32時間目 「討伐隊~赤鬼と死神魔獣~」2 ※流血・グロ表現注意
2015年10月15日初投稿。
連続投稿失礼致します。
32話目を更新させていただきます。
マイブームだったチーズせんべいが値上がりいたしまして、泣きます。
100円だったから買ってたのに、いきなり130円ってどういうこと?
でも、悔しいけど買っちゃう!
31話目です。
※改稿中の為、話が繋がらない部分が多数存在しております。
近日中に直させていただきますので、ご了承くださいませ。
***
詰んだ。
勿論、文字通りの意味で。
将棋や囲碁の時に使う意味だ。
麻雀の時のように嬉しい意味での詰みでは無い。
完全に、最悪な方向での負けを意味した、詰みだ。
「素材にするんじゃなかったのかよ…!」
「お前こそ、合成魔獣狩りだと勇んでいたでは無いか…!」
お互いにお互いを罵り合う不毛な事をやってしまう程には、2人とも頭がパニックに陥っていた。
オレもローガンディアも、冷や汗がこめかみを流れた落ちた。
その後、巡り巡って落ち着いて、そのまま黙り込む。
無表情で、2人で呆然と立ち竦むしかなくなった。
詰んだ。
大事な事だから、二回も言うんだ。
オレ達には、もうあの合成魔獣を討伐する手立てが無い。
だって、オレもローガンディアも、2人揃って物理特化。
ローガンディアは、魔力不足でもう魔法が使えない。
オレに至っては、魔法すら使えない役立たず。
「おーけぃ、にげるぞ、ろーがんでぃあ」
「まるで、棒読みだな」
「今は、猛烈に泣き叫びそうだからな」
「……良いぞ、泣き叫んでも…」
「うわーん。ローガンディアの魔力不足ー」
「よりもよって…ッ!」
彼女の言葉に甘えて(珍しく)素直に泣き叫んだら、殴られた。
………泣き叫んで良いって言ったのは誰だ?
なんて、じゃれ合っている暇は無い。
合成魔獣は、完全に攻撃モーションに入っている。
警戒していた先程の大人しさは、どこに放り投げたのかすらも分からない。
更には、頭から炸裂するかのように触手が増える。
以前、見た時と同じように、無尽蔵にあの腕らしき触手を生やす事が出来るようだ。
………あれの所為で、どれだけ痛い目を見たか。
そう考えているうちにも、その触手はオレ達目掛けて鞭のように振るわれた。
洞窟の中では、狭い通路に低い天井に邪魔をされ、叩きつけるような動きは出来ないらしい。
最初の時のように、洞窟の岸壁にぶつけて自分で吃驚するなんて馬鹿な事はしない。
こう言う時はかなりどうでも良い学習能力を見せた合成魔獣が、低空を這うようにして触手を伸ばして来た。
その分、厄介だと思わざるを得ない。
コルト・ガバメントを引っ込め、腰元に差してあったナイフを引っ掴む。
武装に関しては、水浴びの後に服を着替えさせられてから、彼女からすぐに返して貰う事は出来ていた。
ポーチの中身も、無事だった。
若干、危なかったものも幾つかあった(※マークⅡとか、毒どか)筈だが、なんとか無事だったと思われる。
「チッ、数が多い…!」
「………ッ、無理はするなよ…、捕まったりしたら、手も足も出せずに食われるぞ!」
「分かっている!」
伸び来た触手を、払い落すようにしてナイフで切る。
ローガンディアも、オレの隣で距離を開けながら、ハルバートを振るい、伸びて来た触手を切り落としていた。
思った通り、どうやら本体と違って、触手は『物理無力化不可魔法』は掛かっていないようだ。
多少どころかかなり重いが、一応はナイフでも切ることは出来る。
その分、数が多いので、無駄な労力を強いられる。
だが、コルト・ガバメントでは流石に数に限りがあるし、ベレッタ92.は、多分マガジンを入れ替えないと。
最初の一体の時に、使い切ってそのままだった筈だからだ。
どちらにしても、時間のロスを取られる武器は、今は使うべきでは無い。
ちなみに、この2体目の合成魔獣の『物理無力化不可魔法』は、オレが勝手に考えただけ。
本当にあるのかは、知らん。
1体目の合成魔獣が持っていた『魔法無力化不可魔法』に肖っただけだ。
オレの当初の考え通りだったのか、本体だけをドーム状に覆っているだけのようだ。
触手には作用していない。
おかげで、先ほどからやや労力がかかって体力は削られているが、なんとか抵抗は出来ている。
『忌々しい龍族のなりそこないめッ!小賢しい!』
………そして、それはなんて言っているの、ローガンディアさん。
かろうじて、毒吐いているのは分かるんだけど、魔族語なのか何なのかさっぱり分からない。
十字にも似た尖部を持ったハルバートを振るう彼女。
触手を叩き落とし、あるいは躱し、斬り落とし、と洞窟内の狭い空間を精一杯使いながら、触手の猛攻を防ぐ。
だが、やはり洞窟内という狭い空間は、彼女にとっても不利なようだ。
先ほどから、壁にぶつけて軌道がブレたりして、心底やりずらそうにしている。
ナイフで触手を迎撃しているオレにも、たまに掠ったりもしている。
危ないな。
………そのうち、同士討ちなんて事にならないだろうか。
かなり、心配だ。
ただ、それでもお互いに触手を一心不乱に捌いて行けば、あっという間に触手は数を減らした。
合成魔獣がまたしても警戒して、後ろに下がった。
だが、逃がす気は無いのだろう。
洞窟の外で、オレ達を通せんぼするようにして、居座ったままだ。
どの道、逃げるにしてもなんにしても、あの合成魔獣を退かさないとならないって事だな。
それに、もしかしたら1体目よりも、数段知能が高いのかもしれない。
1体目は、本能のままに動いていたようだったが、こちらの合成魔獣はオレ達を警戒して下がってみたり、様子を伺ってみたりと、頭を使っているような印象を覚える。
………心臓の形をしている癖に、脳味噌あるのか?
どうでも良い事を考えたな。
ただの現実逃避だ。
閑話休題。
ただし、1体目と同じ能力を持っているのは、言わずもがな。
またしても、頭を炸裂させるかのようにして、触手を生み出した合成魔獣。
その触手を髪か何かのようにうねうねと、不気味な動きをさせている。
オレ達を警戒したままではあるので、カウンターを恐れているようにも思えた。
来るなら来いと、言っているかのように身構えているようにも見えるが、馬鹿みたいに特攻するのは遠慮したいのが本音だ。
あれ、また捕まったら骨折とかするんだろうな。
………いや、それより先に、口の中に放り込まれてバリバリ食われるかもしれん。
そんな最期は嫌だ。
アイツがああして、オレ達を警戒してくれているうちは、まだ好機があるかもしれない。
多少体力を消耗して息切れを起こしながら、ちらり、と横目で見た隣。
同じく少しだけ息を乱したローガンディアが、合成魔獣と同じく警戒するようにして身構えている。
そうだ、今回は彼女がいるのだ。
オレを助けてくれたのは成り行きで、ただの通りすがりだった彼女が。
彼女は、今回の討伐隊の一件には、何の関係も無かった。
ただ、オレと関わって、助けたばかりにこうして合成魔獣と遭遇した、運が悪いだけの一般人だ。
………動きは一般人には程遠くても、それでも一般人だと言い張ってやろう。
せめて、彼女だけは逃がそう。
オレと命運を共にする必要なんて、通りすがりで巻き込まれただけの彼女には無いのだから。
そう思って、彼女の横顔を見つめていた所為か、ふと視線に気付いた彼女が眼を向けた。
驚きに見開いた瞳は、合成魔獣と同じ赤色でありながら、似ても似つかないほどに綺麗に輝いていた。
ルビーやガーネットにも、見える。
その眼を見たのが、決定打だった。
覚悟を決めた、瞬間だった。
眼が合った彼女へと、苦笑を零す。
彼女はそんなオレの顔をまた驚いた表情で見たまま、頬を赤らめていた。
………可愛い反応だけど、勘違いするから止めて?
グリップの痕が強く掌に残る程握りしめていたナイフを、腰のホルスターに戻す。
それと同時に、代わりにポーチから引っ掴んだ、最後の手段。
「な、何をしている!
ま、まさか、…諦めるつもりか…!?」
武器を戻したことで、彼女には訝しげな顔と叱責をされてしまった。
「まさか。………最後まで、足掻きます、………よっと」
ただ、そんな彼女の表情は最後まで見ずに、オレはその場でポージング。
先ほど引っ掴んだ最後の手段を胸元へ持って来て、合成魔獣を横目に右向け右。
左手はだらんと垂れ下ったままで、グローブも無いが、野球のピッチャーのようなフォーム。
ついでに、出来るだけ合成魔獣には警戒をさせておきたい。
眼には渾身の殺気を込めた。
合成魔獣が尻込みをしたように、びくりと身体を震わせた。
攻撃の手が休まった。
僥倖である。
隣でローガンディアが、「あ…、」と小さな悲鳴と共に崩れ落ちた。
いや、お前は崩れ落ちちゃ駄目だよ。
頼むから、腰を抜かさないでくれ。
そして、あわよくばオレと一緒に逃げてくれ。
「ピッチャー、振りかぶってぇ……」
出来れば、逃げたい。
オレだって、逃げたいけど。
優先すべきは、やはり女性だ。
怖いのなんのと、言ってはいられない。
だからこそ、最後の手段に掛ける。
ピンを引き抜く。
手には決死の『手榴弾』。
左手は動かない。
不恰好ながら、渾身の力で投げ込む剛速球。
おそらく、オレの握力と腕力なら150キロは軽いと思われる。
「投げたァーーーーーーーッ!」
右足を軸に、左足を大きく開脚。
手首のスナップで回転を加えて、肩が痛む程の剛速球をお見舞いした。
およそ、数秒で到達したパイナップル。
バカァンと、弾かれるようにして甲高い金属音を鳴らした。
本物の野球なら、デッドボールの危険球だ。
即退場となるだろう。
先に手を出してきたのは、合成魔獣《あっち》の方だ。
向こうも腕で殴ってきたのだ。
たとえ当たらなかったとしても、先に喧嘩を売ってきたのはあっち。
なんて、現実逃避はどうでも良い。
ぶつかった衝撃と共に、炸裂する筈だった。
しかし、パイナップルは沈黙したまま、地面に落ちた。
カン、と物悲しい音だけが響いた。
「…あれ?」
「………あれ?」
投げきった完璧なフォームで、固まったオレ。
隣で崩れ落ちていたローガンディアの視線と、途端に男らしくなった低い声が怖い。
不発だった?
手に握ったピンを見てみる。
わぁお、最悪だ。
「お、折れてやがる…」
ピンは引き抜けていなかった。
ただ、折れていただけだった。
自棄に寂しげなピンの残骸だったものが、オレの掌に残されていただけ。
そういえば、あれだけ乱暴に扱われていたものな。
途中で誤爆しなかったのは、幸いだったのか何なのか。
パイナップルにはダメージが蓄積してしまっていたのか。
無事だと思い込んでいたポーチの中身が、結局無事じゃなかったと理解させられた瞬間だ。
オーケィ、理解した。
わなわなと、手が、体が、足が震える。
今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
手榴弾は、文字通り最後の切り札だった。
だって、これで最後だ。
オレが持ち出して来たのは五つ。
二つは間宮に渡し、一個は一体目の合成魔獣の時に使った。
残りの二つは、途中で落としたらしい一つと、あれ。
火力が足りない。
圧倒的に。
今からピンを引き抜きに行くなんて、そんな馬鹿な事出来るものか。
こんなところでも、打ち止めだ。
近付いたら、文字通り頭から食われるだろう。
運良く引き抜けても、回避の時間は無い。
やだよ、あんなのと、心中なんて。
絶体絶命。
そんな言葉が、脳裏を過ぎる。
「………ギンジ、もう手が無いのだな?」
「……………」
ローガンディアの言葉。
諦めの混じった声だった。
悔しさに、返事すら出来ない。
彼女だけでも、逃がしたかった。
合成魔獣は、もう追撃も何も警戒していないようだ。
巨体をこれ見よがしにゆさゆさと揺らしながら、わざと足音を立ててゆっくりと近寄って来ていた。
上部から生やした触手を、洞窟の入り口に這わせていく。
逃がしはしない。
奴の魂胆が透けて見えた。
周囲の音すらも、隔離されたようだ。
消え掛けの焚き火の爆ぜる音しか聞こえなくなった。
オレ達の命の灯火にも見える。
絶望の足音を、聞け。
そう言っているようにも思えた。
ふと、頬を撫でられた。
ローガンディアだった。
顎まで垂れた血を拭われたらしい。
鼓膜が破れた所為か、出血量が少し多かった。
視線が自然と合わさった。
静寂にも似た、諦めの浮かんだ視線。
オレも同じ眼をしているだろうか。
「……最後に一緒にいるのが、お前で良かった」
「…………すまない」
彼女は、そう言って笑った。
笑って涙を一筋流した。
ことりと、額がオレの左肩に乗せられた。
それを、オレは向き合うようにして抱き締める。
赤い髪に顔を埋める。
それだけでは足りなくて、彼女の頬に手を添えて持ち上げる。
「…ん」
「…っふ…」
最後の口付け。
ちょっと、塩辛い味がした。
確かに、最後が一人ではないのは良かった。
死ぬのは、怖いけれど
寂しく無い気がした。
洞窟に反響したドンッ!という、けたたましい音が、自棄に耳に響いた。
***
が、
「キャアアアアアアアアアーーーーーーッ!!」
悲鳴が上がった。
まるで、痛みに摸掻くような悲鳴。
オレ達では無い。
至近距離で眼を瞬いたオレ達。
舌まで差し込んだディープなものをしていたのが災いした。
咄嗟に離れる事が出来なかったのである。
悲鳴は、洞窟内に反響した。
入り口からであった。
合成魔獣からのものだ。
意図的に発した絶叫ではなかったらしい。
ただし、鼓膜には大ダメージ。
2人揃って、地面に倒れこんだ。
「……あれ?」
「……なんだ?」
合成魔獣へと眼を向ける。
洞窟の入り口を覆うようにしていた合成魔獣が、まるで逃げ出すようにして転がっていく。
その背中には、轟々と燃え盛った炎。
そして、奴が今までいた場所。
そこには、放射線状に広がった黒い焦げ後が残っていた。
「あ、炎は効いたのね…」
「……えっ…と、あれ…は?
い、一体、何が起こったのだ…?」
若干、赤面をしているローガンディア。
キスの名残か、口元が濡れているのが自棄に艶っぽい。
何が起きたのか分かっていないのだろう。
オレも若干分かっていない。
だが、一つ言える事。
先ほど不発だと思っていた手榴弾が、上手い事炸裂してくれたのだ。
それだけが、かろうじて分かった。
自分で踏み潰しでもしたのだろうか。
だとすれば、間抜けな話である。
と、そう思った瞬間であった。
「ギンジ様ッ!!」
「…無事か、ギンジ!!」
名前を呼ばれた。
鈴が転がるような声。
野太くも雄雄しい声。
どちらも切羽詰ったような、泣きそうな声。
駆け込んできたのは、黒髪の2人。
一人はウェーブの掛かった長髪。
もう一人はぼさぼさながらもストレートの長髪。
「オリビア!?…それに、ゲイル!!」
オレの女神様がそこにいた。
オレの友人がそこにいた。
そして、
「間宮…ッ!」
「(御無事でしたか?)」
ライフルを抱えた、間宮が颯爽と洞窟の前に立ち塞がっていた。
ポンプを引いて、空薬莢を排出したその姿は、自棄に堂に入っている。
そうか。
コイツか。
「助かった、間宮」
「(お褒めいただき、光栄です)」
ようやく、分かった。
先程の手榴弾は、やはり不発だった。
アイツにも踏み潰される事無く、ピンが折れた状態で地面に転がっていた。
それを、間宮が狙撃したのだ。
今、彼が持っているのは、「MK11 Mod0」。
ライフル銃だ。
アメリカ海兵隊の正式採用モデルで、正式名称は元のSR-25ライフル銃をアメリカ海軍特殊部隊の要求に合わせて仕様変更されたもの。
正式名称は「SR-25M」。
派生型の「MK10 SWS」(こっちはアメリカ陸軍が使っている)もあるが、オレは断然SR-25Mを推したい。
フォルムが無骨で、これぞ銃だと思わせてくれるのが良い。
オレが持って来ていた、武装の中から探り当てたのだろう。
コイツも意外と趣味が渋い。
そして、その狙撃のおかげで、文字通り合成魔獣のケツに火が着いた訳だ。
様を見ろ。
救援だ。
まさか、こんな所まで来てくれるなんて。
討伐隊から引き離された時点で、ある程度の覚悟はしていた。
戻る事も難しく、救援も望めないと思っていた。
しかし、彼等は来た。
思っても見なかった事だ。
安心した所為か、腰に力が入らない。
脚が今更になって、震えている気がした。
「お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。…彼女が助けてくれたおかげで無事だ」
それはさておき。
ふんわりとウェーブの掛かった黒髪とワンピースの裾を靡かせながら、オリビアが飛び込んできた。
あれ、最後に会った時より、ちょっと育ってない?
たった2週間程度だよね。
しゃがみ込んでいたので、受け止めるのに少しよろけた。
やっぱり、育ってやがる。
「…まぁ、とても素敵な殿方様ですのね………彼女?」
きょとんとしていたローガンディア。
いや、まぁ。
突然、人間が増えたから驚いただろう。
一人は、女神だけど。
簡単に紹介しようとすると、オリビアがきょとんと眼を瞬かせた。
ローガンディアが苦笑を零す。
よく間違われるんだろう。
オレも同じだからな、気持ちは分かる。
「ローガンディア・ハルバートだ。
………助けたと言っても、大したことはしていない」
「まぁごめんなさい。女の方だったのですね。とても、素敵ですわ」
だが、その次の瞬間には、ふんわりと微笑んでいた。
女神様はどうやら、魔族だろうがなんだろうが関係無いらしい。
「突出するな!囲んで、退路を作るなよ!」
そんな中でも、ゲイルの指示が飛んでいる。
オレの安否を確認したのもあって、随分と激励に力が入っている。
だが、若干オレを見て、怪訝そうな顔をしたのは何だ?
さも、コイツは誰だ?と言わんばかりの顔をされた。
隣のローガンディアに向けたものか?
ともあれ、ゆっくり再会を楽しんでいる場合ではないようだ。
まだ、合成魔獣が倒れた訳ではない。
「オリビア、ちょっと魔力吸収しておいてくれるか?」
「はい。…『ボミット病』が発症してしまったのですね?」
「それでも、ローガンディアのおかげで命拾いしたから平気だ」
薬が見付かった。
おかげで、今後の見通しは少しだけ明るくなった。
ついでに、
「ゲイル!アイツは、一体目と違って、属性が反転してる!
ありったけの魔法を叩き込んでやれ!!」
間宮と同じく、洞窟の前で合成魔獣との間に立ちふさがったゲイル。
彼の背中に叫ぶ。
今、この状況であれば、コイツは一番の火力になる。
コイツは、オレ達と違って魔法が使えるからな。
しかも、ローガンディアには悪いが魔力総量が違う。
「……良いことを聞いたな、それは」
振り返ったゲイルが、にやりと口端を上げた。
悪い顔をしている。
それはお互い様か。
「魔術部隊、下位魔法を詠唱開始!
『聖属性』のものは『盾』を使え!絶対に逃がすな!!」
怒号のような号令。
それと同時に、魔術師部隊が詠唱に移る。
『盾』によって、攻撃範囲を狭める。
なおかつ、『盾』の文字通り合成魔獣の退路を断つ包囲となった。
魔術師部隊まで、連れてきているとは痛み入る。
しかも、ここまでわざわざ来てくれたなんて。
ちょっと、泣きそうになった。
持つべきものは、友達。
後、優秀な生徒。
今更ながら、実感した。
「我が声に応えし、精霊達よ。
天を駆ける鳴神の打ち鳴らす雄大なる光の柱よ。
捧げしはアビゲイル・ウィンチェスターの名にして我が真名。
汝等の眷属にして従順なる僕なり」
…………え?
友達の大切さと生徒の成長を実感して、若干潤んでいた涙腺が収まった。
収めざるを得なかった。
詠唱を始めた、ゲイル。
その間に、時間差で魔術部隊が下位魔法を撃ち込んで、合成魔獣の行動を阻害している。
良いフォーメーションだ。
だが、オレが気になったのはそっちじゃない。
詠唱、長くないか?
ってか、何、その魔法。
文節、何個あるの?
いや、待って、可笑しいから。
ちょっと、なんか、いくらんなんでも、やり過ぎじゃない?
「天の威を借る矮小なる我が声に応え、雷帝の力の一端を今此処に示し給え」
ゴロゴロ、なんて音が、遠くではあるがふと頭上から聞こえる。
口元が引き攣った。
隣でローガンディアが、愕然としている。
さっきまで、魔力不足で嘆いていたんだもんな。
オリビアが可愛らしく口を押さえて『八文節…ッ』とか眼を輝かせている。
あれ、八文節もあるんだ。
良く覚えられるな。
ゲイルの隣に立っていた間宮が、洞窟の端まで咄嗟に回避した。
後ろから見ると動きが小動物みたいだった。
さっきまで勇ましかったのにな。
そして、ゲイルは詠唱を締め括った。
「『雷帝の鉄槌』」
途端、光の柱が一筋落ちた。
稲妻だ。
鳴り響いた轟音に、耳が馬鹿になるかと思った。
耳を押さえて蹲る。
オリビアがきゅっとオレの肩口に抱き付いた。
鼓膜が破れているとはいえ、これはキツイ。
隣のローガンディアも同じく耳を押さえて蹲った。
間宮に至っては、洞窟の入り口にいた為、魔法の余波を受けて尻餅を付いている。
オリビアは唯一、嬉しそうな顔をしていた。
マジかよゲイル。
嘘だろ、コイツ。
天候を操りやがった。
「ふぅーー…」
大きく、息を吐いたゲイル。
いや、ふぅー…じゃないから。
溜め息で終わらせないで。
せめて、もっと大変でしたってアピールをして。
隣のローガンディアが悔しそうにしちゃってるから。
………オレも人外が発覚したけど、オレの友達も人外じゃねぇ?
稲妻を発生させるとか、もうそれ神様じゃないの?
天気予報の意味が無くなるわ。
白光の所為で眼まで可笑しくて、彼の向こう側の合成魔獣の様子があまり良く見えない。
だって、完全に眼の前に雷落ちたもん。
感電しなかったのが奇跡。
あ、さっきゲイルが『盾』を唱えさせてたな。
もしかしなくても、この為だったのか?
焼き付いた光が、いっそ眼に痛い。
知ってるか?
雷光ってのは、直視すると失明の危険もあるんだぞ。
幸いにして、失明はしていなかった。
視界はすぐに戻って来た。
「おおう…一撃かよ………」
「八文節の魔法ですもの。
あれぐらいは、当然ですわ」
「………初めて見た」
呆然としたローガンディア。
オレも『八文節』とやらは、初めて見た。
ただ、その直撃を受けた合成魔獣の状況は、見ない方が良かったかもしれない。
見事に、黒焦げになった合成魔獣。
ぶすぶすと不気味な音を立てて、至るところから黒煙を上げ、溶け出すようにして身体を崩していた。
音が生々しい。
オレが相手にした一体も、あんな感じで死んだ後に身体が溶け出したのだろうか。
ローガンディアに目線を向けると、頷きが返って来た。
あ、良く分かったな、アイコンタクト。
ともあれ、あれに巻き込まれたら、確かに火傷もするわな。
人外発覚して、傷が治っちゃったけど。
鱗が剥がれ落ちて行くからからと言う音。
熱によって炙られた鱗が炭化したのか。
鱗の剝がれ落ちた奥には、内臓の中身が見えた。
更には溶け出して、向こう側まで見えている。
歪な円形の窓枠のように、森林の長閑な光景が見えた。
ミスマッチだ。
これ食前には絶対見ちゃいけない類のものだよな。
「あ、あら?ギンジ様、前が…前が見えません!」
「雷時々グロ注意報だから」
「意味も分かりません…」
うん、分からなくて良い。
無意識にオリビアの目を押さえていた。
その間にも、合成魔獣の身体は崩れ落ちた。
どろどろと白い蒸気を上げながら、地面に溶けるように沈んでいく。
最後に、どろりと赤い塊が残った。
そこから、白銀に輝く魔水晶が現れた。
まるで、脳みそ。
しかし、陽光に反射して、キラキラと輝いていた。
自棄に幻想的な光景だった。
それが、合成魔獣の最後。
討伐隊の作戦完了の合図でもあった。
***
なんとか、討伐できました。
ゲイルさんがハッスルしたので、主にアサシン・ティーチャーはイチャついていただけと言う結果に。
ピックアップデータ。
イザベラ・アヴァ・インディンガス。
24歳。
身長168センチ、体重49キロ。
赤髪の長髪に、茶色の目。
ダドルアード王国騎士団近衛騎士、『夕闇騎士団』団長。
近衛騎士としてはゲイルに継ぐ地位にして、国王の姪っ子。
国王の弟さんが、彼女の父親。
ただし、彼女自身は令嬢という意識が皆無。
幼少の頃は、戦乱の時代。
ダドルアード王国も戦火に見舞われていた為、彼女の周りには令嬢や貴族達よりも騎士が多くいた。
その中でも特に、前線に立っていた父や叔父(ウィリアムス国王)、そしてこの時から戦果を上げていた若きゲイルに憧れて、彼女も騎士を目指す。
ちなみに、この時ゲイルは17歳。イザベラは7歳だった。
お城にいる姫様は、戦争では全く役に立たないと身近に感じたからこその奮起。
それ以降、学問、礼儀作法、魔法の習得に加えて、武器の扱いにも通じていく。
男所帯の騎士団に所属した事もあり、若くして奇病を患う。
男性の筋肉や骨格に対する、妄執である。
ただ、彼女は仮にも王族で令嬢なので、滅多な事では男性との接触は禁止。
父親や叔父ですら接触禁止。
眼の前にある筋肉や骨格に触れないことでフラストレーションが溜まり、それを補う為の妄想が逞しくなっていく。
そして、いつしかそんな屈強な男を屈服させて、思う存分撫で回したいという行き過ぎた欲求が開花。
サディストへと目覚めた瞬間であった。
銀次の拷問吏を担当したのも、それが原因。
我が侭を言って、拷問吏に立候補。
彼が屈服しない事を悟るとちょっと意気消沈。
無罪放免で銀次が釈放されてからは、いつ懲罰を下されるだろうとハラハラドキドキしていたらしい。
しかし、何も無かった事で拍子抜け。
国王の謁見の際に、向けられた軽蔑の眼に何故か胸キュン。
甚振るよりも甚振られる方が気持ち良い事に気付く。
そのまま、マゾヒストへと転向。
そして、銀次の現役ストーカーへと進化。
今では、ゲイルに頼み込んで、どうにかして彼等の護衛に参加出来ないかと奮戦している。
そして、近衛騎士団副団長のジェイデンに止められている。
ピックアップデータ15回目。
現役ストーカーにして、銀次の天敵ともなりつつあった女騎士。
彼女も、出番がジェイコブに取られがち。
ゲイルもいるので、騎士は足りてるから。
作者の気が向いたら、端っこぐらいには出てくるかもしれません。
しかし、骨格や筋肉フェチとか、完全に作者の趣味。
というか、作者がそうですwww
誤字脱字乱文等失礼致します。




