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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、討伐参戦編
31/179

26時間目 「討伐隊~指揮官代理就任、前途多難~」

2015年9月25日初投稿。


更新遅れまして申し訳ありませんでした。

作者は復活致しました。

コメントくださった皆様、ありがとうございます。

御心配をお掛けしましたm(_ _)m


前回の続きで、先に討伐隊に出たアサシン・ティーチャーの話と先生が討伐隊に参加してからの生徒達。

前回の話でフリはしておいたので、話が中途半端に飛びますけど大丈夫です、よね?


討伐隊と名前が付いた授業ではなく、本格的な作戦敢行でございます。


26話目です。


(改稿しました)

***



 この人数でどれだけの規模になるんだか。


 見渡した騒然たる騎士の行軍に、場違いな雰囲気を感じ取って憂鬱な気分を味わいながらも、紛れて進む事早1週間。


 荘厳たる甲冑を纏い、騎馬すらも武装した騎馬隊が200。

 これまた武装した騎馬に引かれた装甲馬車が30台。

 中には、これまた完全武装の騎士達が、だいたい20名から30名程詰めて乗っている。

 その更に後方を歩く徒歩騎兵が800。

 荷物搬入の馬車が20台。

 その中には、輸送部隊の比較的軽装な騎士達や、フードを被った魔術師部隊がこれまた20名からから30名程。

 そして、それを更に後方から挟み込むようにして、完全武装の騎馬が300、と。


 合わせて3000人程(装甲馬車と荷物搬入馬車にも人が乗ってるからね)だというから、おそらくは旅団規模となるのだろうけど、規模がでか過ぎて、言える事が無い。

 この世界の基準だと小さいのかもしれないけど、中世ヨーロッパがどの程度の軍隊だったかは覚えていないから比較が出来ない。

 もうちょっと世界史を齧っておくんだった、と言っても現世の中世ヨーロッパとこっちの異世界を比較しちゃいけないだろうけど。

 

 オレは後列の騎馬行軍で、ゲイルの近くに何故かセッティングされてゆらゆらと、のんびり馬に揺られている。

 オレの後ろには間宮もいて、勿論馬に揺られている。


 ゲイル曰くオレは『予言の騎士』だし、士気を高めるのが目的だから必然的に扱いがVIPになるらしい。

 じゃあ、オレも馬車に乗せてよ。とは思ったけど、口には出さない。

 オレは慎ましいからな。

 ただ、痛むケツに苛まれて自分の慎ましさは苦々しく思えてきたけど。


 今回の討伐遠征の期間は、片道移動に1週間と、作戦行動はだいたい2週間程、ついでに片道移動が追加で1週間だと聞いているので、合わせて1ヶ月ほどだろうか。

 ただ、先遣隊の報告によると、目撃情報というか襲撃箇所がやっぱりどんどんと北に向かっているそうなので、行軍も当初の予定よりも更に北進するべく、移動距離が伸びている。


 この時代のぶっ飛び具合からしてみても、やっぱりお馬さんでも流石に苦行なんだろうな。

 途中で、どっかの隊列で馬が過呼吸起こして、騎馬騎兵から徒歩騎兵が900に増えた筈。

 想定の内だったのか、隊長格や貴族家の騎士達は予備に連れて来ている馬がいるからまだ良いが。


 なんとなく、こういう感じなんだふーん。とか、家格でも待遇が決まるんだふーん。とか、ゲイルをチクチク弄っておいたけど、だからって、色んな意味で慎ましいからオレも歩くとはならない。


 いや、不謹慎とは思ってもそろそろ馬の上が飽きて来たから上の空。

 夕暮れ間近だから、早めにキャンプ決めた方が良いと思うけど?と、意識を引き戻す為に、隣で馬上に揺られるゲイルへと小首を傾げる。

 ………何故か、噴き出されたけど。

 しかも、顔が赤くなっているのはなぜなのか、今すぐきっちり吐けや、コノヤロウ。


「………お前のその一連の動きは、女にしか見えん」

「テメェ、魔物の討伐の前に、テメェを変態として殲滅すんぞ」

「やめてくれ、そんな不名誉な死に方」


 結局、いつものやり取りのような形になって、揃いも揃って騎士団の連中から噴き出されたけどね。

 ………間宮まで隠れて笑ってんだけど、後で夜の訓練の時にぼこぼこにして良いのかな?

 にこりと笑ったら、彼が震え上がっていた。


 さて、そんな事よりも、


「………時間も気にせずこのまま進み続けて良いのか?って事。

 普通の魔物も出たりするんじゃないのか?」

「…夜になると危険度は増すな。

 ただ、先遣隊が片付けてくれている分もあるだろうし、そこまで危険は無さそうだが…」

「(血の匂いが、微かに漂っていますからね…)」


 うん、そうだね、間宮。


 ってか、お前の鼻は犬並みだな。

 ………微か過ぎてオレには分からんけども?

 

 ちなみに、ゲイルが言っていた先遣部隊というのは、斥候の役割もあって、なおかつ本体の合流までの間に魔物の片付けもしなくちゃいけないようだ。


「ただ、夜行性の魔物は眼が強いからか、火を焚いているか聖属性の光を放っていると近寄ってこないものが多い」

「行軍の間、ずっと魔力を放出させ続けるのか?

 それで、討伐作戦に参加できませんってなっても本末転倒だろ?」

「………いや、その為の魔術部隊が装甲馬車にいるのだが、」

「………夜中も行軍続けるつもり満々なのかよ」


 一瞬だけだけど、不安を覚えたのは気のせいでもなんでもないだろう。


 ………駄目だ、コイツ。

 安全確認の方には眼も向けない。

 夜になって火を焚いて照明付けとけば、虫ぐらいしか集まらないだろう?って、馬鹿かお前。


「地理も立派に武器なんじゃないのか?

 これで、疲弊しているところに一網打尽にされて、結局討伐できませんでしたじゃ、眼もあてられないだろうが…」

「………む。………それもそうか」


 おいおい、ここまで言って、やっと気付いたのかよ。

 少々どころでは無く、不安を覚えてしまったのは、(以下省略)


 オレの友人兼下僕であるゲイルという男は、普段無表情の癖に自棄に熱血漢だから、ちょっと扱いに色々と困ってしまう。

 しかも、部下も巻き添えどころか、同じ部類が集まっているしな。


 この間の『夜のドッキリホラー☆校舎散策!皆集まれ!てへぺろ☆(※要訳・夜の校舎潜入収集)』にも参加していた少数精鋭組も一緒にいるのだが、ゲイルの言葉に一言も物申そうともしていないし。

 ………コイツ等もゲイルと同じ部類かよ、面倒くさい。


 マニエルとか言う奴が一番冷めてそうだから、煽ってみるか?


「マシューです」

「わざとに決まってんだろ?」


 わざわざ心の中での名前の誤変換を訂正するな、お前はエスパーか?

 ………まぁ、わざと言ったとは大法螺もいい所で、単に間違えて記憶していただけだけど。


 まぁ、閑話休題それはともかくとしておいて、


「それに、魔物意外が討伐対象じゃ無い訳も無いだろう?…悪意ある人間だっているだろうし、」


 オレが気になるのは、そっちだけじゃないの。

 ここ1週間、移動の最中には、気付いているのかいないのか、森や山間からの視線が多く突き刺さっていた。

 おそらく、この世界にもいるのだろう、夜盗や山賊の類だと思われる。


「………気付けるお前も大概だが、あまり警戒しすぎると、それこそ討伐前に体に変調を来たすぞ?」

「お前が無警戒にずんどこ進んでるから、オレが警戒してるんんじゃないのか?」

「む?そうなのか?」


 ………ああ、コイツ、殴りたい。

 スクリュー回転加えた拳で殴り付けて、そのまま放置しておきたい。


 閑話休題。


 オレが友人兼下僕にチラッと感じた殺意には蓋をしておこう。

 その蓋を開くのは、王国に戻ってからだ。


「どうすんの?先遣隊と合流するまで粘るのか、それとも向こうから合流を待つのか?」


 一応、確認を一つ。

 これ、確認しておかないと、なんとなくこのままなぁなぁで移動しちゃいそうだったから。


「ふむ。………先遣隊の報告待ちで、状況が分からん事にはなんとも言えんが、そろそろ『白竜国』との国境付近だ。

 下手に近づき過ぎて、宣戦布告と取られても災難だからな………」

「『白竜国』に宣戦布告したら、そのバックにいる『竜王諸国ドラゴニス』も敵に回るんだっけ?」

「そういう事だな。

 どの道、厄介な事になり兼ねないから、そろそろ天幕を張って討伐に備えたいところだ」


 一つ、したり顔で大きく頷いたゲイルだったが、その表情を見てもオレは不安しか感じない。


 ………だったら、お前がとっとと指示を出せ、と思う。

 騎士団長なのに、指揮をお前が取ってないのはどうしてなの?

 この移動に費やした1週間余りでお前が陣頭指揮を執ってたのって、全部天幕張られてからだけなんだけど?


 いや、そういう指揮系統も少なからず存在はするから良いけども。

 なんで、装備やら時代背景は中世ヨーロッパ並みなのに、指揮系統だけ先進的なのかな?


 なんか変な意味で、色々と心配事が増えて来た。


 ただでさえ、残して来た生徒達の事で気を揉んでいるんだ。

 せめて、こっちの心配事を増やして欲しくないんだけど。

 主に危険度と、身の安全について。


 この行軍、本当に大丈夫なんだよね?オレ達、士気向上の為に担ぎ出されただけだよね?と、更に不安は募るばかり。

 いや本気で、嫌な予感しか感じないんだけど、どうしてくれようか。


 大仰な溜息を隠しもせずに、間宮へと視線を向ける。

 すると、真っ青な顔でこてり、と小首を傾げられただけだった。


 ………馬酔いしている時点で、コイツにも不安しか感じないだけど………。



***



 はてさて、そんなこんなでやっとこさ1週間を掛けた行軍は終了した。

 オレがゲイルをパシって平地に天幕を張らせた事で、やっとこさ腰を落ち着けて討伐作戦に乗り出す事が出来るようになったと言う形。

 1週間もの間、寝ている時以外は馬に乗り続けていた所為か、尻と内腿が痛い。

 間宮に至っては馬酔いもしていたのか、天幕で一旦小休憩を取るに至っていた。


 天幕を張った立地は、川からの水源が確保出来るが、周りを森に覆われた平地だった。

 あと、2時間も徒歩で進めば国境付近だという場所で、森を抜けてしまえば完全に『白竜国』側の国境警備から、討伐隊本隊が丸見えとなってしまう位置だ。


 流石に、これ以上進むのは無理だったし、戻るのも気が引けたので、オレとしても苦肉の策だった。


 下は砂地で、森に両端を囲まれた状況。

 そろそろとは言ったけど、立地も考えない陣張りってどうかと思う。


 入り口出口が森の入り口と同義で、逃げ道も一直線に近いんだが、森からの襲撃で挟まれたらどうするのか?とも、思ってしまう。


 早くもここで、嫌な予感である。


 しかしながら、悲しい事に嫌な予感というものは、昔から良く当たるものだった。

 オレも間宮も本能的な察知能力が強いのか、その異変にはすぐに気付いた。

 森の中から、魔物やそれに準じた生き物の気配はしても、人間の気配が全く感じられなかったのである。


 しかも、先遣隊が先にこの道を通っている筈なのに、その痕跡が川を隔ててからは見当たらなくなってしまった。

 魔物達を討伐した様子も無かったことから、陣を構えた直後から、何度か魔物の襲撃を受けている。


 ………だから、こんな場所に陣を張るのは反対だったんだ。

 もうちょっと、強く言っておけば良かったと激しく後悔したが、今となっては後の祭りである。


 陣を張ってしまったからには仕方ないので、早馬でもなんでも飛ばして、痕跡が無く嫌な予感はしていても、先にまた陣張りをしているだろう先遣部隊を呼び戻させる。

 ………あれ?おかしいな。

 なんで、ゲイルがするべき指示をオレがしているの?


「お前の方が的確だろう?」

「ねぇ、オレ教師。騎士団長はお前。お分かり?」


 2度目の嫌な予感である。


 オレ、この行軍に連れ出されたのって士気向上の為だったよね?

 まさかとは思うけど、ゲイルを差し置いて騎士団長代理としてここに来た訳じゃないよな?という、この嫌な予感。


 実は、大当たりだったりなんだり。


 ゲイルは討伐隊は討伐隊でも、攻撃を主軸とした本隊を率いなければならず、更に言えば、彼はどちらかと言うと指揮官としてではなく、特攻部隊の中枢として動く事になると聞いた。

 それを聞いたのは、実は今さっきだったのである。

 ………そんな話、最初の段階では一言も聞いてねぇぞ、コラ?

 この時点で、1度目のアイアンクローである。


 そんなゲイルへの頭蓋骨へのオイタは置いといて。


 最終的に確認できたのは、とどのつまり討伐中は必ず指揮官がいなくなるという事だった。


 まぁ、一応の指揮官代理は居たみたいなんだけど、なんでも机上の空論は得意な老獪な参謀様だと。

 おかげで、オレはVIPにも関わらず、ゲイルによって勝手に指揮官代理に就任させられていた。


 ああ、なるほど。

 オレが来ると分かってからコイツが有頂天だったのは、こういう指示系統を任せられる人材オレが確保できた事もあったのか。

 今さらながらに納得出来た、最近のコイツのご機嫌具合にイラッと来た。


 ………2度目のアイアンクローは、意識が落ちる寸前まで見舞ってやった。


 これで、心置きなく進撃出来る訳だ、コイツは。

 ゲイルが言っていた『シキ』は『士気モラル』ではなく『指揮コマンド』だった訳だ、チクショウ。


 ふざけんなよ。

 そして、3度目のオイタである。


「ぎ、ギンジ…。締まってる…。ちょっと締まっちゃいけないところが、締まってる………ッ」

「嘘吐き野郎を〆てんだから当たり前だろうが」

「…なるほどッ………」


 強制的にチョークスリーパー(脚で)掛けて、コイツのしまっちゃいけないところ=首を絞め、意識を落としに掛かってやった。

 ………なるほど、とか感心してる場合じゃねぇよ?


 オレが、ここに来たのは、確かに『予言の騎士』としてだけど、本業はまだ『騎士』ではなく、あくまで『教師』なのだ。

 この世界の人間は総じて、オレを『予言の騎士』としてしか見ていなかったが、そろそろコイツぐらいは理解してほしいものである。


 おかげで、天幕に待機していた騎士連中には変な目で見られるし、オレが『指揮官コマンダー』として取って代わる事になってしまった参謀の爺さんに至っては、生温い視線を向けられているんだが?

 ………十中八九、このじゃれ合い(折檻だ)が原因だとは分かっているけどね?



***



 不本意だが仕方ないと、酸欠で使い物にならなくなっているゲイルを足蹴にしつつ、オレは渋々『指揮官』に就任した。

 こんな調子のゲイルには任せられなかったし、机上の空論ぐらいしかしたことの無い老獪な参謀殿に任せる訳にも行かなかったからこその、渋々だったけど。


 だが、それだけで済めば良いものを、更に問題が発生した。


 行軍を終え、陣幕も張り終え、本腰を入れて討伐作戦を敢行するに当たって。

 後は先遣部隊と合流したり、オレ達上層部が討伐の作戦内容を話し合うだけだった。


 しかし、そのうちの一つである先遣隊との合流が、陣を張って5時間以上経っても、未だに達成できていなかったのだ。


「………先遣部隊と連絡も取れないってどういうこった?」


 急いで報告して~っ!と、通信班や早馬部隊の団長だか隊長だかも呼び寄せた。

 だが、


「も、申し訳ございません。斥候と共に放った早馬部隊も、今現在行方不明となっておりますれば…」


 返ってきた返答に、頭を抱えて座り込むしか出来なかった。


 ………嘘でしょ?マジで……。

 先遣隊どころか、早馬部隊まで行方不明ってどういう事なの、それ。


「………狼煙とか上げた?」

「す、既に!3時間前と半刻前に1度ずつ。

 ………しかし、これ以上は『白竜国』に、我等の存在を知らせてしまう為、」


 うわぁ~………。

 あまり大っぴらに出来ないってのも、厄介なことこの上無いな。


 時刻は、既に月が昇り切り、懐中時計は午後10時を指している。

 こっちの世界の人間からしてみても、現代人であるオレ達からしてみても既に夜中と大差無い。


 先遣部隊と合流できない、となると、新鮮な情報はまず間違いなく手に入れられないだろう。

 ただでさえ、情報が少ない魔物への討伐作戦なのだから、情報はどんな些細なものであっても構わないというのに。


「………あ゛~、もう、嫌な予感しかしねぇ…」

「………うむ。オレもだ」


 ………半分、お前のせいだって事は忘れないでね?



***



 3度目の嫌な予感のおかげか、冷や汗は止まるどころか増える一方だ。


 現在は、作戦会議に使用する天幕の中で、騎士団長ゲイルと、指揮官代理の爺さん、そして各隊騎士団長(要は小隊長とか大隊長)の連中が、この地域の地図を囲んで意見を交わしている状況。


 メインがやっぱりオレになりつつあるけど、もう本気で勘弁して。

 ゲイルが騎士団長としてよりも、討伐隊総隊長としてしか機能してくれてない。


 ………自分の地位を分かってるのかしら、コイツ。


「ここから2時間もすれば、敵国だったよな?」

「ああ、既に目と鼻の先が国境だ。本来ならば予定よりも近すぎるぐらいだ…」

「予定は未定、と。

 先遣部隊との合流は、ひとまず明日の朝まで待つことにしよう。

 まずは、魔物の最後の目撃情報がある場所を徹底的に当たる事になるだろうし」


 大まかな、明日の動きを確認。

 明日の朝、もう一度早馬を出し、更には先遣部隊に知らせる為の狼煙も上げる。

 まずは、情報共有と確認を事前にしっかり取った方が良いだろうし、先に魔物の捜索を開始するのは、この状況だと悪手だ。


「先遣隊が消息を絶ったとするなら、考えられる可能性は3つ。

 1つは、『白竜国』の国境警備に見つかり捕縛、拘束を受けている」

「………そうなると、厄介ですな」


 そうだね、厄介だね。

 オレの仮説に応えたのは、今は指揮官代理になってしまったオレの所為で、元指揮官代理となってしまったジョセフ・ジェンキンス氏。

 今後は、オレの補佐をして貰う事になった為、機嫌が右肩下がりのダドルアード王国第4参謀だと言う、偉いのか偉くないのか良く分からん爺さんだ。


「その場合は、そのうち『白竜国』から王国への引き渡しの連絡みたいなもんが来るだろうが、」

「宣戦布告と取られて、交渉は不利になるかと」


 そんなジョセフ参謀の言うとおり、もし先遣隊が『白竜国』の国境警備兵に拘束されているとすれば、最悪。

 いくら魔物の討伐に乗り出したとはいえ、完全武装の人間が国境付近をうろついていたら、宣戦布告と取られても仕方無い。

 交渉の仕方によっては、戦端が開かれても文句が言えない。

 いくらオレがオルフェウス陛下相手に交渉で勝ちを得たところで、『白竜国あっち』はあっちで、『竜王諸国おおもの』がバックに控えているようだから、戦争となるとやはり国力も違う。

 そもそも、生徒達とやっと落ち着いて生活出来るようになって来たのに、戦争って事になったら即座に亡命するわ。


「出来れば、あって欲しくない予想だな」

「かはは。『予言の騎士』様ともあろうお方でも、戦は怖いでしょうな?」

「うん、怖いよ?割と本気で。戦争を知っているから余計にね」

「………。」


 まともな事は言っているが、そろそろオレを陥れに掛かって皮肉の一つや二つも吐きそうだと思っていたジョセフ参謀が、案の定お粗末な皮肉をくれた。

 ので、オレは割と本気で、相手にしてやった。


 だって、今の皮肉は不謹慎すぎるもの。

 これから戦争になったら、割を食うのは国民だって一つも理解していない物言いに、思わずカチンと来た。

 戦争を知っているからこそ恐怖を知ってる、とバラしたのも、テメェも無駄に長生きしてんだからすうじゃねぇのか?と皮肉を返しただけ。

 これで、戦争を体験していないって言うなら、じゃあ不謹慎なこと言うな、で終了するし、体験した事が一度でもあるなら黙るだろう。

 ………後者だったみたいだから、呆気なく黙り込んだけど。


 だから、ゲイルも間宮も、オレへの『口撃※口喧嘩だからね』だからと言って殺気立たなくてよろしい。


 さて、それはともかくとして、


「2つ目の可能性は、『白竜国』への亡命だな」

「………亡命、というと、とどのつまりは逃げたという事になるのか?」


 まぁ、この異世界でも難民問題は結構深刻。

 ちなみに、この世界でも亡命って言葉は普通に使われていて、国家間での難民問題でのやり取りは結構、問題視されていたりする。

 ただし、以前は、ダドルアード王国から『白竜国』への移民が多かったのに対し、今現在は落ち着いたどころか、逆に『白竜国』からダドルアード王国への移民が増えて来ている。

 何故かと言えば、『石鹸』や『シガレット』、その他諸々の商品が手に入り易いって事だよね。

 地味に、オレ達貿易どころか移民問題にも影響を齎しちゃったみたい。


 ………話が逸れた。


「ただ、亡命の可能性は、有り得ないとしか思わないけど?」

「ほぅ、それはいかな理由で?」

「ここに天幕を張るまでは、一度も討伐対象以外の魔物と遭遇しなかったから」


 はたと、気付いたのはゲイルだけで、ジョセフ参謀もその他の部隊長達も呆然と、なんと間宮までもがきょとんとオレを見ていた。


 だって、天幕を張るまでオレ達、血の臭いは嗅いでいても血は見ていないのよ?

 つまりは、討伐対象の魔物は勿論、それ以外の魔物とも一度も遭遇せずに、ここまで来たって事。

 ゲイルや騎士団の連中から聞いた話の受け売りとはなるけど、今時分の異世界情勢としては魔物の大量繁殖や凶暴化が問題になりつつある。

 なのに、この1週間遭遇しなかったって事は、先遣隊が片付けてくれていたとしか考えられない。


「ここまでの道中での魔物の間引きは、出来過ぎなぐらいやっていたんだ。

 亡命を考えていた騎士達が、そこまで律儀に作戦遂行に意欲を示すとは思えない」


 そもそも、亡命をする理由が、今のダドルアード王国には見当たらないからね。

 まだ一部は除くと言っても、今のダドルアード王国の経済状況は高いし、生活水準も格段に上がっているというのは、市井で暮らしていれば良く分かる。

 これで、『白竜国』からの引き抜きがあったとかであれば話は別だけど、その場合は引き抜きを受けた騎士達が、都合良く全員先遣隊に所属とは思えない。


 と言う事で、2つ目の可能性は、自分で言っておきながら却下。


「3つ目の可能性が、先遣隊が一足先に、討伐対象の魔物と遭遇した可能性だな。

 一番高いと思えるのは、オレの気のせいで合って欲しいんだが、」

「………有り得ない話では無い」


 ゲイルが苦々しい顔をして、視線を地面へと縫い付けた。


「運悪くなのか、もしくは功を焦って先走ったのかは定かじゃないが、どちらにせよ壊滅していると考えて良いかもしれない」

「………先遣隊は、精鋭を集めたとは言え、少数部隊だ。

 幾らなんでも、特攻した馬鹿がいるとは思いたくも無いのだがな、」


 安心してよ、それはオレも一緒だから。


 ………ただ、お前の精鋭って言葉は、尽く宛てにならんのだけど。


「………面目ない」

「かははっ。騎士団長殿も、『予言の騎士』様の前でが形無しですな」


 オレに痛いところを刺されて、罰が悪くなったのか、ゲイルが途端に意気消沈。

 しかも、そんな彼の姿を見て、オレだけでなくゲイルも貶したいのだろうジョセフ参謀が、心底楽しそうに笑っていた。

 ………黙れよ、ジジイ。じゃないと、発現を挙手制にすんぞ、コラ。

 目線だけを向けておいたら、途端に黙りこんだけど。

 失敬、殺気が漏れていたのかもしれない。


 さて、そんな爺さんは、さておいて。


 先遣隊の行方不明も含めて、このままでは埒が明かない。

 今現在で、先遣隊の行方不明の要因として可能性が高いのは、やはり一つ目の『白竜国』の国境警備隊に捕まったか拘束された場合、あるいは、3つ目の討伐対象の魔物と遭遇した場合の2つ。


 ただ、今更ながらに思うのは、もし国境警備に捕まっていたとしても、その後に合流の為に送り出した早馬部隊が一緒に行方不明になるのはちょっと可笑しい。

 ………やっぱり、3つ目の可能性が一番濃厚なのかもしれんね。


 その場合は、討伐対象の魔物の新規情報が手に入れる事が出来ないばかりか、今後の行動の予測が立たないので、オレ達も奇襲を受ける危険度が高まる。


「とりあえず、どの道朝になってからだ。

 討伐だって夜中には行えないだろうし、せめて最終的な確認をしてからにしよう」


 本陣を設置したまま先遣隊の帰還を待つか、討伐の為に移動をするのかは最終的な確認をしてから判断するしかない。


「異議は無い。それに、どの道移動は必須だろうな。

 森に囲まれて視野が狭いし、夜目も効かんからな」

「………誰だ、こんな処に本陣張った奴」

「………面目ない」


 結局、ゲイルが全部悪い、と最終的な確認も忘れない。

 テメェこのヤロウ、マジで脳筋とか言ったら、テメェの頭の中を自主規制ピーーッしてから、自主規制《バキューン!》するからな。

 ………規制音だらけになって申し訳ない。


 嬉しそうに笑ったジョセフ参謀の笑い声が、自棄に嬉しそうだったので腹立たしい。

 コイツもパシりに加えようかと思ったけど、コイツは地味に部下が居るからその部下が大変な思いをするだけだと思い至って辞めた。

 ……まぁいいや、討伐作戦まで引っ込んでてもらおう。



***



 作戦会議を終えて、天幕を出た。


 冬空の下。

 この地方はそこまで冷え込まないという話だったが、夜風となれば話は別だ。

 防寒具は持って来たものの、身に染みる寒さとなっていた。


 年末は既に年越しに向かおうとしている。

 向こうの世界で言えば、今日はおそらく1年の終わりの大晦日だ。

 夜間学校特別クラス改め、異世界クラスでの初めての年越しは出来なかったな。

 帰ったら年越し蕎麦ならぬ、うどんぐらいは作ってやるか。

 一応探してみたけど蕎麦粉が見付からなかったから、割とメジャーに使われている小麦粉で作れるものだ。


 オレの背後に控えていた間宮は、別に気になる事があったようだが。


「(血の匂いが、どんどん濃くなっております…)」

「風下の可能性大だな。

 …1の可能性で、白竜国に捕縛されただけでなくその場で処刑されたか?

 もしくは、2の可能性である魔物の襲撃で全滅したかのどちらかだろうな…」


 やっぱり、間宮の鼻は犬並みだった。

 オレはそこまで濃い血臭は感じていないというのに、コイツは鳥肌を立てる程度には鼻で臭気を感じ取っているようだ。

 ………マスク着用しとくか?念の為。


「(結構です。…匂いが辿れないと、どの道不便です…)」

「………お前、前世が犬とか言わないよな…」

「?(こてり)」


 そんなオレ達の話は置いといて。


 この、討伐隊に参加してからと言うもの、嫌な予感がしていたのだ。

 とびっきり、濃厚な嫌な予感。

 それが、立て続けに三つも重なった。(うち一つは地味にどうでも良かったかもしれないけど)


「出来れば杞憂で終わって欲しいと思うのは、無理な相談なんだろうな…」

「(…心中、お察しします)」


 呟いた独り言。

 討伐隊の陣幕の慌しい空気と喧騒の中に、紛れて消えた。


 15歳の間宮にまで心配されてしまうとは、少々情けない。

 とはいえ、お前は、本当に何時代の人間なの?

 ついでに、犬なの?人間なの?それとも忍者なの?


 それはさておき。

 また、話が逸れた。


 シガレット片手に一服がてら、オレの目線は討伐隊に参加した数千人の騎士達に向いていた。


 騎士達が少々遅れている煮炊きの準備に走り、輸送部隊の連中が兵糧や武器などの荷物を搬入している。

 騎士以外にも同伴している衛生兵やら、格好からすると変質者とも思えるフード姿(魔術師部隊らしい)の連中も、忙しそうに天幕を行ったり来たりしていた。

 あそこにいる自棄に顔が華やかな騎士の部隊は、もしかして女だけで構成された部隊なのだろうか?

 ………痴女騎士イザベラが混ざっていない事を祈る。


 そんな陣幕内で走り回っている騎士達の中には、生徒達とそう変わらない年齢の騎士の姿も見受けられた。

 上司や先輩達に怒号や指揮、野次を飛ばされながら重たそうな騎士の甲冑を着こんで駆け回っている。


 どこか、5年以上前に任務の為に紛れ込んだだけの、海外の軍隊の風景に似ている気がした。


 今更ながらに、手足に震えが走る。

 今まで大して感じていなかった疲労が、どっと肩に圧し掛かったような気分だった。

 そして、遅すぎる自覚。


 ゲイルの指揮権が、先ほどオレに移った事を思い出す。

 つまり、オレの肩にはここにいる騎士達の命運まで乗っかっているという事だ。

 コイツ等の命を、オレはこれから3週間の間は責任をもって、背負わなければならないという事になる。


 迂闊な事は出来ない。

 なるべく戦闘も無く終わって欲しいと願うのは、オレがただ単にビビッているだけだろう。

 かといって、逃げるわけにも行かないし、なんにせよ、目的である正体不明の魔物の討伐はしなければならない。


 どちらにせよ、迂闊な事が出来ない現状。

 辟易として、緊張が募り、思わず掌をキツク握り締めてしまう。


「(………。)」


 オレのそんな姿を、間宮はただじっと見ているだけだった。

 仮にも弟子とはいえ、生徒の一人である彼には、出来ればオレの情けない姿を見せたくないとは思っていても、ここまでの大部隊を先導した事など無いオレには不安しかなかった。


「これだから、分不相応な肩書きは嫌いなんだ…」

「(それも、お察しします。…僕は、あなたの指示に従うまでですが、)」

「………間違えていたら、遠慮なく正してくれ」

「(貴方が間違うことなどありませんから…)」


 絶対の自信を持った、間宮の言葉。

 励ますとか、鼓舞するとかの、薄っぺらい表面だけの言葉よりもよっぽど効く。

 不安は、多少和らいだ気がした。


 コイツはオレの能力を疑おうともしていない。

 どうしてなのか、と何度も考えたが結局は分からないままだった。

 ただ、中途半端な師事で元とは言えオレの同僚兼友人のルリの弟子だったのだから、きっとオレに対しての情報は何かしら持っている事だろう。

 それが、コイツの自信の裏づけにでもなっているのか。


 ………なるべくなら、ルリから頂いた不名誉な肩書きは知っていて欲しくないけど。


 丁度良い機会なので、聞いてみる事にした。


「お前、ルリからオレの事なんて聞いてたんだ?」

「(…同期で友人と聞いていました。)」

「それだけか?」

「(…色々と聞きましたが、ルリ様は貴方の不名誉になるようなことは何一つ言ってはいません)」


 あ、そう?

 なら、ちょっと安心。


 ………ってか、それだけ聞いたらちょっと分かっちゃったかもしれない。

 オレの不名誉になるような事を何一つ言っていないだと?


「お前に学校で集団生活を体験しろって言ったの、もしかしてルリだったか?」

「(その通りです)」

「………やっぱりか、あの銀髪女男野郎…っ」


 アイツ、もしかしてその時から、見越してたんじゃないのか?

 オレが夜間学校の特別クラスを受け持つ事になったのも、元々はルリの差し金だった訳だし。

 最近まであいつなりの不器用な気遣いだと思っていた自分を全力でラリアットしてやりたい。


 コイツにとって、オレという人間はどこか誇張され過ぎてもはや神格化している。


 それもこれも、最初からルリがオレの不名誉を排除して、間宮に吹き込んでいた事が付随しているのだ。

 だからこそ間宮は、オレの正体を知っていながら秘匿したし、こうして物々しいまでにオレに従順に従い、着々とエージェントとして育っている。


 そして、こちらの世界に来てから発覚したこの間宮と言う少年のポテンシャルを考えれば、ルリがこんな逸材をみすみす見逃す筈が無い。

 たとえ師事をするのが面倒とは言っても結局は最初から最後まで面倒を見ないと気が済まない性質だった男だ。

 学校生活を体験させる為とはいえ師事の途中で放り出す真似をする訳が無い。

 どこかの段階で、おそらく間宮からオレへコンタクトを取らせるつもりだったのだろう。

 勿論、本人にも内緒で。


 とどのつまり、アイツは、オレに間宮の監督を押し付けやがったんだ。

 異世界に来てしまった事でその作戦は崩れたとは言え、結局はオレがコイツの才能に気付いて弟子入りさせてしまった。

 それこそ、ルリの思う壺だった訳だ。

 ………あ゛ー、してやられたッ!


「(…何か、ありました?)」

「………いや、オレがまんまとルリにしてやられた事を自覚しただけだ…」

「?(こてり)」


 アイツがいつもの革張りコートのボンデージファッションで高笑いしている姿が脳裏に浮かぶ。

 問い質しても、きっと『気付かなかったお前が悪いんだよ間抜け』としか言わないだろう。


 なんか、無性に疲れた気がする。

 蓄積された疲労が、表面化したやつでも無い、精神的な疲れもあるだろう。


 しかも、今までの行軍に加えての、犬畜生ゲイルからの指揮官代理の爆弾発言、さっきまでの狸ジジイの化かしあいになりかけた作戦会議と、今の間宮の発言から分かってしまった同僚兼友人だと思っていた人間ルリの魂胆。


 頭が飽和状態になる訳だよ。


 そして、そろそろ、オレはお薬の時間が迫っているのだ。(※ちなみにお薬とは魔力を吸引する魔法具の起動の事だ)


「…ああ、もう…今日は早めに寝る」

「(はい。僕も休息をオススメします)」


 ともあれ、いつの間にかオレの不安は吹き飛んでいた。

 間宮のおかげとも言える。

 別の問題が浮上したからそっちに気を回した所為で、なまじ気が抜けたとしか言いようが無いが。


 ただ、ちょっと考え過ぎるのは、元々のオレの悪癖だろうか。


 今から肩肘張っても疲れるだけだ。

 こうなったら、『騎士』としてじゃなく、意地でも『教師』として乗り切ってやる。


 その日は早々に天幕に引っ込んだ。

 出来れば、こうして何事も無く杞憂で終わって欲しいけど、そうも行かないのがこの世界に来てからのオレの命運って奴だけど。


 むしろ、オレの事より生徒達の事心配しないと。

 立て続けに感じたいやな予感のおかげで、オレはオレの事で一杯一杯になってしまったけど。


 自棄になった徳川を放置して、この討伐隊に参加してしまった。

 こんな嫌な予感に見舞われるなら討伐隊に参加するのを延期して、先に生徒達のケアやフォローに回っておきたかった。


 徳川は暴れていないだろうか。

 むしろ、学校から逃げ出していないだろうか?と、激しく不安を覚える今日この頃。

 生徒達はその驚異に怯えた生活を送っていないだろうか。

 むしろ、誰か怪我していないだろうか?

 生半可な怪我であればオリビアがいるから大丈夫だろうが、死んだとなると彼女一人にはどうしようもない。


 ああ、心配。

 やっぱり、オレはそろそろ禿げると思う。


 布団に入ること数秒で、オレの意識は落ちた。

 まさか、そこまで疲れていたとは心外である。



***



 先生が討伐隊に参加してからの翌日だった。

 相変わらず、オレは先生の部屋に放り込まれて、腐っているだけ。


 漏らしたズボンとパンツは誰かが脱がして着替えさせてくれたらしい。

 この年になっても、お漏らしとか恥ずかしい。


 まだ、頬が痛い気がした。


 このままじゃいけない、って先生が叩いた頬。

 凄い怒声と、初めて受けた先生からの平手だった。

 ゲンコツとか喧嘩の仲裁とかでなら分かるけど、手を上げられたのは初めてだった。


ーーー「義務を放棄した挙句に権利を主張するな!

 努力もしていない癖に認めてもらおうとするな!それはただの甘えだ!」


 耳の奥に、まだ先生の声が反響している。


 オレは、この言葉に親父でも無いくせに威張るなと答え、立ち上がって、先生の事を本気で殴ろうとした。

 それは、殺そうとしたのも同じだった。


 そのすぐ後に、先生から返された言葉は、完全なる事実だった。


ーーー「その親父に叩き出されたのはどこのどいつだ!?」


 オレが一番知っていて、一番信じたくない事実。


 そうだよ。

 オレは親父に叩き出された。

 お腹に赤ちゃんがいる母さんと、そのお腹の中にいた赤ちゃんに、暴力を振るってしまったからだった。


 ………先生、全部知ってたんだ。


 オレが人を簡単に殺せる力を持ってる事も、何をしてこの学校に来たのかも。

 バレてないと思ってたのは、実はオレだけだったんだと自覚したのは、遅すぎた。


 なのに、それを知っていたのに、オレへの対応は普通を通り越して、親身になってくれたものだった。

 態度は一つも変わらなかった。


 なんでだろう?と、思っても、すぐに答えてくれる筈の先生は、今はもういない。

 トウバツタイ?だか、なんだかで1ヶ月ぐらいいなくなるってだけしか分からなかった。

 だけど、その1ヶ月の間、オレは先生のいないこの学校で暮らさなきゃいけない。


 どうすれば良いのか、分からない。

 先生の石鹸の香りのする布団の中で、芋虫みたいになりながら考える。


 けど、結局オレは何を考えても、分からない。


 そのうち、先生のいない部屋にいるのが、イヤになった。

 孤独ひとりなんだと、自覚するのが怖くなってしまったからだった。


 先生の部屋を抜け出して、オレは教室に入った。


 がらんとした教室は、気温の所為もあって寒々しかった。

 まだ、誰も席についていない教室は、いつもの風景なのに、いつもの風景よりも寂しいとしか感じられなかった。

 教壇に立つ先生も、机に座ったクラスメートも、教壇に腰掛けてにこにこ見守ってくれていたオリビアもいないからだ。


 また、自分が孤独ひとりなんだと、思い知らされそうで怖くなった。


 教室のがらんとした風景を見ないようにして、窓にへばり付いた。

 何も考えずに、外の景色を眺めるだけ。


 まだ夜は明けていなくて、日が昇りきっていない早朝だった。


 その時だった。

 へばりついていた窓の片隅で、何かが見えた。


「………浅沼と、………榊原?」


 教室の窓から見えた校舎の玄関前には、黒髪のずんぐりとした体型の浅沼と、くすんだ赤色の髪で浅沼と比べなくても細い榊原の後ろ姿があった。

 ジャージ姿で首にタオルを掛けている。

 こんな季節の早朝に一体、どこに行くつもりなのか?と、もう少しだけ良く見えるように窓にへばり付く。


「………あれ?………今度は、伊野田と杉坂姉妹…」


 しかし、今度は女子組が、ジャージ姿に首にタオルを掛けた同じ様な姿で、校舎前に姿を現した。

 各々、長く伸ばした髪を整えて、屈伸をしたり背筋を伸ばしたり、腕や足首を回したりしているから、これから運動でもする気なのだろう。


「………永曽根と、香神がいない…」


 ふと、呟いた言葉に、胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるような感覚がした。

 校舎前に集まっていたクラスメートの中に、永曽根と香神はいなかった。

 常盤兄弟もいないが、彼等は紀乃が車椅子だし、そもそも別々に行動する事自体が少なかったからいないのは分かる。


「(………きっと、オレの監視の為に残ってるんだ)」


 珍しく、オレはすぐさまあの2人がいない理由に思い至った。

 それと同時に、苦々しい気分になる。

 ………信用されていないのは分かっていたけど、いざ目の当たりにすると悲しいと思う。


「あ………行っちゃった」


 護衛の騎士達を引き連れて、彼等5人は夜明け前の街の中に走り出して行った。

 どうやら、ランニングの為に、校舎前にジャージ姿で集合していたらしい。


 そこで、ふと脳裏に過ぎる先生の言葉。


ーーー「努力もしていない癖に認めてもらおうとするな!」


 その意味が、今は少しだけ分かった気がした。


 皆、こんな風にオレの見えないところで、朝のランニングをしていたんだ。

 しかも、その後は勉強もしなくちゃいけないし、強化訓練だって未だにやっているのに、運動音痴の浅沼や伊野田まで、一緒になって街の中をランニングに行ってたりして。


 だが、意味は理解出来たとしても、むくりと腹の底で起き上がったのは怒りだった。

 納得は出来なかった。

 無性に腹立たしいと感じるのは、ただただ自己満足の欲求が満たされないから。


「(……誘ってくれたって、良いじゃんか)」


 どうして、自分だけ置き去りにされているのか。

 理不尽だ、贔屓だ、差別だ、と脳内でぐるぐると廻る恨み事。


 夜にでも、出かける直前でも教えてくれれば良かったのに。

 そうして、オレも一緒にランニングさせてくれていたら、オレだって負けないで努力出来たかもしれないのに、と。


 しかし、そう考えてから、


「………今のオレの事なんか、誰も構っちゃくれないよな…」


 現状を思い出して、気持ちが沈んだ。

 結局、そんな現状の環境を作り出したのも自分だと、理解したと同時に更に気分は沈みこんだ。


 そのまま、へばり付いていた窓を離れる。

 孤独ひとりだと自覚させられた教室にも居辛くなって、先生の部屋に戻ろうと教室を出た。


 しかし、


「あ……、」

「うん?」


 先生の部屋の前に、ノックをしようとしていた香神がいた。

 オレが思わずつぶやいた言葉に反応して振り返った彼と、教室から今出てきたばかりのオレの眼が合った。


「なんだ、教室に行ってたのか?まだ、早過ぎんぞ?」


 三日前に、オレが怪我をさせてしまったというのに、香神はいつもと変わらない様子で、そう言った。

 あんな事があった後なのに、彼は先生同様態度が変わっていなかった。

 そんな彼の様子に居た堪れなくなって、後ろめたくも感じて、オレは目線を合わせていることは出来なくなった。


「……香神、こそ」


 その代わり、呟いた言葉。

 ふてぶてしい言い方で、ついでに子ども染みた不貞腐れた声だった。


 オレの目線は床に縫い付けられたままだったけど、香神はオレの目の前までやってきて苦笑を零した。

 見えなかったけど、そんな気配がした。


「オレは、飯担当だから、この時間から起きてるだけって話だよ」


 そう言い終わるか終らないかの間に、オレの頭の上に小さなこつんと音と共に置かれたプレート。

 頭を上げて、そのプレートをおずおずと受け取ろうとすると、途端に香った香ばしい食事の匂いに、腹の虫が盛大に悲鳴を上げた。

 今日は、最近榊原が考案した鳥ハムと新鮮な野菜のサラダ、こんもりと大皿に盛り付けられたパスタ、それとどっさりと野菜が煮込まれたスープだった。


 そういえば、昨日も一昨日もまともに、食事を取っていなかった事を思い出す。

 思い出すと、また更にけたたましく鳴った腹の虫に、香神が噴き出した。


「とっとと食えよ、お前の分だから。5人前茹でてきてやったから、残すなよ」

 

 そう言って、オレにプレートを押し付けて、香神はそのまま踵を返した。


 階下に降りて行く香神を視線だけで追いかけて、残されたオレ。

 ついでに、手元のプレートの美味しそうな匂いと、無性に恥ずかしい気持ちも、それと一緒に罪悪感も残された。 


 オレ、香神にあんな事したのに、謝る事も出来なかったのに。

 なのに、香神は態度を変えるどころか、先生みたいに、困ったような顔して苦笑しただけだった。


 唇を噛み締める。

 そうじゃないと、何もかも堪え切れない気がした。


 香神は、オレよりも一個だけとはいえ年下の筈なのに、オレよりも大人でオレよりも落ち着いていた。

 オレの行動には怒りを感じた筈だろうに、それを平然と隠しているばかりか、飯まで作って届けてくれた。


 それなのに、彼と比べて自分はどうだ?


 先生に駄々を捏ねて黙らされて、部屋に放り込まれた挙句に、殻に閉じこもるようにして出てこないなんて、これじゃ子どもと同じだ。


 泣き叫んでしまいたくなった。

 泣き喚いて、今すぐに彼を追いかけて謝りたかった。


 けど、踏ん切りを付けるだけの勇気が、まだオレには足りなかった。


 香神が持ってきてくれたパスタは、先生の部屋に閉じこもって食べた。

 昨日先生が作ってくれたサンドイッチと同じ味のパスタで、きっと、先生が作ったソースを使ったんだと思う。


 ぼろぼろと涙がこぼれて来て、美味しい筈のパスタがしょっぱかった。



***



 飯を食って、1時間ぐらい経った頃だろうか。

 昨日の朝から夜中まで寝ていた筈なのに、飯を食ってからの満腹感も相まって、眠気がむくむくと出て来てしまっていた。


 ただ、そのままうとうとするのは、なんだか気が引けてベッドの中で蹲ったまま考える。


 自覚は、した。

 馬鹿な事をしてしまったんだ、という自覚。


 馬鹿なのは元々だったと分かっていたけど、学習する事もせずにまた同じ事をしてしまった事も自覚した。


 夜間学校特別クラスに来たのは、オレが馬鹿な事をして祖父や両親にも迷惑を掛けたからだった。

 なのに、今度は、異世界クラスの香神を怪我をさせて、先生にも生徒達にも迷惑を掛けてしまった。


  ただ、悔しかった。


 何をすれば良いのか、分からないけど。

 どうすれば良いのかも、分からないけど。


ーーー「今の状況を改善する努力姿勢を見せてくれないなら、………オレも考えるぞ…」


 だけど、漠然と分かったのは、オレにはもう後が無いこと。

 先生が帰り際に残した言葉は、はったりだろうが本気だろうが、今こうして腐っている間にも、時間は着々と進んでしまっている。


 先生が帰って来る1ヶ月以内が、タイムリミットだとは分かっている。


「(………それまでに、どうにかして英語を習得するんだ。

 ………そうしなきゃ、オレは捨てられる。こんな世界で見捨てられたら、もうオレは生きて帰る事だって出来ない…)」


 自覚と同時に、僅かに体が震えた。

 先生の最後の表情は、まるで処刑人のように寒々しくて、怖かったと覚えているから。

 あんな眼をもう二度と向けて欲しくないから、その震えを無理矢理に抑え込んで、今から自分がしなくちゃいけない事を必死で考える。


 先生はオレが努力を怠っていたから怒っていたと、ちゃんと言ってくれていた。

 それを跳ね除けて、耳を塞いでいたのは自分だ。

 だったら、今からその努力をしなくちゃいけない。


 ………でも、どうやって?

 頭が拒絶する、勉強の二文字。

 しかも、今まで3ヶ月やって来た事を、今更1ヶ月でどうしろというのか。


 先生の部屋の布団に転がったまま、考える。

 勉強をすれば良いとは分かっているのに、その為に動くには、まだ踏ん切りが足りなかった。


 ………懲りてないじゃないか、と自分が情けなくて泣きそうになった。


 そこへ、


「徳川~、起きてるか?」

『おはようございます、トクガワ様』


 ノックの音と共に、投げかけられた声。

 低めなのに良く響く永曽根の声と、可愛らしくて綺麗なオリビアちゃんの声だった。


 ベッドの中で、跳ね起きた。

 あわあわと、数日風呂に入っていなくてべたべたな髪を整えたり、涎が付いていないか確認したりして、ふと気付く。

 ………何をやってるんだろう。


「………起きてる」


 数秒前の自分の行動が虚しくなって、ついつい沈んだ声で返してしまった。


 そんなオレの声を聞いてか、扉が開いた。

 いつもながら無表情の永曽根と、その肩の上でにこにこと微笑んでいたオリビアちゃん。


「………何?」

「何?じゃねぇだろうが。ほら、おはようは?」


 そう言って、永曽根がオレに視線を合わせようと屈みこむ。

 長曽根は、オレなんかよりも遙かに身長がデカイから、こうして屈みこんでくれないと凄い威圧感がある。

 ………けど、その行動自体が、オレを子ども扱いしているような気がして、オレには少し腹立たしかった。


「………子ども扱いすんじゃねぇよ」

「十分子どもだろ?不貞腐れて部屋に閉じこもってんだから」


 しかし、反論したは良いが、帰ってきたのは否定できない正論だった。


 永曽根の言うとおり、オレの今の行動は子どもでしかない。

 不貞腐れて、腐って、後ろめたさのままに、閉じ篭ってろくに挨拶も出来なくなって、ついでに何をするか分からない子どもだ。

 危険なだけだと、自覚した。


 案の定それ以上の反論が出来なくて黙り込んだオレに、オリビアちゃんが苦笑を零したように感じた。

 見えないけど、さっきの香神と同じでそんな気配がした。


 永曽根も表情は分からなかったけど、少し困っているというか呆れているようにも感じた。

 ちょっとだけ視線を上に向ければ、彼は明後日の方向を向きつつ溜息を吐いて、髪を掻き上げた。

 ………その行動は、自棄に先生と似ているように思えた。


「………飯は食ったか?」

「………うん」

「……美味かったか?」

「………うん」


 だが、彼からそれ以上追及される事は無かった。

 代わりに聞かれたのは飯の事とその感想で、オレは戸惑いつつもうんうん、と頷く事しか出来なかった。


「じゃあ、食器運べ。今、丁度香神が食器洗ってるし。

 それに、そろそろランニング組は帰ってくるから、キッチンがごった返す」


 永曽根はそう言って、オレを手招いただけだった。

 身構えていたというのに、あれ?と首を傾げた。


 香神もそうだったけど、永曽根も今ではこのクラスではリーダー的な存在になっていて、言葉で引っ張るのが香神で、力で引っ張るのが永曽根って感じに、いつの間にかなっていた。

 だから、こうして飯だけ食って、部屋に閉じ篭もったままのオレに、永曽根なら何か言うんじゃないかと思ってた。

 恨み事でも嫌味でも、それでもオレが言われたくない皮肉の一つも言われると思っていた。 


 けど、永曽根は、朝方の香神と同じく、そのまま踵を返しただけだった。

 とんとんと階下を降りていく永曽根の後姿に、オレは何故か素直に従って、食器の乗ったプレートを持って追いかけていた。


 そんなオレの姿を、オリビアちゃんが振り返って苦笑を零す。

 彼女のその苦笑を見る度に、ドキドキした。


『なんだか、親鳥にくっついて歩く雛のようですね?』

『………うーん。雛っていうよりか、子犬じゃないか?』

『うふふ、確かにそうかもしれませんわね』


 そう言って、永曽根と柔らかい声で話している彼女。

 やっぱり英語はさっぱり分からなくて言っている内容は分からないけど、そうやって彼女と話せる事は、純粋に羨ましいとは思う。


 そう思って、ちょっと悔しい気持ちになっていたら、突然一階のダイニングが騒がしくなった。

 階段から見た玄関先は、既にランニング組が帰って来た事を告げていて、


『ちょっと~っ!!しっかりしなさいよ、浅沼ぁ!!』

『ご、ごめんよ~ごめんよ~』

『今まで再発しなかったのにねぇ…』

『………多分、オレのペースに馬鹿みたいに会わせようとしたからじゃない?』

『アンタ、マラソンだけは金メダルだもんね』


 なんて、騒がしいけど、なんとなく微笑ましい声。

 やっぱり、全員英語を喋っているから何を言っているのかはさっぱりだったけど、それでも楽しそうなのは分かった。

 笑い声が溢れている、輪の中だった。


 いつか見た、空手の道場での一幕を思い出す。


 あの時も、オレはこうして見ているだけだったし、その中には、当然のように榊原がああして混ざっていた。

 賞状を持って嬉しさに顔を綻ばせて笑っていたのを思い出して、また悔しくなった。


「鉢合わせになっちまったな。

 ………先にキッチン入って香神にプレート渡して来い」


 そこでふと、ぼーっとその様子を見ていたオレの頭を、永曽根がぐりぐりと撫でてから後ろに押しやった。

 まるで、オレを隠すように玄関の間に立って、そう言った。


 ………隠すようにじゃない、隠してくれたんだ。


 顔を合わせ辛いのは、この学校の全員がそうだったから。

 永曽根はそれを分かっていたから、オレが食べ終わった頃を見計らって、ついでに他のクラスメートと鉢合わせしないような時間を見計らって、オレをダイニングに呼んでくれたようだった。


 オレは俯いて、そのまま永曽根の指示通りにキッチンへと逃げ込んだ。

 逃げ込むしか、出来なかった。


 ………そんなオレの後ろ姿を、榊原が見ていたなんて知らなかったけど。



***



 そんな日が、1週間続いた。


 早朝ランニングに出かけるクラスメート達の後ろ姿を、同じような時間に起き出して、最初の日と同じように教室の窓から見送るのが日課になっていた。

 混ざりたいと思っているのに、未だにオレの中で残っている後ろめたさや蟠りが邪魔をする。


 香神が飯を持ってくる時間も、最初の日と同じように決まっている。

 そして、オレごと回収する為に永曽根とオリビアちゃんが一緒に来るのも、決まっていた。

 クラスメートがランニングから帰って来ない時間を見計らってオレはダイニングに下り、また同じ様に部屋に戻る。

 オレやクラスメートに気を使って、永曽根と香神がそうしてくれている事は、なんとなくだけど気付いた。


 ただ、数日に一度、回収も香神に変わったりもしていた。

 永曽根は、『吐き出し(ボミット)病』だから、オリビアちゃんに魔力を吸収して貰って、なんとか生活している。

 けど、その半面で加減を間違えると魔力不足に陥り易いらしく、体調を崩すことも少なくないと聞いた。

 病気の事は知っていたけど、いざそれを目の当たりにすると心配だった。


 永曽根と一緒に来るオリビアちゃんには、何度か話し掛けられた。

 けど、結局オレは、彼女の言っている事の挨拶やオレの名前、クラスメートの名前が精々分かるぐらいで、半分も分からない。

 会話なんて出来る訳も無く、ここ数日ではそれが一番悔しかった。


 永曽根や香神に聞いても、


「通訳はしないぞ。自分で勉強して分かるようにならないと意味が無いだろ?」

「あ゛ー………なんつうか、お前の事、心配しているようなもんだ」


 と、永曽根は突き離すような、香神は誤魔化したように答えてくれた。

 でも、やっぱりそれ以上は、永曽根の言うとおりだと思って、詳しく聞けなかった。


 オレは、何をすれば良いのか分からなくて、まだ勉強にも手を付けられないままだった。

 このままじゃいけないと分かっているのに、結局踏ん切りのつかないままだらだらと1週間が過ぎてしまった。


 そんな1週間目の夜の事だった。

 ノックの音と共に、ベッドの上でうとうととしていた意識が引き戻された。

 窓の外は真っ暗で、ご飯も既に香神が持ってきてくれていて、永曽根がプレートを回収してくれるのを待つだけの時間帯。


 こんな時間に来る人物というのは、思い付かなかった。


「うわ……見事に腐ってんね」


 ノックの返事を待たずに、扉を開けはなった彼。

 開口一番にそう言って部屋の中にずかずかと入ってきたのは、榊原だった。


 この1週間、香神や永曽根、オリビアちゃんとしか会話をしていなかったオレには、久しぶりの会話。

 思わず、体が強張ってしまった。


「………なんだよ」


 呟くような声は、心無しか震えていた。

 それを分かっているのかいないのか、榊原はオレを見下して溜息を吐いただけだ。


「………別に、怒ろうとか殴ろうとか思ってる訳じゃないよ。

 ただ、今のアンタ、小学校の頃と同じ顔しているって、気付いてんの?」


 言われて、初めて自覚した。

 ここ1週間、風呂にも入っていなかったから、鏡なんて見ていなかったけど、小学校の頃を知っている榊原からしてみれば、オレはあの時と同じ顔をしているようだ。

 ………何もかもを他人の所為にして、睨みつけるような暗い眼。

 小学校の時にも、自分で自分の顔を見て驚いた覚えがある。


 自覚して、それからすぐにオレは視線を落とした。

 今の顔を、いくら幼馴染の榊原にだって、見せたくないと思ったから。


 しかし、榊原はまた更に溜息を吐いただけだった。


「………勉強する気になったの?」

「………しなきゃ、捨てられるもん」

「じゃあ、始めなよ」

「………何からやったら良いのか、分からない」


 いつもこうして、切羽詰ってからしか勉強できない。

 勉強しなくちゃいけないと分かっていても、何をすれば良いのか具体的に分からないから、余計に分からなくなってしまうのはいつもの事だった。


「ノートは?」

「………取れてない」

「……なんで?」

「………分からなかった、から…」


 そして、更に続いた榊原の質問に答えて行くうちに、段々と情けなくなって来た。

 再三の溜息が、榊原の口から洩れたのも分かった。


 それも当然だよな、と情けない悔しいと感じるよりも、当たり前の反応に恥ずかしさを感じて更に黙り込む。

 何をすれば良いのか分からないんじゃない。

 何も出来ないから、どうすれば良いのか分からないのだ。 


 そう思っていたと同時に、


「お馬鹿」


 ぽこり、と音と共に振ってきた、榊原の声と小さな衝撃。


 目線を上げれば、頭に振ってきたのは丸めたノートだった。

 よくよく見れば、榊原の腕の中にはノートや羊皮紙が何枚か重なっている。


「これ、クラス全員のノートとかメモ。英語を勉強する時に使ったやつね。

 わざわざ全員に頼みこんで回収して来たんガから、感謝しなさいよ」


 そう言って、オレの丸まっているベッドの上に、落とした榊原。


「やり方なんて人ぞれぞれだよ。

 アンタの場合は、それがどういう方法なのかまだ分かってないだけ。

 それが分からないからって投げ出すのは、ただの我が侭だと思うけど?」


 榊原の言っている通りだった。

 でも、いざ勉強をするとなっても、結局オレの手は動かず、ノートも羊皮紙も本当なら受け取りたくなかった。


 そのオレの感情に気付いたのか、榊原が目線を険しくした。

 この表情は、永曽根と喧嘩をしていた時に見た事があった筈だった。

 あの時は、オレもコイツや永曽根が怖くなったのを覚えている。


「………あのね、徳川。アンタ、今の現状どこまで分かってる?」


 腰に両手を当てて、説教スタイルに入った榊原。

 漫画とかで見る説教をするお母さん、そのままの姿にも見えた。


 オレも何度も、コイツの説教を受けたことがあるけど、やっぱりいつもこの体勢だったからか、無意識に背筋を伸ばしてしまう。


「自分でも分かってるんじゃないの?

 やらなきゃ捨てられるって、さっき自分でも言ってたじゃん。

 なら、なんで頭を切り替えて勉強しようとしない訳?

 そろそろ、オレだって他のメンバーだって堪忍袋の緒が切れそうだよ?」


 そう言って、口を膨らませた榊原。

 そんな彼の言葉には、やっぱり異論は唱えられない。


 その代わり、


「榊原は良いよ…元々頭が良いんだから」


 オレは自嘲気味に、他人を羨むだけ。

 頭の良い香神や永曽根、榊原や伊野田を羨ましいと思うだけで、オレは指をくわえて見ている事しか出来ない。


 そんなオレの言葉は、きっと彼を怒らせたのだろう。

 榊原の表情が、嵐の前の静けさのように消え去った。


「オレだって必死になって、勉強したんだよ?

 元々頭が良いとかそういう理屈じゃないでしょ?」

「でも、オレより勉強出来るじゃん…」

「だからって、努力を否定されたら誰だってムカつくよ!」


 ………努力。


 ここ最近、何度も聞く言葉だ。

 それを、なんでも器用にこなす榊原がしていたとは、どうしても思えなかったけど。


 ただ、どうして怒られたのかは、分かった。

 人の努力を、たとえ自分の事だとしても笑ったからだ。


「皆精一杯努力して、ここまでやってるよ!

 ノートや羊皮紙を見てもそう!あの香神だって、間宮だって何もしてないとか思うなら、今すぐ謝っておいで!?

 アイツ等もっと難しい言葉の習得だってさせられてんだから!アンタが見てないだけでしょ!?」


 張り上げられた怒声に、竦み上がった。


 榊原の言うとおり、オレが見てないだけ。


 朝のランニングだってそうだったし、香神や永曽根がどれだけ気を使っているのかも、皆が努力している姿も、見ようとしていない。

 実質的に、自分の現状すら見ようとしていなかったから、こうして榊原に怒られている。


「………そんな事、分かってる…」

「分かってるなら腐るより先にやることがあるんじゃないの!?

 言っておくけど、先生が帰ってきたら謝るんだよ!?

 香神にも永曽根にもオリビアにも謝らないといけないんだからね!?

 アンタの事で気を揉んで、アイツ等最近ろくすっぽ休んでないんだから!!」


 そう言って、榊原は、ベッドの上で竦み上がったオレの首根っこを掴んで、あろうことか持ち上げた。

 あまりにも簡単に持ち上げられたものだったから、滅茶苦茶驚いて、暴れるのも忘れて成すがままにされてしまう。


 そして、先生の机に落とすようにして座らされた。


「まずは、書き取りでもしなさい。ノートを羊皮紙に写して、ひたすら書くの!

 それが駄目なら日常会話だけでも皆と混ざったら!?

 明日までに一冊分でも良いからノート読んでおきなよ?

 じゃないとオレだってもうアンタの事なんか知らないからね!」


 矢継ぎ早の怒声にオレは何がなんだか分からないまま、ただただ頷くしか出来なかった。


 そして、そんな榊原は、オレを置き去りにして一通り怒鳴り散らしたまま、そっぽを向いてそのまま部屋を出て行った。

 ちょっと乱暴に扉を閉めたからか、部屋の扉に開いていた穴がまた少し大きくなった。


 ………なんだか、狐につままれた気分だ、というのは、榊原に失礼だろう。

 けど、展開が速すぎて、オツムが足りないと言われ続けていたオレには、ちょっと付いていけてなかった。

 しばらく、呆然と彼が消えたドアを眺めているだけしか出来ない。


 しかし、そこへ、またしてもノックの音が響いた。

 今度は誰だろう、と無意識に身構えてしまっていたオレ。


「徳川君、久しぶり。香神君が夜食作ってくれたから、置いておくね?」


 そんなオレの様子を分かっているように、扉の向こうから聞こえた声は柔らかかった。


「………い、伊野田?」


 恐る恐る開いた扉の先には、伊野田がいた。

 彼女の言葉通り、夜食が乗っているだろうプレートを持って、困ったような顔で笑っていた。


 またしても、1週間振りに言葉を交わした。 

 そして、何とはなしに見た彼女は、身長は変わらないというのに、前よりも格段に大人っぽく凛々しくなっているようにも見えた。


「榊原君の事、ちょっと吃驚しちゃったでしょ?

 あたしも、榊原君があんな風に怒鳴るの久々に聞いたから、吃驚しちゃった」

「………ああ、うん」


 再三の居た堪れなさに、オレはまた視線を落とした。

 榊原の怒声を聞いたのは、確かに久しぶりだった。


 それはオレだけでは無く、クラスメートも同じ事だっただろう。

 罰の悪さから、また情けなさに気持ちが沈むが、


「入っても良い?」

「えッ…!?……あ、うん」


 呆然としたまま、あれよあれよと伊野田の入室を許してしまった。

 そんな彼女は、苦笑を零しながらプレートをベッドの上に置いた。


「あたしが一番、分かり易いと思ったのは浅沼君と永曽根君のノートだよ?長曽根君のは、羊皮紙ね?

 後、香神君のノートは例題とか先生の注釈まで、全部丸ごと写してるみたいだから、凄く上達は早いと思う。

 その分、ちょっと難しいけどね」


 そう言って、同じようにベッドに乗っていたノートや羊皮紙をピックアップして、先生の机の上に載せてくれる。


「後、これはあたしのノート、と言っても羊皮紙をまとめただけなんだけど……。

 もしかしたら、徳川君はあたしと同じで、単語の意味とか文法の使い方を覚えられないのかな?と思って、別に作ってみたの」


 そう言って、伊野田が差し出してくれたのは、確かにノートというよりは羊皮紙をまとめた紙束だった。

 だけど、その羊皮紙は明らかに新しいと分かるし、ご丁寧にも記載されていた日付は1週間前のもの。


 わざわざノートやメモを回収してくれた榊原のように、伊野田もオレの為に勉強用のノートを作ってくれていた。


 ぎゅうぎゅうと締め付けられたように、胸の奥に痛みが走った。


 しかも、


「榊原君、ちょっと口下手だったし、嵐みたいに行っちゃったから良く分からなかったでしょ?」

「………うん」

「でも、皆にノートを集めるように言ったり、あたしにノートを作ってくれって頼んだのも榊原君なんだよ?

 わざわざ、あたし達の掃除の当番とか代わったりしてまで、」


 苦笑を零したままの伊野田の言葉。

 オレは、眼を見開いたまま、固まった。


 あの榊原が、何をしたって?

 皆のノートを集めたり、伊野田に勉強用のノートを作成するように頼んだり、その為に掃除の当番を代わったりしてくれていただって?


 信じられない、と思う反面、何故か納得が出来た。

 彼は、普段飄々として面倒くさがりだった癖して、面倒見だけは良かったのだ。


 ………オレに対しては、特に面倒を見てくれていたように思う。


 そんなオレの表情を見てか、伊野田がまた困ったように笑った。


「………皆ね、徳川君の事、心配してる。

 先生に言われたからだけじゃなく、皆でどうにかしなきゃって、今頑張って考えてる」


 そして、その言葉をオレは唖然としたまま聞いているしかなかった。

 胸の奥が、更にぎゅうぎゅうと締め付けられて、痛みが強くなる。


 苦笑を零したまま、伊野田はオレの頭を撫でた。

 ………そんな仕草まで、いつの間にかオレよりも大人びているように感じた。


「だから、徳川君も一緒に頑張ろう?

 考えるのは、あたし達がするから、徳川君はとにかく英語を喋れるようになる事を考えて?

 それも、努力の形の一つだと思うよ?」


 伊野田の言った言葉は、胸に突き刺さった。

 先ほど言われた榊原の言葉も、同時に思い出す。


ーーー「やり方なんて人それぞれだよ」


 その途端、オレは立ちあがっていた。


「皆、下にいる?」

「えっ?……うん、全員一緒に、徳川君の事話し合ってる」


 伊野田が、そう言って笑った。

 オレに対して、女の子がこうして笑いかけてくれるのは、小学校の時には有り得なかったことだった。

 そして、こうして誰かがオレを、助けようとしてくれるのも初めてだった。


 思えば、この異世界クラスのメンバーには、初めてを貰ってばかりだった。


 初めて心が苦しいと感じる程に、怒られたこともそう。

 殴られたのも、小学校以来では先生が初めてだったし、本気で叱って貰えたのも先生が初めて。

 ライバルと思える人間が現れたのも間宮が初めてだったし、オレの力の事を知って態度を変えなかったのもこのクラスの生徒達が初めてだった。

 ………それが嬉しいと感じるのも、初めてだった。


「行こうか、徳川君?」

「ッ…ひく…ッ、う゛ん…ッ!」


 こうして、女子に手を引かれるのだって、初めての事だった。


 顔なんて、涙が止まらなくてぐしゃぐしゃのボロボロだって分かっている。

 それでも、オレはそれを隠しもしないで、そのまま伊野田に手を引かれるままに階下に降りた。


 そして、


「ごめんなさい!!ごめんなさい!!

 迷惑を掛けてごめんなさい!!暴力振るった事も謝ります!!

 これから勉強もします!!努力だってします!!

 だから、勉強を教えてください!!馬鹿だから大変かもしれないけど、頑張るから!!

 ごめんなさい!!お願いします!!助けてください!!」


 オレはその勢いのままで、クラスメートの前で泣き叫んだ。

 生まれて初めての土下座をして、生まれて初めて心から謝罪を叫んだ。


 爺ちゃんや父さんに追い出された時だって、こんな事はしなかったのに。

 そのまま、蹲って泣き喚くしか出来ないオレを、クラスメートが無言で眺めていた。


 しかし、ふと、


「最初から先生にもそう言えばよかったのに…」

「拗らセちゃったのハ、自分だけドね…」


 呆れ交じりの笑い声は、常盤兄弟だった。

 その笑い声は、オレを馬鹿にしているものではなかった。


「これで徳川もご褒美もらえるじゃん?」

「そうそう。ウチ等だけってのも、なんか気分悪かったしねぇ」


 ぐしゃぐしゃになった顔を上げれば、杉坂姉妹も呆れながら笑ってた。

 そう言えば、そんな事も先生に言ったっけ?


「おら、立てよ徳川」

「いつまでも丸まってると踏みつけちまうだろ?」


 香神と永曽根がオレの頭をべしべし叩くが、暴力じゃない。


 そこまで小さくなかった筈だと言いたくても、こうして土下座しているのをやめさせようとしてくれる2人は、やっぱり大人だった。


「うぅっ…友情ドラマだぁ!…こんな事本当に出来るなんて…!」

「意外と涙腺緩いんだね、浅沼君。でも、あたしも同感かも」


 涙を流している浅沼と、オレの後ろで階段を降りて来た伊野田。


 浅沼の泣き顔は相変わらず汚かったけど、それはオレも人の事言えない。

 それに、伊野田がノートを絶賛していたから、世話になる以上馬鹿にする事も無い。


「…別に泣いて謝れとは言ってなかった筈なんだけどねぇ…」


 最後に残っていた榊原は、そう言って、オレの顔をタオルでごしごしと拭いてくれた。

 半分呆然としながらも自棄に下手くそな顔で笑ってた。

 友人で男のはずなのに、母親のような貫禄があると思えるのは何故だろう。


「お前が、…ひっく…皆にノート集めるように言ってくれたって…!

 伊野田に、ノート頼んでくれたって…聞いてッ…ひっく!

 ……オレッ、…オレッ、お前の事…、………お前の努力、馬鹿にしたのに…ッ!!」


 最初で最後の友人だった彼。

 そんな彼を失わないように、オレは纏わり付くことしか出来なかった。

 当たり障りの無い距離を保つことでしか、オレには友達なんて出来ないと思っていたのに、


「お前だって、オレの事守ってくれたでしょ?

 じゃあ、今度はオレが助ける番かな?って………さ」


 踏み込んでくれたのは榊原だった。


 昔の立ち位置を思い出した。


 こうして泣いていたのは、あの頃は榊原だった。

 でも、いつの間にか身長も立場も逆転していたのに、オレはそれが悔しいとは思わない。


 言う言葉は決まってる。


「ありがとう…ッ、こんなオレを、見捨てないでくれて…ッ、助けてくれて…ッ!!」

「見捨てなかったのは、先生も一緒でしょ?それに、助けるのはこれからだよ」


 オレの言葉に、榊原はそう言って笑ってくれた。

 やっぱり、オレの初めてで最後の友人は、彼以外にいなかった。



***



 その後、遅くはなったけど、オレはクラスメートに全部を打ち明けた。


 どうして、このクラスに来たのか、生まれ持った馬鹿力の事も、家族に暴力を振るった事も、勉強が出来ないのがいつからの事だったのかも全部をぶちまけた。

 勉強については言わずもが無。

 何が出来なくて、何が分からないのかも、分からないから出来ないという事も。


 皆、オレの話を真剣に聞いて、夜遅くまで付き合ってくれた。


 怪我までさせて大変な思いまでさせてしまった香神も。

 気を使わせてしまっていた永曽根も。

 オレの為に行動してくれた榊原も。

 ノートを作ってくれた伊野田も。

 オレがご褒美を貰えなかったことを気にしてくれていた杉坂姉妹も。

 馬鹿な事をやっても呆れ交じりに笑っていた常盤兄弟も。

 オレが今まで散々バカにして来た浅沼も。


 そして、真剣にオレの為に、これからの勉強のプラグラムや、割り振り、担当なども考えて、話し合ってくれた。


 また一つ、オレは彼等に初めてを貰った。

 人それぞれのやり方で、努力の形は一つでは無い事を初めて知った。

 それが、仲間の助けを借りる事だと言う事も、初めて教えて貰った。


 そして、それを教えてくれたのは、初めてのオレの仲間だった。



***

生徒の心情とか上手い事文章に出来なくて、ノリと勢いだけで書いていたらこの時間まで掛かってしまう難産に。

明日以降、次の話を順次アップしていくつもりですので、御了承くださいませ。


それはともかく、いつの間にか生徒達も逞しく育っているものです。

3ヶ月も異世界生活をエンジョイしていれば、そろそろ役割分担も自分達で出来るようになっているのでは無いでしょうか。


ちなみに、料理担当は香神と榊原。

今回、香神は徳川の監視役に抜擢されていたので食事を作っている間だけ榊原と一緒。

ランニングは徳川が寝入ったであろう、深夜に永曽根とこっそり2人で行っていました。


掃除当番が全員割り振りです。

ただし、香神と榊原は料理担当の為、免除されていました。

持ち回りは1週間の一日、風呂場、キッチン、床清掃、モップ掛け。

伊野田徳川ペア、杉坂姉妹ペア、浅沼永曽根ペア、常盤兄妹は紀乃が歩けないので免除ですが、河南と間宮がペアで行っていました。


ちなみに先生は何もして無い訳ではなく、料理担当に混ざって調理をしたり、お風呂掃除に乱入したり、たまに河南の代わりに紀乃の介護を行ったりもしています。

その間にも色々とソースや調味料の開発、もしくは技術提供の計画を立てたりします。

意外と先生は忙しかったりするのです。

生徒達もそれを見ているから自然と、面倒臭いとかイヤだとか感じる前にやってやらないと先生が死ぬ!って危機感から勝手に動いてくれるようになっていたらしい。(徳川は除く)

間宮は言わずもがな、そんな先生が倒れやしないかいつも冷や冷やしている側です。

そこに、時たまゲイルも混ざって、結局生徒全員から休めコール連発されます。

最後にオリビアが泣いて強制終了。

異世界クラスは、常時これが、通常運転。



ピックアップデータ。

出席番号9番、徳川 克己。

19歳。

身長150センチ、体重49キロ。

明るい茶髪に濃い目の茶色の目。

生粋の日本人体型で、身長も小さい上に童顔。

身長も童顔もコンプレックス。

自分でも制御出来ない馬鹿力の持ち主なので、それもコンプレックス。

頭が弱いと常々言われ続けているので、それもコンプレックス。

日本の防衛担当大臣の孫。

これもコンプレックスになっているらしい。

少しどころじゃなく頭が弱い所為で高校の授業に付いていけなくなり、2年で留年、3年でまたしても留年して挙句に暴力沙汰で高校を中退。

引きこもりになったが、家族ともトラブルを連発。

見兼ねた防衛担当大臣のお爺さんに、伝手を伝って夜間学校の寮に転入させられる。

趣味は運動や身体を動かす事と飯を食う事。

勿論、花より団子。

体育は彼の一番の得意科目で、飯は常人よりも三倍は食べる。

ただし、燃費が悪いのか、すぐにお腹が減る。

最近は英語の授業にも付いていけずに四苦八苦。

浅沼の人間性を見下していたり、間宮や伊野田を身長的に見下していたりとちょっと性格に難あり。

銀次に対しては、最近反抗心しか芽生えていない。

その実、何でも出来る銀次に対して劣等感を覚えているらしい。

花より団子だったのに、最近はオリビアに恋をしている。

青い春真っ只中。

けど、オリビアは銀次や永曽根にべったり。

それが余計に彼の反抗心や敵対心を燃え上がらせているらしい。

永曽根や間宮には、ライバル意識も持っている様子。

榊原とは幼馴染な事もあって仲良し。

小さな頃は近所に住んでいて、彼が引っ越すまでは同じ道場に通っていた。

再会してからも、関係が変わらないと思い込んでいる。

天然でちょっと最近は色ボケかましているクラスのワンコポジション。


9回目のピックアップデータ。

榊原とは幼馴染だったのに、あんまり設定を活かしきれて居ない。

今後、本編に組み込んでいくつもりです。



誤字脱字乱文等失礼致します。

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