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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、特別クエスト編
45/179

36時間目 「特別授業~異世界クラスの魔法の概念と属性~」

2015年10月25日初投稿。


今回は余裕を持って、投稿させていただきました。

新章開始で、まずは新しく始まる魔法授業の風景をば。


36話目です。

新章は書いてて楽しいプロットが目白押しだった筈なのに、何故か難産が続いています。

これが噂の、………あ、いつもか。


***



「では、お久しぶりのHRを始めます」


 というオレの一言で、何故か教室は安堵に包まれた。

 何故だ?


「いや、なんか…」

「久しぶりって感じ」

「一ヶ月以上も先生が先生らしいことしてなかったしね」

「……そういやそうだったな」


 そういや、オレも久しぶりにこの台詞を言った気がする。


 キメラの討伐隊に参加してから、すぐに冬休みに突入したから気が付かなかった。

 オレ、この教壇に立つのも1ヶ月ぶりだな。


「じゃあ、新学期の挨拶でもしておくか?」

「いらないいらない」

「毎日顔を合わせてるんだから、」


 ねぇ?とさざめきあう生徒達。

 それもそうだ。


 冬休みとは言っても、各自の実家に帰ったでも無いし。

 帰れる状況でもないのが、本音ではあるしな。

 元々、オレも帰るべき実家なんて無い。


「じゃあ、とりあえず、久しぶりの出欠取ります」

「え?それも必要?」

「一応、必要。元気良く挨拶するように~」


 なんて、ささやかな日常の授業風景を繰り返す。

 ある程度慣れて来ている今だからこそ、こうして余裕があるのだ。

 現代と異世界では、場所が異なれば常識も違う。


 そんなささやかな日常風景だけは、こうして守り続けていきたいと思うのはオレがまだこの異世界の環境に染まりきっていない証拠なのだろうけど。


 一ヶ月前には、日常だった出欠も終えて。

 言語が英語に切り替わって、少々バイリンガルな授業風景に様変わりはしたものの、大方いつも通り。


 今日は今までの基本的な英語や数学の授業ではなく、本格的な新しい授業を開始することもあってか生徒達はどことなく浮ついているようにも思えた。

 まぁ、浮ついているのは、オレも一緒なんだけど。


「今日は、待ちに待った特別科目、魔法授業を開始します」

「いよっしゃぁああ!!」

「こら、徳川!はしゃぐな」

「五月蝿ぇ」


 ほら、やっぱり。

 一番に騒ぎ出したのは、勿論魔法授業を楽しみにしていた生徒の一人、徳川で。

 そして、オレの注意の言葉と共に、後ろの席の永曽根からゲンコツをいただいていた。


 最近、永曽根がオレに似てきた気がする。

 口と一緒に手が出るところとか。


「ただし、オレは現在ボミット病で魔法が使えない。一応、魔法の構築理論やなにやらは先に履修をしているが、見本となるかは不明だ。なので、今回は特別講師としてウィンチェスター先生を呼んであるので、皆さん拍手」


 オレの言葉と同時に、生徒達が拍手喝采。

 意外とノリが良い連中になりつつあるのは、気のせいだろうか。


「……改めて言われると照れるな」


 そうして、紹介されたゲイルはいつも通り教室の隅に護衛として待機していた。

 だが、オレからの紹介と生徒達の拍手での歓迎に、少々口元を緩めつつ頬を染めている。

 そんな可愛い反応は求めていないから、とっとと教壇に立ってもらえるかな。

 ゲストの紹介もしなくちゃいけないし。


 ちなみにそのゲストは、


「それから、今日は王国からとある物品の貸し出しを受けているので、特別参観としてインディンガス国王が参観しています。御挨拶するように」


 というオレの言葉通り。

 用意しておいたパイプ椅子に居心地悪そうに座っていた国王陛下が今回は特別参観。


 ダドルアード王国国王にして、ウィリアムス・ノア・インディンガス。


 生徒達が、声を揃えてこんにちわ。

 こちらも、ゲイルと同じ様に、照れたような笑みを浮かべて小さく手を振った。

 というか、ちょっと驚いているように見えたのは、きっと生徒達が良い子だからだと信じたい。


 ああ、そういえば、オリビアはいつもと変わらず、定位置の永曽根の肩の上だ。

 いつも通りにこにこにこにこと授業風景を眺めている。

 癒される可愛さである。


 さて、新参教師と授業参観のゲストも紹介したところで、本題だ。


「では、今回は昼までぶっ続けで、魔法の理論を学ぼうと思う」 

「ぶっ続けぇ!?」

「鬼か!」

「いや、先生の場合悪魔…」


 そんなオレの言葉には、生徒達が激しく抗議した。

 気持ちは分からんでもない。


「落ち着け、馬鹿ども。なにも、座学を4時間ぶっ続けで受けろなんて言っていない」


 いや、オレだってそこまで鬼でも悪魔でも無いよ。

 これから、ちょっとしたメインイベントが待っているから、必然的にぶっ続けになるというだけであって。

 というか、香神に浅沼は、オレの事をそう認識しているということで間違いないんだな?

 そうなんだな?

 後で、〆る。


「ゲイル、説明」

「い、いきなりか…っ」

「御演説は得意だろうが」


 コイツが、校舎散策の際に騎士団の面々に突然、演説始めたのは忘れない。

 その後に反発した騎士団半数を半死半生の目にあわせたのも忘れていないがな。


 閑話休題。

 これから、魔法授業を履修させてくれるゲイル改め、ウィンチェスター先生にバトンタッチ。


「…え、えっと…まず、最初に、あ、改めて、」


 しどろもどろな御口舌に、若干苦笑い。

 アイツ、騎士団の前と生徒達の前では態度が正反対になるんだな。


「こ、今回から、魔法の特別授業の講師を担当することになったアビゲイル・ウィンチェスターだ。え、えっと…あー…」


 ついつい笑ってしまうのは、オレだけでは無いだろう。

 生徒達も釣られて苦笑を零しつつ、そんな初々しいゲイルの姿をハラハラと眺めている。

 国王も同じなのか、オレが教壇を降りてから椅子の上でソワソワしていた。

 アンタ、新任教師ゲイルの保護者か、何か?


 仕方ない。

 ちょっとだけフォローをしてやろう。


「落ち着け、馬鹿」

「し、しかし…今まで、教師なんぞした事が…」

「教師だと考えなくて良いんだよ。それは、ただの肩書きなんだから」

「…そうなの、か?」

「騎士団の連中にも、指南してきたんだろ?それと一緒だ」

「あ、ああ…そうか」


 やっと、理解したらしい。

 肩書きに惑わされず難しく考えず、今までやって来た通りの事をすれば良いだけの話だ。


「失礼したな。…まずは、魔法の属性について、話をしたいと思う」


 持ち直したのか、その後はスムーズに前段階の授業進行を行うことに成功した。

 手間が掛かる頭でっかちだこと。


 さて、オレもお仕事だ。

 オレは、フォローに回るべく、黒板へと向き直る。


 コイツに文字を書かせると、異世界言語になるからな。

 オレは履修し終わってはいるが、生徒達にはまだ教えていないので代筆という形。


「属性に関しては、既に知っている者もいるかもしれないが、全部で7種だ。『火』、『水』、『風』、『雷』、『土』、『聖』、『闇』。この中のいずれかの中から、最も適正の高い属性が各個人の属性として反映される」


 ゲイルの説明の声と黒板にチョークの滑る音が教室に響く。

 生徒達も興味津々の様子で、各々ノートや羊皮紙に筆記していく。

 テストは実技スタイルにしたいと思っているが、こうして筆記を頑張っているならペーパーテストも有りかもしれない。


 ああ、そういや期末テストの時期、完全に忘れ去っていたな。

 冬休み前だったっけ?

 まぁ、良いや。


 思考がぶっ飛んだので、再度修正。

 

「それぞれの属性の発現は遺伝や産まれ付きの体質などによって決まる。中には、複数の属性に適正があるものもいるので、属性が一つという概念は無い」

「ウィンチェスター先生もですか?」

「うっ…ん?っと、ギンジから聞いていないか?」


 質問が飛ぶと、何故か狼狽したゲイル。

 こらこら、簡単にうろたえるんじゃないし、オレにも助けを求めるんじゃない。


「オレはそこら辺、何も説明してないぞ」

「ああ、なるほど。…えっと、イノタ君の言う通り、私は属性を二つ以上操れる。ちなみに、『雷』が適正で『聖』と『風』も扱う修練をしているな」

「……えっ、お前、三つも扱えんの?」

「えっ?」


 そこで、2人して機能停止。

 なんだ、このお見合い。


 天井から間抜けな擬音まで響いた。

 建て付けが悪い訳では無い。


 えっと、とりあえず『雷』と『聖』が扱えるのは知ってたけど、『風』まで扱えるっていうそれは初耳だったりした。


「…そういえば、説明もしていなかったし、聞かれなかったな」

「使えてたのをなんとなく見ていただけだしな…。というか、お前、校舎の散策の時に『聖』属性が使えないって言ってたの嘘だったのか?」

「いや、あれもあながち嘘では無いんだ」


 説明をいますぐ、簡潔に求む。

 何を?

 ダークへイズが人体模型に取り憑いて動き回っていた時の話だ。


 一度、ダークヘイズが取り憑くと『聖』属性で消滅させないといけないとかなんとか。

 コイツはその答えに「このパーティーには使えるものはいない」と回答していた筈だが。


 エライ目にあったオレとしては、ついつい胡乱気な目を向けてしまう。


「『聖』属性でも、色々と魔法の種類があるんだ。攻撃型アクティブ守護型デフェンス。オレが扱えるのは守護型だけで、ダークヘイズのような魔物を消滅させるのは攻撃型だ」


 ふーん、なるほど。

 つまりダークヘイズを消滅させられるような『聖』属性の魔法は、攻撃型。

 ゲイルが以前使っていた盾やらなにやらは、『聖』属性の魔法でも、防御型に分類されるわけか。

 一応は筋は通っているな。


 じゃあ、続けて良いよ。

 理解はしたから。

 納得するかどうかは別かもしれないけど、後回しにしておく。


「ちなみに、攻撃型と守護型に分かれているのは『聖』属性だけだ。これは、属性に関して云々よりも個々人の性質が関係するらしい」


 という説明の中で、ゲイルが簡単な『聖』属性の魔法、『加護プロテクション』を発動した。

 なんとなくだが、ささやかながら身体に発光体が纏わりついているようにも見える。


「一定時間ではあるが、攻撃に対しての防御力を底上げしてくれる。物理攻撃に対してのみに有効なので、魔法を扱う敵に対しては注意が必要だがな」

「よしっ」

「ぐおっ!?」


 と、ゲイルの言葉を信じて、オレは背後から肘を繰り出した。

 ゲイルの後頭部にクリーンヒット。


 一応、気絶しない程度には威力を控えた。

 だが、彼は頭を擦るだけで、実質オレの方が肘は痛かった気がする。


 おかげで、『加護』に関しては、そこそこの精度である事は実演できただろう。

 生徒達が噴出したり、笑いを堪えたりと必死になっていた。

 ウケは取れたぞ、グッジョブ。


「いきなり、何をする!?」

「いや、確認。ただ、オレの方が痛かったんだけど」

「阿呆か!オレだって痛かったわ…っ!」


 と思ったら、精度はそうでもなかったらしい。

 向き不向きとか、得手不得手?


「ゴホン。…こうしたように、物理攻撃を無効化出来る訳ではないので、注意をするように」


 わざとらしい咳払いと共に、なんとか纏めたゲイル。


『ぶはっ!!』


 ただし、生徒達の笑いのツボは崩壊したらしい。

 笑いを堪えていた生徒達も揃って噴出した。


 ゲイルに恨みがましい目で睨まれた。

 実験と挑戦って大事だぞ、って実演で教えているだけだから良いの。


 ああ、そんな事をして時間を潰している場合じゃない。

 授業を進めてくれよ、ウィンチェスター先生。


「…腑に落ちんが、改めて授業を進めよう。次にそれぞれの属性に見合った精霊の話だ」


 そうそう。

 それで良い。


「うん、と属性とは別に、精霊が関係あるって事ですか?」

「精霊って妖精と何が違うの?」

「うっ…え、えーと…」


 だが、順調とは程遠い。

 今度は、浅沼とソフィアのダブルの質問を受けて、またしてもうろたえたゲイル。


「精霊と妖精の違いは英語で考えれば良い。精霊ならスピリット、妖精ならフェアリーだ。精霊はどちらかと言えば、万物に宿る力の根源や源の存在。妖精は悪戯好きな気まぐれの存在と考えれば楽だろう?」

「おお、そういうことか」

「お前が、一番に納得してどうすんだよ」

「ぶはっ」


 イレイザーで殴っておいた。

 ちなみに掃除したばっかりだったので、白い煙は上がらなかったので残念な限りだ。


 またしても、生徒達の笑い声が上がる。

 しかも、おい、こら。

 誰だ?今「夫婦漫才」とか呟いた奴…!


「…精霊に関しては、属性と同じように7種類存在する。ただし、精霊は7属性の他にも色々な種類が存在しているので、今回の授業では割愛させて貰う」


 さてさて、これで前置きは十分だろうかね。

 構築理念や発現のプロセスに関しては、属性を知ってからの方が良いだろう。


「じゃ、一旦、座学を中断して、課外授業を行う。全員、ジャージに着替えて、3階のリビングに集合すること」

「…えっと、グラウンドじゃなくて?」

「技術開発部門の時みたいにダイニングでもなく?」

「今回は、情報漏洩を懸念しての措置だ。グラウンドだと覗かれるしダイニングだと聞き耳を立てられても困る」


 ちょっと、困惑気味の生徒達には悪いが、これは国王陛下からのオーダーだ。

 理由は後で説明してやるから、先に移動を開始してくれ。



***



 オレ達の校舎の三階に位置するリビングは、もっぱら休憩所のような形になっていた。

 間取りは2階の教室とほとんど同じ。

 北側と南側に前面の窓と、その真下には旧校舎から拝借して来た長机とパイプ椅子が並んでいる。

 多人数掛けと一人掛けのソファーを二対ずつ設置。

 ローテーブルも一緒にして中央に纏めて、現代の小洒落たカフェテリアや応接室をイメージしてコーディネートしてある。

 奥の壁には一面に本棚を設置し、専門書以外の雑多なジャンルの本も並べてあるので、ちょっとした図書室のようなパーソナルスペースだ。


 まぁ、ほとんどの生徒はダイニングに集まっていたりするんだが、勉強熱心な奴等はこっちに来て勉強したり本を読んだりと過ごしている。


 一旦授業を休憩してブレイクタイム。

 オレ達は先にその先進的なパーソナルスペースとなったリビングに移動。

 ちなみに国王は、何故かこのリビングの様子を見て眼を輝かせていた。

 いや、あんたのところの応接室の方が、良い家具も揃ってるじゃねぇか。


 まぁ、それはさておき貸し出しを受けた物品を設置。

 この為にリビングを使ったので、先に設置だけでも済ませておかないと。


 それと、設置が終わってからの残り時間は、国王陛下達とのちょっとした意見交換だ。


「いたな…」

「(こくこく)」

「やはり、いたのか?」

「…ふむ。ギンジ殿がおっしゃるなら、そうでしょうな」


 リビングには、オレと間宮、ゲイル、そして国王陛下。

 間宮は早いもので、先ほど生徒達が解散したとほぼ同時に着替えて、オレの背後にくっ付いていた。

 何かあった時の為に、生徒達の護衛に騎士団の連中は廊下で待機させている。


 さて、何がいたか。


「……こっちにもいるんだな、間者って奴」

「(錬度は低いようですが、十中八九その道の者でしょう)」

「オレはなんとなくしか気付けなんだが、マミヤまで気付いていたとは…」


 自信を無くすな、と頭垂れたゲイルは仕方ない。

 だって、間宮に関しては気配察知や看破はほとんどプロ並だもの。


 ともあれ、何かいたのは確か。

 要は、鼠がいたのだ。

 それも等身大の。


 間者、間諜、間諜、スパイなど呼び方は様々ながら、本質は変わらない。

 許可を得ずとも敵方の様子を探れる者を指す。


 オレもあんまり自信は無かったんだが、ちょっとしたアクシデントのおかげで存在を把握出来た。


「あっちもまさか、お前がトリプルとは思っていなかったんだろうな」

「…それで、判明するのも腑に落ちんが、」

 

 そういうこと。

 天井裏からの間抜けな擬音は、十中八九この鼠さんだった。


 コイツが明かした魔法適正の三属性。

 『雷』、『聖』、『風』の三つであり、こうして複数の属性を扱える人間をダブルやトリプルなどと称する。

 かつては、全属性を操る人間もいたらしいが伝説となって久しいらしい。

 今のご時勢では滅多にいないんだとか。


 そして、この事実が判明したことにより、動揺したのはオレだけではなく天井裏に潜んでいたらしい間者も同様だった。(洒落じゃない)

 オレも気付いたし、間宮も気付いた。


「(僕が屋根裏に立ち入った瞬間も慌てふためいておりました。おそらく、それほど強くも無いでしょう)」

「だからって、尻尾掴む前に追い払うな」

「(追い払ってはいません。逃げただけです)」


 そして、なんと驚いた事に、間宮は先ほどの着替えの段階で、とっとと追っ払ったらしい。

 いや、お前やっぱり天井裏をテリトリーにしてたりしないよね。


 ただ、毎回同じように追い払うのは危険だから、次からは普通に下を通るように厳命する。

 シュンとしていたけど、テリトリーを奪ったりした訳じゃないから、安心しろ。

 ついでに、今度罠でも仕掛けておけば良いだろう?


 ちなみにではあるが、集合場所をこのリビングにしたのも、その鼠が遠因だったりする。


 教室やダイニングと違って、このリビングには天井裏が無い。

 それは、オレも間宮も確認済みで、すぐ上は人が入る隙間も無い骨組みと屋根となっている。


 だからこそ、ここなら天井裏から不躾な闖入者から聞き耳を立てられる心配は無い。


 さて、その不躾な鼠の目的はなんだろうか。

 答えは簡単。


「探りたいのは、お前達の事だろうな」

「おそらくは」


 そう、オレ達の事。


「…オレの属性の件を含め、秘匿している内容は多いからな」

「(この時期になってやって来たのは何故でしょう?)」

「大方、キメラ討伐の一件で、オレの戦闘能力の有無が公になったからだろうな」


 目的は、オレや生徒達の危険指数の把握だろう。

 今まで内々でオレだけは、戦闘能力の有無を公開してはいたが、騎士団の噂や酒の肴程度の話題にしか上らなかった。


 それがキメラ討伐の一件で公になった故に、一般市民にまでオレ達の学校の話は広く伝播された。

 内情を少しでも探りたいという狸の親分が現れ始めたのだろう。


 もしくは、


「オルフェウスに伝わっていたオレ達の捕縛の経緯も、どこから伝わったのか気になるな。もしかすると、ここだけじゃなく王城にも潜んでいる可能性は高いが?」

「お恥ずかしい話ですが、おそらく間違いないでしょうな。我等が公開していた情報よりも、より正確に白竜国国王は把握されていた様子でしたので、」


 国内では無く、国外からの刺客。

 つまり、敵は国内の貴族や権力者のみならず、他国である可能性。


 予想通りというべきか、やはり王城にも間者がいた可能性は否定出来ない。

 伏せていた筈の内容が伝わり過ぎていた。


 少なくとも、オレ達が召還されてくるより前から、王城に潜伏している鼠だろう。

 じゃないと、伝わる期間が短過ぎるし、ある一定の官位を持っている事も予想は出来る。

 おそらく、国王陛下未満の騎士団以上。


 国王陛下が外れているのは、言わずもがな。

 だが、それ以外の宰相から大臣から下っ端の騎士まで、油断は出来ない。


 オレ達が捕縛されて尋問拷問を受けた時、あのメイソンが大法螺を吹きまわってくれていたらしいのでやはり騎士連中には、噂が浸透していたと考えて間違いない。

 人間を辞めさせられた彼には一時期同情をしていたが、今になって考えるとよくも面倒を増やしてくれたものだ。

 もう同情はしない。


 ちなみに、ジェイコブが今はメイソンを飼ってるらしいけど、非常食?


 ああ、話題が明後日の方向にトリプルアクセルしてしまった。

 転倒しかねないので、話題を戻す。


 鼠の洗い出しは相当時間が掛かる上に、特定も難しいだろう。

 このまま、泳がしておいて尻尾を掴みたいとも思うが、それだと情報の漏洩に関しての懸念が増えるばかりだ。

 確保は必須だな。


「ひとまず、様子を見よう。もし、こっちで捕縛が可能ならしておくが、それで良いか?」

「否やはございません」

「殺してしまった場合は、」

「全て、ギンジ殿の裁量にお任せいたします」


 言質は取ったので、これで勝手に動いて捕まえたとしても万が一殺したとしても問題は無いだろう。

 こっちには元そういうお仕事のオレと天井裏を知り尽くした間宮もいるので、無問題。


「騎士団にも通達をしておくか?」

「いや、むしろそれは出来ない。万が一、騎士に紛れ込んでいた場合、警戒されて尻尾を掴めないんじゃ話にならないからな」

「…気は乗らんが、了承した。ただ、こちらでも少しだけ間謀を使うが、それは大丈夫か?」

「お前の信頼に足る人材ならな、」

「心得た」


 おおまかな内容は、このままで良いだろう。

 次の定例報告会で、最終調整しても間に合うとは思うし。


 差し迫った危険は無いと思う。

 だって、間宮ですら勘付いた錬度の相手。

 もしかしたら、間宮でも制圧出来るかもしれないと考えると、うん。

 危険というよりも、むしろ同情してしまう。


 まぁ、楽観的に考えるのは、程ほどにしておこう。

 次に鼠が入り込んだ時には、オレ達も本腰を入れて捕獲に回ることにするし。


 とりあえず、会議は終了しよう。

 丁度良く生徒達も、着替えてリビングに上がってきたようだ。


 お待ちかねのメインイベント。

 ちょっとした実技を開始します。



***



 全員が揃ったところで、今回のメインイベントを紹介する。

 説明は引き続き、ウィンチェスター先生からお願いします。


 彼の眼の前には、長机の上に鎮座する特大サイズの水晶玉。

 大きさだけで言うなら、大人の人間の頭と同じぐらいのサイズだ。


「これは、『加護の水晶プロテクション・クリスタル』と言って、適正のある精霊の属性を判明させる為に使う媒体だ。ちなみに、これを行えるのは、王城と冒険者ギルドのみ」

「普段は貸し出しをしていないんだが、今回は特別に授業の為に貸し出して貰った。くれぐれも他言無用で頼むぞ?」

『はーい』


 と、いう説明と共に、ゲイルが台座に載せた水晶の説明を行う。


 『加護の水晶』という名前の通り、加護をしてくれる適正のある精霊を判断してくれる魔法具の一種。


 一度、オレは使っているが、精度は折り紙付き。

 なにせ、秘匿はされていたものの、『闇』の精霊の適正が判明したのもこの時だったからな。


「やることは簡単だ。手を当てて、属性の問い掛けを念じるだけで良い。魔力があれば反応するし、水晶が適正を見極めてくれる」


 難しい顔をしていた生徒達も、彼の説明で安堵した模様。


 仕組みは簡単だ。

 水晶が魔力を認識して、勝手に適量を抜き出してくれる。

 魔法具という認識のままに、魔力に触れればその都度反応するだけだし、適正に関しては色で示してくれるのでわかり易い。

 リトマス試験紙と同じだと考えれば良い。

 オレの時も魔力なんて何も考えずに、ただ触っただけで反応した筈だったからな。


「出席番号順に頼む。えっと、アサヌマ君からだな」

「でゅふふ、これが魔法使いの一歩だねっ」

「瞑想せんで良いから、さっさとしろ」

「ぶひっ…先生、酷い!感慨に耽らせて…っ」

「時間が無くなるわ」


 まずは浅沼。

 瞑想も感慨に耽る時間も要らないから、さくさく頼む。


 ゲイルは苦笑を零しているだけだったが、コイツは寛容すぎる。


 さて、そんな浅沼の色は、


「おお、いきなりだな」

「えっ、なに、この色!?」


 水晶は淡い青を発色したかと思えば、マーブルのように混ざって青緑色。


「おめでとう、ダブルだ。『水』と『風』に適正があるようだな」

「うっひょお!やったやった!!」


 驚いた。

 いきなり、ダブルが出るとはオレも思わなかったし、ゲイルや国王でも思ってもみなかったようだ。

 ゲイルは元々だから浅沼と一緒になって喜んでいるが、国王は目を見開いて戦慄いている。


「是非、当方の騎士団で採用を…っ」

「今は断る。卒業してから、本人に聞け」


 と思ったら、まさかの勧誘が始まった。

 勝手に生徒の引き抜きをしないで欲しい。

 卒業してからなら個人の自由裁量だし、生徒である今は進路に関してはオレが決めさせてもらう。


 さぁ、とんでも無いスタートを切ったが、


「では、2番のイノタ君」

「うう、浅沼君の後とか、緊張する~」


 やや緊張気味の伊野田。

 大丈夫だ。

 オレだって、適正は一つだったからな。


 次に水晶が映したのは、真白な光。


「おお、これまた珍しい。『聖』属性だ」


 またしても、吃驚。

 それはゲイルも同じなようで、詳しい解説までしてくれた。


「白光の加減で、大体攻撃型か守護型か判断出来るんだが、イノタ君のは一番珍しい。両方の素質があるぞ」

「えっと、それってどっちも使えるって事ですか?」

「その通りだ」

「やった!これで、あたしも少しは戦えるって事ですよねっ」


 あれ?もしかして、ウチの生徒達って魔法の属性が、ほとんど珍種?

 属性偏っているの、まさかオレだけじゃないよな?

 ちょっと、不安になって来たんだけど。


「では、次にコウガミ君」

「…なんか、ゲイルさんに君付けで呼ばれるのって、違和感あるな」

「そうか?今までもそうだった気がするんだが、」

「香神で良いぜ」

「では、そうしよう」


 ちゃっかりフランクになっている三番手香神。

 彼が水晶に手を触れると、


「うん?」

「あん?」


 途端に、表情が厳しくなったゲイル。

 ええ、またしても珍しいパターンとかじゃないよな?


 水晶の色は、俄かには判別できない色が重なり合っている。


「…判別が付かないな。…色で言えば『雷』なのだろうが、」

「…な、なんか混ざってるのか?…灰色みたいな、靄か?」


 一瞬、ドキリとした。

 まさか、『闇』も混ざってるとか言わないよな。 


「とっても、珍しいですわ。『雷』と『水』の複合ですの」


 と、ここで、動いたのはオリビアだった。

 彼女は、ふわりと浮き上がって水晶玉を覗き込みながら、香神の周りへと視線をめぐらせている。

 おおかた、適正のある精霊を目で確認していたのだろう。


「ダブルなのか?」

「…えっと、そもそも複合って何?」

「いえ、ダブルと同じです。『雷』と『水』に適応しているようですわ。ただ、属性的にこの二つの精霊は相性が悪いんですが、香神様の周りの精霊さんは仲良しさんのようですの」


 えー?

 そういうこともありなのか?


「…つまりは、やっぱり3人連続で珍種という事か」

「「「珍種って言い方止めろ(て)!」」」


 吃驚な事態に思わず本音が漏れた。

 そして、珍種こと珍しい属性の3人から揃って怒られた。


「凄いな…流石は、ギンジの生徒だ」

「それ、どういう意味?喧嘩売ってんなら、」

「純粋に褒めただけだ!!」


 ごり、と頸椎に中指の骨を当てる。

 延髄を押さえてるからこのまま真横に動かしたら結構な確率で昏倒できるけど、良い?

 授業が進まなくなるので、実際にはやらないけど。


 褒められているのか貶されているのか、微妙なラインだったので脅しておいた。


「さ、さて、気を取り直して、次はサカキバラ君」

「あははー、オレの名前言い辛そうですね」

「済まんな。発音がまだ慣れなくて、」

「なんだったら、颯人で良いですよ」

「うむ。なら、ハヤト君でよろしく」


 こっちもこっちでフランクだな、榊原。

 オレも今度颯人って呼んだらどういう反応するのか、試してみたい。


 そんな彼が水晶に手を触れると、


「むっ…」

「おっと…」

「あ、あれ?」


 今度は、はっきりと確認できた。

 純粋な色だ。


 黒。


 オレ達も、自然と表情が険しくなった。


 いち早く異変に気が付いたのか、榊原は眉を下げてしまっている。


 ゲイルは口を噤んだ。

 仕方ないので、今回はオレから説明をしてやろう。


「属性は『闇』だ」

「…えっと、珍しい…の?」

「ああ。今のところ、発覚しているのは、オレぐらいだ」

「先生も…?」


 明らかにほっとした様子の榊原。

 多分、オレも一緒だと分かって安堵したのだろう。


 部屋に満ちてしまった異様な空気には、若干気後れしているようだがな。


 いや、オレ達もまさかここで『闇』属性が出てくるとは思っても見なかった。

 榊原は完全にノーマークだったからだ。


 オレは勿論の事だが、予想は永曽根だけだった。

 ボミット病に『闇の妖精』が関係あるのは予想していたが、ウチのクラスにもう一人存在したとは驚きである。


 ただ、ここで気になるのは、体の問題。


 オレや永曽根はボミット病を発症しているのに、榊原はボミット病を発症していない。

 そういや、コイツは特に大きな怪我も病気も無くここまで来たから魔法への耐性を調べていなかったんだっけ。


 まだ永曽根やミアの属性を調べていないので、微妙な憶測ではあるが、これだと当初持っていた確証が薄くなるんだが。


「オリビア、分かるか?」

「あ、の…非常に言いづらいのですが、」


 って、あれ?

 今度は、オリビアも眉を下げてしまっている。


 ええ…っと?コイツの名前以外にも、言い辛い事って何?

 「失礼だねっ」と榊原には、肩をバシッと叩かれた。


「サカキバラ様からは、ほとんど魔力を感じませんの」

「…えっ?」


 魔力を感じない?


 何故?


「オレ、なんか魔力が極端に少ないみたいね。前に、オリビアちゃんにも聞いたけど、」

「えっと…魔力が少ないと、病気は発症しないのか?」

「沈殿する魔力も無いようですので、」

「え…あ、そう?…なのか?」


 こてりと首を傾げると、榊原に苦笑された。

 ついでにオリビアからも笑われた。


 ……えっと?

 そういう簡単な問題なの?


 確かにボミット病は、身体に沈殿した魔力が排出されずに害を齎す病気だ。

 そもそも魔力が少ないから発症しないって、それはそれで有りなのか?


「産まれ付きの体質の問題ですわ。今後の修練次第ではどうなるか分かりませんけども、少なくとも今はサカキバラ様の魔力はほとんどありません」

「えーっと、つまりはオレだけハズレくじって事かな?」

「それを言うなら、オレもハズレだから安心しろ。ボミット病を発症しなかっただけ、良かったと思え」

「あ、それもそうね」


 うわぁい、楽観的。

 先程の不安げな表情から一転して朗らかに笑った榊原。

 ちょっと悔しくなったので、アイアンクローを施しておいた。


「なんでっ!?」

「ボミット病の苦しみを少しでもお裾分けしてやろうかと、」

「それ、教師の台詞!?」


 ごもっとも。

 とりあえず、榊原の『闇』属性と魔力の極端な少なさに関しては保留にしておこう。


「では、次にスギサカ…エマ君」

「エマで良いよ、ゲイルさん」

「ああ、済まんな。では、エマ君」


 なんとか、持ち直して出席番号5番のエマへ。


「ああ、一番分かり易くて助かるな。属性は『風』だ」

「変な能力じゃないよね?」

「ああ、むしろオールラウンダーで重宝する属性だ。攻撃も守備も出来る万能型だな」

「よしっ」


 とガッツポーズをしたエマ。

 何故かドヤ顔でオレに向かってピースサインをして来たが、あてつけか何かだろうか?

 若干、げっそりしてしまう。

 その様子を見てゲイルや生徒達にまで笑われてしまった。


「では、次に…ソフィア君で良いか?」

「うん。同じ苗字が2人もいるから、呼びづらいでしょ?」


 杉坂姉妹も、どうやら新しい先生に対して、フランク路線らしい。

 あれぇ?オレとの最初の時は、とんでもなく反発してやくれませんでしたかねぇ?


 まぁ、今はどうでも良い事か。

 男性に対してもフランクになれたって事は、良い事だ。


「うん。間違いなく『水』属性だな」

「混ざってないし、属性は一つだけみたいね?」

「いや、そうでもない。『水』の属性は、『火』と『雷』以外であれば、どの属性とも相性が良い」

「修練を頑張れば、他の属性も扱えるって事?」

「そういうことだ」


 ふむ、万能型の属性だったんだな。

 浅沼もそうだったが、やはりウチのクラスの生徒は魔法の才能に関してはぴか一なのかも。


 逸れに比べて、オレどうしたよ?

 心底げっそり。


 げしょっとしているオレはさておき、そのままゲイルは授業を再開。

 友人が若干冷たい。


「次にトキワ…、カナン君で良いか?」

「ええ僕達も兄弟ですので。改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 お次は河南。

 水晶に手を触れると、見事に土色へと変化した。

 しかし、どちらかと言うと色が斑だな。


「おそらく、彼もダブルだな。『土』は分かり易いが、『水』と『風』の判別が付かないな」

「あ、違います」


 ここで、副担任のオリビアさんから補足が入ります。

 魔法に関しては彼女が副担任で良いと思うんだ、もう。


「彼、トリプルです」


 爆弾発言が飛び出すけどな


「え゛っ、マジで?」

「はい。彼の周りには、基本的には『土』が多いですが、『水』と『風』の精霊も集まっていますもの。元々相性は悪くない精霊達なので、喧嘩もしていないようです」


 マジで驚いた。


 はい、河南も魔法の才能ぴか一だそうです。

 本気でこのクラスどうなってんの?


「…お前の生徒は秀逸だな…」

「…それ、オレもどうなってんのか、知りたいよ」


 ゲイルも流石に喜ぶよりも呆れてしまったようだ。

 珍しい珍しい言ってたのに、ここまでダブルやらトリプルやら続くともはや珍種でもなんでも無いんじゃないか?

 増量キャンペーン中の某数字アイスパーラーのアイスの段数じゃあるまいし。


「さて、では…キノ君で良いか?」

「あイ、先生」

「では、触ってみてくれ」


 お次は紀乃だ。

 まぁ、一つの属性は『水』で判明しているけど、これまた吃驚する事が無いように願いたい。


 だが、


「うむ…」

「…おい、まさか…」

「おそらく、コウガミと同じだな」

「…キヒヒッ!先生、御愁傷サマっ」


 願いは空しく、黄色の発光と共に薄く幕を張ったかのような灰色の靄。


「『雷』と『水』のダブルか」

「そうですね。ただ、どちらかと言えば、『雷』が強いようですわ。ただ、コウガミ様と同じで喧嘩してませんの。非常に珍しい組み合わせです」


 先ほど、香神の時にも同じ様に水晶が反応していたが、ここまで続くといっそシュールだな。

 何?ウチの子達。

 若干、オレが怖くなって来た。


 常盤兄弟、魔法に関しては兄弟揃ってハイスペックって事だな。


「では、次にトクガワ君だな」

「オレも克己で良いよ」

「そうか。よろしくカツキ君」

「克己で良いってば!」


 五月蝿い。


「じゃあ、水晶に触れて、属性を問い掛けて、」

「オレの属性はなんですかっ!?」

「……いや、触ってからだ。それに、念じるだけで良いんだが、」


 阿呆か、お前は。

 そして、五月蝿い。

 ただ、五月蝿いけど、良くやった。


 ちょっとだけ沈んでいた空気が、徳川のおかげで霧散した。

 コイツは相変わらず、ウチのクラスのムードメーカーで良さそうだ。


 そんな徳川の属性はといえば、


「ああ、これは完全に『火』だな」

「うわぁ、見事に予想通り…」

「予想通りってなんだよ、先生ッ!!」


 結局、五月蝿い。


 だからちょっと静かに、という意味も込めてゲンコツを落としておいた。

 「口で言えよっ!」と怒鳴られたけど、何度口で言っても分からんからだ。


 徳川が水晶に触れた途端、真っ赤に変色したのはある意味で笑えた。

 元々徳川の性格含めて、それっぽいとはある程度予測していたからな。


「あ、でもでも、攻撃特化って事で良いんだよな!」

「ああ。前線で活躍する騎士のほとんどが『火』属性だ。実は、一番この属性が多い」

「だろっ!?さっすがオレ!!」

「声のボリュームを抑えろと何度言えば分かるのか、」


 だから、五月蝿いというに。 

 ゲイルも思わず耳を塞いでいるじゃないかバカタレ。


 とりあえず、今回は素直にゲイルに謝っておいた。

 気をとりなおして、次に進もう。


「えっと、次はナガソネ君だな」

「オレも君はいらん。名前は先生と似ているから、苗字で良いしな」

「ああ、ではナガソネ。よろしく」


 ちょっとしたアクシデント続きながらさくさく進めて永曽根の番だ。


 とりあえず、現段階でのボミット病の確証はコイツの結果次第で決まる。


 自然とオレも集中してしまっていた。


 しかし、ふと、永曽根が顔を上げる。

 彼と視線が合った。


 おそらく、自分の体質について思うところもあったのだろう。

 先ほども榊原の属性の件で、ボミット病に触れていたし。

 コイツは勘も良ければ、頭も回るから自然と気付いただろうな。


 こくりと頷けば、彼も少し不安げながらも頷いた。


 大丈夫だ。

 どんな結果だろうが、ここにはお前の味方しかいないから。


 彼が、水晶玉に触れる。


「……やはり、か」 


 オレもゲイルも、むしろ予想通り。


 水晶に浮かんだのは、黒。

 『闇属性』だ。


 これで、ボミット病発症の共通点が見付かった。

 オレも永曽根も属性は『闇』。

 これで、ミアも同じであれば、ある程度は発症の予想が出来る事になった訳だ。


 ゲイルが難しい顔をして、思わず唸ってしまっている。


 だが、オレはそこまで、悲観的に受け止めてはいない。

 少々残念な結果とも言えなくは無いが、病気の研究でのみ論じるなら成功だ。


 共通点さえ見付かれば、後は予防だけで良いのだから。


「先生は、気付いてたんだよな?」

「お前の結果次第の半身半疑だったけどな」


 苦笑と共に、彼のツンツンした頭を撫でる。


「大丈夫だ。オレも榊原も一緒にハズレ者なんだから、少しずつ解決して行けば良い」

「ああ。ありがとな、先生」

「ハズレ者同士、仲良くやってやろうじゃない?」


 そんな榊原の言葉も受けて、永曽根も肩の力が抜けたようだ。


 理解はしたのだろう。

 不承不承とした表情ながらも、永曽根が頷いて生徒達の輪の中に戻った。


「最後に、マミヤだな。君は、もうこの呼び方ですっかり慣れてしまったが、」

「(こくり)」

「では、このままよろしく」


 ゲイルの言葉通り、最後に間宮。


 コイツは徳川や永曽根と違って、予想も何も出来ないんだが果たしてどんな属性が出てくる事やら。


「ほお…」

「……?(こてり)」


 唸るゲイル。

 首を傾げる間宮。


 水晶玉は確かに反応しているが、どちらかというと判別が付かない。

 かろうじて分かるのは、緑なので『風』と何かなのか?


「…オリビア、解説頼む」

「はいですの。えっと、マミヤ様もトリプルのようです」


 えー?

 お前もかよ。


 思わず間宮を凝視したら、ドヤ顔が返って来た。

 畜生。


「『風』と『水』に適正がありますが、後一つは『土』か『火』のどちらかとしか分かりませんわ」


 えっと、オリビアも分からない?

 首を傾げてみると、彼女も同じく首を傾げて「微か過ぎて判別が付きませんの」と苦笑されてしまった。


「やっぱり、最後まで珍種揃いだったか」

「(いくら銀次様でも、ご無体です)」


 正直に言ったら、間宮にも苦笑を零される。

 今日は皆して苦笑三昧だな。


 お前まで万能型かよ。

 ちょっと師匠の威厳がどこかに逃げ出してる気がする。

 捜索願いを出すべきか、否か。


「(珍しさでなら、銀次様には負けます)」

「お前、意外と不躾だよな」

「Σッ!?」 


 とりあえず、やっぱりアイアンクローを敢行しておいた。

 口は災いの元って諺を良くその脳みそに書き込んでおけ。


「ふふっ…お前のところにいると飽きないな」

「けっ。「特別学校」を改めて、「魔法学校」にしてやろうか」

「それ、著作権引っ掛からないの?」

「伏字使うからセーフだろ」


 若干、やさぐれ気味のオレ。

 彼は苦笑を零しつつ、オレの頭を撫でようとした。

 叩き落したけど。


 著作権も別にワー○ーとか、○・K・ロー○ング氏の名前を出さなきゃ大丈夫だろ。

 一気にファンタジー色が増えたけど、そこまで魔法に拘っている学校でも無い。


 閑話休題それはともかく

 学校の名前変更云々の話は別に置いておくとして、これで生徒達の属性も分かった。


 浅沼が、『水』と『風』のダブル。

 伊野田が、『聖』でオリビアと一緒。

 香神が、『雷』と『水』のダブル。

 榊原が、『闇』でオレと一緒。

 エマが、『風』でオールラウンダー。

 ソフィアが、『水』だが今後の修練次第。

 河南が、まさかの『土』、『水』、『風』のトリプル。

 紀乃が、『雷』と『水』で香神と一緒。

 徳川は、『火』で予想通り。

 永曽根が、『闇』でこれまたオレと一緒。

 間宮も、『風』と『水』と後一つは不明ながらもトリプル。


 こうして見ると、豪華なもんだな。

 今後の修練の割り振りを考える為に、メモはしておいた。


 この学校、魔法だけで言ったらオレだけじゃなく生徒達も規格外だった。


「とりあえず、オレを含む永曽根と榊原は一旦、魔法授業に関しては保留な」

「ああ」

「はいよー」


 『闇』属性3人は、ちょっと発動のプロセスやらなにやらが違うらしいので、魔法の講習は一旦保留。

 3人とも同じだから、悲しくなんて無いけどな。

 魔法の適正があっただけでも、良かったと思うことにしよう。


 虚しくなるけど。

 げっそり。


 とはいえ、げしょっとしている訳にもやさぐれている訳にはいかない。

 気を取り直して、今後の授業を潤滑に進める為の連絡事項を淡々と行う。


「じゃあ、20分の休憩を挟んで強化トレーニングに移行」

「ああ、だからジャージに着替えたのね」

「属性を計るだけなのに、と思ってたけど、」

「危ないことがあるからじゃなかったんだ」

「そういうこと」


 女子組が納得した様子で、生徒達を代表して頷いた。

 ただし、今日はただのトレーニングでは無く、今回魔法授業を始める為のもう一つのイベントを用意している。


「属性も判明したところで、今度は魔力の数値を測る。今回、外で行うことにしたのは暴発も有り得るかだ」


 というオレの一言で、のほほんとしていた生徒達が青褪めた。


『それ、今言う事!?』

『危ないことは無いんじゃなかった!?』


 生徒達揃ってブーイング。

 気持ちは分からないでもない。


 だけど、オレもらしいとしか言えない。

 だって、魔力の数値を測るっていうのは、オレもやった事無いから知らないもん。


「万が一ってだけだ」


 一応、多分、念の為。

 ゲイルからはそう聞いている。


 もし、そういう事態になったら、彼が全責任を持って盾なり壁になってどうにかしてくれるらしいからな。


 そんなオレはどうやったら暴発するのかどうかを考え中だけどな。

 ふははは。


「お前、何か怖いことを考えてないか?」

「……別に、暴発させてみたらどうなるのかな、とか考えてねぇし」

「考えてたな!どうやったら暴発するのか考えていたんだな!?」


 なんで、バレたし。

 こっちの異世界人、みんなエスパーとかじゃないよな。


 珍しく今回は、オレがゲイルに説教を食らった。

 本当に珍しい事もあるものだ。


 またしても、「ぷぷっ、夫婦漫才」とか聞こえたけど、この声は浅沼だな。

 よしっ、後でまとめて〆る。


 そういや、もう一人の異世界人が、自棄に静かだな。

 言わずもがな、国王陛下だったりしたけど。


「…是非とも、是非っ、ともっ、我が国の騎士団へと所属していただけませんかッ!!」

「却下だっつってんだろ」


 まだ、その話を引っ張ってたの?

 卒業してからの個人の自由裁量だって言ってんじゃねぇか、コノヤロウ。


 ってか、号泣しながら言われて思わず引っ叩いちゃったけど、この国の王様本気で大丈夫?


「…お前だからだろうけどな」

「えっ?なんで?オレまでいつからフランク認定?」

「お前が寛容すぎるからじゃないのか?」

「…どこが?結構な頻度で、不敬罪擦れ擦れな事してるけど?」


 これが本当の独裁国家とかだったら、軽く10回は首が飛んでる気がする。

 だって謁見の時みたいに最初っから最後まで不敬な言動しか取ってないもん。


 まぁ、それを言うなら、すぐさまこの国を離れてやれるぐらいには、既にお金も余裕も出来てるけど。


 ともあれ、次のイベントは実技兼体育である。

 オレもジャージに着替えて来よう。

 背広で動けない事も無いけど、体育とか強化訓練は基本ジャージでやりたいし。


 ああ、そういや着替えで思い出したけど、


「ああ、後…間宮」

「?(こてり)」


 コイツへの注意も忘れずに。


「今度は天井裏を通るんじゃないぞ」

「Σッ!?」

「なんで分かったの!?って顔をするなっ!さっきも危ないって言っただろうが!」

「(ふるふるぶんぶん)」


 お前、さっきの言葉を忘れているようだから、もう一度言っておく。


 捕縛できる時には捕縛するが、しばらくは天井裏は使わないように。

 いつ何時、鼠が戻ってくるかも分からないんだからな。


 果たして分かったのか分かっていないのかは不明だった。


 とりあえず二度目のアイアンクローで〆ておいたが、仕方ない。

 手のかかる弟子である。



***



 まだまだ続いております、新参教師ゲイルによる魔法講座。


 コイツは地味にトリプルとかいう珍しい属性持ちだった事に加え、『八文節』までは使えるハイスペックだったので講師として適任だった。

 新米らしく大慌てしているみたいだけど。


 さて、今度は場所を移して、裏庭のグラウンドに集合。


 オレも生徒達も上着を着て、足元はブーツ。

 各々マフラーや手袋で防寒はしっかりとしながらも、ジャージ姿で集合した。


 かく言うオレや、ゲイル国王陛下や騎士団の連中も防寒具着用。

 オリビアも勿論、防寒具込みでモフっている。

 この間、新しく青と水色の編みこみマフラーを新調してやったから、更に可愛さがレベルアップしていた。

 ああ、癒される。


「こら、ギンジ。また、余計な事を考えて…」

「何が余計な事か。オリビアが可愛いから、癒されているだけだ」

「照れてしまいますわ、ギンジ様」


 癒されていたらゲイルに叱られた。

 照れたオリビアがまた可愛らしいけど、そろそろロリコン認定されても困る。


 閑話休題。

 授業に戻ろう。


「先ほど、属性を調べたが、今度はこちらの魔導装置で魔力を測定する」


 グラウンドの真ん中に設置されたのは、今度は等身大のパンチングマシーンのようなものだった。


 全長は大体1メートル強。

 柱のような約160センチぐらいの台座の上に、『加護の水晶プロテクション・クリスタル』と同じ大きさの水晶玉が嵌っている。

 それを中心に、どんな素材で出来ているのかは不明だが、モニュメントで装飾されている。

 なんか、パリの美術館とか博物館の前庭とかに設置されていそう。


「『測定魔導具』と言って、文字通り魔力の測定用の魔導装置だ」


 初見ですので、オレも興味津々。


 …あれ?でも、魔導具と魔法具って何が違う?

 早速、ウィンチェスター先生に質問。


「『魔導具』と『魔法具』では何か違うのか?」

「ああ、そうか。まずはそっちを先に説明した方が良さそうだな」


 オレの素朴な疑問に、ウィンチェスター先生も丁寧に答えてくれる。

 コイツ、教師なんてやった事ないとか言いつつ堂に入っているじゃないか。


「『魔導具』は、水晶や魔水晶などの大型の媒体と魔法陣の組み合わせで発動するものだ。これは任意の魔法陣が組み込まれているが、どちらかというと一般に流通していないものになる」


 そうして、ゲイルがその『測定魔導具』の水晶に触れる。

 すると水晶の表面に幾何学模様が浮かび上がり、その後幾つかの異世界言語が表示された。

 スマホの液晶画面みたいな感じ。


 起動が完了すると、水晶玉には文字が消え、凪のように静かになった。


「水晶や魔水晶は、今度何が違うんだ?」

「魔力を介入させるところは変わらんが、簡単に言えば水晶には魔力が篭もっておらず、魔水晶には魔力が篭もっている。

 水晶は媒介として魔力を見る事が出来る。だが、魔水晶は基本的には魔力を吸収して溜め込むだけだ。水晶ならば補助や確認、魔水晶であれば攻撃用魔導具に転用できる」


 つまり、先ほどの『加護の水晶』や今眼の前にある『測定魔導具』は、文字通りの意味しか持っていないって事か。

 逆に以前のキメラ討伐で手に入れた魔水晶辺りは、魔力を吸収して溜め込んでいるからそのまま放出型の魔導具に使える。


 ちなみに、後からゲイルに聞いた所、攻撃用の魔導具に関しては、王国がそのほとんどを管理しているそうだ。

 形状は砲台から盾のようなバリア機能を有した物など。

 移動させるのに、大変な労力と手間の掛かる大型のものらしい。


 オレの保有しているキャリバー50.とか、ミドルレンジ以上のバズーカみたいなもんか。


「次に魔法具は、魔法陣を組み込まれたもので、水晶や魔石によって反応する小型のものを差す」


 と、彼が目を向けたのは、オレの腰にぶら下がったポーチ。


 中には魔力放出型の首輪型の魔法具と魔石のストックが入っている。

 これを持っているのは、永曽根も一緒。

 オリビアがいるからと言っても、常に準備を怠らずに携帯している。


「一般的に流通しているものも、魔導具では無く魔法具だ。膂力の底上げや補助、魔力の放出やその強化などの機能を有し、値段も割と安価に手に入れる事が出来る。ギルドなどと提携している商店や武器屋、防具屋で買う事も可能で、形状も色々なものがある」


 形状は武器や防具、靴や帽子やアクセサリーなどと多種多様らしい。

 オレが持っている魔法具も首輪の形をしているし、ゲイルも腰帯に魔法具を使っているらしい。

 ちなみに、魔力制御機能付きの腰帯らしい。


 その辺りは、化け物並みの魔力持ち同士、しょっぱい理由だよなと共感できた。


「既に小さく加工された水晶や魔石を扱うので、形状が限られて来るというのが主な理由だが、携帯に便利であると共に使い勝手が格段に高い」

「なるほど」


 ちょっとした疑問に、しっかり答えてくれてありがとう。

 今回は素直にお礼を言っておいた。


 ら、


「雨でも降るのか?」

「どういう意味かな、ウィンチェスター先生?」

「痛い、痛いっ痛いッ!!」


 怪訝な表情で、真面目に返されてしまった。


 今度はこめかみに中指の骨を押し当ててぐりぐりしてやろう。

 地味にとんでも無い頭痛が催されるから、力加減は間違えないように注意。

 以前は良く徳川に使っていた。


 そういや、最近使ってないや。

 甘え癖はまだ治らないけど、最近は声のボリューム以外は良い子に進化中だからな。


 さて、気を取り直して、


「じゃあ、その『測定魔導具』の説明に戻ってくれ」


 お邪魔しました。


「まぁ、特筆して説明するものでは無いが、見本を見せた方が早いだろう。数値に関しては気にしなくて良い」


 という前置きのおかげで、生徒達も肩の力が抜けている。


 そりゃ、20年以上は使っているコイツと、最近魔力を持ち始めた生徒じゃ比べようが無い。

 この数値で成績を決めるなんて事もしないから、安心しろ。


「『加護の水晶』と同じで、こうして手を触れるだけだ。魔力は先ほどと同じように勝手に適量を抜き取られるので多少の脱力感を感じるかもしれないが、害は無いので安心して欲しい」


 そう言って、ゲイルが『測定魔導具』へと触れる。

 ぼそりと、「何年ぶりだろうな…」と呟いていたのは、聞こえなかった振りをしたかったが、


「………おい、」

「…ッ…こ、故障だろうか…!?」


 前言撤回。

 ばっちり聞こえたぞ、コノヤロウ。


 慌てて取り繕おうとしているのを無視して、殴った。

 「痛いっ!」と情けない悲鳴が上がったが、甘んじて受けろ。


 水晶に浮かび上がるようにして表示された数値。

 問題外だった。 


 それは、オレが胡乱気な顔をするには十分過ぎるもの。


 生徒達も思わず歓声よりも先に、「うわぁ」と呆れ返っていた。


 しかも、国王まで目をまん丸にしちゃってんじゃねぇか。

 騎士団は当たり前のように頷いているけど、納得しているのはテメェ等身内だけだ。


 おいこら、なんて数値を叩き出していやがる。

 これじゃ、そもそも生徒達の見本どころの話じゃねぇだろ。


 表示された数値は『9999』。

 これ、もしかして、カンストしてねぇ?

 というか、平均がどれぐらいなのか分からないから、比べようが無いけど?


「誰が、最高数値を叩き出せと言ったか!!」

「お、オレも数年ぶりだったから知らなかったんだ!!昔は、まだ6000台だった!!」

「十分高い数値じゃねぇかよ!」


 コイツだって、人の事言えねぇ!!

 誰だ人を魔力オバケみたいに言っていた奴は!


 とりあえず、説明を頼む。

 比較対象が無いから、どうするべきかも判断が付かんし。


「だ、大体騎士団の見習いで、100~300相当、正式な騎士団ならば最低でも400だ。以後は、数値が上がるごとに、騎士団の序列も上がっていく」


 涙目になったゲイルからの補足説明はこう。


 ・見習い騎士/100~300。

 ・正規騎士/400~500。ただし、個人差により前後。

 ・序列下位の部隊長、もしくは団長/600~1000。

 ・序列中位の部隊長、もしくは団長/2000~3000。

 ・序列上位の部隊長、もしくは団長/4000~5000。

 ・最高位の騎士団長ゲイル/6000~上限無し。


 、だそうだ。

 ついでに、特別階級として、魔法に特化した魔術師部隊があり、


 ・見習い魔術師/1000~3000。

 ・魔術師部隊所属/4000~上限無し。

 ただし、上限でも6000に届くか届かないか。


 という事になる。

 ちなみに、騎士以外でも冒険者や傭兵でもランクがあるらしく、


 ・SS/6000~上限無し。

 ・S/4000~5000。

 ・A/2000~3000。

 ・B/600~1000。

 ・C/400~500。

 ・D/200~300。

 ・E/~100。


 と、細かいランクで分けられている訳だ。

 こうして見ると、このカンストがどんだけの意味かは分かるだろう。


「テメェは序列も数値も最高って事だな、良く分かった」

「いや…っ、その…弁解ぐらいさせてくれ…っ!」


 問答無用。

 言い訳は、反省会で行って貰おう。


「痛い痛い痛い!!悪かったッ!!」


 コイツにも、アイアンクロー。

 生徒達にやったものよりも、各段にキツメの奴をお見舞いしてやる。


 ったく、コイツを魔法授業の教師にしたの、早まったかな。

 コイツの部下のマシューとか、なんならジェイコブとかにしておけば良かったかも。


「仕方ないから、とりあえず魔力測定をスタートだ」

「あ、先生面倒くさくなったね」

「夫婦漫才で疲れたの?ブフッ」


 よし、榊原に浅沼は、今からグランドを5周して来い。

 魔力測定はその分、後回しにしておいてやる。


「鬼っ!」

「悪魔ッ!!」

「なんとでも言え!更に5周追加してやっても良いんだぞ!」

「「人でなし~!!」」


 恫喝すればドップラー効果を残して、走り出した2人。


 もう、早く授業を進めてください、カンスト先生。

 「なんだ、その呼び名は?」とゲイルが、渋々ながら授業に軌道を戻した。


「……では、アサヌマ君がいなくなったから、イノタ君だな」

「あ、ゲイル先生、あたしもみずほで良いですよ。さっきの皆の聞いてて、あたしも名前が良いなと思ったので」

「あ、ああ、それなら、ミズホ君で」

「はーい」


 属性の判別の時と同じ様に、出席番号で進める。

 しかし、


「あ、あの…届かない、デス」


 ゲイルに習って、水晶に手を伸ばすが届かない。


 そういや、伊野田は身長140センチ前後。

 どんなに頑張っても160センチ強の高さの水晶には手が届かないよな。


 微笑ましいアクシデントに、思わずオレとゲイルは揃って癒された。

 癒されている場合じゃないけど。


 伊野田には2人揃って睨まれてしまった。

 美少女が睨むと、ちょっと怖いよね。


「失礼」

「わ、わっと…!」


 とりあえず、特別措置。

 ゲイルが彼女を抱き上げる形で、水晶に触れる。

 オレは片手しか使えないから、どうしても触れる場所が危ないからやらない。


 なんとか、水晶に触れる事が出来た伊野田。

 先ほどと同じように水晶玉が反応して、勝手に数値を浮かび上がらせる。


 伊野田の数値は、『300』。

 見習い騎士の最高値は叩き出した事になる。


 とりあえず、先ほどメモした属性の横に数値もメモしておく。

 ちなみに、先ほど補足説明を受けたランクに関しても、メモしておこう。

 伊野田は、Dランクと。


「次に、コウガミ」

「あいよ。オレは抱き上げなくて良いからな」

「香~神君~!?」


 こらこら、香神は伊野田を弄るな。

 可愛らしい恫喝を受けて、「HAHAHA」とアメリカンに笑う香神。

 お前、将来アメリカに住所変えたりとかしないよな。


 さて、閑話休題。


 香神が勿論抱き上げられる事も無く水晶に触れると、ゲイルや伊野田と同じ様に文字が浮かび上がってくる。

 数値は『700』。


 おお、ぶっ飛んで正式な騎士と同じ数値だな。


「Shit!1000も行かないのか」

「それでも、初めてにしては十分な数値だ」


 香神はランクで言えば、えッ…B!?

 数値もランクもぶっ飛んだな。


「では、次にハヤト君…はいないから、エマ君だな」

「はーい。あたしも抱っこはいらないでーす!」

「エマまで酷い~!!」


 今日は、伊野田弄りが冴え渡っている生徒達。

 ただ、彼女の場合は身長コンプレックスだから程々にしないとイジメになるから気をつけろよ。


「お、300!伊野田と一緒だ」

「…やはり、ギンジの生徒か…」

「いや、テメェに言われたかねぇぞ。カンストしたテメェには!」


 物申させてもらう。

 何を繁々と生徒達を眺めているのか知らんが、お前が一番規格外の数値なんだよ。


 また、話が逸れたな。


 エマが『300』で見習い騎士としての最高値で、ランクはDと。


 次は、姉のソフィア。

 表示された数値は、『400』と正規騎士と同等で、ランクはCか。


 やっぱり、このクラスは魔法に関しての適正も数値もずば抜けているようだ。


 はてさて、次は常盤兄弟の兄、河南。

 浮かび上がった数値は、『500』。


「今のところ半数が正規騎士並か」

「…もうやめて」


 ちょっと、オレの心が折れそうになった。

 とりあえず、河南も正規騎士と同等と、ランクはC。


 河南、お前ちょっと、何なの?

 トリプルの異能持ちの上に、突然ランクがCとか。


「先生、僕をそんな顔で見たって結果は変わらないと思うよ?」

「結果が変わらないと分かってても見てしまうだけだ。気にするな」

「ゲイル先生と黒鋼先生の数値には負けるけど?」

「言うな。今一番不安になっている問題を頼むから言ってくれるな」


 オレも数値が飛び抜けてそうで怖いから。


「あれ?なんか、先生煤けてない?」

「…若干、やさぐれてる」

「あはは~、御愁傷様」


 そんな事を言っている間に、榊原がまず5周のランニングを終えて戻って来た。

 5周とは言え相変わらずマラソンは早いな、コイツ。


 お前は最後から二番目だ。


「じゃあ、次はキノ君」

「あイ、先生。僕は抱っこしテ欲しいデス」

「了承した」


 続いて常盤兄弟の弟の紀乃。

 彼は車椅子なので、必然的に抱き上げられないと水晶には触れない。


 ただ、ゲイル。

 掛け声も無いままに、いくら痩せているとは言え男子生徒を軽々と抱えあげるんじゃない。


 ぷらーんと猫のようにぶら下がった紀乃が、大爆笑しながら水晶に触れていた。

 ちょっとぞっとする光景だった。


 格好はともかく、数値は『300』で見習い騎士相当。

 ランクはDでまずまずの結果。


 やっぱり、この兄弟はスペックがちょっと違うのかもしれない。


「さて次が、カツキだが、……その、手伝った方が良いか?」

「…オレも、抱っこしてください」


 徳川もだったな、低身長。

 コイツも150前後でギリギリ届くか届かないか。

 ただ、もしかしたら抱き上られてみたかったのかもしれない。

 ちょっと頬が赤いし。


 コイツは、子どもの頃から家族との接触が最低限だったらしいから、羨ましくなったのかもしれないな。

 この間成人式を迎えたとは思えない19歳の姿にほっこりした。


 さて、そんな徳川の数値は『400』。

 正規騎士相当で、ランクはCと。


 次は永曽根。

 コイツは、抱っこも何も必要ないだろう。

 だって、190オーバーだっけ?ゲイルとほとんど身長変わらないもんな。


 さて、そんな永曽根の数値は『800』。

 またしても、ぶっ飛んだ数値が飛び出したな。


 コイツも序列下位の騎士団長相当で、Bランクと。


 あ、ちょっと待って。

 もしかして、もしかする?


「質問。魔力枯渇すると魔力が底上げされたりとかするのか?」

「ああ、その通りだ」


 と、またしてもゲイルからの補足説明。

 今回は、オリビア副担任の出番は無さそうだ。


 魔力が枯渇すると、どういう原理かは不明ながら回復の際に魔力の総量が多少変動してくる。

 個人差はあるが、増える一方で老衰以外で減ることは無いらしい。


 ボミット病の件で、コイツはオリビアから魔力吸収を受けていて魔力枯渇がしょっちゅうだった。

 つまりそれが、既に魔力総量の修練になっていたという事。


 ますます、オレが不安になって来たな。

 何度、限界までオリビアに魔力吸収してもらったか覚えてないもん。


 さて、続いて間宮。

 コイツは、属性と一緒で全く読めないのは、オレだけ?


 ちなみに間宮も身長は低いが、若干ギリギリながらも水晶に手が届いた。

 モニュメントに登ろうとしていたのは、これまたギリギリで止めたけどな。

 危ないし、壊したら困るから。


 背伸びをして脚をぷるぷるさせる姿に思わず癒されながら、間宮が叩き出した数値は『900』。


 序列下位の騎士団長相当にしてランクはB。

 お前オレの弟子を辞めてもどこでもやっていけるだろう。


 やっぱり、コイツはハイスペック。

 しかも、現在生徒達の中では、断トツトップだ。

 国王からの勧誘には気をつけるように。


「じゃあ、次に榊原」

「ぼ、僕は~…?」


 っと、いつの間にか、浅沼が戻ってきていた。

 グラウンドのたった5周程度でぜぇはぁと言っているが、お前は最後。

 ただ、結構タイムが早くなってきているのは、グッド。


 榊原は苦笑と共に、水晶に触れる。

 おそらく、先ほど魔力総量が少ないと知っているからこそなのだろうが、


「あちゃー…」

「……だ、大丈夫!今後の修練次第ではッ」

「それ、励ましてない。追い詰めてる」


 結果は、ある程度予想通り。

 勿論断トツのビリだった。


 浮かび上がった数値は『50』で、見習い騎士にも冒険者のランクにも届かない。

 ランニングは得意でも、こっちは才能が無かったのかもしれない。


 ボミット病を発症していないだけ、まだマシ。

 そう言って、慰めようとしたけど、にっこり笑って「先生の数値を楽しみにしてるから良いよ」と毒を吐かれた。


 言うなってば!!

 げっそり。


「はい、じゃあ最後は浅沼。とっととやって」

「えっ、なんで、僕だけそんな扱い?」

「お前はペナルティが後、3回ほど残ってるから。覚悟するように」

「ぶひっ!?」


 お前は家畜ぶたさんか?


 とりあえず、ちゃっちゃと急がせて、魔力を測定。

 数値は、『200』で見習い騎士相当のランクはD。


 良かった。

 可も無く不可も無くで、コイツまでハイスペックじゃなくて。


 そろそろ、オレも心が折れちゃうしな。


「いや、初めてで200以上なら、それで十分規格外なんだがな」

「もうそれ以上考えないようにしているだけ…」


 ゲイルの言葉に、若干目に涙が滲む。

 ウチの子達が凄い事は分かったけど、こんな結果は望んでない。


 浅沼/200~Dランク

 伊野田/300~Dランク

 香神/700~Bランク

 エマ/300~Dランク

 ソフィア/400~Cランク

 榊原/50~ランク外

 華南/500~Cランク

 紀乃/300~Dランク

 徳川/400~Cランク

 永曽根/800~Bランク

 間宮/900~Bランク


 ああ、もうまとめて全員、規格外って事。

 ランク外の榊原も含めて規格外って事で。


 そして、


「さぁ、お待ちかねのお前の番だ」


 結局、最後に残った俺。


 あ、コイツ面白がってやがる。

 まるでこの瞬間を待ち侘びたと言わんばかりに、あくどい笑みを浮かべたゲイル。


 ちゃっかりオレの順番を最後に持って来たのも、この為だったのだろう。

 コノヤロウ。


 生徒達も、それに呼応するかのようにニヤニヤとしている。

 あれ?オレの味方がいない。


「大丈夫ですわ、ギンジ様」

「あ、味方がいた…良かった」


 そう言って、オレの肩に座ったオリビア。

 にっこりと柔らかい笑みを浮かべて、大変可愛らしい。


 さすがは女神様。

 オレのブロークンハートが回復された。


「ギンジ様の魔力総量はゲイル様以上ですもの」 

「畜生、やっぱり、お前も敵か…」


 かと思ったら、全然違った。

 味方だと思ったら、やっぱりオリビアも敵だった。


 くそぅ……。

 全員揃ってニヤニヤしやがって。


 強化トレーニングは、覚悟しておけ。

 ついでに、ゲイルも強制参加にしておいてやる。


 気は進まないながらも、『測定魔導具』の前へ。

 ゲイルを除いて全員がB~Dの今、オレの魔力総量はそれよりも遙かに高いのは既にオリビアやローガンから口酸っぱく言われているので、想定済み。

 パンチングマシーンみたいな形状はしていても、誤魔化しは一切通用しないだろう。


 やっぱり、やらないとかじゃ駄目?


 ゲイルはカンストなんて真似をしてくれたものだが、似たような結果になりそうだ。

 そうなれば、きっとアイツはこれ見よがしにオレを糾弾するんだろうな。


「えぇい、成せば成る」

「あ、開き直った」

「先生、頑張れ~」

『目指せ、カンスト~!!』

「お前等、シャラップ」


 生徒達の嫌味たっぷりの歓声を受けつつ、意を決して『測定魔導具』の水晶に触れる。

 多分、大丈夫。


 なんて、楽観的観測とささやかな希望的観測を織り交ぜながら、浮かび上がった数値を見た。


 歓声が轟いた。


「キターーー!!」

「あははっ!!さすが先生!!」

「ザマァ!!」

「デュフフフフフフッ」

「ぶはっ!!先生、Good job!!」

「お約束~!!」

「腹痛ぇ…!!」

「ぎゃははっ!!やったじゃん、先生!!」

「おめでとう、先生!」

「キヒヒヒヒヒヒッ!!ゲホゴホッ」

「!!(ぷくくくくく)」

「さすがギンジ様です!」


 誰の?

 勿論、生徒達に決まってんだろう?


 キター!とか言うな、伊野田。

 さすが先生とはどういう意味だ、ソフィア。

 ザマァ!とか酷過ぎるぞ、エマ。

 その笑い方はとにかく辞めろ、浅沼。

 何がグッジョブか、香神。

 一体何のお約束だ、榊原。

 お前は笑いすぎだ、永曽根。

 これ見よがしに笑いやがって、徳川。

 何がおめでたいのか教えろ、河南。

 笑い過ぎて咽るな、紀乃。

 テメェ笑ったな?笑ったよな、間宮。

 一番ダメージがデカイぞ、オリビア!


 しかも、その歓声の中にはゲイルも含まれている。

 ちなみに、国王陛下のも含まれている。

 騎士団達からは、何故か拍手まで貰う事になった。


 そして、オレはその場で崩れ落ちた。

 願いは空しく砕かれた。


 水晶に浮かび上がり、表示された数値は『9999』。

 勿論、最初のゲイルと一緒。


 カンストだ。


 最高位の騎士団長相当にして、文句成しのSSランク。

 おめでとう、オレ。


「ぶっ…くくく!…これで、お前もオレの事はとやかく言えなくなった訳だ」

「……クソッ…、ゲイルの癖に…!お前なんて、世界の中心で三回回って「犬畜生です」と叫んで来ればいい…ッ」

「いや…そこは、三回回ってワンと鳴けとかじゃないのか?もはや、原型が分からんぞ?」


 こっちにも、そう言う精神的陵辱方法があるのな。

 原型分からなくしたのは、オレの心の底からの怨嗟の声だ。


 これでオレは、肩書きが何個増えたことになるのだろう。

 以前は半数が悪口だったが、今も今で増えた肩書きは嬉しくない。


 しかも、うち一つがゲイルと同じとか、本気で嬉しくない。


 結局、オレも同じ穴の狢だった訳だ。

 雪で覆われた地面に崩れ落ちたままで、頭を抱える他無かった。


 ……あれ?目からしょっぱい汁が出て来た気がする。


「2人揃って、化け物って事だよね」

「否定出来ん!!」


 最終的に、ダントツ魔力総量ビリの榊原に言われた一言で、オレの心が完全に折れた。

 ローガンにも言われたけど、オレもゲイルも生まれる種族を間違えたとしか思えないわ。

 げっそり。



***



 しばらく、オレは立ち直れない。


 強化トレーニング?

 勿論やってるよ?


 有限実行だもの。

 八つ当たりとは言わないでおく。


 オレを笑いものにした生徒達が悲鳴を上げて、半数が脱落するぐらいにはやってやった。

 間宮ですらへろへろになるぐらいにはやってやった。

 二度とオレをこの魔力総量の件でからかえない位には扱いてやった。


 ちゃっかり強制参加したゲイルは意地でも食らい付いてきたけど、最後の仕上げとして組み手に誘ったら「ごめんなさい…」と崩れ落ちた。

 そして、泣いた。


 覚悟しろって言っておいたぞ、オレは。

 心の中でだけだけどな。



***

ある意味でのテンプレ。

何か一つでも二つでも三つでも、優れているのが主人公。

アサシン・ティーチャーの場合は、魔力があってもなくてもそもそも魔法が使えませんが。


この世界の魔法概念は、色々と複雑な形。

と思ったら、意外とそうでもない感じで書けてしまいました。

属性の相性が良いと、他の属性でも使ってOK。

得手不得手、適材適所みたいなもんです。


そして、ゲイルさんの扱いが、日増しにドンドン気安くなっていく件。

アサシン・ティーチャーにとっては、もう既に懐のうちなので、おそらくは仲間意識が強いんだと思われます。

暴力的な愛情表現であります。

そして、やっとこさゲイル氏の伏線を回収。

校舎散策の時にダークヘイズすら討伐出来なかったのは、彼が攻撃型では無く防御型である為です。

なので、盾や加護などの補助系魔法は扱えますが、攻撃型は扱えないのでいつもはほとんど使いません。

次いで言うなら、魔力が出鱈目に高いので、集中しないと使えなかったり力むと失敗するので、倦厭しているとかいう。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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