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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、討伐参戦編
36/179

31時間目 「討伐隊~赤鬼と死神魔獣~」

2015年10月12日初投稿。


続編を投稿させていただきます。

赤鬼さんシリーズがまだまだ続きます。


彼女は最初から女のつもりで作っていた筈が、何故か一人称の打ち込みの際に間違えるとか言うニアミス連発。

作者は彼女をどうしたいのでしょうね。


31話です。


(改稿しました)

***



 ふと耳に届いた、パチリ、という乾いた音。

 ゆっくりと、惰性のように続いていたまどろみから、目覚めるような感覚。


 薄らと瞳を開くと、眼の前ではちらちらと燃えている炎。

 それが焚き火だと気付くまでに、しばし時間が掛かってしまった。


 そして、先ほど耳に響いたと思える、火の粉の爆ぜる音。


 周囲は薄暗いような気もするが、焚き火の明るさは寝起きの眼には少々眩しくも思えた。

 瞬きを数度、少し濡れた瞼が冷たいと感じる。


 そこで、眼が覚めたとはっきりと自覚できた。


 ………あれ?

 生きてる、………の、か?


 一瞬、死んだと思ったんだけど。


 意識を失う前の記憶を、まだ寝起きの脳内でゆっくりと思い出す。

 まだ寝ぼけているのか、思考も泥のように重たく感じてしまう。


 最後に見たのは………。

 ………ああ、そうだ。


 ローガンディアの酷く狼狽した、真っ青な顔だった。


 そうだ、『吐き出し《ボミット病》』を発症したのだ。


 『ボミット病』を発症して、昏倒するのはこれで2回目か3回目か。

 自覚症状があれだけ揃っていながら、『ボミット病』の発症に気付けなかったオレもまだまだ、学習能力が足りなかったとも思える。


 しかし、今回は校舎で倒れた訳では無く、こんな辺鄙へんぴな森の中。

 しかも、命綱であるオリビアも魔法具も無い。

 魔力吸収が出来るオリビアは、生徒達の安全を考慮して校舎に置いてきた。


 そして、魔法具は破壊されてしまっていた。

 ………何を隠そう、ローガンディアに。


 初めて聞く単語ではあるが、名前の通りだと思う『奴隷の首輪』と間違えていたようだから、おそらく彼女としては善意のつもりだったのだろう。


 確かに、町中でああした首輪を付けて、少し草臥れた格好をした人間や亜人を見た事はあった。

 あれが、『奴隷の首輪』で、それを付けているのは奴隷だという事なのだろう。


 話は逸れたが、彼女のそんな善意とも言える小さな親切が、今回はかなり大きなお世話と鳴ってしまった形だ。

 おかげで、助けられたと思ったのに死にかけた。

 ぬか喜びをさせないで欲しい。

 ………ちょっとは怒っても良いのだろうか?


 出来れば今後そういったことがあるなら、今度は本人の確認を取ってから壊すようにと言ってやらねば。


 まぁ、そうやって考えられる今は、もうどうでも良い。

 生きているって、素晴らしい。

 何故生きているのかは不思議でならないけれど、今はそれだけで心の底から安堵が出来た。


 良かった、まだオレは神様に見放されてはいなかったようだ。

 ………女神がいるから、神様もいるんだと勝手に考えているだけだけど。

 

 眼が覚めると、またしても焚き火を眺めていた。


 最初の時と、同じ状況。

 その状況に、大いに戸惑ってしまう。


 枕元で砂利が擦れる音を聞いた。


 これも、あの時と、同じだ。

 ぴくり、と身体が勝手に反応したけれど、気配を探れば身体の強張りは簡単に解けた。


 最初にローガンディアと眼を合わせた時と、同じだったから。


 そして、またもや頭上に掛かる影。

 赤い髪が眼に痛い。

 暖簾のれんのように覆い被さってきた、その髪まであの時と一緒だった。


 相変わらず、無表情のローガンディア。

 しかし、その顔はどこか気まずそうにしていた。


「ローガン…ディア…」

「………。」


 オレの掠れた声。

 情けない事に、喉がやや張り付いており、酷使した喉や肺も少し機能が弱っているのか、この程度の声しか絞り出せ無かった。

 そこで、ローガンディアの無表情が、歪んだ気がする。


 無言で、首の後ろへと手を差し入れられ、抵抗する間も無く少しだけ起き上がらされた。

 彼女の女とは思えない逞しい腕が、オレの首や背中をしっかりと支えている。


 間近で見ると、これまた男らしい端正な顔で、見下されるとあらゆる意味で怖いと感じる。

 ………あまり、男に見下されるのは好きじゃない。


 だが、彼女が女だと分かっているからこそ、なんとなく振り払うつもりにもならなかった。

 こうして無遠慮に触れられたとしても、初対面の時よりは恐怖を感じない。

 警戒も、ほとんどしていない。


 現金なものだ。

 助けてもらうと、心証は変わるものだし。


 と、思ったら、


「…ッ…なにを…?………んぅ」


 ふと、彼方を向いた彼女が、コップのようなものを傾けてそれを口に含む。


 そして、そのまま眼の前には、オレよりも男らしいローガンディアの端正な顔が、ピントが合わなくなる程の至近距離にあった。

 心なしか、首裏の腕に上向かされた気もする。


 唇には、少し濡れた感触と、他人の熱があった。

 そんな時まで、彼女は無言だった。


「……ん、うぅ…」


 キスされた。

 ローガンディアから。


 しかも、舌を差し込まれ、歯列をなぞられ、閉じようとした唇をこじ開けるようにした動き。

 ………熱烈なキスだな、おい。


 身を捩ろうとして、失敗した。


「ん…ふ、ぁ……」


 ぐちゅり、と濡れた音がしたと同時に、閉じていた歯を舌で少しだけ強引にこじ開けられ、そのまま口蓋を撫でられた。

 しかし、それだけではなかった。


 舌を差し込まれたままで、ちょろちょろと流し込まれてくる何か。

 反射的に喉が引き攣り、ごくりと飲み干してしまった。


 何かを飲まされた。

 苦い。

 けど、どことなく、珈琲か漢方薬に似ている味。



 その後も、彼女はゆっくりと、オレの口の中に得体の知れない液体を流し込んでくる。

 どうやらオレは、彼女に口移しで何かを飲まされているようだ。


 喉にひり付くような痛みは無いし、舌に感じる苦味も、薬と考えれば納得は出来る。

 毒ではないようだ。

 また口内に溜まってきた液体を、今度は躊躇もせずに飲み込んだ。


「ん…ぅ…っふ…」


 ただ、まさかこんな所で、こんな役得があるとは思っても見なかった。


 先程まで飲まされていた液体が無くなったのか、唇が離された。


「………ん、…ぁ」


 銀糸が繋がる。

 思わず、名残惜しげな声を出してしまった気もする。


 少しだけ、羞恥に頬が高揚している気もした。


 何年ぶりだろう。

 異性とのキス。

 たとえ、口移しのような応急処置であっても。


 処女でも無いが、童貞でもない。

 ロストチェリーは、確か16歳の時だったか。

 今はそんな事、どうでも良いけど。


「………。」


 だが、それはローガンディアも同じだったのか、赤面しつつも先ほどと同じように気不味そうな顔をしている。

 あれは、最初の時から変わらない、彼女の恥らっている時の表情だろう。


 しかも、彼女は種族柄なのか、この世界独特なのか、肌が白い。

 おかげで、赤面をすると、見るからにりんごのようになるのが分かった。


 内心で、可愛らしいな、と苦笑を零す。


 そんなオレの内心も知らないまま、ローガンディアは赤面をしつつも、また先ほどと同じようにコップから液体を口の中へ。


 ぼーっとしながらも、その様子を無言で眺めていたオレ。

 眼が覚めていると分かっているのに、彼女は口移しを続けるつもりなのだろうか。


 先ほどと同じように、首の後ろに回された手に上向かされる。

 そして、またしても近付いてくる彼女の端正な顔。


 どうやら、オレの予想の通りだったようだ。


 もう一度、彼女の唇が、オレの唇に触れる。

 最初は躊躇いつつも、舌が差し込まれ、歯列をなぞられ、口蓋を撫でられ、液体がゆっくりと注ぎ込まれる。

 先ほどと同じ工程が、もう一度繰り返された。

 しかし、今度は先ほどよりも、自棄にゆったりとしていると感じた。


 薄眼を開けながら、彼女の様子を伺う。


 赤面している。

 そして、その瞼は閉じられていた。

 若干、睫が震えている。


 近すぎて、鮮明すぎる彼女の容貌。

 見れば見るほど、女受けをする秀麗な顔だ。

 オレに半分ぐらい、その男然りとした色気をくれないだろうか。


 いや、忘れるなかれ。

 彼女は、女だ。


 不恰好に伸びた髪を食べてしまっている。

 それも、どことなくエロイ。


「ふ…ぁ」


 最後の一滴まで、口の中に注がれる。

 こくりと、喉を嚥下させた。

 彼女も、同じく。


 唇が離れた。

 しかし、眼は外されない。


 情欲を含んだ瞳。

 色欲に濡れた眼だ。

 オレの目も、似たような色に濡れているだろうか。


「………もっと…」


 気付けば、無意識のうちに催促していた。


「……ッ、今回だけだ…」


 更に顔を赤くして、彼女が息を詰める。


 しかし、言葉通り。

 また、唇が重なった。


 今度は、何も口に含まずにキスをされた。

 そうして、気付けば夢中で、お互いが唇をむさぼりあっていた。


「ん…ふぅ…ッ」

「…はっ…ぁ…」


 互いの息使いが、少しずつ上擦っていく。


 客観的に思えば、体勢は逆だ。

 普通は、オレが彼女を見下ろしているべきなのに、彼女をオレが見上げる形である。

 少し情けないと思う反面、それでも負けたくはないという若干の負けず嫌いが発動され、どうにか動く右腕で彼女の首に手を回す。


 身長も体格でも負けている。

 そんなもの分かっている。

 ただ、技術では負けない、負けたくない。


 こんな状況でありながら、何故か湧き上がる加虐心。

 彼女が、あまりキスに慣れていない所為もあるだろうが、オレも久しぶりの感触に飢えていたのかもしれない。


 オレ達のような裏社会の人間は、それこそ、色んな技術を覚えさせられる。

 まるで、時代錯誤も甚だしい忍の修練のようだ。


 色とも呼ばれる、手練手管もオレ達は習得している。

 相手は、男も女も色々だったが、割愛させてくれ。

 オレの方が若干年上ではあるが同期で同僚兼友人ルリとも命令とはいえ組まされた事があるのは嫌な思い出だ。

 そんな事は、今はどうでも良いか。


 歯列をなぞり、舌を絡め、悪戯に口蓋を舐めたり、下唇を食むようにして甘噛みしたり。

 口端から涎が垂れたが、気にせず久々の感触を楽しんだ。


 鼻から抜ける息が荒くなる。

 オレではなく、ローガンディアのだ。


 伊達に仕事として、習得はしていない。

 女をキスで陥落させるなんて事、命令をされればいくらでもやって来た。


「ま、待って…ッ!…んっ」

「……ぅ…ん…」


 しかし、やはり慣れていなかった所為か、否か。

 彼女に拒絶されるような形で、唇が唐突に離された。

 ローガンディアが悲鳴にも嬌声にも似た声を上げて、制止を呼び掛けたと同時に仰け反った。

 どうやら、息が苦しかったようだ。


 意外とオレが元気だからか、ローガンディアは少し不機嫌になっていた。

 ただ、酸欠かキスの余韻なのかは不明だが、赤面した頬と薄らと目尻に浮かんだ涙に、満足したのも事実だ。


 くそう。

 もうちょっと堪能したかったが、やめておこう。

 このまま、なし崩し的に事に及ぶかもしれない事もあるが、それはそれで問題だろう。

 オレも今はまだ、病人だ。


「……はっ、………はぁ、………御馳走様」

「…はぁ、はぁ……ッ!…この、色欲魔め…。………調子に乗りおって、」


 やはり、オレが少しばかり有り余った情欲を爆発させた所為か、ローガンディアは若干お冠のようだ。

 抱き抱えられたままの体勢で、彼女に額を小突かれた。

 あまり痛くは無い。

 そして、そんな彼女の顔にも、嫌悪は無い。


 無表情を崩して、いっそ泣きそうな顔をしている。


 ああ、何か責任を感じているのかもしれない。

 多分、オレが『ボミット病』を発症したからだ。

 そして、その命綱である魔法具を壊してしまったのが、彼女だからだ。


 オレも少し怒っていたこともあったし、彼女のこんな顔を見れたのなら溜飲を下げても良いだろう。

 生きているなら、それ以上怒る必要は無いと考えているし。


 ………あれ?

 でも、魔法具も無いのに、体調は悪くないな。


 きょとり、と眼を瞬かせてから、ふと首を左右に回して見る。


 いつもは、発症後は鉛のように体が重いのに、意外と身体はスムーズに動く。

 胃のむかつきも少ないし、そもそも魔法具が無いというのに、倦怠感もあの動くのも億劫になる程の頭痛や、息苦しい程の咳も出てこなかった。


 それに、こんな事が出来る体力だって無かった筈だ。

 キスして発情とか、意外と元気だったんだな。


 ………オレだけじゃなく、オレのムスコもだけど。

 控え目ながらも勃ち上がってしまっているが、ローガンディアにバレていない事を祈ろうか。


 そんなオレは、さておき。


 ローガンディアは、溜め息交じりに、暖簾のように垂れ下がっていた髪をかき上げる。

 その仕草が、自棄に男らしい。


「すまない、ギンジ。

 まさか、お前が『ボミット病』だとは知らなかったのだ………。

 それに、魔法具の事も………、てっきり『奴隷の首輪』では無いかと思って、」

「………次からは、確認を取ってからにして欲しいな」

「善処しよう」


 善意からの破壊だったというのは、彼女の言葉を聞く限り間違いないだろう。

 それならば、次が無い事を祈るだけだ。

 意識を失う前も、そう思っていた筈だし、先ほども思ったように、生きているのであればそれで良い。

 それ以上を言う気も無いし、言った所で意味は無い。


 それに、彼女の不慣れな唇は、たっぷりと堪能させてもらった。

 命も助かってご褒美まで貰えたようなものなのだから、これでチャラにしておこう。


「………って、そう言えば、さっき飲まされたのは、何だ?」


 おっと、いけない。

 キスが衝撃的過ぎて、その前の口移しされた事をすっかり忘れていた。


 情欲を含まない口付けの最中、何か薬のようなものを流し込まれた筈だ。

 風味としては珈琲に似ていたような気がするが、口の中に残る後味はむしろ漢方薬独特の苦味に近かった。


 毒でない事は、彼女の仕草から分かっているし、オレの体調にも変化はない。

 やはり、薬だと考えて良いのかもしれない。


「人間には伝わっていないだろうが、『インヒ薬』というものを飲ませた。

 魔族の一部の種族に限られるが、強すぎた魔力を暴走させることが稀にあるのだ。

 ………この薬は、その魔力の暴走を抑える働きがある」


 ほー、また意外な魔族の魔力事情が聞けたな。


 なんでも、中位以上の魔族というのは、時たま内包した魔力を制御出来ず暴走させる事があるという。


 獣人は発情期に多く、中位種は成長期、上位種に至っては『昇華』という、訳の分からない変身能力のようなものを発動させる時、魔力の制御が難しくなる、との事。


 そして、彼女達女蛮勇族アマゾネスは、戦闘後などにたかぶったり、怒りなどで興奮すると魔力の暴走を起こす。

 彼女自身は、まだ魔力の暴走を起こした事は無いらしいが、それでも同じ種族の戦士達には多かったらしい。


 女蛮勇族アマゾネスは元々、そこまで魔力は高くないらしく、起こす方が稀だとも言うらしいが、起こした時は確実に手が付けられ無くなる程の暴走が予想される。

 牧羊民族という設定は違ったけども、女のみの戦闘民族と言うのは当たっていたようだ。

 しかも、ほとんど女性で構成された魔族であるからして、それぞれの戦士達がそれなりの力は持っている。

 万が一暴れた時の被害も相当なものになるらしい。


 と言う訳で、そう言った事を防ぐ為にも、この薬は代々女蛮勇族アマゾネスには伝わっている、と。


「………なにそれ?」


 ぼそり、としかし、若干食い気味につぶやいた疑問。

 オレの眼は、今見開かれている事が確実に予想出来る。


 万が一の魔力の暴走を抑える効能がある薬だって?

 『インヒ薬』って名前のそれが、高まった魔力を抑えてくれる?


 なら、体に溜まった魔力も排出してくれるって、事でもあるのでは無いだろうか。


 ローガンディアの言う事が本当なら、特効薬だ。

 何の?

 『ボミット病』のだ。


 ………簡単に見付かったんじゃねぇ?


 思わず、オレは飛び起きた。


「うわっ!?」


 彼女を驚かせてしまったようだが、気遣う余裕は無かった。

 そのまま、彼女に縋り付くようにして、聞き取りを行う。


「それって、つまりは身体の外に、魔力を排出させるって事だよな?」

「あ、ああ。多分、そう言う事だと思う…!」

「オレに飲ませたのは、その為か?魔力を抑えるように、もしくは排出を促すようにしたのか!?」

「そ、そうだ。自棄に貯め込んでいるとは思っていたが、………まさか『ボミット病』とは思っていなくて」


 よしっ、間違いない!

 ローガンからの言質も取れたし、彼女の言う婆様とやらがこの『インヒ薬』を飲んで対処したって事も分かった。


 それに、オレの今の体調はどうだ?

 頭痛や眩暈も、吐き気や倦怠感も無ければ、咳一つ出ていない。


 先ほどは、キス一つで発情出来る程の元気もあったのだ。

 つまり、今現在、オレが気絶する前に発症した筈の『ボミット病』の症状は、かなり最低限に抑え込まれている。

 オリビアも魔法具も無しでだ。


「これは、どうやって作る?成分は?」



 我ながら現金だとは思うが、ローガンディアに詰め寄ってしまった。

 彼女は体勢を仰け反らせて、ついでに固まってしまったが、致し方ない。


 今まで、探していなかった訳ではない。


 常盤兄妹と共に、医療部門の地盤固めの為に研究はしていた。

 彼等が校舎で、時間がある時に行っているのはその検査で、オレや永曽根の血液や唾液を調べている。

 血液に関しては、厳重に取扱注意と言い渡してはおいて、調査を進めて貰ったり、或いはオレ自身も参加したりはしていた。

 しかし、特効薬の開発については、夢のまた夢だと思っていた。


 焦っていなかった訳ではない。

 飛びついてしまっても、罰は当たらないだろう。


 ただし、


「……すまない、分からない」

「…製法も?」

「……その、すまない…。何種類かの、薬草や花の根を擦り合わせて作るのは知っている」


 彼女は、処方や効能に対して知ってはいても、製法に関しては知らなかったようだ。


 ところどころに感じる間は、おそらく彼女が嘘を吐いている訳では無いだろう。

 純粋に、記憶を探しているだけ。

 出来れば、製法を知っていて欲しいところだったし、欲張りとは思っても、手がかりがあるならなんだって良い。


「………確か、獅子歯花ダンデライオンを使っていた筈だ。

 ………そ、それと、何か分からないが、木を焼いて炭にしていた…」

「ダンデライオン………、タンポポか」

「人間は、そう呼ぶのか?」

「いや、オレ達がそう呼んでるだけ」


 英名はダンデライオン。

 和名は、蒲公英。

 タンポポだ。


 一応、粗略が無いかは確認した。

 黄色の花で大きく開くと獅子の頭にも見える花で、春先になるとどこでも咲く花だと伝えると、ローガンからは頷きが帰ってきた。


 ………おう、まさかタンポポが特効薬?


 いや、待て。

 早合点はマズイ。


 確か、タンポポには珈琲のような風味があった筈。

 先ほど飲まされたのは、それを煎じた茶だったのかもしれない。

 だが、それ以外に含まれている成分はなんだ?

 口の中に広がった、なんとも言えない苦味はタンポポだけじゃ無かった筈だ。


 いや、もしかすると、先ほど彼女が言ったように、何かしらの木を炭にしたものが混じって、あの独特の苦みになっていたのか?

 だとしたら、健康法の一つである食炭で、毒素を吸着して外に排出させる働きと一緒だろうか。


「なら、これだけ教えてくれ、これはどこで手に入る?」

「……『暗黒大陸』だ。私のいた村では、良く婆様方が作ってくださっていた…」


 『暗黒大陸』。

 何度も耳にする言葉だ。


 しかし、その実、その大陸の実体を知る者は少ない。

 脚を踏み入れても、帰って来れないからだ。


 ダドルアード王国からは、西に位置する山脈。

 『暗黒山脈』と言う名の境界線ともなる、山の向こうが『暗黒大陸』だ。


 魔族が暮らし、魔物が蔓延っているだろう地域。

 並みの冒険者では、あちらに近付こうともしないし、そもそも近付く事すら容易では無いらしい。


「私も、詳しくは知らないのだ。

 …………ただ、女蛮勇族アマゾネスの里では戦士となった暁には、風習として必ず渡される薬だ。

 魔力が暴走した万が一の為に………、」

「………まだあるのか?残っていたりは、」

「済まん。………先ほど、飲み終えたもので最後だ」


 なるほど。

 あの一杯で、打ち切りだった訳だ。


 少し、消沈してしまった。

 これで少しは、研究が進むかと思ったのに。


 そんなオレの様子を見てか、ローガンディアも一緒になって落ち込んでしまっている。

 むしろ、申し訳ない。

 彼女が悪い訳では無かった。


 先ほど、オレが飲まされたのは、彼女達女蛮勇族(アマゾネス)に伝わっている薬で、それが、まさか実は『ボミット病』の特効薬とは、彼女も思っても見なかっただろう。

 オレもこんな形で知ることになったのは、素直に驚いている。


 存在も作り方も、魔族の間で、しかも彼女の知る限りは女蛮勇族アマゾネスの里でしか伝わっていなかったらしい。

 まぁ、当然と言えば当然だな。

 人間は魔族のテリトリーには、入らないし入れないから。


「すまない、あまり役に立てそうにも無くて。

 ………こんな事になったのも、元々は私の早合点の所為だというのに…、」

「いや、良い。助けて貰っただけでも、儲けものだ。

 何度目か分からないけど………、ありがとうな」


 本当に、申し訳なさそうにしているローガンディア。

 確かに彼女が魔法具を壊さなければ、こんな事にはならなかった。

 だが、過ぎた事を悔やんでも仕方ない。


 これで、彼女に助けられたのは2度目だ。

 一度は身体を拾われ、二度目は命を拾われた。

 感謝すべきだ。

 諸手を上げて、こうして生きている事実をオレは、彼女に対して感謝をするべきなんだから。


 普通なら、見捨てられていても可笑しくなかった。


 ただ、これで薬は打ち切りで、文字通りの意味だ。

 次に発症した場合、薬は無く、オリビアもいなければ、魔法具も無い。

 おそらく、次は無い。


 オレがもし、校舎に帰れたとして。

 どんなに急いだとしても、道中の馬での移動で1週間掛かっていたのだから、徒歩だとすれば倍以上は掛かるだろう。

 そうなれば、やはり途中でボミット病が再発して死ぬ。

 そんな事、分かっている。


「(………いや、待てよ?先に、討伐隊に合流した方が良いよな)」


 そもそも、オレは今現在、討伐隊として参加した上で、ここにいる。

 ならば、先に討伐隊本隊と合流して、安否を確認して貰った方が良いだろう。


 もし、オレの事を捜索しているなんて事になったら、オレが先に帰れたとしてもかなりの時間を討伐隊本隊にロスさせてしまうことになってしまう。

 ………成り行きとは言え、指揮権を任されていた人間が先に帰還するのは、どう考えても不味いだろう。


 それに、まだ死ぬとは決まっていない。

 魔法具の予備の存在を、思い出した。


 魔法具の予備は、確か間宮に渡しておいた筈だ。

 この魔法具が壊れた時、もしくは不具合を起こした時の為のストックとして。


 先に、彼等と合流出来れば、あるいはオレもそのまま討伐隊本隊と共に、無事に帰還できる。

 何度か聞いているローガンディアからの口ぶりで、合成魔獣キメラに関しては討伐出来た、と考えても差支えは無さそうだ。


「………。」

「………どうした?」


 考え込んでいたオレは、ふと視線をローガンディアに映す。

 所在無さげな彼女だったが、オレの視線を受けてからすぐに、表情を引き締めていた。


「なぁ、もし…もしもの話だ。

 ………オレが討伐隊に合流したいとしたら、アンタはどうする?」

「え?…どう、するとは?」


 あ、言い方が悪かった?

 ちょっと警戒されてしまったかもしれない。


 違う、違う。


 討伐隊に合流したいが、さすがにオレ一人でこの森を抜けて戻るのは至難の業だろう。

 それこそ、土地勘があって、オレが途中でダウンしても切り抜けられる護衛が必要だ。


「オレは、一人で戻れないと思う…」

「あ、ああ…なるほど。魔物も多いしな………、」

「だが、なんとしてでも帰らないといけないんだ。

 もしかしたら、討伐隊でもオレを捜索しているかもしれないし、オレが受け持っている校舎では、………生徒達が待ってる」


 ちょっと、言い方がずるかっただろうか。

 だが、本当の事しか話していないから、言い方に関しては勘弁して欲しい。


 しかし、ローガンディアの表情は訝しげに歪められる事は無かった。


 というよりも、むしろきょとんとされた。

 ………ちょっと可愛いとか思ったのは、内緒にしたい。


「生徒?…お前、何かの先生なのか?」

「ああ、学校の教師なんだ」


 えっ?………あ、そっち?

 いや、確かにオレは先生らしからぬ、風貌はしているし、自覚もしているけど………。


 いや、自覚はともかく。

 ここは、シンプルにお願いしよう。

 回りくどい言い方も、同情も誘う必要も無い。


「オレを、討伐隊のところまで送って欲しい。その間の護衛を頼めないか?」

「………。」


 オレの言葉を聞いて、目を瞬いている彼女。

 返答は、無言だった。


 気持ちは分かる。

 ローガンディアにとっては、図々しいお願いかもしれない。


 ここまで助けてもらってばかりなのだ。

 オレが生き倒れていた森では、たとえ同性おんなと間違われたとしても拾ってもらえた上に、男と分かってからも献身的な介助を受けた。

 驚異的な速度で傷が回復するなんて人外が発覚してしまったというのに、それでも最後まで面倒を見てくれた。

 なのに、オレは返せるものが無いばかりか、面倒ばかり掛けている。

 オレの些細な物忘れの所為もあって、『ボミット病』を発症し、稀少な薬すら使わせてしまった。


 感謝をしてもしきれない程の恩が、彼女にはある。


「礼は、必ずする。時間が掛かるかもしれないが、いつか必ずさせてもらう」

「………」 


 それでも、ローガンディアは無言だった。

 終いには、口をひん曲げて眼を瞑ってしまう。


 やっぱり、図々しいお願いだっただろうか。

 ………いや、もしかしたら種族の問題もあるのかもしれない。


 オレは人間。

 ローガンディアは魔族だ。


 ただ、それだと助けてくれた理由が分からなくなる。

 まぁ、コイツがお人好しだっただけかもしれないけど。


「………お前、馬鹿なのか?」

「…え?」


 と、つらつらと考えている最中。


 ぽつり、と零された言葉と共に、彼女から溜め息を吐かれてしまった。

 挙句、呟かれた言葉は、暴言とも取れるものである。


 ………いや、馬鹿ではない。

 今は、訳が分からなくて馬鹿みたいな顔をしているかもしれないが、決して頭の出来が悪い訳ではなかった筈だ。


 ………でも、馬鹿って、どういう意味?


「送って行くのは、当たり前だろう。

 同性と間違えたとはいえ、拾ってしまったものは最後まで責任を持つものだ」

「………えっと?………オレの扱いは、犬猫か?」

「何を不思議な事を。犬猫ならば捨て置くが、お前は人間だろう」

「いや…、いやいやいや、そういう事じゃなくて、」


 ………あれ?

 なんか、怒られている?


 というか、不機嫌な顔をされてしまっている。

 秀麗なローガンディアの顔が、不愉快そうにひそめられてしまっていた。


 これはやはり、オレが図々しいお願いをしたから?

 それとは、また別の理由があるような気もしないでもないんだが………?


「心外だ。………私は、別にお前に礼を催促するつもりは無かった」

「あ、いや…だって、助けて貰ったんだ。何か礼をしたいと思うのは当然の事で、」

「………お前を殺しかけたのも、事実だ。それを助けて何が悪い」

「…えっ?………べ、別に、わ、悪い訳じゃないけど…」


 ………これ、どういう事?

 こういう時、コミュ障は辛い。


「………えっと、…なんか…ゴメン」

「別に。………先に礼の話をされたのが、気に食わなかっただけだ」

「……ああ、それもゴメン」


 あ、なるほど、そういう事?

 オレが先に礼の話なんかもしたから、彼女はそう言ったものが欲しくて助けた訳じゃないと怒ったのか。

 そりゃ、心外だったろうね。

 本当に、言葉が足りないというか、考え無しでゴメンなさい。


 ………しかし、その割には、なんか別の事で怒っているような気がしたけど?


『……口吸いまでしたというのに、』


 ふと、ぽつりと、零された言葉。

 言語が、ここだけ違った。


 魔族の言葉だろうか?

 流石に、オレにはその言葉の意味は、分かり兼ねた。


 ただ、少し恨み事のようなものだったのかもしれない。

 ローガンディアが、まるで拗ねた子どものような顔をしていたから。


「えっと、今の言葉は…どういう…?」

「いや、別に…」


 と思ったら、本当に拗ねているようで、そっぽを向かれてしまった。


 ただ、やはり若干耳が赤くなっている。

 誰の?

 ローガンディアの。


 顔が赤いのは、焚き火の火が当たっているからだろうが、それにしては自棄に赤くなっている。

 ………気のせいだろうか?


「………えっ……と?」


 何を言えば良いのか、分からない。


 というか、これは了承してくれたと取って良いのか?

 護衛の事とか、一緒に森を抜けてくれって、お願いした事に対して………。


「………。」

「………。」


 気まずい沈黙が、またしても洞窟内に落ちた。

 ローガンディアは、不貞腐れたかのようにそっぽを向いて、黙り込んだまま。

 オレは、何を言えば良いのか、どうすれば良いのかも分からなくて、黙り込む。


 ………この気不味い雰囲気は、一体何度目だろう。

 ここに来てからの中でも、殊更ことさら居心地が悪くなる。


 また、頭痛が痛くなってきた気もした。

 考え過ぎだろうか?

 こめかみを押さえて、小さく溜め息を吐く。


 ぴくり、と反応したように見えたローガンディアも、結局はそっぽを向いたままだ。


 洞窟内に、焚き火の爆ぜる音だけが響く。


 しばらく、お互いにそうしていた。

 そうして、黙り込んでいるしか、何も出来ることが無かった。


 通算にして三回目の沈黙は、余計に居心地が悪いもんだと自覚する。

 しかも、オレが重ねまくっている不敬な言動や、『ボミット病』を発症するなんていう失態を犯したり、キスしたりなんて事もあった所為か、余計に………。



***



 しかし、


「…ッ!」

「!?」


 その沈黙も長く続かなかった。


 ふと、空気が、特有の緊張感を孕んだ。

 反応したのは、どちらが早かっただろうか。


 どちらとも無く、飛び付くようにして武器を取った。

 オレは、枕元にあったコルト・ガバメント。

 彼女は、荷物と共に纏めて置いてあった、十字の尖部を持った槍の柄を引っ掴む。


 お互いがお互いに、武器を向けた。

 洞窟の入口へと。


「………なんだ?」

「分からん。………ただ、濃密な殺気だったとしか、」


 そうだ。

 殺気を感じたのだ。


 それも、かなり濃密で、オレ達の脳裏に警鐘をかち鳴らす程の、強烈な殺気を。


 察知したのはほぼ同時で、お互いに見ている方向も同じだ。

 唯一の武器を構えつつ、オレ達は洞窟の入り口を睨み付ける。


 先ほどの気不味い沈黙とは違う、警戒の為の沈黙。


 オレ達が視線を向けた洞窟の外には、小川と森、大小様々な石が転がった岩場という、大自然の風景が広がっている。

 今は昼時だったのか、晴れ渡った空の下。

 緑が溢れる風景に、人工物などどこにも見当たらない。


「………何も、いないのか?」

「………いや、見ろ。洞窟の外、」


 しかし、そこには違和感があった。


 影が落ちている。 


 洞窟の入り口に、ぽっかりと。

 先ほどまでは、日が内側まで差し込んでいた筈の場所から。


 眼を向けた先に、何かが蠢いた。


「……ッ…!」

「……手…いや、腕か?」


 そこには、洞窟の入り口を掴むように、手が伸びていた。

 真白で生気の感じられない不気味な手。

 それは、指、掌、手首、腕と続いている。

 しかし、その先は洞窟の死角になって見えない。


 これだけなら、何も可笑しくは無いのかもしれない。

 せいぜい、誰かが捕まっているように見えるからだ。


 だが、その位置が可笑しい(・・・・・・・)


 洞窟の真上にあるからだ。


「………おいおい」


 嫌な予感が、しかも怖気の走るような感覚が、ひしひしと背筋を這い上って来る。


 ………オレは、………あれ(・・)を知っているかもしれない………。


 一度は見た事がある、生気の無い白い腕だ。


「………見覚えがあるなんて、もんじゃねぇぞ………ッ」


 ぞっとした。

 そして、顔から血の気がさーっと引いていくのが分かる。


「………私にも、心当たりがあるのだが、良いか?」

「………手短に頼む」


 その白い腕の先には、何があるのか。

 どうやら、オレの言葉を待たずとも、ローガンディアも分かったようだ。


 当然か。

 彼女も、一度オレを拾った時に、眼にしていただろうから。


 体を溶かしていたらしいが、さぞおぞましい姿だった事だろう。


「………あれが、合成魔獣キメラという魔物か………」

「………ああ」


 オレと彼女の、認識が一致した。


 それを見計らったかのように、その巨体は洞窟からオレ達を覗き込んでいた。

 隠れ鬼でもしているつもりだったのか。


 見つけたと言わんばかりに、眼がにんまりと笑った気がする。


 赤黒い巨大な身体は、まるで大型の魔物か何かの心臓を掴みだして来たかのようで、体の至る所から、人間の手や足を生やした上部。

 巨体を支える為の、まるで蜘蛛のような手足を何十も持った下部。


 顔と言えば良いのか、頭部と言えば良いのか定かでは無いが、爛々と殺意に煮え滾ったような赤い眼が、中心部に怪しく光っている。

 蛭のような円形の口にそぞろに生え揃った乱杭歯が、獲物を引き裂きたいと渇望するかのようにかちかちと鳴っている。


 状態で言うなら、既に臨戦態勢だろう。

 興奮状態、とも言いかえることが出来るかもしれない。


「………もう一体いるなんて聞いてねぇぞ!」

「なんと禍々しい…ッ」


 のっそり、という擬音が聞こえるような動作で、洞窟の目の前に降りて来た、2体目ともなる合成魔獣キメラ

 オレが仕留めたと思っていた合成魔獣キメラが、また復活したか。


 いや、そうだとすれば、ローガンディアがもう少し言及しているだろう。

 彼女の口ぶりからすると、オレを助けた時には、合成魔獣キメラは既に絶命していたようだったから。


 なら、やはりコイツは、2体目と考えるのが妥当。

 討伐対象は、1匹では無かった訳だ。

 報告には上っていなかったが、前回前々回の討伐隊も、先遣隊も全滅していたので当然と言えば当然だろうか。


 それに、1体目と違って、この2体目の合成魔獣キメラには、体に斑な模様が浮かんでいた。

 外から燦々と降り注ぐ太陽の光と、洞窟の中から齎された焚き火の炎に反射して、怪しく光る斑なその模様は、これまた見覚えのあるものだった。


 まるで、蛇の鱗のようだった。


「………鱗なんて、1体目には無かったのに、…ッ」


 オレの背筋が、殺気を受けた以外の意味で、怖気立つ。


 蛇は駄目だ。

 あの鱗の形を見るだけでも、体が強張ってしまう。

 本物なんて見た日には、それこそオレは卒倒するなんて事は、眼に見えている。


 5年前の色々な出来事の所為で、すっかり『蛇恐怖症』を患ってしまった。


「………鱗なのか?……まさか、本当に『天龍族』か?………いや、むしろ蛇人族スネークマン、か…?」


 以前話していた、この合成魔獣キメラが魔物か、魔族かという談義。

 それを思い出したのか、ローガンディアがふと驚きに眼を瞬かせるが、ふと『蛇人族スネークマン』と呟いた途端、殺気のようなものが溢れ出た。


 『蛇人族スネークマン』というものが何なのか分からないまでも、コイツも蛇が嫌いなのは分かった。

 何か因縁でもあるのだろう。


「………蛇は嫌いだ」

「………私もだ。殺し尽してやりたいぐらいにな」


 立ち上がりがてら、恐怖で戦いてしまっている自身を鼓舞するように、毒吐どくづいた。

 やはり、彼女は蛇がお嫌いなようで、かなり物騒な事を言っている。

 だが、お揃いだ。

 おかげで、尻尾を丸めて逃げるなんて無様な真似は、しないで済みそうだ。


 強張った体。

 だが、これ以上、無様な失態は彼女には見せられない。

 むしろ、見せたくない。


 ………女に守られて、何が教師おとこだってんだ。


 武器はコルト・ガバメントとベレッタ92.だけ。

 頼れるキャリバー50は置いてきてしまっているし、そもそも持ち運びは出来なかった。

 そして、他に持って来ているのは、ほとんどがナイフや投擲器具などの、近接戦闘全般の武器。


 火力が心許無いとは思いつつ、武器を構えた彼女の隣に並んだ。


「………合成魔獣キメラ狩りと行きますか……」

「………ああ」


 戦力は、たった2人。

 運良く、オレ一人で難を逃れたあの時とは違って、キメラは死に掛けでもなんでもない。


 少々、どころではなく、かなり不安だ。

 ローガンディアの戦力に関しても、見たことは無いし聞いてもいないので未知数だ。


 苦戦の予感だ。

 城壁の外が、ここまで危険地帯だとも思っていなかった。


 ごくりと、生唾を飲み込んだ。

 その音が聞こえたのか否か、合成魔獣キメラがまたしても、眼を細めてにんまりと笑った気がした。

 それが、まるで勝者の勝ち誇った表情にも思えた。



***



 臓器のような形をした本体に、蜘蛛の脚のように伸びた脚が気色悪く並んでいる。


 眼は充血しているというよりも、血の色がそのまま表れているかのような赤で、本能からの殺気を爛々と輝かせていた。

 本体の中央に位置するであろう円形の口には、そぞろに生え揃った乱杭歯。

 今にも食い掛かってくるのかと思える程、カチカチと好戦的な音を鳴らしている。


 色々な魔物を掛け合わせた外見は、まさしく古代の怪物(キマイラ)を彷彿とさせる。


 まだ、この森の中には、生息していたのだ。

 どうやら、討伐対象は1体ではなく2体だったらしい。


 大まかな姿形は一緒だが、細部が違う為、1体目の固体とは別だろう。


 臓器を切り出したような巨体には、人間の手足の他にも魔物の足らしきものが生えている。

 体の表面に浮かび上がっている顔も、人間だけでは無く魔物の頭部らしきものも混ざっていた。

 1体目より、確実に合成魔獣キメラに近付いていると見るべきか。


 それに、圧倒的に違うのは、蛇の鱗のようなものが浮かび上がっているところだろう。

 太陽の光と、焚き火に照らされ、ちらちらと反射する鱗。


 その鱗を見るだけで、オレは猛烈な怖気を体感する。


 正直、見たくない。

 蛇は嫌いだ。


 それに、こちらの合成魔獣キメラの方が、どことなく表情が豊かに見える。

 あっちが♂《オス》なら、こっちは♀《メス》だろうか?


 洞窟の中に居たのが災いした。

 逃げ道は無い。

 もとより、逃げる気は無かったし、逃げ切れるとは思ってもいなかったが。


 臨戦態勢を取っている合成魔獣キメラは、オレ達に襲いかかる頃合いを見計らっているように思える。

 空中に彷徨っている手足や魔物らしき四足が、あやしく蠢いている。


 しかし、臨戦態勢ともなれば、それはオレも同じ。

 そして、傍らで十字槍にも似た武器、ハルバートを構えているローガンディアも一緒だ。 


 ちなみに、先ほど分かった新事実。

 彼女も、オレと同じで蛇は嫌いらしい。

 新たに出て来たであろう『蛇人族スネークマン』とう単語を口にし、その象徴であろう鱗が浮き上がっているところを見て、嫌悪とも殺意とも取れない感情を露にしている。

 ………嫌い、とかいう生易しい感情では無さそうだ。


「ふん。生皮を剥がして、素材にしてやろう」

「………え?それは嫌」

「………お前、」


 そんな嫌悪とも憎悪とも取れる彼女が発した台詞には、流石に意義を唱えたい。

 率直な意見を返した。

 そしたら、彼女から、あからさまに呆れた視線を返された。


 ………だって、嫌いなものは嫌いだもの。


 ましてや、それを素材として鞄とか財布にしたりしていたのは現代でも一緒だが、オレは一度も持った事は無い。

 そして、贈られた時には素直に、返却した。

 むしろ、放り投げた。

 だって、嫌いだもん。

 申し訳無いとも思う暇が無かった。

 あれ、確か同僚兼医者の女同業者だった筈だけど………。


 閑話休題。


「油断するな、ギンジ。何をボーっとしている」

「あ、ああ、………悪い。ちょっと考え事」


 思考を切り替えるより早く、ローガンに窘められて我に返る。


 オレの悪い癖だ。

 考え事を始めると、途端にボーっとしてしまう。


 オレの昔の話なんて、今はどうでも良いのだ。

 この闘いを乗り切ってからでも考えられる事なのだから、今はこの窮地を乗り切ってから過去を振り返るなりなんなりすれば良い。


 ただ、そう簡単に乗り切れるとは、思ってもいないのだが。


 お互いに、洞窟の入り口と中で、睨み合うような形で対峙するオレ達と合成魔獣キメラ


 どうやら、頃合いを計っていた合成魔獣キメラも動くようだ。

 空気に、ぴりりと緊張が走る。


 しかし、合成魔獣キメラがその頭部から生やしている触覚を動かすよりも、更に速く。


「ハァアアアアアアアアアアア!!!」


 先に動いたのは、ローガンディアだった。


 気鋭の篭もった掛け声と共に、地を這うような低姿勢で駆け出した彼女。

 速い。

 暴風のように駆け抜けた赤い髪。

 オレも、一瞬眼で追うのがやっとだった。


 その速さに戸惑ったのか、一瞬だけ合成魔獣キメラの体制が不格好にも引き攣った。


 しかし、彼女が合成魔獣キメラに到達するよりも速く、合成魔獣キメラが一直線に駆けた彼女目掛けて、その触手を振り落とす。

 鞭のようにしなった、音速の腕。


 だが、それがローガンディアを補足するよりも先に、バチンと何かを叩いた音がした。

 合成魔獣キメラは洞窟の外にいた。

 そして、今しがた振り落とそうとした触手も、また洞窟の外からのものだった。


 洞窟の岸壁にぶつけたらしい触手が、ややあってローガンディアに到達する事は無かった。

 当の合成魔獣キメラも、動揺したらしく、びくり、と身体を引き攣らせるだけであった。


 これは、好機だった。

 なるほど、合成魔獣キメラは、1体目もそうだったが、眼がそこまで発達している訳では無かったようだ。

 洞窟の中は、かなり狭い。

 あの巨体では、半分も入って来れない。

 狭い場所が、オレ達に有利となった良い証拠だった。


 そして、好機だと考えたのは、オレだけでは無かったようで、


「馬鹿者が…!!」


 四足で駆けた獣よりも速く、地面すれすれに駆け抜けたローガンディアも、また同じく歓喜を滲ませた。


 既に、彼女は合成魔獣キメラの目の前に到達。

 そこから、たった数秒で駆け抜けた助走を活かし、渾身の突きを放とうとしている寸前であった。


 決まったと、一瞬思った。


 この2体目の合成魔獣キメラが1体目と同じであれば、『魔法無力化不可魔法マジック・キャンセラー・エンチャント』という、魔法全体を無効化してしまう能力があった。

 ただし、無効化出来るのは、『魔法無力化不可魔法マジック・キャンセラー・エンチャント』と言う名前の通り、魔法だけ。

 物理攻撃は、いとも簡単に通してしまった筈である。


 今、ローガンが放った渾身の突きは、間違う事無き物理攻撃。


 十字槍のような尖部を持ったハルバートの切っ先が、合成魔獣キメラの本体へと突き刺さった。 

 同時に、がしゅ、と肉を裂く音が聞こえた。


 だが、


「な、に………ッ!?」

「ッ………!?…下がれ、ローガンディア!!」


 突き立ったかのように思えたのだ。

 確かに、彼女のハルバートは、本体へと吸い込まれるようにして放たれた。


 しかし、そのハルバートの切っ先は、貫通はおろか、傷一つ付ける事は無かった。


「なんだよ…あれ…!」


 彼女のハルバートが突き立ったように見えた一瞬。

 オレは、確かに見た。


 合成魔獣キメラの鱗が、ハルバーとの突きを受けた瞬間に、怪しく煌いたのを。

 それは、まるで、見えない壁に拒まれているかのようだった。


 ………壁?

 まさか………!?


「早く、下がれローガンディア!」

「分かっている!」


 かなり合成魔獣キメラに接近してしまっている彼女に退避を促す傍ら、合成魔獣キメラは先程のオレ達と同じように好機と考えたのか、乱杭歯を開いて彼女へと噛み付こうとしていた。

 まるで、捕食の為に食虫植物が花を開いた瞬間のようにも見えた。


 しかし、そうはさせない。


 牽制の為に、奴の眼を狙って「M1911A1(コルト・ガバメント)」の引き金を引く。

 洞窟の中に反響した爆音は、流石に聞き慣れているオレですら耳が痛かった。


「うわ…ッ!?」


 銃声に驚いたローガンディアも、悲鳴を上げてしまった。

 そればかりか、体勢を少し崩してしまったようにも見える。

 振り返りざまに恨みがましい視線を受けてしまった。


 ………済まん。


 だが、その牽制の為の銃弾ですらも、奴の体には傷一つ付けられなかった。

 眼を狙った筈が弾かれて、洞窟の壁に兆弾した。

 ローガンの突きが効かなかった先ほどと同じく、見えない壁でも存在しているようだった。


 何かが、可笑しい………。


 1体目の時は、手傷は負わせられなかったとしても、確かに着弾していた筈だ。

 魔水晶目掛けて撃った時には、表皮も構わず貫通をしていた。

 それは、この目ではっきりと見ていた。


 半ば愕然としてしまうが、合成魔獣キメラは残念ながら待ってくれるような相手では無い。

 

 ローガンディアが、先ほど数秒で駆け抜けた距離を、バックステップで後退しているのを横目に、合成魔獣が《キメラ》が動いた。


 噛み付く事は出来なかったが、まだ捕食を諦める気は無かったようだ。

 数本の腕とも思える触手が、1体目の時同様に猛攻を開始した。


 狙いは勿論、特攻してオレよりも2メートル近くは突出した彼女だ。

 まずは手近にいるローガンディアを、触手を使って捕えようとしている。

 何の事は無い。

 捕食の為だけに。


 洞窟の中に赤黒い触手が伸びて来て、焚き火の炎で怪しく照らされる。

 その光景は、まさに気色の悪いスプラッター映画さながらだと思う。


 殺到した触手が、ローガンディアに向かって伸びた。

 しかし、ローガンディアも簡単に捕まるような、女性では無かったようだ。


 先程も見せた、俊敏な脚でバックステップ。

 更には、回避した先でサイドから向かって来た触手を、身体を前に傾けるだけで避け、そのままサイドステップを刻む。

 残像が見えそうな程の俊敏な動作で、足音だけを聞いていればダンスでも踊っているかのようだ。

 速さに関し言えば、彼女はオレと同格とも思える。


 思わず、見惚れたようにして、眼を瞠ってしまう。


 ただ、見惚れている場合では無いという事は分かっている。


 先ほど1発を撃ち放って、ハンマーが上がってしまったコルト・ガバメントのスライドを、歯でがっちりと咥えて思い切り引く。

 若干、歯が痛い上に唐突に開いた顎も痛いが、泣きごとを言っている場合でもなさそうだ。


 俊敏なステップで、次から次へと殺到している触手を、一度も触れること無く回避している彼女へ、ささやかながらも背後からの援護。

 ローガンディアを捕えようと躍起になっているのか、滅茶苦茶な動きを見せている触手。


 ただ、先ほどの彼女のように、眼で追えないという事は無い。

 おそらく、彼女も同じ事を思って、そのまま回避に専念しているのだろう。


 狙いを定めて、あるいは動きを予想して、先ほどと同じように引き金を引く。

 

 爆音。

 そして、今度は着弾をしたのを確かに視認した。


 彼女へと襲いかかろうとしていた触手が、何も無い場所で真っ赤な花を散らせるようにして弾け飛んだ。

 良かった。

 今度は、少なからずダメージを与えられたようだ。


 唐突に走った痛みに、驚いたのか。

 たまらず、触手を引っ込めた合成魔獣キメラが大人しくなった。


 そこへ、


「お、い…!お前…、は……ッ!!」


 全ての触手を回避し続け、しかも一つも掠めることなくオレの傍らに滑り込んできたローガンディア。

 その毒々しいまでの見事な髪は乱れ、頬には血が飛び散っている。


 しかし、やはり無傷のようで安心した。


 頬に飛び散った血液はおそらく、先ほど爆ぜた合成魔獣キメラの触手の血だ。

 可笑しい事に(・・・・・・)、彼女のすぐ傍で、炸裂したように吹っ飛んでいたもの。


「さ、さっきと言い今と言い、何の音だ!?驚いてしまっただろう!?」

「ご、ゴメン」

「援護は分かるが、一声掛けてくれ!危うく、避け損ねるところだった!」

「………はい、ゴメンなさい」


 マジで、ゴメンね。

 驚かせてしまったようで。


 当然ではあるが、戻ってきた彼女に怒られた。

 そういや、この世界の人間は銃なんてオーバーテクノロジーなものに不慣れだったのをすっかり忘れていた。


 最初、初めてゲイル達が聞いた時も、かなり驚いていた筈だもの。

 キャリバー50を使った時も、騎士団が合成魔獣キメラの悲鳴以上の恐慌を起こしていたのは記憶に新しい。


「まぁ良い。………今のは魔法なのか?」

「いや、この武器だ」


 そう言って、ローガンディアの目の前でかざした、コルト・ガバメント。

 忘れないうちに、スライドを歯で引いて、ハンマーを起こす。


 見慣れない武器に加えて、オレの言動が意味不明だったのか、訝しげな表情を受かべたローガンディア。

 しかし、懇切丁寧に武器の説明をしている状況では無いので、彼女の猜疑の視線は無視しておいた。


 ただ、彼女は今更ながらに気付いたらしい。

 オレの左腕が、まったく動いていない事に。


 今まで動かす用事が無かったから、気付かなかったのだろう。

 ハッとした表情で、オレの左腕を見ている彼女に苦笑だけを零しておいた。


 さて、閑話休題それはともかく


 この状況は(・・・・・)、|一体どういうことだろう《・・・・・・・・・・・》。


 先程、触手を通じて受けたダメージを警戒してか、合成魔獣キメラは触手を引っ込めて、大人しくオレ達の様子を観察しているようだ。


 だが、ここで一つ、可笑しなことがあった。


「………なんで、本体には通用しなかった(・・・・・・・)のに、触手には通用した(・・・・)?」

「ッ……た、確かに、」


 言葉の通り、先ほどの弾丸は触手を弾き飛ばした。

 既に合成魔獣キメラの体に引っ込んだのか、傷ついた触手は確認できないが、ローガンディアの頬に飛び散った血液が、その証拠。

 ………ばっちぃから、早めに拭いた方が良いよ?


 だが、今さらではあるが、先ほどまでの攻撃は一切通用していなかったのだ。

 ローガンディアの瞬風のように駆け抜けた助走まで加えた渾身の突きだって、オレが眼を狙って撃ち放った音速の銃弾だって、奴には通らなかった。

 まるで、見えない壁(・・・・・)でもあったかのように・・・・・・・・・・・、拒まれ、弾かれた。


 しかし、本体では無く、本体から離れた触手には通用した。

 ………違いは、何だろうか。


 今もまだ、合成魔獣キメラは、腕であろう触手を引っ込めて、オレ達を警戒するかのように睨み付けている。

 眼は見えていない筈だが、その実臭いで獲物の場所を特定しているのは、判明していた。

 おそらく、今はオレの硝煙の香りか、最悪ローガンディアに付いた自分の血の臭いで判別しているのかもしれない。


 そう思っていた矢先だった。


「………ヤバいッ!耳をふさげ!」

「い、いきなり、何だ!?」


 先程まで警戒していただろう合成魔獣キメラがあろうことか、本体を膨らませるかのように大きく仰け反った。

 このモーションは、覚えがある。

 あの、耳を可笑しくされる奇声が来る。


 オレは片耳しか塞げないが、仕方ないだろう。

 左は捨てた。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 思った通りの、キメラの絶叫である。


 しかも、今度は洞窟内。

 開けた浅瀬で聞くのとは訳が違う。


 わんわんと鐘の中に頭を突っ込んで聞いたかのような音に、途端に視界がブレた。


「うあ…ッ」


 思わず、膝を付いた。


 左の鼓膜は、文字通り破れただろう。

 ばちん、と耳奥から聞こえたと思えば、だらだらと耳を伝って何かが流れてくるのも感じた。


 三半規管にまでダメージが入ったのか、眩暈も起こしている。

 ………あの時の涙目になっていた間宮の気持ちも分かった。


 これは、かなりダメージになった筈だ。


「……ぐぅ…ッ!!」


 間一髪間に合っただろう、彼女もまた膝を付いていた。

 耳を塞いだところで、ダメージを軽減できるだけだ。


 五月蝿い上にこの上なく不快な合成魔獣キメラの絶叫は、黒板を引っ掻く音にも酷似している気がした。


 嫌悪と共に、背筋には言いようの無い怖気が走る。


 この状況は、良くない。

 このままでは、ジリ貧で、逃げることすらも困難になるだろう。


 しかも、今回ばかりは本体に物理攻撃が通らなかったのが痛い。


 これでは、頭を引っぺがして魔水晶を露出させる事すら出来ないだろう。


「うッ…くそ!…立てるか、ローガンディア!」

「………な、なんとかな。………そう何度も聞けた声ではない」


 それは、同感だ。

 次があるなら、確実にオレが立てなくなるだろう。


 圧倒的な眩暈とふらつく脚は、たとえ叱咤したとしても、回復の見込みは無いだろう。


 しかも、合成魔獣キメラは、オレ達を休ませる気も無いのか、次の行動に移ろうとしている。

 触手を伸ばしてくるつもりだろう。

 うねうねと動いた腕が、その証拠。


 回避出来なければ、あっという間に口の中だ。

 あのおぞましい乱杭歯が健在な奴の口に放り込まれただけで、末路は簡単に想像出来る。


 犠牲になったマイケルや名前も知らない騎士達の二の舞になるだろう。


 だが、むざむざ食われてやるつもりは無い。


 先ほどキメラの絶叫によって遮られた思考を再度持ち出して見る。


 槍も銃弾も本体には通らなかったが、しかし触手に対しては有効だった。

 洞窟の地面に落ちている触手は、そのままぶすぶすと焦げ付いて溶け出している。


 本体には効かず、触手や生えた人間の腕には通用した。

 最初の一体の時と、状況は違えど似ている。


 小賢しいとは思うが、ちょっとした実験をしてみよう。


「物理攻撃が効かないなら魔法攻撃だ。頼めるか、ローガン」

合成魔獣キメラには魔法攻撃が効かないのでは無かったのか?

 『魔法無力化付加魔法マジックキャンセラー・エンチャント』を使っていたと言っていたのはお前だろう!」

「柔軟に考えようぜ?…1体目がそうだったとしても、2体目がそうとは限らない」


 考え付いたのは、魔法の使用だ。


 浅瀬で対峙した1体目には、本体には魔法が通らなかった。

 だが、頭に生えていた腕や触手には通用していた。


 今回は、物理が弾かれていたが、あの時と同じく触手には通用した。


 一か八かだ。

 ロープレのテンプレとやらでも、物理に強いモンスターは魔法に弱いとか聞いた覚えがある。

 勿論、浅沼からの情報ではあるが。


 今は、そんなうろ覚えの知識しか、頼れるものが無い。


「『業火』!!」


 訝しげながらも、ローガンディアは速やかに魔法を使用してくれた。

 掌から溢れ出した、円形の灼熱の炎。


 オレが魔法を使えないのは、既に教えてある。

 悲しいかな、彼女に任せてしまう形になってしまい申し訳無い。


 ………あれ?

 オレ、役立たず?


 話が逸れた。

 そんなオレの心情は横に投げ捨てて置く。


 彼女は、投げるように灼熱の炎を撃ち放った。

 オレの知っている『炎の矢(フレイム・アロー)』よりも、格段に大きな炎だ。

 尾を引くように火球が向かった先で、キメラの顔が歪んだ気がする。


 着弾の瞬間、パチンと何かが破裂するような音が聞こえた気がした。


 ボンッ!!と燃え上がる炎。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!」


 悲鳴を上げたキメラ。

 しかし、今回は洞窟内に反響はしなかった。


 奴は、寸でのところで回避行動を取っていたようだ。

 蜘蛛のような脚を使ってバックステップ。

 ローガンディアとは似ても似つかないほど気持ち悪い動きをしている。


 だが、おかげで、奴の不快な悲鳴が、洞窟内に響く事は無かった。

 ………まぁ、悲鳴だけでも十分不快なんだが。


「効いた…ッ!」

「………驚いた。効いているようだ………って、なんでお前が驚いた?」

「い、いやぁ………、駄目で元々だったから…」

「………ッ、お前…!」


 てへ、バレた?


 駄目で元々、半信半疑だったの。

 ちょっと、あざとさを出して可愛く言ったつもりだったが、またしてもローガンディアには怒られた。

 今度は胸倉を掴まれ、呆れた目線はそのままで吊り上げられた。 


 うわぁい、凄い腕力。

 ただ、首が絞まってるから、痛い痛い痛い。


 ただ、じゃれ合いはここまでにしておこう。


「どうどう、ローガンディア」

「………今は、こんな事をしている場合じゃなかったな」


 じゃれ合っている場合では無いとローガンディアも気付いたのか、オレの首は折れることは無かった。


 魔法は効いたのだ。

 このまま、押し込もう。


「………アイツ、物理攻撃を弾いているみたいだったし、1体目とは属性が逆って事だろ?

 物理が駄目なら魔法で勝負だ」

「………ぶっつけ本番とは、肝が据わっているな」

「それは、褒め言葉。じゃんじゃん、頼む」


 この2体目の合成魔獣キメラを討伐する為の糸口は見付かった。


 1体目とは属性が反転して、『物理無効化付加魔法アタックキャンセラー・エンチャント』とは驚いたが。

 略してAKEで良いだろうか。

 そんな名前の地域アイドルがいたような気がしたが、48体もいるとは考えたくない。


 ………少し脱線するけど、浅沼の知識も馬鹿には出来なかったなぁ。

 異世界言語もたまには聞いておくべきだ。

 

 何はともあれ。


 ここから先は、小手先の技術では無く、ごり押しで勝負である。

 1体目の合成魔獣キメラにキャリバー50を持ち出した時となんら変わり無いとは気付いたけども、それはそれ、これはこれ。

 たまには、文明の利器では無く、異世界常識ファンタジー万歳。


 と、オレが口端を上げた瞬間であった。 


「…………え?」

「…………えっ?」


 オレの数秒前に発した言葉に、ローガンディアが振り返る。

 その顔には、ただただ驚愕が浮かんでいた。


 斯く言うオレも、吃驚してしまった。

 ………何か、おかしい事を言っただろうか?


 こてり、と首を傾げる。

 彼女はこんな時にも、頬を赤く染めて恥らっていた。


 ………いや、今ここでそんな表情をされても。


 しかし、


「………た、足りないんだ…」


 そんなローガンディアから返ってきた返答は、要領を得ないものであった。


「は…ッ?……えっ?……っと、何が?」


 足りないとは、何の事だろう?

 火力が足りないのは、オレが魔法を使えないことで役立たずである事は、十分に承知しているのだが……。

 ………つい、認めちゃったよ。


 そう思って、彼女を呆然と見る。

 しかし、オレに呆然と見られた彼女のこめかみには、急速に滑り落ちていく汗が滲んでいた。


 そこで、ふと、思い至る。


 今、彼女が流している汗は、運動をした後の爽快な汗でも、痛みに悶絶した時の脂汗でもないだろう。


 あれは知っている。

 冷や汗だ。

 よく、オレに叱咤されたゲイルが、流しているいつもの冷や汗だ。


「…だから、………魔力が足りない…」

「…………はい?」


 魔力が足りない。


 まりょくがたりない。


 MARYOKUGATARIAI.


 たった、7文字。

 その言葉の意味が、よく分からなかった。


 パードゥン?


 言葉の意味を、ゆっくりと噛み締める。

 理解を要するのに、三秒は掛かった。


 ………そんな、まさか!


「う、ううう、うそだろ…!?」

「あ、女蛮勇族アマゾネスは、戦闘民族だ!

 魔力は持っていても、圧倒的に少ないのだ………ッ!」

「な、なにそれ!!何それ!?そこまで聞いてない!!」

「い、いい言いたくなかったのだ!人間の癖に、そこまで魔力総量を持っているお前の前では特に…ッ!」


 そんな殺生なこと言われても!

 オレの所為にしないで、頼むから!


 しかし、先ほどはたっぷり3秒を要した彼女の言葉の意味は、やっと理解出来た。

 ………ただし、納得が出来るかと言えばそうではない。


 自分が魔法を使えないことを棚に放り投げて、オレは叫んでしまった。

 無様とか彼女に対して失礼だとか、考えている暇すらなかった。


 魔力が足りない。


 オレも先入観から、気付いていなかったが、魔族ってそういう種族もあるんだ。

 魔族は魔族でも種族には、色々あるって知ってたし、彼女から教わっていた筈なのにな。


 無尽蔵に魔力を持っているから、魔族って認識は間違っていたようだ。


 ………浅沼ぁ………。

 お前の知識は、役に立つのか立たないのかどっちなんだ!?

 ゲイルの知識も中途半端で、オレは本家魔族かのじょを前にして恥を掻きまくっているんだが!?


 ただ、現実逃避はここまでだ。


 ………前言撤回。

 ごり押しは無理だったようだ。


 今ので、彼女の魔法も打ち切り。


 ここにいるのは、物理特化の火力不足の男女だけ。

 文字通りの意味で。


 お互いに、言葉を失って、そのまま絶句。

 放心状態とも言える。

 いっそ、呆気に取られた顔をしているだろうオレ達は、見つめ合って数秒。


 ほぼ同時に、ぎぎぎ、と油を差し忘れたブリキのように合成魔獣キメラへと顔を向けた。


 奴は、追撃を警戒していたようだ。

 洞窟から数メートル程を、焼け焦げた本体を触手で隠すようにしながらも、オレ達の様子を見守っていた。


 だが、しかし。


 その赤い眼が、にんまりと弧を描いたような気がした。

 オレ達の会話の内容を分かっていたようにも思える。


 ここにきて何度目かも分からない、しかも最大の命の危機である。


 1体目はなんとか、討伐出来た。

 内部から破壊出来たのは、運が良かっただけだ。


 2度目はなんとか、彼女に助けられた。

 拾われなければ、魔物にでも食われていただろう。


 3度目もなんとか、彼女に命を救われた。

 たとえ、彼女が引き起こしてしまったアクシデントだったとしても。

 彼女が『ボミット病』に効く薬を持っていた事がそもそも奇跡だったのだ。


 だが、4回目はもう無いだろう。

 おそらく、生きて帰れる可能性は万に一つも無いと思われる。


 ………詰んだ。

 それこそ、文字通りの意味で。



***



 時は、少しだけ遡る。


 銀次とローガンディアが二体目の合成魔獣キメラに補足されるほんの数分前の事。


 討伐隊から抜粋された捜索部隊。

 彼等は樹海ともつかない様相をした森の中を、重い足取りで進んでいた。


 既に、3日目となった銀次の捜索。

 オリビアはまだ銀次の魔力を感知しており、彼の安否は分からないまでも生存は分かっていた。

 彼の魔力を頼りに彼女を先導に進んでいた捜索隊だったが、さすがに合成魔獣キメラとの戦闘後である。

 疲労は凄まじい。


 ゲイルですら、何度かよろけてしまっていたものだ。

 彼は体中に打撲を抱えても、弱音一つ吐くことはしなかった。


 間宮も体力面で心許なかった。

 いくら身体能力が高いとは言え、スタミナはまだまだ15歳程度。


 他の騎士達など、言わずもがな。

 肉体労働を主としない魔術師部隊に関しては、ほとんどが這う這うの体である。


 唯一、オリビアがふよふよと元気に浮いている。

 だが、彼女も疲弊していない訳では無い。

 銀次の魔力を吸収し続けた彼女。


 それでも、この魔力を感知している状況では常に魔力を消費しているようで、今は13・14ぐらいの体型に戻りつつあった。

 段々と、焦ってきているのも分かる。


「皆さん、頑張ってくださいまし。もう少しです」

「皆、奮起せよ!ギンジを探し出す事さえ出来れば、苦難も終わる!」


 オリビアが応援をする。

 それだけで、騎士達の目には生気が戻る。

 ゲイルの激励が飛ぶ。

 倒れかけていた魔術師部隊も、なんとか身体を前に進めていた。


 ふと、その時であった。


「………あら?」


 言葉の通り、あら?と呟いて、首を傾げた彼女。

 目標にしていた位置を睥睨するようにして、呆然と立ち竦む。


 彼女は浮いていたが、立ち竦んだような格好だったのは、背後を歩いていた間宮の談だ。


 感知を続けていた銀次の魔力に、何かしら異変が起こったらしい。


「放出される魔力が収まってしまいました。

 ………『ボミット病』を発症したのか、あるいは何かで抑えられてしまったのか…」

「ギンジに、命の危険が迫っているという事でしょうか?」

「(………魔法具が、壊れてしまった可能性はあります)」


 三人の表情に焦燥が浮かぶ。


 感情の起伏が分かりづらい間宮ですら、顔を真っ青に染め上げた。


 間宮は腰に下げていたポーチに手を当てる。

 そこには、銀次から預けられていた魔法具が入っている。


 思い出すのは、彼が合成魔獣キメラに連れ去られた瞬間の出来事。


 合成魔獣キメラの触手によって、腕や身体を雁字搦めにされ、口に咥えられたまま移動していた彼。


 ぼきり、とどこかの骨が折れた音が聞こえたのは、気のせいでは無かった筈だ。

 奇想天外な合成魔獣キメラの移動に付き合わされ、無防備な顔や頭を崖や岸壁に打ちつけられているのも遠目とは言え、見えてしまっていた。

 あれだけの無理な移動を強いられて、銀次も魔法具も無事とは思えない。


 ぞっと背筋に悪寒が走る。

 この森の中で、『ボミット病』を発症したかもしれない。

 あの病気は、そのまま死に直結する。


 なおかつ、彼が無事では無い状況。

 いつ、命の灯火が消えてしまうかも分からない。


 無力さが、いっそ悔しい。

 不甲斐なさに、唇を噛んだ。


 今まで守ってもらった。

 色々な事から、守られてきたのだ。


 彼は、裏社会の教育を受けたエージェントのひよっ子だった。

 それを、1度目は知らないところで、敵の手に落ちた彼の身を犠牲に助けられた。


 2度目は、この世界にやって来て、彼が拷問を受けた時。

 この時もまた、彼の身を犠牲にして、自身達が助けられていた。


 3度目はあってはいけない。

 あってはならないと、そう思っていた。


 だからこそ、彼は決断する。

 それが、唇を噛み締めて血の滲むような、断腸の思いであっても。


「(オリビアさん、先行してください…)」


 きつく握り締めた掌から、血が滴った。


 それが、最善の策だった。

 足手まといを率いるよりも、彼女だけでも銀次の元に行って欲しかった。


「し、しかし、………マミヤ様方を置いていけませんわ。

 ここに飛べたのは、ギンジ様の魔石があったからです。もし、一度離れてしまえば………、」


 オリビアが離れてしまえば、この捜索隊も遭難する可能性は高い。

 なによりも、今までオリビアを先導に歩いてきたこともあって、帰り道を分かっている騎士達もごくわずかだろう。

 ゲイルにも間宮にも、流石に道順を覚えているかと言われれば怪しいものだ。


「(一度、ここでビバークします。

 狼煙で場所を知らせますので、一刻も早くあなたは銀次様の元に向かって下さい)」


 それでも、間宮には、そうして貰うしか方法は無かった。

 オリビアが先に銀次の元へ赴けば、少なくとも銀次の命は助かるかもしれない。


 自分達の生命は二の次だ。

 その後、回復次第、オリビアと共に銀次が帰ってくる事が出来るなら、それで良い。

 もし仮に、銀次の怪我や病床が酷いようであれば、先に銀次を森から抜けさせ、本隊に合流させるでも良い。


 狼煙を上げれば、少なくとも本隊にも居場所は特定出来るだろう。


「………っ、皆さんも疲弊されていますのに、そんな捨て置くような事を…ッ」


 だが、彼女も銀次の安否は不安ではあるが、それ以上に見捨てるという行為は出来そうに無かった。


 目の前にいる捜索隊の面々は、既に疲労困憊。

 ゲイルに至っては、戦闘の怪我や疲労もあって、満身創痍である。


 間宮は、怪我らしい怪我はしていないが、15歳程度の小さな体で、武器を抱えてこの山道を登っている。

 既に、疲労もピークに達しているだろう。


 ここで、彼等を見捨てて、自分だけ銀次の元に駆け付けて良いものか、判断に迷ってしまう。

 彼女とて、今すぐにでも銀次の元へ駆け付けたい。


 しかし、ここにいる満身創痍の捜索隊の面々を捨て置いて、もし万が一にも最悪な事態が起こったら?

 自身の所為で、そのようなことになってしまったと、銀次が知ってしまった時。

 彼は、自分だけ助かった事を、どう思うだろうか。


 そう考えると、動けそうもない。

 二律相反の板ばさみのような現状。 


 だが、


ーーーーーー………ドン!


 オリビアの煮詰まりかけた思考は、それ以上続かなかった。


 爆音が響いた。

 今まで、捜索隊の重苦しい沈黙と、息遣いしか聞こえなかった森の中に、不釣合いな爆音が木霊したのだ。


「………今のは、……ッ!?」

「…なんの音ですの………?」

「(………ッ!!)」


 ゲイルが、耳をそばだてる。

 オリビアが音の根源を振り返った。

 間宮は、伏せていた顔を上げるが、彼だけはその聞き覚えのある音に、表情にはいっそ歓喜すら浮かんでいた。


 森に響き渡った爆音。

 否。

 それは、銃声であった。


 そして、その音は思った以上に近く、彼等の視線の先から響いていた。


「近い…ッ!」

「行きましょう!」

「(方向は分かりました…!)」


 全員が一斉に、音がした方向へと脚を向けた。


 山の豊かな水流を横目に、木々を避け、あるいは潜る。

 藪を掻き分け、あるいは切り払い、一目散に走った。


 焦げ臭い臭いがする。

 魚の脂が焦げた臭いだ。


 その間にも、二発目の銃声が轟いた。


 そして、その後に銃声の余韻を掻き消すように響いたのは、


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 合成魔獣キメラの絶叫。


 唐突に木々が開けた。

 苔生した岩場に、躍り出る。


 目先の先には、洞窟があった。

 それと同時に、洞窟の目前に合成魔獣キメラの姿も確認した。


 ゆさゆさと巨体を揺らし、合成魔獣キメラはゆっくりと洞窟の中へと進もうとしていた。

 

 先ほどと同じ固体のようにも見えて、別の固体。

 蛇のような鱗が浮き上がり、魔物の足すらも生やした更に奇怪な姿をした合成魔獣キメラ


 討伐対象が、もう1体いた。


 それを知って騒然となりつつも、彼等は銀次をこの森の中から探り当てる事に成功した。


 まだ、彼は抗っていた。

 間宮を初めとしたゲイルやオリビア、そして捜索隊の面々が、心から安堵した瞬間であった。



*** 

実はもう一体。

戦闘開始。


戦闘開始のゴングの前に、ロマンスをログインさせました。

そして、ありがちな鉄板ネタを突っ込む。

アマゾネスはどちらかというと、人間寄りの魔族という認識で書いております。


この話はフィクションですので、信用はしないように御注意くださいませ。



ピックアップデータ。

イーサン・メイディエラ。

28歳。

身長177センチ、体重58キロ。

『聖王教会』司祭にして、『神託』の神官。

青み掛かった黒髪に、碧眼。

女神を崇める『聖王教会』の最高位、司祭を若くして担当している青年。

幼少の頃に、聖域で『神託』を受けた頃から、女神の存在を気配だけで感じ取っていた。

魔法を扱える才能もあり、『聖属性』では国でもトップクラス。

『二文節』、『三文節』とある魔法の『文節』を最高『五文節』までを扱える、ある意味での天才。

ただし、突発的な事には弱い。

白目を剥いて気絶しちゃうぐらいには、弱い。

銀次が来てからは、結構な頻度で女神様達からの『神託』を受けている。

内容は端的なので、微妙に役に立ったり立たなかったり。

幼女趣味では無いが、何故か女神様方に操を立てているらしい。

幼女趣味では無いが、オリビアの事を盲目的に寵愛している。

最近では、銀次が『ボミット病』を発症した一件もあって、思うところがあったらしく女神様方の知恵や力を借りながらも、特効薬の捜索に尽力している。

銀次が連れて来たミアという『ボミット病』の少女も、今では彼の弟子的な存在。

幼女趣味ではないけど、ミアの事も可愛いと思って真心込めて育てている。

そのうち、嫁とか言い出すかもしれない。

そんな28歳、独身の司祭様。



という訳で、ピックアップデータ14回目。

彼も、いつの間にかキャラが濃い事になっていた。

当初の予定では、ジェイコブとは逆にもっと出番が多かった筈なのですが…。

ジェイコブが出張って、彼の出番が少なくなってしまったようです。

仕方ないです。

役に立ったり立たなかったりの28歳ですから。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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