22時間目 「課外授業~魔法の概念と、改めての現状整理~」
2015年9月16日初投稿。
職場の同僚に、バレまして。
ブックマークしていた作品が丁度、私の作品だったようでして。
ちょっと小説を趣味で少々オホホなんて笑ってたら、作品まで吐かされるという…。
投稿を控えようかしら?ただ、同僚の追随が怖い。
これも読まれているんでしょうけどねッ!
43話目です。
本格的にファンタジー色が強くなった本編です。
やっと魔法に触れて行ける~(´∀`)ノシ
(改稿しました)
***
まず、魔力というものの概念を説明しよう。
この世界には、当たり前に存在する魔力は、空気にも食べ物にも宿っている。
口に含むものですらそうなのだ。
ある程度の品でも魔石や核が使われているものであれば、魔力が宿っているとは、特別講師となってくれているゲイルの談。
魔力は総じてこの世界では総じて当たり前のものとなっているだろう。
それをオレ達は、毎日のように摂取している。
そして、その器である身体には、魔力総量が決まっている。
大体、身体の大きさや知識、経験に基いて総量が決まるらしい。
総量を量る装置もあるらしいけど、今は割愛。
ちなみに、その魔力総量を増やそうとするのであれば、成長に任せる方法よりも他に、魔力を極限まで使い切るという荒っぽい方法もあるらしい。
ただし、あんまり魔力を使い過ぎると、酷い時は死ぬらしいから、無茶はしない程度にした方が良いとは、やはり特別講師のゲイルの談となっている。
さて、その魔力の感応に、力を貸してくれるのは精霊だ。
その場、その土地、風土などで宿っている精霊が変わってくる為、その時その時に適した魔法を、精霊と共に選択して使わなければいけないらしい。
砂漠や活火山には『火』の精霊だったり、川や滝などの水場には『水』の精霊だったり。
他にも、『聖』属性の精霊、『闇』の精霊、『風』の精霊、『雷』の精霊、『土』の精霊等と言った7種の精霊達が、この世界に溢れている。
魔法発言のキーワードが『精霊達よ~』から始まるのは、これに付随しているそうだ。
ただし、オリビアは女神なので、精霊の物理的総量は無視できるらしいが。
………無敵だな、おい。
話が逸れた。
先程言った通り、適材適所の精霊と、加護を受けている事が魔法発現の為の第一段階。
ただし、それは色々と問題も多いようだ。
たとえば、水場には『水』の精霊が多いので、選択するべきは水だ。
しかし、水場にいる魔物や魔族も、『水』の属性を持っている事が多い。
つまり、攻撃のつもりが回復してしまうという事例が多発する。
その為、魔法を使う場合には自身に適合した精霊を選択し、その精霊の加護を受けている事が必要なのだとか。
その適正魔法の調査方法は、実に簡単である。
『冒険者ギルド』で、金さえあれば適正だけを確認してくれる。
世の中やっぱり金である、と思わなくも無い。
そして、何故そんな『ギルド』が当たり前のように存在しているのか。
ええい、ファンタジーめ。
だが、登録をしなくても、それは受付で行ってくれているものなのだとか言うなら、押し売り商法としてもギリギリセーフなのかもしれない。
しかし、時たま精霊が加護してくれなかったり、適合しない場合もある。
その場合は、魔法の使用の有無が認められないと等しい。
騎士になる事は出来ないが、そのまま一般人としては生活出来るので表立った問題は無い。
子ども達の喧嘩で識字率が低い為、魔法が飛び交う事も無いので問題が無いらしい。
しかし、体質的に、適正魔法の精霊の加護を受けられない者には、デメリットも付き纏う。
魔力適合が低い者は総じて『吐き出し病』に掛かり易い、という統計が出ていたのである。
しかし、一方で適性のあった筈の冒険者にも発症例があった為、この辺りは別の方法で統計を取って、少し突き詰めて考えていかなくてはいけないだろう。
オレ達が直面している問題は、この一番最後の『ボミット病』だ。
これには早急に対応を考えなくてはならない。
何故なら、永曽根に続いて、オレも発症している事が分かったからだ。
まぁ、それに関しては既に、緩和策が見つかっているのだけれども。
***
もう既に真夜中になりつつある、時間帯。
もう一度オレと共に契約を交わしてくれたオリビアと共に、校舎に戻ると、すぐさま永曽根の部屋へと向かった。
『じゃあ、オリビア、頼む』
『はいっ』
それでは、さくさく治療を開始しましょうか。
必要なのは、女神様。
そして、当人である永曽根の血液。
以上だ。
オリビアがオレの時と同じく、寝台で横たわる永曽根の腕に触れ、ふんわりと髪を靡かせるのを静かに見守る。
そんなオレ達の様子を、看病に当たっていた女子組も固唾を飲んで見守っていた。
永曽根は、オレが校舎を出てからも二度か三度ばかりまた吐血をし、魔石を吐き出していたらしい。
だが、
「………ん、あ…えっ?」
そんな間抜けな声を上げて、永曽根は茫然と天井を眺めていた。
先程までは揺り動かさないと起きなかったらしい、彼の眼が覚めたようだ。
「調子はどうだ?永曽根」
「………先生、何、これ…?」
何これ?と聞かれても、オレは永曽根本人では無いので分からないのだが。
「気分はどうだ?吐き気は?胃痛も無いか?」
「………なんか、思った以上に、楽……。
吐き気は…おさまってるし、胃も痛くは無ぇ、な…」
「よし、成功だ」
どうやら、やはりオレの予想は当たっていたようだ。
実際、自分自身でやっておいて難だが、まだ半信半疑だった所為もあってちょっと不安だったの。
学校から教会を二往復して、『血の契り』をして来た甲斐があるわ。
普通は出来ないらしいって物知りっぽい女神様方に聞いたけど、オレの眷属扱いで、永曽根もオリビアと契約させたの。
永曽根も、今回の事を受けて、名実ともにオリビアの『契約者』となった訳である。
こんな無茶な用件も通せちゃうとか、『予言の騎士』様々。
「え…っと?」
きょとり、とした様子で首を傾げた永曽根。
そのまま、体を起こしたのには冷やりとしたものの、どうやら大分楽になったようだ。
顔色はまだ青白いものの、おそらく吐血等による貧血が原因だろう。
後で、緑黄色野菜と肉をたっぷり食わしてやらなければ。
まぁ、なにはともあれ、
『やったな、オリビア。成功だ』
『はいっ、ギンジ様!』
嬉しさのあまり、2人で熱い抱擁。
ついでに、永曽根に対しても、ヘッドロックの勢いで抱擁を交わしておいてやった。
『病人に何してんだ!?』って、杉坂姉妹に怒鳴られたけど、もう平気だと思うよ?
だって、教会で初めて感じられるようになった魔力の流れ、今の永曽根からはほとんど感じられないから。
結構、吸収したようで、オリビア様。
………ただ、あんまりやると死ぬらしいとか怖い事も聞いているから、加減はしてやって欲しいなぁなんて思ったり。
***
永曽根の治療もひとまず、落ち着いたところで。
「えーっと、まずは、何から話せばいいのか、」
改めて生徒達に、今回の永曽根やオレの発症、ついでに今後の連絡事項を話そうとして、ちょっとだけ思案する。
現在は、風呂に入ってすっきりした永曽根も含め、生徒達をダイニングに集めた形。
本日のオルフェウス陛下の来訪に合わせてセッティングしていたソファーやローテーブルもそのままに、長机を引っ張り出して生徒達を着席させた。
ついでに、ちょっと遅くなった夕食を食べながら、と少しだけ行儀は悪いまでも、今日のところは仕方無いだろう。
「永曽根はどうなの?」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、オレはもう、ほとんど問題無さそうだ…」
そんな中でも、口々に飛ぶのは、病気を発症したとされている永曽根への安否。
今は、オリビアに魔力吸収して貰う為に、膝の上に乗っけたまま、今回の会議兼夕食に参加している彼。
………何気に似合ってんな、その姿。
生徒達から次々と掛けられる声に、どこか気恥しそうに答えていた。
「しかも、先生まで発症したって…」
「教会に行っただけだった筈なのに、血みどろになって帰ってくるんだもん。驚いちゃったよ」
「面目ないが、オレも平気だ」
斯く言うオレも、生徒達からは散々心配されている1人。
永曽根と一緒で風呂に入ってすっきりはしたが、ストックしていたスーツやシャツをまたしても血まみれにしてしまった所為で、今はジャージ姿となっている。
………はぁ。
『溜息を吐いた所で、言及を辞めるつもりは無いぞ』
『テメェ、まだオレが発症した事疑ってんのか?』
『そこまで、ピンピンしているなら、疑いたくもなろう?
………女神様の言葉は信じるが、そうやって飄々としている態度が気に食わん』
更に言うなら、オルフェウス陛下の送迎を行っていたゲイル達も帰ってきていて、丁度血みどろで帰ってきたところに鉢合わせをしてしまった。
おかげで、言及が凄い。
しかも、オレも『ボミット病』発症しちゃった☆なんて言った所為か、一旦彼は昏倒した。
うわぁい、またしても人間が後ろにひっくり返るところを見ちゃったよ。
夕食の準備が整った辺りでやっと眼が覚めて、そのまま夕食の席に一緒に同席している。
ついでに言うなら、生徒達の中には、ゲイルと同じ考え(こんな時に不謹慎だ)と、詰られつつも、
「とりあえず、今回オレ達が発症した病気『吐き出し病』について話しておくよ」
とりあえず、と前置きした通り、先に病気に関する予備知識と言う形で口頭で説明する。
『ボミット病』は、言うなれば体質的に魔力を排出出来ず、かつ貯め込み過ぎてしまう故に発症してしまう病気である。
症状としては、全身の倦怠感から始まり、空咳、悪寒、吐き気、眩暈と段階を置き、最終的には魔石や血反吐を吐き出すまで至る事から『吐き出し病』と。
しかも、その血反吐や魔石を吐き出すまで至ると、体内の魔力のサイクルが鈍り、魔法を発現出来なくなる事。
それと、血や魔石と一緒に生命力も消費してしまうので、そのまま死に至る可能性の高い難病である事も説明した。
そして、魔力が一定以上ある人間であれば、掛かる可能性がある事も伝えておく。
今回、オレと永曽根はそれに引っ掛かってしまった訳だが、今後生徒達の中からも発症しないという確証は無い。
ただし、
「現在、緩和策としては、オリビアが魔力を吸収するという形で症状を抑えることが出来ている」
オレの気付いていた勘や予感は、決して間違っていなかった。
永曽根は発症したと言うのに、自覚症状が出ていたにも関わらずオレの発症は約半日ほど遅れていた形となっていた。
教会ではオリビアや他の女神様方、またはイーサンからもお墨付きを貰う程、オレの魔力総量は比較的他者よりも高かったようだ。
それに対し、永曽根の魔力総量は、オリビア曰くオレの半分以下であるという。
それにも関わらず、オレは永曽根よりも発症が遅れていた。
そして、オレの本格的な自覚症状が現れたのは、オリビアがいなくなってから。
倦怠感から一時、意識を失っていた状態も含め、空咳からの血反吐まで至る時間が、約1時間以内だったことから比較的、進行が早いのにも関わらず。
それが何故か、と気付いた時には、オレには確信に近い答えが出ていた。
オレと永曽根の違いは、年齢でも体質でも魔力総量でも何でも無い。
オリビアと『契約』しているかしていないかの違いだ。
そう考えると納得できる部分は多々あった。
それが、今回の病気への対抗策と成り得るヒントだった。
オリビアが、女神として『契約』したオレの魔力を吸い取り、自分の魔力に変換していた。
女神様は、精霊の加護を物理的に無視する事も出来るので、魔力があればあるほど絶好調となるらしい。
だが、少なくとも以前までは、オリビアであっても魔力だけは有限だった。
精霊達の物理法則は無視出来ても、その代わり体内(?)で魔力を生成出来ないという厄介なデメリットを持っているのも、女神様の特性であり問題だったようだ。
………ここら辺は、やはり女神様も万能では無いって事だろう。
だから、数百万年以上もこの地に留まっているのに、力が戻ってはいなかったのだ。
外部からの魔力を供給して魔法を行使する女神様方にとっては、聖堂内だけではその魔力供給も限界があるから。
しかし、そのデメリットを解消したのもまた、オレとの『契約』であった。
『契約者』と結んだ『血の契り』によって、眷族となった女神様は、お互いの魔力の変動や体調の変化、ある程度の精神感応も可能になっている。
その中に、魔力供給も含まれていた事が新たに発覚し、彼女も知らない無意識の間に、『契約』したオレと魔力を共有し、なおかつ吸収という形で魔力を少々拝借し続けていたのである。
言うなれば、オレもオリビアの加護を受けるが、彼女もオレの加護を受けているという相互性の関係だった訳だ。
だからオレは、体質的に永曽根と一緒であっても、無意識下のうちに魔力をオリビアに供給、または吸収して貰っていたので、蓄積した魔力の総量が比較的少なく、永曽根よりも発症が遅れていたと仮定出来た。
そして、今回その過程を確信へと変える為、永曽根には悪いが実験と称して、『契約』と言う形でオリビアの能力を適応させて見たという事。
わざわざ彼の血を採取して、教会にトンボ帰りしたりしていたのも、その『契約』に必要である『血の契り』を、無理を言って女神様方にお願いしたからであった。
まぁ、流石にタダでとは言えないので、地味に女神様方が興味津々だった魔石(オレが吐き出してしまった分である)の半分を、教会に(勿論しっかり洗浄して)贈呈して来た。
残りは、回収して来たがな。
(何かの役に立つかもしれない、とオレの第六感が告げていたので、洗って持ち帰って来たの)
とまぁ、オレの血ゲロモテモテ問題はさておいて。
そんな事をつらつらと食事を続けながら話して行くと、生徒達からは若干生温い視線と共に、何とも言えない表情が返ってきた。
しかも、何故か本人である永曽根からも。
「………オレ、マジで1ヶ月寝てたとかじゃないなよ?
普通、こんな短時間でこんな簡単に緩和出来るようなもんじゃねぇと思うんだが、」
「女神様の奇跡だ。ありがたく拝んでおきな」
そう言ってやると、彼は膝に抱えたままのオリビアを見て、オレの言葉通りに拝んでいた。
それを見て、オリビアが気恥しそうに微笑む。
………何あの癒し空間。
今現在では、オレも永曽根も体調不良も感じることなく、全快とまではいかないまでも病気の進行は抑えられている。
まだ安心するのは尚早かもしれないが、峠どころか、タイムリミットであった半年は裕に越えたと思われる。
やっぱ、人間は健康が一番だねぇ。
「………マジで、治療法見つけちゃうとかね」
「………やっぱ、銀次って、規格外」
「凄いよ、先生!先生と結婚したら、何も困ること無さそう」
ほのぼのしい様子を眺めていたら、杉坂姉妹からは何故かドン引かれ、伊野田からは逆に尊敬の眼差しで見られた。
マイナス方面は華麗にスルーして、伊野田にだけ苦笑を零しておいた。
「おう、多いに敬いたまえ。
ただ、結婚は勘弁してくれな?………オレと結婚すると、知らない世界が見えちゃうと思うから」
『なんか、卑猥』
………何故だし?
別にオレは、危険思考な話をした訳では無く、裏社会な話をしただけなのに、杉坂姉妹からは汚物でも見るような視線が突き刺さった。
伊野田に至っては、何故か赤面してプルプル震えているが。
………解せん、ぐすん。
「でも、先生が最近体調が悪かった理由、なんとなく分かって良かったね?」
「最近、倒れる事とか多かったから、まさかとは思ってたけどな」
「………面目ない」
榊原と香神からは揃って納得をされ、再三の居た堪れなさを感じる。
今日何度目かも分からない罰の悪さを感じつつ、頭を掻いて誤魔化した。
………ただ、事実とはちょっと違う。
最近、倒れまくっていたのは、夢見の悪さからの寝不足と、貧血、ついでにただオレのメンタル激弱とか言う。
否定すると余計に言及が酷くなりそうなので、黙っておいた方が良いのかもしれない。
ただし、
「(………後でお話させてくださいね?)」
「(………あ、はい、ごめんなさい)」
何故か、にっこり笑っている間宮には、モロバレしている様子。
そんな彼の背後には、なにやらどす黒い靄のようなものが立ち上っているように見えて、オレは思わず頷いてしまっていた。
………あれ?オレ、師匠だったよね?
とりあえず、後で間宮とは無言(手話)で『オハナシ』となるだろう。
『………しかし、未だに信じられんな。本当にお前も発症しているのか?』
『あのシャツとスーツが見えないならな』
そう言って、背後で干されているオレの血みどろと化した衣服を指さすと、途端にゲイルは口を噤んだ。
ちゃっかり夕食に相伴していたゲイルは、まだオレの発症は疑わしかったらしい。
『ボミット病』の症例は幾つかあるものの、発症してから動き回れる人間は少ない、というかいないとの事。
まぁ、これだけピンピンしていたら、疑わしいとは思うか。
『それもこれも、女神様の加護さ』
『………面倒臭くなってないか?』
『………バレた?』
なんでバレたし。
地味にコイツも、また訳の分からん精霊か何かの力で、精神感応しているんじゃないか、と疑ったしまった瞬間である。
まぁ、なにはともあれ、
『でもまぁ、これで目処が立ったとは言えるかな』
『………本気で治療法を確立するつもりだったのだな』
『ああ』
勿論だ。
オレの今までの行動基準を見ていれば、すぐに分かるんじゃないだろうか。
意外と完璧主義で、ついでに生徒達優先だから。
ともあれ、彼にも今後は色々と働いてもらう事になるだろう。
なにせ、いくら友人とはいえ、本人の知らない間に結ばれていた貿易の盟約条件である引き渡しの件を黙っていたのだから、立派に同罪だ。
オレはまだ、それを許すつもりは無いし、許せるようになるまでは絶対に下僕扱いは辞めてやらないからそのつもりで。
『………忙しくなりそうだな』
『おう、分かったら、馬車馬の如く働け』
『………容赦が無いな』
そう言いながらも、存外嫌そうには見えないのは、きっとオレの気のせいでは無いと思う。
………ただ、変な性癖に目覚めるのはやめてね?
***
と、言う訳で。
この日からオレ達は、技術開発部門と医療開発部門を同時進行で立ち上げる事となった。
まずは、貿易での規制緩和を狙った技術提供及び開発では、『石鹸』とその他諸々の嗜好品なんかの開発を目標に。
続けて、オレ達が現在発症してしまった『ボミット病』への緩和策や治療法の確立という医療開発を目標に。
ゲイルの言うとおり、今後は忙しくめまぐるしい生活が待っているだろう。
せめて、そんな怒涛の生活の中でも、少しは生徒達の生活が向上できる事を祈るしかない。
秋も深まる10月の事。
そんな明確な予感と、微かな期待を持ちながら、最近多すぎた強制イベントをやっとこさ終了出来たのだった。
***
(視点が変わります)
ダドルアード王国の訪問は、恙無く終了した。
たった一つの問題を残して。
『石板の予言の騎士』である、ギンジ・クロガネとその『教えを受けた子等』の勧誘に失敗した事だ。
どうしてこうなったのか、と考えてみれば反省点は多岐に渡った。
最初は女だと思い込んでしまった事も反省点の一つ。
まさか、女性の下着を物色するような者が、『予言の騎士』とは思えなかった事も勿論だったが、一番の要因はその眼を瞠るような容貌。
流麗な黒髪と、抜けるような白肌と、まるで男とは思えない色めいた顔立ち。
凛々しいとも美麗とも表現できたその表情と、たおやかに伸びた手足や長身も見事に調和し、違和を感じさせなかった。
だというのに、自身は既に彼を女として疑いもせず、そのような議場の席で堂々と求婚をしてしまったなどとは、今考えても羞恥に苛まれる。
盟約の条件に盛り込んでまで、彼を『白竜国』へと招致する算段を付けていたというのに、それも見事に瓦解した。
更に、その瓦解を招いた要因の一つである、彼の交渉力の高い話術の巧妙さ。
拒絶だと分かっていたにも関わらず、その言葉の端々から滲む感情すらも読め解けなかった。
交渉事で、右に出る者はいないと称されていた己ですら。
後から聞いてみれば、我が右腕とも呼び声高いベンジャミンですら、彼の感情の抑揚を感じられなかったという。
ーーー『誰に確約をされたとしても、貿易は国政に関わる事でございましょう?
そうなれば、私とていくら『予言の騎士』の肩書きを持っていたとしても、条件を満たさぬ限りには、『騎士』を名乗る事はおろか、その権威の行使も儘なりませぬよ』
まさかあれほどの切れ者だったとは、思いもよらぬことだった。
『予言の騎士』と謳われておきながら、王国としての『騎士』の諸条件を満たしていないから引き受けることが出来ないなど、屁理屈だ。
しかし、その屁理屈も自身の失態をかんば見れば、通用させるしかない。
国政に携わるのであれば、『騎士』では無い己は、ただの教職者であり、人身だろうが女神からの加護を受けていようが関係ない。
そう言って、彼・ギンジは切り捨てたのだ。
まず手始めに、ダドルアード王国で学校を設立し、根付いている事を挙げていたが、それはこちらとしても最初から分かっていた。
しかし、騎士団の不敬による、『拘束や拷問』について反間(間者)のおかげで露見していた為、引き離すのは容易と考えていた。
次に、生徒達がこの王国を離れたくないと思って居る事を挙げられたが、それは、我々の与り知らぬ事だ。
ギンジさえ引き抜いてしまえば、生徒達も必然的に付いてくるだろうと、安易に考えていた部分があったが、よもや言葉の履修段階が幼児程度だという理由だとは思ってもみなかった。
それに、精神面で今現在安定して来たばかり、と先に聞いていたのは僥倖か。
確かに、生徒達の中にとある病気を発症していたので、これは本当の事だったのだろう。
最後に、一介の教職者である事を挙げ、分不相応と言っていた。
しかし、そう言っておきながら、現在の自身達の危うい立ち位置を、良く理解していると思っていた。
仮にも国王である私の対面に座ったのだから、なにかしら考えがあっての事だとも。
しかし、彼の返答は実に簡潔で、私の予想を斜め上に行っていた。
現職の『騎士』ではないが、後々に『騎士』になる予定である。
だから、一介の教職者として分不相応な引き抜きは受けないし、そもそも受けられない。
しかも、言外に含めていた脅しには、思わず戦慄してしまったのを今でも覚えている。
そんな方法を、一介の教職者がどこで学んだというのか、ダドルアード王国のみならず、『白竜国』や『竜王諸国』でも信徒の多い『聖王教会』の伝手を使って、あわよくば喧伝するなどとは大それたことを言ってくれたものだ。
しかも、それが半ば本気の脅迫であった事も、俄かに想像に絶する。
そうなれば、わが『白竜国』はおろか連名で引き渡しを要求していた、『竜王諸国』とて国民からの批判は避けられないだろう。
その危険を冒してまで、引き渡しを強行する度胸も無く、そもそも私一人の独断で決めて良い事では無かった。
ダドルアード王国と交わした盟約の条件には、『予言の『騎士』』の引き渡しを要求していたのだ。
『騎士』では無い人間を引き抜くとなれば、それは盟約条項の違反とななってしまうし、後々の禍根や弱味となる部分は、ダドルアード王国相手だとしても容認は出来ず、強硬手段に出ることすら適わない。
やられた。
してやられた。
交渉術を一身に磨いてきた己が、よもや他国の者、それも国政に深くかかわっている訳でも無い一介の教職者と言い張る者に遅れを取るとは。
悔しかったなど、生ぬるい。
今までの自分の努力はなんだったのか、と悲嘆や虚無すら感じられた。
その見識の深さと、更には言い回しの思慮深さ。
時たま、浅い回答をして揚げ足を取ることや、少しの情報を引き出せる事はあったとしても、彼の言い分を瓦解する案は、終ぞ私の脳内に浮かんでこなかった。
『予言の騎士』と言う人物を、ただの一人の人間の器だと、甘く見ていた結果である。
まさか、『予言の騎士』にあそこまでの切れ者が召還されたとは。
異国と言っていた文化も、本当は異界の文化である事は知っている。
その知識の根が、我等よりも遥かに深く、更に広い事も少し話しただけで分かっていた。
彼は、私の傾倒する趣味である、音楽の話に片手間で付いてきた。
初めてその眼で見て、耳で聞いたその時から、まるで初恋をした乙女のように惚れ込んで来た、文化とも言える音楽の世界。
得意分野に持ち込めば、彼とて少しは顔色を変えるだろう。
嫌がらせの一環として、また傾倒した趣味の話へと引き摺りこんでくれようと、その音楽の話へと持ち込んだ。
だというのに、彼はその音楽にすらも通じており、更には異界の知識も持っていた。
これでも負けてしまったと思えば、悔しい等と言う感情ではとても表せなかった。
しかし、それ以上に悔しいと感じてしまったのは、そんな彼と共通の趣味ともなる音楽の話をしていた瞬間、楽しいと感じてしまったことだった。
奢るでもなく、また侮るでもなく、駆け引きも悪意すらも無く放たれた賛美が、未だに耳に響いて離れてくれなかった。
『陛下は、本当に音楽がお好きなのですね。
好きこそもののなんとやらという言葉が我が祖国にはございますが、オルフェウス陛下の練磨には叶わないでしょう』
その時の声や表情、その微笑みすらも脳裏に思い出し、胸がじんわりと熱くなった。
正直、負けてしまったと思っても、その瞬間は年甲斐もなく嬉しさが先行してしまっていた。
彼の笑顔の中には、決して悪意も嫌悪も存在していなかった。
幼少の頃から傾倒し、女のような飯事や悪癖だと、父母や兄弟姉妹、果ては部下のベンジャミンや、配下の騎士達からも言われ続けていた。
それを、彼はたった一節の言葉で塗り替えてしまったのである。
正直に言えば嬉しかった。
そして、それが完全に負けを認めた瞬間だったと思っている。
彼の目は、その時も教師の目だった。
まるで、私ですら生徒のように見ているような、包み込むような穏やかな目をしていた。
ああ、悲しいかな。
完敗だった。
『………なぁ、ベンジャミン?』
馬車へと同乗している、我が右腕へと語り掛ける。
視線は、馬車の窓の外を眺めやったまま、どこか遠くを眺めたままであった。
騎士団長としても、私の古き良き友人であり理解者としても、長年過ごして来たベンジャミン。
馬車の窓枠と壁に肩肘を凭れたまま、国王然りとしない姿勢でいたとしても、彼は何も咎める事をしない。
馬車の中であれば、他人さえいなければ堅苦しい礼儀作法など必要無い、と分かっている上に、そう言った時しか息を付けないと知っているからこその心遣いだった。
そんな彼へ、
『………私は、国王失格だろうか?』
落ち込んでいるのか、それとも嘆いているのかも分からないまま。
いっそ、負けた心地が存外悪いものでは無いことに気付いて、嘆息すらもしてしまいながら、問い掛けた。
『いいえ。陛下以外に、この『白竜国』の国王となり得る方などおりませぬ』
目線だけを返せば、彼はそう言って、苦笑を零していた。
やはり、彼は私の良き理解者だ。
まるで、自身の心を読まれたかのうように、欲しい言葉をくれたのだから。
そんな彼の表情にも、どこか達観した物を感じ、ふぅと息を吐いた。
常に気を張り詰め、肩肘を張っていたと思う。
いつもいつも国王としての姿勢を崩さず、視線を意識し、行動を抑制し、感情を制御して来た。
その所為か、いつしか自分自身で制御できないぐらいには、常に気を揉んで、病んでいた。
それが、今回のダドルアード王国での訪問の最中、『予言の騎士』の前でだけは、薄氷を一枚一枚削いでいくかのように、いつの間にか落とされていた。
帰り際の捨て台詞など、やんちゃな子どもの癇癪と変わらなかったでは無いか。
見栄を張り、自身を頼ろうともしない彼のそんな姿勢や態度が煩わしくなって、ついつい吐き捨てるような言葉を掛けてしまった。
おかげで、ベンジャミンからは散々の小言を受けていたのは、記憶にも新しいのだが。
ただ、肩の力は自然と抜けていた。
旧来の友人に接するように、彼に接してしまったのが何よりの証拠だった。
『姉上になんて言って許してもらおうか。
私が、市井の者に、唯一の特技である交渉で負けた等と知ったら、なんと言われるか、』
『………それも、『予言の騎士』なれば、致し方ないかと』
しかし、肩の力が抜けたとしても、杞憂が消える訳では無い。
父母は早世した為、残された兄弟姉妹と暮らしているが、その中でも一番気懸かりであるのは、唯一無二の姉だった。
本来であれば私の政務である、先王としての役目と執務を担っている彼女。
実のところを言えば、私は彼女の道化であり、裏で糸を引かれた仮初の王であり、操り人形。
交渉以外の才能を持ち合わせていなかった私を、良しとしていないからこその無理だった。
そんな彼女は、今難病に侵されている。
その難病は、奇しくも本日の学校への招待の際、生徒の一人が発症した病『ボミット病』であった。
今現在は、低迷期に入っているのか、閑話策として講じているとある方法が効果を得ているのか、比較的落ち着いてはいるが、いつかは進行し、姉が死んでしまっても可笑しくは無い。
そうなれば、傀儡であった自分が、名実ともに『白竜国』を取り仕切っていく事となるだろう。
それを不謹慎ながらも心待ちにしていないと言えば嘘になる。
だが、それを許容できず、漠然とした未来に恐怖を感じているのもまた事実だった。
だからこそ、私は最後の最後で、彼・ギンジの最後の対応に、ついつい目くじらを立ててしまった。
何故、諦めようとしないのか、ましてや治療法を確立しようなどと荒唐無稽な事を言い始めた時は、半ば我を忘れるほどの怒りを覚えた。
先述した、『ボミット病』への緩和策となるとある方法すらも、最後の切り札として使うつもりで、最終的な勧誘をしたというのに、彼はそれを瘦せ我慢と要らない意地の為に跳ね退けたから。
そんな見栄っ張りで荒唐無稽、考え無しの男に負けた覚えは無い。
その時は怒りも相まって、国王らしさも矜持も無く悔しさすらも表情に表してしまっていただろう。
ベンジャミンに指摘されて初めて気付いたが、時既に遅く。
だが、それを世迷い事と断ずる事は、終ぞ出来なかった。
何故だろうか、彼の全身から溢れる自信や、意思の強固な群青の瞳に圧倒されて、結局捨て台詞程度しか言い放てなくなってしまった。
そして、
『………あの方は、無理すらも道理と、きっと成し遂げてしまうのでしょう』
その彼の頭脳と知識を改めて考えてみれば、治療法を確立するのも時間の問題のように思えてしまった。
絵に描いたような気質で、有限実行を地で行くあの青年。
学校への招待は勿論、持て成し、交渉、授業すら完璧に行っていた男だ。
おそらく、治療法を近い内に確立する事だろう。
そうなれば、私はお払い箱となり、操り人形でも無くなってしまう。
確立された治療法を対価に貿易の続行を迫られれば否やは言えず、更に言えばその方法で姉が完治、もしくは容体が落ち着いてしまえば、私は完全に居場所を失う事となる。
だが、何故だろうか。
『あの方なら、と思ってしまうのだよなぁ…』
『………左様でございますな。
なにせ、あの戦場の黒獅子『串刺し卿』が、まるで仔犬のようにあしらわれておったのですから』
ベンジャミンの言葉に、思わず噴き出した。
まるで、自身達のように、旧来の友人のような掛け合いを、立場も気負いも傍目すら関係なく行っていた2人の姿を思い出す。
………あれは、確かに主人と飼い犬の躾に近い。
『はははっ。お前も、存外ウィンチェスター卿を気に入っている癖に』
『まさか。私は、自身の好敵手と認めた相手が、あのように無様に尻尾を振った様が気に食わなかっただけでございまする』
『それも、相手がギンジ様では仕方もなかろうよ』
そう言ってしまえる程には、彼には一目どころか二目も三目も置いてしまっていた。
ベンジャミンのように良き好敵手と考えれば、己の中でもしっくりと来た。
もし彼、ギンジ・クロガネが治療法の確立を成功させたのならば、近いうちに私は排斥され、国王としても執政者としても、その地位や名誉を失う事になるだろう。
漠然とした恐怖を感じる未来も、現実のものになるのかもしれない。
だが、それも存外、怖くはなくなっていた。
『………早めに隠居してしまいましょうか』
『ダドルアードに幾つか、土地を見繕っておきましょう』
『ふふふっ。………お前は、一で十を読む男で助かる』
それならば、とっとと隠居しよう。
そうしよう。
そうして、ただのオルフェウス・グリードバイレルとしてダドルアード王国に引っ越してしまうのだ。
余生を音楽に囲まれて過ごし、我が儘を叶えるとするならば、『予言の騎士』の持ち得る知識すらも授けてもらおうか。
そこまで考えれば、思わず、年甲斐も無くにやけてしまった。
今回のダドルアード王国への訪問や、彼の『予言の騎士』からの学校への招致も存外悪いものではなかった。
むしろ、ギンジや教え子達、そんな彼等の異世界の文化に触れられた事は、実りある時間だったと思っている。
『彼は、きっとこの先、大成する事だろうな。
………うかうかしていると、ダドルアード王国は、我等が貿易を頼み込まなければならない程に、発展してしまうかもしれない』
『………あり得そうな未来でございますな。
では、今の内に、教え子様方を引きこんでおいては?』
『…う、うん、それは考えて置こう』
ベンジャミンの何やら含みのある言葉には、ぼっと顔から火が出るかと思うほどに頬を紅潮させてしまった。
元々が白い事と北国故の陽に焼けることの無い肌が、この時ばかりは憎らしい。
ギンジの教え子であった、双子の姉妹であり眼を瞠る程の美しい少女達。
片や垢抜けた、片や野暮ったい、両極端の格好をしていしても、その美しさは寸分の狂いも無かった。
一目惚れという経験は、嘗て少なく無かったとはいえ2日も連続する事は無かったので、自分自身も驚いている。
1日目は言わずもがなギンジであるが、それはもう忘れたい。
出来れば、後々彼女達を我が伴侶として迎えることが出来れば、あるいはギンジとの繋がりも強くなるかもしれない、と皮算用とは知りつつも、期待をしてしまうのは、悲しいかな自身も男だという事を如実に表していた。
『年頃の娘は、何を欲しがると思う?』
『そうですな。………やはり、装飾品や宝石の類でしょうか。
…いや、彼女達はむしろ、服装に興味があったのかもしれませんな。
買い物の時には、とても楽しそうにしていたのを覚えておりますれば、』
『おお!それが良い!早速、帰った時に手配をしよう』
繋ぎたい相手に、物品を贈るのも交渉としては常套手段だ。
贈っておけば送り返すことも侭ならず、後々に交渉にも使えるといううって付けな方法でもある。
あの双子の少女達以外にも、間宮という少年も見所があった。
纏めて勧誘するのは難しくとも、少女達だけでなく生徒達全員に満遍なくそれなりの品を贈れば、いくらなんでもギンジとて文句は言えまい。
そうむくむくと笑みを堪えつつ考えていながらも、
『やはり、お前は一で十を読む男で助かる。
………その気遣いも、私の護衛の時に少しでも発揮してくれれば良いのになぁ』
『それは、申し訳もございません。不器用なもので…』
ベンジャミンが私の護衛に気を張り過ぎて、空気を読めないのはいつものこと。
それで、一度ならず二度も『予言の騎士』と、その護衛である『串刺し卿』に噛みつかせてしまったのだから、それは私の躾の落ち度。
一度も噛みつく事無く、強かに控えていたウィンチェスター卿も凄いが、そんな彼を躾けたギンジも凄いと、感嘆してしまったのは内緒だ。
やはり、今回の訪問は楽しかった。
次回は半年後。
たった6ヶ月、されど6ヶ月だ。
その間に、彼等はどれだけの成果を上げ、どれだけの功績を残してくれるだろうか、と実に次回の訪問が楽しみだった。
***
永曽根が『ボミット病』を発症して、1週間が経過した。
それはオレも一緒なのだが、オリビアと『契約』してからは、目立った症状が出ていない。
オレと永曽根で、揃ってオリビアに魔力を供給しているからだ。
流石は、女神様の加護で、奇跡の御業という奴だ。
ただ少しだけ問題があるとすれば、たまにオリビアが加減を間違えてしまい、オレと言わず永曽根までもが魔力不足に陥ってダウンするぐらいか。
魔力不足って死ぬ事もあるらしいから、加減に気をつけて欲しい。
なにはともあれ、今は、経過観察中だ。
『ボミット病』の恐るべき症状、嘔吐や吐血も出ていないし比較的落ち着いているので、安堵している。
今では、永曽根もオレも肩にオリビアを引っ付けて、授業に普通に参加しているので何よりである。
そして一番の何よりは、オリビアがご機嫌だ。
ご機嫌通り越して、御満悦で、常にお花畑を走り回っているハ○ジ状態となっている。
オレと永曽根という魔力の供給が充足し、魔力が有り余って満ち溢れているらしい。
色々な面で、無駄に力を行使するようになってくれた。
………いや、役に立つならそれで良いけど、お姉さまに供給する為に蓄えておけよ、ちょっとは。
その為にウン百万年も、この地上に留まってるんじゃなかったの?
ひとまず、治療法に関しては研究を続けながらも低迷期だ。
オレも永曽根も落ち着いているし、ドナーと言うか実験体と言うかがいない。
うん、実験体。
本当の患者さん使って、緩和策や薬剤治療も開始しようかと思って。
イーサンに教会に行った時に、細かい話を詰めていって、症例以外でも患者を募ってみたの。
見事にいなかったけどな。
この病気、子どもや老人だと発症から10日前後で亡くなってしまう。
健康な大人ですら半年持つかどうかで最高でも半年なのだから、最低はもっと短い。
ひとまず、街にあった医療院に掛け合っては貰っているけど、早々出てきそうに無いので一旦保留。
生死に関わる病気だから、本当は出てこないほうが良いんだけどね。
保留にしておかないといけない理由もある。
だって、忙しすぎる。
実にしょっぱい。
まずは、整理をしよう。
しなくてはいけない事が盛りだくさんだ。
・インフラの整備。
・警備の増強。
・技術開発部門の始動。
・医療開発部門の始動。
・『ボミット病』の治療法の確立。
・必須科目(英語)の奨励。
・通常の授業。
・特殊技能の授業。
・生徒達のメンタルケア。
・技術部門の開発に合わせた流通ルートの確保。
・医療部門の研究に合わせた人員の確保。
インフラの整備は、文字通り急務でもあった。
最近では、秋空の下、既に真昼でも風が冷えてきているし、これでは『ボミット病』以外でも、生徒達が風邪を引いてしまうだろう。
夜間になるとそれは顕著だ。
上着も欲しいし、元は教会設備で最初から暖炉は無かったらしく、学校には暖房設備が魔力供給型の魔法具しか備わっていなかった。
その為、オレ達だけでは稼働が出来ないとか悲しい現実。
孤児院になってからでもそこまでの改装は出来なくて、そのまま保留となっていたらしく、ガチで湯たんぽで冬を凌いでいたとか吃驚するような事を聞かされた。
とりあえず、インフラに関しては、また騎士団に手伝って貰いながら色々と取り揃える事になるだろう。
暖炉の設備はこの際仕方ないとしても、生徒達の上着が意外と値が張った。
たった2週間しかいないのに、当初貰った金額が既に半分を割っている為、そろそろ出費が痛い。
技術開発に本腰を入れないとまた王国から金をせびる事になってしまう。
それ以外でもせびっているのだから、そろそろ自分達で稼ぎを入れていかなきゃな。
次に警備の増強だ。
これは、元々ゲイルと話し合って、突き詰めていった内容そのままである。
最近では色々な問題が発生し過ぎて記憶の彼方に吹っ飛びそうになっていたものの、学校の内部に隠されていた赤い眼の少女への対策だ。
もうこの街に潜伏していても可笑しくは無いと、オレは考えている。
それに、その赤眼の少女は、何故かオレの事もオレの過去も知っている事実が発覚しているので、最悪、怨恨による襲撃も考えられる。
その為、出来ればオレや間宮以外にも戦力が欲しいところ。
最近オレだけで動き回る事が多すぎた。
城に行ったり、教会に行ったり、オレ一人で動いていた。
その間の護衛は、全て生徒達に宛てていたとは言え、それでも心許無いと感じてしまうのは、本家本元の護衛達を知っているからだろう。
オレや間宮もご存知、『ルリ』様だ。
前回学校へ招待したオルフェウス陛下が、交渉で右に出る者がいなかったのなら、『ルリ』は護衛で右に出る者がいなかった。
オレでもアイツが護衛している相手を暗殺できないだろうし、むしろ狙いたくもない。
………いや、元々アイツに勝てないけどさ。
それを考えると生徒達の強化訓練に関しても前倒しにすべきだろう。
この際、英語の習得云々と言っている暇は無くなった。
他にもゲイルと色々話し合った結果、ゲイル率いる『白雷騎士団』は、ライトニング部隊、ライト部隊、フォトン部隊と3つの中隊に分けた。
ライトニング部隊、ライト部隊は精鋭を集めているの事もあって学校の警備として残り、フォトン部隊は王城の警備へと戻る事になったのだ。
しかし、何故か問題が発生。
城の警備へと返り咲きとも言える筈なのに、何人かの騎士からは渋られた。
半ば本気で泣かれて、思わずオレもどうしようかと思った。
オレが言うのも難だとは思うが、『予言の騎士』と『その教えを受けた子等』の護衛に就く事がそんなに名誉じゃない事を、是非ともゲイルで学んで欲しい。
閑話休題。
次に、技術開発部門の始動。
要は石鹸だ。
作り方は思い出したし、確か載ってたよなーって感じで調べた理科の教科書に歴史もバッチリ載っていた。
とはいえ、苛性ソーダの代わりになる海藻ソーダ、つまり炭酸カリウムを現段階では手配して貰っている最中なので、本格的な始動は商品が届いてからだ。
いや、なんか今日明日中には、って張り切ってた商人がいたから分からんけど。
他には石鹸を作るなら、女子達はシャンプー・リンスも欲しいだろうなと考えてレモン(似たようなものだったけど味は完全にレモンだった。確かシュピーだかなんだか)を大量発注。
あれだ、石鹸で髪を洗うときしきしになるじゃん。
あれは、石鹸で洗う事によって髪がアルカリ性に傾くので軋みの原因になるからであって、酸性で中和してやると髪が痛まないのだ。
その為のクエン酸というか酸性商品だな。
元々、シュピー自体、この地域では果汁を絞って酒にするぐらいしか使い道が無かったらしい。
大量発注したら思わず怪訝な顔をされて『お酒でも造るので?』と聞かれたので、発覚した事実。
頭に塗るって言ったら滅茶苦茶ドン引かれたけど。
今後の石鹸の流通ルートで使ってもらいたいならその顔をやめろ。
上から目線なのは、売れると分かっているからだ。
ちなみに、石鹸に関してはやんわりと触りだけ話しておいたのだが、したっけ滅茶苦茶食いつかれたので、その時になったらまたお話しますと強制終了にした。
………ちょっと失敗したかも。
ちなみに、出費が痛いとかぴいぴい言いながらも、金に糸目はつけていない。
なにせ、協賛が王国だもの。
やる事は派手なぐらいが丁度良い。
………国庫からの出費だから、国民の皆さんには申し訳ないとは思うけどね。
さて、それはともかく。
次に医療開発部門の始動だな。
オレも永曽根も、オリビアに任せっきりと言う話にはならないだろうから、なるべく早めに治療法を確立したい。
医療院勤めの魔術師兼医者という肩書きの権威を召還予定になっている。
授業の一環として組み込むのも有りかもしれない。
『ボミット病』の治療法の確立も含めて、この世界では進んでいないだろう医療技術を専門的に扱おうと思っている。
これで学校の授業に支障が出るなんて事になったら本末転倒だから、まだ治療院の開設までは考えていないけど、地味に『聖王教会』と繋ぎを付けて、時期を決めて徹底的に国民の医療事情へと踏み込んで見るのも在りかも知れない。
だって、この世界、有り得ないことに現代の戦国時代の歴史と同じく、『医者に掛かる=破産』なんて方程式が普通に存在していたんだもの。
聞いた時には、医者(貴族連中)が逆に破産しろとか思ったりなんだり。
今回は、永曽根とオレが発症したが、今後他の生徒達に発症しない保証や確証はどこにも無い。
只でさえ医療の発展が遅れている世界なので、何の変哲も無い風邪だって致命的になり得る。
更にはゲイルや騎士団勤めの連中からは、怖いことまで聞いた。
この世界、治癒魔法がある所為か、傷口を消毒しないのである。
おかげで、その後の肥立ちが悪くて手を切り落としたり、脚が不随になったりという症例まで出て来た。
………おいこら、それこそ本末転倒だろうが、馬鹿野郎。
しかも、それが街の治療院でも同じらしく、生半可な事では生徒達を治療院に掛けるのは怖いなと感じたわ。
一回、こっちの医療に鋭く切り込んでやりたいと思っている。
酒でもなんでも良いから、とにかく消毒の概念を刷り込んでやりたい。
まぁ、それも追々やっていかなくてはならないことなので、さておいて。
次に、必須科目(英語)の奨励。
これは、この世界では必須の勉強なので、方針はずっと変わらない。
そこら辺を歩いている子ども達ですら、完璧なスパニッシュイングリッシュを披露してくれているのだ。
そんな子ども達に馬鹿にされない為にも、一ヶ月は集中的に英語をみっちり勉強して習得して貰おう。
文字の習得はオレも合わせて行っているがな。
香神や間宮は勿論の事ながら、一部の生徒、主に永曽根と伊野田は既に日常会話ぐらいならクリアできるようになってきた。
唯一問題なのは、知能的な問題児である徳川だが、さてコイツはどうしてくれよう。
………分からないからって、サボるのも寝るのもあり得んだろう。
オレの怒りはともかくとして、次に通常の授業に関しては、これも英語と同じくずっと変わらないだろう。
数学は算術、歴史は文化や地理だし、理科は魔法の応用にも使えるし、医療開発にも理科実験は必要不可欠だ。
そのうち、全員分の白衣を揃えてやりたいとか思っている。
………形から入るのって、大事だと思うのはオレだけ?
ちなみに体育は、トレーニングから強化訓練に切り替えた。
運動音痴の連中は見るからに修練に遅れが出ていても、こっちも英語と同じで必須だ。
一ヶ月ぐらいで地盤だけは固めておきたい。
ちなみに、ここでは永曽根が嬉々としていた。
仮にも病気なんだから、マジで本気に勘弁してください。(いや、それはオレも同じだけど)って感じで、オレどころか生徒達に止められていた。
オレの場合は、修練のやり直しというか鍛えなおしとなっているので、毎日毎日、間宮とゲイルを相手に組み手の毎日だ。
あ、そうそう。
間宮は、地味にゲイルよりも強かった。
これは、おそらく機動力の差だ。
彼は流石『ルリ』の弟子というかなんというか、粗は目立つがすばしっこい上に動きがアクロバティックだった。
ゲイルは始終振り回されっぱなしで、気付いたら懐に入られて急所を押さえられていた。
ただ、それでも決してゲイルが弱いという訳では無いのだ。
ゲイルは、地味にオレと同じぐらいは強かったりしたのだから。
ただ、やはりリーチの問題が、真っ先に上がってくる。
懐に入る事が出来ればオレが勝つが、槍の射程圏内の広範囲で勝負をすると、今度はゲイルが勝つ。
ほぼ五分五分で、勝敗は数えていないので分からないが、おそらくは同等かそれ以上だと考えられる。
しかし、ただしが付いて、魔法を使われると分からないし、こっちも拳銃を持ち出したら分からないけど。
良いライバル兼友人が出来たもんだ。
………ただ、オレは間宮に負けているのね。
ぐすんぐすん、シショウノイゲンッテ、ドコニニゲタノカナ?
さて、気を取り直して次は、特殊技能の授業。
生徒達から出して貰った案を纏めて、授業に組み込んで行くカリキュラムの事である。
料理、裁縫から始まり、鍛冶製鉄、冒険までだったっけ?
いや、冒険ってなんだよ、馬鹿野郎。
ちなみに、今は手一杯なので英語の履修が終わってからにする事にした。
最初は乗馬にしようと思っている。
逃げるような事態にまず遭遇して欲しくは無いが、逃亡手段として技能を取得していない事で、いざという時に逃げ道を選択できないのは辛い。
と言う訳で、これに関しても全員が必須科目。
ただし、半身不随の紀乃には申し訳無いが、移動は誰かの背中の上になるけどな。
他にも、今後の時期に合わせて、女子組が楽しみにしていたであろうアイススケートや、スキーなども組み込んでも良いかもしれない。
向こうの知識だけでどこまで再現できるのかは不明ながら、やってみて役に立つと思えばそれぞれ習得を頑張ってくれることを祈ろう。
オレもなんとかそれで乗り切ってきたのだ。
最後の最後で逃げる事は出来なくても、色々な場面で活躍できたのもまた事実だ。
………考えると空しくなったけど。
役に立つか立たないかの損得勘定よりも、チャレンジャー精神を養って欲しい。
そして、まず何よりも魔法の履修だ。
これは、オレも含めた全員が早めに覚えたほうが良いことが、今回の『ボミット病』の発症で発覚した。
溜め込む前に放出する事さえ出来れば、発症は抑えられるだろうという安易な考えではあるけどな。
そして、これは流石にオレも教えられないので、今回は、特別講師としてゲイルをお招きする事にしている。
オルフェウス陛下の時にも言ったかもしれないが、元々そのつもりだったし。
理念や概念、魔力のコントロールの修行に関しては、オレが前倒しでゲイルに習うことになっている。
ただ、この世界では常識が欠如している。
オレ達の常識が通用しないという大問題があるので、正直不安である。
さて、オレの不安はさておいて、次の問題は、生徒達のメンタルケア。
最近、徐々に表面化して来ていると言っても過言では無く、元々あった不満が、そろそろ限界を迎えつつあるといったところだろうか。
浅沼は、最近悶々としている事が多くなったが、多分、アレは溜まっているんだと思う。
何が?って聞くなよ?
下世話なシモの話だよ。
ただ、伊野田は目立って表面化していない。
学校から持ち込んだ本や何やらで一人で解消出来ているのかもしれない。
良いことだ。
香神は、打って変わって最近活き活きしている。
英語も堪能で、オレからは個別授業で礼儀作法を学び始めた事もあって、日々充実しているようだ。
間宮に対抗意識があるのがたまに瑕ではあるが、概ね良好らしい。
続けて榊原も、浅沼同様悶々としているようだ。
アイツの場合は、パソコンが使えてもインターネットが出来ないというストレスだろう。
前にソーラーバッテリーを渡したら、あっという間にノーパソの虫になったからな。
杉坂姉妹の妹、エマは最近オレにくっつきまくるようになった。
人肌が恋しくなったのか、それともオレとの距離が前よりも近くなった事に起因しているのか。
それで精神衛生上良いかと言えばそうでもないので、教師と生徒の枠組みを越えない努力をしようとしか思えない。
杉坂姉妹の姉、ソフィアはどちらかと言うと消沈している。
最近、部屋の中でも泣いているのは彼女だけになっているらしい。(隣の部屋だから丸聞こえなの)
精神的に追い詰められている証拠でもあるので、近いうちにせめてカウンセリングは行ってやろう。
今度は男兄弟の常盤兄弟の兄、河南は最近心無しかボーっとしている。
紀乃を眺めてはボーっとし、授業風景を眺めてボーっとし、オレを眺めてもボーっとしている。
これも精神的に追い詰められている事から来る症状なのだろうか、はたまた別の要因が起因しているのか掴みかけている。
常盤兄弟の弟、紀乃は兄とはうってかわって元気そうだ。
最近、顔面神経の劣化が進んで来て、声が裏返るのが多くはなっている。
しかし、理科系医療系の授業となると奇声にも似た笑い声でハッスルしてくれるので、概ね心配は無さそうだ。
しかし、次の徳川に関しては、これが一番顕著に現れている。
常にイライラしている。
おそらく、授業について来れない腹いせもあるだろうし、初恋相手のオリビアが、オレか永曽根にべったりだからそれも含まれているのかもしれない。
生徒達に八つ当たりをされても困るのでそろそろ対策を練るべきだろう。
そんな徳川に対して、永曽根はこれまた目立って表面化していない。
むしろ、落ち着きすぎているとも思う。
病気に関してもオリビアがいる所為か上手く付き合えているようだし、授業の成果が出ているのもあってか、体育や技術開発面でもやる気も高い。
最後になったが間宮に関しては、相変わらずとしか言いようが無い。
コイツは何を考えているのかよく分からないまでも、今の生活に満足している様子。
適応能力が高過ぎる気がしないでもない。
生徒達に関しては以上だ。
オレのカウンセリングに関しては、何故かゲイルが行ってくれている。
え?お前、そんな事まで出来たの?と思ったら、こいつ意外と万能だった。
どちらかと言うと、元々ゲイルは口下手な奴だ。
おかげで、聞き上手。
予期せぬ出来事のおかげでオレの過去も知っている所為か、よくフォローしてくれている。
………本当に、良い友人が出来たもんだな。
***
まぁ、オレ達の現状はそんな感じ。
今後確保していきたいのは、技術部門の開発に合わせた流通ルート及び、医療部門の研究に合わせた人員だ。
さすがにオレ達だけで、商売から医療まで取り仕切るのはまず間違いなく無理だから。
技術提供を出来て、なおかつそれを引き継ぐ、もしくは広めてくれるこの世界の協力者は必要。
一応騎士団長経由で『商業ギルド』に繋ぎは作ってもらった。
以前、ゲイルの裏切りというか秘匿が発覚した時に、訪問がたち消えてしまっていたのだが、改めて繋ぎを付けて、学校を始めた旨と今後技術提供という名目で商品開発を行っていく為の許可のようなものを頂いてきた。
その甲斐あってから、最近では、食料品の搬入とかでも学校に出入りするようになった、商売人の何人か。
………こっちの世界でもセールスってあるんだな。
オレや間宮、ゲイルも交えて、人の良さそうな人間を数人見繕って出入りして貰っている。
そのうち、石鹸やリンス、その他の技術を展開するルートも確立出来るかもしれない。
また、医療関係者に関しても、同様だ。
先ほども授業に組み込む話をしたが、この時代の医療の差異を知る分には問題ないだろう。
ただ、こっちの医者は向こうの医者よりも居丈高なので、ゲイルからもたまに巡回のついでに立ち寄ってくれるジェイコブからも、要注意とか認定を受けた。
………うむ、そのうち鼻を明かしてやらんとな。
(『そっちの問題か?』と、ゲイルからは突っ込みが入ったけどね)
なんか、こっちの医者は貴族が多いらしいけど、ほとんどの貴族よりも良い生活しているかもしれないらしいよ。
しかも、女とか酒とか麻薬とかの悪い方面で。
おいおい、医者の不養生とやらを地で行くのかよ、とか、やめてね、医療院から性病発症とか目も当てられないし、とか思っても言わない。
市井を巻き込まないで勝手に自滅してくれる分には問題無いからね。
と、まぁ、どうでも良いオレの感想も混じってるものの。
今まで考えていた脳内メモのやる事リストは、以上だ。
いや、本当は騎士に本格的に就職するっていう試験的なものもあるんだけどね。
魔法もまだ使えないから、そっちも急務になってるけどさ。
まだ、教師からの騎士への職業転向は抵抗があるというかなんというか、心底げっそり。
これ、元裏社会人のオレからして見ても確実にオーバーワークだと思う。
いくら休みを返上した公務員とは言っても、これは流石にやり過ぎ抱え過ぎだと思ってしまって、そろそろ休暇申請を出すべきだろうか?とか考えてしまう。
………生憎と、どこに受理して貰ったら良いのか、分からないけど。
しかし、ふとそこで考えると、思い出したのは学校での生活だった。
あ、そっか。
休日を作ってしまえば良いのだ。
オレ達の通例として、土日は無理でも、1週間の7日区切りのうち、1日だけでも休みにしよう。
そうすれば、多少は生徒達のストレスも緩和出来ると思うし、オレも気兼ね無く休む事は出来るだろう。
うん、そうしよう。
***
「………よし。これぐらいで、なんとか日程は決まったか」
独り言を挟みながら、予定帳代わりになっている束ねた羊皮紙に書き込んだのは、今抱えているやる事リスト。
そろそろ、脳内メモも限界だったので、書き出してみたんだよね。
ついでに、授業日数などの時間割も作ってみたり、勿論、お休みも盛り込んてみたり。
ただ、そのうち、本気でタイプライターでも開発してやりたい。
じゃないと、オレの右手が腱鞘炎で死ぬ。
ともあれ、これでやることの整理は出来た。
一つ一つ、確実に片付けて行く目処も立っている。
幾分同時進行である事が頭の痛い問題ではあるが、こっちの生活にもそろそろ慣れて来たおかげで、少しは余裕が出来たと思っておきたい。
希望的観測ではあるが。
じゃあ、オレは寝る。
今日は最初の休日だ。
久しぶりに怠惰な生活へと戻ろうと思い、ベッドへと潜り込めば夢の世界へ一直線。
と、思ったら、
『先公~~!!商売人が、商品持って来たってよ~~!!
昆布が一杯届いたけど、あんた何を頼んでんだよ~~!!出汁でも取るのか~~!!』
階下から聞こえた生徒の声に跳ね起きた。
『………オレの休日、カムバック』
そうならないのも、もはやお約束である。
***
前回のお話でティーチャーが血反吐を吐いた場面に加筆しました。
血中に毒素が混入していた話を本編に絡めて書きまくっていたのに、作者が設定を忘れているとか言う凡ミスしてしまいまして。
血ゲロも毒入りでございます。
御指摘いただきましたふわりふわ様ありがとうございます。
それから、ちょっとぐだぐだになってしまった言い訳。
そろそろごちゃごちゃとしてきたので、一旦やる事の整理をしようかと。
これから本格的に内政をNAI☆SEIにしていくので、その前段階。
冗談じゃなく、割と本気でこの国に改革を起こしてやろうとか考えているアサシン・ティーチャー。
そのうち、彼は車とかも開発してしまうかもしれませんね(笑)
バイクとかでも良いのですよ。
女の夢ですから、二ケツww
…………そうでもない??
ピックアップデータ
出席番号4番、榊原 颯人。19歳。
身長172センチ、体重55キロ。
くすんだ明るい茶髪に、目の色は見ようによっては金色に見える茶色。
バンダナやカチューシャなどで髪をかきあげている。
曰く、パソコンが見づらいから。
そういった小物を使ってまで髪型にちょっとしたこだわりがあるのは、御愛嬌。
顔立ちが切れ長な女顔な為、まるで女の子に見えてしまうらしい。
これもコンプレックスらしい。
当時14歳で株を大当てしてしまった天才少年。
それが実は天才ハッカーだったという暴露。
高校に入る前に両親ともに警視庁にマークされてしまったので、已む無くこの夜間学校特別クラスに入学した。
成績は、ギンジのクラスでも3番目。
やっぱりハッカーの頭脳は伊達じゃない。
運動も好きでマラソンが得意。
ただパソコンオタクが祟っているのか、ひょろ長モヤシ体型。
しかし、喧嘩は出来る。
永曽根とガチで殴りあった事もあるほど。
負けたけど。
クラスの中でも一・二を争う体力馬鹿、徳川とは同じ年齢という事もあって仲良し。
小学校までは、実は幼馴染だったとか言うなんか不思議な関係。
実家の近くの道場が関係しているらしいが、詳しくは不明。
普段はおっとり、いざという時は切れ者の19歳。
4回目となったピックアップデータ。
ハッカーとかまんま厨二病とか言わないでっ。
誤字脱字乱文等失礼致します。




