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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、特別クエスト編
52/179

43時間目 「特別依頼~クエスト達成と種明かし~」

2015年11月6日初投稿。


結局、遅くなりましたが、本日分を投稿致します。

投稿強化習慣6日目です。


しばらくは、先週から録画しておいたる○うに剣心実写版映画3本立てを見ながら作成してました。

ながら投稿はやはり、捗る訳がありませんね。


43話目です。

***



 我ながら、ハードな一日だった。

 『迷路メイズ』の掛かった森の入り口に、やっと辿り着いた頃には、既に日もどっぷり沈んでしまっていた。


 森の中でゲイル達と合流してからは、交渉も何も無い。

 自己紹介をしながら、転移を繰り返しながら森の入り口まで移動。


 フードをかぶって、小さな子ども然りとしたシャル。

 生徒達には勿論、ゲイルにも彼女が森小神族エルフである事は話さなかった。

 元々、それが条件だったのもあるからね。


 ただ、ゲイルだけはなんとなく気付いていたっぽい。

 コイツもなんだかんだで、明察眼も勘も鋭いし、魔族の特徴を雰囲気で見定めると言う方法をオレに教えたのもコイツだったから。


 表立っては言わないと決めたのだろうけど、後々の追求が大変な気がする。


 結局、シャルにはなし崩し的にゲイル達も踏まえた7人を森の入り口まで案内して貰ったよ。

 ありがたいやら申し訳無いやら。


 今度、改めてお礼をするから、シガレットなり石鹸なり遠慮なく吹っかけてくれて良いよ。


 それと、話は少しだけ逸れるが、シャルにとって、オレが教師であることがこれまた半身半疑だったらしく、香神達が合流した時も「本物の教師だったのね」と言われてしまった。

 榊原だけじゃ信じてくれなかったらしい。

 勿論、香神達も補足説明と証明をしてくれたから、シャルの疑念は解消されたみたいだけど。

 げっそり。


 オレは、そろそろ教師の肩書きたる所以として、格好や立ち位置を明確にした方が良いかもしれない。

 スーツは仕方ないとして、眼鏡でも掛けとく?

 「インテリマジック」とか「鬼畜眼鏡」って誰かに言われた気がして、それ以来眼鏡は掛けた事がないんだけど。


 まぁ、何はともあれ、


「母さんと相談してからになるけど、10日後にまた会いましょう?」

「ああ、よろしく。次は、もっと良いシガレットも準備しておくよ」

「フフッ。報酬がシガレットなんて、一回きりで十分よ」

「じゃあ、石鹸で。ハーバル入りの良い奴、用意しておいてあげる」

「……アンタ、本当に教師?良い所のお坊ちゃんじゃなくて?」

「………これが、良くないのかな?」


 やっぱり、こういう所が教師としてじゃなくて、元暗殺者としてのサガに引き摺られちゃってるのかな?

 貸し借りは基本的に作らないのが鉄則だし、依頼は勿論頼み事頼まれ事だって報酬とかお礼は現金払いとかだからね。

 同僚兼友人の時は、何故かドルで返されたけど…。

 金額の計算が面倒くさかった。


 生徒達からは、またしても「ブルジョワ…」と言われてしまった。

 間宮も心なしか呆れているようだった。


 本物のブルジョワ貴族の坊ちゃんは、オレのすぐ隣でまだ男泣きしているゲイルだ。

 間違えないように。


 そんな他愛の無い話と握手を交わし、10日後に会う約束を取り付けた。


 まぁ、シャルの母親がどこまで寛容で、理知的なのかは分からない。


 なにせ、転移型空間干渉魔法を弄くって、転移のループを打ち切ったりなんだりして、彼女までも排除しようとした母親だ。

 シャルがいると分かっていたのかいなかったのか、そこのところは不明だが、こっちも色々覚悟はしておいた方が良いかもしれない。


「…それと、一応…遅くなったけど、ありがとう。ゴーレムの依頼、終わらせてくれて」

「こっちも色々助けて貰ったから、お互い様だ」


 確かに今更かもしれない。

 けど、こっちも助けてもらったから、お互い様。


 そう言ったら、シャルは可愛いらしくはにかんだ。

 ああ、癒される。


「…うん、でも、改めてお礼は言わせてもらうわ。これでやっと、安心して森を動き回れるもの」

「……魔物は、危険の範疇じゃないんだね」


 ちょっと、恐ろしく感じてしまった。

 見た目10歳だけど中身58歳で、なおかつ食料調達は狩猟が基本の魔法攻撃が得意な森小神族エルフだもんね。

 それも、さもありなん。

 異世界って、本当になんでもありなんだ。


 って、言ったら問答無用で、脛を蹴り上げられた。

 ひしゃげた装甲とはいえブーツのおかげで痛みはそこまで無かったけど。


 そして、その森の入り口でシャルとは別れた。

 去り際に、若干シャルが涙声になっていたのは、可愛いものだ。


 色々、ありがとうね。

 また、10日後にお会いしましょう。


 森小神族エルフである彼女との出会いは、なんだかんだで実りのあるものだった。



***



 夜の帳も訪れた頃。

 森の入り口手前でシャルと分かれたオレ達は、冒険者パーティーと騎士団の待つ駐屯地に合流した。


 途中で逸れたオレ達の帰還に、騎士団の護衛達どころかレト達も歓声を上げて迎えてくれた。

 イーリには泣き付かれたし、ディルには男泣きされたぐらいだ。


 おかげさまで、五体満足で帰って来れました。

 ロープが切れた件に関しては、誰も悪くないとして追求はしない方向で。


 最初からそこまで険悪ではなかったので掌返しでは無いにしろ、ちょっと驚いたのは内緒にしておこう。 ただ、いつの間にか、ライアンとイーリは騎士団とも気安くなっていたけど、オレ達のいない間に何かあった?


 ともあれ、ガンレムことゴーレムの討伐依頼は終了。


 被害はオレと榊原の労力と、泥塗れになったコートや衣服。

 ついでに、ほとんど原型を留めていないブーツだけだろうか。


 何があったのか?と聞くのも謀られる程に泥塗れのオレ達を見てか、レト達も騎士団も一も二も無く休めと勧めてくれた。

 これまた、ありがたいやら申し訳無いやら。


 駐屯地には、昨日野営をした時同様に、既に簡易テントが張られていて、オレも榊原も雪崩れ込むようにして寝袋に突っ伏した。

 ハード過ぎた一日のおかげで、体は確かに睡眠を欲しがっていたらしい。

 寝付きが良いとは言えないオレも、気付いたら朝方まで泥のように眠っていた。


 本当に、今回は泥押しだったのね。

 ガンレムも元は土だし、オレ達は泥塗れだったし…。


 その後の追求が、色々と激しかったけどな。


 見張り兼火の番で焚き火を囲む、オレ達。

 ゲイルとレトとディル、そしてオレ。

 他にも駐屯地の哨戒をしている騎士達もいるが、朝方のこの暗がりの中にはオレ達4人しかいなかった。


「…本当に討伐してしまったのだな」

「まさか、手榴弾だけで討伐できると思ってなかったんだ」

「…うげぇ…アンタ、本気で人間なんすか?」

「…可笑しい。色々、と」


 文明の利器万歳と大声で叫びたくなるが、それもそれでオーバーテクノロジー。

 大きな声では言えない。


 ゲイルは回収してきた魔法陣を弄くっている。

 見張りの朝番ローテーションとして起きていた彼と、朝方まで眠っていたオレが合流。

 同じく見張りで起きていたレトとディルには、涙目で人間を疑われた。(ディルはフルフェイスの兜のせいで分からないけど、多分きっと呆れている)


 そして、とりあえずの詳細を話しておく。


 『迷路メイズ』の魔法が、オレのせいで誤作動|(?)を起こして入り口に戻れなかった事とか、ガンレムと遭遇したのはたまたま偶然だったとか、後はその他諸々ガンレムを倒した時の状況を話しておいた。


 榊原やシャルに説教された、純然たる自殺未遂に関しては引っこ抜いた。

 だって、コイツに知られたら、榊原やシャルなんかよりももっと怖い何かが起こりそうだから。


「…何か、余計な事を考えていないか?」

「だから、エスパーなの、お前等?」


 べ、べべべ別に、後ろめたい事なんて無いけど?


 なんで、この異世界の人間は、総じて内心を読む事に長けているんだ。

 主にオリビアとかオリビアとかオリビアとか、あとついでにゲイルとかマシューとか。


「後、一応だけど、シャルは依頼人の関係者らしい。詳しくは聞いてない」


 話を逸らして、次の話題へ。


 まぁ、詳しく聞いてないなんてのも、嘘だけど。

 だって、100年以上前の依頼を出した張本人がシャルの母親だって言ったら、長命すぎる事を勘繰られて彼女達が森小神族エルフだと芋づる式にバレる。


 それは、シャルからの条件に違反するから、オレの口からは言えない。

 勘繰られたら、そこまでだけど。


「…ふむ。それで、あそこまで協力的だった訳か」

「とはいえ、可笑しくないっすか?この森に人間が住んでるなんて、聞いた事ないっすよ?」


 まぁ、こっちの方向では、追求されるだろうけど。

 一応、何故森に住んでいるのかという方向への言い訳は、シャルがちゃんと考えてくれている。

 用意周到なことで。


 ただ、レトもなんか雰囲気が変わっている気がするのは、気のせいだろうか?

 本当に、何があった?


「元々シャルの一家は木こりだったらしいよ。それでこの森の『迷路メイズ』の魔法に巻き込まれたみたいなんだ。まぁ、『迷路メイズ』は、ある程度の魔力に適正があってコツさえ掴めれば、意外と踏破は簡単だったらしい」


 あくまで、彼女達は一般人。

 そして、『迷路メイズ』は自然発生って事にして、巻き込まれた風体を装っている。

 転居出来ないのも、やはり『迷路メイズ』のせいで、引越ししている最中に迷っても困るから。

 それに、彼女達は食料はともかく、消耗品を調達する為に街に良く行くらしい。

 だから、辻褄も合うし、実際疑うべき点は無い。


 客観的に見ると、不便そうだし可哀想としか思えないけど。


 それ以上は、オレも詳しく聞いてないと言えば、シラを切れる。


「実際、森の中にいても、ゲイルのカンスト魔力が分かったからな」

「…ああ、そういえば。森の中で、魔力の塊が移動している気がしたのは、やはりお前か…というか、お前だって同じ(カンストの)癖に、」

「黙れ、筋肉。……と、まぁ、そう言うこと」


 オレ達の無意味な舌戦はともかく。

 これで、追求の矛先は回避出来た筈。


 多分、というか十中八九気付いているゲイルは別にして、レト達も納得はしたらしい。

 ……やっぱり、レトの雰囲気が変わってるのは間違いないよな。

 なんだろう。

 まるで、顔がそっくりの別人と話している気分になってきた。


 思考を休める為に、一度視線を彼女から外す。


 今、ガンレムの魔法陣はディルが弄っている。

 まるで、食い入るようにして、魔法陣を見ていた。


 そんなディルを眺めていると、ディルもその視線に気付いて顔を上げる。

 心無しか、気分が高揚しているようだ。(何度も言うようだが、兜のせいで表情は分からない)


「ゴーレム、どんなの、だった?」

「う、んと…土の塊をした、人形みたいな感じ。スケールが人間の数倍はあったかな?目算で体長が4メートル近くあったし、」

「…どうやって、戦った?」


 あれ?

 ちょっと、ディルが興味津々。

 言葉の端々が途切れつつも、口数の少なかったディルが珍しく会話をしている。


 兜の奥で目が若干、きらりと光った気がする。

 もしかしなくても、バトルジャンキーの類だったのか?


「とりあえず、回避に専念。常に奴を引きつけつつ、反転してまた逃げるなんて事の繰り返し。おかげで、脚がパンパンだ」


 シャルが掛けてくれた『風の付加魔法』も既に、効果は切れている。

 その反動かなんなのかは不明ながら、脚が若干張っているというか腫れぼったい。


 あれ?もしかして、これ折れてた?

 脚を気にしていると、ディルもその視線を辿って、拉げて凹んで、剝がれてと散々な有様のブーツに辿りついた。


「…この装甲、剝がれてる、のは?」

「何回か攻撃したり、ニアミスで掠ったりしたから」

「硬かった?」

「うん、凄く」


 ガチで超合金じゃないかと勘違いするぐらいには硬かった。

 まぁ、超合金なんて言っても、こっちの異世界には無いだろうから言わないけど。


「逃げながら、攻撃まで仕掛けてたンすね。恐ろしいというか、なんというか……」

「ノーダメージで意味は無かった」


 むしろ、オレの脚が大ダメージだったからね。

 いくら、榊原やシャルを巻き込まない為とはいえ、逃げ回ることに専念していた方がまだマシだったのかもしれない。

 げっそり。


 戦闘の詳細については、先ほど話したから端折った。


 さっきから、滅茶苦茶視線を感じると思ったら、ディルからのだったんだな。

 納得した。


 しかし、


「凄い、お前。親父、認めた、意味、分かった」


 …………うん?


「…そうっすねぇ。最初はこんな優男の女みたいな顔したお兄さんが、突然Sランクなんて信じられなかったっすけど、今なら信じるっすよ」

「親父と、同等。オレも、吃驚」


 誰が女みたいな顔だ。

 自他共に認めてるけど…ッ。


 というか、レトの今更な爆弾発言はどうでも良い。


 問題はディルの言葉のほうだ。

 お前、今なんて言った?


「……ディル、お前の親父って?」

「ジャッキー」


 あれ、可笑しいな?

 今、完璧にジャッキーって聞こえたけど。


 オレの耳は、もしかしてガンレムからの騒音被害で馬鹿になってる?


 隣を向けばゲイルも固まっていた。

 そして、三秒ぐらい彼とオレで顔を見合わせる。


 そして、視線は再度、レトとディルへと戻る。

 おい、嘘だろ?


「お、お前等、兄妹…ッ!?」


 驚いた。

 いや、これは割と純粋に。


 ディルがジャッキーを親父と呼んだ。

 そして、隣に座っているレトも、同じくジャッキーの娘だ。


 つまり、2人は兄妹という事で、


「正確には、ウチが姉っすけどね」

「しかも、お前が姉かよッ!?」


 しかも、逆だった。

 姉弟だった訳だ。


 ってか、それもそれで、本気で驚くんだけど。

 だって、体格が違い過ぎる。


「オレ、獣人の子ども、オス。だから、成長、早い」

「ウチは、同じく獣人の子どもで女だから、身体が一回り以上小さいっす。ただ、力とか寿命とかは変わらないっすけどね」


 ああ、そういう種族柄の成長度合いとかもあるんだ。

 恐るべし、非常識な世界(ファンタジーワールド)


 獣人は、どうやら男と女で体格や能力に個体差があるらしい。

 それなら、ジャッキーやディルの巨体は利に適っているから納得も出来るし、可哀想とは思いつつもレトが可愛らしい見た目をしているのも頷ける。

 似てない姉弟だとは思うが、それもそれでありなのかもな。


 ふと、ここで顎を撫でつつ黙り込んでいたゲイルが顔を上げる。


「まさか、これもジャッキーの試験だったのか?」

「………うん?」


 ええっと、ゲイルさん?

 試験って一体、何の事?


「そう言う事っす」

「正解。ゲイル、凄い」


 いや、待ってー?

 お願いだから待ってー?

 オレだけ、ちょっと置いてけぼりになってるから。


 何、試験って?

 Sランク承認の為の依頼だとは聞いているけど、その中で他にもまだ何か試験があったのか?


 だとしたら、約半数の割合で落第しかしてない気がするんだけど。


 オレが、少し泡食っていたのか、青い顔でもしていたのだろう。

 レトとディルが堪えもしないで、けらけらと笑っていた。


 隣でゲイルも苦笑を零す。


 まだ、オレ置いてけぼりなんだけど。


「まずは、試験合格おめでとうっす」

「うえ?ご、合格?」


 いや、そもそもその試験の内容が分からないのに、合格と言われても。

 素直に喜んで良いものか迷う。


「試験内容は簡単っす。ウチら獣人に対して、アンタがどういう反応をするのか試しただけっすから」


 からからと笑っていたレトが、種明かし。


 曰く、獣人然りのレトと人間然りとしたディルを、冒険者パーティーとして一緒に参加させて、オレ達がどういった反応(この場合は、差別や偏見だろうな)を示すかどうか、テストしていたらしい。


 あ、なんだ。

 そんな簡単なことだったの?


 でも、


「…なんで、そんな事を?」

「そりゃ、ダドルアード王国は人間の国っすから。いくら親父が冒険者ギルドのマスターだからと言って、獣人が大手を振って歩ける場所じゃないのが現状っす」

「……そういうものか?」

「そういうものっす。…でも、アンタ達は生徒達も含めて、差別はしなかった。むしろ、そういう種族違いの偏見とか嫌悪とか全く感じてなかったように思えるっす。だから、合格っすよ」


 あー、なるほど。

 やっと、全部理解出来たかもしれない。


 疑問が解消されて、やっと一息。

 ブレイクタイムのシガレットで、ちょっと吃驚してしまった気持ちを落ち着かせる。


 煙を吐き出しつつ、思考をちょっと纏めて見る。


 つまりは、あれだ。

 オレが危険人物かどうかを、抜き打ちで確認したテストのようなもの。


「Sランクだからだな」

「そうっす。いくら親父と同じランクとはいえ、アンタは親父より強いかもしれないっす。更には、肩書きが『予言の騎士』。もし、アンタがウチ等獣人の排斥行動に乗り出したら、十中八九ウチ等は狩られて、この国を追い出されるっす。そうなる前に、親父はアンタを見極めたかったみたいっすね」

「それで、合格、と…」


 なるほど、ここでも種族間同士の面倒くさい柵があるみたい。

 非常識な世界だからこその常識なんだろうな。


 これで、もう一つの疑問も解消出来た。

 何が?

 レトの雰囲気が変わったことだよ。


「お前の親父もグルなんだろうが、お前もわざと馬鹿を装って、オレ達に近付いたな?」

「………うん?そうなのか?」


 ああ、こっちはゲイルが気付いてなかったのか。

 怪訝な顔をしている彼を尻目に、レトとディルを交互に見詰めつつ、こっちもこっちで種明かし。


「レトが最初に合流した時、ジャッキーはわざとレトの事を馬鹿娘馬鹿娘と強調して、オレ達に渋々付いて行く体を装わせた。ディルが必要以上に喋らなかったのも、オレ達にレトを馬鹿もしくは下だと認識させようとしたからだ。間違いないな?」


 結果は聞くまでもなく、レトもディルも頷いた。

 今度はゲイルがきょとんとしている。


 やべぇ、これはこれで面白い。


 話は逸れたが、だから、最初の時と今の二人の雰囲気が違う訳だよ。

 最初の時の馬鹿さ加減と言うか、底なしの明るさみたいな奴は全部、演技だったんだから。


 今が素だと考えて良いなら、それこそ正反対。


 レトは馬鹿でも猪突猛進でも無い、思慮深く、頭の回転も早い。

 ディルは元々寡黙なのかもしれないが、こっちも必要以上に喋らないような事も無いだろう。


 まだ、少し分かっていないゲイルに、今度はオレが苦笑を零す番となった。


「要は、この親子3人がグルになって、獣人の子どもであるレトを見下すように仕向けたって事さ。それで安直に見下したり卑下するような奴等なら、どんなに腕が立つ人間だろうが冒険者ギルドでSランクなんて肩書きは付けられないし、そもそも登録はさせられない。生徒達も、それは同様ってことだ」

「ああ、そう言うことか。違和感があった訳だ…」


 理由は分からなくても、レトのギャップに違和感は感じていたらしいな。

 そこまで気付けていただけでも、凄い事だろうけど。


 だって、間宮はともかく、生徒達なんか何も気付いていないだろうしな。


「そこまで気付くとは思わなかったっす。けど、やっぱり先生なんすね。頭が良過ぎるっす」

「凄い、拍手」


 目を丸くして素直に驚いているレトと、魔法陣を膝の上に乗せたディルが拍手。


 何、お前等?

 姉弟揃って、その可愛い感じ。

 ディルのガタイの良さでもそれって、どうなの?


 再三の癒しに、シガレットの煙を吐きつつ溜め息。


 なにはともあれ、色々問題はあったけど、Sランク承認クエストは完了って事で。

 ただ、帰ったら、ジャッキーには少し文句を言ってやらないと。



***



「…おお、確かに、こりゃゴーレムの魔法陣だ」


 そんなこんなで、翌日の午後。

 ダドルアード王国東部に位置する『クォドラ森林』から、濃密過ぎる依頼を終えて帰還したオレ達は、まっすぐに冒険者ギルドに向かった。


 そして、現在Aランククエストの『ゴーレムの回収、もしくは破壊』の承認を行っている。

 証拠は勿論、回収したガンレムの魔石と魔法陣。


 そして、冒頭のジャッキーの台詞だ。


 ジャッキーはそれこそ、目をまん丸にしてぶったまげていた。

 なんか、優越感。


「まさか、本当に三日でクリアするとはな…」

「予期せずゴーレム攻略の第一人者に会えてな」


 そのゴーレム攻略の第一人者ことシャルの事は、種族云々もあるので伏せておく。

 「誰が、攻略の第一人者よ!?」とか怒られそうなもんで、想像が出来てしまった。

 それも、また御愛嬌。


 というか、三日でクリア出来たのは、オレも吃驚だけどね。

 元々五日間の日程で、移動にそれぞれ一日で中三日の遠征を組んでいたのに、二日も短縮になってしまった。

 運が良かったのか、悪かったのか。


「だが、確かに確認した!文句なしだ!」


 そして、ジャッキー直々に押された依頼受領用紙の『達成済み』の文字。

 これにて、正式に討伐依頼は完了だ。


 ついでに、彼等から秘密裏に受けていた試験とやらも、『合格』の太鼓判が押されたことだろう。

 どうやら、言葉が無くともレトとディルの様子を見て、ジャッキーも気付いたらしい。

 さすがはお父さん。


 しかも、ライアンやイーリの様子まで見透かして、ゲイル達騎士団への『合格』も確定しているようだ。

 さすがはギルドマスター。


 見る目が違う人間ってのは、やっぱりこの異世界にもいるものだ。


「Sランク達成、おめでとう。これで、テメェも晴れて冒険者、しかもSランクの特別待遇だ。王国には、こっちから達成証明書を発行しておいてやるから、アンタの手柄も一応はあるぞ。依頼金に関してはこっちに全額払うことになるからな」


 前半はオレに、後半はゲイルに。

 今回の依頼は紆余曲折を経て、騎士団も関わっているからこその配慮だろう。


 これで、一応親子二代に渡った『リベンジ』も達成出来たという事になる。

 おめでとうございます。

 これでゲイルもしばらく安泰だろうね。


「…いや、それは…」


 まぁ、本人がその気があればこそだろうけど。

 手柄を渋っている様子の馬鹿正直者ゲイル


 こっちは護衛やら魔法授業やらで借り受けているので、滅多な事で失脚されても困るから安泰にしておけば良いのに。

 とりあえず、今回はジャッキーに援護射撃。


「後で金を山分けするのと、国からの褒章を貰うのとどっちが良い?」

「……ギンジ、ずるいぞ」

「はぁっはっはっは!!騎士団長も「予言の騎士」様の前だと形無しかい!!」


 と言う訳で、褒章は決まり。

 山分けするよりも、王国からの褒章の方が高いだろうし、それこそお前の地位がオレにも一応は必要だから。

 労力は滅茶苦茶掛かったけど、お金に関しては困っていない。

 というか、依頼の報奨金だけでまた一年は遊び倒せそうな額が入ってくるんだから、どっこいどっこい。


 ジャッキーの自棄に嬉しそうな高笑いは、ギルド中に木霊した。


「教師で騎士で、その上Sランクの冒険者ね。…アンタ、そのうち国でも起こすのかい?」

「それは遠慮願うな」


 確かに肩書きがまた、とんでもない方向にぶっ飛んでくれてるけど、そこまでするつもりは無い。

 オレ達の校舎くにだけで、十分だ。


 だから、そんな期待したような顔をしないで?


「アンタなら、上手い事回してくれそうだ。…そういや、最近暮らしが楽になったのも、アンタのおかげなんだろ?」

「さぁ…それは、知らない」


 十中八九、獣人として種族間の問題に触れてるんだけど、ここら辺はいくらオレでも無理。

 下手に触ると火傷するタイプの問題だもん、人身差別って。


 あと、仄かに匂わされただろう、石鹸やらシガレットやら、果ては白竜国との貿易成功の件まで触れられてるみたいだけど、こっちもこっちで黙秘する。


 どこから、また情報が流出して、学校ウチに商売人やら貴族が大量に押しかけられても困るから。

 むしろ、貴族の子息子女とかの転入の件で今困ってるから、もう勘弁して。


 ついでに、そのうち医療系にも手を出すだろう事も黙秘しておく。

 これ以上は、いくらジャッキーでも心臓を止めかねない。

 きっと、分厚い剛毛に包まれた心臓だろうが、止るときは案外呆気なく止るからね。


 理解しているのかしていないのかは不明ながらも、ゲイルと顔を見合わせて苦笑を零す。


「ところで、お前さんの生徒達はどうした?自棄にぶすくれてねぇか?」

「ああ、…ちょっと、色々あってな」


 うん、ちょっと色々ありまして。

 オレの背後、騎士団の護衛達に囲まれながら、生徒達は御立腹だった。


 理由は勿論、この依頼に関してだ。

 むしろ、オレに対してだろうか?


 ぶっちゃけて言えば、不完全燃焼。


 最初こそ、指示を出しながら魔物の討伐もしていたし、遠征に見合った内容としての実地訓練はしていたが、それも本当に最初だけで、オレと榊原が森で逸れてからは完全に待機となっていたらしい。

 その後は、依頼内容に全く関係ない、オレ達の捜索がメインになってしまった。 


 オレ達が合流した当初は、生存確認だけで満足していた。

 だが、一日経過した現在、長旅の疲労もあいまって奥底で燻っていた不満が表に出てきてしまったのだろう。


 オレに必要以上に従順な間宮ですら、ツンとそっぽを向いていた。

 コノヤロウ、破門にするぞ。


「まぁっ、そう言うこともあらぁな!」

「ああ」


 豪快に笑って、終了させたジャッキーはやはり大物だ。

 今も、酒瓶を直に煽って、ばしばしと自分の膝を叩いて笑っている。


 ただ、そんなコイツには、オレも一言物申させて貰う。

 ついでに、もう一つの疑問を解消して貰おう。


「それよか、テメェには文句を言わせて貰うぞ。いきなり、冒険者パーティーをつけたかと思えば、テメェの子どもが一緒だとはな」

「おう!なかなかの演技だったろ?」

「ああ、すっかり騙された」


 ただし、文句を言ったにも関わらず、当のジャッキーはしれっと答えている。

 あまつさえ、この台詞だ。


 確かに騙されたが、騙された側としては面白くない。

 大体、オレはサプライズはする側であって、される側は嫌いだ。

 ただの自己中とか言うな。


「文句なしだって言っただろう?テメェも、オレも」

「それには、同意してない」


 ドンッ、と酒瓶が眼の前のテーブルに置かれた。

 良く割れなかったな。


 飲め、と?

 まぁ、飲むけど。


「もう終わった事なんだよ、オレにとっちゃ。レトが合格を出したなら、オレは満足だ」

「結局、テメェの掌の上で転がされていただけじぇねぇのか?」


 ジャッキーと同じく、ドンッ、とテーブルに酒瓶を置く。

 これ、オレじゃなかったら、確実に急性アルコール中毒でひっくり返ってるような酒だな。

 ゲイルは確実にひっくり返る。


 だが、それに対し、ジャッキーは何が嬉しかったのか、にやりと八重歯を覗かせた。

 うわぁ、オレよりもNGな顔が眼の前にいるかもしれない。


 背後で、生徒達も若干後ずさりしたみたいだし。

 というか、レトとディルはなんで餌付いたし、戦慄いたの?

 ああ、この酒の度数を知っているからこそか。


「依頼も完遂、認定試験も抜き打ち試験も合格したんだ!不満はねぇだろう?」


 そして、またジャッキーが酒瓶を直に咥えて傾けた。


 ああ、もうこれじゃ堂々巡りだな。

 というか、別にそこまで怒っていなかったせいもあってか、オレも落としどころを考えていなかった。


 更に言えば、この酒のやり取りは一体なんなの?

 またしても、眼の前に置かれる酒瓶。

 残りは、まだ半分近くある。

 飲めと言うなら飲める量ではあるが、若干辟易としてしまう。


「テメェは晴れてSランクだ。だがなぁ、前にも言ったがウチのギルドにはSランクはまだ四人しかいねぇ。消化出来る依頼はごく僅か。なのに、そのうちの一人が人格破綻者で依頼を任せられませんじゃ、話にならねぇんだよ」


 まぁ、そらそうだわな。

 兎にも角にも信頼関係って大事。


「お前も薄々気付いているだろうが、この国は人間の国で、貴族が頂点の国だ。獣人どころか、冒険者だって馬鹿にされて、粗相をすれば追い立てられる」


 それも分かる。

 常に人生は綱渡りだ。


 どんな失敗が、どんな結果を齎すか分かったものではない。


「お遊びじゃねぇんだよ、オレもギルドの奴等も。ギルドのマスターがオレで、お前はそこに登録した冒険者だ。文句は言わせねぇぞ」


 そう言って、にっかりと笑ったジャッキー。

 参ったな、これじゃ怒るに怒れない。


 だって、気持ちが分かるもの。

 オレも元裏社会の人間とは言え、社会主義の不合理は骨身に沁みているから。


 その為に、彼は布石にしたのだ。

 たとえ手塩に掛けた娘だろうが、息子だろうが。


「…性格が悪い」

「そんなもん、お互い様だろうが」


 それも、ごもっとも。

 オレも性格が悪いからこそ、今回のジャッキー達の悪戯の種明かしですぐに理解が及んだ。


 ああ、本気で敵わない。

 憎めないんだから。


「分かった、降参。ごめんなさい。もう、文句は言わねぇし言えねぇよ」

「かっはっは!!口だけなら何とでも、言えらぁ」


 バンッ、と叩かれたテーブル。

 酒瓶が倒れるが、それをオレが押さえる。


 ああ、なるほど。


「誓いも込めて、景気付けに、Sランク承認祝い、ついでにウチのクロエを泣かした侘びだ」


 やってらんないよ、コノヤロウ。

 風貌はどこまでも正反対の癖に、性格がどこまでも同じなんだから余計に憎めない。


「飲み干せ」


 ジャッキーはオレの師匠と同じだ。

 師匠と同じ事をオレに申し付けるぐらいには。


 敵わない訳だ。


「いただきます」

「おうっ!」



***



 酒は勿論、飲み干した。

 700mlの半分ぐらいだったから、大体350mlか?

 味はほとんど分からなかった。


 アルコール度数は裕に70度を越えてるだろう、強烈なパンチの効いた味だったよ。


 脚にキタ。

 生まれたての仔鹿なのか?と思う程には、全く立てなくなった。

 生まれて初めての体験だったよ、コン畜生。


 これには、ジャッキーどころかゲイルも大喜びをしていた。

 生徒達まで、何を喜んでいるのかと毒づいてやりたかったが、喋ると中身が出そうだったので何もいえなかった。


 あれだ。

 急性アルコール中毒一歩手前。


 泥酔状態と言えるのだろう。

 ………本当に、今回は泥押しだったのか。


 酒も程ほどに。

 ついでに言うなら、今後は喧嘩を売る相手も考えた方が良い。


 ちなみに、一番解消仕切れていない疑問は聞けなかった。


 アイツ、結局何の獣人なんだろう?

 熊にしか見えないけど?

 ジャッキーの子どもにして驚くほど似ていない姉弟、レトもディルも結局耳やらなにやらだけでは判別出来なかった。(ディルに至っては、顔も分からないし)


 結局、謎は謎のままになった。

 げしょ。



***

実はジャッキー、師匠にそっくりとか言う補足説明を加えさせて頂きます。

見た目では無く性格がそっくりだった為、アサシン・ティーチャーもあんまり気付いていなかったという…。

後付設定に聞こえるかもしれませんが、実はこの異世界にはアサシン・ティーチャーの知り合いにそっくりな人間が溢れかえっているのかもしれません。


そして、アサシン・ティーチャーは初めての泥酔と。

産まれて初めての体験に、その次の日ばかりはおそらく二日酔いだったと思われます。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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