38時間目 「課外授業~冒険者ギルド~」2
2015年10月31日初投稿。
またしても、時間が無くて…。
38話目を投稿致します。
最初の投稿の際、駆け足投稿になってしまいましてすみません。
そして、駆け足過ぎて誤字の確認も出来なかったという…。
頑張ります。
***
以下、連絡事項。
1月某日、冒険者ギルドにて冒険者登録。
以下、登録結果。
浅沼/Dランク
伊野田/Dランク
香神/Bランク
エマ/Dランク
ソフィア/Cランク
榊原/Cランク
華南/Bランク
紀乃/Dランク
徳川/Cランク
永曽根/Bランク
間宮/Aランク
オレ/Sランク
可笑しいよな、色々。
そのおかげで、ナイスバディでクソ可愛い受付嬢クロエには泣かれるし。
「がっはっはっは!!こりゃ凄ェ!!百年にあるかないかの大漁じゃねぇか!!」
ギルドマスターこと、熊男。
ジャクソン・グレニューが出て来たし。
場所をカウンターから少し移して、酒場の一角を貸切で占領。
グレニューが昼間から管を巻いていた連中を追い払ってくれた。
生徒達も別席にそれぞれ腰掛けている。
ゲイルを始めとした騎士達も、護衛として同行中。
わざわざクロエと酒場のウェイトレスらしき女性(これまた美人さん)が紅茶を出してくれた。
今現在、彼はオレとテーブルに対面して、生徒たちのギルドカードを眺めている。
一応、誤解は解けたし、説明も簡潔ながら行った。
今回は、オレ達が悪かった(……のか?)と思ったので、一応先に謝ってはおいたし。
騒がせてゴメンなさい。
ただ、そろそろギルド内の空気をどうにかして。
後、冒険者達の視線が、うちのクラスの女子組をロックオンしているのでウザイ。
ら、
「テメェ等ぁ!!油売ってる暇があるなら、溜まったEランクの雑用依頼でも片して来い!!」
「ひっ、ひぃ!!」
「すんません、グレニューさん!!」
オレが言葉にする前に、ギルドマスターの鶴の一声。
もとい熊の咆哮。
色目を使っていた奴等が根こそぎギルドから飛び出していった。
依頼は持って行ってなかったみたいだけど……まぁ、他人の不幸だ。
おかげで、女子組もほっとした様子だった。
オレ、何も言ってない筈だけどな。
こっちの異世界の人って、やっぱりエスパーが多いのかしら?
「悪かったなぁ?冒険者の連中は、いつでも女日照りでな」
「……何も言っていない筈なんだが、」
「さっきのは、冒険者の連中が発情した臭い出してやがったから追っ払っただけよ」
あ、獣人さんらしいから、そういう臭いが分かるのか。
便利なのか、不便なのか。
オレも気をつけよう。
「改めて、オレがここのギルドマスターだ。よろしく頼むぜ、『予言の騎士』様よぉ」
「御丁寧にどうも。ただ、『予言の騎士』って呼び方はやめてくれ。オレも銀次・黒鋼って名前がある」
「おう!なら、ギンジで良いな?」
「ああ、構わない。…アンタは、ジャクソンで良いか?」
「なんなら、ジャッキーで良い」
「じゃあ、ジャッキーで」
本当に改めて、ギルドマスターと御挨拶。
ジャクソンことジャッキーは、顔に似合わず気さくな男だった。
オレよりも数倍はありそうな身長と体躯。
腕なら確実にオレの3本分。
世知辛いなぁ。
「さて、ギルドカードは発行したが、説明が途中だったんじゃねぇのか?」
「あ、はい!すみません」
そういや、そうだったね。
泣いて逃げ出しちゃったみたいだし。
ジャッキーに促されて、クロエが説明が途中だった事を思い出したらしい。
「ギルドカードの発行は、完了しました。今日から、冒険者としてギルドに寄せられた依頼を遂行していく事が出来ます。
ギルドカードは個人情報ですが、盗まれても悪用の心配はありませんので御安心ください。
ただし、盗難による紛失、過失による紛失に関しては自己責任です。ギルドカードの再発行は、登録時と同じく200Dm掛かりますのでご注意ください」
現代のカード発行時の説明とほとんど似たような感じだな。
悪用される心配が無いってのが、現代との違い?
個人情報が漏れるのは怖いが、まぁ困るのは年齢と誕生日がバレる事ぐらいだから良いか。
ランクがバレるのは、もうどうにでもなれ。
「了承した。すまなかったな、驚かせて」
「い、いえっ。こ、こちらこそ、失礼しました」
とりあえず、ジャッキーだけじゃなく、彼女にも謝っておく。
裸足では無かったが逃げ出されたのは若干ショックだったけど。
「なにせ、一発でSランクってのも、10年ぶりだったからなぁ。ちなみに、15年前のはオレの記録だ」
「納得だ」
納得するわ。
そして、彼のギルドカードも見せてもらった。
良いの?気安いけど。
ーーーーーーーーーーーーー
Name・ジャクソン・グレニュー
Age・44
Sex・男
Birth・10/2
Tribe・獣人
Rank・S
ーーーーーーーーーーーーー
と言う感じ。
あ、ジャッキーは44歳なのか。
オレとは20歳も違うのか。
あ、後、オレと誕生日一緒だ。
そして、やっぱり獣人だったんだな。
何の獣人なのかは、後々にしよう。
「出生日が一緒なんだな」
「おう、そうだったか?こりゃ、たまげた」
うん、驚いた。
20歳違うだけで、ここまで体躯が違うのが。
「じゃあ、説明も終わったところで本題だ」
紅茶を豪快に飲み干しながら、ジャッキーがあくどい顔してにかりと笑う。
この笑顔はオレも怖いわ。
もしかして、オレもこんな感じとか?
それはともかく。
まだ、本題じゃなかったんだな。
「冒険者ギルドの設立とか歴史とかは云百年前の事だから省くが、とりあえずオレがマスターに成ってからの事を説明したい。テメェ等は、この異世界に来てから正確にどれぐらいだ?」
「正確に言うならば、4ヶ月と12日だな」
「正確過ぎらぁ!神経質って言われねぇか?」
「いや?」
ちなみに、夜中だった事を踏まえるともう4ヶ月と13日だけど。
何で数えてるかって言うと、この異世界に来てから最初の数日以外は、必ず授業日誌を付けているから。
「まぁ、良いや。この世界の現在の状況は、テメェ等の見て聞いての通りだ。災厄の波が近付いて来ていやがる」
ああ、そういう予言の話もあったね。
忘れていた訳ではないが、日々を生きるのに必死で半分無視していた。
「…具体的な例としては?」
「まずは、地域によって農作業や生活に支障が出始めた。ダドルアード王国の外にも数十年前まではいくつか小さな村や町があったが、ほとんど立ち行かなくなってこの王都に移民して来たな。ウチのギルドに所属している奴らも一部のその村や町の出身者で、元農夫や町民だ」
そういう、転職の方法もあるのか。
いや、そういった転職の方法しか無かったのが、正しいのかもしれないが。
ゲイルに目線を向ければ、彼も苦々しい顔をしていた。
コイツは、視察とか救難とかの名目で、王都を飛び出して駆け回ってたらしいからな。
実際に見て来た実情を思い出しているのかもしれない。
オレ達も実際に言えば、他人事ではない。
召還(誘拐とも言うが)された理由は、この災厄の元を取り除く為だ。
……具体的な方法が分からないから、未だに何をすれば良いのかは不明だが。
「次に、魔物の繁殖、もしくは凶暴化だな。ここ数年で一気にその兆候が強まっている」
「魔物も繁殖するのか」
「ああ、基本は種族同士だが、一部の魔物は交尾するならなんでも良いらしく、可笑しな配合の魔物も数体確認されてらぁ。気味の悪い」
ああ、現代で言うイノブタとか、サルのキメラみたいな奴な。
異世界では魔物が勝手に配合を変えちまうみたいだ。
「ちなみに、大丈夫だとは思いたいが、テメェも責任者なら気を付けろよ。テメェの所の嬢ちゃん達だって、一部の魔物からしたら十分交尾対象にならぁ」
「やめろ、その話は、」
ぞっとした。
女子組、特にエマが震えたのを横目に見た。
ジャッキーには、気付かれたか?
「注意しただけだ。悪気はねぇ」
「なら良い。……御忠告ありがとう」
ちょっと、殺気が滲んでしまったのか、ジャッキーの指に力が篭もった。
って、言うかなんで今爪が伸びたの?
その爪だけ見ると狼みたいだけど、何の獣人なんだろうか。
オレもちょっとブレイク。
紅茶を飲ませてもらって、ほっと一息。
緊張感が若干霧散した。
「…話が逸れたが、問題は繁殖して多くなった魔物が更に凶暴化している事だな。騎士の連中にも聞けば分かるだろうが、最近はベテラン冒険者でもソロどころか数人のパーティー程度じゃ危ねぇ」
「ああ、それは聞いている」
触りだけな。
どこそこにこんな魔物が出るとか、生態とかぐらいだけど。
「王国の周りはそこまでじゃねぇが、東と北の森や街道に向かうとランクが最低でもDになってる」
「それは、高いのか低いのか…」
「馬鹿野郎。十分高い。ちなみに、テメェの学校の奴等は平均で言うならCランクだ。だが、勘違いするなよ。ギルドに登録しているほとんどの奴らがEかDランクだ」
そんなもんなの?
それは、申し訳無い。
「…ウチが規格外だという事が良く分かった」
「…おう。だから、大漁だって言ったんだ」
げっそり。
ジャッキーにも胡乱気に見られた。
すみません、規格外の連中で。
「話は戻すが、さっき言った魔物の繁殖や凶暴化の所為で、今じゃEランク・Dランクの依頼でも滞ってる。採取に行くにも魔物との戦闘は避けて通れねぇからな」
「なるほど」
「テメェ等がこうして登録してくれたのは嬉しいが、」
「いや、すぐに依頼を受ける事は無い。生徒達もまだ強化訓練の最中だからな」
「まだ、途中だとぉ?……テメェの学校は、一体何を教えてんだ?」
「言語から始まり、算術、歴史、礼儀作法と強化訓練、と最近魔法の授業を始めたな」
「よし分かった。常識が外れた学校って事だ」
「こっちの常識がむしろオレ達からしてみれば非常識だが?」
失礼な。
現代には、こんな便利な魔法なんてものは無い。
虚しくなった。
閑話休題。
「それはともかくだ。…前置きが長くなっちまったが、冒険者登録は歓迎する。テメェの生徒達のランクも概ね間違いではねぇから、採用は出来る」
「……採用?」
「つまりだ。…働く条件は満たしてるって事だ。ああ、そんな深く考えるなよ?騎士団の連中みたく無理強いしてどうこうするつもりはねぇ」
あ、例のキメラ討伐の件だろうか。
無理強いでは無く自発的に出向した事だけは、誤解を解いておこう。
さて、話が逸れたようだが、彼が言いたいのは何の事だろう。
もしかして、冒険者ギルドにはノルマでもあるというのだろうか?
「気付いたな?」
あ、やっぱり?
「…そこまでは考えてなかったな」
「そういうこった。三ヶ月内に必ず5件以上の依頼を消化して欲しい。一人5件以上だ」
ああ、なるほど。
今すぐどうこうじゃないけど、三ヶ月の間に成果は挙げないとならないってことだ。
「出来なかったら?」
「罰金の発生と、ランクの降格だな。ちなみに、依頼に関してはお前以外なら、EランクでもDランクでも何でも良いさ」
「………待て、オレ以外?」
えっ、ちょ…?はい?
ちょっと、話が読めない。
整理する。
まず、冒険者ギルドに登録したら、三ヶ月以内に5件以上の依頼をノルマとして達成しなくてはならない。
生徒達の現在のランクは平均C。
生徒達だけならば、EランクからDランクでも何でも良い。
あ、読めたかも。
「オレは、Sランクだから、別のノルマが発生しているって事か?」
「そういうこった。…といっても、ノルマなんてもんじゃねぇ。ただ単に、Sランクの承認の為の依頼を消化して欲しいって事だ」
ああ、なるほどね。
オレの考えとはちょっと違った(※オレはてっきりもっとノルマがキツイのかと思った)けど、要するにオレをSランクとして認めるのは、審査が必要だって事ね。
「それで、何をすれば?」
「話が早くて助かるぜ?とりあえず、説明だけは先にしておく。クロエ、お前は先に未達成クエスト持ってきてくれ」
「はい」
と言って、彼はクロエに指示を出し、再度座りなおした。
今、「未達成クエスト」って聞こえたけど、オレ何をさせられる訳?
「まぁ、新参のテメェに付き合わせるのも悪いが、ギルドの風習みたいなもんだ。Sランクに上がるには、逸れ相応の成果が必要になる」
ああ、だろうね。
オレ達裏の業界でも、下っ端から幹部に上がるのは、色々と面倒くさいものがあったもの。
すっ飛ばして上がったのなんて、同僚兼友人ぐらいだと思うが。
向かい合った形のジャッキーも若干、難しい顔をしていた。
「なにせ、オレも初めてお目にかかるから、突然Sランクになったなんて事例はねぇ。オレの時もそうだったし、爺さんの代でもそうだった。ちなみに、いきなりSランクになる冒険者ってのは、過去4人しかいねぇ」
「…少ないな、意外と」
「いきなりなる方が可笑しいんだよ。大抵の奴等は、Eランクスタートでペーペーから中堅、ベテランに上がってSランクになる」
「オレもアンタも可笑しかった訳だ」
「がっはっはっは!否定はしねぇ。オレより前のSランクはなんでも、200年前以上の話らしいしな。ちなみにそれが『太古の魔女』だ」
「『太古の魔女』?」
えっと、何それ?
人名として呼ばれているものだよな?
「なんでも、森小神族で女で、魔法の第一人者って話だったが、詳しく知らん。今じゃ、伝説になってる存在さ」
「へぇ…」
そういう魔族もいるって事か。
生きているかどうかは分からないから、既に伝説と。
ローガンも魔法に関して、見習えば良いと思う。
オレも人の事は言えないけど。
話が逸れたってか、オレが逸らしちゃったな。
すみません。
「だが、そう簡単にSランクにする訳にもいかねぇ。何故か分かるか?」
「まぁ、一つは経験不足と…もう一つは、先達の面子かねぇ」
「大正解だ。簡単にSランクになって、いざ依頼で死にましたじゃ話にならねぇ。それに、ここにもSランクがオレを含めて3人所属しているが、それなりに苦労はして来ている奴等だ」
「いらない諍いが起こる前に、先に実績を挙げて認めさせるって事だな」
「そういうこった」
うーん、理由は分かるけど、ちょっと納得しかねる。
だって、面倒くさい。
と、そこへ戻って来たクロエ。
とっても肉厚な胸に分厚いファイルを抱えていた。
「一応、実績はあるつもりなんだがなぁ」
「おう!『予言の騎士』様の活躍は音にも聞いているが、それとこれとは別だ。こればっかりは、騎士団絡みのネタじゃ納得されねぇ」
「ああ、まぁそうだろうな」
仲が良さそうには見えないもん。
何が?
騎士団とギルドとだよ。
「これが、現在ウチで管理している未達成クエスト。要は、Sランク承認用の特別依頼って事だな」
「この中から、依頼を選んで受けろって事か?」
何それ、ちょっとマジで、もう面倒くさい。
本気で冒険者ギルドに登録するの、早まったかもしれない。
特別クエスト『Sランク承認試験』発生。
って、浅沼に言わせると、そういう事になるのかな?
要は、ストーリー上の避けては通れないお使いクエストって事だろう。
彼の方向を横目で確認したら、何故か興奮した様子で口を押さえていた。
ああ、あれは確実にファンタジースイッチが入っちゃってる奴だ。
オレと同じ事を、アイツも考えたのかもしれない。
放っておこう。
「この中のクエストは、ほとんどがAランク相当。まぁ、多少Sランク相当も混じってるが、どれもこれも未達成だからな。承認クエストとしては丁度良い」
「力量を見るだけなら、実技だけで良いんじゃないのか?」
「駄目だね。それじゃ、見れるのは腕っ節だけだ。依頼遂行能力も人間性も決断力だって、クエスト内では求められてくるのに、腕っ節だけの木偶の坊なんざSランクにはお呼びじゃねぇ」
まぁ、そうだよな。
少々、面倒くさいとは思うが、理解はする。
納得は勿論、していないがな。
渋々と言った形で受け取る、クエストのファイル。
うわぁい、懐かしい感じの書面が並んでるよ、おい。
開いた途端に、一気にやる気を無くしてしまった。
額を押さえて、テーブルに轟沈。
「…ゲイル、ちょっと」
「ん?」
とりあえず、ゲイルを呼ばわる。
オレ、こういう依頼書見ると吐気を催すから、駄目だわ。
何故か?
昔の暗殺者時代を思い出すからだよ。
「…読み上げて」
「……は?」
「だから、読み上げて。理由は、押して察しろ」
押し問答は必要ない。
というか、しない。
お前を選んだのは、生徒達じゃまだ異世界言語の文字を読めないからだ。
一応、ジャッキーを見てみる。
若干嫌そうな顔をしているけど、オレの様子を見て渋々頷いてくれた。
まぁ、ギルドの依頼内容を商売敵みたな騎士団に見られるのは、確かに嫌かもしれないけど。
不承不承としながらも、ゲイルがオレの隣に腰掛けてクエストを確認。
さっさと、しろ。
「……えーっと、北の森に生息している魔物全種の討伐依頼。全種となると?」
「ヘルハウンドやアームコング、ダークキャット、その他森に生息している魔物の全種だ。これは、とにかく間引きをする為の討伐依頼だからな、討伐数が3桁越える上に承認の為に持ち帰る魔物の確認部位やらなにやらで荷物が結局凄い事になる」
「却下で」
そんな面倒くさい依頼を受けていられない。
しかも、北の森って言ったら、前回のキメラ討伐の時に遠征した場所で移動だけでも3日掛かる。
最低でも1週間以内には終えたいから、遠征は却下。
はい、次。
「おざなりな…。えーっと、…あー…、マンドラゴラの採取、育成」
「却下で」
なにその、危険な依頼。
依頼人は冒険者に死ねと言っているようなものだろうに。
こっちの錬金術とか魔法の歴史を習った時に聞いたけど、マンドラゴラって本当に叫ぶんでしょ?
聞いた人がいないのは、叫び声を聞いて死ぬからであって。
「…次は、西イルドナ草原の…ど、ドラゴン?…『討伐』になっているが、ドラゴンなど討伐するだけでも1個師団が必要になるぞ?」
「それは、オレから却下だ。もう、ドラゴンがいない。どっかに移動したって話だ」
えーっと、そういう依頼を入れておくのも、どうなの?
と思ったら、クロエがクエストファイルからその依頼書を引き抜いた。
即廃棄ね。
「えっと…次は、東の森の洋館の破壊」
「…どういう依頼?」
「ああ。ダドルアードの裏手になるんだが東に森があってな。その森の中に朽ち掛けた洋館があって、そこを取り壊ししたかったんだと。だが、専属に頼んでも取り壊せなかったらしい」
「……なんで?」
「化け物か何かが出たらしい。専属が何人も死んで、遂には責任者も恐ろしい目にあったらしい。それで、こっちの冒険者ギルドに回ってきた」
あー…、分かった。
所謂幽霊屋敷とかの曰く付きの建物だな。
「却下で」
「おう!アンタも、怖いもんは駄目な奴か!?」
「本気で見た事があるからな」
……うん、割と本気で。
隣に座ったゲイルも震えていたし、何故か間宮も震えていた。
ああ、恐怖体験一杯したもんな。
はい、次
「南の海岸線にて採取討伐。採取品目はサハギンの目玉。納品数は、……200個!?サハギン一体でも小隊が必要なのにこれだけで、旅団規模は必要…!」
「だから、Aランクなんだよ。納品数が多いのは、確認用の鱗と違ってサハギンの目玉が薬か何かの原料になるからの筈だ」
「却下で」
やめて。
一体でも小隊規模って事は、最低でも10人だろ?
それの10倍に当る旅団規模が必要なんてそんな魔物の討伐なんて受けられない。
でも、そろそろ決めなきゃ。
マズイ、時間が。
次、読んで。
「そろそろ、オレも口が疲れてきたんだが……、えっと、ゴーレムの回収」
「…それって、どんな任務?」
「数十年前の戦時下に敵国から放置されたままのゴーレムが、東の森のどこかにいる。回収、もしくは破壊だなぁ。まぁ、悪い事は言わねぇから、これも却下しておけ」
ああ、そう?
なんか、簡単そうに思えたけど、もしかして東の森自体が危険なのかもしれねぇな。
と、続きを促そうとして、ゲイルを見る。
だが、奴はその依頼書を苦々しい顔で、睨みつけていた。
うん?
「……このクエストは、騎士団でも話題になったな。未だ、未達成だったのか」
「テメェ等騎士団が放り投げた案件だな。それからは、もう誰も受けなくなっちまった」
「………」
「テメェ等騎士団にとっちゃ、取るに足らない依頼かもしれなかったがなぁ、」
ちょっと、おい、やめろ。
喧嘩はしないでくれ。
えーっと、それって騎士団でも解決出来なかった依頼って事だろ?
まぁ、喧嘩って言っても一方的にゲイルがジャクソンからの嫌味を聞いているだけだけど。
言い返さずに黙っているゲイルは、意外と辛抱強い。
「ゲイルは参加したのか?」
「…いや」
参加していない?
なら、なんでそんな苦い顔しているんだ?
渋々ながら、その依頼書を覗き込む。
ーーーーーーーーーーー
『ゴーレムの回収』
依頼人・ルルリア・シャルロット。
達成報酬・5万Dm
概要・戦時下に敵国から放置されたままのゴーレムが、東の森に放置されている。生態系にも影響を及ぼしている模様。回収、もしくは破壊を求む。
適正・Aランク
ーーーーーーーーーーー
一見すると、簡単そう。
だけど、ゲイルはまだしもジャッキーが却下しておけって言う真意は?
「100年以上も達成されていない依頼だからさ」
「ひゃ、100年…?」
「この依頼が発生したのは、日付の通りなら116年前。栄誉ある騎士団長様が投げ出したのも、10年前。騎士団でも無理だった依頼内容をどうしようってんだ?」
それは、確かに。
ただ、ちょっと気になる事が一つ。
このルルリア・シャルロットって名前が気になる。
オレ、この名前をどこかで見た覚えがあるんだよね。
ついでに言うなら、この国の歴史か何かの……著者か何かで。
「この依頼人に会うことは可能か?」
「いや、無理だな」
一応、確認をしてみると、きっぱり断られた。
というか、駄目じゃなくて無理って事は、断ったとは言わないか。
「依頼を完了することさえ出来れば良いのかもしれないが、依頼金は既に預かってるから直接会う機会はねぇだろう。定期的に小間使いらしき餓鬼が進捗情報を聞きに来たが、それも50年前からはめっきり無くなったからな。依頼人も生きてるか死んでるか分からないクエストだから、あんまり表に出せないもんだったし、」
「……そういう依頼も、有りなのか?」
「ああ。匿名希望って言ってな。ただ、この依頼は重要度Aランク。Bランク以上の依頼には、必ず名前が必要になるから、この名前はあながち間違いでも無い」
なるほど。
警察への通報なんてものも、ほとんどが匿名だ。
重大事件でも無い限りは、匿名で構わないという事だから、こっちではそれがギルドへの依頼に反映される。
「何度も言うが、この依頼はヤバイ。確か、10年前に達成不可の印を押したのは、アンタの親父さんじゃなかったのか?」
と言って、ジャッキーが嫌味たっぷりの声を向けたのはゲイル。
「アンタの親父さん」という言葉は、きっとそのままの意味で前任の騎士団長か何かの役職が、コイツの父親だったんだろう。
だが、それに劇的な反応を見せたゲイル。
先ほどまでの涼しげな表情をどこへやったのか、眉を顰めて依頼書を睨みつけている。
若干殺気というか怒気が滲んでいるが、どうしたもんか。
「(…貴族も、色々あるって事だろうか…)」
あながち間違ってはいないようだ。
ジャッキーの言葉に、渋々ながら答えた彼。
「ああ、そうだ。…オレは参加していないが、父が言うには、『地獄だった』そうだ」
苦々しげに吐き出した。
溜め息も若干混ざっているような気がする。
ふむ、面白そうな依頼だ。
というか、これ以上時間が掛けられないし、そもそももう依頼書を読む気力が無い。
「やってみるか」
「ああ、そうしたほうが…………ッ、はっ!?」
オレの一言に、ゲイルが一度肯定。
そして、何故かきっかり3秒後に、驚嘆の悲鳴を上げた。
これが、噂のノリ突っ込み。
「ちょっと気になる。依頼人の名前もそうだが、ゴーレムの回収・破壊なら結構簡単そう」
「ま、待て待て待てッ!話は聞いていたか!?この依頼は100年達成されていない!10年前には、オレの父上も匙を投げたんだぞッ!」
「いや、全部聞いてたけど?親子揃って挑戦して、リベンジでもして見るか?」
「………ッ!?ば、馬鹿を言うな!」
「メンバーは、間宮、香神、榊原、徳川、永曽根と、ゲイルは騎士団を連れて三個師団頼めるか」
「おい聞いてるのか!?」
聞いてない。
先ほどの説明はまるっと聞いてはいたけど、お前の話は聞いていない。
ジャッキーやクロエ、ウェイトレスの美女すらも呆気に取られて固まっている。
それと、クロエは紅茶を零しているから、胸元のシャツが偉い事になっているのを早く気付こうか。
何このラッキースケベ。
そして、オレが名前を呼んだ生徒たちは大喜び。
現在での強化トレーニングトップ5を呼び出したので、魔法を引っこ抜いた戦力としては申し分無い筈。
選ばれなかった生徒達は若干がっかりしている。
お前等、そんなにバトルジャンキーでは無かった筈なんだがな。
「オリビア、お前は悪いがお留守番」
「了解しました。ちょっと寂しいですが、皆さんとお待ちしております」
「頼むよ。一応、騎士団の護衛は半数を置いていく」
「だ、だから、話を聞いてくれギンジ!」
聞く義理は無い。(いや、護衛として借りるから一応はあるけど、)
えっと、メンバーも決めた。
出立の時刻は、今日はもう無理だから明日にしよう。
必要なものは、一応食料と着替えと、ボミット病の魔法具と、後は……なんだろう?
とりあえず、受領を先に済ませよう。
依頼書を抜き取ってジャッキーに差し出すと、呆気から立ち直ったのか、
「正気か?」
割と本気で聞かれた。
「正気だけど?素面だし、これがいつも…」
「……慢心してねぇか?これは、騎士団でも未達成のクエストだぞ?」
「うん、知ってる。ただ、依頼を達成できるかどうかは約束しかねる。一応は、ウチのクラスの最大戦力の小手調べみてぇなもんだから」
ぶっちゃけ、様子見としての実地訓練は必要だよね?って話。
無理して達成するつもりも無いし、生徒達に危険が及ぶようなら、それはそれですぐに引き返すつもり。
丁度良い機会だから、存分に使わせてもらうだけ。
呆然としていたジャッキーも、顰めていた眉を緩めて呆れた表情をしている。
「…死ぬなよ?テメェにはやってもらいたい仕事が山ほどあるんだ」
「Sランクとはいえ、教師だけど?」
「馬鹿言え。それこそ、テメェのどこが教師だよ」
「よく言われる。けど、教師ったら教師だ」
ちゃんと教員免許も取ってるし、生徒達からして見たらオレは何者でも無く教師だから。
と言う訳で、先生らしく事前に連絡事項を報告しておく。
「話は聞いた通り、明日はオレのSランクの承認の為の依頼を受ける事にする」
各々、好きなように酒場の椅子に寛いでいた生徒達に向き直る。
真向かいの席でクロエが「私も混ざりたい…」ってぼそっと呟いたのは、無視しておくべきか。
「悪いが、一旦魔法の授業に関しては中断する事になるが、強化訓練はいつも通り行うように。メニューについては紀乃に渡しておくから、各自紀乃からの指示に従うように」
『はい!』
「それから、今呼んだ5人は朝の訓練を免除。体力を温存しておけ」
『了解~』
「(こくこく)」
とりあえず、明日の予定は以上。
今日の予定も、これにて一旦終了かな。
一応2時間ぐらいは、魔法の基礎論理の授業をゲイルに押し付けておこう。
そういえば、そんなゲイルは涙目になっている。
「だから、話を聞けと何度言えば、」
「却下。問答無用」
一蹴。
からの、
「お前には、まだお仕置きが2つほど、残っている筈だ」
「…ぐっ…!?今、それを言うのか!?」
うん、言う。
「すっとぼけるなら、護衛を解除。蒼天騎士団にでも、」
「オトモシマス」
「よろしい」
そりゃ、国王からの勅命受けてるのに、解雇されるのは溜まらんだろうしな。
ついでに言うなら、コイツは既に胃袋を掴まれているから、今更別の任務にはいけないらしい。(知らなかったけど、ウチの学校の食事担当の2人の料理、結構騎士団で噂になっているらしい)
随分根に持っているとか言わないで欲しいけど、コイツは未だに秘匿癖が抜けないから良い教訓には出来るだろう。
それに、まだ秘匿している事はあるらしいし。
「がっはっはっは!!天下の騎士団長様も『予言の騎士』様には形無しかぁ!!」
「下僕認定されてるから、逆転するのはしばらく無理だろ?」
「…オレは、下僕認定されていたのか」
下僕の前に、一応念の為に友人と付く。
まぁ、心の中で言っておく。
とりあえず、オレのSランク承認特別依頼が発生したので、そっちに集中しようか。
クロエが胸元を紅茶で濡らしながらも、依頼受理の手続きをしてくれた。
これ、教えるべき?
眼福だけど、これ気付かなかったら、彼女に申し訳無い。
やっとこさ冒険者ギルド訪問は終了したと思いたい。
濃密な時間だったよ、本気で。
***
朝靄に濡れた森の中。
密集した森林の様相をしたその森の中は、朝を迎えたにも関わらず鬱蒼としている。
魔物達も多く繁殖している森の中ながら、その日はやけに魔物達も大人しく成りを潜めていた。
ここは、暗黒山脈に位置する森でもある。
魔物とて、人間の領土を侵食する以上の繁殖力を誇っている。
その分、人間領よりも凶暴で凶悪でもあるが、暗黒大陸の魔族にとっては人間達が相手にするのとほとんど変わらない実情がある。
しかし、現在は真冬の森。
白い氷の結晶の猛威に閉ざされた季節。
気温とて氷点を迎え、極寒とも言える。
木々が密集している為、森の地面に雪が積もる事は少ないまでも、肉食の魔物達は活動を最小限に抑え、越冬を臨んでいる。
そんな森の中を赤髪を持った人物が、その視界の覚束無い森を淀みなく進む。
極寒の中に見合わぬ、最低限の防寒具。
額には突き出した角と、口元には上向きに突き出した牙。
瞳の色も髪と同じく、燃えるような赤。
片手に携えた十字を模したハルバートが、その人物の淀み無い足に合わせるように濡れていた。
一見すると男性にしか見えない風貌をしているが、彼女は女だ。
ローガンディア・ハルバート。
約2週間の道のりを掛けて、彼女はこの暗黒山脈を越えた森の中に脚を踏み入れていた。
久しぶりの故郷の空気。
そして、魔力に満ちた独特の重たい空気。
淀みなく脚を進めながら、彼女は望郷の念を沸きあがらせていた。
なにせ、彼女にとって、故郷への期間はおおよそ80年ぶりだ。
「(…久しぶりに帰る事になったのが、良かったのか悪かったのか。300年を数えてはいても私もまだまだ子どものようなものだったのかもしれん)」
彼女には、80年ぶりに帰郷する理由があった。
人間であり『予言の騎士』である青年、黒鋼 銀次からのとある頼まれ事の為だ。
冬だった事もあり、街道が一部潰れてしまっていたり、渓谷での冷や冷やとするような綱渡りもあった。
おかげで、予定していた到着が3日ほど遅れてしまったのは、遺憾ではあるがこの森に入ったからには、方向さえ間違える事が無ければ、そろそろ村の入り口ともなる目印が見えてくる筈である。
「あった…」
そこには、木の幹に巻きつけられた宝玉のような装飾がある。
装飾を掛けられた四つの大木に囲まれたちょっとした空間。
そこに、ローガンは立つ。
『憂い無き、疑心無き、驕り無し。誇り高き女蛮勇族が一人、ローガンディア・トレサ・ハルバートが帰った』
彼女が話す言葉は、人間の使うそれとはまた違った。
これは、魔族達に伝わる言語で、それぞれの部族によっても違う。
現代の日本で言えば、方言となるかもしれない。
そして、彼女が魔族語にて呪文のような言葉を唱えた時、森はその様相を変えた。
ぐんにゃりと歪むようにして、四つの大木から見えていた景色が一変する。
そこには、既に森の終わりがあった。
そして、その森の終わりこそ、女蛮勇族の集落であった。
入り口に立っている見張り番が、彼女の姿を見ると途端に眼をまん丸にして驚いていた。
言わずもがな、この集落は女蛮勇族の住処であるからして、その見張り番ですら女性。
彼女にとっては、約80年ぶりの帰郷であり、彼女達見張り番達からして見ても80年ぶりともなる久方振りの同士の帰郷であった。
『帰ったぞ』
『ああッ!ローガンディア様のお帰りだ!』
『御久しゅうローガンディア様!お帰りなさいませ!!』
『ああ、ただいま』
恭しく、もしくは歓喜と共に出迎えられた彼女。
様、と呼ばれた通り、彼女はこの集落の中でも割と高い地位にいる。
何を隠そう、彼女の祖母がこの村の族長だからである。
既に齢600歳を数えるであろうこの村一番の長生きの老婆にして、生き字引でもある。
そして、彼女の母もまた、この女蛮勇族の狩猟部隊を指揮する蛮勇の持ち主。
彼女も既に成人を儀を終え、80年余りを旅に費やしていた。
彼女達女蛮勇族では、外への旅に出される事は一番の名誉とされている。
彼女、ローガンディアもその例に漏れず、その名誉に預かりなおかつ集落の者達にとっては憧れの存在であった。
入り口の騒ぎを聞きつけ、集落の女達が集まってくる。
勿論、この集落には、数名を除いて女しかいない。
その中には、先ほど先述した族長、ゾーイアンデ・ハルバートの姿もあった。
杖を突き、女蛮勇族特有の赤い髪をところどころ白く染めた、それなりに年老いた老婆。
ローガンの祖母だ。
これで今年で700歳に届こうかという年齢だと聞けば、銀次辺りは「若作りってだけの問題じゃねぇぞ」と腰を抜かしたかもしれない。
閑話休題。
『おおっ、帰ったか、ローガン!』
『ただいま戻りました、婆様。お元気そうで、なによりだ』
『まだまだ、100年は生けられるよ。久しぶりにお前さんの顔を見れたんだからねぇ』
久方振りの再会に、ローガンは頭ひとつ分ないし、三つ分は違うだろうゾーイに屈んで抱きつく。
「アンタ、また胸を潰しているね?」なんて、小言を言われながらも、彼女は素直に祖母との再会を喜んだ。
『それで?…久しぶりに帰って来たんだ。
用事が無かった訳じゃないんだろう?
もしかして、妊娠でもしたかい?だったら、相手も一緒に連れて来いと、何度言えば…』
『残念ながら、まだだ』
『…なんだ、ひ孫でも出来たのかと期待したってのに』
相変わらずのぞんざいな物言いを聞きながら、相変わらずだとローガンは苦笑を零す。
祖母からの結婚や妊娠への追随は、そろそろやめにして貰いたいと心の底から願っている。
こればっかりは、帰郷を躊躇った方が良かったかもしれないと、内心で臍を曲げた。
『まぁ、相手がいないと言う訳ではないがね』
『おやまぁ、それは一体、どこの種族だい?
………炭坑族は無さそうだねぇ。
アイツ等は、ウチ等と交流する以外は、穴倉に引きこもって人間の領地なんぞには行かないから。
だとすると、獣人達かねぇ?
アンタ程の女を射止めたのは、一体どこの種族の殿方だい?』
それこそ、マシンガンのような言葉の数々に、若干呆れ気味のローガン。
祖母は御歳695歳を数えても、未だにこうして若々しい娘達のように色恋話に現を抜かしているからだ。
しかし、彼女にとっては、ありがたくない話である。
彼女は既に300歳を越え、人間はおろか女蛮勇族としても、既に年増の領域に脚を踏み込もうとしている。
そして、未だに浮ついた話の無い、未婚の女である。
心配した母や妹が、適当な未婚者を見繕おうとしているものの、その悉くをローガンは蹴り続けていた。
理由は、簡単。
彼女の伴侶へ求める条件が高過ぎるだけ。
彼女が伴侶へ求める条件はたった一つ。
『私を負かせる男が、そう簡単に見付かれば苦労はしないよ』
自分よりも、強い男。
これによって、彼女は人間の領域を含めた暗黒大陸の旅を経て300年以上、未婚を貫いている。
勿論、身体も生娘同様、処女であった。
しかし、忘れるなかれ。
彼女は、この女蛮勇族でも名誉ともなる放浪の旅を許された勇である。
つまり、この集落の中でも彼女に勝てる人間は片手の数に限られる。
その中に、母と幼馴染ぐらいしか含まれていないのは、言わずもがな。
彼女の結婚への道は長い。
『あっ…それよりも、本題を話したい。出来れば、家に行ってから聞いて欲しいのだが、』
このまま、彼女が未婚だという事への追随が続くかと思った時、彼女の脳裏に間一髪で閃いた会話の逃げ道。
おかげで、婆様はまだまだ足りないそのマシンガンのような口を閉じて、代わりに彼女を集落の中へと促した。
『ああ、そういえばすっかり立ち話をしちまったねぇ。
丁度良いから、今日は宴でも開こうか。
良い酒が手に入ったのに、飲み明かせる相手がいなくて難議してたからねぇ』
『婆様、身体を壊すから、酒は程ほどにと、』
『固い事言うんじゃないよぉ!
アンタだって、うわばみだろう?
それに、さっき言ってたお眼鏡に適った殿方の話もしっかりと聞かせてもらうんだ。
酒が入って無きゃ、』
どうやら、ゾーイはまだまだ諦めていなかったようだ。
今から、既に辟易してしまう。
彼女は苦笑すらも取り消して、無表情とも言える顔で肩を落とした。
集落の同士達が慰めるようにして、肩を叩いていくのすら傷口を抉る。
何を隠そう、この村の中でも未婚を貫いているのは、ローガンと彼女の幼馴染と妹だけだからである。
ああ、虚しい。
これから話す本題とて、集落として問題が無い訳では無い。
安請け合いをしたつもりは無いが、それでも非常に困難な説得をしなければならない事案である事は確かだった。
更に言えば、彼女の言っていた相手の事も問題だ。
黒髪のカツラで銀の髪を隠す、彼女曰く変わった人間。
そして、もしかしたら、彼女を相手にしても負ける事は無いかもしれない人間である。
人間なのだ。
どう頑張っても、相手は人間なのだ。
名前は黒鋼 銀次。
ローガンの初恋の相手でもあった。
本題を話す前から、既に疲れてしまった彼女。
なすがままに集落の中でも、一際拾い茅葺屋根の家へと引きずり込まれるようにして入って行った。
***
こんな感じで、クエスト発生です。
Sランクの承認の為に受けるクエストなんで、勿論簡単に終わるはずがありません。
終了するまでが、やっぱり長くなってしまう作者の新章。
ジャッキーさんの筋肉具合が、あまり躍動的に書けずにしょんぼりしつつ。
そんでもって、ローガン姉さんがログインでござい。
初孫どころか初曾孫を楽しみにされているローガン姉さん。
実は結構な年増で、なおかつ未婚でございました。
実はね…(笑)
誤字脱字乱文等失礼致します。




