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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、技術開発部門設立編
22/179

19時間目 「道徳~技術開発部門設立~」

2015年9月12日初投稿。


タイトルの通りです。

異世界クラスの次は、技術開発に着手します。

アサシン・ティーチャーは凡庸人型決戦兵器です。


19話目です。

進みが遅い。


(改稿しました)

***



 この異世界に召喚されてから、早くも10日が過ぎようとしていた。


 なんとか『特別学校異世界クラス』と銘打った学校をスタートさせ、殴り合いすらも行えるだろう友人も出来て、と順調に思えた新生活。

 その筈だったのだが、早くも暗雲が立ち込めようとしていた。


 それは、『予言の騎士』ことオレと、『その教えを受けた子等』となる生徒達の身柄を、このダドルアード王国の隣国である『白竜国』から引き渡しを要請された、という事に関連する。


 本日の午後からの授業を泣く泣く諦め、半ば強制連行のような形で、オレは『白竜国』国王であるオルフェウス・エリヤ・D・グリードバイレル(だから名前が長ぇよッ!)陛下からの召喚に応じ、王城へと登った。

 その際に、オレが女である事を勘違いされ、求婚された。

 あ、間違った。

 その話は、もう心の奥底に閉まっておこうと思ってたのに、苛立ちからか吐き出してしまった。

 ………オレも、結構ショックを受けていたりするんだからね?


 それはともかくとして、その謁見の際のやり取りに関して、国王とゲイルを交えて話し合いを行っている時、今度は『白竜国』ならびに『白竜国』を擁する『竜王諸国』連名で、オレ達の身柄の引き渡しを要求されている事を知った。


 そもそも、この王国は約7割方滅亡寸前とか言う有様で、その為に無理を言って『白竜国』と貿易をさせて貰っていたらしい。

 それも既に限界となりつつあり、その貿易の盟約の中でとうとうオレ達『予言の騎士』と『その教えを受けた子等』の身柄に関しても、出汁に使わざるを得なくなっていたと言う。


 最初の貿易の盟約と言うのが、オレ達への『目通り』だったのだが、それがダドルアード王国の金策が段々と滞ってくると、今度は『巡礼』へと変わり、最終的に今回の『引き渡し』へと話が発展してしまっていた。

 正直、オレ達が来る3年以上前から決まっていたとか、そんな話知らねぇよ? と、言いたいのも山々なのだが、そうなってくると今度は『白竜国』ならびに『竜王諸国』の連盟で『経済制裁』を仄めかし来た。


 『貿易の継続』を選び王国を存続させるか、『貿易の破棄』を選び王国を滅亡へと追い遣るのか。

 ダドルアード王国は今、オレ達すらも巻き込んだ選択を迫られている。


 簡潔に書くと、こうなる。


 『貿易の継続』の場合、オレ達は白竜国に文字通り売られる。


 その後、学校を続けられるのかも不透明で、そもそも生きて辿り着けるかどうかも分からない。(だって、オレ達そこまでアウトドア派じゃないし)

 今回準備した学校の環境準備だって意味は無くなるし、どっちにしろ今後の目途が立たない。


 『盟約の破棄』の場合、オレ達はこの国に残る事が出来る。


 しかし、輸入の制限や輸出の規制等の経済制裁が待ち構えているので、輸入貿易で食いつないでいたダドルアード王国は破綻する。

 結果、食糧不足に陥り、オレ達も割を食うだろう。

 その後は、やはり学校を続けられるかどうかは不透明となる。


 こうして簡潔に書いてみると、どちらに転んでも、オレ達は学校を存続させる事は出来ない事が分かるだろう。

 しかも、後者の場合は、学校はおろか生活する事事態が苦しくなるだろう事も眼に見えて分かっているので、是非とも避けたい所だ。


 そんな訳で、


「今説明した通り、オレ達『特別学校異世界クラス』は、始業3日目にして廃校の危機に瀕している。

 その危機を回避する為に、授業と同時進行でオレ達は技術開発を行い、王国の貿易安定化に尽力しなくてはいけない」


 早速ではあるが、緊急の作戦会議と称し、学校へと戻ったと同時に生徒達を集めて説明を開始した。


 裏庭の整備で散々肉体労働をしていた生徒達からは揃ってブーイングを受けたがな。

 それでも、今回の勃発した問題を話しているうちに、生徒達も文句を言っている場合では無いと察知したらしく、オレがこうして説明を終える頃には静まり返っていた。

 ただし、


「先生、意味が分かりませーん!」

「自分の頭で考えろ、徳川」


 内容をほとんど理解していない生徒1名を除いては。

 お前は、毎日能天気で羨ましいよ。

 おかげで、オレのチョークがまたしても、手元を離れて彼の額に直撃した。


 閑話休題。


 教室には生徒達とオリビア、護衛として同行している騎士達も当然のことながら、この王国の経理を担当している大臣も同席している。

 これは、国王陛下からの要請もあって、ゲイルに通訳をして貰った上で、その内容について金銭的に実現可能なのかどうかを精査して貰う予定だ。

 要は、オレ達の財布の紐とも言える存在である。


 ちなみにではあるが、今回発足させた技術開発部門に関しては、名称を『異世界技術研究室』と称し、無理やり王国の経理に報告するそうだ。

 スポンサーは勿論先ほども言った通り国王陛下なので、そうでもしないと経費で落とせないとかなんとか。

 面倒臭いから、ポケットマネーにしろよとか思ったら、国庫以上に金が無かったとか言う極貧国王様。

 おいおい、それって大丈夫?


 とまぁ、そんな事はさておいて。


「この廃校危機回避の為に必要な案件は、三つ」


 黒板に書き記した三つの必要になるであろう、案件。


 一つ目は、この王国での異世界クラス安定化。

 二つ目は、オレを含む生徒達の身体強化。

 三つ目は、技術提供。


 現状、オレ達にとって文字通りの死活問題となるのは、安定化と身体強化のみ。

 ただし、オレ達はこの王国で学校を設立してしまったし、今更この環境を捨てて、言われた通りに『白竜国』に行くのは、精神的にも肉体的にも無理がある。


 そこで、オレ達が異世界人である事を逆手に取った、抜け道が必要となるのである。

 オレ達には、この世界には無い異世界の知識、すなわちオーバーテクノロジーである文明の利器に触れていた経験がある。


 あっちが経済制裁を仕掛けてくるなら、それを緩和したくなるような商品を作ってしまえば良いじゃない?

 それが引いてはオレ達が引き渡しに応じない代わりの、一種の国政的妥協案となる。


 その為には、この三つの案件のうちの一つ、技術提供を片付けてしまわねばならない。

 そうしなければ、オレ達は自分達の首をつなぐ事は出来ないのだ。

 つまりは、そういう事。


 ………とはいえ、最近こういうことで頭を悩ませ過ぎている気がしないでもない。

 そのうち、物理的にも頭がパーン!てなりそうで怖い。


 さて、それはともかく。


「今あるものを、作り変えるって事ですか?」


 ふと生徒達を振り返ると、間髪入れずに手を上げたのは伊野田。

 彼女は、元々夜間クラスで書記をやっていた事もあり、議事録も書いてくれているというのに、質問にまで参加してくれるとは嬉しいものだ。


「それが一番無難だろうな、とオレは思っているよ」


 例えば、今こうして板書をしているこの黒板や、チョークなど。

 旧校舎に残っていた物も全て焼却処分としてしまったので、この現存するものが唯一の代物で、オレ達のアドバンテージ。

 これは、オレ達の授業へ貢献してくれるのみならず、国の軍議や商人達の商売戦略を考える際にも、打ってつけの商品となるだろう。

 だって、今までは口頭だけの説明だったり、紙に一枚一枚書いて説明をしてそのまま捨てていたり、なんて言うぶん投げ具合。

 サイズに関しては色々と妥協しなければならないだろうが、黒板やチョークをセットで売り出せば、きっと飛ぶように売れてくれる事は間違いは無いだろう。

 

 石灰ならこの世界でも簡単に手に入るだろうし、黒板自体も黒く塗っただけの板だから黒板だ。


 ただし、これに関してはいくらでも量産が出来るという難点もあるので、それだと『白竜国』で輸入したいと考える商品になるのは、最初だけとなってしまう。

 それだと、意味が無いのでこの場合は、却下、と。

 チョークだけは製造法を知らなければ作れないだろうが、黒板とセットで売り出さないと子どものお絵かき道具で終わってしまうので、こっちも保留としておく。


「必要になってくるのは、日常生活に必要なもの、かつ製造法が限られているものだ。

 お前達にもその案を出して貰いたい」

『とは言ってもねぇ…』


 難しい顔でまたしてもシンクロしながら呟いた杉坂姉妹。

 しかし、考えようとはしてくれているようで、同じような格好で中空を眺めながら思案をしているようだ。


「人体模型ハ駄目ですカ?」

「却下だ、馬鹿者」


 紀乃テメェ、真面目に考えろ。

 しかも、お前はどんだけ人体模型カオナシくんが好きなんだ?


 それに、人体模型は、地味に今後の医療技術にも関わってくるオーバーテクノロジーだから、おいそれとは外に出したくない。

 いくら気味が悪くても隠し玉だからこそ、お持ち帰りを許したって事もあるからな。


 って、話が逸れたが、


「そうそう。ついでに、この世界で作れるものに限定されるから、注意するように」


 現代あっちで作れたものが、異世界こっちで作れるとは思えないから、先に諸注意としておく。


「ますます分からなくなって来ちゃった」

「先公も、無茶を言うぜ」


 そう言って榊原と香神が机に頭を突っ伏した。

 地味にあの2人は暗記が得意組だったから、いざ新しく考えるとなるとどうしても躓いてしまうようだ。


 ただ、オレも結構無茶を言っている自覚はあるけど、それでも精一杯になってるって事は少なからず分かって?


 そんな事を考えながら、生温い視線でそんな2人を眺めていると、


『ギンジ、オレも一つ聞いても良いだろうか?』


 ふとここで、挙手したのはゲイルだった。

 何故、ナチュラルに生徒達に混ざっているのかは不明だったが、


『お前の不可思議な武器や防具はいかんのか?』

『却下だ』


 そして、その質問内容には、オレの不可思議と称された武器の一つであるナイフを投げて、黙らせておいた。

 ゲイルの顔擦れ擦れに放ったそれが、壁に突き立った音が自棄に響いた。

 生徒達も思わず黙り込んでいた。


『他国は敵国と同議なのを忘れるな。

 そんなところに、武器や防具を売り付けるなんて、自殺行為も程々にしろ』

『う、うむ…済まない』


 仮にも『白竜国』は他国で合って、大陸内で領地が隣接している時点で、仮想敵国となる。

 そんな所に何故、オーバーテクノロジーの最先端でもあるオレの武器や防具を売り付けなければならないのか。

 装備関連で補助をしますから、国防も含めてこっちの防御をお願いしますってか?

 戦後日本の二の舞になりたいのか?


 アイツ、どこかオツムが弱いんだが、自覚しているのだろうか?


 さて、気を取り直して、改めて生徒達へと向き直ると、


「ねぇ、先生。あたし達が生活するのに、足りないものでも良いの?」


 と、今度はソフィアが挙手をしてくれた。

 先程のゲイルのオイタが尾を引いているのか、おずおずと言った形で顔の横に挙げただけの小さな挙手が、大変可愛らしいです。


「それは、勿論。元々、それも考慮した上で、技術開発を目論んでいたからな」


 苦笑と共にそう言えば、彼女はまた思案を始めていた。

 こういった実用品で需要のあるものって、意外と女子組の意見が参考になったりするんだよね。

 双子のエマにも乞うご期待って事だ。


「あ、はいはい、先生」

「はいはい、榊原」


 ふとここで、今度は榊原が手を上げていたので、彼の声に合わせてオレも返答を返す。

 女子組に揃って吹き出されたけど、何かあった?


「専門書に載っているものの方が良いの?」

「それも考えたが、専門書に載っているものはまた技術が違うから、まだオレ達は手を出さない方が良いと思う」


 女子組に噴出されたのはともかくとして、榊原が言っている専門書と言うのは、おそらく教室の一面を占領している本棚に入れてあるものだろう。

 今は板を打ち付けて隠してあるが、中にはオーバーテクノロジーが五万と詰まっている。


 しかし、これに関してはまだまだノータッチでいたいと思っている。

 出来れば、技術面もそうだが販売ルートやそれによる収益の精査が出来るようになってからじゃないと、こっちの専門書からは技術提供を出来ないと考えている。

 おいそれと外に出せない技術なのも、確かなので、胃まで痛くなってきてしまいそうだ。


 それに、


「その前に、オレ達は技術を磨いておく方が良いだろう」

「そうだね。じゃあ、ランタンとか提灯とかはどうかな?夜になると蝋燭しか使ってなかったでしょ?」


 確かにランタンは見かけることはあるが、どの道蝋燭を立てただけのものだったし、他に見たことがあるのは『魔法』か何かで使用できるタイプのものだった筈。

 それなら、『魔法』を使用しなくても使える燃料型のランプなどを考案するのも有りだろう。


「よし、榊原に30P。100P溜まったらご褒美だ」

「よっしゃ!」


 ついでにポイント制にすると、少しは効率も上がるだろう。


 あ、でもちょっと待ってね?

 どうせなら、榊原の案と一緒に、その必要な条件を黒板に書き込んで行くから。


 『必要条件』

 ・生活面で必要なもの。

 ・製造方法が秘匿出来るもの。

 ・制作可能なもの。

 ・武器、防具以外。


 と、言った形で、今のところでの必須条件は全部だろうか。


 そうして、その中に『ランタン、行燈』と書き終え、後ろを振り返ると、


「お前等、そんなにご褒美が欲しいのか?」


 全員が手を上げていたのには、思わずオレも噴き出した。

 しかも、何故かオリビアまで手を上げているし。


『だから、テメェは何ナチュラルに混ざってんだよ!』

『うおっ!?』


 そして、テメェも何をやっているのか、我が下僕(ゲイル)

 またしても、ナイフが教室内を横断した。


 閑話休題。


 まぁ、例え褒賞効果とは言え、こうして意欲を見せてくれるのは良い事だ。

 ただし、真面目に考えていない場合は、こっちもそれ相応には対処するが。


「ちなみに、使えない案だった場合は減点とするからな?

 マイナス100Pの場合は、容赦なくお仕置きだ」

「先生が言うと、お仕置きが卑猥な響きに聞こえるよね、デュフフ!」

「………浅沼、テメェはマイナス90Pだ」

「リーチ!!?」


 テメェ、コノヤロウ。

 オレが『お仕置き』と言うと卑猥な響きとはどういう意味だ?


 この通り、失敬な奴にも容赦なく減点としてくれる。

 ………ゲイルは、もう問答無用でマイナス100Pで良いけどな。



***



 結局、選ぶのが面倒臭くなったので、先日の授業内容決定の時と同じく、出席番号順に書き込んでいくことにした。

 榊原と伊野田にバレたけど、減点を仄めかしたら黙ってくれたよ、ははは。


 後、ついでに、


『悪いが、オリビアは最後になるけど、良いか?』

『はい、大丈夫です!』

『素直なお返事でよろしい』


 こちらもナチュラルに生徒達に混じっていた女神様オリビアも、今回は一緒に参加して貰う。

 一番最後に、12番、オリビアと書き込んでおいた。

 そのうち、彼女も一緒になって授業を受ける事になるかもしれない。


 さて、それはともかく気を取り直して、生徒達の考えを聞いて行きましょうか。


「じゃあ、昨日と同じく出席番号1番、浅沼から、スタート」

「僕は、羊皮紙の代わりになるものが良いと思います」


 おお、なるほど、着眼点がなかなか違うな。

 彼等が現在使っているのは、現代で使っていたノートやルーズリーフもそうだが、それ以外では羊皮紙をまとめて買って来たものだ。

 シャーペンだとさぞ書きにくいだろうし、ついでに言うなら羽ペンが主流となっているので、鉛筆という選択肢も無い。


「よろしい。30P」

「デュフフ!やったね」


 と言う訳で、1番浅沼~製紙等。(ー60P)

 それでも、マイナスを大きく下回ってるけどな、お前。


「さて、次は2番、伊野田」

「あ、あたしも似たような感じだけど、ノートとか本とか、製本した紙製品とかが良いと思う」

「よろしい。30P」


 本好きらしい意見だ。

 だが、それを製本する技術に関しては、一体どうするつもりなんだろう?


 2番、伊野田~ノート、本等の製本品。(30P)


「次、3番、香神」

「定規とかコンパスとかの、文房具とかどうだ?

 ……そういや、ボールペンって、この世界の技術とかで出来るものなのか?」

「出来ない事は無いが、インクを詰める芯の開発が先になってしまうだろうな」


 ふむ、文房具とはまた考えたものだ。

 だが、あまり簡単すぎるものは、やはり量産が出来てしまうんだがなぁ。

 ボールペンに関しても、おそらく羽ペンで派生したのだろうが、それも同じく量産が出来てしまう。

 ただ、なかなかの着眼点なので、ポイントはやはり30P。


 3番、香神~文具類。(30P)


「次、4番、榊原」

「モーターとか、電動部品!…先生、オレもうそろそろ機械の無い生活が限界だから作って!」

「テメェの頭の中に設計図があるなら、作って良いぞ」

「………。」


 却下だ、馬鹿者。

 しかも、オレが作る前提で話をするんじゃない。

 着眼点は凄いとは思うが、テメェはマイナス30Pにしておいてやる。


 4番、榊原~ランタン、行燈等。(0P)

 プラマイゼロとか、お前な…。


「気を取り直して、次は5番、エマ」

「ウチは、服とか装飾品が良いと思う。

 こっちの服って、デザインがほとんど一緒だったりしたじゃん?」

「でも、それって量産出来ちゃうよね?」

「………。」


 流石は女子でファッション系にこだわりがあるようだが、それだけだとまだ駄目なんだよねぇ?

 どうせなら、その布を作成する糸車なんかの考案があれば良かった。

 20点にしておこう。


 5番、エマ~服飾関係。(20P)


「じゃあ、次は6番、ソフィア」

「髪留めとかどうかな?バレッタとか、髪ゴムとかシュシュとか、」

「可愛いと思うが、それも作り方は簡単だから量産出来ちゃうよな?

 しかも、髪ゴムとかだとそもそも、ゴムの原料どこで調達するの?」

「………そうだよねぇ~」


 やはり、この2人は双子の姉妹だったようで、姉のソフィアもファッションに飛んだ。

 お前ももうちょっと捻って、ゴムの生産加工について言及して見て欲しかった。

 いや、オレも言われても『ゴムの木を探せ』としか言えないけどさ。

 まぁ、彼女も20Pとしておこう。


 6番、ソフィア~バレッタ、シュシュ。(20P)


「じゃあ、次は7番、河南」

「洗濯板の代わりになるものとか?地味に大変だったからさ、あれ」

「ああ、そういやそれも良いな。河南、40P」

「あ、やった」


 おっと、気が抜けていたかと思えば、突然良い案が出てきたな。

 ただ、そのまま洗濯機に直結されると構造が複雑なので大変なんだが、着眼点はまずまずと言うことで、40P。


 7番、河南~洗濯機。(40P)


「お次は、8番、紀乃」

「カメラとカ映写機とカ、娯楽品なんかヲ作るノ、楽しそうだヨネ」

「ああ、それも有りかもしれないな。原理は、理科実験でもやったしな」


 そういや忘れていたが、娯楽品ってこの世界ほとんど無かったんだったか?

 ただ、カメラも映写機も、まずフィルムを作るところから始まるので、少々手間が掛かりそうだ。

 こちらも良い着眼点をしているので、40P。


 8番、紀乃~カメラ、映写機。(40P)


「次、9番、徳川」

「はいっ!!」


 指名した途端、騎士達も吃驚するほどの大声を上げた徳川。

 しかも、どうやら相当ウズウズしていたようだが、


「オレはガ○ダムが良いと思います!」

「……お前は阿呆なのか?」


 色々な意味でぶっ飛んでいた。

 思わず、彼の机の上に飛び乗って、そのままアイアンクローしてしまった。


 なんで、この中世ヨーロッパの世界観である異世界に、凡庸人型決決戦兵器を投入しなければならないのか。


「いたたたたたたっ!!なんだよ、良いじゃん!!パイロットは先生に譲るからさ!!」

「誰がそんなものを操縦するのものか!テメェもマイナス90Pだ!!」


 テメェもリーチだ馬鹿者め。

 製作可能なものと言った筈なのに、何故現代の技術でも作れないものを、この世界で作り上げろとか、そもそもオーバーテクノロジーの最先端を投入しろとか、意味分からん。

 反省の姿勢も見えなかったので、彼の頭にオレの真っ赤な手形が残るまでやってやった。


 9番、徳川~無し。(ー90P)


 あ゛ー、疲れた。


「気を取り直して、10番、永曽根」

「先生、大丈夫か?」


 ………お前の優しさが、身に沁みる。

 思わず、泣きそうになったので、目頭を押さえて上を向いておいた。


「オレは、通信機とかが良いと思う。

 この世界では、情報伝達の技術とか、連絡手段とか少なそうだから」

「それはオレも同感だ。

 お前には、オレを心配してくれた褒美も含めて90Pだ」


 おおう、永曽根は、これまた着眼点が凄かった。

 これなら文句無しで、ご褒美リーチだ。

 やっぱり、コイツはこのクラスの中でも(オレの精神安定剤的にも)一番頼りになるな。


 10番、永曽根~通信技術その他。(90P)


「じゃあ、お次は11番、間宮」

「(銀次様の約に立つものなら、何でも良いです)」

「よし、お前もマイナス90P」

「∑ッ!?(ガビンッ)」


 テメェは、何をほざいているのか、間宮よ。

 思わず、こっちもアイアンクローを強制執行しちまっただろうが、アアン?

 何がオレに役に立つものだ?

 実用性のある具体的な例を示せと言うとるのに、馬鹿なのか?

 お前も文句無しで、お仕置きリーチだこのヤロウ。


 11番、間宮~無し(ー90P)


 あ゛ーもう、本当に疲れるなぁ。


『最後、12番、オリビア』

『私は、ギンジ様のような、髪のアクセサリーが良いと思いますわ』

『あれ?お前も敵だったの?』

『えっ?いえ、あの…何かいけないことだったでしょうか?』


 うん、いけない事と言うか、触れちゃいけないことだったね。

 英語が分かる香神と間宮、ついでにゲイルが揃って噴き出したのを見れば、良く分かると思うよ。

 ………無邪気な分、怒れないよ、畜生!


 ちなみに、香神にはチョークで、間宮とゲイルにはこれまたナイフをプレゼント。

 香神は眉間にクリーンヒットし、間宮は白刃取りして、ゲイルは髪を掠っていた。


『お、お前、カツラだったのか!?』

『テメェもそこに反応してんじゃねぇ!!』

『うおっ!?済まん!!』


 本日4本目のナイフがゲイルに飛んだ。

 しかも、テメェは地味にオレの記憶も見てるんだから、オレがどうしてカツラなのかも分かってるだろうに、白々しいぞコノヤロウ。


『うぉっほん!』

『あ゛…』

『あ…っと、失礼致シマシタ』


 そこで一つ、大きな咳払いをしたのは、オレ達の話をゲイルの通訳で聞いてた大臣様だった。

 オレやゲイルを見る目が、若干厳しいものに変わっている。


 ………アンタもかよ、オッサン。


『同類だった訳だ』

『同類ではない。私は違う』


 いや、バレてっから。

 ただ、この話は、地味にオレのメンタルも抉ってくる(※主に女子達からの興味の視線で)ので、このまま終わらせておいた方が無難だろう。


 閑話休題。


 とりあえず、生徒達から出た案は、これで全部だろうか。


 製紙等や、ノートや製本品等、文房具、服飾品(バレッタ、シュシュ等を含む)や、その他髪のアクセサリー(ウィッグ)。

 泣く泣くではあるが、オリビアの案も書き込んだら、分かってなかった生徒達に揃って噴出されたよ。

 更に、実用品が洗濯機や通信機で、娯楽品でカメラや映写機、と。

 やっぱり、オレだけで考えるよりも、意外と出るもんだな。

 ちなみに、オレが考えていたのは、煙草とか酒とかの嗜好品の類だったりしたんだけど、これは煙草の原料となる草を探さなきゃいけないから、後々まで保留。


「じゃあ、とりあえず、この中で技術的にも金銭的にも実現可能なものを精査してみよう」


 そう言って、今度は精査の段階に移る。

 着手してから途中で製造方法が難しく無理だと判明し投げ出すよりも、最初に突き詰めて除外しておくのも大切だ。


 ただ、これによって、紀乃考案の映写機は覗かれてしまうのは致し方なし。

 そもそも、活動写真を作るのが先だし、それを保存しておくネガだって作成は難航するだろうから。


「なぁ、銀次。途中で思い付いたら、それも言って良いのか?」


 と、ここで、手を挙げたのはエマ。


「何か思い付いたのか、エマ?」

「うん、糸車。布がたくさん作れなきゃ、服も作れないよね」

「勿論だ。そして、エマは良く自分で気付いたな。更に20点追加」

「よっしゃ!」

 

 さっきの足りない分の捻りを自分で考え付いたようだ。

 これで、彼女は合計40Pと。

 ………ただ、女の子なのに、その歓喜の声はいかなるものか。


「あっ、先生!授業に関係ある事でも良いんだよな?」


 更にここで、挙手をしたのは、先ほどぶっ飛んだ回答をしてくれた徳川だった。


「ああ。出来ればそっちの方がありがたいが?凡庸人型決戦兵器以外に何か考え付いたか、徳川?」

「うんっ!ボール!バスケットボールとか、サッカーボールとかじゃなくて、純粋なボールって無いだろ!?」

「………そういえば、」


 そういやそうだったかな?と考えてみて、ゲイルへと視線を移す。

 『言葉ことのはの精霊』の能力で、彼にはリアルタイムで内容が通じていたようで、彼も頷いている。


『何かは分からないが、少なくとも『ぼーる』と言う言葉に聞き覚えはないな』

『革や布を繋ぎ合せて、中に空気を密閉したものだ。

 空気の反動でバウンドするから、どこにでも跳ね回るし、蹴ったり投げたりと色々な娯楽になる』

『それは良いな。訓練にもなりそうだ』


 どうやら、ゲイルのお墨付きもいただけたらしい。

 と言う訳で、娯楽品の中にボールも追加、と。


「徳川には、50P追加」

「うっしゃあ!」


 やっとまともな意見を出してくれたので、ゲイルのお墨付きも合わせて10P加点だ。

 ただ、ちょっと静かにしてくれお前は、隣の永曽根が耳を押さえているだろうが。


「あっ!授業でアイススケートするなら、靴とか必要じゃない?」

「エッジってどうやって作るんだろうな?」


 ふと、授業関連となって連想ゲームでも働いたのか、声を上げたのはソフィアだった。

 彼女は、地味にアイススケートを楽しみにしているようだったしな。

 そこに、エマも一緒になって便乗している当たり、この姉妹は趣味の方向性までそっくりらしい。


「一応ではあるが、金属片を仕入れて、加工するつもりだったな」

「じゃあ、靴は?」

「………こっちの世界の靴は、駄目だろうか?」


 そう言って、もう一度ゲイルへと視線を向けると、罰が悪そうな顔をしていた。

 具足解いて靴を見せて貰ったが、革靴ではあっても長靴の形状に近いようなので、アイススケートの為には改良が必要かもしれない。


「ただ、エッジに関しては、良いかもしれないな。

 着眼点としては間違ってないから、ソフィアには20P加点だ」

「やった!」


 と言う訳で、ソフィアも40P、と。


 さて、では他に意見は無さそうなので、精査に戻るとしよう。


 次に難しいとなると、洗濯機と通信機だろうな。

 洗濯機は、ドラム方式であれば、手回し式の元祖洗濯機があった筈だし、通信機に関しては電波が無いので無理だし、電話とかを考案するよりも先に、連絡手段の充実へとつなげていく方が無難だ。

 だとすれば、通信機は商品とは成り得ないので、却下。

 良い案だとは思ったけど、『魔法』がどこまで便利なのかも分からない以上、あまり高望みをして突っ込んで行く必要が、今のところは無いと思いたい。 


 だが、


「洗濯機を作るとしても、洗剤とか無いけど綺麗になるのかな?」

「擦れば良いンじゃないかイ?」

「それだと、洗濯板と変わらないよね…」

「………。」


 オレの精査の言葉を聞いていた河南が、ふと呟いた言葉。

 それに対して、紀乃が応じた答えは、河南の言うとおり至極もっともで、それこそ手間を増やしてしまうだけなので本末転倒だ。

 洗濯板なら重点的に擦れば、ある程度は汚れが落ちるが、洗濯機となると回転による摩擦と大量の水で汚れを落としている筈だから、洗剤が確実に必要になってしまうのだが、


「………うん?」


 待てよ?

 ふと、そこまで考えて、気付いた。


「洗剤って、この世界にあったっけ?」


 そう言って、生徒達を振り返れば、生徒達も眼をまん丸にしてオレを見ていた。

 まるで、眼から鱗でも落ちたような眼だった。

 多分、オレも今、同じような顔をしているとは思う。


 そして、その背後の騎士達の首を傾げる様子も、オレにははっきりと見えた。

 いや、それは言葉が分からないのだから、当たり前なのだろうが、


『なぁ、ゲイル?』


 ここで、再三の異世界百科事典ゲイルペディアさんを見た。

 彼は言葉が分かるのだから、この言葉の意味はすぐに脳内で検証してくれることだろう。


『……その、せんざい?…というものは、何だ?』


 だが、彼は首を傾げて、そう言った。

 つまり、先ほどのボールと同じく、彼の知識の中には存在しない代物のようだ。


 そこで、オレは改めて生徒達を見た。


 あったじゃないか、必要なもの。

 実用性があって、かつ製造方法が限られているもので、更には製造も可能でコストが安い。

 オレ達技術開発研究所の、最初の商品が決まった瞬間だった。


「一番最初に取り組むのは、『石鹸』とします」

『やったあああああ!!』


 途端、女子達が立ち上がって大歓声を上げた。

 そりゃ、彼女達も嬉しいことだろうし、オレも素直に嬉しいもの。


 だって、この世界、シャンプーリンスどころか、石鹸も無かったから。


「これで、顔にニキビも出来なくなる!」

『髪も痛まないしね!』


 そう言って、喜んでいる女子組を余所に、


「浅沼の体臭に困らなくて済むな」

『そうだな』

「ちょっ!?酷いよ!!」


 なんて言っている男子組。

 気持ちは分かるが、当の本人である浅沼が可哀想だから辞めてやれ。


「?(こてり)」


 出来るのですか?と間宮が小首を傾げている。

 だが、案ずるなかれ、


「オレは、ハンドメイド石鹸マイスターの資格を持っているから安心しろ」

『何それ!?』


 お任せしてくれ、生徒達。

 実はオレ、一時期元同僚兼友人アズマの影響で、ハーバル系にハマった事があったのだ。

 誘われるがままに、アロマオイルなどその他諸々と一緒にハンドメイド石鹸マイスターなる資格を取得してしまったので、おかげで素体ボディの作り方からアロマ系の添加まで出来るようになっている。

 そんな趣味実用関連の知識が、こんな所で役に立つとは思ってもみなかったけど。

 世の中何が起きるか分からないものです。


 と、内心で鼻高々になっていた時である。


「先生、万能というか…」

「なんか、女子…」

「女子力高くね?」

「むしろ、乙女だよねぇ」

「石鹸まで作れるとかな」

「あれだね。オトメンだね」

「噂に聞くオトメンって奴だね」

「キヒヒヒヒッ!先生、オトメン(笑)」

「資格まで取ったのかよ」

「(必要あったのですか?)」


 何故か生徒達に、しかも間宮にまでドン引きされた。


「お前等全員マイナス100点だ」

『えええッ!?横暴だ!』


 全員、では無いけど、お仕置きじゃい、こん畜生!

 折角、オレの(無駄かもしれない)スキルを活かせる商品に着手出来ると言うのに、出鼻を挫くような事を言うんじゃない!


 しかも、


『………お前、中身まで女らしいのか?』

『テメェは、一辺、三途の河を拝んで来い!』

『うぉわぁッ!!』


 ゲイルにまで話が聞こえていた所為で、オレが違う意味で女々しいなんて言う評価が下ったのは、腹立たしいだけだ。

 今度こそ脳天に向かってナイフを投げ付けてやった。

 ………避けられたけどな、チッ!。


 閑話休題。

 コイツがそのうち、オレのサンドバックになるかもしれないって事は放っておけ。


 ったく、明日から生徒たちも巻き込んだ強制イベントが盛りだくさんなんだから、せめてモチベーションを下げる真似だけはしないで欲しいもんだ。


 ………って、あ゛。


「ちなみに、明日、その件の『白竜国』国王陛下が、この学校に視察訪問の予定が入ってるから、」

『はぁああああああッ!!?』


 そういやもう一個、連絡事項を忘れていた。

 今回の技術開発部門発足と同じく、明日のメインイベントとなる予定である。


 あははは、忘れてたよ。

 一番大事な連絡事項だった筈なのにねぇ。


 生徒達から、そりゃもう、物凄い勢いで恫喝されちゃって、オレも遺憾ながらビビってしまった。


 これ、実は今日、国王陛下とゲイルを交えた作戦会議の時に、決定していたの。

 オレ、『予言の騎士』としての職務はまだまだ新米で、本業が教師だって言うのに、その本業をないがしろにされ過ぎてるなぁって、今日の話し合いでも実感したからね。

 何度も言うが、過激な過去を持っているとはいえ、現在のオレは一介の教師だ。

 確かに『予言の騎士』としての一面も持ってはいるが、まだまだ新米であり、ついでに騎士としての概念は希薄も良いところだ。

 要はそれを、相手に分かって貰えれば、少しはオルフェウス陛下も考えを変えてくれる可能性はある。

 オレが教師として生徒達相手に教鞭を取っている本来の姿である、仕事内容を見て貰えれば、少しは無茶な要求も飲み込んでくれるかもしれない。

 と、いう皮算用も含めた『白竜国』国王陛下の学校見学ツアー。


 これを、視察という名目で、今日ウィリアムス国王を通して、オルフェウス陛下に打診しちゃったし、既にそれに対しての了承も得ているから。


「と言う訳で、明日は『白竜国』国王陛下が授業参観です、良い子にしましょうね?」

「テメェが言うな!」

「忘れてたとか、アンタねぇ!!」


 そして、やっぱりオレは怒られた。


 まぁ、なにはともあれ、 異世界技術研究所の第一号作品は、こうして決まった。

 そして、異世界クラス3日目にして発生した突発的授業参観(白竜国国王編)も決まった。



***



 10月某日、『白竜国』国王、オルフェウス・エリヤ・D・グリードバイレル陛下の授業参観当日。


 朝から、随分とオレや生徒達も気負ってしまっていたようで、どこか浮ついた空気が隠せない中、


『お待ちしておりました、オルフェウス陛下。

 ようこそ、我等が校舎へとお越しくださいました』

『本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます』


 急遽色々とセッティングを整えたダイニングにて、『白竜国』国王陛下を迎え入れた。

 迎え入れの面子はオレと給仕目的の間宮、ゲイル含む騎士団の護衛達。

 なんで間宮か、と言えば英語も使えて、一通りの礼儀作法は身に付いているうえ、実質的にオレとの意思疎通能力が最速だからだ。

 他の生徒達も後々引き合わせる予定にはなっているが、現在は教室にて英語オンリーの自習を言い付け、オリビアと香神に臨時の講師を頼んである。

 

 対するオルフェウス陛下は、護衛らしき騎士団の面々少数を引き連れて、この校舎へと足を踏み入れた。

 もうちょっと警戒して、護衛を大勢引き連れて来るかと思ってたんだけど、予想に反して今回同行したのは、昨日議場で見た事のある貫禄満載の騎士達と、その部下達であろう小隊のみだった。


 後、ついでに言うなら、今日のオルフェウス陛下は、どこかラフな格好で現れた事に、少なからず驚いた。

 初邂逅の際にアップして冠で覆っていた見事な白髪は、全て背中に流されて、随分とすっきりしているようにも見えるし、衣装に関してもお忍びの際の標準的な装備なのだろう、庶民風と言われると納得できるものだった。

 ラフな男性物のブラウスに、足首まであるだろうこれまた白の外套を羽織り、下肢は白と言うよりはアイボリーの、ゆったりとしたパンツスタイル。

 ただ、その腰元を覆い隠した帯は、少し装飾の凝った装いをしていたし、外套の裾に隠してはいるが、不自然な膨らみが見えた事から何かしらの武器は隠し持っていると思われる。

 体から溢れ出るオーラのようなものが、庶民と言う雰囲気を否定している辺り、カリスマってやっぱりいるんだなぁ、と苦笑い。

 さて、そんなオルフェウス陛下への不躾な観察はその辺にしておいて、


『昨日は、遂年甲斐も無く、突然の暴言を発してしまい、お耳を汚してしまった事を、先にお詫び申し上げます』


 先に、オレから謝罪を一つ、腰をきっかり45度に折って、日本人特有のTHE・お辞儀。


『あ、い、いいえ…!私こそ、『予言の騎士』様をよもや女性と間違えた挙句、伴侶にこいねがう等の非礼を、』


 それに少しだけ慌てた様子のオルフェウス陛下の様子に、内心でにんまりとほくそ笑む。

 先手を打って謝罪をしておくことで、後々の交渉の際に引っ張り出され無いように調整するのである。

 これも基本中の基本、というか円滑な交渉への第一歩。


『そう言えば、玄関先で立ち話等と不作法な真似を失礼致しました。

 どうぞ、粗末な誂えではございますが、お上がりくださいませ』

『お、お言葉に甘えまして』


 オレは、そのまま手を差し出して、学校の中に招き入れる。

 ダイニングの長机を片付けて、リビングんいあったソファーとローテーブルを降ろして、セッティングをしておいた。

 そちらのソファーをオルフェウス陛下に勧め、オレは上座に置いた一人掛け用のソファーへと座る。


『間宮、お茶の準備を』

『(こくり)』


 そう言って、背後に控えていた間宮へと指示を出す。

 彼なら、ただの生徒にしか見えないだろうし、ついでに給仕として扱う事で毒などの警戒を必要ないと考えさせる事も出来る。


 まぁ、毒見はするだろうが、今後の交渉を考えるなら毒殺紛いな事をして警戒されるなんて悪手は以ての外なので、そもそもやるつもりはないけども。


 昨日発覚した、貿易でのオレ達のドナドナ問題に対し、オレが講じた作戦は2つ。

 まずは、オレが一介の教師である事を理解して貰う事。


 最近、『予言の騎士』と言う肩書きの所為で、オレの所に転がり込んでくる強制イベントが苛烈過ぎる。

 それは、肩書きに踊らされた周りの人間が、勝手にオレを神格化してしまっていることが原因だと考えられた。

 ならば、その本業であるオレの教師としての仕事を見て貰えば手っ取り早い。


 後、もう一つの策は、これから彼との交渉の中で切り札(カード)として、一番効力の高い部分で使いたいものだ。


『(お茶が入りまして、)』


 そこで、丁度良いタイミングで間宮が帰って来た。

 陛下が来る数分前から、お湯だけは沸かしてあったので、大して時間も掛かる訳も無く、精々、紅茶を蒸らす時間が掛かった程度だろう。

 ちなみに、変なところで神経質な間宮の事だから、旧校舎から回収して来た砂時計できっちり時間を計って、紅茶も淹れてくれた事だろう。

 地味にコイツの淹れた紅茶は、オレが今まで飲んだことのある紅茶よりも美味しかった。


『そちらの少年も、教え子様なのですか?』

『ええ、その通りです。生徒でもあり、私の弟子でもあります』

『『予言の騎士』様のお弟子様とは、さぞかし優秀ななのでしょうね、』


 てきぱきと、それでいてゆったりとしたすっかり様になっている作法で紅茶を差し出していく間宮。

 しかしながら、その行動はややオーバー過ぎる。

 別に給仕だけで良いのに、染みついてしまっているのかもしれないが、執事か何かと見間違うような振る舞いはしなくて良い。


『緊張しないで、いつも通りにやりなさい?』

『(こくり)』


 要約すると『やり過ぎだ』と伝えたが、彼からは『わざとです(ドヤァ)』と言っているかのような満面の笑顔が返ってきた。


『『予言の騎士』様は、教え子様方に礼節もお教えになっていらっしゃるのですね。

 ………それに、この紅茶の香りも豊かで、とても素晴らしく、』


 ああ、なるほど。

 間宮の意図が分かった。


 感心した様子で、オレや間宮を交互に見て、更には紅茶と間宮を交互に見て、と少しだけ視線が忙しないオルフェウス陛下。

 その間にも紅茶の香りを楽しみつつ、案の定毒見をした背後の騎士が眼を瞠っているのを見て、更に間宮へと熱視線を強めている。


 間宮は、どうやら自分が褒められるよりも、オレが褒められる方が嬉しいと考えているのだろう。

 オレのこれ以上の株上げには、協力はしないで良いってのに、もう。


『………これは、驚きです』


 そして、そんな間宮特製の紅茶を、洗練された所作で口にしたオルフェウス陛下も、思わず目を瞠っていた。


『我が国でも、ここまで紅茶の香りや旨味を引き出せる給仕はおりません』

『物好きが祟りまして…』


 感心し切りのオルフェウス陛下は、目線は間宮に釘付けとなり『欲しい!』と訴えているような気がするが、オレは知らない振りを決め込んでいる。


 そんな熱視線を受けている間宮はといえば、オレの背後に控えてお盆を抱えたままでご満悦。

 そう動物系の可愛らしさに、思わず頭を撫でくり回したくなる。


 さて、そんな間宮マジックによる、お茶会も落ち着いた頃、


『此度は、お招きいただいた挙句、このような持て成しを頂きまして、大変恐縮でございます。

 ………しかしながら、今一度、私が『予言の騎士』様へ行った数々の無礼を考えますと、とても私には分不相応なものではないかと、』

『滅相もございませんよ』


 要訳すると『何の用があって連れて来たの?なんで持て成してるの?』だろうな。

 おそらく、オレの真意が知りたくて、焦れて来ている。

 一度は間宮の紅茶マジックで驚きが勝ったけど、一周回って冷静になってみると、過剰な持て成しに不安を感じているのだろうか。

 先手を打ってきたようにも思えるが、さてどうやって切り換えそう。


 そろそろ、深読みするのも疲れてきたので、ぶっちゃけて全部丸っと話したくなっちゃってんだけど、揚げ足取られて仕返しでもされたら堪らないから、オレももうちょっと我慢しよう。

 一応は、オレだって礼儀作法は備わってるんだよ?って、ゲイル達にアピールする意味でもね(笑)


『なにぶん、私も一介の教師でして、緊張しておりますので、』

『緊張なされているようには見えませんでしたが?』

『隠し通せるとは思っておりませんでしたが、恐悦至極でございます』


 手慰みの言葉遊びに皮肉を返されたので、逆に皮肉を返しておく。

 オレが緊張しているように見えないのは、指摘され無くても分かる通り、そこまで緊張していないからだ。

 分かって無かったの?と言葉尻に含めると、オルフェウス陛下の口元が若干引き攣り、背後で何故かゲイルが笑いを堪え切れなかった呼気を吐き出した。

 それに対し、オルフェウス陛下の背後に控えていた騎士の一人、昨日の貫禄バリバリの、向こうの騎士団長様が眼を諌めていた。


 実は、彼『白竜国』の騎士団である『竜王騎士団』の騎士団長様だったの。

 名前は確か、ベンジャミン・リッツ・フォルガノット。

 ゲイルと立場は同じであり、こうして視察や貿易の先詰めなんかで顔を合わせる度に、色々と敵対心剥き出しだったりするんだって。


 ちなみに、彼だけが貫禄バリバリなのは、このダドルアード王国を含めて十数年前に起こった戦役に、彼も参加したことがあるからこそ。

 ゲイルも当時10代後半と言う年齢でその戦役に参加していて、その時から既に騎士団長相当の地位にいたから、戦役でも顔を合わせた事がある腐れ縁のようなものだそうだ。


 閑話休題。

 そんな彼等の目線での火花散る激闘は放っておいて、


『此度、オルフェウス陛下に、この校舎へとお越しいただいたのは他でもありません。

 我等が庇護を受けている、このダドルアード王国と『白竜国』様との、貿易での盟約の件にて、お話がありました所存』

『………左様でしたか、』


 間宮の淹れてくれた特製の紅茶を、最後の一滴まで堪能してから、オレは単刀直入に切り出した。


 少し油断でもしていたのか、オルフェウス陛下のカップを持つ指先が一瞬震えた。

 更には、一瞬にして浮かんでいた愛想笑いが消え、その表情は真剣そのもへと変化する。

 これには、流石のオレも一瞬だけ飲まれそうになった。

 ………やっぱり、この人が交渉事に長けてるって事前情報には間違いが無かったようだ。


 だが、このまま怯んだままでは、話は進まない。

 生徒達の為にも、オレの平穏の為にも、オレがここで踏ん張らなくてはならない。


『………以前、お話もさせていただいた通り、我々は、既にこの国に根付かせていただいております。

 まだ、こちらに来てから10日足らずという、短い期間ではございますが、』


 本当は、やっとこさ、今日で11日なんだけどね。


『ええ、聞き及んでおります』

『この通り、校舎を贈って頂き、生徒達もここを宿舎兼学び舎として、勉学に勤しんでおります』


 開校してからたった4日の学校ではあるが、既に生活拠点は構えてしまっている。

 それは、オルフェウス陛下も、昨日の段階で話してあった筈なので、理解はしているだろう。


 だが、これを前振りとして、オレが言いた事はこれだけじゃない。


『先日いただいた『白竜国』様へのご招待は、とても光栄でございます。

 しかしながら、まだまだこうして開校したばかりの我々には、申し訳ありませんが、移動する余力も金銭の余裕もございません』

『………それも、既に聞き及んでおります』


 たとえ、公式な会談では無いとは言え、他国の国王陛下の誘いを真っ向から断るという事は、言い回しを考えなければそれは戦禍へと繋がりかねない。


 ………オレも、御大層な役回りを引き受けたもんだ。


 だが、これを不敬だと、この国王陛下が切り捨てることが出来ないのもまた事実。


 だって、オレ達は『予言の騎士』と『その教えを受けた子等』であり、既に『聖王教会』にて情報を公開されている。

 言うなれば神格化された存在だ。

 ちっともありがたくないと思っていた事実ではあっても、国民に浸透してしまっている情報はどうあっても覆せない。

 それを無理矢理引き抜いて連れて行くとなると、例え他国であっても国民からは総スカンだ。

 ついでに、もしそうなった場合は、オレ達も『聖王教会』の伝手を使って、『白竜国』国民にも、国王陛下が誘拐犯だという喧伝をするつもりでもいる。


 王権国家となれば、国王陛下の天下だと思われがちだろうが、それを税や生活様式で支える国民がいなければそもそも存在出来ない。

 だからこそ、国民の言葉に耳を傾けない王は、排斥されるのである。


『どの道、現在の状況では、我々が『白竜国』様へと移動させていただいたとしても、大した業績は残せないでしょう。

 せいぜい、『聖王教会』様へと巡礼をさせていただき、女神様の威光をお借り(・・・)するだけしか、今の我々の余力はございませんので、』


 そうなりたくはないだろう?と言外に含めておく。

 『聖王教会』や『女神様の威光を借りる』の件で、オルフェウス陛下もそれに気付いたのか、今度は目元が引き攣った。


 それに、もう一つ分かって欲しいのは、


『それに、このような大層な口を利いてはいても、私や生徒達は今まで、普通に生活をしていた一般市民に変わりありません。

 市井の生活に親しみ、常から最低限の生活を送ってきた我々としては、陛下からいただいたお話は、どうあっても分不相応としか言えませぬ』


 さっきも言ったように、オレ達が元々は一般市民だったって事。

 ただの教師であり、その凡庸な教師から教えを受けていた、ただの子ども達。

 それを、どうしても肩書きに惑わされて、誰も分かっちゃくれない。

 ゲイルや騎士団だって、今でこそ分かってくれてはいるものの、最初の頃はやれ『予言の騎士』はこうあるべきだ、ああするべきだ、と考えていた節が強い。

 だからこそ、オレの悪辣な噂に惑わされて突撃して来たんだから。


 そう言って、オレが間宮へと紅茶のお替わりを催促している最中、


『………しかし、出自はどうあれ、貴方は『予言の騎士』であり、教え子様方とて『その教えを受けた子等』なのです。

 例えその身を市井の者だと言い張ったところで、こちらの王国であっても我が『白竜国』であっても、その肩書きによって齎される利や害は同等です』


 オレが先程、言外に脅しを込めたように、彼も同じく言外に脅しを込めてきたようだ。

 要約するならば、『いくら一般人と言い張っても、権力争いの渦中に巻き込まれれば、そうも言っていられなくだろう?』ってところかな?


 でも、それは現に、こうして巻き込まれている。


『今のようにですか?』

『………ッ』


 取り繕う事もせず、揶揄すらもせず、オレは言い切った。

 今だって、同じ状況じゃないか、と。


 存外、冷たい声音を発してしまったオレに、オルフェウス陛下の目が瞠られた。

 彼の背後でもベンジャミンが、オレの背後でもゲイルが、揃って息を呑んだ。


 言葉を選べば良かった、とは思って見ても、本当のことだ。

 取り繕ったところで、大差は無い。


『………今後の事を考えても、我々にはどちらに言ったところで利も害も同じ事。

 貿易を盾にされ、引き渡しを応じたダドルアード王国もそうですが、我々にとっては『白竜国』とて、既に権力を笠に着た立派な悪害でしかありませんよ』


 しまった、ついつい毒吐いてしまった。


『貴殿、今ご自分の言われたことを、』

『おやめ、ベンジャミン』


 案の定、激昂を露にしたベンジャミンこと騎士団長様だったが、オルフェウス陛下に直接諌められては、口を出せないようだ。


 ………これ、無礼者って斬られても仕方無かったよね。

 一応肩書きが『予言の騎士』だから斬られる心配がそこまである訳では無いが、何自分で危ない橋を渡ってんだか。


 まぁ、良いや。

 丁度良く、間宮が紅茶のお替わりを持ってきてくれたので、二度目のブレイクタイム。

 少し頭に血が昇っていたのかもしれないから、このタイミングの良さには思わず脱帽してしまう。


『(大丈夫ですか?)』

『(今のところは、まだ爆発して無いから大丈夫)』


 間宮からいただいた労いの言葉も、その視線と相まってどこか癒し。

 オリビアと同じく、この小動物然りとした弟子は、オレのささくれ立った気分を、なんとか平常まで宥めてくれた。


 おかげで、口調にも態度にもまた余裕が戻ってきたので、愛想笑いでにっこりと微笑んでみせる。


『すみません。歯に衣着せぬ物言いで。

 ………これも、市井の住民故の粗相と、ご容赦くださいませ』

『いえ、滅相も無い。貴殿の言葉に、嘘偽りはありませんから、』 


 そりゃ、リアルタイムで当人の口から、迷惑って言葉が嘘偽りじゃないなんて言えないだろうね。

 しかも、それを市井の人間の戯言だと切り捨てたら、今度はオレの肩書き『石板の予言の騎士』としての引き渡しが、そもそも受理され無いから。


 さてさて、これで前置きはなった。

 後は、今どん底まで落ち込んでいる彼を、いかにして言いくるめてしまうのか。


 何故、彼がどん底かと言えば、それは昨日の段階からスタートしたオレへの勘違い発現の数々が尾を引いているからだ。

 女と間違え求婚したなんて、男であるオレにとっては大した粗相だ。

 しかも、それを貿易の会談をしていた、ダドルアード王国の国王どころか官僚達にまで、ばっちり見られて聞かれている。

 言い訳は出来ないから、そのまま謝罪をして、当面の安全策は取ったけど、いざオレがこの問題を引き合いに出せば、少なからず貿易の話し合いには影響を及ぼすことになるだろう。

 見た目は小さい芽であっても、これからは少々どころでは無い弱みにも成り得る。


 しかも、オレが先程『白竜国』からの招致を真っ向から断った事により、盟約とて何の盾にもなっていないと理解し、そして盟約自体を破綻させたと臍を噛んでいる。


 そこに、今からオレが、土足でずかずかと漬け込んで行くのだ。


『時に、オルフェウス陛下。

 『白竜国』での、騎士団の定義というのは、どのようなものでしょうか?』

『……騎士団の定義、ですか?』


 ふと、眼を瞬いたオルフェウス陛下が、一瞬何を言われたのか分らなかったようで、背後のベンジャミンへと視線を向ける。

 それに対し、ベンジャミンが咳払い一つ、オルフェウス陛下の意を汲んで、つらつらと上げて行く騎士団の定義。


『騎士とは、国の領地である国土を守り、国の財産である民を守り、その国土と財産を守る役職を誇り、その誇り高き精神を守っていく者であります』


 流石は、『白竜国』『竜王騎士団』の騎士団長様。

 淀みなく、スラスラと前口上のような形で、朗読された騎士としての定義は、なるほど立派なものだ。


 しかし、オレが聞きたいのはそこじゃない。


『では、騎士になる為に必要な、素養とは何でしょうか?』

『………それは、『白竜国』に限定するものでありますか?』

『ええ』


 ベンジャミンへと問いかけるのは、その誇り高い騎士様となる為に必要な素養、つまりは、能力の事だ。


『一つ、国王からの許可を受ける者。

 一つ、国家の定めた試験に合格する者。

 一つ、魔法の使用適正、及び行使に至る者。

 以上の3つを、試験や推薦によって合否を判断され、認定を受けた者だけが騎士へとなる事を許されます』


 そう言って、ベンジャミンが言い終わった直後、オレとゲイルは仲良く顔を見合せて微笑んでいた。


『ダドルアード王国のそれとは、変わらないようですね』

『………しかし、それが一体、どのような関係があったので?』


 ここで、オルフェウス陛下が訝しげな表情を、なんとか押し隠して問いかけてきたが、


『お恥ずかしい話ではありますが、やはり私はまだ一介の教師でしか無いようです』

『………は?』


 オレの答えに、彼は取り繕うのすら忘れて、眼を見開いた。


 愉快痛快とはこの事なのだろうか。

 わくわくとした内心すらも隠せずに、オレはやはりにっこりと微笑んだままで、核弾頭並の爆弾を投下する。


『私は、『聖王教会』より『予言の騎士』と神託は受けても、王国からの『騎士』としての、認定は受けていないのですよ』


 その言葉に、オルフェウス陛下はおろか、背後に控えていたベンジャミンや騎士達も凍り付いた。


 簡単な事だから分かるとは思うだろうけど、オレ達まだこの国に来て10日前後しか経ってないから、いくら『予言の騎士』などと言うご大層な肩書きを掲げた所で、実際にはまだその『騎士』としての条件を満たしていないという事である。

 先程、ベンジャミンが言った通り、騎士になる為の条件はダドルアード王国でも3つ。

 一つは、国王からの許可を受けた者。

 二つ目に、国家が定めた試験に、合格する事。

 三つ目に、魔法の適性があり、それを行使が出来る者。


 この3つが揃っていないと、『騎士』として認定されていないし、活動を許可されない。

 自警団や傭兵等の類はいるが、そこに『予言の騎士(オレ)』が含まれちゃいけないってのは、馬鹿でも分かるだろう。


 オレは、現在は国王の認可も『聖王教会』の認可も受けてはいても、試験も受けていなければ、試してもいないから、魔法の適性があるかも使えるかどうかも分からない。

 だから、まだオレはこの王国の『騎士』では無い。

 屁理屈だと分かってはいるが、今回はその屁理屈で押し通させて貰う。


 今回、オレが使える切りカードが、これだからだ。


『国家によって定められた試験や、魔法の適性、行使に渡り、未だに『騎士』としての条件を満たしていない半端者でございますれば、いくら『予言の騎士』と謳い囃されたところで、本分はただの教師に他なりません』

『そ、んな馬鹿な、話が…!』


 信じられないものを見るような顔で、オレを見たオルフェウス陛下。

 その実、信じられないのだろうが、騎士になる条件を提示し、そしてその話を今この場で明かしたその真意を、しっかりと把握出来たからこそのこの表情。


 やはり、切り札(ジョーカー)は、効力の一番高い時に出すのに限るな。


 この屁理屈が通用するなら、実質的に彼はオレ達の引き抜き自体が、出来ないことになるから。


『し、しかし、それは人身に限ったことで、』

『おや、我々は肩書きはともかく、人間でございますよ?』


 ………人間じゃないなんて、言わせないぞコラァ。

 失言したと思い至ったのか、更に顔を青ざめさせた彼。


 しかし、謝罪まで至る余裕は、彼の脳内には無さそうだ。


『そ、その肩書きに、間違いが無いのではありませんか?

 『予言の騎士』や『その教えを受けた子等』としての身分は、『聖王教会』ひいては、女神様が確約をされているのですから…!』


 ………ここで、オレが無神論者だって言ったら、彼卒倒するかもしれないな。


『誰に確約をされたとしても、貿易は国政に関わる事でございましょう?

 そうなれば、私とていくら『予言の騎士』の肩書きを持っていたとしても、条件を満たさぬ限りには、『騎士』を名乗る事はおろか、その権威の行使も儘なりませぬよ』


 まぁ、つまりはそう言う事。

 内政に引っ張り出すなら、あくまで『騎士』としての条件を満たしていないオレ達は、一般人を貫き通すから勝手にやっちゃって?って事。

 そうなると、彼等が貿易の盾にオレ達の引き渡しを要求したのは、ただの一般市民を権力で脅して誘拐しようとしただけって事になる。

 ただでさえ、『予言の騎士』を連れて行けば、国民からの総スカン決定なのに、そんな犯罪者紛いな事したら『白竜国』どころか、大陸全土でも総スカン食らうよ?って事。

 まぁ、そこまで大きくなるとはオレも思ってないけどさ。


 これで応じ無かったら、オレ達はとっとと『聖王教会』に話を付けに行って、オリビアの言っていた『聖王教会』の本部が中心なので、引き渡しは出来ませんって作戦を『聖王教会』全体を巻き込んでやっちゃうつもりだったりもする。

 どっちに転んでも、悪評が凄いことになるから、もう彼等に手出しは出来なくなるって事なんだけど、知ってた?


 これには流石のオルフェウス陛下も愕然とした顔をしている。


 オレを見る目すらも、最初の頃の余裕ぶった流し目はどこへやら、まるで化け物でも見るような眼に変わっていた。

 演技でもなさそうなので、分かり易くて助かるもんだ。


 オレの勝利だ。


 多分、この国王陛下は、交渉術に関しては絶対の自信があったのだろう。


 ついでに、この世界では前の旧校舎の物品回収の時にも思ったように、権力思考が強く、依存している傾向が良く見られる。

 貴族出身の騎士達なんか特に顕著だったし、それはこの王国だけじゃなく『白竜国』でも同じことなんだろう。


 このオルフェウス陛下もそうだ。

 ダドルアード王国と対等の貿易をしているとはいえ、盟約やらその他諸々を含めれば『白竜国』の方が、遙かに立場は上だ。

 貿易の継続を盾に迫れば、簡単に権力で押しつぶせると考えた。

 だからこそ、その権力のごり押しで、オレ達の引き渡しを強請ったのが良い証拠だ。


 しかし、そんな権力思考の所為で、ここで大きな落とし穴。

 コイツがオレに惚れたばかりか、オレが権力思考が薄い上に元裏社会人の端くれとして、交渉術に少しだけ優れていた。


 出鼻を挫かれてしまったようなものだ。


 オレは間違っても女じゃないし、勘違いをしてしまっても仕方ない女顔をしているとはいえ、ちゃんとした息子もぶら下がっている(お下品!)。

 しかも、オレが『予言の騎士』であるという情報も耳に入って、収集本能も刺激された事もある。


 そこで、国王や官僚達の前で堂々と搔っ攫ってやろうと大見栄を切って、見事に玉砕してしまった。

 そこが、ケチの付き始めだった訳だ。


 後は、トントン拍子よろしく、権力的に優位な足下が崩れて行った。


 だからこそ、オレからの学校への招待も受けたし、いぶかしみながらもオレも持て成しを受けた。

 国王や官僚達さえいなければ、オレは『予言の騎士』とはいえど人の子だ、と侮っていた部分もあった。

 そして、オレの逆鱗に触れることなかれ、とコイツも重々理解していた。


 だからこそ、オレも散々回りくどい真似をして、この男と交渉する対等の土俵を用意したのだ。

 そこで会話の主導権をもぎ取ってしまえば、後はオレの独壇場。

 最後の最後まで、彼を封殺する事で、万事解決である。


 権力に依存しているから、こうなるのだ。と、声を高々に言ってやりたい。

 交渉術はただ権力でごり押しをすれば良いだけでは無く、落とし所もまた必要なのだから。


 ちなみにではあるが、ここまでやっておいて何を言うかと言われても、別にオレは、この国王陛下が嫌いな訳じゃない。

 この国王陛下のやり方が気に食わなかっただけである。


 出来れば、もう少し玩具として遊びたい気持ちはあれど、あまりやり過ぎると今度は逆にあっち側に逆手に取られる可能性もあるので、この辺にしておこうと思うけどね。


 オレはまた、にっこりと愛想笑いを振りまいた。

 そんなオレの顔を、呆然としたまま蒼い顔で見つめている、オルフェウス陛下に、ついつい苦笑してしまう。


『その代わりと言っては難ですが、もし諸々の条件をすべて満たした上で、まだ我々を招致いただけると言うなら、その時はまたお声を掛けてくださいませ』


 粉掛けとしては、やや大雑把過ぎるだろうが、後付けをしておくことも忘れない。

 要は落としても、落としたままにしないで、少しだけでも上げておくという交渉術の一つ。

 実際、この王国が今後、貿易規制を掛けられたとすれば、割を食うのはオレ達も一緒なのだから。


『は、はは。…思った以上の、御仁だったようで、』


 オレの言葉の意味を理解したのか、オルフェウス陛下は肩の力を抜いた。

 なにやら、虚無のようなものが表情に貼り付いてしまっているようにも見えるが、力無い笑顔で何も入っていない(・・・・・・)カップを傾けて、口元を隠した。


 負けたと悟って、噛み締めているのか。

 それとも、何かを企んで笑っているのかは、定かでは無かったが。


 オレ達は、王命であっても従えないし、引っ越しもしない。

 招致をされるのも、きっとオレが『騎士』としての条件を備えた時となるだろう。


 そして、


『貿易の規制に関しては、もう既に避けられないとは分かっておりますが、後で後悔しても遅いですからね?』


 そう言って、暗に今後の貿易への変化を示唆しておいた。

 お前、この世界で『石鹸』やらその他諸々を作るなんて事考えているオレ達に、貿易の規制ってマジで、自分の首を自分で絞めているとしか言えないからな?と。

 彼の様に大見栄切って玉砕となるのは怖いが、『石鹸』以外にも隠し玉は考えているのだ。

 後々になって泣き付いても、オレ達は関知しないのでそのつもりでね?


 まぁ、なにはともあれ、


『すっかり話しこんでしまいまして、申し訳ありませんでした。

 折角、当校舎へとお越しいただいたのですから、授業をご覧になっていってくださいませ』

『……ええ、喜んで』


 まずは、第一関門であるお持て成し(・・・・・)も終わったのだ。

 オレにとっても、生徒達にとっても、メインイベントとなっている授業参観においでませ。

 さぁ、国王陛下、お手をどうぞ?ってね。



***

これがアサシン・ティーチャーのO・MO・TE・NA・SI♪

駄目、絶対。

今のアサシン・ティーチャーには権力は通じないのです。

(※作中に出てくる交渉術に関しては、あくまで作者の個人的な経験に基いた見解と多少の捏造を含んでいます。良い子は真似しないでください)


ちなみに、ハンドメイド石鹸マイスターは去年、作者の妹が取得しておりました。

なかなか難しそうですね。

突然、苛性ソーダを買って来た時には、思わず誰を殺す気だ?とブルってしまいました。


誤字脱字乱文等失礼致します。

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