閑話 「職員会議パート3~ついでに、一名追加~」
2015年11月8日初投稿。
投稿強化習慣最終日??
結局、強化習慣と言いつつ、更新出来たのはたった5話。
出来れば、もうちょっと更新しておきたかった。
ただ、まだ時間はある筈なので、今日中にでももう一話ぐらいは投稿したいと思います。
閑話です。
三回目となった職員会議。
タイトルの通り、約一名を御案内、と。
***
Sランク承認クエストも終わった、その翌々日だった。
オレが二日酔いになった翌日とかは言わないで欲しい。
いきなり、国王に呼び出されたゲイルは、十中八九ガンレムクエストの件での褒章とかその他諸々で、手続きなどで時間を食うだろう。
魔法の授業の途中ではあったが、仕方ないので保留。
一応、自習という体を装い、それぞれに魔法の論理だけでも理解させておく。
ちなみに、既に論理も発現方法も分かっているだろう紀乃には、『片手に水の玉と、片手に雷の玉を生成して待機』なんて宿題を言いつけた。
未だに出来ていないところを見ると、同時に発現するのは難しいようだ。
「先生モ一度やっテみたら良いヨ。頭ガこんがらがるカラ」
「……オレ一つしか属性が無いから無理だもん」
文句を言われたけど、開き直った。
そんなオレも、魔法の発現の為に色々試行錯誤しているから文句は聞かない。
むしろ、ほいほい使えて羨ましいから文句を言わせない。
理論も分かっていて魔力があるのに、使えない人間の気持ちを理解したまえ。
という八つ当たり紛いの無駄な応酬はこの際どっかに放り投げておく。
こっちはこっちで、闇属性同士3人でよろしくやってやる。
「これ、何か意味あるの?」
「座禅だけなのか?」
「……気持ちの問題かなぁ?」
というオレ達の会話は、顔を引っ付き合わせながら座禅しながらスタート。
なんつうか、これで出来るようになるなら、ボミット病も何も無いと思うんだが。
それはそれで、置いておいて。
座禅をしているのは、この二人に魔力の流れのようなものを掴んで欲しいから。
オレは、最近ちょっとだけ分かるようになってきた。
なら、体の中の魔力も感じられるのでは?と考えて、実行出来た。
その時に行ったのが、座禅スタイルだったので、そのまま榊原と永曽根に反映した感じ。
安易とか言うな。
これでも、結構な集中力が鍛えられる。
「…全然、分からないけど」
「………オレも、さっぱりだ」
「諦めんのが早いっ」
開始3分で諦めるな、馬鹿者!
その前に、1時間近く微動だにしていないという前提は、忘れた。
漫画みたいに、こうして内なる自分と向き合ったら何か起きないかな?とか考えたのは、別の話。
というか、内緒にしたい。
オレ、そろそろ浅沼、というか浅沼教本に毒されてると思うから。
最近ロリコンでも良いような気がして来ちゃったりとかね…っ!
心底、げっそり。
と、オレがげしょっていたら、校舎に戻って来たゲイル。
心なしから、焦っているように思える。
「す、すまん、ギンジ。少し、出向出来るだろうか?」
ゲイルだけじゃなく、オレにも呼び出しが掛かった。
何か、嫌な予感。
***
嫌な予感は見事に的中した。
今は、その事案をお持ち帰りがてら、落ち込んだ気分を払拭すべくゲイルと並んで酒場へ移動中。
時刻は、既に夕暮れを過ぎた7時半。
ゲイルの褒賞の件云々でも足止めを食らったので、思った以上に国王との話し合いが長引いてしまった。
魔法の授業も、その他諸々も途中になってしまったが、強化トレーニングを言いつけて、と魔法の論理だけ教えておけば、ウチの生徒達は自らで率先して習得しようとするだろう。
最近、生徒達の成長度合いが凄すぎて、オレの立場が無い。
嬉しいやら、悲しいやら。
そんな道中であった。
「あん?テメェ等、こんな飲み屋通りで何してんだ?」
「ジャッキー?」
いつもの酒場への道すがら、冒険者ギルドのギルドマスター、ジャクソン・グレニューことジャッキーに出くわした。
何、この偶然。
「だぁっはっは!!産まれて初めて酒に酔った感想はどうだった?」
「……二日酔いって、死ぬほどキツイのな」
「ぶはっ!!」
「がっはっはっは!」
オレの泥酔事件の時(一昨日になる)の話題で、またしてもオレの機嫌が急降下。
噴出したゲイルにはアッパーを決め、ジャッキーには容赦無く絶対零度の視線を送っておいた。
(※効果はいまいちのようだった)
そのジャッキーとの偶然の遭遇は、これで終わりかと思いきや、
「なるほどねぇ。定例会議。テメェ等、こんな所で会議してんのか?」
「酒も飲み放題。シガレットも吸い放題。つまみも食い放題だ。これ以上無い会議場だとは思うがな?」
彼も酒場に行くとの事で、巻き込まれた形となった。
ジャッキーはどうやら、三度の飯よりも酒が大好きのようで、良くこうして酒場に顔を出してははしごなどをして飲み歩いているそうだ。
オレ達が勝手に定例会議場にしている酒場も、実はそんなジャッキーが常連となっている酒場だったらしい。
偶然って怖い。
そして、今に至る。
「場所を変える意味はあんのかい?アンタには、立派な校舎があるじゃねぇか」
「生徒達に聞かれたくない話もあるからな。ついでに言うなら酒も飲めねぇし、シガレットもぱかぱか吸ってられねぇからな」
「だが、最後の方になると会議が会議じゃなくなるのは、オレの気のせいでは無いだろう?」
「テメェが勝手に泥酔すんだろうが」
「拒否しても飲ませるお前のせいだろう」
「がはははははっ!!泥酔するほど、酒が飲めるなんざ良いことじゃねぇか!!」
と言う訳で、今回の定例会議にはジャッキーが参戦した。
まぁ、今回は聞かれても困る議題は然程無い。
お持ち帰りした議題も、そのうち街で噂ぐらいにはなるだろう。
一昨日のクエストの反省会もしたいからジャッキーにいて貰った方が実はありがたい内容もある。
まぁ、とりあえず乾杯。
オレを挟んで右にゲイル、左にジャッキーでカウンター席を占領した。
華が無ぇ。
出されたのはいつも通り、蒸留酒のロック。
ちなみに『ヴィール』という名前らしいよ、このお酒。
「…さて、まずは最初の議題として、」
「お前の騎士昇格の話だ」
「分かってるよ」
恨みがましくせっつくようにゲイルに言われてしまった。
キメラ討伐の後にも話題にはしていたのに、今まで放置していた内容だったから本格的にゲイルも愚痴っぽくなってしまったらしい。
気持ちは分からんでもないし、今後の白竜国の貿易の件では必要な肩書きかもしれないので仕方ないけど。
「お、なんでぇ?テメェも本格的に騎士になるってのか?」
それに、便乗してきたジャッキー。
酒のペースは、オレよりも速くて、既に一つ目のグラスを空にしていた。
「ああ、名前だけだけどな。いくら『予言の騎士』とは言っても元は教師であって、本懐は教職者だからしばらく騎士になるのは蹴ってたんだ」
「…冒険者ギルドの登録はどうすんだ?」
ネックはそこ。
オレ、折角苦労してクエストをこなして来たのに、下手したら取り消しになりそうなもんだけど。
ちょっと考えなしだったあの時の自分が憎い。
まぁ、クエストの内容は別として、シャルとの出会いが悪いものでは無かったので結果オーライと思いたい。
「肩書きだけで言うなら、継続出来るんだと。…国王に確認取ってきたけど、一応は名ばかりの席を用意して、騎士として活動する事は無いって事らしい。だとすると、兼業にはならないだろう?」
「それを屁理屈って言うんだがなぁ?」
「じゃあ、冒険者ギルドの登録は、取り消しで」
「させるか、馬鹿野郎。オレが同意すれば良いんだろうが。それに、Sランクの冒険者だから、特例として許可が出来る。文句を言う奴には、Sランクになってみろとも言えるしな」
「それで言うと、ジャッキーも騎士になれるけど?」
「馬鹿言え、誰が騎士なんかになるかってんだ!」
まぁ、それは言わずもがな。
ゲイルと同じ騎士の正装姿のジャッキーって、想像してみても全く似合わないし。
これには、ゲイルも同感だったのか、無言で頷いていた。
とはいえ、これでジャッキーからも言質は取った事になる。
元々、国王も冒険者ギルドの登録に関しては寛容だったし、後はジャッキーの許可だけだったんだけど上手い事噛み合った形で良かった。
これで、落としどころが見付からなくて、また350mlの酒瓶を一気飲みとかだったら泣ける。
今なら一発で突っ伏すか、吐き下す自信があるよ。
「にしても、こんな所で話して良い内容か?それもそれで無用心じゃねぇのか?」
「そうだろうか?むしろ、喧騒がある分、密会するよりもマシ。大した話もしてないし、」
「馬鹿野郎。『予言の騎士』様の肩書きが、教師で騎士でSランク冒険者でなんて、ご大層な話じゃねぇか」
オレのどうでも良い話は、ともかく。
無用心過ぎると、ちょっとジャッキーには怒られた。
そう大した話はしてないんだけどね。
彼にノーコメントを貫いた石鹸やらシガレットの話、果ては貿易の話だってこうした酒場で行っている。
そして、この話はそこまで大事にしなくても良い話。
貴族達の突き上げ、というか押しかけが五月蝿くなる事は承知しているが、痛い腹を探られる前にあくまで噂となってしまえば、公然の秘密や暗黙の了解ともなる。
実は、酒場って意外と情報が集まり易いけど、集約し易いの。
人の口に戸は立たないとか言うけど、酒の席だからこその戯言になってしまえばそれっきり。
吹聴して回る馬鹿は、それだけですぐさま裏の人間から目を付けられるし、挙句には消されるのも裏社会の常。
それを知っているからこそ、会議場所を酒場に設定しているのはオレだしね。
「まぁ、問題は身の振り方だな。…下手に身動き出来なくなるのは避けたいけど、」
「分かっているなら、もう少し大人しく出来ないか?」
ゲイルから、グサリと一言。
確かに最近忙しないというのは自覚しているので、ちょっと反省。
「なら、もうちょっと慎重に事を運ぶこった。冒険者ギルドでは、テメェ等の学校の話で持ちきりになってる。Sランク昇格した教師が、AランクBランクのゴロゴロ揃った粒揃いの精鋭を育ててるってな」
更には、ジャッキーからもお小言が漏れた。
ちょっとお小言と言うよりは、牽制のような響きがあるのは気のせいじゃないだろう。
粒揃いの精鋭という生徒達の事は、本当の事だ。
だからこそ、別の意味でも用心しろと言う事だろうか。
嬉しいやら悲しいやら、とやっぱり冒険者ギルドへの登録を早まった気がしないでもない。
ところでお前等、オレを苛めて何がしたい?
「怪我をしないで欲しいのと、せめて大人しくしていて欲しい。護衛が大変なんだ」
「我が侭聞いてやる代わりに、とっととSランクの依頼を処理して欲しいってだけよ」
愚痴と私事と色々混ざり合った本音が聞けた。
よし、分かった。
全面的にオレが悪かったと認めよう。
だから、そろそろ本題に入らせてくれ。
「逸らしたな」
「ああ、逸らしたな」
意外とお前等息ぴったりじゃねぇか。
騎士団長と冒険者ギルドのマスターの癖に。
ああ、もうそのままで良いから話を聞け。
グラスを煽ったゲイルには、グラスの底を更に傾けて咽させておくけどな。
「騎士就任の為の試験、いつになるんだ?」
「がほっ…何をするんだっ…」
「良いから答えろ、今度は耳からにするぞ」
「だから、地味に痛い!」
とりあえず、オレ達のどうでも良い掛け合いは一旦ブレイク。
オレの肩書きの件のせいで話が逸れたけど、そろそろ本格的に騎士に就任しないとならないだろう。
じゃないと、オルフェウスの訪問の時に色々と面倒な事になり兼ねない。
キメラ討伐にも参加してしまったし、その件で大々的にパレードにまでなってしまった。
次のオルフェウスの訪問は、既に1ヶ月を切っている。
オレの屁理屈は、次は通用しないだろう。
貿易の盟約などの条件として出されていたボミット病の治療法の確立についてはクリアしたも同然では有る。
緩和法の魔法具の件もそうだし、薬の事もそう。
ただ、問題はオレが試験に合格するかどうかになる。
だが、まず内容がちょっと問題。
「試験の日付は確か今月の末だったな。詳しい日付は、明日の登城の時に確認してこよう。試験内容は、魔法適正と魔法能力の発現、基礎体力試験、筆記試験は簡単な数式だけだ」
と、いう事。
今は月の中旬だが、試験は月末。
騎士の承認だか昇格試験だかは、半年ごとの1月と7月に行われる。
内容は、毎回同じ。
まずは、個別に魔法の適正を調べる。
以前、属性の適正を調べたのと同じく、今回は個別に行われる。
次に、その魔法を発現させる事が出来るかどうかのテスト。
これは、適正試験を合格した人間が受ける事になり、全員の前で発現をしなくてはならない。
ここがまずネック。
オレ、『闇』属性だし、魔法が使えないからこそ困っているんだけど。
後は、基礎体力を簡単に計るだけ、ついでに数式(足し算引き算程度らしい)の問題全100問を60分以内に解いて70点以上。
基礎体力試験と数式の問題はともかく、魔法の適正や発現が不安だな。
聞いてはいたけど、ちょっと自信が無くなる内容。
「不安か?」
「勿論さ。…魔法使えないしなぁ…せめて、ボミット病がどうにか出来なきゃ、」
ゲイルの問い掛けにぼそりと呟いた、オレの本音。
隣で酒を煽っていたジャッキーが噴出した。
何があったし?
しかも汚いし。
「テメェ、ボミット病なのか?」
「ああ」
そうは見えないって事で、驚いた?
いや、実はボミット病ですけど、今は緩和策が一応あるので問題なく。
「元気だな。…テメェなら、有り得るのか?」
「一応、緩和策もあるし、薬の目処も立っているからな」
進捗情報を触りだけ、話しておく。
ら、ジャッキーの目がこれでもか、と見開かれた。
これは、驚かれている。
その上、何故か呆れられていないだろうか?
そんな中でやっと、ジャッキーが呟いた言葉。
「テメェ、手当たり次第に手を出して何がしてぇんだ?」
ああ、ごもっとも。
「生徒達の為に出来る事を考えたら結局こうなったんだ…」
と言う訳で、オレも辟易としながら応える。
最初はオルフェウスの件。
貿易を盾に取られて身柄が引き渡されそうになった。
だから石鹸を開発して、貿易の正常化に努めた。
次に永曽根とオレが、ボミット病を発症。
オリビアがいてくれたおかげで、なんとか一命は取り留めた。
その間に三ヶ月間はとにかく、シガレットやらなにやらの開発。
生徒達の英語教育。
元は生徒達の生活を安定させたいが為だった。
紆余曲折を経て、ここまで来た。
最終的には、現在オレ達の校舎には技術開発部門と医療開発部門が併設されようとしている。
そういや、今月の末と言えばそろそろローガンが帰って来る。
薬が届き、本格的に研究を開始出来たとすれば、きっとボミット病も治まるが。
若干、タイミングが悪いな。
と、思ったら、
「お前、そこまでして生徒達の事を…っ!」
「…聞くも涙、語るも涙だろう…っ」
オレが考え事をしている間に、何故か背後からダミ声涙声が響く。
「あ?」
見れば、オレを挟んだゲイルとジャッキーが何を語り合ったのか、号泣していた。
しかも、二人揃って。
いや、ゲイルの台詞を聞く限り、おそらくはコイツが犯人なんだろうけど…。
もしかして、色々喋った?
というか、喋ったよな。
ジャッキーが「生徒達のために、云々」とか言っていたし。
ああ、納得。
ついでに、嫌な予感。
「…ぐすっ!テメェも苦労してやがったんだなぁ!!飲め、飲め!今日は、オレ様がおごってやらぁ!!」
「い、いや…別に泥酔したいとか考えてないけど、」
豪快なダミ声が酒場に響く。
何を感動したのか、ジャッキーががなり立てるように泣きながら酒瓶を振り回す。
いや、もうどうしろと?
こういう所は師匠とは全く正反対なのは、なんで?
雰囲気だけで言うなら、本気でオレは逆らえないだろうに。
そして、結局ただの飲み会に雪崩れ込んだ。
それこそ、ガンガン行こうぜ!的な感じで、飲みまくっていた。
ジャッキーはうわばみだった。
それこそ、あの蒸留酒の酒を瓶ごと数本も空けるぐらいには。
そのうち、ゲイルは轟沈。
半死半生で今はカウンターに突っ伏しているんだが、最終的に運ぶのって結局オレなんだろうな。
オレは、微妙に酔ってたぐらい(?)だったけど、これでは定例会議も何もあったもんじゃない。
どうにかしてくれ。
***
「そういやよ、そろそろ上を『天竜宮』が通過するってよ」
「何それ?」
さて、そんな乱入した一名のおかげでぐだぐだになった定例会。
宴も酣。
盛り上がっているというか、後は全員が酒に負けて生きるか死ぬかって所だから既に盛り下がってるけど。
ゲイルは本格的に夢の世界に旅立ったらしい。
オレも旅立ちたいけど、酒場で寝るのは色々な意味で怖いからしたくない。
今は、オレとジャッキーだけで、一対一で飲んでいる最中だった。
ほぼ惰性で飲んでいるような状態だけど。
オレも若干、頭がふわふわして来ている。
ただし、ジャッキーもそれは同じなのか、酒を飲みつつ上機嫌に鼻歌を歌っている始末だ。
ちなみに、酒場の店員(今日はいつものバーテンじゃなかったけど)が真っ青な顔をしてオレを見ていた。
ジャッキーじゃなくてオレを見ているのは、おそらくジャッキーが常連だからこそ飲む適量を知っているだけで、オレがここまで飲めるとは見た目では分からなかったんだろう。
ただ、そろそろ腹がパンパン。
そして、その上でジャッキーの冒頭の会話に戻る。
「なんだ、テメェ?知らなかったのか?天竜宮って言ったら、天龍族の居城だよ」
「へぇ…天龍族」
あれか?天空のなんとやらみたいな感じ?
というか、天龍族が住んでる城が空を飛んで、この国の上空を通過するからと言って何かあるのだろうか?
むしろ、危険じゃないの?
「いや、天龍族は昔から色んな種族と仲良くやってるから、何も危険な事なんてねぇだろうよ。…まぁ、おそらくは人間も例外じゃねぇ。ただし、一部では蛇蝎の如く嫌われているがな」
「…一部?」
「亜人領、というべきかね。…ここから北の最果ての谷に住み着いている亜人達なんかは、天龍族に『人魔戦争』の時の恨みつらみがまだ残っているらしい。……天竜宮に住み込んで移動してんのも、そういう亜人達の生活圏から侵攻を受けない為なんだと、もっぱらの噂だ」
「……そういうもんなのか」
また異世界の常識を知った気がする。
オレ達にとっては非常識でも、この世界の人間が常識だと言えばそれでおしまい。
「…その天竜宮?が、通過したら何があるんだ?」
「さぁ?オレ等一般市民には、特になんの恩恵も無ぇ筈だ。だが、話題性がある話ってだけよ」
え?それだけ?
ちょっと、何かあるのかと思って、少し期待しちゃったのに。
あ、でもちょっと待って。
天龍族って聞き覚えがあると思ったら、
「天龍族って魔族なんだよな。もしかして、特殊能力とかある?」
「ああ、そういう所は目敏く知ってんだな」
「目敏くは余計だ」
ジャッキーのどうでも良い一言はともかく、思い出したのはローガンとの会話だ。
彼女も話していた天龍族の、特殊能力について。
「…『魔法無力化付加魔法』」
「ああ、確かにそういう名前の特殊な能力、というか産まれ付きの体質みてぇなもんだな。それがどうかしたか?」
「それって、故意に掛ける事は出来ないんだよな?」
「まぁ、龍族と上位の魔族の十八番みてぇになってるが、掛けられねぇ事も無ぇ筈だ。ただ、特殊な術式と膨大な魔力が必要ってだけだ」
おっと、これはローガンからも聞いてない内容だ。
メモ取っておかないと。
酒飲んでるから、その勢いのままに忘れても困る。
「それが、どうした?」
「今回、依頼で討伐したゴーレムにその『魔法無力化付加魔法』が掛かってたんだよ」
「ほぉ…そりゃ、面白ぇ。それで?」
「以前にも同じような固体に遭遇した事があったんだが、そう言った魔物が自然発生することは有り得るのか?」
ついでに、芋づる式に思い出した内容は、二つ。
キメラ討伐の時に一つ目の固体には、今回同様『魔法無力化付加魔法』が掛けられていた。
二体目は、反転して『物理無力化付加魔法』だった。
ゲイルとも話した内容であるが、奴等は自然発生したとしたら厄介。
十中八九、作られた固体だと考えた方が無難ではあるが、こうも立て続けに遭遇するなら対抗策は持っておきたい。
それを踏まえ、今回はジャッキーに検証して貰いたい。
ただ、キメラ討伐の件は王国でも一握りの人間しか知らない極秘事項。
どこまで話して良いのか分からない。
まぁ、良いや。
他言無用って事で。
「自然発生は、それこそ有り得ねぇな」
「普通の魔物が能力に目覚めることは?」
「無ぇな」
「じゃあ、元々種族が持ってる特性?」
「そういうことだ」
「なら、キメラはなんでそんな能力を持っていた?」
「魔水晶があったなら、十中八九魔族だろうな。どういう経緯があったにせよ、キメラは元は魔族で魔法無力化は天龍族か吸血鬼か何かだろう。物理無力化は知っている限りじゃ、蛇人族か、それこそ粘液魔族ぐらいじゃねぇか」
嫌な響きが、立て続けに並んだんだが。
何、その蛇人族とか粘液魔族とか。
ファンタジー世界にどっぷり嵌り込んでいるとはいえ、そんな種族には絶対に遭遇したくないんだが。
蛇は勿論オレが大嫌いな動物(?)ナンバー1だし、ネバネバドロドロしたものは遠慮したい。
粘液魔族とか、浅沼教本で色々とNGワードと規制音が鳴りまくっているような特殊な魔物だか魔族だったかだった筈。
(アサシン・ティーチャーはこうして、いらん知識も増えていく)
「ただ、気になるのはそのキメラとやら、理性が無かったんだろう?」
「ああ、うん。なんというか、本能のままに動いている感じだった」
嗜虐性はともかく、奴等は割と学習機能は無かった気がする。
食事風景もそれこそ、獣のようだった。
「天龍族も吸血鬼も、かなりプライドが高いらしい。そんな連中が簡単に、理性を飛ばして化け物になるとは思えねぇんだが?」
「そ、それも、そうかもしれないが、……これ言っても良いのかな?とりあえず、他言無用だけど、奴等別の魔物が合成されていたみたいなんだ」
「……それで?」
キメラって話している時点で、色々察しているのかもしれないけど、一応念の為に話しておく。
今回のゴーレムのように、いくら作られたとはいえ一種類だけの固体では無かった。
合成されていた魔物の種類は、裕に3種類はあったように思える。
蛭のような口周りはワームや植物系魔物だと思われる。(ほら、パッ○ンフラワーみたいな)
それから、食事をした後には、その固体の一部を吸収していたのも確認している。
一体目は人間や、おそらく赤眼の少女が制作したであろう肉人形。
二体目は人間も然る事ながら、魔物の四足も混じっていた気がする。
それから、血液や体液について。
あのキメラ達は総じて、血液や体液に何か酸性の劇物が含まれていたらしい。
オレは一体目討伐の時にキメラの体が崩れ落ちた時に、その体液に巻き込まれた脚に熱傷を負っていたらしいし、二体目の時も同様に討伐されてから体が溶け出した時には、河原の石や苔、植物などを巻き添えにしていた。
「身体を溶けさせる毒を持った魔物は結構いるぞ?ワームだってそうだし、パッ○ンフラワー?とやらは分からんが、歩く植物で言うならアシッドフラワーやらアシッドトレントやら、」
少なくとも、そういう魔物もいるらしい。
三つ以上が掛け合わされているのは事実だろうが、特定するのは難しそうだな。
「…それに、さっきも言ったが、天龍族も吸血鬼も、ましてや蛇人族だって、逸れ相応に高位な魔族で、そう簡単に遭遇するとは思えねぇし捕獲されるなんて話も聞かねぇな」
「やっぱり、有り得ねぇか?」
「ああ、まず有り得ねぇ」
これ、思った以上に難しい問題だったのかもしれない。
ジャッキーの言葉を鵜呑みにするなら、今回のキメラを合成した奴の狙いは何にしろ天龍族やら吸血鬼やら蛇人族やらを、それこそ簡単に捕獲できるような相手だという事が判明してしまった。
勘弁してよ、本当。
キメラ討伐だって色々ギリギリだったのに、それ以上の化け物を相手にするかもしれないって?
オレはそれまで、どれだけの力を蓄えておかないといけないのか。
頭が痛くなってきた。
酒も相俟って、ちょっとだけグロッキー状態だ。
しかし、まだジャッキーからの即席種族講座は続く。
「ただ、これは一つだけ言っておくが、天龍族と蛇人族は、犬猿の仲だと思っておいた方が良いぜ?」
「………さっきの、亜人領と仲が良くないって話か?」
「ああ。昔っから蛇人族は天龍族のなりそこないなんて事を囁かれて来たらしいからな。逆恨みでもしてんだろう。天龍族も天龍族で、種族問わず門戸を開いて優秀な人材を集めたりするらしいが、今まで一度も蛇人族を召抱えた事も無ぇらしい」
「ああ、そういう柵もありなんだ」
確かに、龍と蛇は同一視されていたりするし、アジア圏の龍と言えば蛇が巨大化させて神格化した象徴のようなものだしな。
一応は、頭の片隅にでも置いておこう。
龍と蛇の種族は、仲が悪い。
蛇嫌いのオレからしてみれば、どっちもどっちなんだけどな。
「ああ、そういやこれは、別情報だけどな」
「うん?」
種族講座は終わりかと思っていたのに、まだ続くらしい。
最後にしようと煽ったグラスごと向き直ると、
「天龍族が人間領の上空を飛ぶのは、嫁さん探しだってもっぱらの噂だ」
「ぶ…ッ、ぐ、ゲホッ…なにそれ!」
危ない危ない。
危うく、酒を噴出すところだった。
口端から漏れそうになった酒をお絞りで拭っていると、隣でにんまりと笑ったジャッキーがいた。
ああ、嫌な予感。
「テメェ、見た目だけは良いから気を付けろよ?」
「………男なのに、」
「はぁっはっはっは!!」
ぐすんぐすん。
酒に咽たせいで生理的にも、心情的にも涙目だ。
オレだって、好き好んでこんな顔に産まれた訳じゃねぇのに。
出来れば、オレだってジャッキーみたいな偉丈夫になりたかったし。
百歩譲っても、ゲイル辺りの西洋風イケメンになってみたかったもんだ。
………高望みでも、無い筈。
心底げっそりした。
さて、結局オレがげしょってしただけで終わったが、そろそろお開きにしましょうか。
定例会議の筈が、ただの飲み会になってしまったばかりか、最終的にもう一人の職員が全く使い物にならないという異例の事態になってるけど。
ジャッキーもオレの様子に気付いたらしい。
そういや、奢りだって言ってくれてたし、この事態の収拾の為にも甘えちゃおうか。
だが、しかし。
ジャッキーはにんまりしたまま、
「さっきの情報は別途料金な」
「金を取るのかよ」
「おうよ、当たり前だ。…世の中、情報ってのは高いんだ」
なるほど、ねぇ。
検証と講座を並行して行っていたから、それも情報料。
オレも裏社会は長いから、情報がただで手に入るなんて思ってはいない。
ただ、それだけで理解も納得も出来るかと言えば、そうじゃない。
「すっきり白状してみろよ」
「金が足りねぇ。だぁっはっはっは!」
「そんな事だろうと思った」
心底げっそり。
またしても酒場に響く大音量で大爆笑しているコイツ、財布の中身がかなり寂しかったらしい。
それなら、そうと先に言えよ馬鹿野郎。
情報料とかけち臭い話なんかしなくても良いから。
「悪ぃな、ギンジよぅ」
「次は、もう少し考えてから奢りにするように」
良いよ、もう。
最近はオレがゲイルをぶっ潰して、コイツの分も払ったりしてたから慣れてはいるし、それに有意義な種族間のお話も少しは聞けたから、それでチャラにしといてやろう。
その代わり、今日はお前がゲイルを運ぶように。
今回ばかりは、ぶっ潰したのはオレじゃなくてジャッキーなんだから。
こうして、緊急職員会議は終了した。
結局ゲイルとは一個しか議題を話し合えてないんだけど、これどうしたら良い?
まぁ、どうせまた3日もせずに飲みに来るんだろうから、その時で良いだろうけど。
明日からは、遂に魔法授業を本格的に基礎から応用に引き上げたいと思います。
オレ達もせめて魔法を発現出来るようにはなりたいなぁ。
***
書いてて楽しい、ジャッキーさん。
モデルにした俳優さんもそうですが、個人的にこうした大柄で気さくなダンディなおっさんを書くのが割と好き。
そんな作者は筋肉フェチですが、実はオジ専でもあります。
種族間の話は、もう少しだけ細かく書いていきたいと思っていますが、今回はこれまで。
結局ジャッキー情報オンリーとなったのは、御愛嬌です。
後、以前感想にて質問を受け付けました、種族間の問題に関してですが、基本的には、
上位魔族~吸血鬼、天龍族、不死身族などなど。
中位魔族~森小神族、炭鉱族、女蛮勇族などなど。
下位魔族~獣人、亜人、その他蛇人族やら牛頭族、人魚などなど。
という、括りが一応存在します。
また、機会がありましたら、本編で触れていきますよ~。
誤字脱字乱文等失礼致します。




