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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラスの冬休み
44/179

閑話 「冬休み~女難の相って振り回されていない人間からすると他人事~」

2015年10月23日初投稿。


またしても遅くなりまして。

日付更新ギリギリとなりましたが、閑話を更新させていただきます。


アサシン・ティーチャーも強制イベントでくたくたかもしれませんが、作者も強制イベントのおかげでくたくたです。

携帯を新しくして機種変更しましたら、何故かサインインのパスワードが勝手に変更になってしまっていた件。

問い合わせをした方がよろしいでしょうかね?


閑話であった冬休みは、これにて終了致します。

***



 冬休み、5日目。

 本日も一昨日の豪雪が嘘のように、晴れ渡っている。

 

 また明日には、雪がチラつきそうだとは話していたけど、今回みたいな豪雪は珍しい方だったんだとか。

 まぁ、見慣れた景色があるのは、精神衛生上良かったのかもしれない。

 はしゃぎまわった生徒達も含め、オレも右肩が若干だるい。

 ピッチングマシーンはしばらく、懲り懲りだ。


 見事にオレを含む生徒達の半数が風邪を引いたが。


「(大丈夫ですか、ギンジ様)」

「酒飲む元気あるんだ。平気だよ」


 雪道で隣を歩いていた間宮が、マフラーの端をちょいちょいと引っ張った。

 だから、アポイントの仕方が可愛いから。


 純粋にオレの心配をしてくれているだろう、彼。

 そんな間宮も風邪を引いて、復活したのが今日。

 オレとしては、彼の方が心配なんだが。


「(鍛え方が違いますので…)」

「それもそうだな」


 なにせ、師匠がオレだし。

 その前の師匠が同僚兼友人ルリだったのもあって、コイツは自身の体調管理もしっかりしている。

 しっかりしていないのは、むしろオレの方だったりもしたし。

 風邪引いたその次の日の夜には、酒飲んでたりな。

 薮蛇は御免だ。


 っと、見えてきた。


 朝方修練と称してダドルアード王国を出て、その脚で向かったのは西方に位置する森。

 樹海にも似た様相をしたこの森は、以前オレがローガンと出会った森とは違って、平地に木々が生い茂っている。


 ちなみにあの時は、北東だった。

 今回は、西。


 この異世界に召還された最初の場所。

 オレ達の校舎がある、西の森。


 今から、そこに向かう理由は一つだ。


 先日のキメラ討伐の時に、肉片の一部が肉人形の腕と判明していた。


 校舎の地下室に隠されていた実験設備。

 オレも知らなかった地下室の存在と、そこに隠されていた赤眼の少女。

 その赤眼の少女が作ったと思しき肉人形も、地下室にはずらずらりと飾られていた。


 何故、その肉人形がキメラに吸収されていたのか。


 オレ達の疑問点は、目下この一点のみ。


 と言う訳で、急遽決定した間宮との校舎探検。

 生徒達には間宮との修練だと伝えつつ、危ないから付いてこないようにと言い含めておいた。


「なんで、あの赤眼の少女の肉人形が、キメラの腕に生えていたと思う?」


 一応、念の為に間宮とも意見交換。

 粗略が無いようにするのも、必要な対策である。


「(おそらく、あの少女が関係していると思われます。考えたくは無いですが、あの少女がこちらの技術を借りてキメラを作った)」


 うん。

 それはゲイルも考えていたし、オレも同じ意見。


「(次に、肉人形が校舎から抜け出している可能性でしょうか。森を彷徨ったり移動している間に、偶然あのキメラに捕食されて吸収されたのでは?)」


 間宮の声無き言葉に、目と耳を傾ける。

 やはり、この子は普通の子どもと比べると頭が回る。

 ゲイル、お前15歳に負けてるぞ。


「…残りの可能性は、肉人形も実験材料の一部だった可能性か…どちらにしろ、赤眼の少女が関わってくるな」

「(行方も知れませんから、更に警戒をするに越した事は無いと思われます)」

「ああ、ゲイルにも伝えてある。…護衛がまた増える事になりそうだが、」

「(最近、ちょっと増え過ぎてますけどね…)」


 ああ、うん。

 オレも同感だわ。

 おかげで、夜の安眠が程遠い。


 この間、久しぶりにオリビアにお願いしちゃったもん。

 頼むから、睡眠魔法を掛けてくれって。


 話が脱線した。


 そろそろ、校舎の全貌が見えてくる頃になって、オレ達は脚を止めた。


「…外れて欲しかった予想だな」

「(右に同じくです)」


 先ほど、話した可能性。


 赤眼の少女が、今回のキメラの制作に関与しているか。

 もしくは、


「……戦闘準備」

「(既に…)」


 肉人形が、学校から抜け出している可能性。


 腰のホルスターから、拳銃を抜き出したオレ。

 背中の脇差を引き抜いた間宮。


 臨戦態勢は、完了。


 眼の前には、雪景色に彩られた森の様相。

 そして、その雪の中にところどころ、残されている手形(・・)足跡(・・)


 小さい手形だ。

 裸足でもあるようだ。


 この森は、以前から既にダドルアードの騎士団以外は近付かないと聞いていた。

 勿論、ゲイルからだ。


 街の人間が近寄った形跡があるのも可笑しい。

 それも、子どもと判別出来る手形や足跡が残っているの事態が可笑しい。


 だとすれば、この手形と足跡の主は、絞られる。


「あの状態でどうやって抜け出したんだかな…」


 校舎にあった校長室周辺は、人型凡庸兵器でもあるゲイルによって崩落している筈。

 しかし、どうやら考えは甘かったらしい。


「敵影、三時」

「!!」


 森に囲まれた一本道。

 オレから見て右の方角から、恐ろしい速さで迫ってくる何か。


 黒髪を振り乱し、あるいは禿げている。

 くぼんだ眼窩を剥き出しにしたようなクレヨンで書かれた絵。

 口はこれまたクレヨンで真っ赤に裂けている。

 服装は制服姿。


 赤眼の少女が作ったであろう肉人形。

 それが、二体森の中から飛び出した。


「散開!」


 合図と共に、間宮とオレで左右に動く。

 おどろおどろしい顔をした肉人形も、それぞれオレ達を追って分裂をするかのように動いた。

 以前と違って、自棄に滑らかな動きをしている気がする。


 オレの方には、禿げ頭の肉人形がやって来た。

 代わりに間宮の方には、ロングの黒髪ウィッグを振り乱した肉人形が。


「あの時は、良く分からなかったが、昼間に見れば一目瞭然だなっ」

「(何か入ってますね)」


 肉人形の体から滲み出るように立ち上る靄。

 煙のようなそれは、薄い紫にも似た黒色。


闇の靄(ダークヘイズ)か…っ」


 からくりが読めた。


 パン!と乾いた音と共に、肉人形の頭に穴が開く。

 腰から抜いたベレッタ92.を、肉人形の頭へとぶち込んだ。

 ごぶっと生々しい音と共に穴から化合物で形成された血液が飛び散る。


 動きが一瞬止まったのを見計らい、その頭目掛けて蹴りを入れる。

 返り血を浴びるのが億劫なので頭を潰さないよう、細心の注意を払って木へと叩き付ける。


「ああ、気持ち悪い…」


 だが、木に叩き付けたと同時に、頭が炸裂した。

 やはり普通の人間の作りと違って脆いようだ。 


 間宮へと目を向ければ、彼も脇差で肉人形の首を跳ねた所。

 多少返り血は浴びてしまっているが、オレの殺し方よりかはスマートだった。

 滲み出したダークヘイズも、分が悪いと悟ったのか肉人形から抜け出して名前の通り、靄のように霧散して逃げ去っていく。

 根本を破壊しなければ、いたちごっこだというのは分かっているが、ここに『聖属性』の魔法を使える人間がいないので見逃すほか無い。

 やっぱり、ゲイルを連れてくれば良かったと思った。 


「……可能性の話だったんだがな」

「(がくがくぶるぶる)」


 確認は出来た。

 物理的な経緯は不明ながら、肉人形は校舎から抜け出していたらしい。

 まさか、あの瓦礫を自力で撤去して来たって事は無いと思いたいが。


 平然と対応したように見えて、恐々としていた間宮が身体を震わせている。

 気持ちはオレも一緒だ。


 何が起こるか分からないのは、ここが異世界だからなのかなんなのか。

 平穏に終わって欲しいと考えていた校舎探索は、またしてもホラーの予感だ。


 他に逃げ出してたりとかしないよな。

 頼むから、やめて欲しい。

 肉人形、運び出して処分するしか無いとか、本気でげっそりするから。


 その後、嫌々ながらもオレ達は校舎に踏み入った。

 そして、本気で後悔した。


 誰が、校舎中に肉人形が蔓延っていると思うか畜生め。

 結局、2人揃って血飛沫を浴びる羽目になった。



*** 

 


 その日の午後。

 血みどろで帰って来たオレ達は、恥も外聞も無く現校舎に飛び込んだ。

 また、オレ達の学校関連で嫌な噂が飛び交いそうなもんだ。

 心底、げっそりする。


 生徒達には心配されまくって、オリビアには治癒魔法を連発された。

 だが、怪我はしていない。

 全部が返り血だったので、早々に風呂に引っ込ませてもらう。

 説明は簡潔に、西の森で魔物の大群(・・・・・)に遭遇しただけだと言っておいた。


 ううっ…、コート新しく新調したばっかりだったのに。

 洗濯桶の中に詰みあがっている2人分の血塗れのコートやら服に溜め息しか出てこない。


「エライ目にあった…」

「(がくがくぶるぶる)」


 本心からの言葉と共に、更に吐き出す溜め息。

 まさか、ダークヘイズが取り憑いた肉人形が、校舎内に蔓延っているとか、恐怖映像でしかない。


 おかげで、間宮がマナーモードから回復してくれないし。


 一足先に髪や身体を洗い流しバスタブに浸かる。

 間宮も現在、髪や身体を念入りに洗っている最中である。


 と、そこへ、


「先生、ちょっと良い?」

「今、命の洗濯中」

「入らないってば!!」


 風呂場の扉の向こうから声を掛けてきたのは、ソフィアだった。

 エマのように裸で踏み込んできたり、オリビアのように乱入してきたりしなかった。

 この子は、ちゃんと常識を知っているようで、助かった。


 ちなみに、彼女の用事はなんとなく予想できている。


 校舎の確認後に、午後からは買い物に出かける予定だったからだ。


 正月の初売りって混み合うって聞いてたけど、生徒達の様子を見て理由が分かった。

 お年玉貰ったら、使いたくなるものなのだろう。


「先生も間宮も大丈夫?」

「ああ、大丈夫。急遽、上着を買う予定も出来たし、」


 新しいコートだったんだが、既に血塗れだ。

 洗ってもどこまで落ちるか分からない現状は、代わりとは言わずもう一着必要だろう。


「あ、そっか。血塗れだったもんね」

「昼飯食ったら出かけるから、全員に連絡しておいてくれ」

「うん、分かった」


 そう言って、ソフィアは風呂場のドアから離れて行った。

 これで、エマやオリビアだったら乱入して来たかもしれない。


「……良かったな、間宮」

「(見られて困るものは無いですが…)」


 こそりと、間宮をからかってみる。

 しかし、返って来たのは、なんとも面白みに欠ける冷めた返答。


 うん。

 お前、羞恥心とかも投げ捨てちゃってるのね。

 一応、そういう下世話な意味だったんだけど…。


 この子も、意外と逞しいのよ。



***



「あ、これ可愛いね!」

「いやいや、布じゃん!」

「良いじゃない!服とか作ってみたい!」

「楽しそうだね!」

「そうですね!」


 女子組は満開の笑顔。

 ソフィアは外枠に花柄があしらわれた布を片手に、吟味している。

 伊野田とオリビアは、他の布を手に取りながらも、わくわくと楽しそうだ。


 兼ねてより約束してた冬休み中の買い物で、彼女達はこうして羽を伸ばしている。

 女子ってやっぱり、ショッピングが好きなもんなのかねぇ。


 ちなみに、面子はオレと女子組と、男子組数名。

 常盤兄妹は流石に雪が降り積もったこの街の中を移動するのは、遠慮したかったようだ。

 騎士団の護衛も含めると大所帯にはなっているが、まぁ問題は無い。


「最後までやりきるって約束できるなら良いぞ?」

「ええ?でも、訓練もあるのに、そんな時間無いだろ?」

「時間を見つけてやるのも、醍醐味だ」

「先生、さすが分かってる!!」


 渋っているエマと、乗り気のソフィア。

 どこまでも似通っている双子の姉妹は、こういう所は正反対だったようだ。


 ただ、ソフィアの流石の意味が分からん。


「だって、先生オトメンじゃん」

「オトメンじゃない。オレはそっち方面では無い」


 違うから。

 石鹸の件でオトメンオトメンと言われたけど、あれはちょっとした凝り性ってだけだから。

 だって、敏感肌なんだもん。

 かさかさになったら途端に皮剥けあかぎれが増えるから、気をつけてただけだもん。


 そんなオレは、コートを新調。

 間宮のも一緒に購入してやった。


 こっちの世界でのコートは外套扱いの高級品で、実はもの凄く値段が高い。

 服だって既製品と前段階の布とでは、値段が雲泥の差。


 ちょっとした贅沢品となっているので、こうして何度も買い物に来るのは控えたかったんだが、残念ながら今回の『肉人形事変』においてはお手上げである。

 流石に血塗れになって、斑模様となったコートを着て外には出歩けない。

 現代での暗殺者稼業の時は、特に気にせず過ごしていたが、こっちの世界ではそういう視線も一段と厳しいらしいし。

 市販の布も無地が多いから斑模様は余計に目立つし。


 そういえば、女子達と比べて男子達が静かだ。

 どうした?


「…いや、なんか、値段が良く分からない」

「ああ、金銭感覚が日本だからな」

「先生は、なんで当たり前のように分かるの?」

「海外生活も経験してるから」


 値札を見て、男子達は硬直してしまっている。

 確かに日本円で考えて見ると、こっちの物価がエライ事になるからな。


 通貨基準は1Dm(ダム)から。

 1Dmがだいたい150円ぐらいで、彼等に渡したお年玉は1万Dm。

 日本円にして、だいたい15万相当。


 出来れば、ここらで金の単位も価値も覚えて欲しいというのが本音。

 女子組は早々に買い物の為に、コツを掴んだようだから、男子組も負けじと頑張って欲しいところである。


「なぁなぁ、これは!?」

「徳川、自分で考えろと何度言えば分かる?」

「だって、分からない!!」


 甘え癖はまだ治らない徳川は放っておいて、


「香神、必要ないものなら買うな」

「おーけぃ。…でも、いつか使うかもしれねぇよな?」

「………丸型の盾をいつか使う予定があるのか?」


 あれ?こいつ、ここまでファンタジーに興味津々だったか?

 ドラゴンを狩る勇者の冒険譚で良く目にする盾を持ってニヨニヨしている香神。

 そのうち、冒険したいとか言い出したら、いっぺん〆る。

 徳川みたいな奴は、クラスに一人で十分じゃ。


「先生、本屋って無いのかな?」

「本屋というか、本自体が少ないと思うぞ?」

「そっか~…残念」


 浅沼は、そろそろ活字中毒だろうか。

 そういや、教室に保管している専門書とか、そろそろどうにかしないと。


「ねぇ銀次、銀次」


 そんなこんなでボーっとしながら店先で買い物を楽しむ生徒達を眺めていると、ふとエマがニヤニヤしながら近付いて来た。

 うん?ちょっと、嫌な予感。


「こっちとこっち、どっちが良い?」


 と、眼の前にぶら下げられたのは、小さな布。


 選択肢は二つだ。

 片や淡い水色、片やドギツイ赤。

 右か左か。


「右」

「ふ、普通に答えんなし!!」


 しかし、簡潔に答えれば、何故か怒鳴られた。


 ははは。

 オレを動揺させて、あわよくばからかおうという魂胆が透けて見えていたぞ、エマ。

 まだまだ、オレを驚かせようとするのは早い。


 ちなみに、彼女が両手で持っていたその小さな布は、パンツだったりする。

 勿論、女物の下着だ。


 以前の買い物の際に、オレが間違って手に取ったりしたのを思い出して昔の傷口を掘り返しに来たのだろう。

 この程度の悪戯なら可愛いものだがな。


「どうせなら、履いて来い」

「馬鹿じゃねぇの!?」

「じゃあ、あたしが右で良い?」

「そ、ソフィアも乗るんじゃねぇしっ!!」


 やれやれ、賑やかなもんだ。

 からかうつもりが、逆にからかわれてやんの。


 ちなみに、何故かその後パンツの色を決めるように呼ばれたけど、そんなものを教師であり男であるオレに決めさせるんじゃない。

 ちょっと、怒っておいた。


「平然と返す辺り、先生も場数踏んでるよね?」

「……童貞ではないからな」


 男子達からは何故か尊敬の眼差しを向けられた。

 ちょっと、空しくなった。



***



 さて、そんな旧校舎での半強制サバイバルと、女子達の赤裸々な買い物を終えた夜。


 既に夕食を済ませ、各々部屋に戻って眠りに付いた頃合だろうか。


 判強制サバイバルに参加した間宮も、先ほど話し合いを終えて自室に戻らせた。

 オレは、彼との話し合いを纏めて、明日以降ゲイルと内容を詰める予定としている。


 今はオリビアを膝の上に乗せつつ、取り纏め中。

 彼女はオレの胸板を背もたれに既に、夢の中だ。


 ついでに言うなら、休み明けに開始する予定の魔法の授業に関して考え事もしていた。


 そんな中、


『コンコン』


 聞こえた、ノック音。


 やばいな、オレ。

 考え事に夢中で、気配にすら気付いていないとか。


 だが、扉の前に、不穏な雰囲気は無い。

 生徒達の誰かだろう。

 警戒、というよりも、好奇心からかそわそわしている気配がある。


 オリビアをベッドに移動させて、扉へと向かう。

 以前オレが蹴り破った穴が開いたままの扉の向こうには、細い脚が見えていた。

 多分、女子だ。


「…何か用か?」


 扉を開けると、そこには金色の髪の生徒が立っていた。

 金色の髪をしているのは、ソフィアかエマだ。

 服装はジャージ姿。

 学校の支給品で、保健室にあったものを生徒達で数枚ずつ分担したらしい。


 だが、今目の前に立った金髪の少女は眼鏡を掛けていない。

 ソフィアか、と決め付けたいが、


「…エマだな?」

「えー…?なんで、分かったし。銀次っていつも騙されてくれないよね」

「だって、眼鏡のグリップの跡が残ってるし」

「えっ…うそっ!…やだっ…!」

「もう、夜中なんだから静かにな…」


 うん、眼鏡のグリップの跡が無かったら、ちょっと分からなかった。

 そして、オレの言葉に慌てたエマだが、今は就寝時間。

 あんまり騒がないように。


「どうした?」

「うん、一緒に寝ようと思って」


 ………うん?

 ちょっと、今不穏な言葉が聞こえた気がする。

 耳が可笑しくなっただろうか。


「待て待て、どうしてそうなる?」

「…良いじゃん別に。ここに来てからは一緒に寝てたんだから、」

「それとこれとは別だ。今は遭難中でも、お泊り会でも無い」

「死ね!」


 だから騒ぐなと言うに。

 遭難中云々布団に潜り込んでいた件は、彼女にとっては黒歴史になったのだろう。

 オレを暖める為にお布団に潜りこんで来た件は非常に嬉しかったものの、今はそれとこれとは別だ。

 殴るな殴るな、イタイイタイ。


 と、扉の前で問答をしていたら、彼女はオレの脇をすり抜けて部屋に入って来てしまった。

 既に寝息を立ててベッドに横になっているオリビアを見て、何故か口をへの字にひん曲げてしまったが。


「先生が、寂しいかと思って来てやったんだしっ!オリビアも一緒なら、別に良いじゃん!」

「だから、静かにしろって…」


 夜中なんだから、声のボリュームを抑えろ。

 そして、いくら教師とは言え、年頃の娘が男の部屋に乗り込んでくるんじゃない。

 また変な噂が立つから辞めろ。


 これ以上、オレの肩書き(悪口)を増やさないで欲しい。


 そんなオレの内心も知らず、エマは眠るオリビアの隣に腰掛けた。

 驚いているオリビアを他所に、彼女を抱き上げてあっという間に抱き枕にしてしまう。

 今の動作、自棄に手馴れていたが、お前等姉妹はオリビアを抱き枕にしている常習犯だったりしないよな…。


「ほらっ、寝るよ?」

「オレだけじゃなく、お前にも変な噂が立つぞ?」


 いや、そもそも寝ようとすんな。

 噂とか云々放り投げても、男の部屋で寝る体勢を取るんじゃない。


 なんだろう。

 最近、ローガンといい、彼女といい、オレの周りの女子は貞操概念が破綻している気がする。


 今まで一緒に寝ていたというのは、一つ屋根の下であって一緒のベッドでは無いし、なおかつ最初の頃よか落ち着いている彼女達を同衾させるのは、モラルの問題で却下だ。


「別にあたしは困らないし」

「いや、俺が困るし構うから」


 そこで、エマがニヤリと笑った。

 あ、この顔は昼間、オレをからかおうとした時とそっくりだ。

 あの時の恨みをここで晴らそうというのか、そうなのか。


 しかし、若干慌てたオレの内心を他所に、


『コンコン』


 またしても、響いたノック音。

 いや、もう本当に勘弁して。

 またオレは気配も察知できなかったとか。


 というか、マズイ。

 この状況を他の生徒に見られると、最悪オレが変態扱いされる。


 確かにエマは困らないし構わないのかもしれないが、オレが困るし構うのだ。

 例のオレの噂がやっと風化したんだから、新しく噂話を提供するような事態にはなって欲しくない。


 しかし、今度は扉を開ける前に、勝手に開かれてしまった。


「あー!やっぱり、ここにいた!!」

「ソフィア?」

「…うっ、バレたし!」


 2人目の訪問者は、エマの姉でもあるソフィアだった。

 これまたジャージ姿で、肩にはブランケットを掛けている。

 

 オレの部屋に踏み込むなりエマの姿を認め、仁王立ちして腰に手を当てる。


「一人で抜け出して、何をしてるのよ!」

「ソフィアには関係ないしっ」

「関係あるわよ!抜け駆けは禁止って言わなかった!?」


 おい、こら、お前等。

 だからボリュームを抑えろ。

 そして、そういう話は、オレ抜きで話をしなさい。

 何を本人を眼の前にして、抜け駆けだのなんだのと話しておるか。


「あたしも銀次先生が好きなのっ」

「そ、それを言うなら、あ、あたしだって…!」


 言い争う姉妹が2人。

 オリビアが眠っていたところを起こされて、目をぱちくりしてしまっている。


 だから、お前等。

 声が大きい。

 そもそも、その話は本人を目の前にしてする話じゃない。


「いい加減にしなさい」


 オレの声と共に、言い合いをやめた2人。

 まぁ、この程度の言い争いならまだ可愛いものだが、


「生徒に手を出す趣味はねぇ」


 オレを現在進行形で困らせるんじゃありません。


「えっ、やだ…っちょっと!!」


 ソフィアをまず、部屋から追い出す。

 擬音が付くなら、ぽいっと言う音。

 抗議の悲鳴が上がったが、無視だ無視。


「嘘、やだっ!銀次、ちょっと待って!!」


 次にエマをベッドから引き摺り下ろす。

 こっちもこっちで抗議の悲鳴を上げたが、ソフィアの一例を見て抵抗が無駄だと悟ったのか、こちらも擬音がぽいっ。

 難なく部屋を追い出す事に成功した。


 パタンと閉めた扉の向こう。

 彼女達の呆然とした瓜二つの表情が自棄に間抜けだ。

 思わず、苦笑を零してしまう。


 ただ、それとこれとは別問題。

 どうか、これからもオレの安眠は妨げないで欲しいものだ。

 というか、年頃の女子がいい歳した男の部屋に同衾を求めて来るんじゃない。


「もうっ、ソフィアの所為で、追い出されたじゃんか」

「それは、エマが抜け駆けするから悪いんでしょっ」

「でもでも、銀次に抱き付かれたんじゃん!」

「そういうところは、エマばっかりズルイよねっ」


 廊下に追い出されてから、そうして仲良く言い争っていた2人。

 今回はそのまま大人しく、自分達の部屋に戻っていったようだ。

 何、この強制イベント。


 だから、時間を考えなさい。

 これ、隣の部屋辺りは確実に聞こえているんだろうから。

 そして、オレのいないところでそういう話を展開してくれ。

 色々と反応に困るんだから。


 はぁ、と重たい溜め息。

 これで、やっと一人で寝れる。


 と、思ったら、ベッドにちょこんと座ったもう一人の女子と目が合った。

 オリビアだ。

 半分近く存在を忘れていた。


「私は、一緒じゃ駄目ですか?」

「うーぷす…」


 結局、女神様オリビアと就寝した。

 オレは、多分相当世の中の男共から恨まれるんだろうな。

 いや、彼女に小首を傾げられながら同衾を願われて断れるだろうか。

 否、断れない。(反語だ)


 まぁ、気心知れてるし、秘密もほとんど持ってないオープンな相手だからこそだ。

 だって、精神感応の前では、オレのプライベートなんて風の前の塵同然だし。


 ともあれ、今日は何かと女生徒(・・・)に振り回された一日だった訳だ。

 出来れば、そろそろ色んな意味で平穏が欲しい今日この頃。


 勿論、寝心地は最高だったよ。

 やっぱり、一緒に寝るならガタイの良い筋肉よりも、幼女のもっちりとした体に限る。(※性的な意味は一切合財無いと明記しておく)



***

そして、振り回されてる姿を見てニヤニヤするのが、結局は書いている本人でもある作者なだけです。

久しぶりに女子との絡みを書きたくて、プロットを作成しました。

最初は色々とホラーというかシリアスで進みつつ、後々ほのぼのまったりな感じで、最後にメインイベント。

ええ、女子達がアサシン・ティーチャーの安眠を妨害する為だけのイベントです。

一人勝ちは確実にオリビアでしょうね。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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