閑話 「冬休み~職員会議パート2~」
2015年10月22日初投稿。
昨日は、駆け足投稿の挙句、ほとんど間に合わなかったので、補充分。
例のゲイル氏がぶっ潰された飲み会の全貌です。
冬休み編は、もうちょっとだけ続きます。
35話目です。
***
時刻は、夜7時過ぎ。
場所は、ダドルアード王国商業地区の一角にある、酒場。
オレ達にとってはお馴染みになった、定例報告会開催地である。
職員会議というお題名目の、ただの飲み会のようなものだ。
今日も今日とて、安酒を煽る。
シガレットを咥えつつ、堪能するのは高級な酒じゃなくても構わない。
酔えれば良いのだ。
最近は、オレ達の飲みっぷりに店員も諦めたのか、氷での誤魔化しなんかしないでストレートで出してくるようになった。
いや、せめて氷は頂戴よ。
このお酒、氷で薄めて飲んでいくもんでしょ?
そんな事を考えながら、しばらくシガレット片手にぼーっと天井を眺めている。
煙が昇っていくのを横目に、議題を考え中だ。
「………悩み事か?」
「お前の秘匿癖についてな…」
「面目ない…」
隣に座った教師、もとい騎士団長のゲイル。
彼もオレと同じ様にカウンターでシガレットを吹かしているが、今日は酒は休むようだ。
そういや、毎日家で新年の行事の飲み会をやってるから、嫌になってこっちに逃げて来たんだっけか。
まぁ、悪ノリして飲ませる気満々だけど。
彼の何か含みを持った言葉に、皮肉で返しておく。
そうすると、ガタイのいい身体を縮こまらせるので、結構面白い。
悩み事というか、なんというか。
どうやって、話を切り出すべきか、悩んでいる。
オレ達は、国王様との定例会を終えた後だ。
冬休みだからといって、オレ達まで休んで良いかというとそうでもない。
冬休みでも教職員は働いていたりするものだ。
オレもコイツも現代で言う公務員なのだから、休み返上で働くのは当たり前。
コイツの場合は、こうしたまとまった休み事態が今まで無かったらしいけど。
ブラックな公務員の職業形態である。
いつもの騎士服を脱ぎ捨てた彼は一般市民の格好に扮している。
シガレット片手に、酒場でクダを巻いている様子は確かに一般市民と変わりないものの、そのオーラは隠しきれず。
遠巻きに酒場の客がこっちへと視線を送っているのが、ウザったい。
娼婦も紛れ込んでいるのか、ゲイルの背中に熱視線を送っている。
ただ、オレと目が合うとどうしてか睨まれるんだが、オレってもしかしてなんか妬まれてる?
「どうした、ギンジ?」
「ああ、なんでもない…」
「なんでもない割には、考え込んでいるのだな」
話は逸れた。
問題は、オレの議題だ。
「…いや、さっき国王の前でも、報告したと思うんだが…」
「体質の件か?」
こくり、と頷く。
シガレットを消火し、ちょっと温めになった酒を煽った。
追加注文は、絶対にロックで頼もう。
眉根が自然と寄っていたのだろうか。
ゲイルが隣で苦笑と共に、手持ち無沙汰に酒のグラスを弄る。
「…驚かなかったと言えば、嘘になる…」
「だろうな。…むしろ、知られてたら、今度こそ脳天叩き割ってやろうかと、」
「なんでだ!?」
「隠し事無しって、ルールをどこにやったのかと」
「………面目ない。…というか、意外と根に持っているな」
根に持たないでか。
オレの魔法の属性を、コイツは予想とはいえ知っていたのだ。
オレの事を思っての事だったのかもしれないが、寝耳に水で知らされたオレの気持ちは理解して欲しい。
少しぐらい愚痴っぽくなっても良いだろう。
あ、店員がオレのグラスを見て、目を見開いている。
ああ。
ストレートで出したのに、もう無くなっているからだろう。
「…追加頼む」
「畏まりました」
「ロックでな」
「……はい」
店員にも、ちょっと皮肉っぽくなってしまったが、今後とも利用していくつもりだから多少は許して欲しい。
次こそはロックで出て来たブランデーのような、蒸留酒。
「…テメェも飲まないなら、耳から流し込むぞ」
「地味に痛いっ」
オレも寝耳に水だったんだから、お相子である。
本当にやったら結構痛そうだなとは思うけど、次に隠し事が発覚した場合は本気でやろう。
そうしよう。
酒の休みも諦めたのか、グラスを傾けたゲイル。
が、噴いた。
そりゃ、ストレートは辛いはな。
ぼたぼたと、口元を濡らしたゲイルが、おしぼり片手に咳き込んだ。
「こ、これを飲み干したのか、お前は…」
「だって、水」
「……お前の胃袋は、どうなっている?」
涙目のまま呆れた顔をしたゲイル。
オレは、口元が緩むのを止められなかった。
異世界に来てから知ったけど、どうやらオレは意外と悪戯好きだったようだ。
懇切丁寧に説明してやろうか。
それとも、色々と煙に巻いて翻弄してやろうか。
その説明を聞いて、コイツがどういう顔をするのか、ちょっと楽しみだったりする。
「毒の耐性を付けるのと一緒だ。…オレは、元裏社会の人間だからな」
ゲイルの手元が、揺れた。
「修行と称して、酒を片手に戦場ランデブーだ。確か10歳ぐらいからだったか…」
「………どこから、どう突っ込んだら良い?」
おう、意外とノリが良い。
「修行だって。毒の耐性を付けるのと一緒で、酒の耐性も無理矢理付けさせられた。だから、この程度の酒ではオレは酔えない」
からからとグラスを揺らす。
琥珀色の液体の中に、砕かれた礫のような氷。
この時代は流石に氷自体を四角やら丸やらに加工する技術は無いだろう。
いつか、氷バットも作ってみようかな。
と、話は逸れた。
「師匠が、そういう人だったんだ」
「お前の師匠か…」
と、呟いてから、少しだけ首を傾げたゲイル。
おそらく、混同した記憶の中を探しているのだろうけど、
「………その、……済まん」
「別に…」
途端に、顔を真っ青にした彼。
言葉を発しようとして見付からなくて、その後申し訳なさげに謝罪をする。
オレが彼を殺してしまった瞬間も記憶の中に見てしまったのだろう。
「…怖い人だったろ?」
「ああ」
ここには、間髪入れずに返してくるのな。
でも、まぁ気持ちは一緒。
「間宮との修練中に思い出したりすると、どうしても過剰防衛に走っちまうぐらいには、オレのトラウマ」
「………間宮には、可哀相な話だが」
「おお、なるほど。オレは可哀相では無い訳だ。面と向かって死ねと毎日言われたオレって、なんて哀れな少年だったことだろうか」
「……済まん」
タジタジになったゲイルを、言葉で翻弄して遊ぶ。
楽しいな、これ。
けど、まぁ。
間宮には、もうちょっと優しくしてやろう。
「その師匠のおかげもあって、オレもここまで戦えるから今更文句は無いけどな」
「…正直、生き残っている事が奇跡だとは思うがな」
「…同感」
2人揃って、げっそり。
記憶を混同している状況が良いのか、悪いのか。
いや、悪いのだろう。
オレはこうして隠し事が出来ないのに、ゲイルは隠し事があっても話さなければ良いだけなのだから。
頭脳が少々足りないのか、すぐにバレるけど。
くつくつと喉を鳴らして笑う。
そこまで嫌悪を抱いていない自分には、少々驚いている。
そろそろ、酒の話も過去の話も脇に置いておこう。
愚痴を話に来たは良いが、本題はそれだけじゃないのだ。
話を戻そう。
オレの人外体質についてだ。
コイツも色々な意味で人外なんだから、少しは理解を示して欲しいものだ。
「時間は計ってみたが、大体5時間程度もあればどんなに深い傷でも塞がっていたようだ」
「…試したのか?」
ああ、試した。
こくりと頷けば、ゲイルからは苦虫を噛み潰したような顔をされた。
リストカットみたいな事をしたとは自覚しているが、既に傷は無くなっている。
間宮が大慌てでやって来た時の事も思い出すが、
「…実験は、繰り返し試してみるもんだ」
「……何かあったら、どうするつもりだった?」
「オリビアがいる。平気だ」
こんな程度の実験で、女神様の治癒魔法に頼るのも申し訳無いと思いつつも、実際彼女の魔法の威力は本物だ。
最近は魔力の吸収の際に姿を自由に調整出来るようになったと、嬉々として報告してくれた。
おかげで、怪我も何も心配は特にしていない。
「それで、少し分かった事があるんだが、」
一応、触りだけ話しておく。
切り傷に関しては、小さなものは1時間程度。
中ぐらいであれば2時間程度で、今回のような大きな傷はやはり5時間程度。
だいたい、倍数で治癒に掛かる時間が増えていく。
それと、治癒が始まると必ず予兆がある事。
血が勝手に止るのだ。
それこそ、一時停止でもしたかのように、ぴたりと血が止ったかと思えばそのまま巻き戻しでもしているかのように傷が薄くなっていく。
ちなみに、切り傷以外でも試してみると、火傷は切り傷よりも多少時間は掛かる。
だいたい、1・5倍程度の時間だ。
打ち身になると、今度は早くなる。
倍~数倍程度。
小さなものは30分程度で、大きなもので青痣になったものに関しても2時間程度で完全に消えた。
流石に骨折は試せなかったが、皹ぐらいは入れた。
それはさすがに時間が掛かったが、5時間から6時間程度でやはり痛みも消えた。
これによって、ローガンと会った時の怪我の時間経過も分かった。
打ち身や切り傷、擦り傷は最初の段階でほぼ消えていた。
つまり、ローガンに見付かる前から、オレは治癒が始まっていた可能性は高い。
脚の火傷は更に時間が掛かったからこそ、彼女に手当てを受けたのだろう。
そして、もっとも時間が掛かったのが骨折と皹だったが、それも時間経過と共に完治したようだ。
運が良いと言うには、出来過ぎている。
いっそ気味が悪い。
今まで普通だった筈の体質が、どうしてここまで変異したのか。
便利な体と言えば聞こえは良いが、段々人間離れしている事に不安も募る。
とはいえ、簡単に死ぬ事が無いのは、好都合だ。
普通の人間からしてみれば、十分異常ではあるのは自覚している。
今後は、この便利なのだか不便なのだか分からない身体を付き合っていくことになるだろう。
「ローガンの口振りだと、やっぱりオレに巣食ってるって言う『例の精霊』が関係しているだろうけど、」
「…そうだな。ボミット病に関しても、オレも同意見ではある」
『例の精霊』と濁したのは、勿論『闇の精霊』の事だ。
人目が多い場所では、極力伏せることはもはや暗黙の了解。
「調べるにしても、症例が少ないからなんとも言えないけどな。…発症してもすぐに死んでしまうのがやっぱりネックになってるし、頭打ちだ。患者が3人いるのがせめてもの救いかもしれんが、」
「滅多なことを言うな。致死率の高い病なのは、今も昔も変わらないのだ」
ああ、うん、ゴメン。
ちょっと言い方が悪かったな。
酒場で飲んでいた連中の視線も、若干剣呑なものが混じっている。
やはり、この世界では死亡率が高い病気は、忌避感も強いらしい。
オレも患者の一人だから、少しは多めに見て欲しいものだ。
ああ、ボミット病で思い出した。
「そういや、ローガンの入国証ってどうなった?」
「ああ、渡すのをすっかり忘れていた。休暇を頂く前に、発行しておいた」
彼女に薬の手配をお願いしてあった。
その報酬としての意味合いで、入国証の発行を頼まれていたのだ。
ゲイルが懐の財布から取り出したケース。
こっちでは、荷物入れと財布を混同しているらしいので、財布というよりは袋に近い。
仕事が早いのは、助かるもんだ。
任せろと言われたので、お願いしておいてしまったが、オレ何もしてないや。
ついでに、オレがお願いしておいた例の騎士昇進の話は、「現在は申請時期ではないので、もう少し待ってくれ」と釘を差された。
そこまで急がなくても良いけど、あと1ヶ月でなんとかしてね。
じゃないと、オルフェウスになんて言われるか分からないし、誤魔化しが出来ない可能性もあるから。
「ありがとう」と受け取って。
どういうものなのか、とケースを開いてみる。
銅色のプレートのようなものに、名前が刻印されている。
ローガンディア・ハルバートという名前と、性別と種族だけが書かれた簡易なものだ。
これが、本当に証明書になるのだろうか?
こんな簡単なつくりなら、模倣とか盗まれたりとかして悪用されそうな気がするけど。
そんな疑問を覚えていると、ゲイルが気付いたらしい。
さっきまで倦厭していたのもなんのその、グラスを一個無いし二個も消化した彼が、苦笑と共に説明してくれた。
「ただのプレートに見えるかもしれんが、中に魔法陣が組み込まれているので転用される危険は無いぞ」
ああ、魔法の概念が当たり前の世界ならではの方法だな。
そっち方面での予防策とは全く考えていなかった。
そうして、彼女の入国証を受け取ってから、ふと溜め息。
オレの様子に、隣のゲイルも小首を傾げた。
何故か、気恥ずかしい。
何が?
ローガンとの再会である。
そう感じてしまうのは、ローガンとの出会いをゆっくりと考える事が出来る暇が意図せず出来てしまったからだろうか。
思えば、色々あった彼女との出会い。
たった3日間とは言え、死地で出会った彼女との邂逅はどうやら思った以上に強烈なインパクトをオレに与えていたらしい。
なんとはなしに、グラスを弄りつつ再度溜め息。
「…どうした?」
「………どうも、こうも…」
まぁ、聞かれることは分かっていた。
大仰に溜め息を吐いたのだから、さも当然の事だろう。
グラスを煽って、更に追加注文。
喉に流し込んだ酒の味も、どことなく苦い。
出て来た傍から、飲み干して再度注文したりもする。
店員が化け物でも見るかのような顔をしていたが、見なかったことにしよう。
酒の勢いでも借りないと話しづらい。
いや、こんな程度の酒の勢いじゃ、まだまだ足りないのかもしれないけど。
「何か、悩んでいるのか?」
彼女の話になった途端に、口を濁しているオレに、やはりゲイルは目敏く気付く。
「話しづらいのか?」と、場所まで気遣ってくれたが違う。
いや、話しづらいというか、気恥ずかしいだけなのだが。
「…次、会うのが若干、恥ずかしいというか…なんというか」
「……う、うん?」
とりあえず、5杯目の酒を受け取ったと同時にシガレットを咥えて溜め息。
もくもくと上に上っていく煙を目線で追いながら、洞窟の中での出来事を幾つか抜粋していく。
女に間違われたり、男と間違っていたり。
彼女の不名誉にならない程度の話をちらほらり。
男女逆転問題に関しては、ゲイルが腹を抱えて笑っていたので殴っておいた。
酒場の客(女性陣)からの視線が若干痛かった。
それから、魔法具の破壊からのボミット病の再発や、その後の薬の口移しとか、色々。
勿論、端的に説明しているので、生々しい要素は一切無いと思いたい。
ただ、口移しとはいえ、やはりキスはキス。
ゲイルは口元と引き攣らせていた。
「お前、…相手は、魔族だぞ?…いや、お前なら、種族など関係ないと言うのかもしれんが、」
「……種族がなんだろうと、助けて貰ったのは変わらない。それに、嫌悪が無かったから困ってんじゃねぇか…」
これで、ローガンが一方的に悪意を持って行った行為であれば、言い方は悪いがまだマシだった。
だって、それならオレは気に病む必要は無いからな。
けど、全部彼女にとっては好意だった。
「……惚れたか?」
「分からん」
声を潜めて、耳打ちしてくるゲイル。
ただ、声が若干震えているのは、もしかしてあれか?
オレの子ども染みた恋愛模様を、笑ってやがるのだろうか?
鳩尾に一発食らわしておいた。
痛みに悶えながらも、まだまだオレをからかう気力が失せていないらしい。
「……好きか嫌いなら?」
「…どっちかというと、好き」
復活したゲイルが、また声を潜めて聞いてくる。
涙目になっているのは痛みもあるだろうが、十中八九笑うのを堪えてやがるな。
よし、もう一発お見舞いしておこう。
今度は向こう脛に蹴りを入れてやった。
「い゛っ…!?」と小さな悲鳴と共に、カウンターに膝をぶつけてまで脚を跳ね上げたコイツはとうとう涙を流していた。
人の色恋沙汰を笑うな、童貞の癖に。
「恋愛とは言えない好きだけどな。…実際、オレも分からん」
「……お前、意外と慣れていないのか?」
「異性との駆け引きは得意。…だけど、それは職業だったからであって、恋愛じゃなかった」
いくら童貞じゃないからといって、恋愛に慣れているかと言えばそうではない。
純粋なお付き合いをした事が無いのだ。
というか、そんな事をしていられる環境じゃなかったのが本音。
初恋はしたが(割愛させて欲しい)、淡くも砕かれて消沈。
その後も言い寄られることはあっても、仕事上の関係だけだ。
むしろ、男に言い寄られる率の方が高過ぎて、恋愛に関してはマジで忌避感しか感じていなかった。
職業柄、情報を聞き出す為の恋愛ごっこやセックスやあれやこれ。
それはまぁ、経験はして来ている。
なにせ、童貞喪失は16歳だ。
ただし、
「地味に、オレも恋愛は初心者なんだ…」
本気で恋愛をした事は、一度たりとも無い。
なんて告白をしているのか、頭を抱える。
こっ恥ずかしい。
頭を抱えて、表情を隠す。
これ、絶対顔赤くなってる。
今なら、耳まで赤くなっている自覚はある。
隣でゲイルが打ち震えているのはおそらく笑いを堪えているからだろう。
だから、笑うな、童貞の癖に。
自然と溜め息が零れてしまう。
これが一種の桃色吐息とか言うなら、唾を吐き捨ててやりたいが。
「…はぁ。……好きかどうか、分からんから困ってるんだ」
「お、お前も、意外と可愛いところが…ふっ…くくくっ」
「もう一発必要か?」
コノヤロウ、やっぱり一回は〆る。
後、絶対ぶっ潰してやる。
オレは嬉々としてゲイルの追加注文を開始した。
笑いの発作がおさまったのか、ゲイルも体勢を立て直した。
眼の前に置かれたグラスには苦い顔をしていたが、オレの思惑がどうやら理解出来たらしく諦めたらしい。
「だが、どうりで…。…彼女も、ただ助けただけにしては、お前に気安くなっていたようだしな…」
「それも問題なんだよな…」
幾らオレだってキスがどういう意味を持っているのかぐらい分かっている。
ましてや女からキスをするって、口移しとは言え結構な度胸も必要だろうに。
それも、一回どころじゃない。
えっと…通算で、三回か四回ぐらい?
うち、二回が口移しで、残り二回がなんとはなしの自然な流れだった。
ついでに言うなら、彼女も満更では無いという事もなんとなく理解している。
じゃなきゃ、一緒に寝て気にしないとかないでしょ。
この世界で貞操概念が壊滅しているならまだしも、普通よりも厳しいぐらいだったし。
診察で口の中覗いたら、セクハラだったとかな。
ともあれ、それも踏まえて気恥ずかしい。
次に彼女と会う時、オレはどういう顔をして会えば良いのか。
いや、どういう顔もこういう顔も、お互い無表情だとは思うのだが。
「お前も人並みな感情があったのだな…」
「人を人形扱いするんじゃねぇよ」
見た目は確かにあれだけど。
コイツには、例の洞窟の時に、既に髪の色を含めてバレているから意味は推して察する事も出来るだろう。
だからこそ、ローガンとは男女逆転問題に発展するのだから。
ふと、そこでゲイルの眉が、訝しげに寄せられて、
「ギンジ、一応話しておきたかった事があるんだが、」
と、前置きされた。
多分、コイツ、オレと同じ事を考えただろうけどな。
「例の肉人形がキメラに吸収されてた件だろう?」
「間宮からも聞いていると思うがな、」
人形つながりで、思い出した案件だ。
校舎の地下室で見つけた肉人形の腕が一本だけ、キメラに吸収された肉片の中から確認された。
これは、間宮が紙に認めて、既に渡してくれている。
こんな所で、話題に登るとは思っていなかった赤眼の少女と肉人形の話題。
ゲイルもオレを茶化していた時とは打って変わって、真面目な顔で口を開いた。
「可能性としては、現在行方不明の赤眼の少女がキメラを作ったか、」
「もしくは、肉人形が校舎の地下室から抜け出して、勝手に歩き回ってる可能性だな。偶然にしては出来過ぎている気はするが、」
どちらにしても、確認は必要だ。
休みの間に終わらせたいと思っている案件なので、今回は修練の名目で間宮だけを連れて行ってみよう。
ゲイルは残念ながら、明日も仕事。
定例報告の後は、必ずオレ達の護衛の任を外れて、国王に報告に行くからな。
まぁ、予定通り酒で潰すつもりだから、時間に関しては割愛しておこう。
「それは、良いのだが…大丈夫か?」
「何が?」
「間宮とお前だけだと、地下室に入れないのでは?」
「…………確認をするだけだ」
忘れてた。
コイツのおかげで、現在校長室周辺は立ち入り禁止になっていた。
まぁ、確認だけなら遠目でもOKだろう。
中まで確認するのは、また違う勇気が必要になるのでやらない方向で。
また久しぶりのホラー体験になりそうだな。
出来れば、今回だけは穏やかに終わって欲しいものだ。
こっちもそろそろ、終わらせるか。
職員会議という名の定例報告会の終わり方は、
「じゃ、一気にどうぞ」
「潰す気かぁ…!?」
勿論、当初の予定通りである。
見事にぶっ潰れたコイツを連れて行くのはちょっと大変だが、酒の所為でセーブを忘れたコイツが色々と過去の失敗談や王国に関しての裏話を話してくれるのは、地味に楽しいもんだから元は取れてる。
コイツは酒の失敗談こそ少なかったがな。
オレが来てから酒飲みになったそうな。
それは申し訳も無い。
と言う訳で、本日の定例報告会も酔っ払ってグダグダになって終了と。
いつものパターンとなりつつあるものの、
「いつか絶対に、お前を酔わせてやるからな…っ!」
そのいつかは、コイツの胃袋が鋼鉄に生まれ変わってからじゃなきゃ無理だろうな。
御愁傷様である。
***
ただの駄目な大人の見本的な。
職場の先輩や上司が、良く飲み会で作者をぶっ潰そうとしてきた過去がありましたが、全てを乗り切ったのも作者です。
潰れたことがないから、記憶が無くなるというのが分からない。
一時期、鋼鉄の肝臓と言われていたのも作者です。
ローガンさんに会うのが嫌なのではなく、彼女の気持ちをまざまざと知るのが怖いアサシン・ティーチャー。
奥手でも無くヘタレでも無く、気持ちに応えられないと分かっているからこその倦厭。
まぁ、彼女には力で押し切られたら適わないと分かっていますけどね。
ピックアップデータは、アレクサンダーくんでしばらくお休みです。
また、主要キャラの更新の際に、改めて書かせていただきます。
ネタが無くなったとかではないですぞ。
ネタバレになるから、書かないだけですから。
誤字脱字乱文等失礼致します。




