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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、技術開発部門設立編
24/179

閑話 「感じ方は人それぞれ ~出席番号10番の場合~」

2015年9月15日初投稿。


昨日はお休みいただきました。

事後報告で申し訳無いです。

仕事で、フルタイム出勤だったので、執筆時間がありませんでした。


20話を過ぎてからの、閑話。

今現在、大変な思いをしている彼です。


ごめんよ、永曽根くん。

病気にさせてしまって。

でも、この話を挟まないと、後々大変なプロットになるから、どうしても挟み込む。


***



 オレは、本当はこんな生活望んでいなかった。


 武道家、永曾根家の長男に産まれた事。

 現代日本に時代錯誤も甚だしい家柄で、親父が当主でオレは嫡子なんて呼ばれてた。


 どこの戦国時代だよ、としか思ってなかった。


 ただ、産まれた事に関しては感謝している。

 器用さはあったらしい。

 そうやって産んでくれた父親と母親にも感謝はしている。


 オレは10代で武道家の家のトップエリートになった。

 らしい。

 嫡男にして、師範代だった。


 けど、オレはどちらかというよりか、武道は好きじゃなかった。


 だって、殴らなきゃいけないし、蹴らなきゃいけない。

 礼儀も五月蝿いし、間違っているとすぐに殴られるし、竹刀で叩かれる。

 痛い思いなんてしたくない。


 オレは茶道や華道の方が好きだった。

 小さな頃は体が弱くて、武道を始める前はよく寝込んでいた。


 そんな手持ち無沙汰な時に、茶道や華道を知って夢中になった。

 ら、女のままごとをするんじゃない、と親父に怒られた。


 なにかと、無道家の心構えや矜持を持ち出しては、説教をしてくる親父。

 いつしか、親父が嫌いになっていった。


 幼馴染の女の子がいる。

 その子は、永曽根の分家とか言う秋雨家の長女で華道では名の知れた家柄だった。

 小さな頃から、一緒に育った。


 顔から何から、キツイ子だった。

 ちょっと性格もキツイ。

 だが、オレは昔からちょっとやんちゃだけど泣き虫だったから、丁度良かった。

 彼女は泣いているオレを引っ張ってくれた。

 今思うと恥ずかしいけども。


 まだ、小さい時だったけど、裸も見ている。

 風呂にも一緒に入った。


 結婚したいと、漠然と思っていた。

 後にも先にも、そう思ったのは彼女だけだった。


 けど、親同士が仲が悪かった。

 永曽根家は武家、秋雨家はどちらかと言うと公家。

 だから、どんな戦国時代だよ。とか思っても、親父達の考えは変わらない。


 オレも従うしか無かった。

 逆らったらぶたれるから。

 彼女も同じだった。

 習い事の時間を増やされたらしい。


 そのうち、オレ達は自然と会えなくなっていった。


 そんな、言いなりのような生活を続け、15歳になった時だった。

 オレは、全国大会を制覇してしまった。

 周りは、オレを期待の新人だとかで持ち上げまくっていた。

 オレの周りには段々と取り巻きみたいなものが増えていった。

 武道がちょっとだけ好きになった。

 強くなっていた。


 強くなりすぎて師範代どころか、師範の親父さえオレに手を出せなくなっていた。

 おかげで、オレは増長していた。


 オレはこれだけで生きていけると思っていた。

 半ば本気で。

 馬鹿にも程がある。


 その頃のオレは、親父にもお袋にも反発しかしなくなっていた。

 そのうち家を出て行ってやるとも思っていた。


 それは、早い内に訪れた。


「元治、お前も高校生だ。だが、女性との付き合いをするのは禁止する。

 お前には、既に婚約者がいる。その子と結婚しなさい」


 親父は、オレの知らない間に、勝手に見合い話を貰って来て勝手にそれを引き受けていた。


 どっかの政治家の娘で、家柄がどんなもんで、ここそこと繋ぎがあるから役に立つとかって言ってた。

 将来、オレが生活には困らないとも言っていた。

 オレに良いことばっかりを聞かせて、丸め込もうとしていた。


 オレは、それに吐気がした。


 従いたくなかった。

 それも、勿論有った。

 けど、なによりも、勝手に決められた人生が嫌だった。


 何で勝手に決められた女と結婚しなきゃいけないのか。

 顔を見た事も声も聞いた事も無い女と、なんで結婚しなきゃいけないのか。


 オレは、家を飛び出した。

 二度と帰らないと、心に決めて。


 ただ、世の中そんなに甘くない。


 15歳程度で何か働く事が出来る事なんてある筈もなかった。

 そして、オレはまだ体が成長しきる前の、ひょろ長いモヤシ体型だった。


 それじゃ、すぐに未成年だとバレるさ。


 警察に補導された。

 久しぶりに飯を食ったのも、警察署だった。


 今思えば、本当に何をしているんだか分からなくなる。


 けどオレの身元の確認の為に親を呼ばれそうになって、オレは夢中で逃げた。

 あんな家に、帰る事が嫌だった。

 こんな警察のお世話になってむざむざ、家に引き戻されるのが嫌だった。


 ただの我が侭だった。


 逃げ出したオレは、ひたすら遠くに走った。

 腹に詰め込んだ飯が出そうになっても走って走って、海まで出た。


 そうしたら、暴走族の集会に遭遇してしまった。


 ただ、オレには知らない世界だった。


 そこのリーダーがまた気の良い奴だった。

 オレの顔を知っていたのか、すぐにオレを暴走族にスカウトしてくれた。

 武道家の家の子どもの腕前だ、あっと言う間に幹部になれる。


 甘い、誘惑だった。

 事実、その通りだった。


 オレは暴走族の幹部にとんとん拍子でのし上がって、リーダーもオレを一目置くようになった。

 しかし、実際には、一目じゃなかったんだと思う。

 恐れていたんだと、今更ながらに気付いた。


 だが、オレは力に酔っていた。

 増長して、とんとん拍子で事が運ばれていくことが楽しくて、それ以上のことを考えようともしなかった。

 飯だって誰かに睨みを利かせればすぐに買って来る。


 そんな生活を2年近く続けていたら、あっという間にオレ達の暴走族はその界隈では一番のチームになっていた。


 リーダーは辞めていった。

 チームがでかくなり過ぎて、怖くなったのだろう。

 オレに跡目を任せて、勝手に消えた。

 見つけ出して、ボコボコにしてやった。


 それが、けちのつき始めだった。

 オレは思い違いをしていた。


 リーダーは怖くなって辞めたのではなかった。

 稼業を継ぐ為に、暴走族を辞めたのだ。

 リーダーの稼業は、管内で幅を利かせていた、暴力団の元締めであるヤクザだった。


 オレもまさか、あんな小さな暴走族のリーダーがヤクザの息子だとは思ってなかったし、リーダーも何も言わなかった。

 だから、オレは容赦なくリーダーをぼこぼこにしてしまった。


 おかげで、オレ達のチームはヤクザに睨まれて、半年ぐらいで半壊した。


 警察沙汰には何度もなった。

 チームの何人かが消された。

 死んだとは思ってなかったけど、ニュースを見て愕然とした覚えが合った。


 ヤクザに絡まれる。

 警察にも絡まれる。

 その度に、オレはどうしようも出来なかった。

 どうしようも無かった。


 襲って来たヤクザをボコボコにして返り討ちにした。

 絡んできた警察を捲き、死の物狂いで逃げまくった。


 それが、2年ぐらい続いた。


 いつの間にか、チームはオレ一人になっていた。

 オレは、手配書が出される寸前まで追い込まれていた。


 疲れていた。

 そろそろ、ヤクザの人海戦術がキツイ。

 警察の包囲網も何かと面倒だ。


 だが、そんな時でも体に沁み込んだ習慣ってのが役には立った。

 ヤクザの襲撃もある程度は予測できるし、警察の包囲網だって、少し気配を感知するだけで突破できる。

 武道家の家に産まれて、この時ばかりは良かったと思っていた。

 昔取った杵柄とやらが、それ以外に役に立つ事なんて無かったけど。


 キツイ生活は、どんどんオレを、追いこんで行った。


 ただ、それよりも何よりも、まず金が無かった。

 4年近く暴走族なんてものをやっていた所為で、働く事だって侭ならない。


 いっそ、永久就職してやろうか。

 ヤクザに。


 そんな馬鹿な事まで考えていた。

 そんな馬鹿な事を考えてまで、実家に帰る事はしたくなかった。

 そんな馬鹿な生活をしてでも、実家に帰る事が出来なかったのだ。


 オレの悪名を聞いてか、ヤクザの襲撃以外にも勧誘なんて事もあったからだ。

 半ば本気で考えた。


 そんな時だった。


 浮浪者のような格好のまま、街から街へと紛れる為に歩いている時だった。

 鼻に付く、柔らかい香りに誘われるまま、花屋に通りかかった。

 花なら食っても毒にはならないかな、なんてそんな事を考えた。


 飢えていた。

 畦道の雑草を食えるぐらいには、腹が減っていた。


 そこで、


「…元治?」

「…静華?」 


 オレは、彼女と出会った。


 オレの名前を呼んだ、彼女と、彼女の名前を呼んだ、オレ。

 10年越しの再会だった。


 幼馴染で分家の、秋雨 静華。


 10年近く、音信不通だった彼女と、ばったり出くわしたのだ。

 彼女は、その花屋でアルバイトをしていた。


「え…ちょっと、大丈夫?アンタ、なんか浮浪者みたいになってるけど…!?」

「あ、ああ…浮浪者だからな」

「素直なのは良いけど、色々問題だから!

 …なにしてんの!?実家は!?今、どこに暮らしてるの!?」


 久しぶりに会った彼女は、オレの姿を見て驚いていた。

 オレも、久しぶりに会った彼女の姿を見て、驚いていた。


 美人になっていた。

 昔は、洗濯板みたいだった体つきも、今では女らしい曲線を持っていた。


 それになにより、綺麗になっていた。


 手入れの行き届いた黒髪や、ちょっと切れ長の目。

 その分、唇がややぽってりとした感じが可愛らしい。

 顔立ちもどことなくシャープで、本気で惚れ直した。

 ガチだった。


 オレとは雲泥の差。

 過去も、生活も、今の現状も。


 彼女は、実家を継ぐ為に修行と称して花屋で働いていて、将来をしっかり見据えて、受け止めて、一生懸命に働いていた。


 ………その実、オレを探す為に実家以外の場所を出入りしようとしていたなんて事は後から知ったけど。


 久しぶりに会って、オレの恋心は再燃した。


 なにより、その働いている姿が酷く感銘を受けた。

 綺麗な顔で、綺麗な所作で、見事な花束を作り上げる彼女。


 オレの盛大に鳴った腹の所為で、飯に連れていかれて。

 食事をしている最中には、オレの事をとにかく心配したり気に掛けてくれたり。


 昔のキツイ性格はそのまま残っていたけど、それを余りある優しさで覆い隠していた。

 やっぱり惚れ直した。


 それと同時に、今の自分の現状を情けなく思った。


 オレは、こんな生活をしているが、彼女は、そんな生活を知らない。

 更には、彼女には目指す将来がある。


 なのに、オレの将来なんて決まっている。

 ヤクザに永久就職か、警察に捕まって犯罪者、最悪どこかでお陀仏になった死体だけだ。


 薄ら寒かった。


 彼女の隣に立つ事で自覚した自分の末路。

 彼女の隣に立つ事で自覚した自身の醜悪さ。


 そして、彼女の隣に立ち続けたいという願望。


 薄れていた生への渇望が強くなった。

 

 このままじゃいけない。

 半ば、漠然とした思考の中で生まれたのは、自分という人間の更生だった。


「なぁ、静華…お前さ、後5年待ってくれる?」

「どういう事?あたし、5年後は、多分…実家の稼業を継いでると思うけど、」

「その5年後にさ、もう一回会おうぜ?」

「…なんだよ、意味深なんだから」

「良いから…待っててくれるか?」

「…分かった。待ってるよ、元治」


 言質は取った。


 彼女は待っていてくれる。

 昔から、約束を違えることを嫌う彼女だから、きっと大丈夫。

 その為には、オレも約束を違えない。


 オレは、5年で更正する。

 その時に、そう、決めた。


 まずは、警察に行った。

 精算しなければいかないものは、たくさんある。

 事情聴取を受け、身の上を話したり、実家の事を話したりしたけど、今後は施設に入って更正したいと言った。

 なるべく、真摯に、素直に、意地も見栄も恥も外聞も捨てて、警察で全てを話した。

 ………ついでに、暴力団の元締めのヤクザやなんかの情報も、さらっと流してやったけど。


 そんなオレの姿勢が功を奏したのか、警察からはすんなり解放された。

 呆気ないもんだった所為か、若干拍子抜けしてしまったが、情状酌量の余地があるとかなんとかで逮捕される事は無かった。


 実家に連絡は行ったらしいが、両親が迎えに来る事は無かった。

 そりゃ当然だろう。

 どの道、オレはこれから更生施設に収容されるような人間なのだから、家柄を重んじていた実家からしてみれば、お荷物以外の何物でもないだろうから。


 警察署で手続きを待っている間に、今後の施設の紹介なんかをされた。

 精神病の患者用だったりとか、薬物依存などの更正施設だとか聞いたが、オレは、そのどれでも無かった。

 ただ、未成年者の更正施設にギリギリの年齢ではあるが1年間収容できると聞いたので、オレは、それを受けた。


 しかし、


「君、施設への収容を検討しているのですか?」


 色々な書類を受け取って警察署から帰る途中、話しかけられた。

 のっぽのサングラスを掛けた美人と、それに守られるように立っていた眼鏡。


 彼等から、夜間特別学校の話を聞いた。

 偶然、オレの施設収容の話を聞いたらしく、そこで、オレにこの夜間特別学校の話を持ちかけてきたようだった。


 上手い言い訳だと思ったし、上手い勧誘だとも思った。

 オレが今まで受けていたヤクザからの勧誘のどれよりも、魅力的に感じられる話し方をしていた。


 それになにより、その2人から感じた気配は、オレにとって慣れ親しみ過ぎたものだった。


 戦闘の気配。


 のっぽのサングラスなんて、オレが相手にしてきたヤクザ全員を一度に相手取ったとしてもまず負けないだろう。

 その実、隙が無くて、オレだって彼を前にして、勝てるなんて思えなかった。


 ………彼とは言ったが、結局性別がどっちなのかは分からなかったけど。


 オレはその話を受けた。

 受けるしかなかったというのも理由の一つである。

 のっぽの美人に気圧されてしまっていたのもあるし、その夜間学校の後に待っていた就職の話が魅力的だった。

 軍事関係者もしくは、警察とは言わないけど特殊部隊への配属も可能。

 オレは、一も二も無く頷いた。


 そして、中途半端な時期にも関わらず、夜間学校への転入が決まった。

 入学の時のテストは、有って無い様なものだった。

 意外と覚えてるもんなんだな、中学の模擬試験とか。

 オレは、一発で合格した。


 そこで、銀次と出会った。


「はじめまして、永曽根 元治。

 …えっと、話は聞いていると思うけど、オレが夜間学校特別クラスの担当、黒鋼 銀次だ。

 名前が似てるな、よろしく」

「あ、ああ…よろしく」


 驚いた。

 誰に?

 銀次にだ。


 黒髪でひょろ長い背高のっぽ。

 無表情と仏頂面がデフォ。

 片腕が使えないとかで、見るからに不便そうなひ弱な先公。


 なのに、オレは勝ち目が無いと思った。

 適わないと思ったのは、のっぽのサングラスの美人と同じ気配がしたからだ。


「転入とはいえ、授業内容は合わせる事が出来ないからな…。

 まぁ、高得点叩き出しているから関係ないか?

 一応、今までの授業内容のプリント渡しておくから、そっちで予習復習しておいてくれるか?」


 そう言って、自棄にあっさりと面談を終わらせようとした彼。

 ………面倒だって訳じゃなさそうだったけど、異色の過去を持っているオレからしてみれば、警察署で洗いざらい喋った時よりもあっさりし過ぎていて拍子抜けしてしまった。

 だから、余計な事を聞いてしまったのかもしれない。


「それ以外で、なんかねぇの?」

「…なんかって、何を?」


 オレが、元と言わずに現役の暴走族(まだ辞めて無かっただけ)だったり、ヤクザになるかもしれなかったことだったり、今後の進路の事だったり。

 中学までしか通っていないとは言っても、学校としては必要な情報とか注意とかしなけりゃいけないんじゃねぇの?


「お前の過去には一切触れないし、オレはお前達をこの学校から無事に送り出すだけの簡単なお仕事をしているだけ。

 …それ以外に言いたい事とかやりたい事があるなら、逐次報告してくれれば、」


 だが、銀次は、何も聞かなかったし、何もオレに構えていなかった。

 ちょっと悔しかった。

 お前なんか取るに足らないと、そう思われているような気がして。


 けど、それが当たり前。

 銀次には、やはりのっぽのサングラスの美人同様、隙が無かった。


 浅沼がパニック障害を起こして教室で暴れても、あいつは片腕一本で制圧した。


 榊原とオレで、色々揉めて喧嘩した時も、一発でノックダウン。

 オレ達2人ともだ。

 顎に食らった蹴りの痛みは、未だに覚えている。

 むしろ、急所に向かってあの蹴りはさすがにトラウマになる。


「元気なのは、良いことだ。若いってのもな。

 けど、生き急ぐのとなんでもかんでも暴力で訴えるのは間違いだ。

 …無謀と勇気も履き違えるな」


 銀次のお説教は、自棄に堂に入っていた。

 中身が詰まっていた。

 事実、アイツはオレと同じで、失敗した事(・・・・・)があったのだろう。


「幼馴染を待たせてるのか。…そりゃ、夢のある話なもんだ。

 だったら、喧嘩もしない。オレにも噛み付かない。問題も起こさない」

「全部、先生の都合じゃねぇか」

「そうだ、オレの都合だ。その実、一番お前達にとって実の有る都合だ」


 その通りだ。

 先生が何事も無く、オレ達を送り出す事が出来るって事。

 それはオレを含めたクラスメート全員が、何事も無く社会に復帰出来る事だ。


 反抗する事しか知らなかったオレと、そのオレの反抗すらねじ伏せた銀次。

 更には、オレの将来をしっかり考えてくれている彼に、オレは頭が上がらなくなっていた。


 だから、オレはこの世界に来てからも反抗はしないようにしていた。


 彼が元軍人と知って、納得した。

 怖いと思う反面、安心していた。

 それが一番、納得出来る答えだったからだ。


 オレをこの夜間学校に勧誘しに来た、サングラスの美人と眼鏡の男。

 そいつ等も軍関係者だったと分かれば、一番得心が行った。


 だから、後々の就職先が特殊部隊なんだ。と、十分に納得出来る理由だった。


 だからこそ、オレは彼に従った。

 事実上の先輩で、後々には上司になるかもしれない先公。

 なら、彼に従っておけば間違いは無い。


 だから、先生の言うとおり、オレは従い続けた。

 騎士に斬られた時も、先生の言うとおりにクラスメートを守ることだけを考えた。

 痛かったし、死ぬかと思った。


 でも、不思議と恐怖が無かった。

 心のどこかで、それも贖罪なんだと思っていたのかもしれない。


 オレが巻き込んでヤクザに殺されてしまった暴走族のメンバー達。

 彼等を殺したのは、実際にはオレの浅はかな行動だった。

 だから、この痛みも負うべきものだと、漠然と思っていた。

 けど、死ななかった。

 先生が必死になって、騎士に懇願していた。

 言葉が通じなくて、内容は分からなくても、オレを助けようとしてくれていたようだ。


 本当、先生には頭が上がらない。


 魔法とか言う変な力で、傷を癒された。

 身体の痛みは消えたけど、その半面、その時から体がだるく重くなっていた。


 拘束された。

 服だって引ん剥かれた状態で、身動きが取れなかった。

 恐怖しか感じなかった。


 それなのに、先生は拷問まで受けた。

 鞭で叩かれた背中。

 赤い血が滲んだその身体に、海水を掛けられて。

 痛いだろうし、苦しい筈だった。


 それなのに、オレ達を売らなかった。

 オレ達を守る為に、先生は一人で拷問を受けていた。


 先生は嘘を一つも吐かなかった。

 嘘でもでっち上げれば良いのに、それをしなかった。

 それすらも、オレ達を守る為だった。


 解放された時、先生は2日も寝込んだ。

 オレ達の為に、無理も無茶もして寝込んだ。


 なのに、責めない。

 オレ達を守る事しか考えていない。

 その為に、無茶ばかりする。

 気持ちを全部抱え込む。


 日に日に、先生の顔色は悪くなっている。

 日に日に、先生の身体が不調に陥っている。


 その背中を見ていて思った。


 オレ達がしっかりしないと、先生はもっと無理をする。

 オレ達がなんとかしないと、先生はもっと無茶をする事になる。


 だから、体が重くても我慢した。

 体調が悪くても、我慢して耐え続けた。

 それを言っては、いけない気がした。

 先生にこれ以上、無茶をさせてはいけない気がした。

 だから、オレも全部を隠した。


 それが、最終的にこんな事になるとは思ってもいなかったけど。

 先生の言うとおり、身体の不調を隠さず、無茶をしなければ良かったなんて、今更考えても後の祭りだった。



***


 

 なぁ、先生。


 …ごめん。


「…オレ、死ぬの、か?」


 でもやっぱり、死ぬのが怖ぇよ。


 なぁ、先生。

 オレ、この期に及んで、まだ死ぬのが怖くて、助かりたいとか思ってる。


 もっと、先生に教わりたい事たくさん有るんだ。


「…オレ、…死にたくない…」


 まだ、生きたい。


 幼馴染も待たせてるし、約束すらも果たせて無い。

 オレは、まだ半分も更生出来てないんだ。


 それに、こんな訳の分からない世界でなんか、死にたくない。

 先生が無理をしているのも、無茶をしているのも、全部知ってる。

 けど、オレも怖いんだ。

 死にたくないんだ。


 だから、助けてくれよ、銀次先生。



***

命の重さと健康の大切さを初めて知る事になった20歳。


作者と同じです。

命の重さも大事ですし、健康も大事です。

相次いだ友人の死や、併発した自身の病気を体験して初めて実感できました。

支えてくれた人たちにありがとうと、感謝を込めて。

今では元気に執筆作業を続けていますよ。


ピックアップデータ。

出席番号2番、伊野田 みずほ。18歳。

身長141センチ、体重36キロ。

黒髪に碧目。母親がクォーターだったので、目の色だけ受け継いでいる。

小人症の父親を持つ為か、身長が伸び悩んでいる。

身長はコンプレックスだけど、CAになりたい夢を持つ。

ただし、今は銀次に惚れこんでいる。

お嫁さんに憧れている部分も強いのかも。

CAになる為の口実のように、英語を必死に銀次に習っている。

でも、実は銀次と一緒にいたいが為の口実。

母親が麻薬の過剰摂取で死んだ事などを受けて、煙草やお酒などが大の苦手。

ただ、銀次が煙草を吸っている姿は好きらしい。

現金だね。

夢に恋するお年頃。

読書が趣味で、図書室の常連だった。

最近、この世界でも銀次が一緒なら大丈夫かな?むしろ、一個屋根の下とか幸せ!と思い始めている。


全員分続けようと思う、ピックアップデータ。

伊野田はスリーサイズを公開しなくても分かりますよね。

寸胴です。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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