)』』


 詠唱も短く、実に簡潔だ。

 その場で彼女が口を動かすだけで、オレ達の目の前にはまるで防波堤のような壁が出来上がった。


 『火』属性の後に、『土』属性の魔法。

 精霊達の喧嘩とかバランスとかは、一体どうなっているのだろうか。


『『風』の精霊達よ!砂塵を巻き上げ、猛威を振るえ!『風の竜巻(ウィンド・トルネード)!』』


 続けて、彼女は『風』の魔法を選択。

 以前見る機会のあったシャルの魔法よりも、圧倒的な威力を持った風の竜巻が土の防壁の前に発生する。


 そして、先ほど森に打ち込まれた炎を巻き込んで、火の粉をまき散らす竜巻へと進化した。

 おそらく、これが以前ゲイルに習ったことのある複合魔法。

 『闇』属性のオレには、絶対に出来ないであろう離れ業だったが、彼女はまるで呼吸をするかのようにして短時間で行ってしまった。


 そして、その複合魔法である『炎の竜巻』は、一切オレ達に対しては被害を齎さない代わりに、眼の前の森を圧倒的な威力で蹂躙してみせた。

 木々が燃える音や匂いがあらばこそ。

 自然災害では有り得ない猛威を振るった圧倒的な威力で、あっという間に森の半分が焼き払われた。


 ………本当には、魔法ってのは自然に優しくないな。

 いや、それはオレ達人間も同じなんだけど、ここまで短時間で森の一部が焼け野原って相当だと思うんだが。


 しかも、またしても魔法の属性のバランスが、心配になってしまう。

 『火』と『風』って、相性悪いんじゃなかったの?

 (※後から聞いた話だが、基本的に『水』と『風』の精霊は、それほど別の属性とは喧嘩しないらしい。)


 だが、彼女の怒涛の魔法の攻勢は更に続いた。


『『水』の精霊達よ!清流を牙へと変え、立ち塞ぐ猛威を押し流せ!!『黒鯨の噴気(フォエール・スパウト)』!!』


 今度は、『水』魔法だった。

 しかも、おそらくは、中級以上の魔法である事ははっきりしている。


 初級では大体の魔法が、そのままの意味を持っていたり、自然の名称を乗っ取っている。

 半年以上前に、騎士達と校舎の探索を行った際にも使われた魔法は確か『大津波』だった。

 だが、あれでも中級の下位らしい。


 しかし、今ラピスが使った魔法は、『動物』の威を表している。

 詳しくは、オレも教わってから随分と経過してしまっているので不明なのだが、この世界では魔物とは別に動物も存在しておらず、存在自体も巨大化しているようだ。

 なので、稀少な存在として神格化されているらしい。


 魔法に名称を用いられることがつまりは、そう言う事。


 なので、動物の威を冠した魔法は、中級以上。

 それも、上位だと言う事は、オレでも知っている。


 ………そういや、先ほど使っていた『火』属性の『大蛇の火炎』とやらも、そうだったよな。

 大丈夫なのかよ。

 上級の魔法、バンバン使ってるけど。


 そんなオレの杞憂はともかく、やはり上級ともなると、威力が段違いだ。

 先ほどまで、圧倒的な威力を誇っていた炎の竜巻が唐突に立ち消えたかと思えば、どこからともなく発生した大量の水が防波堤の向こう側を一息に飲み込んだ。


 やはり、環境に優しくない。


 だが、先ほどまで、体の良い隠れ蓑になっていた森は見るも無残に損壊していた。

 そのおかげもあってか、オレ達にナイフを投擲していたであろう人物も、退散したのか巻き込まれたのか。

 『土の壁』で出来た防波堤を越えて、ナイフを投げつけられることは無くなった。


 気配は、消えた。

 もともと殺気が無かった所為か、場所の特定も満足に出来ていなかったのだが、これもこれで安否が気掛かりになってしまう。

 森の中で、丸焦げになってました、とか無いよね?


 そんなオレの焦りなど、露知らず。


「………ふぅ。何があったかと思えば、」


 あれだけの魔法の数々を行使した後だというのに、涼しい顔をしたラピスがオレを振り返る。

 その表情は、少々気だるげではあるが、あまり憔悴しているようには見えない。


 『太古の魔女』という、彼女の肩書きも伊達では無いようだ。

 あれだけの属性も違う上級魔法を行使した後でも、彼女は魔力枯渇などなんのそのだ。


 ってか、やっぱり魔法って、凄い便利。

 おかげで、オレも命拾いしたもの。


 現金なもので、安堵からかオレの脚はその場でかくりと力を失った。

 尻持ちを付くような形で、地面に座り込んでしまう。


 太腿の出血と、その他の傷口からの出血が、貧血気味だった身体に容赦なく鞭を打ってくる。

 気付けば、またしても背広が血まみれだった。

 汚れるかもと思って履き替えていなかったズボンだけがそのままだったのは、良かったのか悪かったのか。

 ………礼服だって安くは無いんだぞ、畜生め。


 そんなことよりも。


「大丈夫かや?」

「………ああ、なんとか大丈夫だ」


 座り込んだオレを、ラピスが傍らで支えてくれる。

 ふわりと香った彼女の香りに、既に昨日となった朝方の事件が蘇るものの、頭を振って振り払った。


「あ…」

「こ、これ…!しっかりせぬか…ッ」


 クラっとして、そのまま彼女の肩口に寄りかかってしまった。

 しかし、彼女はオレを押しのけるようなことはせず、受け入れるようにしてオレの肩を抱いた。


 ああ、安心する。

 やっぱり、女性の腕の中って、神秘。


 ………エロ親父に転向した覚えは無かったというのに。


 そんなオレの内心は知る由も無いラピスが、片手だけでオレの体を介抱してくれる。

 綺麗なハンカチだと言うのに、オレの頬やいつの間にか切れていた顎から滴っていた血を拭い、太腿のナイフも丁寧な手付きで抜く。

 流石は、以前医療院で働いていた、看護士だ。

 手際がオレや間宮よりも慣れていると、一目で分かる。


 更には、


『精霊達よ。彼の者に、癒しを。『キュア』』


 間近で耳朶を打つ簡潔な詠唱と共に、治癒魔法が施された。

 目に見えていた傷も、おそらく知らない間に掠めてしまって付いていたであろう傷も、初級魔法一発で治癒が完了した。


 流石は、『太古の魔女』。

 治癒魔法一つ取っても、威力のケタが違う。


「ありがとう…」

「どういたしまして、じゃな。しかし、驚いたぞ。

 撤収して来るかと思えば、ライドもお主も怪我をしておるし、」


 ああ、済まんね。

 一人で待機して貰っていたから、遠目でしか状況が判断できなかっただろう。


「………ちょっと、気が抜けてたみたいだ」

「………油断大敵とはよく言ったものじゃのう」


 そんな軽口をたたき合いながら、かくかくしかじかと事情説明。

 事情を説明している間には、間宮がオレの元へと駆け付けていた。


 そして、ライドも荷台の近くで、立ち上がっている。

 どうやら、回復はしたようだ。

 怪我も大したことは無かったようだし、ゲイルが治癒魔法で傷口は塞いだようなので大丈夫だろう、との事。


「(後、先ほどのナイフはすべて回収しておきますので、校舎に戻ってからじっくりと精査をしようと思います)」

「………ああ」


 素行が悪いが、ラピスの肩に寄りかかったまま、間宮からの報告を聞く。

 もう、立ち上がる気力も体力も無いもんで。


「『防魔』だったか?………武器に属性を付与とか、アリかよ」

「うむ。アリじゃのう。武器自体の作成段階で付ける事も出来るし、武器を買った後でも『魔術ギルド』に行けば、それなりの金額で付与を付けてくれる」


 うわぁい、またしても非常識ファンタジーなお役所の名前が出てきた。

 しかも、『魔術ギルド』だって。

 もう、名前からして完全に、魔術師が寄り集まって出来た、魔法特化のギルドだってすぐに分かるよ。


 ただ、そうか。

 そんな武器の存在もあったんだ。


 ………生徒達が実戦に出る前に、存在を知ることが出来て良かった。


「しかし、『防魔』等の付与属性となると、武器自体は極めて価格が高いぞ。

 武器に付与を与えるにしても、相当な金額が掛かる筈じゃと言うのに、こんなにも大盤振る舞いするとは、」


 そう言って、ラピスが見た先には、地面に突き刺さり、あるいは散らばったナイフ。

 よくよく見たら、どうやらナイフでは無く、短剣の類のようだった。


 しかし、これだけの短剣を揃えたとなれば、おそらく莫大な金額が掛かっていることだろう。

 確実に、オレ達を仕留めに来た、ってところだろうか。


 だが、それなら何故、遠距離から焦れったい攻撃をするだけで、姿を見せていないのだろうか。

 甚振るつもりでいたのならまだしも、オレはほとんど動けなかったのだから、これ幸いと首を掻き切りに来ても可笑しくなかっただろう。


 それに、襲撃者の意図が何だったのか、分からないのも気になる。

 山中達の、援護か救援だったのか。

 それとも、別の山賊や盗賊の類が、たまたま近くを通りかかって奇襲を掛けたのか。

 はたまた、先ほども話に上っていた、頬に傷のある冒険者が未届けのついでにオレ達を片付けようとしたのか。


 ………三番目の可能性が、一番強いと考えられる。

 となると、今までのオレ達のやり取りも、もしかしたら例の冒険者は既に知っている可能性が高い。


 校舎への襲撃も考慮して、またしばらくはゲイル達に護衛を強化して貰わないとならないだろうな。

 ………畜生。

 もう、あんまり関わりたくないってのに…。


「校舎に戻ったら、情報を集めるしか無さそうだな…」

「(『魔術ギルド』にも、少し話を聞きに参りましょう)」

「………ついでに、国王と教会にも、コンタクト………」


 この世界に来て、何度更新したかも分からない、脳内のやる事リスト。

 指を折ろうとしたが、肝心の腕が、どうにも動いてくれなかった。


 済まん。

 限界だ。


 報告をしている間宮の顔も、何重にもブレてしまっている。

 気を抜けば、瞼が落ちそうだ。


「………無理はするで無い。このまま寝やれ」

「(どうぞ、ゆっくりお休みください)」


 それを察知した2人の声や、読み取った言葉も遠い。

 ラピスの手がオレの頭を撫でるようにして抱えた時には、もう駄目だった。


 意識が、まるで吸い込まれるようにして薄らいでいく。 


「………流石に血を流し過ぎたようじゃのう」

「(ええ。校舎に戻ったら、もう一度造血剤を飲ませて寝かせておきましょう)」

「………無茶はするなと言ったのに、」

「聞くような男でもあるまい」

「………帰りの警戒は、オレ達が気を張らぬとな、」

「そうだね。荷物もあるってのに……」


 頭上で響くラピス達の声。

 なんだか、自身が子どものように扱われている気がしてしまいながらも、押し寄せてきた睡魔にそのまま身を委ねた。


 最後に見たのは、寄りかかっていたラピスの胸元だった。

 ………ブラ付けてないから、乳首が見えてたよって教えるべきか否か………。


 迷ったけど、口は開けなかった。

 それよりも先に、意識が暗闇の中に消えてしまったから。


 最悪だと思っていた日でも、最後の最後で役得があったようだ。

 ………口が裂けても絶対に言えないけど。



***



 すぅ、と呼吸が小さくなったと同時、寝息が一定になった。

 どうやら、身体の限界には勝てぬようで、その薄らと白んだ肌には心配になってしまうが、ようやっと休息を取ってくださったようだ。

 そのことに、ホッと息を吐く。


 既に、東の空が白んでいるので、校舎に戻った時クラスメート達の叱責は決まったも同然だ。

 確か、榊原と香神と伊野田にも、言われていたのだったか。

 香神に至っては、クラスメートの分際で銀次様に恐れ多くも命令をしていたが、内容に関してはオレも同意見だったので、追及はしないことにした。


 しかし、このまま眠ったまま帰還をされるのであれば、大きな文句は言えようも無いだろう。

 ………出来れば、ラピス殿にもう一度、睡眠魔法とやらを掛けて貰うか?


「それにしても、こ奴も無茶をする。あのあばら家におった人間ども、………殺したか?」

「(こくり)」


 ラピス殿が、少し目元を下げつつも、疑問の声を口にしている。

 隠す必要も無いと分かっているので、オレはその問いに一つ頷きを返した。


 銀次様が、あの者達を生かそうとしなかった理由。

 詳細は、オレでも分かっていない。

 ただ、『日本人』である事が分かった現在では、殺した方が良いとオレも考えていた。


 彼等が、犯した犯罪。

 それは、オレ達の世界であっても、この世界であっても許されることでは無い。

 盗賊紛いな事も、人浚いも、殺人も。

 表沙汰になった時、何があるのか。

 全てを語られなかったとはいえ、言われずとも分かってしまったから。


 だが、彼女から見れば、オレ達は立派な人殺しだろう。

 ふと、気になってみたので、彼女へと質疑を続けようとして、


「…ああ、お主が言いたいことは分かる。

 私も、殺すも人死にを見るのも初めてではないから、咎めるつもりは無い」


 先んじて(おそらく精神感応テレパスでくみ取ってくれたのだろう)言われた言葉に、少しだけ肩の荷が降りた気がする。


 銀次様は、こう見えてとてもナイーブでいらっしゃる。

 ただでさえ、この3日程度の間で、ゲイルからの裏切りを経験され、更にはローガンさんから冤罪で襲い掛かられ、精神的に憔悴されていたのは気付いていた。

 更には、ローガンさんの妹をかどわかした連中が、同じ異世界の人間だと言う事が発覚してしまった。

 心優しい銀次様のことだから、恐らくは助けたいと最初は思っていたのだろう。

 しかし、彼等を助けた後に、オレ達へと非難が集まり兼ねない。


 銀次様としても、無意識だったとしても、苦渋の選択だった事だろう。


 その上で、今目の前にいるラピス殿が、銀次様を畏怖や恐れを持って接した際に、銀次様が傷つかないと言う保証はない。

 銀次様は、必要以上にラピス殿に入れ込んでいるように見えたので、特に。


 こんな事があった手前、これ以上銀次様が心痛めるようなことが無いようにしたかった。

 なので、ラピス殿の心遣いと、その言葉の真意には頭が下がる。


 素直に頭を下げて、オレはその場から立ち上がった。


 銀次様が休まれた以上、残りの仕事はオレの役目だ。


「………どうするつもりだ?」


 背後から掛けられた声に、ふと苦笑を零した。

 ゲイル氏だ。


 彼は、先ほどから、まるで人形か何かの真似ごとかと思う程、口を噤んでいた。

 それは、あの山中という煩わしい馬鹿を始末してから。


 ライド殿が負傷した際には、彼の治癒を受け持ってくれてはいたが、あの時の状況では何を話すべくもない。


 しかし、ややあって、口を開いたかと思えば、たった一言。

 思わず、ムカッ腹も立つ。


 それに、ローガン殿の妹であるアンジェローナ殿の救出作戦は終了し、後は撤収するだけとなっている。

 もう、十分だろう。

 オレも作戦の成功を考えただけで、彼を突入組へと参入させた。

 勿論、彼等の仲違いが、多少は緩和出来ればという、浅はかな皮算用はあった。


 だが、その皮算用も、今では後悔している。


 この男、今の今まで、ずっと何かを隠していた。

 オレも気付いていたし、当然のことながら銀次様も気付いていたのだろう。

 だが、銀次様が問い質さない以上、オレが何かを言うべきでは無いと思っていた。

 口が利けないから、当然ではあるが。


 それが、ここに来て、表面化した。


 この男は、山中の喚き散らした言葉を遮るようにして、自らの手を汚した。

 必要は無かった。

 なのに、この男はそうしたのだ。


 おそらく、オレ達に聞かれたくない内容が、あの山中の喚き散らした言葉の中に含まれていたのだろう。

 オレは、少なからずそう思っている。


 これまで、何度も秘匿や隠蔽、彼の家族の問題に対して、銀次様は寛容に接して来た。

 大体、銀次様が寛容過ぎたのだ。

 オレも、その事に気付いていながらも、流されてしまっていた。


 それを、この男は、この3日間で、全てを無駄にしたのだ。

 最後の最後で、銀次様へと後ろ足で砂を掻いたのだ。


 だから、オレももうこの男は信用できないと、考えている。

 信用できないからには、もうこの男との接触は最低限で良い。

 協力態勢は、もう終了だ。

 仲良しごっこもこれまで。


「(あなたには、関係ないです)」

「………?」


 怒りを溜め込んだ震える声も、オレの言葉を分からないゲイル氏には通じなかった。

 でも、それで良い。

 そのまま、踵を返す。


 ゲイル氏は、何も言わなかった。

 ただ、銀次様とオレの後ろ姿を交互に見ているだけのようだった気がする。

 もう、知りたくない。


 オレは、荷台や銀次様をラピス殿達に預けると、あばら家へと一人で向かった。


 やるべきことは、二つ。

 あの召喚された生徒達の素性を、少しでも明らかにすること。

 そして、彼等の死体を、無に帰すことだ。


 戸口の外されたあばら家へ入ると、充満した鉄錆と臓腑の臭いがした。

 ここにいた数名は既に死んでいるのだから、当然と言えば当然の事だ。

 先ほど、銀次様の優しい心遣いでいただいたハンカチを、遠慮なく口元へと巻き付けさせて貰う。


 あの方の匂いが、僅かでも残っているのが、安心できた。


 それから、彼等の衣服を改め、あらかたの家探しを行う。

 生徒手帳や、財布、彼等の日記代わりのようなスケジュール帳も発見できた。


 山中や、一人だけ判明している見張りの大倉と言う男は、結構マメな性格だったらしい。

 おかげで、これまでの経緯が、客観的にも分かりそうだ。


 その後、あばら家に残されている食糧やその他はそのままに、盗品だと思しき武器や調度品だけを回収する。

 万が一持ち主が見つかった時に、追及されたくはないから。


 それ等が全て終わった。

 残るはあばら家の中の死体と、その処理だけだ。


 未だに、燃えている篝火の台を、やや乱雑ながら蹴り倒す。

 燃えていた焚き火や魔物避けの香袋までぶちまけたが、構わずに火をあばら家へと燃え移るように弄繰り回した。

 足りなければ、ラピス殿かライド殿に頼めば良い。


 そうこうしているうちに、あばら家に火が燃え移った。

 そこからは、火を消さないように最低限の注意を払いながら、『風』魔法を使って火を煽る。


 程無くして、木材だけで作られていたあばら家は、炎の中に呑まれた。


 これで、最後の仕事もひと段落だ。

 後は帰るだけだろう。


 自棄に疲れたと思うのは、おそらく自分の気の所為では無い。


 純粋に気疲れしていた事もある。

 銀次様の事が最も優先だったが、ゲイル氏の事やローガンさんの事、ついでに彼女の妹の事もそうだ。

 気を揉んでいたというのもある。


 それに、オレ自身気になっていなかった訳では無いのだ。

 異世界人の存在や、その行動、そしてその行動が明るみに出た時の対処について。


 だが、終わった。

 気が緩んだせいもあったのか、どうしても火を見て和んでしまう。


 原始の記憶が、今尚遺伝子の中に残っているからだと聞いた事がある。

 人は、火を見ると恐怖と畏敬、そして安堵を覚えるのだと言う。


 そして、あばら家に燃え広がった火が、中に積まれた死体を舐めて行く。

 肉の燃える独特の臭いも感じ始めた。


「(うえ…ッ)」


 この辺りで、オレは駄目だった。

 嗅覚が優れ過ぎているのもあるが、こう言った強い臭いは嫌いだ。


 特に、肉の焼ける臭いは、初めての人殺し(・・・・・・・)を思い出して吐き気がする。

 これが、銀次様ならば、戦地での光景を思い出すと言っただろうか。


 初めての人殺しが、任務外だったオレは、きっと銀次様よりも醜いだろうに。


「(………まだ、血を見るのが、怖い)」


 独り言のように、呟いた声音。

 答えてくれる人など、口の利けないオレにはいないと分かっていた。


「(赤い血は、オレの髪の色。父と母が、揃って嫌った髪の色…)」


 そして、オレの初めての殺しの経験も、そんな父と母だった事は、出来るなら銀次様にも知られたくはない。

 命令を受けた殺しが、今回が初めてだった事も、知らせるべきではないと思っていた。


 知らず知らずのうちに、ころりと涙が零れていた。

 それを、口元のハンカチを取る振りをして、乱雑に拭い去る。

 微かに香った、銀次様の香りは、もう薄くなってしまっていた。



***



 既に、朝日が昇り、欝蒼としていた森は、光溢れる世界へと変わった。


 朝霧の中、行きとは違って急ぐ必要も無い道中、ゆったりと馬列が進む。

 下手に急ごうとしようものなら、若干二名が振り落とされてしまうからだ。


 若干二名と言うのは、言わずもがな眠ったままであるアンジェローナ。

 私の、実の肉親にして最愛の妹。


 もう一人は、ギンジだ。

 彼は、出血が酷かった事もあり、先ほどから深い眠りに落ちてしまった。

 更に、追い打ちのようにして、森子神族エルフの女に睡眠魔法を掛けられ、しばらく眼覚めることは無いだろう。

 確か、森子神族エルフの女は、ラピスという名前だった筈。


 少し剣呑で、居心地の悪い視線を私にくれているのだが、そんな彼女の視線も、もはや仕方無いと割り切っている。

 今はアビゲイルの馬に同伴している形であるギンジだが、自力で馬に乗れるだけの体力を失してしまったのは、元はと言えば私の遠因だった。

 私の早とちりが原因で、彼の心も体も傷付けてしまった。

 だと言うのに、彼は文句も言わず、私の妹の救出に尽力してくれた。


 彼の功労に報いるには、また私の失態を雪ぐ為には、生半可な事では無い労力が必要だろう。

 私達が今回持ち込んだ、薬だけでは絶対に賄えない。


「………んぅ…」

「うん?起きたか、アンジェ?」

「………お、ね…え、さま…?」


 そう思っていた矢先のことだ。

 私の胸に寄りかからせていた妹、アンジェローナが眼を覚ましたのは。


「こ、ここは?」

「北の森の街道だ。もう少しで、ダドルアード王国へと入れるぞ」

「…そ、そうですか………。っ、って…!何者かに襲われたのでは…!?」


 アンジェローナは、どうやら随分な時間気を失っていたようだ。

 今までの経緯が、丸2日ばかり抜けてしまっているような気もするが、仕方のない事。


 ゆっくりと進む馬上で、今までの経緯を説明する。

 私が傷を負った武器の事もそうだが、アンジェローナが攫われた後、私がギンジの率いる『イセカイクラス』?だったかの、生徒達に助けられた事。

 その助けられた校舎で、ギンジと再会出来た事。

 しかし、勘違いの上で、彼を誘拐犯だとあらぬ疑いを掛け、生徒ともども迷惑を掛けてしまったこと。


 その後、色々と話をした上で(内容は残念ながら、あまり覚えていない。意味が理解出来なかったと言う事もある)、アンジェローナの救出に乗り出した事。

 協力してくれたのが、ここいる面々である事も伝えた。


「………そう、だったのですね。………良かった、お姉様が無事で、」

「お前こそ、無事で良かった。お前に何かあっては、里で待つ母上や婆様にも顔向けが出来ん」


 アンジェローナは、夢身現と言った様子のまま話を聞いていた。

 しかし、最後には私の要領を得ない(説明は苦手なのだ)話に、明朗にも納得し、安堵の溜息を吐いた。


「皆々様にも、感謝の意を。お姉様もそうですが、私を助けてくださった事、感謝してもしきれません」


 我が妹ながら、良く出来た子だと感心する。

 私は言われなければ、礼すらも出来なかった不作法者だったと言うのに、アンジェローナは私の安否が判ってすぐに、周りにいた面々へと頭を下げた。


「………いや、オレ達は、コイツの先導に付いて来ただけの事だ」

「(こくこく)」

「そうじゃのう。元はと言えば、火急であると指揮を取っていたのは、ギンジであるし、」

「無茶をしたのも、彼がほとんどだ。礼なら、彼にしてやれ」

「ウチ等、荷物運んだ程度しか、仕事して無いしねぇ…」


 アビゲイルを始め、間宮、ラピス、ライド、アメジス。

 彼等は揃って、功績をギンジへと譲っていた。

 確かに、今回の一番の功労者は間違いなくギンジだとは思うが、それにしたって欲のないものだ。


 謝礼の一つでも求めるかと思っていたのに、それすらも無い。

 居た堪れなくなると同時に、背筋がむず痒くなってしまう。

 私は、300年以上も生きているにも関わらず、この面々よりも稚拙で矮小だ。


「ギンジ様、と言うのは、お姉様の言っていた『予言の騎士』様ですよね?」

「ああ、そうだ。その名の通り、勇猛にして誠実な男だ」

「………そちらに眠っている、殿方なのですよね?」

「………ああ、そうだが……、どうした?」


 なんぞ、不思議なことでもあっただろうか、と少々不安になった。

 そして、改めてアンジェローナの視線の先にいるギンジを見れば、


「………まぁ、男には見えんだろうが、」

「………ええ。てっきり、もっと体格に恵まれた偉丈夫だと思っておりましたので、」


 納得した。

 今、こうして、眠っている姿を見れば、更に彼の女然りとした様相が際立っている。


 しかも、体格に恵まれた偉丈夫であるアビゲイルの胸に凭れ掛かっている所為で、更に華奢に見えてしまう。

 どうにも男だとは思えない。

 初見であるアンジェローナも、どうやら同意見らしかった。


 彼が眠っているからこそ、言いたい放題ではあるが………。


「………眠っていると、幼い顔をしているのもあるだろうしな」

「そうだな。私も最初は、女と間違えて拾ったのを思い出す」

「………なんぞ、こ奴も運が良いと言うか、」


 ………アビゲイルや、ラピスにまで言われたい放題だな。


 まぁ、私も彼の女顔は認める。

 男にしては、美麗過ぎるし、その実年齢に比べて幼いとも感じる顔立ちだ。


 男として端正な顔立ちである、と人間領に入る度に言われ続けた私だからこそ分かる。

 性別を認識して貰えないことの虚しさ。

 彼と私の顔が、反対であれば良かったのに、とギンジに出会ってからは何度も思ったものだ。


 ………やはり、彼がどうにも不憫に思えてきた。


 閑話休題それはともかく


 そんな女然りとした顔とは裏腹に、その行動は女々しい等とは決して言えない。

 それ程、勇猛にして邁進的だった。


 以前、森の中で拾ったその時も、騎士団が何ヶ月もの間苦戦していた薄気味悪い合成魔獣キメラを、相討ち同然とは言え、一人で仕留めていた。

 更には、別の個体である合成魔獣キメラに襲われた際にも、彼は逃げようとはしなかった。


 今回も、アンジェローナを救出するにあたって、無理を押してでも彼は動いた。

 周りに反対され、あるいは窘められながらも、一度決めた事は実行する。

 それに、今回の事は片聞きしていただけの事で、あまり理解が深く及んではいないのだが、それでも彼にとっては苦しく、悲しい結末だった事だろう。


 私を襲い、アンジェローナを浚い、更には他の余罪まであった盗賊紛いの青年達。 

 それが、彼の生徒達と同じ境遇に立たされた、異世界人だったと判明したから。


 アンジェローナの救出作戦を敢行し、匂いを辿って森へと踏み入った時。

 時折、彼が視線を険しく、また剣呑な気配を纏っていたのは知っていた。

 それが、あの時までは理由が思い至らなかったが、こうして全貌が明らかになってからは、彼の心情が手に取るように分かった。


 本当は、殺したくなかっただろう。

 心根の優しい、彼の事だ。

 助けたかっただろうに、彼等が犯した罪がそれを許さなかった。


 あの森の中で、剣呑な雰囲気を纏っていた時、彼は逡巡していたのだ。

 同じ異世界からの訪問者であり、この世界に迷い込んできただけの生徒達を、どのように処断するのか。


 初めこそ、私とて腸が煮えくり返っていたし、見つけ出したあかつきには四肢を切り裂いて、生き埋めにしてやろうと考えてさえいた。

 だが、話を聞いた後、今こうしてアンジェローナも無事に助けられた今では、逆に申し訳ない。


 本当なら、きっとあの『イセカイクラス』の校舎にいた生徒達と同じく、健やかに生活していた青年達だったのだろう。

 そんな彼等が、何の因果か、この異世界に召喚された所為で起こしてしまった犯罪。

 その犯罪の有無の為に、彼に救いの手を差し出す事を、躊躇させてしまった。

 殺させてしまった。

 そんな業を、彼に背負わせてしまったこと。


 過ぎた事だと分かっていても、悔やんでも悔やみきれない。


「………えさま!…お姉様!?」

「えっ?…あ、ど、うした?」

「それはこちらの台詞です。いきなり、ぼーっとしてしまわれて、」

「あ、ああ。済まない」


 少し、考え過ぎたようだ。

 妹が心配そうな視線を私に向けているが、苦笑を零し彼女の髪を撫でる。


 アンジェローナは、父では無く母に似た。

 私とは大違いだ。

 その優しい心根や、心配性な所は父にそっくりだが、少なくとも見た目は母に似た。

 それが少なからず羨ましい。


「お前が心配するようなことは、何一つ無い。安心しなさい」

「………はいっ」


 ふんわりと、微笑みを浮かべたアンジェローナ。

 この最愛の妹の笑顔。

 それを守ってくれた、助けてくれたギンジには再三の感謝の念を覚える。


 当初は、連れてくるべきか迷っていた。

 私と違って、アンジェローナは里の外にも出た事が無い、箱入り娘だ。

 女蛮勇族アマゾネスに、またハルバート家に生まれながら、武勇の才が無いと言われ、泣く泣く婆様の下に付き、調合師として粉骨砕身していた彼女。

 しかし、私だけではどうしても、原料の種類や配合、その他の薬理作用を覚えることは出来なかった。

 アンジェローナが同行すると頑として言い張ってくれなければ、ただ薬を届けるだけとなってしまっただろう。

 これが、少しでもギンジや、彼の生徒達の為になるならば。


 これで良かった、と思えるなら。


「ああ、ほら。見えて来たぞ。あれが、ダドルアード王国だ」

「まぁ!大きな外壁です」


 そうこうしているうちに、街道も終わった。

 森の切れ間から見えた、魔物避けと合わせて防壁ともなっている煉瓦造りの外壁に、アンジェローナの驚嘆と感激の声が上がる。


 ようやっと、辿り着いた。

 今まで、私だけが校舎に保護されていたので、大した感慨も無かった。

 だが、こうして改めてその全容を見ることになり、少なからずアンジェローナと同じく、感激している自分がいることに気付いた。


 以前は、金が足りず門前払いをされた。

 2度目は入る事は出来ていたのだが、意識が無かった。


 これで、三度目。

 ………長かった。

 これでやっと、冒険者として(・・・・・・)の稼業に復帰する事が出来る。


「今更ではあるが、ようこそ、ダドルアードへ」

「………ああ。世話になる」

「よろしくお願いいたします!」


 先頭に立っていたアビゲイルが、苦笑を零しながらも、そう言って迎えてくれた。

 なんだか、くすぐったい気持ちに晒されてしまい、私も思わず苦笑を零してしまう。


 やはり、アビゲイルや騎士団の面々が一緒にいることで、外壁は簡単に通れた。

 以前、発効を頼んでいた通行証も、ギンジが財布と一緒に持ち歩いていたようで、その場ですぐに登録が完了した。

 ありがたい事だ。

 冒険者の銅板プレートと同じで、血の情報を登録するだけで良い。


 ただ、彼の懐からその通行証を探り当てる際に、なにやらアビゲイルが四苦八苦していたようだった。


 ………いや、皆まで言うまい。

 なにやら艶めかしくも妖しい声音を、ギンジが発していた。

 良からぬ所でも、触ったのやもしれん。


 ………その後、間宮に脇差を向けられ、更に慌てていたのは良い笑い物だった。


 しかし、こうして笑っていられたのは、正直ここまでだった。

 アビゲイルの先導の元、夜更けに出て来た『イセカイクラス』の校舎へともう一度戻ってきた際の事。


「いよぅ、遅いお帰りだったもんだなぁ…」

「あれあれ?そこにいるのは、ウチの先生じゃありませんかぁ?」

「可笑しいな。朝までには休んでるって約束だったのによぉ………」

「じゃ、ジャッキー殿…!?そ、それにコウガミ、ハヤト…!?」


 その校舎の前で、仁王立ちで待ち構えていたのは、獣人の偉丈夫と、生徒達2人だった。


 獣人の偉丈夫は、見るからに身体から怒気を立ち昇らせていた。

 アビゲイルの言葉通りなら、ジャッキーと言う名前なのだろう。

 ………冒険者ギルドでは、音に聞く『双子斧の黒狼(ジャッキー)』と同一人物なのではなかろうか。


 更には、一度が目にした事のある生徒が、2人。

 コウガミ、ハヤト、と呼ばれた名前の2人は、どう見ても華奢でそれほど体格に恵まれているとは思えないと言うのに、年齢にそぐわぬ怒気を撒き散らしていた。


 不覚にも、女蛮勇族アマゾネスである私達が小さく身体を震わせてしまう程には、異様な空気を纏っていた。

 怒った時の婆様が、こんな気配を纏っていたのは良く覚えている。

 それが、この年端もいかぬであろう子ども達から発されている事には、幾末が恐ろしい。

 そして、その青年達を鍛え上げたであろうギンジが、更に空恐ろしくなった。


 時間は、おそらく少なくとも朝食時は回っていただろうか。

 そう言えば、ギンジは休むように厳命されていた時刻は、朝までだった筈。

 もう、日も昇って久しく、体感温度も高くなっている。

 完全に、約束の刻限は過ぎ去っていた。


 そして、更に恐怖心を煽る、獣人の偉丈夫に至っては、


「正直、こんなに待たされたのは、初めてだぜぇ?」


 相当、ご立腹のようだ。


「…ひっ…す、済まない!き、緊急の用事があって……!」

「………この馬鹿、すっかり忘れておったな…!」

「………怖い」

「………うん、ヤバい」


 アビゲイルが慌て、ラピスが戦慄し、ライドとアメジスの兄妹は、その場で硬直したまま震え上がっていた。

 帰りばかりは馬に乗っていた間宮だったが、何故か真っ青になっていた顔を更に真っ青にして、がくがくと震えているのを見た。

 ギンジの背中に付き従い、年相応には見えない活躍をしていた少年も、流石にこの獣人の偉丈夫は怖かったようだ。


 ………私ですら、恐怖で口が利けなくなってしまったのを覚えている。

 私だってそうだったのだから、妹は更に怖かったことだろう。

 涙目で、見るからに震えて、いっそ哀れな程だった。


 ………皆まで言わずとも分かった。

 私の所為で、ギンジがこの獣人の偉丈夫と交わしていたであろう、大事な約束をすっぽかしてしまっていただろう事に。


 現在眠っている事が、幸か不幸か。

 しかし、起きてから、その所為で叱責されることになるだろう。

 本当に悪い事をしてしまった。

 出来れば、彼が叱責された際に、少しでも盾になれれば良いのだが………。



***

少しだけ、間宮君の心情や過去のようなものに、触れてみた回。

思えば、彼視点で書いた事が、最初の独白のような閑話だけだったので、これ幸いとばかりに………。


ローガンさんも追加したのは、ただの作者の趣味?

本当は、ゲイル氏かラピス視点で書こうと思っていましたが、そう言えばローガンさん視点で書いた事ってあったっけ?と思いなおしました。

そのキャラクタ―っぽく書いていくのは、少し苦手ではありましたが、楽しんで掻く事は出来ますね。

まぁ、やっぱり一番書きやすいのは、アサシン・ティーチャー視点なんですけど。


誤字脱字乱文等失礼致します。

本当に、もう、ゴメンなさいとしか言えないぐらい、誤字脱字すみません。

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