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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラスの冬休み
42/179

閑話 「冬休み~たまには童心に戻っても良いですか?~」

2015年10月21日初投稿。


閑話を投稿させていただきます。

今までがシリアス路線まっしぐらだったので、たまにはこういう話も書きたくなってしまいまして………。


また、次の話もシリアスネタが多くなりそうなので、インターバルです。

***



 冬休み3日目。


 新年も過ぎたしばらくの事だったが、雪が降らないなーとか思っていたらそんな事は無かった。


 夜中に猛吹雪に襲われたダドルアード。

 南国の為、少々季節の脚が遅いだけだった。


 建築構造は木造三階建て(実は屋根裏部屋もある)。

 現代の家屋よりかは防寒はしっかり出来ていても、防音は出来ていなかった。


 おかげで、生徒達は眠れぬ夜を過ごしたそうだ。

 ただ単に、現代でも滅多にお目にかかることが無かった猛吹雪に興奮して寝れなかっただけなのかもしれないが。

 まるで、子どもだな。

 まぁ、それも御愛嬌。

 冬休みだから、朝の寝坊ぐらいは大目に見てやろう。


 そんな、豪雪に見舞われた翌日。

 おそらく、除雪をしなければ、外には出られないだろう。


 早起きをして、朝のトレーニングがてらすぐに外に出た。

 気温はそこまで高く無いが、現代の気温と比べるとまだ暖かいように感じられた。


 ただ、一つの誤算。

 朝も早くから、家の前ではせっせと雪掻きに励む集団がいた。


 騎士団の連中だ。


 護衛の為に早々にやって来て、夜番と交代。

 その後、寒空の下だというのに汗水垂らして雪掻きをしてくれていたようだった。

 ありがたいものだと、思いつつも、


「そこまで、お前たちの仕事ではなかった筈なんだが…」

「ああ、いえ。ナガソネ殿とアサヌマ殿に頼まれたのです。明日のトレーニング前に道だけでも作っておいて欲しいと、」


 おやまぁ、しっかりしてる。

 というか、アイツ等、こんな日までトレーニングは欠かさないつもりだったらしい。

 いや、それはオレもだけど。


「悪かったな」

「いいえ。これも、訓練の一環です」

「ええ。…異世界クラスの皆様のおかげで、我等騎士団の基礎体力も向上しておりますので、」


 ああ、そうか。

 朝番の護衛達は、奴等のトレーニングにも護衛として付くから、一緒に走って基礎体力が上がってんのか。

 なるほどな。

 どうりで、騎士団の護衛の人数が日に日に増えていくは、好意の振り切れ具合が半端無かった訳だ。


 意外なところで、生徒達の頑張りを垣間見えた気がする。


 と、まぁ、立ち話も程ほどに。

 オレも騎士団の連中に混じって、スコップ片手に雪掻き開始。

 道だけでも、とは言わず裏庭のグラウンドまでの道ぐらいは、除雪しておきたかったからな。


 そんな中、


「あれ?先生。おはよう」

「えっ?うわー、先生が一番か。早いねぇ」

「先生、昨日も飲みに行ってなかった?」

「ああ、おはよう」


 出て来たのは、いつも通りの3人。

 永曽根と榊原、浅沼だった。


 オレが雪掻きしている姿に、何故か目を丸くしているが。


「先生がやっちゃったら、オレ達の訓練にならなくなっちゃうじゃない?」

「騎士の人たちにも、道だけでってお願いしたんだが、」

「腰痛治ったから頑張れるしね」

「本当、お前等ちゃっかりしているな」


 やっぱり、コイツ等強化訓練を始めてから体力馬鹿になりつつあるな。

 そういや、うちのクラス一の体力馬鹿はどうした?


克己かつきなら、まだ寝てる。昨日、吹雪が怖くて寝付けなかったみたい」


 榊原が苦笑を零す。

 ああ、なんか夜中に、数人起き出していたっけか。


 いつの間にか、名前呼びになっていた2人。

 そのうち、全員に奨励してみようか。


「夜中に榊原のところに、徳川が行ったんだって」

「意外と可愛いところがあるのな」

「アイツ、雷とか基本的に音が五月蝿いもの、嫌いだったりしたからね…」


 だとすれば、ゲイルはアイツの天敵だな。

 『八文節』なんて唱えられたらひっくり返るんじゃないだろうか。

 小動物のような動きをすると予想出来た。

 可愛いもんだ。


「じゃあ、トレーニング行ってくるね」

「ほい、いってらっしゃい」

「先生、オレ達の分も残しておいてくれよ?」


 安心しろ。

 お前達には、メインイベントが待っているからな。


「でゅふふ。先生、意地張ってぎっくり腰にならないでね」

『お前と一緒にするな』


 浅沼の最後の一言には、物申す。

 というか、オレだけじゃなく、永曽根と榊原の声も被った。


 ちょっとイラッとしたので雪玉を丸めて投げ付けてやったら「ぶひっ」と鳴いて逃げるように走っていった。

 おいおい、お前はいつから人間を辞めたのか。


 ともあれ、雪掻きは黙々と続けよう。

 騎士団の連中が護衛に手を裂かれて、三分の一になった。

 だが、これだけの男達がいれば、玄関前の除雪ぐらい易いものだ。


 数十分も掛からずに、道が出来た。

 ついでに言うなら、グラウンドへの通り道も除雪して確保。


 一段落してから、グラウンドを見渡せば見事に雪景色だ。

 壮観だった。


 この時代、街中であっても牧歌的な雰囲気が数多く残されている。

 街路樹ではないが、道に木が生えていたり玄関先に花壇があるなんてどこの家も一緒だ。

 このグラウンドもある意味、その典型的な絵の一部として遮るものは特に無い。

 そろそろ、グラウンドらしくネットでも張ってやろうかと思ったりはするものの、景観を損ねるのは心苦しいので手付かずのままだ。


 どこか、北欧の異国情緒溢れる景色の中、しばらく立ち尽くす。


 煙草を吸いながらなんてのも、乙なものだ。

 肺に吸い込んだ空気は冷たいが、嫌いな冷たさじゃない。

 むしろ、オレは夏より冬の方が好きだ。

 冷気が肌を刺す感覚が心地良いし、なによりも寒さで身体が引き締まる。


 そこに、もう一人の早起き坊主。


「おはよう、間宮。ストレッチは済ませてきたか?」

「(問題ありません)」

「よろしい」


 朝早くからトレーニング。

 戻ってきてからも毎日欠かさず修練をしているのは、オレも間宮も変わらない。

 久しぶりの校舎での日常に元通り。


 冬休みとはいえ、生徒達は勤勉だった。

 まぁ、宿題が無い分、こっちの強化訓練に宛てる時間が多いのは事実だが。


 そういや、そろそろ生徒達にも、別の履修科目に移ってやらないと。

 英語を全員話せるようになったから、魔法の授業は組み込むつもりだけど、それだけだと絶対に飽きが来るのは分かっているからな。


 ともあれ、修練開始。

 間宮は、今日こそブラックアウトしないで残ってくれることを祈ろうか。


 修行内容は、いつもの通り。

 サドンデスの逆立ち腕立て。


「Ah-…先生。始めちまってたか」


 と、今度はそこにもう一人、生徒がやってくる。

 香神だ。

 コイツも、食事当番とはいえ早起きなものだ。


「どうした、香神?まだ、始めたばかりだから大丈夫だ」

「…いや、今日の朝食どうするのか聞きに来たんだよ。…多分、全員が起きて揃うの、昼頃になりそうだぜ?」

「うどんを茹でて、置いておいてやれば良い。つけ麺みたいにして、出汁だけ暖めとけば良いだろう?」

「あ、それ良いな。てんぷらでも揚げとくか?」

「てんぷらは重いから却下。それなら、出汁に野菜をたっぷり入れて欲しいかな」

「OK~」


 律儀なものだ。

 香神は最近、こうして朝食のメニューを考えるときには、オレの意見を取り入れる。

 そこまで頑張んなくても良いし、適当でも誰も文句は言わないとは言っても彼は律儀なもので、妥協をしない。

 だから、手伝おうとしてしまうのだが、それもそれで彼には怒られている。

 ここ数日、キッチンに入ろうとした瞬間に、香神に追い出されるのはオレだ。


 一家の大黒柱の筈なのに、空しいな。

 その分、美味しいご飯を作ってもらっているので、文句は無いが。


 ちなみにうどんは、オレ達で作った手打ちうどんだ。

 ついでに言うなら、この時代には無かったものだった。


 勿論、パスタはあった。

 ただし、こっちは欧米風のうどんのような有様で、ちょっと面が太くて角ばっている。

 一流とも呼ばれるレストランでも同じような有様だったのは驚いた。

 そのうち、ペンネとかラザニアとか、バリエーションを増やしてやろうかと画策中。

 あー…グラタン食べたい。


 と、まだ見ぬ食生活に思いを馳せていると、数えていた筈の数字を忘れた。

 何回目だっけ。

 分からんから、一から数えなおしておこう。


「おはようございます、ギンジ様~」

「おはよ、銀次先生」

「うーっ、流石に寒いぃ…」

「先生、おはよう」


 今度は、オリビアを初めとした女子組が起きてきたらしい。

 時刻は十分早朝なんだがな。


「おはよう。意外とお前等、早いな」

「えっへへー。今日は雪積もるだろうからって、雪掻きする為に早起きしたの~」

「アンタが先にやってた所為で、ウチ等早起き損だったけどな…」

「それは済まんな」


 なんて、良い子達なんだろうね。

 思わず苦笑が漏れる。

 彼女達の仕事を取ってしまったのは申し訳無いが、女子に肉体労働をさせるのも気が引けるものだ。


 ただ、既に彼女達は別のものに目が行っている。

 この景色を見れるのならば、早起きも悪くは無かったのかもしれない。


「すっごい雪景色~!!」

「なんか、御伽噺の世界みたいだよね~!!」

「大声で歌ってみたり?」


 そう言って合唱を始める女子組。

 華やかなものだ。

 余裕が出来たのは良い事だが、ありのままでは歌わないでね。

 近所迷惑とかじゃなくて、著作権に引っ掛かるから。


 って、考えてたら、また数が分からなくなった。


「…今、間宮、何回だ?」

「(106です)」

「じゃあ、オレもそれで…」 

「Σッ!?」


 多分、それ以上は行ってると思うけど、良いやそれで。

 動揺した間宮が体勢を崩して転倒した。


 ペナルティ発生なので、もう一度1から数えることになっている。

 苦い顔をされてしまった。


「ごめんごめん、オレが悪かった。今日は免除」

「(ぱあああああっ!)」


 顔に輝かんばかりの笑みが張り付いた間宮。

 ちょっと師匠と比べてしまうと、オレはまだまだ甘いとは思うけど、彼を苦しめたい訳ではないから今日は免除。

 オレは確実に苦しませる為にやられていたのは知っているので、気にしない。

 あれ?目に汗が入ったかな…。


「きゃーーっ!!」

「あははっ、伊野田埋まってる!!」

「楽しそうですねぇ」


 女子組は楽しそうな歓声を上げていた。

 逆さに見た様子だと、伊野田が雪野原に突っ伏していた。

 それをオリビアが真似して、ばふっと2人分。

 沈み込む雪の深さが違うのは、人間と女神様の違いなのだろう。


 一緒になって、ソフィアも飛び込んだ。

 彼女は意外とインドア派に見えて、色々とアクティブだったからな。


 そして、何故か全員で両腕を広げてわたわたわた。

 起き上がると、そこには人型にくぼんだ雪の跡。


「天使~♪」

「ちょー可愛い!!」

「あははっ!」

「あう~…上手く、付きませんでした~」


 なに、その定番ネタ。定番かどうかは不明ながら。

 雪の跡が羽を広げた天使の形になったらしい。

 女子組のやり取りにほっこりする。

 お前等纏めて、可愛いよ。

 エマだけは寒さに震えて縮こまっているが、三人の様子を見て楽しげに笑っていた。


 こうして見ていれば、普通の女子高生達なのにな。

 世界が違うというだけで。


 って、また数えていた数字が分からなくなっちゃった。

 いいや。

 間宮が気絶するまでやろう。


「Σッ…(ぶるり…)」


 隣で間宮が身震いをしていた。

 何故かオレに向かって視線を向けられているけど、無視をしておこう。

 おおかた、オレの考えている事に第六感的なもので気付いて、警戒をしているだけだろうし。


 ふと、目線をささやかながら上げてみる。

 一面の雪景色。

 以前は枯れた芝生や土がところどころ垣間見れていたというのに、今は一面が真白な雪に覆われている。


 季節の移り変わりに、多少焦燥感を覚える。


 この異世界に来てから、もう既に4ヶ月が経過した。


 馴染んできたのは、オレも生徒達も同じ。


 今も楽しそうな歓声を上げて、なにやら楽しそうにしている女子組。

 隣でこうして修行をしている間宮や、早朝トレーニングを欠かさない永曽根、浅沼。

 食事の支度を前面的に受け持っている料理組の香神、榊原。

 医療面の土台作りで懸命に実験を繰り返している常盤兄妹。

 寝坊は多いし、ちょっと学力面で不安もあった徳川も、やっとこの世界で生きていく覚悟を出来たようだ。


 ふと、首を擡げるのは、やはり帰りの不安。


 現代に帰る方法が本当にあるのかどうか。


 そもそも、オレ達は与えられるだろう試練をクリア出来るだけの力を備えているのか。

 一番の問題は、ここ。


 やはり、どのように災厄を打ち払うのか、もしくはどのようにして世界の危機を脱しようと言うのか。

 虫食いの中抜けならまだ許せるかもしれないが具体的な方法を残していない女神様とやらには、怒りを通り越して呆れすら感じる。


 不安だ。

 この生徒達を抱えながら、この世界でこの先生き抜いていけるのか。

 今は、どうにかこうにか、昔取った杵柄や無い知恵を絞って生活面では充実させている。

 豪遊では無いが、生徒達には苦労する生活はさせて居ない筈だ。

 だが、それがいつか破綻しないとも限らない。


 そして、一番の問題としては魔法の存在。

 オレ達の世界には、到底有り得なかった一番のイレギュラー。


 失敗として一番に脳裏を過ぎるのは、前回のキメラ討伐戦だ。

 前回ばかりは、魔法のありがたみが良く分かった。

 ついでに言うなら、この世界の常識に真っ向から向き合う覚悟も必要だと理解した。


 日ごとに、不安は募るばかりだ。


 はぁ、と溜め息を吐く。

 吐く息は白かった。


「先生~!!」


 そんな思考の中、女子組の声に呼ばれて振り返る。(逆立ちをしているので、上下が反転しているものの)


「見てみて、雪だるまー!」

「でかいの出来たでしょ~!!」

「久しぶりに作ったねぇ~!!」

「私も手伝いました~!!」


 可愛らしい4人の前には、これまた丸々と可愛らしい雪だるまがドンと作成されていた。

 三個も雪玉を転がして積み上げたものだ。

 全長はエマやソフィアよりも少し大きいぐらいか。


「おお、楽しそうだな~」


 オレの声に、満足気に頷いた生徒達。

 あの様子を見ていれば、不安だって吹き飛ぶんだから苦労はしない。


 我ながら、現金なものだ。


 可愛いな、畜生。

 生徒と女神様じゃなかったら、オレは間違い無くあの中の誰かとお付き合いをお願いしていただろう。

 ……決してロリコンという意味ではなかったけど。


 逆立ちを戻して、血液の逆流を感じる。

 いつの間にか、隣で間宮はダウンしていた。

 コイツは今日もペナルティ付きの組み手になりそうだな。


 なんか、平和な一日だ。

 現代ではここまでのんびり過ごした経験も無いな。

 こんな平穏な日々がこれからも続いてくれるなら、この異世界も悪くは無いと思うのに。



***



 香神の予想は外れて、生徒達は朝方には全員が席に付いて朝食を取っていた。


 メニューは香神と朝に話し合った通り、茹でたうどんを盛り付けて、野菜たっぷりの出汁の中に浸して食べるつけ麺だった。

 ちょっと辛めの昆布出汁と、白い麺が絡み合って良い。

 入っている具材は、こっちの世界の鳥肉や蕪や大根。

 ついでに、茄子も見つけてあったので、ごっそりとした具沢山。

 ラーメンもいつか作ってやりたいけど、スープを作るのにそもそもどれぐらいの労力が掛かるのか。


 ともあれ、無いものは無いで仕方ない。

 今は美味しいご飯に、満足しておくべきだ。


「先生、この後はどうするの?」


 食事中、女子組はどこかそわそわしていた。

 どうやら、作った雪だるまの飾り付けをしてやりたいらしい。

 本当にお前等、可愛いな。


「特に何も決めていないが?冬休みと言ったからには、」

「じゃあ、トレーニング終わったら外で遊んでて良いの?」

「好きにしなさい」


 オレの一言で、やったー!と騒ぐ女子達。

 男子組もどこかその様子を見て、嬉しそうにしているのは女子組と同じ理由だろう。


「オレ達もトレーニングの後は、遊んでても良いのか?」

「ああ、良いぞ」

「よっしゃ!!雪合戦しようぜ!!」

「サッカーも悪くねぇんじゃねぇ?」

「じゃあ、先にサッカーやって雪合戦だよなっ!!」

「どうでも良いけど、徳川は少し五月蝿い。食事中は、もうちょっとボリュームを抑えなさい」


 オレの言葉に、はーい!と返事を返した徳川。

 しかし、その返事も分かっているのか分かっていないのか、結構なボリュームであった。

 隣にいた永曽根が顔を顰めているのに気付こうか。


「昼ごはん、どうする?」

「弁当にして、外で食べるのも良いかもしれんが…その時考えよう。気温もそこまで高くないし、風邪でも引かれたら厄介だからな」

「それもそうね~」


 榊原は朝食中だと言うのに、次の昼食の献立を考えているようだ。

 しばらく、うどんが続いているので、そろそろパンに戻すか考え中だろう。

 立派な主婦になって…ほろり。


「(僕は、どうしたら良いでしょう?)」

「遊びたいなら遊んでも良いが?その代わり、修行の内容2割増だけど…」

「(修行をさせてくださいませ)」


 オレの言葉に、顔を真っ青にして震え上がった間宮。

 いや、別に遊ぶなって言ってる訳じゃない。

 やるならやるで構わないから、その代わり修練の内容はちょっと変更するだけ。

 時間を掛けてじっくりやるか、短い時間でがっつりやるかの違いだ。

 オレはどっちにしろ、今日一日修練しているつもりだし。


 ああ、そう言えば。


「常盤兄妹はどうする?息抜きに外で遊ぶか?」

「むー…眠い。…トレーニングした後、寝てても良いかな?」

「それはそれで有りだ。紀乃はどうする?」

「遊びに行くヨ。兄ちゃんガ昼寝するナラ、僕ハ暇だカラ」


 とりあえず、雪遊び組は女子組と華南を抜いた男子組か。

 間宮は修練だけど、少しぐらいは大目に見てやろうと思ってるんだが、どうしたもんかな。



***



 朝食後、全員でトレーニングを開始。

 ただし、今日のトレーニングはちょっと違う。


「全員、スコップ持ったな。除雪開始~」

「…あ、だからグラウンドまでは除雪してなかったんだ」

「騎士の人達にもお願いしてなかったのって、そういう事だったんだね」

「そういう事」


 まぁ、その通り。

 これだけの豪雪なら除雪は必須だし、なによりも足腰の鍛錬に丁度良い。


 女子は、二人一組。

 杉坂姉妹がペアで、伊野田は間宮と組ませて一区画。

 男子達は一人一区画とする。

 八分割にしても一区画余るので、その一角はオレが担当だ。


 早く終われば終わるほど、遊ぶ時間も長くなるというご褒美も付けて。

 ちなみに、一番に終わった奴には別にご褒美も考えている。

 まぁ、何の事も無く、夕食のおかずが一つ増える程度でしか考えていないものの。


 車椅子の紀乃は、勿論見守っているだけである。

 ただ、見守っているだけというのもまずいので、こいつだけは例外として、


「我が声ニ応えし精霊達ヨ、清流のせせらぎノ力の一端ヲ今此処に示し給エ」


 手元から溢れた水の玉。

 魔法である。


 いつの間にか、コイツは魔法の使い方だけは覚えていた。

 知識に関しては微妙に穴抜けしているようだが、それでもオレよりも先に魔法の発現に成功していた。

 その修練を、騎士達に身振り手振りで教わらせているのだ。


 ただし、簡単に発現をさせている訳じゃない。

 ふよふよと浮遊させてから、しばらく維持をさせている。


 ただ、集中力がやはりものを言うのか、ものの数秒で崩れて雪の中に落ちた。

 それを、繰り返していれば、そのうち魔力不足に陥って酸欠のようになるらしい。

 これも修練だ。


 体術が使えないのであれば、魔法を鍛えてしまおうと専属の教師を付けて修練に精を出させている。

 ちなみに専属の教師は、マシューである。


「今回は、間違えませんでしたね?」

「……何、お前、エスパー?」


 内心を読むんじゃありません。

 ただまぁ、今回は名前を間違わなかったとドヤ顔してやったけど。


 最近、この校舎の護衛の常連になっている魔法が得意な青年騎士は、こうして度々紀乃の専属教師となっている。

 ありがたいことだ。


 ちなみに、その上司は今日も今日とて二日酔いだったが。


 今も、雪の中に頭を突っ込ませている。

 お仕置きとか言うものじゃないから安心するように。

 ただの二日酔いへの暫定処置である。


 正月だったから親戚一同が集まっていたらしく、連夜飲み会になっているらしい。

 貴族であっても、そういう所は意外と一般市民と似通っているんだな。

 兄貴と姉貴がぶっ潰しに来るんだそうで、今日一日何故か校舎に避難して来ている。


 とまぁ、色々突っ込みどころは満載ながら、敢えてスルーをし続けた上で小一時間。


 除雪ローラー作戦は見事に成功し、一面雪景色で見違えたグランドが早くも運動が出来る程度には整備された。

 生徒達のトレーニングも今日ぐらいは、この程度にしておいてやろう。


「怪我しないで、遊べよ~」

「やった!!颯人はやと、サッカーボール!!」

「…オレがサッカーボールみたいな言い方しないで?」


 良くも悪くも徳川はいつも通りだ。

 その徳川に引っ張られるようにして、男子達が雪中サッカーへと雪崩れ込む。

 チーム分けは榊原、香神、浅沼でワンチーム、永曽根、徳川、河南でワンチームのようだ。

 徳川と永曽根は、くれぐれも力加減を間違わないように。

 河南は眠いと言っていながら、結局参加する形になったようだ。

 歳相応にはしゃいでいるのかもしれないな。


「何、持って来る?」

「バケツでしょ~?後、マフラーも付けてあげよっか?」

「賛成!どうせなら、メイクしてあげよう!」

「楽しそうです~!」

「雪だるまにメイクて…」


 女子達は相変わらずだ。

 ほっこりする。

 とはいえ、雪だるまにメイクというのは斬新過ぎる。

 後、雪だるまは雌だったのだな。


「……お前も遊びたいなら、」

「(いえ、結構です)」


 伊野田とペアを組んでいた間宮は、迷い無くこちらに戻って来た。

 修練はするけど、遊びたい気持ちを我慢させるつもりは無いから、遊んできても良かったんだが。


「(…ハンデもあるので、余計な体力は消耗したくありません)」

「……意外と計算高いんだな」


 なるほど、自分の未熟なスタミナも計算付くって事か。

 考えているもんだ。


 と言う訳で、オレと間宮は相変わらず修練に勤しむ事にする。


 雪の上と言うのは、とにかく足場が悪い。

 修練には絶好のコンディション。

 まぁ、間宮にとっては最悪のコンディションなのかもしれないが。


「気をつけないと、スリップするから気を付けろよ~。氷に擦ったら顔中血塗れになるから、スライディングはしないように…」


 とりあえず、諸注意は忘れないどこう。


 間宮に首を傾げられたけども、なした?


「(…やった事あるんですか?)」

「……修行という名の地獄の日々でな」


 ああ、懐かしき修行(じごく)の日々よ。

 師匠が存命だった10年以上前には、それが当たり前だったからな。


 雪の中に裸で放置されたり、埋められて30秒で抜け出して来いとか。

 おっと、いけない。

 思い出してはいけないものまで、思い出して背筋に怖気が走った。


 まぁ、オレは優しいから間宮にはそんな事させないけど。


「そも、優しい人間と言うのは、生徒に本気で膝蹴りは繰り出さんと思うぞ」

「………言うなよ」


 また、やってしまった。

 修行の日々を思い出すとどうしても、加減を間違えてしまう。


 雪の中に血反吐を吐いて埋まった間宮。

 いつの間にか復活していたゲイルが、彼へ治癒魔法を詠唱してくれる。

 3秒きっかりで起き上がった彼が、


「(ご無体、です)」


 がくがくぶるぶると震えていた。

 すまん。

 多分、その震えは雪に埋まったが為の寒さではなく、オレに対しての恐怖心だろうから。


 そんなこんなで、午前中は適度に気を抜いて過ごした。


 男子達は早々にサッカーに飽きてしまったようだ。

 香神が自棄にリフティングが上手かった所為で、ボールが奪えなかったらしい。

 お前は一体、何が苦手なんだ?

 何事も器用にそつなくこなしてしまうから、お前の苦手な項目を探すほうが難しいのだが。


 ついでにゴールが無かった所為で、勝敗がまったく決まっていなかったりもした。

 早々にサッカーを取り止め、チーム分けを変えて雪合戦を行っていた。


 女子達渾身の雪だるまは、劇的ビフォーアフター。


 鼻には人参、目にはジャガイモ、頭にバケツで首にはマフラー(しかもオリビアのものだ。また新しいの買ってあげないと)。

 までは良かったが、問題は表題に上がっていたメイクだ。

 まさかまさかで、本当にメイクを施してやがった。

 ルージュの変わりに薄く切ったアップルの皮と、チークにはサクラ色に着色した雪を撫で付け、目にはアイシャドウでこれまたブルーに着色した雪を伸ばし、最終的には昆布を切って付け睫にした。

 気合の入ったギャルメイクである。


 雪だるまで無ければ、素直に賞賛出来たのに勿体無い。

 ただ、女子達は満足そうなので、良しとしておこう。


 ついでに、間宮の修練は、今日は早めに切り上げてやろう。

 じゃないと、そのうち大怪我でもさせてしまいそうだ。

 血反吐吐く時点で、そもそも大怪我なんだろうけど、内臓破裂とか骨折とかしていなければ治癒魔法があるから大丈夫だ。

 ゲイルもいるし、白衣の天使どころか女神のオリビアがいるからな。


 とりあえず、ゴメン。



***



 昼食(やっぱり寒かったので、校舎で食った)を取ってからも、生徒達は雪遊びに夢中だった。


 そういや現代での学校生活では夜間講習しかしていなかったから、外で遊ぶという事態が異例なのだろう。

 どいつもコイツも子どもに戻ったみたいに、はしゃぎまわっている。

 ちょっと大人びている香神や永曽根までもがそうなのだ。


 杉坂姉妹もどこか冷めているところがあったが、今は女子で集まって楽しそうにわいわい騒いでいるし。


「見てみて、銀次!マッスルー!!」

「モデルは銀次先生だよ!」

「女の子の次は男の子だよねー!」

「逞しいです!!」


 違った。

 水分補給の最中だったので、噴くかと思った。


 雪だるま2号を作成していたらしい。

 見事な筋肉の隆起を、良くもまぁ雪で作り上げたものだ。

 筋肉だけなら現代の北国で行われる雪祭りに出品出来るぐらいには、秀逸な作品が出来たと思われる。

 ただし、


「オレはそこまで、筋骨逞しくは無いぞ。そして、マッスルはゲイルで十分だ」

「それはどういう意味だ!?」


 十中八九、モデルはオレじゃないだろう、それ。

 どちらかというか、ゲイルだ。

 つまりは、マッスルカーニバルだ。


「お前等、そもそもオレの身体を雪だるまで再現しようとするんじゃない」

「え~?なんで?」

「○ん○んも付けようか?」

「ぶっ!?下品な方向に飛ぶのもやめろ。それとエマは男のシンボルを口にするんじゃない」


 噴くかと思ってたら、本気で噴いた。

 エマちゃん、頼むから男のあれを伏字であっても口に出すんじゃない。

 お前が言うと規制音が鳴り響く上に、色々とあれだから。


 隣で間宮も噴出した。


 コイツは、結局簡単な組み手を終えてからは、基本的にストレッチをしながら雪と戯れていた。

 地面に落ちた雪を蹴りあげながら、落ちてきた塊をシャドーボクシングとかな。

 そして、盛大にずっこけた。

 お前、雪の上だからと言って、簡単に転ぶんじゃねぇ。


 ちなみに、雪だるまはしっかりと黒髪だ。

 昆布で。

 なので、地味にウェーブの掛かった黒髪を乗っけたシュールな顔のマッスルな雪だるま。


「……マ○ケル・ジャ○ソンでもそこまでマッスルじゃなかっただろうよ」


 そう言えば、女子組が大爆笑を開始した。

 彼女達も地味にツボに嵌っていたのを、なんとか堪えていたらしい。

 ウケを狙った訳ではなかったが、オレの色々な台詞にとうとう決壊したようだ。

 畜生、オリビアまで笑いやがって。

 相変わらずお前は可愛いな。(あ、違った)


 って、あれ?


 自棄に雪合戦をしていた生徒達が静かだ。

 彼等の元に目を向けると、


「何、自爆?」


 全員が地面に蹲ってる。

 しかも、何人かは腹を抑えて…。


「……キヒッ…キヒヒッ、…マッスル雪だるマ…ヒキッ…!」

「…ああ、ツボったのか…」


 魔法の修練を終えて雪合戦の審判をしていた筈の紀乃までツボに入ったのか、独特な笑い声を裏返しながら笑っていた。


 意外な同時多発テロ。

 被害者は誤爆を含む生徒全員だった。


 何人かは声にならない笑い声で、地面をばたばたしている。

 多分、笑い過ぎて死に掛けているのだろう。


「……好き勝手笑いやがって、コノヤロウ」


 女子達も男子達も、笑うのは構わない。

 楽しんでいるのだろう事も重々承知だからな。 


 ただ、それがオレの許容範囲なら、という話。


「良い訓練になりそうだな。…雪合戦」


 にんやり、と笑ったつもりで、ぼそりと宣戦布告。

 そのオレの笑顔とやらを見た生徒達が、一斉に固まった。


「あ、先生ノスイッチ入りましター」

「(こくこくこくこく)」


 紀乃と間宮が並んで、何故か実況中継。

 間宮は……、お前も混ざりたかったのか?


「Σッ…!!(ふるふるぶんぶん)」


 オレが首を傾げる。

 間宮が、一歩どころかバックステップで逃げて、左右に首振り。

 毎回思うが、コイツはよくも酔わないものだ。


 そもそも、オレの笑顔ってそんなにマズイ?

 そこまでNGものだろうか?


「……鏡を見て来い」

「お前も参加するのか、コノヤロウ」


 ゲイルにまで青い顔をしながら、言われた。

 そして、参加をさせようとして、更に真っ青になった。


 やっぱり、オレの顔は何か危機感を及ぼさせる何かだったらしい。


 ………笑うのは、しばらく辞めようか。



***



「ぎゃあ!!」


 午前中とは打って変わって。


 雪に埋め尽くされたグラウンドには、歓声では無く悲鳴が響いている。


 雪玉を正面から食らった生徒が、地面に倒れ付す。

 ほとんど全員が同じ有様ながら、頭から爪先まで雪塗れで真白だ。


「香神、アウト~!」

「楽しそうな声をやめやがれ!!」

「口答えしたからもう一発~」

「ぎゃんっ!!」


 オレの手には、またしても雪玉。

 その雪玉を握っているのは、オレでは無く騎士団の面々である。

 だって、オレ両手は使えないから雪玉握れないし。


 除雪した雪を再利用して、無限生成の雪玉をボールに見立てて、オレが即席ピッチングマシーン。


 素人だからと侮る無かれ。

 オレが発射し続けている剛速球は、当たった瞬間にパン!という音と共に、男子達ですら悲鳴を上げる代物だ。

 普通は雪玉が当たっただけなら、ここまでの音はしない筈。

 紀乃が後々恐々と語っていた。


 女子達の悪ノリから始まった、この雪合戦。

 基、雪合戦(笑)である。


 さっき、俺を笑ったアイツ等を纏めて、成敗する為にオレが仕組んだ。

 これも訓練だ、生徒達。

 耐え続けろ。


「頑張って、避けろ~」


 オレの嬉々とした声が響く。


『最低~!!』


 女子達からは、ブーイング。

 仕方ないかた雪玉を5連発。

 顔には当てないが、肩や腹に被弾して、仲良く3人地面に突っ伏した。

 そもそもの原因はお前達だから、反省しなさい。


 オレも地味に、大人気ないとは思うけどさ。


「気の抜けた声だな、コノヤロウ!!」

「後で、アンタもやるんだからな!!」


 永曽根と徳川が、なんとか回避行動を繰り返して、オレに抗議をしている。

 というか、アイツ等もオレの次のピッチングのタイムラグを狙って、雪玉を投げ付けてくる。

 それを、ゲイルが槍で払って、オレの壁になっているのでオレまで来ることは無いが。


 余裕そうなので、あっちには更に攻勢を強める。 


「ふべっ!」

「キヒヒッ、浅沼一回死亡~」

「縁起でもねぇ!!」


 永曽根を狙ったつもりが、避けた彼の後ろにいた浅沼に被弾。

 眼鏡は割れていなかったので、大丈夫だろう。


 また、香神が抗議をして来たので、更に一発打ち込む。

 あー、そろそろ肩がしんどくなってきた。


 紀乃は相変わらず、審判。

 しかし、生徒達の名前の横に正の字を書いて、合計撃破数を記入してもらっている。

 むしろ、死亡回数と言い換えた方が早い。

 この結果次第で、次の授業の優先権を決めさせるのも良いかもしれない。

 むしろ、罰ゲームで。


「一番死亡数が多かった奴、罰ゲームな~」

「ぎゃあああああ!!」

『鬼!!』


 いや、鬼はオレじゃなくて、ローガンだから。


 節分の時に来たら豆まき手伝ってもらおう。

 ………打ち返されそうだな。

 やっぱりやめよう。


「だぁ!!なにすんだ、テメェ等!!ぶふっ!!」

「頑張れ永曽根!!」

「お前だけが頼りだ!!」

「だからって盾にすんじゃねぇ!!」

「おー…上手い事考えたもんだ」


 そのうち、生徒達は永曽根をバリケードにしながら、応戦しまくるようになってきた。

 小さな犠牲で大きな勝ちを得ようと言う魂胆だろうか。

 彼等も色々と学ぶようになったもんだ。


「おお、少し難しくなった来たな…」

「オレに当てたら、テメェも強制参加な?」


 そして、その雪玉を弾いているゲイルが更に役に立つ。

 槍の腕も魔法の腕も、この王国では一番に名が上がる人間だからな。


 盛大な才能の無駄遣いだと思うが、全く意に介していない。


「今のところ、順位は?」

「一番はやっぱり、永曽根かな~。次に、浅沼」

「お前等、オレを盾にしてんじぇねぇえ!!」


 横目で見た成績は、永曽根こそ凄惨なものだったが、ほとんどの奴等がどんぐりの背比べ。

 すばしっこいという意味で言うなら、徳川と間宮は有利。

 ……というか、間宮が見当たらない。


「間宮ぁ。……姿を現さないと、罰ゲーム」

「Σッ…!!(ビックン)」

「うわっ、吃驚した!!何、オレの影に隠れてんのよ間宮!!」


 オレもじんわり吃驚した。

 間宮は、どうやら榊原の背中に張り付いて雪玉を逃れていたらしい。

 榊原も地味にすばしっこくて、死亡数はそこまで高くなかったからな。


 姑息な手を使いおって。


「騎士団、戦闘配置!!」

『はっ!!』

「いやいやいや、なんだその号令!お前達も、何故すんなりと隊列を組んでいるのか!!」


 オレの号令に、雪玉を量産するだけだった騎士達が、隊列を組む。

 上司であるゲイルが目を見張る中で、彼等は三列になって先頭がしゃがんだ。


 三列目の一番多い人数が雪を確保しながら、雪玉を作成。

 二列目の奴がそれを運搬、一列目に配布。

 一列目の奴等はそれを、生徒達目掛けて射出、と。

 これで、ピッチングマシーンの弾幕が完成である。


 っと、あともう一つ。


 オレの横合いから迫っていた雪玉は、蹴り落す。

 うむ、良い玉だった。

 狙いも正確だったが、殺気が滲んでいたのでわかりやすい。

 これは、絶対に間宮だろうな。


 まぁ、それは良い。


「………あ」


 ゲイルが絶句。

 そして、ぎぎぎとオレの方を振り返る。


「強制参加決定だな。一名様、ご案内~」

「ま、待てッ…ギンジ、とりあえず待て!話し合おう!!」

「槍は回収な。それから、お前は一切の魔法の使用を禁止する」

「貴様、鬼か!?」


 だから、鬼はオレじゃなくてローガンだってば。


 ピッチングマシーンの弾幕こと、彼等騎士団の上司も雪合戦(笑)に強制参加となった。

 言葉の通り、槍も回収して魔法の使用も禁止させ、文字通りオレ達の的になってもらう。


 生徒達の悲鳴の中に、更に野太い悲鳴が加わった。

 そして、永曽根同様、アイツも盾にされ続けていた。


「楽しそうですぅ……」

「さすがに、お前をあの中に放り込む訳にはいかないだろ?」

「……投げても届かないです」

「まぁ…なんだ。……そんなお前だから可愛いんだよ」


 オリビアは始終、すねていた。

 そんな所もちょっと可愛らしい女神様。


 いや、だってお前浮いているから、訓練も何も無いだろう。

 しかも、女神様だから。

 普通に参加しているのが万が一、教会の神官とか市民とかに目撃されたらオレの変な噂がまた増えてしまう。


 こうして、雪合戦もとい雪合戦(笑)という、訓練は終了した。



***



 冬休み、4日目。


 見事に風邪を引いた。


 オレだけじゃなく、生徒達の半数もダウンしている。

 女子は伊野田とエマ、男子は永曽根、香神、浅沼、間宮だ。

 他の連中は、何故か色々な意味でピンピンしていた。


 ソフィアはオレの看病だと張り切り、榊原は一人で食事の切り盛りをしながらも何故か楽しげにしていた。

 どうやら、オレへの恨みが若干あったようだ。


 さて、もう一人のオレへ恨みを持っている男。


「…見事に、潰れたな」

「ああ。…冬休み中で良かったよ…」


 気だるい身体をベッドに起こす。

 その足元に腰掛けたゲイルは、律儀なものでお見舞いとやら。

 地味にコイツもピンピンしてやがった。

 永曽根と並んで死亡回数が3桁に行った筈なのに、頑丈なものである。


 死亡数も何も無い、オレが風邪でダウンとか情けない。

 あれ?オレ、雪に塗れたりはしてない筈なんだが。


「汗を掻いていたのに、放って置いたからだろう」

「…そういや、そうだったわ」


 一件終わってから、全員を風呂に入れさせた。

 まぁ、オレは一番最後だったのもあって、途中からくしゃみを連発していたしな。


 自分の馬鹿さ加減に、少々苦い顔をしてしまう。


 ただ、見舞いに来た筈のこいつ。

 何故か、むくむくと笑っていた。


 馬鹿にしている感じではないようだが、何がそんなに可笑しいのか。


「自棄に楽しそうだったな。子どもの頃を思い出すよ」


 曰く、彼も子どもの頃に、同じような経験をした覚えがあるらしい。

 雪にはしゃぎまわって外で遊び倒して、次の日には風邪を引いて寝込んだとかなんとか。

 今のオレ達の状況、そのままだな。

 コイツの子ども時代って、あんまり想像出来ないけど。


 むっとしてしまう顔は、仕方ない。


「…知らなかったからな」


 オレには、普通と呼べる子ども時代は無かった。


 オレの様子を見てか、苦笑を零したゲイル。

 オレの半生という言い方は少々可笑しいながらも、記憶を混同してしまっているコイツはオレの少年時代も見えていたのかもしれない。

 地味にプライベートの心外だな。


「痛いッ!!…何故、蹴るんだ?」


 腹立たしかったので、蹴っておいた。

 抗議の声が上がったが、無視をしてそのまま背中辺りをげしげしげし。


 力が入っていないのは分かっているのか、ゲイルはそのままされるがまま。

 ただ、またしても喉を鳴らしたのは、何なのか。


 コイツもオレと精神感応しているとか言わないよな。

 女神様オリビアだけで、十分なんだけど。


「…これから、知っていけば良いさ。たまには童心に戻ってみるのも悪くは無いと思うぞ」


 「オレも、楽しかった」と、微笑んだゲイル。


 畜生。

 なんか、オレが子どもみたいで悔しいじゃないか。


「じゃあ、悪戯しまくってやるから覚悟しろ」

「それは辞めろ」


 強がりとは分かっていながら。

 最初の悪戯として、彼をベッドから転げ落すところから初めてやった。


 確かに、気分は軽くなった。

 たまには童心を思い出すのも、悪くは無いのかもしれない。



***

たまには、こんな話も良いのではないか、と。

雪景色ネタ。

季節感は全く関係ありません。


秋ごろに転移して来たので、この世界での季節は現在真冬となっています。

作成段階に入った時点で既に、設定が秋となっていたので。


今年の冬も寒そうで怖いです。

豪雪地帯なので、また家で遭難なんて事にならない事を祈ります。




ピックアップデータ。

アレクサンダー・ビルフォニア・ナイトロード。

100歳前後の年齢不詳。

ただし、幼い言動がとにかく目立つ。

身長は140センチ前後、体重も40キロ前後。

くすんだ灰色の髪に、赤眼の美少年。

髪と同様に浅黒い灰色の体をしている。

種族は魔族である吸血鬼ヴァンパイア

活発そうなイメージをそのままに、後ろの髪が少しだけ逆立っているのが特徴。

魔法の属性に関しては、全属性対応。

魔族であっても聖属性だって使えるし、闇属性も得意。

銀次の血がお気に入りになってしまった悪食童子。

年齢が低そうに見えるも、産まれてから100年は経過しているらしい。

人間で言う10歳ぐらい。

吸血鬼なので、寿命が800歳から900歳までいく。

魔族故に外見的変化が無いまま寿命を迎えるらしい。

ちなみに、彼曰く太陽の光は苦手というだけで、灰になったとしてもしばらく時間が立てば復活できるとの事。

十字架も飲み込んだり、刺されさえしなければ大丈夫だとか。

ニンニクは大好物だとか。

本気で討伐したいなら、やっぱり銀製の銃弾が必要。

心臓を杭で刺したりしても良いけど、寝ちゃうだけなのでやっぱりしばらくすると復活する。

そのしばらくの期間が100年ぐらい掛かるのは、ご愛嬌。

長寿だからこそのロングプール。

灰化すると憑依が出来るようになる。

以前は、その能力でゲイルに取り憑いて、銀次にいたずらしたのもご愛嬌。

ただし、ゲイルとは相性が良いとの事。

おそらく、精神感応のどこかで、マッチしていると思われるが詳細は不明。

それ以外も、不明なことの多い少年。

最近、彼女が出来たらしい…。


どうでも良い、近況報告。

ピックアップデータ20回目。

しかし、彼は一度出てきただけの当て馬キャラなのさ。

今後出てくる予定は、……おそらく無いのさ。


いや、気に入ってるので、出すかもしれませんけどねッ!!


誤字脱字乱文等失礼致します。

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