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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
特別学校異世界クラス設立
8/179

6時間目 「社会研修~女神様の歴史と、契約履行~」

2015年8月31日初投稿。


日毎に増えるアクセス数をありがとうございます。

おかげで、作者のモチベーションが上がり続けておりますので、連続投稿とさせていただきます。


(改稿しました)

ブックマークをしてくださっている皆様もありがとうございます。

***



 この国の歴史は古い。

 数十年、数百年どころか数千年も前から存在する国だそうだ。


 その国宗とされている『聖王教会』の歴史も同じ。

 いや、こっちの方がもっと長い。


 始まりは、数万年前だそうだ。

 この国が出来た頃から既に、この『聖王教会』はこの地、ひいてはこの世界に様々な派生をしながらも存在していた。


 『聖王』と呼ばれる100人の女神様を崇め称える宗教団体。

 現代社会で育ってきたオレ達からすれば、御伽噺の中の世界のお話としか思えない。


 その歴史は、とある女神様の英雄譚から始まる。


『かつて、この地に災いを齎していた魔族達。

 その魔族の侵攻を食い止め、押し返したとされているのが、我等人間の味方として降誕された最初の女神『ソフィア』様です。

 彼女は荘厳なる光の槍を携え、絢爛豪華な鎧を纏い、あらゆる闇の力を打ち払ったと語られています』


 眠くなる、宗教団体恒例のお説法。

 一部を除いて、言葉が通じない生徒達の為に、通訳をしているオレには、地味に長ったらしくてキツイ。

 眠る事も出来ないからキツイとも言う。



***



 ジェイコブやイザベラ率いる騎士団を護衛に、教会に辿り着いたオレ達。


 待っていたのは、教会関係者総出のお出迎え。

 さすがにドン引いた。

 思わず回れ右をしそうになってしまって、生徒達に引きとめられてしまったぐらいだ。


 そして、直々に出迎えたイーサン・メイディエラ。

 まだ顔は青いものの、なんとか元気にオレ達を歓迎してくれた。

 彼は、例の謁見の間での一幕、『石板の予言』に関しての協力要請時に、素気無くオレに一蹴されて、ショックでぶっ倒れたのである。

 いやはや、まさかオレもぶっ倒れられるとは思ってもみなかったものの。


 生徒達には、何をしたのか?と猜疑の眼を向けられていたが、生憎とオレは何もしていない。

 ただ、協力要請を断っただけだ。


 まぁ、それも、撤回させられて、今に至るけど。


『まさか、断られるとは思いもよらず…。

 貴方様が受けてくださり、ようやっと私も落ち着く事が出来ました』


 簡単な挨拶も終わってすぐに、嫌味を言われた。


『むしろ、受けてもらえると思ってた事が吃驚だ』


 しかし、イーサンの嫌味などなんのその。

 こっちは、嫌味と一緒に暴力が振るわれる生活を知っているのだ。

 お前等如きの嫌味なんぞ、痛くも痒くも無い。

 あんまり胸を張って言える内容じゃなかったけど。


『『石板の予言』は絶対ですので、』


 と、オレの至極当然な見解に、微笑み混じりに返したイーサン。

 女神至上主義、ここに極まれりだな。



***



 と、そんなこんなの一幕もありながら、オレ達特別クラス改め異世界クラスの12名は、この国随一の宗教団体『聖王教会』へと社会研修である。

 そして、冒頭の教会の歴史、ひいては女神『ソフィア』様の英雄譚へと話が戻る。


 眠くなる内容が続いているが、意外と生徒達は女神様の英雄譚を面白がって聞いているようだ。


 女神様の名前が『ソフィア』で会った時には、全員が半笑いだった。

 思わず、我等が異世界クラスの女神様を見てしまった。


 心無しか、我等が女神様こと杉坂・ソフィア・カルロシュアの顔が赤い。

 こういう偶然もあるもんだな。


 しかしながら、彼女が携えるのは、光輝く荘厳の槍ではなく、光り輝くデコパーツだらけの携帯電話。

 纏うは、絢爛豪華な鎧ではなく、マニアからすれば垂涎のギャルの制服。

 打ち払うのは、闇ではなく、邪まな男どもの不躾な視線だ。

 世知辛いな。


 話が逸れた。

 ウチのクラスの女神様ソフィアの話は別にして、この伝承の女神様ソフィアの話に戻そう。


『魔族との戦いは熾烈を極め、点在していた国や街も、被害を受けました。

 今も廃墟や遺跡と残っているのは、その時代の爪痕を色濃く残す遺産となっております』


『しかし、彼女の力を持ってしても、全ての魔族を打ち払う事は出来ませんでした。

 魔族の王族達が結集し、女神様の幾度となく苦戦を強いられ、遂には倒れてしまいます。

 ですが、女神様は我等人間の為に、最後の力を振り絞り、魔族を遠き山脈の向こう『暗黒の大陸』へと封じる事に成功しました』


 それが、この『聖王教会』の始まりの伝承。

 実は、これ、完全に前振りなのである。


 ヒロイックファンタジーにありがちな、脅威は去っていませんでした、というオチ。

 時間稼ぎはしたから、次の脅威は次世代でなんとかしてね?と言う事だ。

 それを、『石板の予言』で後世に残した。

 そうして、あらかじめ決められているだろう、運命とやらに向かってこの世界は突き進んでいる。

 終焉が迫っているというのも、つまりはそう言うこと。


 前振りの次は、『聖王教会』の起こり。


『しかし、その聖戦により女神『ソフィア』様は、女神としての力を全て使い果たしてしまった。

 天上の世界に帰る事も出来ず、我等が人間ヒト同様と成り下がってしまった彼女は、この地に眠りに就かれてしまった。

 その事に、天上の世界に残された女神『ソフィア』様の99名の妹達は嘆きました』


 ……99名とはまた相当な数字だな。

 一番上のお姉ちゃんだったのかよ、『ソフィア』様。

 しかも、妹達って事は、全員が女って事だから、女系家族って話でも無いと思う。

 って、ああ、女神様だもんな。


『嘆き悲しんだ99名の姉妹達は『ソフィア』様の力を取り戻す為に、自らも下界へと降り立ちました。

 そして、その力を分かち合いながら、以後数千年に渡ってこの地の守護を司り平和と秩序を保ってくださっているのです』


 あ、段々とイーサンの声音が、恍惚としたものに変わっていく。

 イーサンの変なスイッチが入ったらしい。

 宗教団体の教祖かなんかにありがちな、完全なる陶酔状態のようだ。

 賢者、とか言うタイムかもしれない。

 ………エロい話では無い筈。


『『ソフィア』様を始めとする、100名の女神様方を当時の者達は総称して『聖王』様と呼び始めます。

 その呼び名がきっかけとなり彼女達のご威光たる『聖王教会』は設立されました。

 こうして先祖代々脈々と受け継がれた我等の信仰の力もひいては女神様のお力へと変わる事でしょう。

 我等はその寛大なる御心の袂に常に生かされているという誇りを胸に……』

「…云々かんぬん、と」

「面倒くさくなったね」


 長くなりそうだったので、ここら辺から通訳をシャットダウン。

 オレも、生徒達に混じって大欠伸をしてやる。

 はぁ、ツマラナイ。


 とはいえ、『聖王』ってのもどうなんだろう?

 女神様相手なのに、男を表す『王』を使っている感じが、どこか違和感を覚える。

 女なら女王だが、『聖女王教会』ってのも語呂が悪いからか?

 昔の人間の考えは良く分からん。


 信仰心の無い人間だから、余計にこの手の宗教団体の話って好きになれないんだよね。


『痛い、痛い』


 と、ここで再度、女神様のオイタが発動。

 内心を読むなと言うに。


 しかも、女神『ソフィア』様の話を聞いた後だから、余計にこのちゃちな攻撃に苛立ちを覚えてしまった。

 アンタも、オレなんかに悪戯してないで、荘厳な光の槍と絢爛豪華な鎧をまとって魔族相手に特攻してくれよ。

 そう考えていると、オイタも収まった。

 ………やっぱり、出来ねぇのかよ。


『…ごほん!申し訳ありません。私の悪い癖でして…』


 ただ、イーサンがオレの首筋の音に気付いて、陶酔状態から戻ってきたのは僥倖だった。

 いつまで続くのか、気になってたんだ。


『説教となると、どうしてもご威光を語ってしまい、色々と時間を押してしまう事が多々ありまして…』


 オレの辟易とした様子に、イーサンは罰が悪そうに微笑んだ。

 女神至上主義のある意味狂信者だな。


 閑話休題それはともかく


『今の話に、石板が出てこなかったように思えるが、』


 今の話は、要約すると女神が降り立った経緯と、『聖王教会』が設立した流れしか分かっていない。

 肝心の石板が出てきていないのだが、


『…まだ、終わってはおりませんでしたので、』

『賢者タイム突入は、全部話してからにして欲しかった』

『面目次第もございません』


 まだ、続きがあったようだ。


 以下、割愛してお届けしよう。


 天上の世界に戻れなくなった女神ソフィアに、嘆き悲しんだ99名の姉妹達は、姉の力を取り戻す助力の為に、自らも天上の世界から降り立った。

 しかし、それだけでは、女神ソフィアの力を取り戻す事も叶わず、更には99名の女神様達も、等しく力を失ってしまった。


 ……ミイラ取りの諺は知ってるか?


 まぁ、それは良いとして。


 予想としては、均等配分の結果だと思われる。

 女神ソフィアは、元々100名の女神達の最上にして筆頭だった。

 その力に関しても、強大且つ壮大だったようで、99名の女神達が均等に力を分け合った事によって、それ相応に消耗した、と。

 しかも、女神ソフィアは、今もどこかで眠り続けているとの事。

 どこだよ、それ?と聞いても返答は無かったので、やはり伝承は伝承だ。


 ついでに、99名の女神達が力を合わせても、女神ソフィアは目覚める事は無かった。

 それどころか、女神達全員がそのほとんどの力を失ってしまった。

 結局、何をしに来たのか分からない99名の女神達なんだな?


『だから、痛いって…』


 そして、安定のオイタ。

 ぱちぱちと鳴った静電気に、余計な事を考えるなと言われている気がする。


 話を戻そう。


 その話が何故、『石板の予言』に関係あるのか、と言えば、人間サイドに降り立った女神達が、力を消耗してしまった結果、なんとその姿を見せる事も声を届ける事も出来なくなってしまったことに由来する。

 その為、力の回復を待つ間は、『石板の予言』として、後世に言葉を残していた訳だ。


 それが、本題となっている『石板の予言』の正体。


 ………滅茶苦茶だな、女神様。


 だが、分かった。

 これは、あんまり信用出来ない。


 実際にいるのかどうかも分からない女神が、後世を憂いて『石板』を残していた。

 だが、それが本当に女神が残したものかは、定かでは無い。

 見つけた人間達が、勝手に解釈した結果、女神という偶像が生まれた可能性も高い。


 しかし、


『信じておりませんね?』


 再三のオイタ。

 上の通りだとすると、この静電気攻撃は、ちょっと説明が付かないなぁ。

 ただ、悪霊が悪さしているだけとも考えられるけど、


『……そこまで信仰心が無いのも、考えものですね』

『悪かったな、壊滅的な信仰心で』


 ぱちぱちぱちぱち、と鬱陶しい静電気。

 ええい、文句があるなら、眼の前に現れて女神の御業とやらを披露して見せろ!

 と思ったら、やっぱり静かになった。

 ……チョロい。


 信仰心が無いのは、当り前だ。

 産まれてこの方、神様にも女神様にも巡り合った事も無ければ、恵まれていたと思う生き方はしてねぇ。


「……先生って、本当に夢が無いよね?」

「元軍人で、左腕の麻痺が深刻だからな」

「……同感だネ」


 そう言うこと。

 神様も女神様もいるというなら、オレ達のような体の一部に支障を来すことだって無い筈だ。

 まぁ、この地味な静電気攻撃が女神様の攻撃だと言うなら、この世界にいたんだな、としか思わんが。

 存在の証明とまではいかないが、多少は信じてやっても良い。


 ただ、裏を返せば、


『この程度の力しかない、と』


 つまりはそう言うこと。


『そ、そんな事はございません!今は、『予言の騎士』様の為に、加減をなさってくださっているに違いありませんっ』

『じゃあ、本気でやったらオレは死ぬんだな?』

『そ、それは試してみない事には…ッ』

『試しちゃダメだろ』


 何その、遠回しの殺人宣告。

 オレはお試しの電気ショックで殺されるという事になるんだが、


『……やらないって事は、出来ないんだな』

『め、女神様の力に関しては、我等も『神託』でしかお目にかかった事がございませんので、』


 ぴたりと止まった静電気攻撃。

 そして、しどろもどろに弁明するイーサン。


 なんか、面白い光景になってしまった。

 だが、どうやら女神の存在については、本当のようだ。


 力を失ってしまったからこその、この程度。

 オレの考えでは、多分スタンガンの方がまだ威力はあると思うが、こうしてバチバチされる度に昏倒するのも困るから、この程度で良かったと無理やり納得しておこう。


『ごほんっ!

 さて、ここまでのお話は分かっていただきましたでしょうか?』


 気を取り直したのか、イーサンが再三の咳払い。

 とりあえず、女神様の力事情については、ひとまず置いておこう。


「各自、今までの話は分かったか?

 落ち着いたら、レポートを提出するように」

『は~い』

『え~?』


 オレのレポート発現に、両極端に分かれた生徒達の反応。

 中には、絶句した生徒もいるが、何があった?


「全然、わかんなかった!」

「テメェ、徳川、そこになおれ」


 こいつには、いますぐ拳骨をぶち込んでやる。

 握力150の拳を受けてみろ。

 オレの通訳の時間を、丸っと無駄にしやがって。


「でも、なんでレポートが必要なの?」

「石板の予言に関して、今の話の中にヒントが隠されているかもしれないからだ」

「…ああ、なるほど」


 我がクラスの書記、伊野田の質問。

 それに対するオレの答えが、今回のレポート提出の一番の狙い。


 オレも聞いてはいたが、女神様の伝承については不明な部分も多く、半信半疑と言った有様だ。

 オレだけだと、このまま真偽不明で、信用が出来ない。

 だが、この話を聞いていた生徒達ならばどうか。


 ファンタジー世界にどっぷりと浸かっている浅沼は勿論のこと、生徒達のほとんどが想像力が豊かだ。

 もしかしたら、オレが気付かない事も、別の視点から見るとあっさり見つかるかもしれない。

 生徒達の知恵も、オレにとっては立派な情報になると言うことだ。


 それに、いつまでもオレに依存したままでは困る。

 オレだって間違える時は、間違える。

 その時に、オレの答えだけを鵜呑みにするのではなく、生徒達の視点から見た最善の選択が出来る可能性を広げたい。

 今後、生徒達に自主性を持って貰う為に、必要な工程だ。


 今回の『石板の予言』に関して、オレの後押しをしたのも生徒達だ。

 その気持ちや判断は今となっては素晴らしいが、自主性と言えるかどうかは、些か心許無いと思っているのが現状。


「急がなくて良い。だが、この話を聞いて、自分で感じた本心というか、気持ちを正直に書いてほしい」


 それが、少しでもこの大役に、貢献してくれることを祈る。



***



 さて、生徒達の連絡も終了して、気付けば昼時になっていた。

 少し遅めの朝食だったにも関わらず、既に腹の虫を鳴らしている生徒もいる中で、


『こうして、長々と当教会の歴史を語らせていただきましたが、』

『ああ、本当に長かったな』


 とりあえず、嫌味を一つ。

 2時間も長々と歴史を語ったとか、どうにかしてくれよ。


 案の定、苦笑いになったイーサンだったが、咳払いで誤魔化していた。


『今回のご訪問をお願いしたのは、何もこれだけではございません』


 ……まだあるの?


『『石板の予言の騎士』ギンジ様には、これより女神様方の『神託』を受けていただきます』


 ……来た。

 ここに来る道中に、ジェイコブや痴女騎士から聞いた話だ。


 『神託』とは、文字通り女神様から託されるお言葉の事。

 それを、この『聖王教会』では、割と頻繁に行っているという。


 司祭であるイーサンには、夢枕などで直接、なんて事も少なくないそうだ。

 気軽なもんだな。

 もっと、仰々しいもんだと思っていたんだが。


 しかも、特定の条件を満たしていないと受けられない、という訳でもないらしい。

 必要なら、お布施|(お金)と簡単な貢物|(食べ物らしい)で、案外簡単に受ける事が出来るようだ。

 それでも、イーサンのように枕元に立たれるのとはまた違う、『神託ミニバージョン』らしいのだが。


 こう言っているとあれだな。

 なんか、ありがたみが薄れると言うか…。

 女神様が、随分と気安いことにも吃驚だし、サービス精神も旺盛なもんだ。


 まぁ、オレなんかの首筋にオイタをするぐらいだもんな。


 そんな、サービス精神旺盛な女神様だが、今回は、随分と本気らしい。

 本日の朝一番にイーサンの夢枕に立って『神託』を降ろし、オレ達に『聖王教会』まで足を運ぶように要請をしてくれたとの事。


『拒否権は?』

『ギンジ様の首筋で鳴っている、女神様のお怒りで分かるかと、』


 うん、ぱちぱち言ってるね。

 拒否権は無しって事だ。

 この上なく鬱陶しい。


 正直受ける気は無いが、どうあっても女神様はオレに『神託』を受けさせたいらしい。


 拒否権が無いとか、冗談じゃないんだけど。

 黙秘権の行使も認められなかったのに、拒否権も無いとか人権無視も甚だしい。

 弁護士を呼べ。

 法廷で争おうじゃないか。


 なんて、現実逃避も意味は無い。

 そもそも、こっちには法廷どころか裁判所も無いし。

 オレも弁護士免許は持ってるから、弁護士を呼んでもほとんど意味が無いし。


 ただ、思ったことが一つ。

 というか、今、大事なことに気付いた気がする。


『『神託』ってのは、つまり女神様が直々に、言葉を授けてくれるって事だよな?』

『はい、その通りでございます』

『姿も見えないし、声も聞こえないのにか?』

『それも確かにその通りでございますが、貴方様の首筋で鳴っているお怒りの通り、

 女神様方は、小さくはあっても数々の御業を齎してくださっております。

 今回行わせていただく『神託』も、その一部でございますれば、』


 御業の規模が小さすぎるわ!

 って、そうじゃない。

 問題なのは、規模とかじゃなくて、


『『神託』を行うにも、力を使ってるんじゃないのか?』


 オレの周りで起こるスーパーナチュラル的なのも、御業の一つ。

 そして、『神託』だって、御業の一つ。

 それを女神様自らが行うって、それじゃ本末転倒じゃないのか?


『力を取り戻す為にこっちに留まっているのに、ちっぽけな御業とやらで消費してるんじゃ、そりゃ数万年も掛かるわ…』


 と、言うオレの言葉。

 それに、イーサンは、愕然とした顔をした。

 今更、気付いたのだろうか?


 そして、まさかまさかで、女神様も気付いていなかったのか?

 オレの静電気攻撃がぴたっと収まったけど。


 こんな宗教団体にオレ達の命運を任せて本当に大丈夫なのか?

 ふと、心配になった瞬間だった。


『…身も蓋も無いですね』


 いや、お前がな。



***



 その後、オレは教会の深部、『聖堂』へと通された。


 いやまぁ、大変だった。

 何がって、オレが事実を指摘した後の、イーサンと女神様の反応がだよ。

 イーサンは白眼を剥いて倒れかけてるし、女神様は自棄っぱちにでもなったのか、意味も無くオイタを連発してくれるし。

 おかげで、未だに鳥肌が収まらない。


 だが、そんな大変な思いをした甲斐もあった。

 『聖堂』へと踏み込んだ瞬間、オレの不信感はあらかた吹っ飛んでしまった。


『うわぁ~…』

『…何かありましたか?』


 法廷を思わせる大聖堂が、扉をくぐったオレを出迎えた。


 垂れ下がる赤幕には、教会のシンボルマーク。

 ちなみに交差した槍の前面に重なった女神の横顔、そして純白の羽。

 教会特有の長椅子が並ぶ、赤絨毯の先。

 教祖や司祭が立つ、祭壇のような場所。


 そこには女神様を祀ったであろう像が立ち並んでいる。

 その数、おおよそ百体。

 純白で出来た石膏造りであろうそれは、色々な地域の教会を見慣れたオレでも圧巻だった。

 おそらく、この地に数万年前から逗留し続けているという女神様を象っているのだろうと、頭の片隅で理解は出来た。


 しかし、オレの感嘆の声は、その石の女神様に向けられたものじゃない。


『なにこれ、凄ぇ…和むんだけど…』


 そこにいたのは、小さな妖精達。

 純白のドレスやワンピースを身に纏った、おおよそ百人はいるであろう美しい少女達だった。


 誰だよ、女神の姿も声も聞こえないって言ってたの。

 お前だよ、イーサン。

 ふわふわとして愛らしい姿も見えるし、どこからともなくころころと笑い声まで、はっきりと聞こえているじゃねぇか。


 なにこの、ちょっとどころじゃなく和む光景。


『…なにここ、天国?オレ、いつの間にか雲の上か?』

『まさか、ギンジ様には、女神様方の姿が見えていらっしゃるので?』

『オレの前にいる彼女達が、本物の女神だと言うならな…』


 オレの言葉通り。


 目の前には相応の背格好をしているおそらく『女神』様と思しき姿。


 しかし、尤も適した形容詞は、わらわらわらだ。

 座敷童子でも、ここまで一杯集まる事は無いだろうに。


 小さい。

 しかも、可愛い。

 幼女然りとした様相の少女達が、百人もこの聖堂の中にひしめいている。


 それだけで、オレの荒んだ心が癒されていくのが分かる。


『流石は、『石板の予言の騎士』様ですね。

 私は、気配は感じても姿を見る事は適いませんので、とても羨ましいです』

『その変な称号で呼ぶな。

 女神様の姿については、…色々形容詞は多いけど、可愛いとだけ言っておく』

『ありがとうございます』


 癒される。

 色んな意味で癒される。


 しかも、女神達もオレには興味津々らしく、オレが一歩歩く度に周りをふわふわと駆け回る。

 足音は響いていないが、くすくすころころと鈴の転がるような笑い声が響いている。

 うわぁい、本気で癒される。


 これは、流石に信仰心が無い俺でも信じるわ。

 まさか、こんな所でオレにとっての天国が現れるとは。


 そんなオレは、地味に子どもが好きだ。

 性的な意味ではない。


 子どもという可愛らしく愛らしい存在が好きなのだ。

 子ども特有のふくふくとした身体や愛嬌のある笑顔。

 極めつけは大人ではもう恥ずかしくて出来なくなるであろう、可愛らしい動作やその遊び心溢れる発想力。


 決して性的な意味で好きな訳ではない。

 何度も言うが、大事な事だからだ。

 オレは断じてロリコンじゃない。


 この光景を見て頬を引くつかせてしまっては、説得力が無いかもしれないものの、


『お?』


 オレが、その光景に頬を引き攣らせながら(ニヤけないようにセーブしているだけだ)も、和んでいる丁度その時。


『…『神託』ですね。

 …お願いをする前に始めてくださるのも初めてです。流石は石ば……ギンジ様です』

『また呼びそうになったなコノヤロウ。回れ右するぞ?』


 暗に帰るぞと脅しただけだが、イーサンは口を閉じた。

 お前、口を閉じないと、その称号を口走りそうになるのか?


 それよりも、『神託』とやらが気になる。

 お願いするよりも早く始めてくれるとは、ありがたいもんだ。

 意外と、神様には好かれていなくても、女神様には好かれていたと言う事だろうか?

 いや、自惚れるのは辞めておこう。

 左腕が疼いた気がする。

 自分で心的外傷を抉っていては世話が無い。


 さて、話を戻そう。

 どうやら、『神託』というのは、この世界。

 簡単に言うと、ただ声を降ろすのではなく、筆記スタイルのようだ。


 傍から見れば、純白に輝く羊皮紙が勝手に現れて、それが宙に浮いているようにしか見えないだろう。

 その羊皮紙に向けて、女神様がさらさらと文字を綴っているようなのだが、その文字を綴っている羽ペンもまた宙に浮いている。


『おぉ…これは確かに、信仰もしたくなるわ…』

『そ、そうでしょう!…我等が『聖王』様は素晴らしいのです…!』


 うん。

 幼女として素晴らしい。

 しかし、オレが信仰心を齎したのは、そこじゃない。


『…うわぁ…なにこれ、超和む…』


 文字よりもオレは女神様に釘付けになってしまった。


 だって、女神様達の『神託』。

 全員が肩車してやってるんだぜ?


 宙に浮いた純白の羊皮紙。

 それを持っているのは、幼女然りの様相をした女神様。

 更にその下に肩車をした女神様が、3人ほどでその羊皮紙を持った女神様を支えている。


 これだけで、オレの顔面は筋肉が痙攣してしまいそうだ。

 顔面崩壊を起こさないようにするのが、もはや必死。


 だと言うのに、その羊皮紙に向けて文字を書いているのも女神様だ。 

 しかも、その下にはやはり肩車をした女神様が3人で支えている。

 一番下の女神様が、滅茶苦茶頑張ってる。


 オレの目の前には、大変微笑ましい光景が広がっている。

 なにこの、再三の和む光景。

 オレは不謹慎ながらも、この異世界に召還された事に初めて感謝したかもしれない。


 しかも、


『お、っと…』


 そうして癒される幼じ…げふん。

 間違った。


 そうして癒される女神様方の様子を見ている間にも、オレの肩や足元には女神様がよじ登っている。

 こらこら、カツラを引っ張らないでくれ。

 中身の色が違うだけだから、決して禿げている訳では無い。


 閑話休題。


『…オレ、もうここで1年でも2年でも引きこもれそうな気がする』


 女神達の奮闘を見て、盛大に溜息を洩らす。


 この状況であれば、オレは言葉通り引き篭もれる。

 彼女達に頼まれれば、仕方ないなぁとか思いながらも『騎士』ぐらいはやっていけそうだ。


 王国から援助を受けて、住居は決まっているみたいだが、そこをキャンセルしてここに住んで良いだろうか。


『それは迷惑ですので辞めてください』

『実現可能な夢じゃねぇよ。本気にすんな』


 テメェは、良いな。

 ここが住居なんだから。

 だがしかし、一応は冗談のつもりだった。

 それを迷惑とばっさり切り捨てたこの男は、冗談が欠片も通用しなかったようだ。

 地味に嫌がらせも含んでないだろうか。


 いやしかし、地味に冗談抜きでも羨ましいかも。

 あ、でもそもそも、コイツは姿も声も聞こえないんだったか。


 とかなんとか、和んでいたら、


『って…痛っ…!こら、左腕はやめてくれ…!』


 何故か左腕にとんでもない痛みが走った。


 見れば、女神様の一人がオレの左腕に、ぶら下がっている。

 和むが、そればかりはさすがにやめてくれ。


 確かに左腕は麻痺しているが、腕が動かないだけで肩にはちゃんと痛覚はあるんだ。

 頼むから引っ張らないで欲しい。

 左側に関しては、条件反射で身体が無意識の内に強張ってしまう。

 和むし癒しにはなるけど、肉体的なオイタも精神的なオイタもいくら女神様でも勘弁してくれ。


『申し訳ありません』

『………は?』


 あれ?喋った。

 今、この女神様、確かに謝ったよな。


 オレの腕にぶら下がっていた女神様は、だいたい10歳ぐらいの姿をした少女だった。

 

 目が覚めるほどの美しさと言うのはこの事だろうか。


 均等に波打ったウェーブすらも美しい艶々とした黒髪。

 まるで彫刻や絵画でも見ているかのように愛らしく、端整に整えられた作り物とも思えるその容貌。

 通った鼻筋、きりりと整えられた眉。

 口は小さく、若干のおちょぼ口で、それもまた彼女の魅力の一つなのだろう。

 何よりも特筆すべきは、その作り物めいた顔にはめ込まれた宝石のような金色の瞳。

 イエローダイアモンドでもここまで、輝いてはいないかもしれない。

 猛禽類にも似た丸々とした眼は、しかし垂れ目がち。


 おかげで、彼女の第一印象は可愛らしいだ。

 そして、将来は誰もが振り返り、そこいらの女が裸足で逃げ出すだろう素晴らしい美人に育つだろう。


 正直、美人は杉坂姉妹や伊野田で見慣れていると思っていた。

 それこそ、世界で活躍するハリウッド女優の警護もしたことがあるオレは、美人を見る目には、自信があったのだが、さすがのオレでも、この女神様の美しさには脱帽だ。

 正直、目を合わせていられなかった。

 オレには、眩し過ぎる。


 それに加えて、先程の声だ。

 鈴の転がるような、という形容詞だけでは足りない透き通った声だった。


 顔も綺麗で声も綺麗だとか。

 しかも、話が出来るとは思ってもみなかった。

 ちょっと、感動。

 オレは今、女神様と喋ってる。


 ただ、オレの事を見上げた女神様は、若干眉を下げて泣きそうな顔になっている。

 ああ、お互いに吃驚しちゃったしねぇ。


『…こちらの腕、痛いのですね?』

『…い、たい、というか、…もう動かないというか…。

 昔、色々とあって…な』


 オレの麻痺して動かない腕を、女神様の手が滑る。

 過去の事を清算できてはいないが、何故か心が洗われるような気分に陥った。


『申し訳ありません。…ずっとギンジ様にくっ付いていたので、気安くしてしまったようです』


 ……なに?


『…って、昨日からずっとオレにオイタしてたの、もしかして君だったの?』


 問いかければ、彼女はこくりと頷いた。 


 おいおい、ずっと一緒だったとか。

 っていうか、ちょっとやんちゃな女神様が、まさかこんな姿をしているとは。


 ってか、オレ、何度もお願いしたよね?

 首は急所でオレも弱いから、やめてくれ、と。


『頭にくっついていたので、ここしか叩けなかったのです』

『そもそも、頭にくっつくなよ』


 しかも、叩いたからこその静電気だった訳だ。

 ああ、納得。

 御業という訳でもなく、女神様にとってはただの物理攻撃だった訳だ。


 って、そういう問題じゃない。


『どうして、オレにくっ付いてたんだ?』


 そもそも、何故オレにくっ付いていたのか。

 そして、いつからくっ付いていたのか。


 問題は、そこだ。


『オリビアは、太古の昔からソフィア姉様から、『騎士』様と共に行く事を命じられておりました。

 なので、どうか私を、ギンジ様と共に連れて行ってください』


 前言撤回。

 問題は、無い。


 ロリコンの称号を頂こうが、女子達に冷たい視線を受けようが構わない。


『……こちらこそ、よろしく』


 オレは、一も二もあったが、即答していた。

 最初の『……』が一の句と二の句だ。

 推して察しろ。


 オレの顔、出来れば土砂崩れを起こしていなければ、良いな。



***



 思わず一も二も無く(いや、少々逡巡はしたが)頷いてしまったものの。


『オリビアは、ギンジ様と契約いたします。

 これからは、『騎士』様の眷属となりますので、どうぞよろしくお願いいたします』

『え~と…?』


 ヤバイ、どうしよう。

 何度も言うが、これは少々マズイのでは無いだろうか。


 オレの顔も色々とマズイ事になっているかもしれない。

 顔面土砂崩れなんて、起こしていなければ良いと、思いたい。

 この子の為なら本望とも言えるかもしれないが。


 いつの間にか、『一緒に来る』が『眷属として契約』する事になっている。

 いや、意味が全く理解出来ていない。

 

 大変申し訳無いんだが、何がどうしてこうなった?


 まず、この少女然りとした女神様は、名前をオリビアというらしい。

 大変良くお似合いで。

 いやいやいや、そうではない。


 彼女の申し出は、『命令を受けているから、『騎士』であるオレに付いて来る』というシンプルなものだ。

 可愛さに絆されてしまった事は否定しない。

 しかし、まず先に聞かなければならない事はあった筈なのに、何故こうまでも簡単に許諾してしまったのか。


 オレ、別にロリコンだった訳じゃなかったんだが。


 とりあえず、落ち着こう。

 丁度、現実逃避には丁度良い馬鹿が後ろで床に這い蹲っている。


 現実逃避に丁度良いとオレに言わしめたのは、イーサンだ。

 会話までしているなんて!と、オレの背後で打ち震えている。

 しかも、それはどっちの感情なのか?

 羨ましいのか、感極まってるのか。


 まぁ、この際、そんな色んな意味での狂信者はどうでも良い。

 よし、馬鹿のおかげでオレも落ち着いて来た。


『オレと共に来るって言うのは、具体的にどういう意味?』

『この世界に『予言の騎士』様が現れた時には、その傍に控え、力を尽くすように言われております』


 ああ、つまり加護をしてくれるって事ね?

 しかも、女神様が直々に。

 それは確かに心強い。


『命令を受けたってのは、誰から?』

『姉様です。私はソフィア姉様より、命を受けております』


 なるほど。

 やはり、彼女は幼女の姿をしていたとしても、女神様という認識で間違いは無い。

 そして、この女神様は、この『聖王教会』の始祖ともなった女神ソフィアの、99人の妹の一人。


 では、問題をその次に進める。


『…オレの眷属、というのは?』

『それは私も良く分からないのですが…』


 分からないのに、あんな自信満々で眷属云々と語っていたの?

 ちょっと、この子の脳内が色々心配になってしまったものの、おかげで先程よりも更に冷静にはなれた。


 そもそも、眷属けんぞくとは?

 それはまぁ、中高生ぐらいであれば十分に読める漢字だろう。


 次にその意味とは、大きく三つ。


 ①血のつながりのある者や、もしくは一族等の親族の事。

 ②従者や家来、配下、家子、所従などの隷属身分の者の事。

 ③仏や菩薩に従うもので、つまりは眷属神とも呼ばれる神の使者の事。


 脳内ウィ○ペディアを起動し、検索結果をコピーペースト。


 まずは、①は除外するとしよう。

 こんな可愛い妹はまずいなかった筈だし、そもそも彼女は異世界の女神様だから出自が違い過ぎる。


 次に②だが、おそらくこれが彼女の言っている意味としては近いかもしれない。

 しかしながら、本来は女神様が最上級の位。

 オレは『石板の予言の騎士』とは言え、あくまで『騎士』だ。

 『騎士』は配下が尤もな役職である。

 主がいない事には、騎士を名乗っても意味は無い。


 次に③だが、これも彼女の意味としては近いかもしれない。

 これが彼女に付き従うのがオレであれば、当て嵌まる事は当て嵌まる。


 しかし、思い出せ。

 彼女の言葉は、間違いなくオレの眷属になると言う、嬉しいお言葉だった。

 いかん、本音が出てしまった。


 だが、本来は神様の使者が眷属神。

 彼女は女神様なので、使者を使役する側の存在の筈だ。


 ちょっとこんがらがってきた。

 分からなくなったら、質問だ。


『…君の姉様はなんて?』

『はい。『騎士』様の眷属となり、共に世界を救いなさいとお達しでした』


 ………おいおい。

 それ、完全なる放置じゃねぇ?


 オレも放任主義としては筋金入りだけど、ここまで雑に放り投げた事は無いと思うんだ。


『その姉さまとやら、お話は出来るのか?』

『……それが、』


 詳しい話を聞きたい一心で、オリビアに訪ねてみたものの。


 今までは大層可愛らしい喜色満面の笑みで話していたというのに、一瞬にして表情が翳ってしまった。

 どうやら、姉様とやらは、お話を出来る状況ではないとの事。


 ふと、祭壇を振り返る。

 そこには、確かに女神様達がわらわら。

 相変わらずきゃっきゃうふふと、笑い合いながら跳ね回っている。


 しかし、その中に、光の槍と絢爛豪華な鎧を着飾った猛者らしき女神はいない。

 唯一のその御姿は、石膏像の最上位。

 槍を携え、威風堂々とした立ち姿で中央に鎮座している、石灰で出来た仮初の姿のみ。


『やはり、ここにいるのは、99人の妹達だけなのか?』

『はい。姉様は、太古の昔にあった魔族との戦いでほとんどの力を消耗してしまいました。

 石板にその最後の力を込めてより、今は眠りに付かれたままです』


 なるほど。

 イーサンの言葉通り、女神ソフィアは、眠りに付いたまま。

 思った以上に、消耗は激し過ぎたらしい。


 人間なんぞの味方をした神様や眷属って、ほとんどが命を引き換えにしている神話や寓話がほとんどだもんな。

 それが今回は、女神様な訳だ。

 これは、少し頭が痛い問題となりつつあるぞ。


 ふと、そうして苦い顔で、石膏像を見あげていたオレ。

 その横に、いつの間にかイーサンが立っていた。


 どうやら、先程の馬鹿げた衝撃とやらからは立ち直ったらしい。

 顔が若干上気しているのがとっても気持ち悪い。

 顔は良いのだが、男がそんな恍惚とした顔をしても気持ち悪いだけだ。


『女神様はなんと?』

『アンタの語ってくれた教会の歴史の補足をしてくれたよ…』

『そうでしたか。

 …ギンジ様が女神様と会話が出来たのであれば、もしや『神託』は必要なかったかもしれませんが…』


 ああ、そういえば、忘れていた。

 女神オリビアの衝撃のおかげで、すっかりこの大聖堂にやって来た目的を念頭からすっ飛ばしていた。

 恐ろしいな、女神様。


『それで、『神託』はなんて?』

『今後の指針のようなものです、どうぞ?』


 と、イーサンから差し出されたそれ。

 書き綴られた文字は、流麗なものだ。

 これが羽ペンで書かれていて、なおかる三人がかりの肩車で書かれたものとは思えない。


 だが、


『悪いが、字は読めないな。オレ達が使っている文字と別物みてぇだ…』

『…なんですって?』

『え?ギンジ様、文字が読めないのですか?』


 うん、読めない。


 このアルファベットに似た形をした何かの文字の配列が分からないのだ。 

 彼等が話している言葉がイギリス訛りの英語らしきものだったから、すっかり失念していた。

 こっちの文字、オレ達には読めないよ。

 参ったな。

 文字が書けないのは、この先色々と痛い問題だ。


 とりあえず、異世界言語の問題はさておいて。


 仕方ないので、女神様からのありがたい『神託』(力の無駄遣いとも言う)は、イーサンに呼んで貰った。

 一応、『神託』の羊皮紙を見比べながら聞いたが、このアルファベットの文字に似た文字の規則性がそもそも分からないので、意味は無かったが。


 しかも、中身は、大した内容じゃなかった。


 オレ達を『騎士』として召還した経緯。

 そして、それを謝罪する旨。

 今後は、オリビアがオレの『眷属』として付き従う事。

 彼女の力が今後、異世界での生活の為になるとの事。

 オレ達の今後の生活がより良いものになる事を願っているという激励。


 以上。

 やっぱり、頭痛が痛い。


『結局、オリビアは眷属なのか?』

『はい。よろしくお願いいたします、ギンジ様』


 と、嬉しそうに笑ったオリビア。

 可愛いから許そう。


 いやいやいや。

 待て、オレ、ハウス。

 早まるな。


 このまま行くと、オレの称号がエロ教師に始まり『ロリコンの騎士』に変わる。

 それは、断固拒否したい。


 『神託』の話に戻そう。


 召還の経緯は、まだ良い。

 これについては、イーサンからも国王との謁見の際にチラリと聞いていたし、謝罪も含まれていたので、国王の謁見よりかは好感が持てた。

 おかげで、上がりかけたボルテージは収まってくれている。


 次に、オリビアの件。

 これも、眷属の事を抜かせば、願っても無い事だ。

 本音だ。

 だがしかし、他意は無い。

 彼女の能力が、今後の異世界生活(ファンタジーライフ)に役に立つというなら、存分に役立ててもらおうじゃないか。 


 しかし、しかしだ。


『だから、何で、過程がすっ飛んでるのかって聞いてんだよっ』


 隣でイーサンが、ビクッと肩を震わせた。

 オリビアがきょとんとオレを見あげている。


 おかげで、怒りは収まっ…収まりそうも無い。


 今後の生活がより良いものに出来る事を祈ってくれるのは、嬉しい限りである。

 その為にオリビアを命令ありきとは言え、付き従ってくれるというのも嬉しい限り。


 だが、何故、その過程が抜けているのかは本気で訪ねたい。


 そもそも石板だって、どうやって暗黒の闇を打ち払うのかを書いていないのだ。

 解読出来ていない部分があるとかなんとか言うけど、それもそれで問題だと思うし、なんだってこんなに不親切なんだ?

 今時、パソコンの取り説でも、もっと丁寧に書いてあるぞ。


 そして、オレはその『石板の予言』の暗黒の闇を打ち払う件と、どうやったら元の世界に戻れるのかという過程を聞きたかった。

 期待をしていたが、見事に空振りだ。


 いや、まぁ、期待というのは、大概が外れるものだから、仕方ないのかもしれない。

 しかし、ここまでして触れないのは、どうなんだ?


『…聞きたいんだが、オレ達がこの世界に召還されて、世界の驚異を打ち払う事に関して、お前の姉様は何も言っていなかったか?』


 期待は薄いが、オリビアに訪ねてみる。


『………ごめんなさい。聞いていないです』


 やはり、彼女も知らなかった。


『誰か、分かる奴はいないのか?

 …神託を書いた女神様とか、羊皮紙を持っていた女神様とか…』


 多少、肩を落としつつも訪ねる。 

 先程『神託』を書いてくれた、肩車の一番上にいた女神様2人を探す。

 案外簡単に見付かったものの、その2人も揃って顔を見合わせて首を振った。


 それにしても、こっちもこっちで、オリビアに負けず劣らず可愛らしいお顔をして居る事で。


 ああ、また脱線しかけた。


『マディ姉様も、エリー姉様も知らないそうです』


 そうか、金髪がマディで、茶髪がエリーか。

 ちなみにマディが羽ペン、エリーが羊皮紙の女神だ。

 別に馬鹿にしている訳ではない。


『…そうか』

『お役に立てずごめんなさい。

 で、ですけど、別の部分で私、頑張りますから!』


 良く分からないけど、別の意欲を燃やされたようだ。

 可愛いから良いけど。

 何から何まで教えてくれるのも考え物かもしれないが、どうすれば良いのかぐらいは指針を示して欲しいものだ。

 元々、その為の『神託』じゃなかったのか。


 結局、オレの疑問は解決出来そうにも無い。

 これでは何の為に、嫌々教会に来る事になったものか。


『うぅ…』

『唸っても仕方ねぇもんは仕方ねぇだろ?

 肝心なところを役に立ってくれないんじゃオレだって、信仰心どころか背教もしたくならぁ…』


 信仰心も無かったからな。

 むしろマイナスだったから、いくら女神様方が幼女で可愛かろうとプラマイゼロだ。


 そして、結局、『神託』はこれで終了だった。

 さようなら、女神様の園。



***



 『神託』を終えて、聖堂を出た。


「あ、先生、おかえりー…って、誰それ?」

「…なんで、子ども連れて帰ってきてんの!?」


 そこで待っていた生徒達。

 ちなみに、『神託』はオレ一人で受けたから、生徒達には、聖堂の前にあった大広間で休憩をして貰っていたのだ。

 護衛の騎士団も一緒。


 そして、『神託』を終えて、戻ってきたオレを出迎えた生徒達の視線は、完全に女神様オリビアへと向けられている。


 実は、『神託』は早い段階で終わったのだが、オリビアを連れ出すには、とある手順を踏まなければならないらしく、それに付随した作業も一緒に終わらせてきたのである。

 そのとある手順、というのは、言うなれば『契約』だ。


 『眷属』となる『契約』は、簡単に言えば血判状のようなものだった。


 女神様方が数名掛かりで力を込めた(いや、だから力の無駄遣い…)特別な羊皮紙のようなもの。

 その羊皮紙にサインを記入し、その上にオレの血とオリビアの血を垂らす。


 お互いの血を沁み込ませる事で、繋がりを造るとの事だ。

 血判状とは違って生臭い感じでは無いとはいえ、これもこれで原始的な契約方法なもんだ。

 ちなみに、それを行ったのは、幼女……げふん。

 もとい、女神様方に囲まれた状況。

 女神様方に囲まれて『契約』を行い、終わってから祝福を受けた状況は、まるで結婚式の宣誓書を書いたような気分だった。


 閑話休題。


 そして、この『契約』により、何が出来るのか。


 まず、オレはオリビアの気配や軽い意識であれば感じ取る事が出来るようになった。

 オリビアも同様だと言う。

 遠くにいるお互いの位置も、正確ではなくともある程度把握出来るらしい。

 オリビアもオレの生命力を元に具現化をする事は出来るようになったらしく、姿を見せる事も可能になった。


 おかげでイーサンがエキサイトしていた。

 コイツこそ、真性のロリコンだったんじゃないか?


 と、こんな感じで契約が終了。

 姿を現したオリビアも、女神の時と変わらず可愛らしい。

 どちらかと言えば、神々しさが半減したが、その代わりに愛らしさがレベルアップした。


 先程までは、オレの視界をもってしても輪郭が薄ぼんやりとしていたのだが、今ではくっきりはっきり見えるようになっている。


 と言う訳で、


「女神様の序列4番目、オリビアが今日から仲間に入ります。

 皆仲良くするように…」

『よろしくお願いいたします』


 ぺこりと頭を下げた、おおよそ10歳の少女。

 数万年前からこの地にいると言う事なので、実年齢は考えたくない女神様。

 神秘なもんだ。


 オレ達は教会で新たな仲間、オリビアを仲間にした。

 テレッテレー♪的な音楽は鳴らない。

 そりゃそうだ。漫画やゲームでは無いのだから。


 オリビアが『眷属』とやらとして、オレに付いて来る事となったのは、喜ばしい事だたのだが、


「むぅ…」

「変態…」

「あたしだって小さいのに」

「先生、そういう趣味だったんだ」

「よりにもよって幼女かよ」

「リア充爆発しろっ」

「だから先生枯れてたんだね」

「そりゃ、ウチのクラスの女の子じゃときめかないよネ」

「…可愛いもんだ」

「可愛い…」

「(負けませんっ!)」


 生徒達の第一声は、またしてもオレの威厳をガリガリと削って行くものだった。

 どうやらロリコン疑惑は拭えないようだ。


 女子組みからは冷たい視線と同時に、頬を膨らませて唸られた。

 男子からは何故か納得と、やっかみ。

 浅沼の叫びは意味が分からん。

 達観しているのは永曽根と常盤兄弟か?

 ってか、河南の台詞はどうなんだ。

 徳川がぼけっとしているが、あれは確実に惚れたな。

 そして、間宮は張り合うな。


 

『女神様が付いていきたいとのお達しですので、私から何も言う事はございません。

 しかし、決して蔑ろに扱ってはなりませんよ。間違っても邪まな思いも、』

『起こさねぇよ。癒しとしか見てねぇよ』

『決して間違いを起こさないでくださいね!

 いくら石板の預言の騎士様でも、』

『起こさねぇっつってんだろ。しつこいなテメェも』

『ぎゃあ!』


 そろそろ鬱陶しくなって来たので、イーサンには目潰しを敢行しておいた。

 血が出ない程度には抑えたんだから安心しろ。

 なんか情けない悲鳴を上げて、床をのた打ち回っているけどな。


 過保護なもんだ。


『改めてよろしくお願いいたします、ギンジ様』

『よろしく』

『契約をさせていただきましたので、これからはいつも一緒です。

 やっとギンジ様とお話できるようになって、とっても嬉しいです』


 さいですか。

 別に、あんなオイタを敢行する女神様とお話したいとは思っていなかったんだが。


『はぅう…』


 内心を読まれてしまったのか、オリビアには若干しょんぼりされてしまった。


 ちなみにではあるが、


『いつから一緒にいたんだっけ?』

『え、えっと…、ギンジ様方が、この王国に入られてからすぐです。

 『全感』のエミリーが、皆さま方の存在を感知したとの事でしたので、すぐに探しに向かいましたの…』


 オレが、少し疑問だった事は、一体いつから彼女がオレと一緒にいたか、だ。

 少なくとも、謁見の間でオイタを敢行されるまでは、オレは彼女の存在を認知した記憶は無い。


 気になって尋ねてみれば、案の定、ほぼ最初からだった。

 この世界に召喚され、騎士達に連行され、この王国に足を踏み入れた時から、彼女はオレ達と共にいたらしい。

 つまりは、オレ達が牢屋にいた時には既に、オレの頭かどこかにひっついていた訳だ。


 ……エマとのあれやこれやも、見られていたんだろうな…。


 エマを見れば、彼女はきょとんとした後に、「何だよ?」とチベットスナギツネのような視線をくれた。

 そして、オリビアはやっぱり覗いていたらしく、顔を赤らめていた。

 しかも、またオレの内心を読んだんだろうな。

 それ、緊急事態以外は禁止にしてくれないと、連れて行かないよ?


 だいたい、駆け付けてくれたのは嬉しいが、もうちょっと何かなかったんだろうか?

 今更言っても、もう遅いとは思いつつも、胡乱気な視線を向けてしまう。


『申し訳ありません。

 私も、女神としての力は、ほとんど失ってしまっていましたので、』

『接触も意思表示も出来なかった?』

『はい。本当は、ギンジ様が苦しまれないよう、なんとかしたかったのですが、』

『いや、それは良いけど、』


 やっぱり、イーサンの昔語りは、実際には遜色は無かった。

 オリビアも、女神の一人で、力もほとんど失っていたからこそ、オレ達との接触も儘ならなかった訳だ。


 ただし、ここには非常にしょっぱい理由も含まれていた。


『聖堂の外に出ると、ほとんど実体を保てないのです。

 聖堂の中は、『聖域』なので、なんとか姿も見せられましたし、声も届ける事は出来ますが、それ以外となると、私たちはほとんど力を行使できません』


 なるほど、言葉通りだ。

 だが、そうなると、オレへのオイタの説明が付かないが?


『あ、それは私も不思議だったのですが、ギンジ様と一緒に過ごすうちに、いつの間にか多少の力が取り戻せておりまして、』

『それで、オレを叩いていた、と?』

『はい。…多少なら、接触が出来るようになったので、』


 そこからは、お馴染み地味な静電気攻撃の『オイタ』が続いていた訳だ。

 まったくもって、鬱陶しい上にちまっこい干渉だ。

 しかも、これが本気で静電気ではなく、ただオレの首筋を叩いていただけだという。


 電気が走るハエ叩きか?


『おそらくは、ギンジ様方が、この異世界に馴染んで来たから、と考えておりますの』


 というハエ叩き云々はともかく。


 オレ達に対しては、オリビアにも干渉出来ないのが当たり前だったのが、何故突然干渉出来るようになったか。

 彼女の予想では、オレ達が異世界人である事に関係しているとの事。


『皆様は、こちらの世界の人間とは違って、体内に魔力を溜め込む為の器官が、そもそもありませんでしたの』

『それが、無いと困る?』

『ええ、困りますね。だって、『魔法』が使えませんから、』


 ……あれ?そうなの?

 じゃあ、オレ達は『魔法』が使えない、物理一択なの?


『あ、いえ、そうではありません。

 既に魔力を溜め込む器官は、この異世界に来てから皆様の体に息づいております』

『……どこ?』

『あ、いえ…具体的な場所がある訳ではなく、あくまで想像上のイメージでして、』


 はー…、なんとなくだけど、無理やり納得しておこう。

 これ以上は、オレも頭がパンクしそうだし。


 つまりは、ほら。

 あれだ。


 異世界に来た事で、オレ達もそれ相応の力が使えるようにはなってるって事だ。

 それが、どうやって行使出来るかは、微妙なところだが。


 それはともかく。

 先ほどの話の続きとしては、オレ達がこの世界に来た当初は、異世界の……なんと言うか、そう言った能力的な部分で適応していなかった。

 世界自体に馴染んでいなかったと言うべきだろうか。

 現代社会の人間と、異世界世界の人間との違いのようなものだろう。

 生活感も常識も違うが、それ以前の身体の構造まで違うらしい。


『あ、いえ…その、構造が違うとかでもなく、』

『…だから、内心読むなっての』

『あ、あぅう…』


 勝手に内心を読んでしまうオリビアの事はともかく。

 ……さっきから、ともかくって言ってばっかり。


 時間が経つにつれて、オレ達はこの世界に馴染んできた。

 それが、丁度2日前だか3日前だかで、オリビアが干渉が出来る事に気付いたのは、あの謁見の時だったらしい。

 それで、あの時からしつこいぐらいに『オイタ』連発だった訳だ。


 そこから、オレ達への干渉を続け、今日に至る。

 ついでに言うなら、今回の教会訪問を組み込んだのも、彼女が女神様にお願いして、イーサンの夢枕に立たせたから、だそうだ。

 『聖域』内であれば、ちゃちな静電気攻撃なんかじゃなく、女神としての力を行使して、存在を知らせられると思っていたようだ。

 誤算だったのは、『聖域』内ではオレにも彼女達の姿が目視出来た事。

 まさか、力を行使しなくても見えるとは思ってもいなかった、と。


 うん、オレも女神達の力の行使の舞台裏が見れると思わなかった。


 オリビアが、オレと一緒にいた経緯は、こういうこと。

 ちょっと物申したい気分ではあるが、無理矢理納得するしか無いだろう。

 恨み事を言っても、もう意味は無い。


『そ、その…これからは、精一杯頑張ります!』

『…うん(…まぁ、可愛いから良いけど、)』

『これからよろしくお願いします、ギンジ様!

 契約をさせていただいたからには、これからどんどんお役に立たせていただきますから!!』


 恨み事を言うつもりは、もう無くなったとも言える。

 ……何、この可愛い生物。

 可愛い癒しと従者が増えた、と気楽に考えた方が精神的に良さそうだな。


 あ、そういえば、


『ちなみに、序列…4番目だっけ?

 『契約』の時にも聞いたかもしれないけど、何が出来るんだ?』

『えっ…?あ、はい!良くぞ聞いてくれましたッ』


 聞かれるの待ってたんかい。


 ふわふわとした笑みを浮かべて、オレを見上げる彼女。

 思わず、口元が緩みそうになるが、今はなるべく真面目な顔をしておくべきだ。

 生徒達(特に女子組)の視線が痛い。

 物理的に、背中に刺さりそうになっている。


『オリビア様と言えば、女神様の中でも序列4番目。

 確か、お力は『聖神』でしたな』


 と、ここで補足説明に入ってくれたのは、そろそろ存在を忘れそうになっていたジェイコブ。

 イーサンどこ行った?と思ったら、まだ眼つぶし攻撃の痛みにのたうち回っていた。

 『目が!目がぁあ!!』とやってるけど、実に滑稽な姿である。


 ところで、『聖神』って何?


『はいっ!ただいま、お見せいたしますわ!』


 一応、『聖神』とやらがどんなものなのか、興味本位で聞いてみたら、オリビアは喜色満面の笑みで応対。

 実演して見せてくれるとか、サービス精神旺盛な女神様だ。

 ………やっぱり、このサービス精神のせいで、力が取り戻せていないとか言わないよな?


『これです!』

『………これ?』


 そして、オリビアが見せてくれる。

 額に少々の汗をかきつつ、一生懸命力を行使してくれた。

 その姿は可愛らしいと思うし、『魔法』に関しては興味もあったから、素直に実演は嬉しいと思う。


 ただし、


『凄いです!?凄いですよね!!』


 その手にあるのが、豆電球程度の光の玉でさえなければ。


 彼女の掌の上で、薄ぼんやりと輝く光の玉。

 それも、オレの拳大も無いのでは無いだろうか。

 維持をするにも力を使うのか、『むむむむぅ』と唸っている。

 いや、その唸り声はどうなんだ?


 しかし、再三の和む光景だ。

 幼女が唸って、光の玉を浮かべている。


 ………逆を返せば、それだけだがな。


『…可愛いから良いか』

『む、むぅううぅ…!もっと、感動してくださいませんか、ギンジ様?』

『次は、蛍光灯ぐらいは輝かせてくれ』


 少々がっくりした。

 少しだけ興味があったのだ。

 『聖神』という名前ではなく、この世界に存在しているという魔法という能力に、興味があった。

 だから、聞いたのだ。

 酷い話かもしれないが、正直に言うと落胆しているのは否めない。

 力を失っているというのは、文字通り本当の意味だったようだ。


 まぁ、良いや。


 能力はともかくとして、オリビアが可愛いから。

 うん、無問題。


 ……可愛くなきゃ、すぱっと切り捨ててたかもしれないけど。


「あの程度?」

「…女神って言っても大したことねぇじゃん」

「…あ、あたしも頑張れば、あれくらい…!」


 という、女子組の言葉通り。

 まぁ、現状では魔法が使えない人間がとやかく言うのもどうかとは思うけどな。

 だから大目に見てやってくれ。

 いつか『魔法使い(笑)』になった時に、もし伊野田の言うとおりだったなら見下しても良し。


 いや、女神様相手だから駄目だけど。


 ちなみに、オリビアにも、やはり高くて厚い言葉の壁という問題があったので、生徒達の言葉の半数は分かっていないようで幸いです。


 しかし、


「可愛いよオリビアたん!幼女ハァハァ!」


 さっきから五月蝿い浅沼は、普通に黙れ。

 どっせい!と、生理的嫌悪から、足カックンして大人しくさせておく。

 じゃないと、女神に対して過保護なイーサンが、そろそろ暴発する。

 ……したとしても、鎮圧するけど。


 そういや、こいつと同じで、いつも五月蝿い徳川はどうした?


「オリビアちゃん…可愛い」

「………相手、女神だけど良いのかよ?」


 オレ達のやり取りも眼中に無しだったようだ。

 徳川は、やはりオリビアに一目惚れをしていたらしく、眼が恋する乙女どころかハートマークが散ってる気がする。


 初恋らしいが、可哀想に。

 初恋は、実らないもんだと、誰か教えてやってくれ。


『あ、あの…彼等は、どうしたのです?』

『ウチの生徒が、お前に一目惚れしたらしい』

『あらまぁ、光栄ですわ。

 ですが、ギンジ様の眷属ですので、他の方とはお付き合いする事は出来ませんの』

『いや、オレもお付き合いした覚えはねぇよ…?』


 いつの間に、オレがお前の彼氏になっていたのか。


 そして、やっぱり初恋って実らないんだよなぁ。

 ……可哀想だから、徳川には黙っておこう。


「オリビアは、先生とパートナーになったから、お前とはお付き合い出来ませんとよ。

 お前、先生とライバルだな」

「な、…っ…!なっ…!?」


 と、思ったら、まさかの香神の翻訳がログイン。

 余計な事は通訳せんでよろしいっ。

 黙っていようと思っていたのに、完全に徳川にバレたじゃないか…!


 しかし、香神もヒアリングが上手くなったもんだ。

 一言余計だけど。


 ほれ、見ろ。

 徳川が、オレを睨み殺しそうな目で見ているじゃないか。

 涙目になっているから、怖くも何ともないけど。


「…うう…ッ、恋敵…ッ!!」


 結局、オレは彼の恋敵にされた。

 チッ。

 余計な問題を増やしやがって……。


 と、そこで、ふと背筋に悪寒が走る。

 あ、これ、ヤバい前兆だ。


『(…お、オレもギンジ様と契約を、…!)』


 いつの間にか、腰に縋り付いていた間宮。

 オレを見上げて、唇だけで言葉を発する『読唇術』で会話をしている。


『お前も便乗せんで良い!

 そして、お前はオレの部下じゃなく、生徒だ馬鹿者!』


 一蹴。

 それから、立場を理解させる為に殴っておいた。


 ら、


『ならば私が、ギンジ様と契約いたします!

 どうぞ、このイザベラを馬鹿者と罵ってください!そして、殴ってください!!』

『テメェも便乗すんなぁ!』


 更に便乗した、痴女騎士。

 間違った。

 イザベラ。


 も、もう勘弁して!

 二人とも、自重という二文字を、どこに置いて来たんだ!?

 頼むから、探しに行って?そして、そのまま帰って来ないで?

 特に、イザベラ。


 お前のせいで、オレの精神衛生がこの上なく悪化しているから!!

 そろそろ物理的に禿げそう!!


 結局、今回の教会訪問は、オレに多大な疲労を蓄積するだけの結果となった。

 畜生。

 もう、しばらくは教会なんか来ないからなっ!



***

変態と信者が一杯。

あれ?………どうしてこうなった?


主人公は、ロリコンでは無かった筈ですが、職業転向に伴って性癖も転向したようです。(※嘘です)


誤字脱字乱文等失礼致します。



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