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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、旧校舎探索編
18/179

15時間目 「道徳~見栄っ張りも程ほどに~」

2015年9月10日初投稿。


色々な事があった校舎編も、今回で終了します。

アサシン・ティーチャー達が遭遇した数々の謎や、直面している現状に深くは切り込めないながらも今後は、ほのぼの授業ライフを目指します。


15話目です。

シリアス展開が、そろそろ辛い。


(改稿しました)

***



 心無しか風も冷たい夕暮れ時。

 昨日とは逆に街へと向かって進む。


 オレが重症だった以外は、今回の校舎探索と物品回収は、ほぼ滞り無く終了した。

 正真正銘の抜けがらとなった旧校舎から、回収して来た物品は大八車6つ分。

 流石にオレも欲張り過ぎたしやり過ぎたか、と思ってはいるが、まぁ今後活用していく事になってから、足りないと嘆くよりはマシだろう。

 ついでに、管理もしっかりしなければならないだろうが、そこは騎士団の護衛があるので大丈夫だと思っている。


「見事な大所帯になったもんだ…」


 苦笑と共に、馬上で背後を振り返れば、その大八車を懸命に押している生徒達が見える。

 荷台にこんもりと乗せられた物品は、机や椅子、大きなテーブルなどから、消耗品に至るまで多岐に渡る。

 そして、それを大八車で押しているという非常にシュールな図は、旧時代過ぎる引っ越し風景にも見えなくは無い。


「なんか、夜逃げしてる気分~。でも、なんか楽しいね!」

「そうか?これで、オレ達の生活環境が整う訳だし、文句は言わないが、」


 一番先頭の大八車を押しているのは、伊野田と永曽根だ。

 しかし、実質は永曽根一人が引いているようなもので、伊野田は引き手にぶら下がっているだけという、なんだか非常に微笑ましい光景となっている。


「同感だけど、こんなに持って行っても、使わなかったら意味無くない?」

「そうなったら、ただじゃおかねぇぞ、銀次!」


 更に、そんな伊野田と永曽根の引く大八車を、後方から押しているのは杉坂姉妹だった。

 だが、こちらも永曽根が引っ張っている所為もあってか、押しているというよりも手を添えているだけという感じになっている。

 ………お前、凄いな永曽根。


「まぁまぁ、良いじゃない、エマ。

 先生だって、使えると思ったものだから持ってきてる訳だしさ」

「だからって、こんなものまで持ち出さなくても、」


 続いて、2台目となる大八車を引いているのは、榊原と浅沼だった。

 そんな彼等の引く大八車の中央には、ズドンと一個だけ浅沼曰くのこんなもの、黒板が乗せられていた。

 学校生活には必要だろうに、こんなものとは何と言う言いざまだ。

 ついでに、黒板を使うのに必要なイレイザーやチョーク等の備品も、遠慮なく一緒に回収して来た。

 現代では、補充が終わった秋口だったので、それこそ大量にあったので嬉しい限りだ。


「でもさぁ、これで学校みたいになるんだから、ちょっと楽しみだよね」

「本当にあの建物で、教室みたいに運用するつもりだったんだな、先公……」


 そんな黒板の乗った大八車を後方から押しているのは、河南と香神。

 河南は良く分かっているが、何事も形から入るのは大切なんだから、若干呆れ顔をしている香神も、少しは河南を見習いたまえ。


「お前、何人体模型持って来てんだよ!捨てて来いよ!」

「嫌だヨ、僕のご褒美だモン!キヒヒヒヒヒヒッ!」

「(ぴるぴるぴるぴる)」


 続けて、3台目となる大八車を引いているのは、徳川と間宮。

 そして、やっぱりこっちも馬鹿力代表の徳川がメインに大八車を引いているせいで、間宮が取っ手を持っているだけの微笑ましい光景。

 しかも隣には、騎士に車椅子を押して貰っている紀乃が並んでいるが、ちゃっかりしっかり人体模型を持って帰ってきたようだ。

 それを見ている間宮が、安定のビビりっぷりでマナーモードだ。


 ………この中で、一番シュールな光景だというのに、そろそろ気付いてほしい。


 まぁ、紀乃に関しては、今後の習得技術によっては人体模型も必要となるだろうし、然もありなん。

 間宮に関しては、多分オレと一緒に監視カメラの映像で、この人体模型が動いていた瞬間を見てしまったから、致し方ない。


 そこで、ふと


「………あの人体模型も、捨てたら戻ってくるとか、無いよね?」

「…そうなったら、銀次が責任を持って壊せよっ」


 背後を振り返って、紀乃の持つ人体模型を何とも言えない表情で眺めている杉坂姉妹。

 地味に、怖がっているように見えるのは、気のせいでは無いだろう。

 なにせ、彼女達が担当していた理科室で、またしても人外魔境っぷりが発揮されてしまったからな。


 オレが倒れたあの後、散々渋ってはいたが彼女達も理科室へと作業へと戻っていたのだが、その時はなんともなかったようだ。


 しかし、問題が発生したのは、その後。

 しばらく作業をしていたとの事だったが、休憩も踏まえて一度外へと物品の運び出しをして、ふと理科室に戻った際に、その異変は起こっていた。


 なんと窓から投げ捨てた筈の骨格標本が、何故かいつの間にか戻って来ていたらしい。


 誰も触れた訳でも無く、戻した訳でも無いというのに、元の位置に戻っていたというのである。

 これに関しては、オレも彼女達も見ていたし、騎士達の証言もあった。

 ………見事に、学校の七不思議を体現した訳である。


 おかげで、杉坂姉妹が始終怖がってしまい、理科室へ立ち入るのを断固拒否。

 彼女達だけ仕事が終わっていなかったので、その後に仕事を終えた男子組が加勢したというのは、余談としておこう。


 ついでに、浅沼がぎっくり腰を再発して、使い物にならなかったという事も別の話としておこう。


「へぶしっ!!」

『ちょっと、浅沼!汚い!』


 ………なんか、可哀そうな事をした気がするのは、気のせいだろうか。


 閑話休題それはともかく


 さて、ここまでで3つの大八車を生徒達が引いたり押している訳だが、残りの3つは、申し訳ないが騎士の連中に引いて貰っている。


 今回旧校舎から運び出した物品は、先ほども言ったように様々だ。


 机や椅子から始まり、黒板などの教室設営の為に必要な備品類と、図書室から抜き取ってきた専門書各種。

 理科室から回収して来た教材や薬品類に、保健室から回収して来た医療品や医療道具などその他諸々。

 ついでに、男子達が発起した為に止む無く、体育館からボールやらラケットなども持ち出した。

 更に言えば、消耗品などに関しては、これまた男子達が率先してトイレまで漁ってきたので、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどが、大量に積み上がっていた。


 トレーニングの為に鉄アレイなんかも持ち出したが、正直、欲張り過ぎたとしか思えない。


 だが、更に欲張ったとも言えるのは、後方の大八車2台だ。

 その大八車には、オレの秘密基地から持ち出した武器各種が積まれているのである。

 爆薬類に関しては全て厳重に梱包させて貰っているが、取扱いには十分注意と厳命しておいた。

 文字通り、片っ端から持ち出してやったが、オレもここまで溜め込んでいたとは思ってもみなかった。

 時間や余裕があれば補充、と言う形で増やしていた事も少なくなかったが、まさかここまでの量になっているとは。

 むしろ、四畳半程度のあのスペースに良く入ってたな、この量。


 とはいえ、ここまでしないと、オレの精神衛生上気が済まなかった。


 今後は、おそらく『予言の騎士』の職務の件でも、例の赤い眼をした少女の件でも、気を揉む事になり兼ねないだろう。

 いざと言う時にすぐに使えないのでは、武器だって意味は無いし、そもそも自衛が成り立たない。

 その為、やり過ぎたとは反省しつつも、この2台の大八車だけで小隊規模(※およそ10名~50名程の部隊)の武器類が積載されている。

 引いている騎士達も押している騎士達も重そうで、本当に申し訳ない。



***



 運び出しを終えて、文字通り廃墟となった旧校舎。

 今後オレ達が立ち入る事も、あの地下室の存在を除けばあまり無いだろう。


 オレ達がいなくなったことや物品を運び出した事も相まって、ほぼ廃墟となった様相となった校舎には、どこか物悲しく寂しげにも見えた。


 そんな様子を眺めていて、オレも生徒達も何か思うところがあったのだろうか。

 誰ともなく、去り際に一礼をしていた。


 この校舎にお世話になったのは、約6ヶ月。

 たったの半年程度で、その役割を終えてしまった校舎には、申し訳ないと思うしかない。


 元々、この異世界のふざけた『魔法』とか言う、学校の怪談よりも不思議な力の所為で、水浸しになっていたので、掃除も何もあったもんじゃなかったのだが。


 そして、こちらでは無用の長物となった校舎に残されていた物品に関しては、窓から放り出したり、運び出したりしてからまとめて燃やしておいた。

 これも、当初の予定通り、廃棄処分という名目の焼却処理だ。

 図書室の書籍の数々や、使い道の無い物品類、オーバーテクノロジーの最先端と言っても過言では無いパソコン類。

 たとえ使い道が分からなくて、害が無いものだったとしても、悪用されても困るし、責任も負えない。


 生徒達は、その焼却処分の様子を、各々何とも言えない物悲しい顔をしながら見届けていた。

 伊野田や榊原に至っては、本やパソコンが燃えるのを、涙ながらに見ていた。


 ただ、伊野田は分かるにしても、榊原はそれもそれでどうなんだ?

 元々、この異世界は電気が通っていない世界だから、あったとしても稼働はしなかったと思うぞ。

 そんな彼は、鞄の中に最新鋭のノートパソコンを隠し持っている筈だったがな。

 やっぱり稼働はしないけど。

 ………あれ?ソーラーバッテリーさえあれば、稼動だけなら出来るっけ?


 そんな異世界の品々焼却したキャンプファイヤー。

 この時も、この世界のぶさけた『魔法』とか言う力を利用させて貰った。

 おそらく、今も燃え続けていることだろう。

 旧校舎や森に燃え移られても困るので、そちらにも騎士達の見張りを残してきておいて正解だった。


 って、あ゛…ッ!

 あのいつの間にか元の場所に戻ってくる呪われた骨格標本も、あのキャンプファイヤーで燃やしてくれば良かった!

 失敗したなぁ…。


 今更気付いても遅いし、今から校舎に戻るのも億劫だ。

 今回は、地下室同様に放置としておこう。



***



 閑話休題それはともかく


「これで、明日から、授業を開始出来るな」


 苦笑と共に、生徒達を振り返る。

 ここまで、怒涛の1週間、まともな授業どころかHRだって出来ていなかった。

 今日中に設置を終えれば、明日から本格的に、授業開始と出来るだろう。


 そう思って、生徒達の喜ぶ顔が少しでも見れるかと期待していたのだが、


「ちょっ、何言ってんの!?」

『ふざけんなっ!!』

「休めよ、先公!!」

「そうだよ、先生!!一番大変なの、先生だったじゃん!!」

「あ、あれ~~~?」


 そんなオレの言葉に返ってきたのは、生徒達の喜ぶ顔では無く、反発以上の反発で、口々に上がる、小言の数々。


 榊原には怒鳴られ、杉坂姉妹にはユニゾンされ、香神にも怒鳴られ、伊野田には心配されて、と散々な有様だ。

 しかも、間宮や常盤兄弟なんて、絶句している。


「まだ、無理すんなって言葉の意味が、分かって無かったの!?」

「いや、分かってはいるが、別に無理をしている訳では、」

「休めって言われてんのに休まないとか、無理してる証拠でしょうが!!」


 そして、最終的には、お前はオカンか?と言うぐらいに、ガミガミと言い募って来た榊原。

 うう、今日の倒れた一件で慰められた手前、あんまり強く言い返せない。


『お前は、今何を言ったのだ?』

『……明日から、授業を再開出来るって、』

『………休め、馬鹿者!』


 しかも、ゲイルからも何故か怒鳴られた。

 いや、だって、ここ数日まともに授業出来て無いし…。


『お、お願いですから、休んでくださいませんか?

 …ギンジ様が不調ですと、私も不調なんですの…!ひっく、ぐすっ』

『うわ、それは、なんかゴメン』


 しかし、ここで更に諌める声を上げたのは、オレの前で相乗りしていたオリビア。

 しかも、泣き出すなんてオプション付き。


 うん、まさか眷族契約で、そこまでシンクロするとは思ってもみなかったんだ。

 本当にごめん。

 今日は、しっかり休むからさ。


『明日もですっ!!ふえぇええええん!!』


 しかし、結局泣き出されて、更にはぽかぽかと胸元を叩かれる。

 不謹慎だとは思うけど、なんか癒されるわぁ。


 ともあれ、


「ここ1週間、まともに授業出来てないだろう?

 とりあえず、英語と数学と歴史と理科だけはやっとかないと、」

「だから、休めよ、馬鹿銀次!!」

「それのどこが、とりあえずなの!?」


 続けて怒鳴り声を上げた杉坂姉妹。

 ………だって、この4つに関しては、最低でも履修科目だろうし、


「そもそも、英語の習得が終わらないと、魔法の習得も遅れるって言わなかった?」

『それはダメ―!!』


 そうなのだ。

 彼等には、事前に通達していた通り、英語を習得しなければ、魔法の講義も無だと、最初から言っておいた筈だ。

 魔法習得を目指して夢見ていたのだろう浅沼や徳川、そして伊野田からは猛抗議された。


 ………よし。

 少々大人げないとは思うが、この方法なら誰も文句は言えないだろう。


「オレに授業をさせてくれないなら、強化訓練も遅れるんだけどな~」

「…うぐっ、…足下見やがって…!」

「否定できないのが、悔しいぜ畜生…!」


 魔法組と同じく、武道家気質の永曽根も香神も、封殺。

 やはり、彼等の餌は強化訓練で大丈夫そうだが、それもそれでどうなんだろうか、脳筋組。

 ………正直、脳筋はゲイルで十分なんだが。


『ハックション!!』

『うわぁお、吃驚した』

『済まん、誰かが噂をしていたようだ、』


 むしろ、こっちが済まん。


「ああ、それに、修行も先延ばしかなぁ~」

「∑…ッ!?(ガビンッ!!)」


 ついでに間宮に対しても、この方法は有効だったようだ。


 これで、大半の反発は封殺出来ただろう。

 我ながら、お手のものである。


 と、思っていたら、


「オレ、別に先延ばしになっても良いけど?」

「ウチ等だって、そうだっつうの!」

「それより、先生が先に休んでよ」

「僕も同じかなぁ」

「僕モ関係ないしネ。動けないカラ」


 残念ながら、それ以外の生徒達には、大して抑止力にならなかった様子。

 榊原と杉坂姉妹、常盤兄弟は、揃って「これで、どうだ?」と言わんばかりにニヤニヤと笑っている。


 地味に、過半数割れだが、


「杉坂姉妹は、買い物にも行けないって事で良いんだな?

 仕方ないなぁ。英語の分・か・る香神と間宮に行って貰うとしよう。

 後で、欲しい下着の色や種類を書き出しておけよ」

『きゃあああ!ふざけんなし!!』


 こちらもオレにとってはお手の物だ。

 彼女達への対抗策は、しっかりと念頭に置いておいた。

 行動がガサツだったりなんだりしても、流石に女子なのだから、下着だっていつまでも同じものを履いている訳にもいかず、かといって男子に買いに行かせるのも嫌だろう。

 これで、彼女達は陥落したと同義だ。


「紀乃も良いのか?

 お前には強化訓練とは別に、医療関連の技術も、」

「ヤル!!」


 そして、常盤兄弟の片割れ、紀乃もあっさり陥落、と。


 残りの2人である榊原と河南に対しては、そもそも趣味が偏っていてどうしようもないが、


「履修をしないなら構わないが、その場合は常に清掃係をルーチンにしてもらうからな」

「「やれば良いんだろ、やれば」」


 よし、生徒達全員の陥落に成功、と。

 やっぱり、お手のものである。


「…えげつないね」


 内心で高笑いをしていたオレに、ぼそり、と返って来た伊野田の一言。

 おそらく、彼女も下着を買ってくる云々当たりで杉坂姉妹と同じ問題に該当してしまっただろうが、えげつないなんて、オレにとっては褒め言葉だ。


「今日のうちに、設置を完了出来れば、明日から授業が開始できるぞ~」

「オリビアに今日は休むって言っておいてか!?」


 む?香神はヒアリングが出来ていたから、分かってしまったか。


『おい、オリビア。そこの馬鹿な教師が、まだ仕事するつもりでいるってよ!』

『まぁ!!』


 あッ!そして、止めろ!

 オリビアにチクるんじゃない!


『ギンジ様!!もう、オリビアは泣きますよ!』

『今でも泣いてんじゃんか!』

『ギンジ様が休んでくださるまで、延々と泣き続けますからねっ!』


 え゛っ!それは、困る!


「先生がまた泣かせた~!」

「あーあ、オレもう知らない!フォローしてやんないから!」

「オリビアちゃんを泣かすなよッ!!」

『貴様、オリビア様を泣かせるとは、何事だ!!』


 そして、オリビアが泣き出したことで、延々と小言を言われ、挙句の果てにはゲイルにも怒鳴られた。

 ううっ、畜生。

 しかも、また泣かせたとは、もしや朝方の間宮の事を言っているのだろうか?

 どうしよう、この状況。


 って、あ!

 そういえば、


「榊原、後でソーラーバッテリーをやる。パソコンも稼働ぐらいなら出来るぞ」

「オレ様、やっぱり先生大好きーー!!ほらほら、オリビアちゃん泣きやんで!」

「ああっ、ずるい!!」

「コイツ、榊原を買収しやがった!!」


 ふはははは、何とでも言え。


 これで、なんとかオリビアに関しても、隣で怒り心頭となっているゲイルも宥められるだろう。


 ともあれ、このソーラーバッテリーに関しては、榊原へのご褒美の意味合いも強いんだけどね。

 コイツは、あの圧し折れ掛けていたオレを、生徒達を扇動しつつ、慰めてくれたから。

 ソーラーバッテリー自体は、元々オレが持ち出した武器類の中に含まれていたし、先程稼働だけなら可能と気付いた時点で、譲与してやろうと思っていたからね。

 やっぱり、信賞必罰って大事だろう?



***



 そんなこんなの、騒がしい道中を終えて、現校舎に戻ってきたオレ達。

 旧校舎からの物品回収と同じく、現校舎へと戻ってきてからの搬入や、設置は滞り無く終了。

 この異世界に来てから、約8日目。

 そして、『異世界クラス』発足から約2日目にしてようやく、オレ達の教室は完成した。


「なんか、本当に学校みたいだねっ」

「間取りはこれで良い訳?なんか、勿体無くね?」

「なんか、贅沢な使い方ね」


 そう言って、オレ達12名だけだと広すぎるとも形容できる教室を見渡した女子組。

 表通りに面した2階の大広間を、今回はオレ達の教室とした。

 勿論、現代の教室に準じて、窓が左側。

 これは、自然の光を教室内に取り込んだ時、ほとんどの生徒の利き手が右手の為、文字を書く時に影を作らない為の規格なのだが、ウチの校舎でもそれを取り入れた。

 生徒達の机や椅子が設置された真正面には勿論、旧校舎から運び出した黒板が打ち付けられている。


 黒板から向って左側となる壁には、大容量の本棚を設置した。

 これも、実は旧校舎の備品として眠っていた組み立て式のラックを持ち出して来て設置した形となるが、旧校舎から運び込んだ専門書各種を、男子達がせっせと詰め込んでいる。

 ………浅沼は、ぎっくり腰大丈夫だろうか?


「先生、本棚足りないけど、」

「リビングに、使っていない本棚が残っていた筈だ。そこに運びこもう」

「了解~」

「えええっ!?また3階分を往復するのかよッ」


 専門書を運びこんでいる他の男子達からは、またしても文句を言われてしまったが、別にそこまで急ぐもんでもないから、放置をさせる。

 ダイニングにでも積み上げておいておけば、時間がある時に片付けられる。

 これによって、今日一日運搬組だった3人がげっそりとしていた顔を、ほっとした様相に崩した。

 済まんな、苦行ばかり強いて…。


「ってか、専門書これって、ここまで無防備に晒しておいて大丈夫?」

「詰め込み終わったら、板でも打ちつけようと思ってる」

「……本棚の意味が、」

「………しばらくの間の辛抱さ」


 ついでに、榊原の指摘通り、今後の運用方法を模索する間、本棚に関しては封印と言う事になる。

 これまた旧校舎から持ち出して来た湿気取り(※こんなものも備品で入ってたからね)を敷き詰めて板でも打ち付けておけば、専門書に関しては秘匿出来るだろう。


「先生、医薬品とか医療道具に関してはどうするの?ダイニングに置きっ放しだけど、」

「人体模型ハ、僕の部屋にあるケドネ」

「ああ、ダイニングのスペースが、オレ達の食事場所だけでは埋まらないから、一応の保健室代わりのスペースを作ろうと思ってな」


 保健室から回収して来た物品をダイニングへ搬入し終えた常盤兄弟の疑問は、オレの言葉通り、保健室代わりのスペース運用と言う名目でダイニングに放置して貰っている。

 その為に、保健室から担架や、何故か置かれていたストレッチャーも回収して来たんだしな。


 ………というか、紀乃はあの人体模型をそんなに気に入ったのか?

 ダイニングへの搬入よりもまず先に、部屋に運び込んでいたようだ。


「名前ハ、カオナシくんだヨッ、キヒヒッ!」


 なんとやらの神隠しか?


「(物置も、搬入終わりました)」


 そこで、ふと背後に現れた気配に、思わず肩が跳ね上がった。

 相変わらず、オレと同じく気配が希薄な15歳。


「ああ、ありがとう。……(隠せたか?)」

「(恙無く…)」

「………お前は、どこの時代の人間だ?」


 間宮は、オレの大八車2台分となった武器類を、物置へと搬入して貰っていた。

 騎士団も手伝っているが、物置にあの一個小隊規模の武器爆薬類を、ただ置いておくだけではとんでもなく不用心と言う事で、カモフラージュも含めて間宮にお願いしておいたのだ。

 なので、彼だけがこの校舎に戻って来てから、別行動だった。


 とはいえ、お前の現れ方や話し方は、それで良いのだろうか?

 今さっき、天井裏から現れた気がするのは、オレの気のせいでは無いだろうし、口調が昔気質過ぎて、忍者か何かのように感じてしまった。


 まぁ、閑話休題それはともかく


「みんな、お疲れ様。これでやっと、明日から授業を再開できるぞ」


 こうして、やっとオレ達『異世界クラス』は本格始動を見返る運びとなった。

 教師1名、生徒11名の規格よりも少ない規模であり、更には始業が秋からという中途半端な期日ながら、一から作り上げた特別学校はこうしてスタートした。


 ただし、


「パーティーをするのは、また今度にしよう。

 今日は、皆も疲れただろうから、風呂に入って就寝、っと」

『ええっ!?』

「先生、ご飯どうすんの!?」


 ………あ゛、忘れてた。


 結局、今日も昨夜と同じ酒場にて、食事と相成った。

 ………それにしても、なんでオレ、こんなに飯を忘れちゃうんだろう。

 やっぱり、裏社会人としての習慣のせいだろうか………?



***



 それから、数時間後の夜中過ぎ。


『……これまた、随分と巧妙な』

『備えあれば、憂いなしってな…』

『(頑張りました)』


 生徒達に早く休め、と言っておきながら、大人アダルト組と若干若すぎる一名を交えて、秘密裏の作戦会議。

 場所は、本日オレの秘密基地から搬入した武器類を格納した、物騒な施設と化した物置内である。


 そんな物置内の各所に配置され、一見するとどこに何があるのか分らないぐらいに見事にカモフラージュされた武器や各種爆薬類の場所の把握という名目で、物置内に踏み入ったオレとゲイル、そして間宮。

 その中で、ゲイルは再三の感嘆か呆れか分からない表情をしながら、ランタンの明かりの下、立ち尽くしていた。


 実は、校舎からの物品回収の際に、不気味な地下室ともども校長室やその他一帯を破壊工作した時点で、その後の最終確認が出来ていなかった。

 理由は簡単で、運搬組の生徒達に見つかってしまい、その対応に終始してしまったから。

 ゲイルもそうだったし、オレや間宮も同じ。


 咄嗟に、校長室付近の破壊工作に関しては、昨夜の時点で存在が確認されていた『魔物達がまだ残っていたのでゲイルに駆除をお願いした』、と尤もらしい嘘を吐いて誤魔化した。

 生徒達の一部は、若干胡乱気ではあったが、瓦礫に埋もれた校長室前を見れば、それ以上は言えなかったようで。

 ゲイルには、地味に冤罪ではあるが、ちょっとだけ不名誉を被って貰う事になったが、概ね問題は無い。

 無いったら、無い。

 今夜の酒場でのお食事は、騎士団ともども奢ってやったのだから、それで勘弁してくれ。


 さて、話が逸れたが、


『もう一度念の為に言っておくが、今日の件は、』

『分かっている。他言無用だろう?………オレも、まだ命は惜しい』


 オレの再三の念押しの言葉に、そう言ってゲイルは首元を擦っていた。

 どうやら、オレが冗談半分本気半分で言っていた寝首を掻く云々の話は、まだ彼の中で尾を引いていたようだ。

 ………まぁ、そう言って、怯えていてくれる間は良いよ。

 演技とも限らないが、それなら最初からオレ達に協力するメリットを考えるだろうし。


『ただ、赤眼の少女の件に関しては、騎士団としては捜索や追跡の為に、情報を公開させてほしいが、』

『ああ、分かっている。オレ達だけの問題では無いだろうからな、』


 ゲイルの言い分は、こちらとしても願ったり叶ったりだ。

 今回、旧校舎で発覚した謎や仮説の中で、現在オレ達が最も気を張り詰めているのは、校舎に秘密裏に監禁されていた赤眼の少女。

 その少女の存在が発覚したのみならず、現在を持って行方不明と言う点。


 これによって発生するだろう危険性は、オレ達に関しても言えることではあるが、王国内での治安維持や巡回を請け負っている騎士団でも同じこと。

 最初から、彼を通じて騎士団全体に情報の共有と、捜索や潜伏等を想定した探査、もしくは特別警戒などをお願いするつもりだったから。


 ………ただ、その会話を、マークⅡ手榴弾パイナップル片手に行わないで欲しい。

 オレ達異世界人の、進み過ぎた最新鋭の技術に興味津々なのは分かるが、それが罷り間違って暴発した場合は、この場で心中する事になる。

 それだけは、勘弁してほしい。


 閑話休題それはともかく


 最後にもう一つ、オレは彼に念押しをしなければならない事がある。


『……オレの事だが、』


 旧校舎での探索の際、発覚してしまったのは謎だけでは無い。

 オレという人間の過去も、また発覚した事実の一つだった。

 そして、オレはそれを、このゲイルに写真と言う間接的な方法ではあるが、知られてしまっている。


『………分かっている』


 オレが口を開いたと同時に、ゲイルは顔色を変えた。

 そして、少しの間を空けて、彼は了承の意思を言葉で示した。


 ただ、理解はしているのだろうが、納得しているのかどうかは判断が付きそうに無い語調だった。


 やはり、オレの過去が彼に知られたのは、痛い。

 彼にも、多少なりとも思うところが、出来てしまったのは事実だろう。


『………オレが、知られたくないだけだとしても?』

『それでもだ』


 しかし、意外とはっきりとした返答が返ってきたことに、少しだけオレは驚いた。

 どうやら、オレの横に控えていた間宮も意外だったようで、眼を瞬いていた。


『むしろ、オレは申し訳ないと思っている。

 お前の過去への詮索を、成り行きとは言え、勝手に踏み込んで、知ってしまったのだから、』

『………。』


 言葉を失ったオレに、彼は更に続ける。


 だが、


『…あんな過去を、例え『嘘』を交えたとしても教えてくれたお前は、正直立派だとオレは思っている』


 彼に知られたオレの過去は、オレが彼等騎士団へと話した内容を覆す内容だ。

 やはり、『嘘』はいつかバレるものだ。


 この時ばかりは、生徒達を守る為とお題名目を並べて、ゲイル達の前で嘘の経歴を話したことが悔やまれた。

 オレは自身の過去を、これからどれだけの嘘で塗り固めて行くのだろう。

 そんな考えがふと脳裏を過り、陰鬱な気分となったオレが眼を逸らすが、


『責めている訳では無い』


 それに対し、ゲイルはそう言って首を振った。


『…先程も言った通り立派だと思っている。

 お前は、あんな思いをしておきながら、それでも自分本位に防衛をしている訳では無い。

 それに、あの時生徒達を守る為に奮起していた気持ちは、一切の嘘は見受けられなかったし、オレはそれがお前の本心だと思っている』


 淡々と述べられた彼の言葉に、オレは一瞬思考が追い付かなかった。

 オレの眼はいっそ滑稽な程に、揺れていただろう。


 彼の真意がどこにあるのか、今のオレでは分かりそうに無い。

 立派だとか、言われても素直に受け取れないのは、オレが捻くれているからか、もしくは後ろめたいからだろうか。


 だって、オレは、生徒達を守る使命すらも、自身の過去や本心を隠す隠れ蓑にしようとしていたんだぞ。

 生徒達を守る為?

 実際には、自身の身を守りたいが為の保身で、生徒達の話を引っ張り出したというのに。

 ………正直、胸が苦しくて居た堪れない。


 握り締めた右手が、自棄に熱い。


『……知らない方が、良かっただろう?』

『……そうだな。出来れば、知りたくなかった……』


 しかし、オレの口は、そんな苦心も居た堪れなさも、ひた隠すようにして軽快に動き出していた。

 またしても、オレは嘘を重ねて、露出した都合の悪い事実を覆い隠そうとしている。

 見栄っ張りもここまで来ると、病気だな。

 ………そろそろ、罰でも当たりそうだ。

 閻魔様に舌を引っこ抜かれるのは、確実だろう。


 自嘲を零して、視線を彼方へと投げやった。

 その所為で、オレはこの時、間宮やゲイルがどんな表情をしているのかすら分からなかった。


『…知っても面白い事は無いだろうしな。

 オレの解体新書なんて、犬畜生だって見たいとは思わねぇだろうし、』


 視界の端で、間宮の赤髪がぴくりと揺れた。

 ゲイルも目線を厳しくしているのを感じ、再三の自嘲とも言える苦笑が零れた。


 そりゃ、怒りもするだろうさ。

 仮にも経歴を偽っていた人間が、開き直っているだけなんだから。


 無意味に茶化して、更に開き直って反省すら見せていない姿。

 とても真摯には見えないだろう。


 事実、これはただの虚勢だ。

 自分を守る為に、また自分の隠していた経歴を正当化する為に、虚勢を張っているだけだ。

 ………道化師ですら、真っ青だろう。


『とんだ化け物(・・・)が、教師なんてやってるもんだ。

 いっそ見世物小屋の方が、オレにとっては天職だったかもしれ、』

『ギンジ』


 しかし、ふと遮られた言葉。

 それと同時に、ランタンの明かりすらも、遮られた。


 目の前に、オレを見下ろすような形で、立ちはだかったゲイルによって。


『…お前、それは本気で言っているのか?』


 低く、まるで言い含めるような声音だった。

 そして、オレはそれを聞いて、不覚にも動揺してしまった。


『……ほ、んきじゃなかったら、言う訳無いだろ?』


 咄嗟に浮かんだ言葉は、彼の言葉を肯定し、軽薄にも乾いたへらりとした笑いを浮かべていた。

 それが、いけなかったのか、


ーーーパンッ!


 静まり返った物置の中に、響いた打音。

 それが耳に届くよりも先に、視界が揺れた。

 そして、打音とともに、熱くなった頬がじわじわと、ゆっくりと感覚を蘇らせていく。


『………馬鹿者が』


 そう言って、冷たい声を吐き出したゲイル。

 叱責とも取れる言葉とは裏腹には、何故か堪えるような響きがあったのは覚えている。

 だが、この時のオレには、それすらも感じ取れなかった。


 彼に、頬を叩かれたのだと、自覚したと同時に、言い様のない恐怖心が背筋を震わせた。

 不格好に体が震え、痛みを訴える頬を手の甲で抑える事しか出来ない。


 目線を上げる事も出来ず、頬を張られたままの格好で、間抜けな顔で呆けた自分。

 それを客観的に理解するよりも早く、ゲイルは踵を返していた。


『………見え透いた虚勢など張るからだ』


 それだけを言い残して、彼はオレに背中を向けて、そのまま物置を後にしてしまった。


 この時の彼の行動は、本音を言えば意味が分からなかった。


 取り残されたオレと、間宮。

 そんなオレ達の間にも、沈黙が落ちていた。


『(ギンジ様、)』


 だが、間宮はそれでも、オレの裾を引いた。

 そうして、オレが彼の顔へと視線を向けた後に、


『(正直、不本意ではありますが、オレもゲイル氏と同じ気持ちです。

 ………何故叱られたのか、何故叩かれたのか、答えが分かりましたら、謝罪をされた方がよろしいかと、)』


 読み取れる範囲のギリギリの速度。

 そしてその内容は、これまたオレにとっては、意味が分からなかった。


 しかし、間宮の唇や掌も、どこか震えているように思えたのは気のせいでは無かったのかもしれない。

 その震えの根源である感情が何なのか、結局オレには分からない。


 その後、間宮もゲイルと同じく、物置を後にした。


 最終的に、一人で物置に残されたオレは、やはり意味が分からないままで、


「…答えなんて、分かる訳無いじゃないか…」


 そう呟いたと同時に、情けない事にその場でへたり込んでしまった。


 何が間違っていたのかも分からない。

 何が、ゲイルの琴線に触れ、彼を怒らせてしまったのかも分からない。

 そして、彼の言動の意味も分からない。


 間宮の言動も同様で、彼の言う答えも分からなければ、彼が必死に押し隠そうとしていた感情すらも分からなかった。


 罰が悪いというか、居た堪れないというか。

 込み上げてきた感情は、わずかに怒りや悲しみを含む、多大な混乱だけ。

 その感情に、オレは結局意味も分からないままに叩かれた頬を抑えたまま、引き攣った笑みを零すしか無かった。


 眼から零れ落ちた滴にも気付かないまま、そのまま物置で一人乾いた笑声とも付かない息を吐き出していた。



***



 それから、どうやって校舎へと戻り、就寝しのたかどうかも分からないまま、オレはなんとも後味の悪くなった始業日前日を迎えた。



***

ゲイル氏と間宮には分かって、自分には分からない。

分かり易すぎてお話になりませんが、アサシン・ティチャーは鈍感ですって話。

でも、結局ホモ展開?

感想もホモホモ連発しているんだが、作品の検索キーワードに「ホモ」と追加すべきでしょうか?


誤字脱字乱文等失礼致します。

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