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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、討伐参戦編
38/179

33時間目 「討伐隊~騎士と女神と生徒と赤鬼~」

2015年10月14日初投稿。


ちょっと今回は、急いで書き上げたので誤字が多いかもしれません。

後々、訂正をしていきます。

気分が乗ってしまったので、またしても連続投稿。

じゃ○りこを食べながら書いていたので、ペースがとっても一定で助かりました。(エ…?)


33話目です。

やっとこさ、キメラ討伐が終了しました。

アサシン・ティーチャーもほっと一安心と言う事で、私もほっと一安心です。

***



 一件、終わって。

 溜め息を吐きつつ、ローガンディアと笑い合う。


 苦笑だ。


 だが、お互いに生還した事を喜ぶには、これで十分。


 会って3日でキスまでした仲だ。

 思えば、濃厚な3日間だった。

 ご馳走様でした。


「御無事で良かった。生徒様方も心配されてました」

「はは。帰ったら女子組総出でお説教食らいそうだな…」


 オレは、オリビアから魔力の吸収を受けている。

 若干、枯渇気味になって来たからそろそろ辞めて貰った方が良いか。


「おら、もう泣くな。お前は説教しなくて良いのか?」

「ぐすぐす(ぶるぶるぶるぶる)」


 間宮は、ぐしぐしと鼻を鳴らしてオレの膝に引っ付いていた。

 頭を撫でると頭をぐりぐりと押し付けてくる。

 さっきの勇ましさはどこに吹っ飛んだ?


「はぁ…肝が冷えたぞ。よく生きていてくれた…」

「オレだってテメェのさっきの魔法に肝が冷えたわ…」


 友人兼下僕とも、感動の再会は終わった。

 コイツも涙流してオレの生還を喜んでくれたけど、さっきの魔法の余波でどうも喜べない。


 あと、コイツがさっきオレを見た瞬間に、怪訝な顔をしていた理由も分かった。

 コイツ、誰?って顔。

 勿論、ローガンディアにではなく、オレに向けられていた。


 カツラを付けていなかったからだ。

 黒髪がいきなり、銀髪に変わっていた所為だ。

 記憶にあるオレの姿と合致しなかったんだろう。


「…カツラだという事は、知っていたのだが…」

「………他言無用で」

「分かっている」


 カツラを被り、オリビアに細部を直してもらった。

 あれ?でも、オリビアも知らないと思ってたけど…。


「え?知っておりましたわ…精神感応で既に」

「さいですか…」


 ああ、なるほど。

 とっくの昔に、公然の秘密となっていた訳だ。


 彼女は、オレの危機を察知したが為に、ここまで来た。

 此処に辿り付くまでは、彼女の言う精神感応とやらでオレの魔力を辿っていた。


 時たま、ビジョンのようなものも見えていたらしい。

 その中のオレは、既にカツラを取り去られた銀髪だったと。


 ………どんどん、バレてく。

 げしょ。


「何故、隠すのだ?」

「……内緒」


 当たり前のようにローガンディアには聞かれた。

 彼女にとっては、髪の色ぐらいどうって事は無いだろう。

 女蛮勇族アマゾネス然りとした赤い髪をした彼女は、その色が誇りだと言っていた。


 しかし、オレの銀髪はそうではない。

 たとえ、同僚兼友人ルリと同じ色だとしても。


 口に指を当てて、聞いてくれるなとポージング。

 ローガンディアは、頬を染める。

 え?なんで?


 頭の後ろを掻いてそっぽを向いてしまったので、それ以上は表情を伺えなかった。

 オレのこのポーズって、見るに耐えない?


 ともあれ、窮地は脱した。

 カツラも被って、体調も怪我もオリビアのおかげで元通り。

 この女神様は、また魔力を吸収した所為か治癒魔法が桁違いになってきている。

 おかげで、オレの鼓膜も元通り。


 洞窟から出て面々の前に表向きは元気な姿を見せれば、騎士達魔術師達からは歓声が上がった。

 何、この人気っぷり。


 あ、オレがキメラ討伐の立役者?

 それは違う。

 キメラを討伐したのは、文字通り彼等だ。

 オレは、何もしていない。


 一体目に関しては、死にぞこないにトドメを刺しただけ。

 二体目に関しては、完全に火力不足だった。

 それを一撃で討伐したのは、ゲイルだ。

 賞賛は彼にこそ、与えられるべきである。


 だから、この半端無い好意の嵐を止めて欲しい。

 いっそ、切実に平穏を望む。


「……胸を張れば良いのではないか?」

「張れる胸がねぇよ」

「そういう意味ではない」


 呆れ混じりにのローガンディアの声音。

 彼女の晒しで潰された胸を見つつ告げれば、頭を殴られた。


 げしょ。

 でも、あんまり痛くなかった。

 反省はしていない。



***



 時刻は、夕暮れ時。

 正確な時間は分からない。


 懐にあった懐中時計は、無残にも壊れてしまっていた。

 壊れてはいるけど、榊原辺りに謙譲すれば喜びそうだ。


 生徒達、どうしているかな。

 色々あった今回の討伐隊の一件で、改めて考え直す彼等の今後。


 ただ、オリビアの話を聞くと、生徒達はそれぞれ平穏に過ごしているらしい。

 驚いた事に、徳川も問題を起こす事なく平穏に。


 なにかあった?と聞くと、


「内緒です。帰るまで、楽しみにしておいてくださいませ」


 と、オリビアに言われてしまった。

 ご丁寧に、オレのポージングも真似されて。


 可愛い。


 じゃなかった。

 気になる。


 ただ、ローガンディアの気持ちはちょっと分かった。

 このポージングは、ちょっと目に毒だ。

 いや、勿論良い意味での、可愛らしい目線でだ。


 オレも若干どころではない、女顔だからな。

 オリビアとは似ても似つかないにしても、確かにちょっと照れる。 


 閑話休題。

 想いのほか、気が抜けてしまっているようだ。


 ゲイルが連れて来たのは討伐隊から抜粋した捜索隊だったらしい。

 地味に3日も探し続けてくれていたなんて、本気で申し訳無い。


 オレは魔族の女性と、死に掛けたりしながらイチャイチャしてたとか。

 いや、結構一杯一杯だったんだがな。

 言い訳はすまい。

 ちょっとどころじゃなく、色々とハプニングもあったが楽しんでいたのは事実だ。


 ゲイルはそのまま、キメラの魔水晶の回収へと動いた。

 魔水晶は、ダドルアード王国であっても、とても高価な代物らしい。

 大きさは拳大のものから、今回の脳みそみたいな大きさのものまで様々。

 値段もデカければデカい程、値段が跳ね上がるらしい。

 今回のは脳みそクラスのデカさだ。

 結構なお値段になる事も予想されるので、おそらくは国庫に宛てるんだろう。


 一体目のは破壊してしまったので、回収は出来ないだろう。

 申し訳無い事をしたとは思っても、命あっての者種だ。

 今回は、素直に命があった事を喜ぶ事にしておこう。


 ついでに、今日はこのままここを拠点に野営を行うとの事。

 そりゃ、3日も森を彷徨っていたなら、一度は腰を落ち着けて休んだ方が良いだろうな。

 騎士達はともかく、魔術師部隊はその場でへたり込んでしまっている。


 本気で申し訳無い。

 疲労困憊の騎士達、魔術師達を眺めながら、苦笑を零してしまった。 


「彼等が、お前の言っていた討伐隊か?」


 ふと、隠れてしまっていたローガンディアが洞窟の奥から出て来た。

 洞窟から出たオレとは対照的に、彼女は洞窟の奥に潜ってしまっていたのである。


 額には何故か角を誤魔化すような鉢金を付け、口元は布で覆っている。


 ああ、人間と魔族で種族が違うからな。

 この世界でも、人種では無いとはいえ種族差別か何かがあるんだろう。


 鉢金を見ていたのに、気付いたようだ。

 目元だけしか分からないながら、苦笑された。


 ああ、そういやさっきの質問の答えを返していなかった。

 ついでに、紹介もしてなかったな。


「ああ。…それから、彼女はオリビア。女神様」

「…む?もしや、『聖王教会』の女神なのか?」


 改めて、自己紹介。

 と思ったら、空気が止った。


 あれ?薮蛇だったか?

 オリビアを紹介した途端に、彼女の表情が強張ってしまった。


「…何故、ここに?聖域から出て来れないという話では無かったのか?」

「あ…それ、オレも聞きたい。後、なんかちょっと成長してないか?」

「私は、ギンジ様の眷属でございますの。途中でギンジ様の魔力を回収しつつ騙し騙し、魔力を辿ってここまでやって来ましたの。ただ、ちょっと魔力を吸収し過ぎてしまったようでして、急激に成長してしまったようです」


 器用なことをするものだ。

 魔力の流れとか辿るとか、オレには逆立ちしても出来そうに無い。

 しかも、彼女が急成長したのは、オレの魔力を取り込みすぎた所為なのか。

 そうなのか。


 ………オレの魔力って、やっぱり異常なのか?


「異常ですね」

「異常だ…」

「おおう、ダブルパンチ…」


 オリビアとローガンディアに、揃って言われた。

 前にもこんな状況じゃなかったっけ。

 あ、杉坂姉妹に物理的なパンチを食らった時か。

 こっちは、言葉のパンチだった。


「しかし、女神が眷属とは…………」


 ローガンディアさんや。

 なんで難しい顔して、考え込んでいるの。


 って、あ。

 一つ、言い忘れている事を思い出した。


 それに、オレが気付いたと同時。

 彼女も目線を険しくし、顔を上げた。


「……お前、まさか『石板の預言の騎士』か?」

「…忘れてた…」


 言うのも忘れてた。

 しかも、ちょっと頭からすっぽ抜けてた。

 自覚が足りない証拠である。


 口元が引き攣った気がする。

 不穏な気配だ。


「何故言わなかった!だいたい、お前、『ボミット病』の事も隠していたし…っ」

「い、いや、言わなかったんじゃなくて、忘れてたんだ!本気で…!」

「忘れるだと!?…お前の脳みそはどうなっているのだ!!」


 オレも、どうなってんのか聞きたいさ。

 こっちに来てから、痴呆でも進んでるんじゃないかってぐらい物忘れが酷くなったし。


 これ、頭をガンガンぶつけまくった後遺症とかじゃねぇよな?

 今更ながら、心配になって来たんだけど。


「ギンジ様、色々と考える事が多くて大変なんですよ。やること一杯で、いつ過労で倒れてしまわれるか冷や冷やしてますの」

「(こくこくこくこく)」


 今度はオリビアと間宮からダブルパンチを貰った。

 オリビアが薮蛇だった。

 そして、無言で高速で肯首をするんじゃない。

 なんか、お前みたいな首振り人形(バブ○ヘッドだっけ?)があったような気がするから、なんか和んじゃうし。


「…余計な事も考えるからじゃないのか?」

「ご尤も…」


 余計な事を考えているのは、いつもの癖である。

 だが、まさか見破られるとは。

 視線で一瞬射殺されるかと思った。


「…あ、の…別に、隠していた訳じゃなくてな…」

「良い、別に。…紹介の途中で、話を折ってしまったしな…」


 だが、思いの他、彼女はそこまで激怒していなかった。


 それに、『預言の騎士』と聞いても、そこまで身構えているようにも見えない。

 あれ?魔族相手だと、敵に位置するのでは無かったのだろうか?


 若干、拍子抜けしたものの、促されるままにもう一人の生徒を紹介。

 間宮はオレの傍らに膝を付いて、焚き火を起こしている真っ最中だった。


「コイツは間宮 (かなで)。さっきも話したけど、オレの生徒」

「…本当に教師だったのか」


 オレ、本気で何に見えるの?

 ついつい、胡乱げにローガンディアを見てしまう。

 彼女は咳払いをして、目線を逸らしただけだった。


「…私は、ローガンディア・ハルバートだ」

「(こくり)」


 頷いただけの間宮。

 ローガンディアは、きょとりと目を瞬かせる。


「声が出ないから、挨拶は勘弁してやってくれ」

「……そうだったのか。…意思疎通が大変そうだな」

「そうでもない。…意外とコイツはおしゃべりだからな…」

「(銀次様とはちゃんと意思疎通が出来ますので…)」


 ぱくぱくと、大仰な仕草で唇を動かした間宮。

 相変わらず、目を瞬かせている彼女。

 さすがに、彼女も読唇術は分からないようだ。


「今のは?」

「喋ったの。音は無いけど『オレとはちゃんと意思疎通が出来る』と言ったな」

「…なるほど、唇の動きか…」


 って、思ったら、意外と彼女は読み込みが早い。

 試しに何度か、自分で自己紹介をさせると、微妙ながらも彼女には通じた。


 あれ?コイツも、色々ハイスペック。 


「いや、魔族の中には、言葉を持たない種族もいるからな…」

「…それだけで、順応したのが怖いよ」


 オレも、読唇術は学んで覚えたんだけど。

 しかも、習得には2年近く掛かってんだけど。


 ふと、遣る瀬無くなった。


「私はお前の方が怖いが?…教師の癖に『預言の騎士』であり、あのキメラを討伐出来る力を持ちながら、なおかつ魔力総量が異常だ…」

「……なんか、すまん」


 恨めしい目をされた。

 確かに、戦闘能力はある方だとは思うけど。

 いや、魔力総量に関しては、何も言うまい。


 大仰な溜め息を吐きつつ、髪を掻き上げたローガンディア。


 彼女の色気に、間宮がぼんやりとしている。

 オリビアも頬を染めていた。


 良いなぁ。

 女なのに、男としての色気があって。

 オレも欲しかった。


「また、余計な事を考えているだろう?」

「…色気が欲しい。切実に…」


 と言ったら、背後で何かが落ちる音。

 なんか、凄い音した。


 そこにはいつの間にか、ゲイルがいた。

 足元には、彼の獲物でもある身の丈を余る槍が落ちていた。


 ついでに蹲って、ブーツの爪先辺りを押さえている。

 目が涙目だ。


 武器を落として、足にぶつけたの?


「…お、お前は…なんて事をのたまって…!」

「おー…ゲイル………大丈夫か?」

「心配するまでの間が長いッ!」


 しかも、オレの所為らしい。

 ローガンディアに続いて、ゲイルにまで恨めしい目を向けられた。


 ちなみに、ローガンディアはオレから目線を逸らしてゲイルに向けている。

 その目はやはり、どこか恨めしい。


 さっき、コイツが『八文節』もある上級魔法を披露した事は記憶に新しい。

 オレも度肝を抜かれたからな。

 そりゃ、魔力総量が少ないと自分で言っていた彼女からすれば、オレもゲイルも規格外だろう。


 一応、紹介はしておこう。


「コイツは、ゲイル。オレの友人で、王国騎士団の騎士団長だ」

「そうか。…私は、ローガンディア・ハルバートだ」

「このような格好で済まない。改めて、アビゲイル・ウィンチェスターだ。友人のギンジを保護していてくれたこと、心から感謝する」


 と、ゲイルが頭を下げた。

 懇切丁寧な挨拶である。

 律儀なものだ。


 それを、ローガンディアは少し驚いた顔をして見ていた。

 うん?どうした?


「…魔族だと分かっていながら、私に頭を下げたのはお前が初めてだった。彼が二人目だ。少し新鮮だな」

「ああ、なるほど」

「魔族であっても、友人の恩人に代わりは無い」


 ゲイルの律儀な性格が幸いしたらしい。


 衝突も有り得ると、若干緊張していたけど拍子抜けだ。


「類は友を呼ぶというか、二人揃って、異常な魔力総量だな」

「……ごもっとも」

「……産まれ付きだ」


 しかし、次の瞬間には、恨めしい目を向けられてしまった。

 2人揃って目を逸らすしかない。

 彼女からして見れば、目の前に化け物が2人いるようなものか。


「ただ、理解は出来る。…お前達は、精霊の加護を深く受けているからな」


 納得したように、頷いた彼女。

 おそらく、素直に褒めてくれているようだ。


 でも、ここで疑問がむくり。

 精霊の加護って、そもそもなんぞや?


 さっきも…というか、オレが『ボミット病』で意識を失う前にも、聞いた話。

 オレはなにかしらの精霊の加護を受けているらしい。

 ゲイルもそれは一緒で、コイツは言葉の精霊とやら。


 だが、オレは?

 この世界に来てから今まで、女神様以外の魔法要素には触れ合っていないのだが。


「……知らんのか?」

「知らないから、聞いてるんだが?」


 そもそも、オレは魔法を使えないし。

 説明はしてある筈。

 あ、『ボミット病』云々は、話してなかったっけ。


 ふと、ここでローガンディアがオリビアを見た。

 彼女はオレの背中に張り付いて、未だに魔力の吸収を行ってくれている。

 魔力が枯渇寸前までやって欲しいと言っておいたので、ずっと張り付いている形である。


 ローガンディアの目線を受けて、彼女はきょとんと目を瞬いた。

 しかし、こてりと首を傾げたので、


「…可愛いな」


 ローガンディアが脱線した。

 彼女もオリビアの可愛らしさにやられたようだ。


 って、そうじゃない。

 精霊の加護の云々を聞きたいのに、女神様で和むな。


「一から説明するとなると、難しいのだが…人間と魔族では精霊の存在に粗略があるようだな」

「そうなのか?」


 ここで、ローガンディアによる即席の精霊講座が開かれた。

 蹲っていたゲイルも、オレの隣に腰掛けて話を聞く体勢。


「精霊は、この世に何種類もいる。話したとは思うが、それぞれ能力で区別もされている。魔族は目で見た色で認識するが、お前達人間は違うというのはなんとなく察しはついている。間違いないな?」

「ああ」


 ローガンディアの問い。

 逸れに答えたのは、ゲイルだ。


「我等の世界では、『加護の魔水晶プロテクション・クリスタル』で調べる。これは、精霊を魔水晶を通して色や濃淡で認識させてくれるものだ。城や冒険者ギルドで行っているな」


 この方法は、オレも知っている。

 オレも魔法をゲイルに教わる前に、彼に連れられて城でこの方法を試した。


 結果は、凄惨たる有様だったが。

 魔力はあるのに、魔水晶が反応してくれなかったのだ。

 反応したと思ったら真っ黒だったし。


 だから、オレは未だに属性を知らない。

 ついでに言うなら、加護してくれるだろう精霊の存在すらも感知していない。


「精霊は、割とどこにでもいる。…勿論、その土地や風土にも関係して来るが、」


 ローガンディア曰く。

 以前、オリビアやゲイルに魔法の概念を教わった時にも聞いたが、その魔力の感応に、力を貸してくれるのは精霊だ。


 その場、その土地、風土などで宿っている精霊が変わり、その時その時に適した魔法を、精霊と共に選択して使わなければいけないらしい。


 砂漠や活火山には、火の精霊。

 川や滝などの水場には、水の精霊。

 他にも、光の精霊、闇の精霊、風の精霊、雷の精霊、土の精霊などがいるらしい。

 魔法発言のキーワードが『精霊達よ~』から始まるのはこれに関係しているとの事。


 魔族でもこの概念は同じ。

 しかし、彼女達はそれを目で視認出来る。


 火ならば、赤。

 水ならば、青。

 光であれば白で、闇ならば黒、風ならば緑、雷であれば黄、土なら茶と言った具合。


 そして、その精霊に加護を受けている人間にも、その色が色濃く現れるらしい。

 例えば、ゲイル。


 彼は、精霊の加護を幾つか受けている。

 『聖属性』、『雷属性』、他にも言葉の精霊などの実用的なものなども。


「属性が似ているから、喧嘩もしていないようだな。上手い具合にバランスが取れているというべきか」


 彼女の言葉通り、バランスというものもあるらしい。

 属性は必ずしも、一つでは無い。

 全員が属性だけならば、別々の魔法を使う事は可能なのだとか。


 ただし、精霊は無機物ではない。

 ちゃんと意思を持っているし、オリビア辺りは会話も可能。

 だから、時たま属性が反転していると喧嘩をしてしまうらしく、その場合は総じてバランスが悪いと称される。


「だが、お前は違う」


 そう言って、オレを見たローガンディア。

 正確には、何故かオレの腹の辺りを注視していた。

 

「…お前の体には精霊が巣食っている。それも、闇の精霊だ」


 ここで、オレの属性が分かった。

 城で調べた時に、魔水晶が黒くなったのはやはり勘違いではなかったらしい。


 と、ここで、ゲイルが目を逸らす。

 コイツ、気付いていやがったのか。


「完全に『闇属性』だ。人間であれば、一握りしか存在しないのではないだろうか」

「そうなのか?」


 魔族にも色々あるように、精霊も色々って事か。


「通常、精霊達は平等ですから。勿論、精霊によっては気まぐれな者もいますが、闇の精霊は実は精霊の中でも一番気難しいのです」


 きょとんとしたオレにオリビアが説明をしてくれた。

 あれ?若干、彼女も何故か気まずそうな顔をしている。

 まさか、彼女も気付いていたのか?


「闇の精霊は気難しいのではなく、嫉妬深いのだ。他の属性を受け付けない」


 え、嫉妬深いの?


 厄介な精霊に好かれたと、考えるべきだろうか。

 いや、まだ加護をしてくれているだけでも、ありがたいと思った方が良いのかもしれない。


 最悪、オレは魔法に無縁になる可能性もあったのだから。


 って、待てよ?


 発覚した新事実。

 オレは、闇の精霊に加護を受けていた。

 そして、『闇属性』だと、ローガンディアには直接言われた。

 なら、何で魔法が発動しないのか。


「巣食っている、と言ったな?」

「ああ」


 と、オレの疑問を代弁するように、ゲイルが言葉を発した。

 その声音は、どこか気遣わしげだ。

 こめかみに冷や汗が流れている。

 安心しろ、今は叱咤しないでおいてやる。

 終わってからは、どうするか分からない。


 横目で友人を確認。

 また、隠し事か、と溜め息も吐きたくなる。


「…加護とは違うのか?」

「そうだ」

「え?違うのか?」 


 加護と違う?

 それは、つまり……どういう事だろう。


「その話は、ここまでに出来ないか?」


 詳しく、と身を乗り出そうとした。

 そこで、またしても声を発したのはゲイルだった。


 今度は、疑問を問いただした訳ではない。

 会話を止めた。


「おい、ゲイル…」

「……分かっている」


 恨めしげな目をしていたのだろう、オレは。

 それを、受け止めたゲイルが気まずそうに目を逸らす。


 その目先の先には、此方を伺っていた騎士達。

 伝達係の騎士も、立ち往生をしているように見えた。


「…ただ、ここではこれ以上、話すべき話では無い…」


 難しそうな顔をしたゲイル。

 振り返って見たオリビアも、少々困惑した表情をしていた。


 人目がある場所で、する会話では無い。

 暗にそう言われた気がした。


 間宮を見る。

 彼は、オレの足元に傅きながら小首を傾げた。

 純粋に、分かっていない。

 分かっていないのは、オレだけでは無いらしい。


 最後にローガンディアを見た。

 彼女は、目を閉じている。

 何かを思案しているようだ。


 ふと、オレの視線に気付いて、目を開けた彼女。

 ややあって、口を開いた。


「……お前は、『預言の騎士』だ。それを忘れるな」


 彼女も、フォローはしてくれないらしい。

 まぁ、所詮は人間の都合だからな。


 止められた会話の意図。

 それも、分からないままで、彼女の言葉の意味は分からない。


 いや、もしかしたら、分かっているのかもしれない。

 この属性が、今後オレの『騎士としての業務』に差し支える(・・・・・)かもしれない事。


「分かったよ」


 口惜しい。

 だって、これは核心にも近い。


 オレが精霊の加護を受けていた。

 属性も分かった。

 加護どころではなく、腹の奥底に人智を超えたものが住み込んでいるのも分かった。


 だが、仕方ない。


 ゲイルも何も意地が悪い理由で会話を止めた訳ではないだろう。

 オリビアも知っていながら秘匿していたのは、何か理由がありそうだ。


 そして、ローガンディアもおそらくその理由を分かっている。

 ああ、口惜しい。

 オレはサプライズは好きだ。

 隠し事が好きという訳ではないが、相手の度肝を抜くのは好きだ。


 だけど、されるのは嫌いだ。


 底意地が悪いのは、どちらだろうか。

 本当に訳が分からなくなって来た。


「…疲れた…」


 ぽつりと、呟いた言葉。

 間宮がオレの膝に手を添えて、気遣わしげな顔で見上げていた。


 ローガンディアも、若干眉根を寄せている。

 見れば足元が小刻みに揺れている。

 貧乏揺すりをしているようだ。

 女もやるんだ。


 どうでも良い事だったかもしれない。



***



 疲れた。

 本当に、今日はどころかここ3日間、次から次へと発生する問題の怒涛のラッシュで疲弊していた。


 考えることにも、少しだけ疲れてしまった。


 その日は、早めに休んだ。

 気絶以外で、久しぶりに眠った気がした。


 だからだったのかもしれない。

 まどろみの中に、懐かしい顔を見た気がしたのは…。



***



 眼の前の少女のような顔が歪んだ。


 それと同時に、大きく鳴り響いた打音。


 振り払われた手。


 瞬いた少年の瞳。

 今にも零れ落ちてしまいそうな大きく綺麗な瞳だった。

 その大きく見開かれた瞳の中に、自分自身の姿を見た。


 突然の成長期に、伸びた手足。

 早すぎる成長で、一人だけ突出した身長。

 産まれ付きながらも、気にいっていた髪と目。

 その頃は、その髪と目が唯一の個性だと思っていた。

 捨てられた親から、唯一貰ったものだと思っていた。


 そこには、昔のオレがいた。


 怪我をしている。


 そう、声を掛けただけだった筈。

 そう言って、手を取っただけだった。


 なのに、オレは手を振り払われた。


 銀色の髪に、少女のような顔立ち。

 一見すれば人形のようにも見える、その容貌の子どもが男だとは知っていた。

 そして、その子どもが未だに、一言も発していない事も。


「怪我してる…どうしたの?」


 少年は逃げようとしていた。

 振り払われた腕を呆然と眺めていたオレから。


 再度、オレは口を開く。


 少年の目が見開かれた。

 そして、途端にくしゃりと歪む。


「………」

「あれ?もしかして、喋れないの?」

「………」

「…ーーーんっと…怪我はどうしたんだ?」


 眼にはうっすらと、涙。

 周りの子ども達の視線に、少年は怯えていた。

 なによりも、大人の視線に怯えていた。


 その子は、口元にも怪我をしている。

 首にも痣があった。

 腕にも赤く腫れた痕があった。


 思えば、その少年はいつも怪我をしていた。


 入って来た時には、全身が包帯だらけだった。

 片目を覆うガーゼに、首まで覆い隠した包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態。

 腕を三角巾で吊っていたし、片足も骨折しているのか松葉杖を付いていた。


 それから、4年近く経っている。

 流石にあの時の怪我を引き摺っている訳ではないだろう。


 久しぶりに返って来た(・・・・・)施設。

 約、3年8ヶ月ぶり。


 子ども達の中には、物心が付いている者もいた。

 オレを目の敵にしていた、悪童もいた。

 出戻りと言う言葉で、後ろ指を差されたが気にはしていない。


 その出戻りの内容さえ知られなければそれで良かった。


「一応、オレは年長だから…何かあったら、聞かなきゃいけないんだ」


 オレはその時、13歳と11ヶ月。

 後、一ヶ月で14歳になるところだった。

 施設の中でも、年長だ。


 少年は、確か10歳前後だった筈。

 2歳は歳が違った筈だった。

 まだまだ、年少と呼ばれる世代の子ども。


 だから、オレにとっては、守る対象という認識になっていた。


「………」


 それでも、少年は応えなかった。


 もしかしたら、もう忘れているのかもしれないな。

 一応、入って来た当初には、絵本を読んであげた覚えがあったのに。


 まぁ、あの時から、この子は喋らなかったけど。


「__くん、苛めたの?」

「やめなよ、__兄ちゃん」

「__ちゃん、泣きそうになってるよ」

「__くんだよ。男の子なんだし…」


 オレ達のやり取りを見守っていた子ども達が、口々に声を上げる。

 悪童達はにやにやと笑っていた気がする。


 監視役の職員も、何故かニヤニヤと笑っていた。

 その笑い方が、自棄に目に焼きついている。

 胸糞悪かった筈だ。


 ただ、名前の部分が、思い出せない。

 あの時、お互いになんと呼ばれていたんだっけ。


 にょきにょきと、筍よろしく伸びた身長の所為か?としゃがむ。

 衣服の下に隠している傷口が痛かった。

 あの時も、オレは脇腹を何針も縫う大怪我をしていたのだったか。


 上目遣いという訳は無いが、畏怖を与えないように見上げた視線。

 少年は目を逸らそうとして、おずおずとオレを見ていた。


「転んだ?」


 これには、反応を返してくれた。

 首を振る。


「じゃあ、ぶつけた?」

「………」


 反応は無い。

 心なしか、部屋の温度が一度か二度は下がった気がした。


「最後の質問ね。ぶたれた?」


 確信を込めて、オレは少年の肩を掴んだ。

 両腕でがっしりと掴んで、無理矢理に目を合わせた。


 涙目になった少年の目尻。

 そこにも、また薄っすらと痣が残っていた。


 生理的に上気した所為で、浮き上がったのだろう。

 こんな所、殴りでもしなければ痣なんて出来ないだろうに。


 部屋の温度は、下がり続けている。

 監視役の男達が、ニヤニヤした笑いを引っ込めてこちらに歩いて来ていた。


 少年の肩が揺れた。


「アイツ等で、間違いない?」


 オレはこの時、どんな顔をしていたのだろう。

 後から聞いたとしても、少年からの答えは簡潔に、


『んなもん、覚えているもんか』


 だった。

 酷く怯えていたのは分かっているのだが。


 しかし、この時、初めてこの少年の涙を見たのは覚えている。


 小さな身体で必死に、震える身体を叱咤して。


「ぶたれたんだな?」


 彼はこくりと頷いた。


 施設内で横行してた、行き過ぎた躾。

 その被害者になっていた。


 入って来た当初から、彼は小さかった。

 発育不全かと思う程身長が低く、身体も痩せっぽっちだった。


 13歳にして140センチを越え、細身ながら体が鍛えられたいたオレとは正反対だった。


 だからこそ、イジメの対象にされていた。

 そして、逃げ場所は無かった。

 その最初の逃げ場所になったのが、オレだった。


「おい、__。…その辺にしてやれよ」

「そうだぞ、__。弱い者イジメは…」


 監視役の男達に、肩を掴まれた。

 いつの間にか、オレ達の周りには六人の施設関係者。


 少年はすっかり、怯え切ってしまっていた。


「……よ」

「あ?」


 この時は、申し訳なかった。

 後に、オレの友人になった同期の少年には、素直に謝るしかない。


 震えていた少年を放置して、


「弱い者イジメはどっちだって、聞いてんだよ…!」


 オレは、渾身の殺意を男達に向けた。


 部屋の空気は、氷点下にも匹敵したらしい。

 成り行きを見守っていた、別の関係者は後にそう語った。


 そして、その殺気だけで2人を昏倒させ、うち四人をボコボコにしてしまう。


 一人は、後に死亡した事は知っている。

 残りの五人は再起不能になって、そのまま別の施設に送られたらしい。

 精神病棟だ。


 オレが起こした、やんちゃな事件だ。 


 同僚兼友人(ルリ)には、今でもその時のネタを弄られる。


「普通、10歳で怯えきった子どもの前で、撲殺したい寸前のスプラッタをぶら下げる奴がいるか?」


 何度も謝った筈なのにな。


「その後大号泣したお前をあやし続けたのは忘れてないけど?」

「忘れろ、ハゲ」

「断じてハゲじゃない。剃り上げているだけでハゲじゃない」


 ただ、懐かしい思い出だ。


 その時から、ルリは怯えなくなった。

 オレにも、施設の子ども達にも、大人達にも。


 そして、喋るようにもなった。

 少しだけではあるが、独特の笑い方をするようになった。


 なんというか、悪どい笑い方を覚えたようだ。

 ちょっと、会長とかアズマの悪巧み顔に見えた。


 少しずつだが、打ち解ける事が出来るようになったのは確かだ。


 その後、すぐにオレは施設を出た。

 裏社会デビューだった。

 大の男6人を戦闘不能にしたのだから、当然デビューが早まった。

 元々、準備期間でもあったし、自業自得とも言う。


 しかし、その後1年後には、ルリも施設を出ていた。

 驚く速度で、オレを追随し、あっという間に抜かされてしまう。

 地味に悔しかった。


 最後には、無様に助け出された訳だ。

 オレを地獄から救いだしたのは、彼だった。


「お前の背中を見ているのは、飽きるんだよ」


 それは、ゴメン。

 ただ、そう言って隣を歩いてくれた少年の姿は、今でも嬉しかった気がする。

 いつの間にか、隣に立っていてくれたようだった。


 その後、オレは彼の背中を追いかけるハメになったのだが。



***



 翌日も快晴だった。

 ピチチ、ピチチと、雀が囀っている。


 洞窟の中にも、光が差し込んでいたようだ。

 薄眼に差し込む光が痛い。


 ああ、夢か。

 久しぶりに、幸せな夢を見た気がしたのに。


 最近は、地獄時代の夢が続いていたのに、今回は何故かすっきりとした夢だった。

 誰が出ていたのかは、なんとなく思い出せない。

 ただ、幸せな夢というか、穏やかな夢だったとは思う。


 久しぶりに、自主的な睡眠を取れた所為か。

 体が軽いと感じる。

 頭もすっきりとしている。


 しかし、重い。


 何故か。


 首元に何かが乗っていた。

 腹の上にも、何かが乗っている。

 背中に何かが張り付いている。


 溜め息が漏れた。

 ついでに欠伸も漏れた。


 順を追って、目で確認する。


「(何?…この状況)」


 眼の前には端整な寝顔。

 腹の上を見れば、可愛らしい寝顔。

 首を巡らせて横を見れば、今度は生徒のあどけない寝顔。


「(何があってこの状況…?なんで、3人に囲まれて寝てる訳?)」


 眼の前の端整な寝顔は、ローガンディア。

 ついでに首に乗っているのは彼女の女とは思えない程の逞しい腕である。


 腹の上に乗っているのは、オリビア。

 既に幼女の姿に戻っているところを見ると魔力は消費出来たようだ。


 背中に張り付いているのは、安定の間宮。

 肩口に顔を埋めるように寝ている姿は、擦り寄ってきた猫のようにも見える。


「起きたか…」


 唐突に掛けられた声。

 頭上に掛かる影。

 しゃがみ込んで、オレの目線に顔を持って来たのはゲイル。


 ローガンディア同様、長く伸びた髪が暖簾のれんのようになっている。


 首を逸らす事で、目線を合わせた。

 ついでに、この状況はどういう事だ?と小首を傾げる。


 返って来たのは、苦笑。

 そして、口元に指を添えたポージング。


 起きるから、そのままにしておけって?

 いや、まぁ、寝かしておいてやりたいのは山々だけど。


 ただ、起きたのに動けないって、結構なストレス。

 身じろぎはオリビアを落としそうだし、どっちに寝返りを打ってもローガンディアの腕に邪魔される。

 間宮に至っては寝返りを打った時点で潰してしまうだろう。


 少々、口を尖らせつつ、もう一度溜め息を吐いた。

 苦笑を零したまま、ゲイルは近くにあった焚き火へと、薪を追加した。


 パチパチと、火が爆ぜる音が響く。


「………ン」


 その音に、ローガンディアが気付いた。

 薄っすらと目を開け、頭だけで朝日を確認した。

 自棄に、寝起きの表情がエロイ。


 あ、こっち向いた。


「……おはよう」

「ああ、おはよう」


 寝ぼけ眼の女が、オレの首に腕を掛けているこの構図。

 何故、客観的に見ると逆の立ち位置になってしまうのだろうか。


 悲しいかな。

 彼女の男よりも男らしい端整な顔と、オレの男らしくない残念な女顔の所為だろう。

 ちなみに、ゲイルは性別は既に知っているらしい。


 彼も女の名前を持っている所為か、割と早い段階で気付いたらしい。

 オレももうちょっと早く気付きたかった。

 今、言っても意味は無いけど。

 げしょ。


「…早いな。疲れたろうに、もっと休めば良いものを…」

「いや、大丈夫。それより、首の腕を退けてくれると助かるんだが…」

「………ああ、」


 オレの首に入っている腕を見て、ローガンディアが顔を赤らめた。

 やや緩慢な動作で退ける。

 若干、残念そうにしているのは、何故だろうか。


「(くいくい)」

「あ、ああ…おはよう、間宮」


 と、今度は間宮が起きた。

 どうやら、ローガンディアが腕を引いた拍子に、髪が引っ張られてしまったらしい。


「(おはようございます、銀次様。…もう少し、お休みされてはいかがですか?)」

「…いや、大丈夫だって。昨日も早く休んだしな…」


 間宮にも同じ心配をされてしまった。

 ゲイルが苦笑しつつ、笑った。

 ローガンディアが苦笑を零す。


 オレ、そんなに疲れた顔をしていただろうか。


「…ふむ~…」


 と、ここでオリビアも起きた。

 彼女はオレの腹に乗っている所為だ。

 オレの声がダイレクトに響いて起こしてしまったのだろう。


「お早いですね、ギンジ様。もう少し、お休みになってはいかがですか?」


 今度は、オリビアにまで言われてしまった。

 ゲイルが耐え切れずに噴出した。

 ローガンディアも小さな笑い声を上げた。

 間宮も小さく笑ったのが息遣いで分かる。


 おいおい。

 揃いも揃って、同じ事を言わないでくれよ。


 ともあれ、そう悪い目覚めでは無かった。

 悪夢に魘されるよりは、よほどマシだ。


「…なんで、この状況な訳?」

「いや、お前が寝付いてから、しばらくして魘され始めたのでな…」


 オレの疑問には、ローガンディアが起き上がりがてら答えてくれた。

 オレの髪を梳かすように撫でる。

 その優しげな手付きに、思わず目を細めてしまう。


 って、和んでどうする。

 魘されてたって、マジか。

 またしても、ローガンディアには申し訳無い。

 五月蝿かっただろうに。


「震えているようでもあったので、まずマミヤが…」

「(背中から発散される熱を閉じ込めると寒くない筈なのです…)」


 なるほど、間宮が最初か。

 ローガンディアと一緒に起き上がりがてら、先に起き上がっていた間宮の頭を撫でる。


「…それでも、まだ震えているようだったし、魘されていたのでオリビアが、」

「少しでもギンジ様が楽になるならと、治癒魔法をかけていたのです…そのまま、寝てしまったのですが…」


 次にオリビア、と。

 途中で魘されるのは、止ったらしい。

 そして、治癒魔法を行使した事で、魔力を消費して幼女に戻ったと。

 その体の構造を少しばかり解明したい気もしないでも無い。


 生徒や女神様とはいえ、心配させる程魘されるって…本当に、申し訳ない。


「その様子が微笑ましくてな…つい、混ざってしまった」

「……お前の場合は、同衾になる訳だが問題があるんじゃないのか?」

「問題は無い」

「…それなら良い」


 いや、良くないけど。

 最後に、ローガンディアがオレにくっついて、この布陣が完成した訳だ。


 からからと笑っていたゲイルが、目尻の涙を拭いながら苦笑した。


「家族のようで微笑ましかったぞ。その後は、お前も穏やかに眠っていたようだしな…」


 おや、まぁ。

 現金なもんだ。

 オレが。


 ってか、止めろよゲイル。

 流石に23歳にもなって、添い寝とか居た堪れないから。


「見張りだったからな。…様子を見に来たら、既にその格好で寝ていたから、起こすのも忍びなくて放っておいたのだ」


 そう言って、ゲイルは軽く焚き火の灰を崩す。

 薪を追加して、更に火を強めた。

 手馴れているな。


 って、そっちの手腕はどうでも良いか。


「…それで?そろそろ、出発の時間か?」

「ああ、まだしばらく撤去の時間が掛かるが、先に話をしておこうと思ってな」


 どうやら用があったらしい。

 酷く、真面目腐った顔をしたゲイル。


 水筒を渡され、喉を潤す。

 全員に回そうとすると、間宮とローガンディアは自前の物があるかたと断られ、オリビアには必要ありませんと断られた。

 そのまま、ゲイルに返す。


 水筒を置いて、彼は話し始めた。


「…まず、お前の魔法の属性の事だが、」

「ああ、隠し事されてた奴な」

「根に持っているだろうが、これにはちゃんとした理由がある。聞いてくれ」


 話の内容は、昨晩中断した筈の魔法の属性の話であった。

 今は、騎士達が近くにいない。


 頃合を見計らったのだろう。

 オレは不貞腐れるようにして先に寝てしまったから、この時間になったと言うべきか。


「言った筈だが、」


 そこで、ローガンディアも口を開いた。

 彼女は、いつの間にか口元の布を装備しなおしている。

 もうオリビア達にはバレテるから隠さなくて良いとは思うけど。


「…闇の精霊は、嫉妬深い。そして、人間には少ない。…その意味が、分かるか?」

「いや…」


 ふと、質問されて、口ごもる。


 そこまでは、考えなかった。

 希少価値が高いとかなら考えられるが、彼女達の口ぶりからすると違うようだ。


 『闇属性』の魔法自体、オレは分かっていない。

 そこで、思い至る。

 その効果どころか発現すら見た事が無い。

 今更ながら、何も知らないことに気付いた。

 ゲイルの魔法の特別講義でも、闇の属性の魔法は一つも習わなかったからな。


 そこで、はっと顔を上げる。

 ゲイルもローガンディアも、オリビアですらも難しい顔だ。


「気付いたようだな」


 ゲイルが、やや溜め息混じりに告げる。


「『闇属性』の魔法は、別名『魔族魔法』。魔族にしか発現しない、人間にとっては禁忌の魔法だ」


 『魔族魔法』。

 大仰な別名である。


 だが、理由は分かった。

 ゲイルが人目を憚った理由。


 オリビアも、難しい顔をする訳だ。

 ローガンディアが言った言葉の意味も、今なら理解できる。


 厄介な精霊に好かれたものだ。

 今なら、はっきり思える。


「『預言の騎士』が発現すべき、属性じゃない…?」

「…残念ながら。そもそも、人間に発現すべき属性では無いからな。だから、私も伝えるべきか、最初は迷ったのだ…」


 ああ、そう言えば。


 ローガンディアは、最初オレの魔力や属性を見て、口を濁していたような気がしないでもない。

 伝えるべきか否か、迷っていたのか。


「『預言の騎士』は、その名の通りステータスにもなり得る。それこそ、一国の国王と謁見を可能にするぐらいには、名前に価値があると言っても過言ではない」


 ゲイルも援護射撃。


「『闇属性』は、人間の世界では禁忌としても考えられています。過去、何年かの間に、何度か発現した子どもがおりましたが、迫害や差別を受けていましたわ…」


 オリビアも会話に加わった。

 心なしか、涙ぐんでいるようにも見える。


 『闇属性』を発現した人たちの事を、思い出してしまったのか。

 そうか、禁忌だったのか。


「お前がいくら名声を望まずとも、民衆はそうは思わない。魔法の属性が忌み嫌われている『闇属性』では、要らぬ疑いを立てられもするし、後ろ指とて指されるだろう。出来れば、勘違いであって欲しかったのだが。…『ボミット病』が発症して、属性を調べた時には焦ったな…」


 なるほど。

 理由ありきの、秘匿だった訳だ。

 これじゃあ、ゲイルを怒るに怒れない。


 確かに、オレは名声もいらない。

 ただ、生徒達を平穏に暮らしてやりたいだけ。

 そして、無事に現代に帰してやりたいだけ。


 だが、そのオレの魔法の属性が『闇属性』だと知れれば、通常の生活や平穏すらも難しくなるだろう。

 実際に見た訳では無くとも、迫害や差別によって人間の心理にどういう変化が起きるのかは知っているつもりだ。

 戦時下の植民地化なんてものを見れば、一発で分かる。

 それは、ちょっと違うかもしれないが。


 人間ってのは、少数を軋轢するのは得意な種族だからな。


 なら、使い方の方針は変わってくるな。

 出来れば、細々とした細工関連になりそうだ。


「使い方を考えるべきって、事だな」


 頭上を仰ぐ。

 独り言のように呟いた言葉。


 洞窟内に、静かに反響した。


「………」

「………えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「?(こてり)」


 あ、れ?


 ゲイルが絶句した。

 ローガンディアが、やや沈黙の後に聞き返してきた。

 オリビアは驚いた顔をしている。


 オレも驚いてしまった。

 間宮は、隣で正座をしながら首を傾げた。

 何故、正座?


「……っと、話を聞いていたか?」

「勿論」

「なら、お前は馬鹿なのか?」

「馬鹿に見えるか?」

「何か、お考えがあるんですの?」

「うん」

「(応援しております)」

「ありがとう、間宮」


 一同のそれぞれの視線と、交差する。

 呆れや胡乱げな目、驚きの目を受けつつも、


「派手な事は出来ないってだけだろ?今のところ、魔法に関してはオリビアがいるから困ってないし…」


 と、オレは当たり前のように答えた。


 そして、オレの考えはこう。


「…元々、ダークサイドの軍人だ。大っぴらにする仕事をやって来た訳じゃないし、今更派手に動こうなんて考えてないし、そもそも魔法自体がオレの性に合ってないし」


 これは、常々思っていた事だ。


 ゲイルのような、あるいはオリビアのような、そしてローガンディアのような魔法の能力。


 確かに、派手だ。

 そして、便利だ。

 ゲイルに至っては、人外だ。


 だけど、オレの性に合わない。


 オレは、元々現代社会のアサシンだった訳だ。

 そんなファンタジーの世界の常識的な力を振りかざすつもりは無かった。

 使えるなら使う。

 そうとしか考えていなかったからだ。


 確かに今回のキメラ討伐では痛い目を見た。

 しかし、今回はまず基本的な準備が足りなかっただけ。

 オレも少しは、学んださ。


 次にこのような事が無いようにとは思うが、準備を怠らないというだけで事足りる。

 後、逸れない事を大前提にしておかないといけないけども。


「だから、オレ別に魔法は使わなくても良い。王国の『騎士』になる条件が、魔法だったから覚えようとしていただけだし…」


 素直な意見だ。

 嘘偽りも無い。


 そして、これは見栄ではない。

 意地を張っている訳でもない。


 ので、


「分かった」


 ローガンディアが、徐に立ち上がった。

 そして、


「お前には『預言の騎士』としての自覚が足りな過ぎる!!」


 ごつりと、痛い鉄拳を食らった。

 しかも、頭頂部。

 身長が縮んだ気がした。


 そして、怒涛の説教を受ける事となる。

 彼女の剣幕には、流石にオレも逆らう気が起きなかった。


 ゲイルも頭を抱えて、助けてくれない。

 オリビアもローガンディアに同意をして頷いているだけだ。

 間宮はオレ同様、彼女の剣幕にやられて小動物のように震えている。


 なんで、こうなった?


「戦士たるもの、何事も見本となるものだろうが!先達として模倣をされる側の人間が、何を堂々と胸を張って『預言の騎士』としての領分を忘れようとしているのか!だいたい、お前は…ッ」


 ああ、オレが半分『預言の騎士』の職務を放棄しているような発言をしたからか。


「教師だろうに!生徒達の見本にならずとも良いのか!?むしろ、お前はそう言った貫禄と言うか威厳と言うかが抜けている!もう少し自覚を持って事に、」


 とまぁ、こんな感じ。


 『預言の騎士』の職務についてどころか、戦士の心得。

 ましてや、教師としての態度云々も指摘されてしまった。

 ここ最近、よく言われるからな。

 教師には見えないって。


 ってか、意外とローガンディアは『預言の騎士』に付いて詳しいな。

 何か調べたり、もしくは魔族側にも預言が残っているとかあるのだろうか。


「また、余計な事を考えていないか!?」

「はい、考えてました」

「素直な事は良いことだが、今は逆効果だ!」


 耳を引っ張られた。

 彼女曰く、飾りか?と。


 なにはともあれ、ごめんなさい。



***


という訳で、散々長引かせたギンジの魔法の属性を暴露。

ローガンさんが出て来た当初から話していた内容を、最後の最後でぶちこみます。

知っていたゲイルさんは、おそらく後々に粛清されるでしょう。

主に銀次の脚によるチョークスリーパー。

23歳の女顔の太ももに挟まれてのご褒美になるかもしれません。


ついでに、最近サボり気味だった、アサシン・テーチャーの過去の話なんかも少し盛り込んでみたり。

ローガンさん、そうは見えないかもしれませんがヒロインです。

男らしい女って、憧れ過ぎてついつい書いてしまった。

なので、今後とも彼女の出番は色々な面で多そうです。



ピックアップデータ。

オルフェウス・エリヤ・ドラゴニス・グリードバイレル。

45歳。(←Σッッッ!?)

当初から、この年齢の予定でした。

ネタバレさせたくなかったので、書かなかっただけ。

白髪の長髪、琥珀色の瞳。

ダドルアード王国の隣国、白竜国国王。

顔立ちは中性的で、やや女顔の美男子。

自慢の白い髪は政務の時には上に括り上げている。

オフの時や視察の時なんかは、背中に卸して一つに纏めている。

文官気質で戦争やら何やらは回避したいと考えている温厚派。

少々早とちりや子どもっぽい気質があるのが玉にきず

惚れっぽいらしい。

最初は銀次に一目惚れ、今現在は杉坂姉妹に惚れこんでいるらしい。

訪問の後の一ヶ月ぐらい後に、校舎には贈り物がわんさか送り届けられたそうな。

交渉術を得意としているらしい。

交渉術に関しては右に出るものがいないと称されていたが、銀次に完敗してからちょっと憂き目に合っているらしい。

戦闘能力は中の下と低めだが、魔法に関しては上級と言う魔術師タイプ。

接近戦が苦手で銀次とは相性が悪いけど、遠距離武器を好んで弓の腕は国でも有名。

音楽や雅楽が好きらしい。

いつか、銀次も巻き込んで楽団でも作ろうかと考えているらしい。


16回目のピックアップデータ。

本編でも書かせていただいた国王陛下です。

当初、彼はお父さん的なポジションの人を求めて考えていたキャラだったのですが、いつの間にかゲイルさんがログインしっぱなしになってしまって、すっかり脇に追いやられておりました。

脳筋に対抗した頭脳タイプです。

ただし、銀次と比べると、やや劣化版。

45歳を過ぎているオッサンながら、美男子と称されてしまう若作り。

有り得ない程の若作り。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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