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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、旧校舎探索編
15/179

12時間目 「道徳~住居清掃は、結局他人任せには出来ない~」3 ※流血表現注意

2015年9月6日初投稿。(2015年11月25日改稿)


第12話目です。

改稿しました。

言い訳は後日改めて、活動報告にてさせていただきます。

***



 目の前が突然、明るくなった事で脳が覚醒した。

 思わず目を細め、左腕(・・)で光を遮断しようと手を翳す。


 その明りの中に、人影が浮かび上がる。


「お前ぇは、こんなところで、なにをしておるか」

「…し、師匠…!?」


 まさか現れるとは思っていなかった人物。

 驚いて固まっている間に、師匠はオレの髪を掴んで、今までいた狭くて暗い場所から引っ張り出した。

 ぶちぶちと、髪の抜ける(・・・・・)嫌な音が聞こえても、お構いなしだった。


 地面に引きずり出されて、背後を振り返れば、そこにあったのはロッカーだった。

 ふと違和感を覚えて、逡巡する。

 何故、こんな所に入っていたのか。

 そして、自分は今まで何をしていたのか(・・・・・・・・)


 見下ろしたオレの手は、まるで紅葉のような手だった。

 そして、その手はボロボロで、至る所に包帯やガーゼが貼られていた。


 またしても、違和感を感じ、眉を顰める。

 オレの手はこんなに小さかっただろうか。


 しかし、そんな逡巡も、唐突に降ってきた拳骨という凶器によって、いとも簡単に吹き飛ばされた。

 痛いなんてものでは無い。


 頭を両手(・・)で抱え込んで痛みを堪える。

 目線の先には、コンクリート(・・・・・・)の地面。

 その地面を見る、オレの視界は涙で歪んでいた。


「逃げ出したかと思えば、こんな所でお昼寝とはな…」


 そんな師匠の呆れたような声まで頭上から降ってきた。


 涙で滲んだ目線を上げれば、背中の黒髪が揺れる。

 オレに背を向ける形で、首を振ったのだろう彼。

 何かしらの物事を嘆く時に、師匠は良くこうして首を振っていた。


 懐かしい後姿だと感じた。


 ………そうか(・・・)

 オレ、逃げ出したんだ。


 師匠の、修行と称した拷問に嫌気が差して。

 そして、麓の街のロッカーに隠れて、次の日までやり過ごすつもりだった。


 しかし、どうして分かったのだろう。

 自分は、転寝していたとしても、ロッカーに隠れていたというのに。


「どうして…?」


 疑問の声を、そのまま背中にぶつける。


 またしても、違和感。

 この人の背中は、こんなに小さかっただろうか。


 いや、違う。

 オレの身体が大きくなったのだ。


 先ほどの紅葉のような手は、いつの間にか血に塗れた成人の手になっていた。

 そして、いつの間にか、左腕は動かなくなっていた。


 振り返った師匠。

 彼は、何故か笑っていた。


「そりゃ、決まってんだろ?」


 血みどろ(・・・・)の顔で笑っていた。 


「テメェが憎くて憎くて、堪らねぇからだよ」


 師匠は、そう言ってオレの首に手を掛けた。



***



『ヒッ…---ッ!!』


 息を吸い込むのを、一瞬忘れてしまった。

 乾いた悲鳴と共に、喉元で詰まった呼吸。


 ばくばくと心臓の音が五月蝿い。

 まるで、耳の位置に心臓が移ったかのようにがなり立てる心音が鬱陶しい。


『…あ゛…ッ!…ハァ…ッ…!』

『…む?』


 更には、首に感じた違和感に身体が勝手に痙攣した。

 誰かが、触れている。

 オレの首に手を触れている。


 その事実が、オレの背筋を一層粟立たせた。


『…や、やめろ…!いやだ…っ!』


 首に食い込む何者かの手。

 がっちりと爪まで食い込んでいるその力強さに、すぐに勘付いた。


 この手は男だ。


 途端、息が詰まる。

 朦朧とする意識の中、またしても呼吸が荒くなる。


 ………またしても(・・・・・)


 そこまで考えた所で、ぶわりと、全身に鳥肌が立った。


 今までの違和感は何だったのか。

 そうだ、夢だ。

 オレは、師匠のいる世界の幻想を見ていた。

 そして、その師匠がいない事実を改めて認識してしまった。


 身体が、無様に震えた。

 首を絞められて、引き攣った喉。

 感覚すら、鋭敏になっている。


『…はッ…ぐ…や…っ…ひ…ッ!!』


 まともな言葉も発せ無いまま、仰け反るようにして首を逸らした。

 首を掴んだ何者かから逃れるように。


 オレの首を絞めているのは、誰だ?


 寝起きで纏まらない思考の中。

 それでも、とにかく確認をしたかった。


 唯一動く筈の右腕で、その何者かを押しのけようとする。


『…おっと…!』


 低い声。

 それと、同時に、


『ガッ……ーーッ!』

『動くなって…乱暴にしちゃうだろ?』


 途端に響いたけたたましい音。

 その男は、オレを背後の壁に押し付けた。


 生易しい言い方をしたが、首を掴まれたまま壁に押し付けるどころか、叩き付けられたのだ。


 そのおかげで、潔く目覚めた。


 頭を打った所為かまだ、意識が朦朧とするものの。

 生理的に涙が滲んだ目先の先に、その男の姿を収めることが出来た。


『…ん、で…』


 オレを壁に押し付け、首を絞めていたのは、やはり男だった。


『…目が覚めちゃった?』


 無造作ながら少し乱れた黒髪。

 口元は、にやりと嫌味な程に、三日月を描いていた。


 その眼や口調には、軽薄そうな心理が透けて見えた。

 表情や声音、そして雰囲気がオレも良く知る人物を髣髴とさせる。


『ア、ズマ…?』


 元同僚兼元友人で、全ての経歴に元が付く、オレの友人だった筈の男。

 そんな男が、オレの首を絞めていた挙句、壁にオレを叩き付けた張本人。

 

 しかし、


『…な、んで、お前が…ここに…!?』


 何かが可笑しいと、全身全霊で神経が拒絶している。

 再三の違和感を感じ、更には酸欠と打撲によって感じる眩暈と気持ち悪さに吐き気がする。


 オレは今まで何をしていた?

 オレは、今どこにいる?


 周りの状況を確認する為に、目線をいたるところへと巡らせる。


 唯一の光源である高窓から光が差し込んでいた。

 月明かりだろうか?

 いつの間にか、随分と時間が経っているようだが、オレはどれ程の時間、気を失っていたのだろうか。


 そして、オレの背後を目線だけで確認する。

 壁だと思っていたのは、ロッカーだった。

 どうりで頭と耳がガンガンするような、けたたましい音がした訳だ。


 そこまで考えて、


『…違う…ッ…!』


 ふと思い出した。

 彼は、この世界にはいない(・・・・・・・・・)筈だ。


『…お前、ゲイルか…!?』


 ここにいるのはアズマでは無い。

 そして、オレの首を絞めて拘束している彼の顔と酷似した人物。

 その人物とは、今日知り合ったばかりの王国騎士団長にし友人(仮)となったゲイルのみだった。

 やっとオレの認識が、この事態に追い付いたようだ。


 そこからは、潔く気絶する前の記憶が思い起こされた。


 校舎探索の為に、騎士達と裏口から侵入したが、人体模型やら肉人形のせいで逸れた挙句、その騎士達がオレ達を襲って来たのである。

 そして、止む無く校舎内を逃げ回り、最終的にこのロッカールームへと逃げ込んで、隠れて騎士達をやり過ごそうとしていた筈だった。


 しかし、そこで、オレが心理的な負荷で過呼吸を起こして、気を失ってしまったのだ。


 しかし、


『っ…テメェは、なんで、…ッ!』


 何故、そのゲイルがオレの首を絞めているのか。


『だいたい、隠れてやり過ごそうとしていた筈、だろうが…ッ!

 何で、こんな開けっ広げに…!!』

『もうっ、元気になった途端、五月蝿いな!』

『ぐっ…!』


 またしても、ロッカーに頭を打ちつけられた。

 これは、地味に応える。

 まだ頭痛が取れないというのに。


 一体、何がどうなっているのか。


 隠れてやり過ごす作戦はどうなった?

 そして、何故オレを殺そうとしているのか、この男は。


 そう思っている間にも、彼はオレの首を際限無く締め上げようとしている。

 殺そうとしているのは理解出来るが、何故今になってなのだろうか。


『や、め…っ…やめろって…』

『五月蝿い』


 また、ロッカーに頭を打ち付けられる。

 三回目だ。


 首を絞められた上で、脳味噌を揺さぶられるとさすがに意識が混濁してくる。


 こんな時には防弾ベストは役に立たない。

 良い勉強になった。

 勉強になったとしても、事態は好転しないがな。


 閑話休題。


 マジで、これはヤバイ状況だ。

 オレのトラウマもガンガン抉られている。

 男相手に押さえ込まれるとか、オレにとっては恐怖でしかない。


『…やめろ…ッ!ひっ…ぐ…、ゲイル!…おいッ!!』

『だから五月蝿いなぁ!』


 四度目だった。

 ロッカーに打ち付けられた頭が痛いわ、さすがにここまでされるとイラッとして来る。

 しかし、感情とは裏腹に、体は抵抗する力を失っていく。


『…っ…ん…ぐ…っ』

『そうそう、大人しくしてよ…?コイツ等みたいになりたくないでしょ?』


 コイツ等、と言ったゲイルの言葉。


 その言葉に、オレは眼を瞬いた。

 目線を辿れば、そこには積み上げられた騎士達がいた。

 オレ達を散々追いかけ回していた筈の騎士達だった。

 皆、生きているのか死んでいるのかも分からないまま、ただただ沈黙している。

 そして、その騎士達の身体にはまるで煙のように黒い靄が立ち昇っていた。


 こっちはすぐに理解が出来た。

 コイツが、操られていた騎士達をどうにかしたのだ。


 確か身体を破壊するか何か別の方法でどうにかすれば、ダークヘイズは抜け出ていく筈だった。


 驚異は、去ったと見るべきか。

 騎士達は操られてオレ達を急襲して来た訳だが、これで追いかけ回される事はもう無いだろう。


 ただし、もう一つの脅威が去っていない。

 目の前のゲイルが、オレを殺そうとしているからだ。


『…な、んでテメェがオレを襲っているんだよ…ッ!!』

『懲りないね、アンタも!』

『がっ…!』


 ロッカーに頭を打ち付けられた。

 五回目の正直、地味に首が可笑しな方向に曲がりかけた。


 首を絞めて殺すのか、頭を潰して殺すのかどっちなのか。

 オレ的には、どっちも嫌だ。


 しかし、違和感を感じる。

 先ほどから、違和感しか感じない原因は、コイツの口調と言動である。


 このゲイルと言う男は、こんな幼い喋り方をしていただろうか。

 ましてや、こんな状況で、こんな行動を起こすような男だっただろうか。


 元々、オレが『予言の騎士』だという事には、彼は随分と懐疑的だったのは十分分かっていた。

 しかし、事を起こすなら、もっと簡単な方法で済んだ筈だ。

 先ほどまで、そこら辺に無造作に積み上げられた騎士達から追いかけ回されていたのは、彼も同じである。

 わざわざ、自分も危険な状況に陥る理由がどこにあった?


 ならば、


『なん、なんだよ、テメェは…ッ!は…ッ、ぐっ…ゲイルの体に、何をして…』

『…もう、五月蝿いって言っているのに、分からない人間(・・)だなぁ…』


 確信にも似た、一種の勘。

 どうやら当たっていたようだ。


 コイツは、オレを人間(・・)と呼んだ。


 この身体はゲイルのもので間違いない。

 しかし、中身が別だ。

 何者かの意識が、この体には入り込んでいる。

 そして、その何者かは確実に、オレ達を人間と呼ぶ、人間とは別のものだ。


 だが、分かったところでどうしようもない。

 ゲイルの身体に押さえ込まれたオレの体は、文字通りびくともしない。


 更には、


『いただきまぁす!』

『…ひっ!?…待てっ、いただき…!?

ぐ…っ……ーーーーーーーーーーッ!!』


 襟元を引っ掴まれたかと思えば、びりびりと防弾ベストすらも引き裂いて大きく露出された肩。

 そこへ、流暢に軽率な声と言葉を発していた口が、突然大きく開かれ、そして、噛み付かれた。


 耳元で生々しく聞こえた息遣い。

 オレの首筋の薄皮を食い破り、ゲイルの姿をした何者かの歯が、肉に食い込んだ。


 嘘だろ。

 マジかよ、ふざけんな。


 悲鳴とは裏腹に、内心では冷静な思考が罵詈雑言を叩きつけていた。


 首を絞められ、挙句の果てには捕食されるだと?

 冗談じゃない。

 オレは人間ではあるが、間違っても獲物では無い筈だ。

 ああ、いや、別の種族からしてみれば、餌として認識されるのかもしれない。


 だけど、いきなり噛みつかれるって、それは無いだろう。

 しかし、耳元では血を吸い出しては嚥下する音が響き、食い破られた皮膚は痛みを断続的に訴え続けていた。


 コイツ、マジでオレを捕食するつもりだ。

 やはりこういう時には防弾ベストは役に立たない。

 良い勉強だ。


 溢れ出た血が、そのまま嚥下されて行く。


 しかし、この状況は、ヤバい。

 何がヤバいかと言えば、オレの生命も然ることながら、ゲイルの命もだ。


 問題は、このゲイルの姿をした化け物がオレの血を吸っている事だ。


 オレの()も人間にはヤバイのだ。


『やめろ…っ、ゲイル…じゃない!…中に入ってる奴!…死ぬぞ!?』

『ソウ?…滅多に無いほど、美味しいよ』


 コイツ、頭が可笑しいのでは無いだろうか。


『…違う…ッ!オレの血は…毒を含んでるんだ…ッ!』

『あ、本当だ!…どこかで味わった事あるような気がしてたけど、僕らの御馳走にそっくりなんだ!』


 やっぱり、コイツは頭が可笑しいようだ。


 毒を美味いと思う?

 そして、更には御馳走だとのたまいやがっただと?

 それは化け物だ。

 それが、何か分かって言ってるのだろうか。


『知ってるよ、この味!!なんでこんなに美味しいかと思ったら!』


 どうやら、分かった上での台詞だったようだ。


 よく分かった。

 コイツは味覚も頭も可笑しい。


 オレが白状した通り、また彼の言葉通り、オレの血は毒だ。

 揶揄でもなんでもなく、正真正銘の毒であり、薬になりはしない。


 詳しくはオレも知らないが、以前受けた生体実験の結果が、これだ。 

 生きているし、オレの身体には特に影響は見られなかったものの、確実にオレの血中には毒素が含まれている。

 そんなものを、飲むなんて人間には自殺行為だ。

 舐めるだけで白目を剥いた人間を知っている。


 だと言うのに、そんな劇物を飲むなど、正気の沙汰では無いと言うのに。


『やめろ…ッ、ゲイルの体で…勝手なことをするな…ッ!』

『とっても、美味しいねぇ!このまま持って帰っちゃおうかなぁ!』


 駄目だ、コイツ。

 会話が成立しない。


 しかも、ゲイルの中に入っている奴は、意外と表情豊かだったようだ。

 おかげでゲイルの顔が輝かんばかりの笑顔となっている。


 これはこれで眼福とか思ったオレは、そろそろこいつに感化されて頭が可笑しくなっているのだろうか。

 ああ、そういえばロッカーに頭を打ち付けれていたか。

 馬鹿になったんだな、そうかそうか。


『…ぐぅ…っア゛…!』


 だからって、オレもこの状況を理解できるかと言えばそうではない。

 そろそろ血液が不足して来て、眩暈を起こしている。


 首を絞められていることで酸欠状態だったのに、更にこれ以上体調不良を患う事になれば、ここからの生存が難しくなる。

 やはりこういう時には防弾ベストは(以下省略)。


『やめろ…っもう、…ッ!!』

『ああ、人間って簡単に死んじゃうもんねぇ…。

 まぁ、このまま眷族にしちゃっても良いかも。アンタ、綺麗な顔してるしさ』


 にっこりと血濡れの唇のままで微笑んだ、ゲイルの顔をした何者か。

 背筋に怖気が走る。


 今、眷族と言わなかっただろうか、コイツ。

 女神であるオリビアとした契約を、コイツと結ぶ事になるのか?


 冗談じゃない。

 相手は人間じゃない種族であり、ゲイルの体を乗っ取っている敵だ。

 そんな奴の眷族にされたら、実質何をされるか分かったものじゃない。


『やめろ…っ、ひゅ…ッ…!…オレは、男だ…!!

 テメェの眷族…なんか、なりたくねぇ…ッ!』


 朦朧とする意識の中で、なけなしの力でゲイルの身体を乗っ取った何者かを押し退けようとする。

 だが、結果は、見ずとも分かるだろう。

 びくともしない。


 コイツ、蹴り飛ばしてやろうか。

 その脚も今現在は彼の腕と脚に押さえつけられているが。


 しかし、


『嘘だぁ!こんな女の子みたいな顔しているくせに!!』


 予期せず、ゲイルの体を乗っ取った何者かの動きが止まった。

 次いで、絶叫。

 オレも、きょとんと固まったが、眼の前でゲイルの顔をしていた何者かもきょとんとしていた。


 コイツ、頭が可笑しいだけじゃなく、眼も可笑しかったのか?


『…け、喧嘩を売っているのか…ッ!?』

『馬鹿じゃないの!こんなの喧嘩にならないだろ!?』

『…ごもっとも…!』


 あからさまな侮辱を含んだ言葉を聞いて、思わず首を絞められている状況を忘れて怒鳴り返してしまった。

 しまった、首が更に締め上げられてしまった。

 しかも、である。


『く…っ…あ…っ痛…ッ!?』

『あ、本当だ。ある』


 素っ頓狂な悲鳴が上がる。

 誰の?

 オレのだよ。


 おそらく、確認の為だったのだろう。

 男なら誰もが持っているアレを、衣服の上からとはいえあろうことか容赦なく握られた。

 オレの悲鳴の意味を、誰か分かってくれ。


『…なぁんだ、女じゃなかったのかぁ…。

 綺麗な顔してるから、持って返ってやろうと思ったのに…!』

『きょ、恐怖しか感じない台詞だな、コノヤロウ…ッ。

 …テメェはオレが女だったら拉致監禁するつもりだったのか…ッ!?』

『うんっ!僕のご飯として!』

『捕食宣言!?』


 結局、食われる前提なのかよ。

 いや、この状況から察するに、確実に捕食されているのは分かっていたけど。


『…テメェが、魔族とやらか…』

『そうだよ?僕は吸血鬼ヴァンパイア!』


 もういやだ。

 これが魔族なのかよ。

 しかも、種族が吸血鬼ヴァンパイアか。

 噛み付く訳だ。

 しかし、処女の血を好むってのは、嘘だったのか?

 ………毒の血は好んで飲んでくれたようだが、嬉しくもなんとも無いわ。


『僕、アレクサンダーって言うんだ。お兄さんは?』

『ギンジ・クロガネだ。…ってか、お前、こんな格好で自己紹介とか…』


 まず、首を絞めているこの手を離してくれ。

 未だにぎゅうぎゅうと、オレの首を掴んだまま締め上げているこの手を潔く離してほしい。

 さもないとそろそろ、意識が落ちる。


 しかし、魔族ことアレクサンダー(種族/ヴァンパイア)は知らん顔だ。


『お兄さん、オレの事殺しに来たの?騎士の仲間なんだよね?』

『…いや…そう、なのか…?

 ひゅー…魔物が巣食ったって、…ッ…報告しか上がってなかったんだが…』

『ああ、塵芥ダークヘイズの事?』


 ………。

 ………今、こいつ確実にダークヘイズを見下していたな。


 地味に苦戦していた手前、オレもなんとなく優越感は感じたけど。

 だが、口調から言って、おそらくコイツはダークヘイズを塵芥と呼べるぐらいには上位種という事だろう。

 食物連鎖とはまたちょっと違うかもしれないが、ピラミッドで言えばどこら辺なのか。


『…お前は、どうしてコイツに取り憑いている?』

『ああ、この人?アンタの隣の部屋で気絶してたからちょっと借りたんだ!

 人間って変な部屋を作るんだね』

『…ロッカーは入れ物であって部屋では無いわ』

『じゃあ、なんで入ってたの?』

『強制的な隠れん坊だ。聞いてくれるな』


 こいつ、無邪気に正論を叩き付けてくるな。

 おかげで調子が狂うぞ。

 下手な腹の探り合いをするよりも楽ではあるのも確かなのだが。


 話が逸れたが。


『えっとね、僕変な感じがしたんだ!

 呼ばれたみたいな感じだったから、家からびゅーんって来たんだけど、ここに入った瞬間に、ぐしゃってなっちゃって~、気付いたらここから出れなくなってたの!』


 意味が分からん。


『それでね、どうしようかと思って困ってたらさ、騎士が一杯来たでしょ?

 で、なんか楽しそうな追いかけっこしてたから僕も混ざろうと思ったんだけど、体が無いから余計に困っちゃった。

 けど、この人なら入れそうと思ったら入れたんだよね!』


 もう一度言うが、意味が分からん。

 だが、前後関係は分かって来たぞ。


 コイツが此処に来たのは、オレ達より前だった訳だ。

 もしかしたら、巣食っていたというのも、ダークヘイズだけじゃなくて案外コイツだったとかじゃないだろうか。

 そして、オレ達騎士団の討伐隊がやって来て、ダークヘイズに取り憑かれた騎士達の追いかけっこらしきものが始まったので、混ざろうと思ってこいつも追いかけて来ていた。

 そのうち、オレ達がこのロッカールームへと立て籠もり、その間にゲイルが何故か気絶をしてしまったらしい。


 あ、なんか意識を失う前の事も段々思い出してきた。

 隣でゲイルが倒れた音らしきものも聞いたような気がしないでも無い。


 そして、オレ達を『見つけた』と言っていた、声。


『ーーーーッ!!』


 思い出した。


 オレが、気絶をする前に、最後に見たもの。


 またしても、黒髪を振り乱した女生徒の肉人形だったんだ。

 それが、ロッカーからまっすぐにオレを、赤い眼で見下していた。


 まさか、コイツが取り憑いていた仮の肉体だったのだろうか。


『…まさか、お前が…ッ、あの女生徒の肉人形に…ひゅっ…取り憑いていた正体か?』

『ジョセイトって何?オレ、この人の身体に入るまで、何にも取り憑いて無いよ?』  


 は?

 違うのか?


 何故か、お互いに首を傾げてしまった。

 おかげで、首が更に締まった。


『で、でも肉人形って、もしかしてあの人間じゃない、眼が真っ黒で口が真っ赤に塗られてた気持ち悪い人形の事?』

『ッ…そうだ、それだ…!…お前が操って、ひゅっ…いたんじゃないのか?』

『ううん』


 首を振られた。

 いちいち動作が幼い奴だな。


 ゲイルの体でやるから違和感しか感じないが。


『あ、でも、あの人形がいっぱいあるとこ知ってるよ!地下室に一杯並んでたんだ!』

『……地下室?』


 ………初耳だ。

 思わず、オレは聞き返していた。


『うん。凄い部屋だったよ?あの人形がずらっと並んでたし、』


 それは確かに凄い部屋だ。

 間違っても住みたくは無いし、入りたくない。


 しかし、問題はそこじゃない。


 学校に地下室がある事が問題なんだ。


 オレは、正直言えば、そんなものは知らない。

 違和感ばかりが増えていく。

 思えば、最初から今まで、違和感しか感じられなくなって来た。


『ねぇねぇ、お兄さん。顔真っ青にしているけど、もしかして死に掛けてんの?』

『…っ!…勝手に殺すな…ッ!そして、顔が青いのはお前がオレの首を噛み付いたからだ…!』


 考え事をしていた所為か、結構な量の血が溢れてしまっていた。

 おかげで新調したばかりのシャツと背広がまたしても血だらけになっているのが分かる。

 随分と考え込んでいたらしい。


 だが、今はその考え事よりも、こっちを最優先にするべきだ。

 酸欠に次いで大量に失血している。

 そろそろショック症状でも起こしたとしても、可笑しくはない状況だ。


 オレはもう帰りたいのだ。

 全部投げ出しても良いから帰りたい。

 考え事をするのは、それからでも良い。


『そ、そろそろ離せ…ッ!…ソイツからも、出て行け…ッ!』

『え~~っ!?折角、こんなに良い身体手に入れたのに、』


 え~~っ!?じゃない。

 そして、オレの首を離せと言ったのには、スルーかコノヤロウ。


『…ッ、だいたい、何でソイツに取り憑いているんだ…!?ヒューッ…ッさっきも、ぜぇ…聞かなかったか?』


 話を戻そう。


 そもそも、コイツに質問したのは、何故ゲイルに取り憑いているのかだ。

 若干、オレも話題が逸れに逸れまくっている事に気付いていなかったのだが。


『んっとね、この人、僕達吸血鬼(ヴァンパイア)と相性が良いみたい!貰っても良い!?』

『…は?』


 いや、相性ってなにそれ?

 ってか、駄目に決まってんだろう。


『人の物は盗んじゃいけません。しかも、身体とか規格外にも程があるわ。

 オレの数少ない友人でもあるから、即刻出て行けッ!!』


 ああもう、突っ込みに疲れる。

 辟易とした表情すらも隠せなかった。


 だが、


『じゃあ、どうやって帰るってのさ!』


 見る間にゲイルの身体を借りたアレクサンダーとやらの顔が歪んでいく。

 あ、ヤバイ。

 もしかして、怒った?


 かと思えば、首に食い込んだ手が更に、強まった。

 ああ、これはヤバい。

 マジで絞め殺される5秒前だ。


『そ、それ、は…ッどうしようも、ないだろうが…ッ!

 そもそも、か、身体をどこに…やったんだ、お前は…ッ!』

『だからさっき壊れちゃったって言ったでしょ!?』


 おいおい、壊れたってそっちの意味かよ!?

 良く生きてたな、お前!


『ヴァンパイアは身体が灰になっても再生出来るんだよ!

 アンタ等人間は僕達の事、太陽があると無能みたいに馬鹿にしてるけど不死身なんだからな!』


 不死身なのに体が壊れたのか…?

 それは、不死身に分類して良いのやら、微妙に悩むところなんだが。


 それはともかく、段々とヒートアップしていくアレクサンダー。

 おかげで、オレの首も際限無く締め上げられていく。

 既に、虫の息だ。

 呼吸なんて、数秒前から儘ならない。


 だが、顔を真っ赤にしながら歪ませていたゲイル(inアレクサンダー)が、ふと何かに気付いたように、オレの首を唐突に解放した。


『ゲホッ、ヒューッ…ゴホッ!!』


 唐突に呼吸を再開して、噎せ返る。

 それを見下していたゲイル(inアレクサンダー)は、まるで何かを発見した子どものように顔を輝かせている。


 嫌な予感しかしない。

 そして、


『じゃあ、あんたの体をちょうだいよ!』


 発せられた言葉に、オレは一瞬耳が可笑しくなったのかと思ってしまった。

 あろうことか、オレに矛先が向かったようだ。


 逃げようとする暇もあらばこそ、ごつりとオレに頭突きが加えられた。

 ゲイル(コイツ)(inアレクサンダー)はもしやとは思っていたが、やはり石頭だったようだな。

 おかげで、脳が一瞬で揺れて、意識が落ちそうになる。


『…がっ…っは…ーーーーーッ!?』


 しかし、その意識の混濁はどうやらアレクサンダーの所為だったようだ。

 頭の中をこねくり回されるような不快感と頭痛が脳髄に直撃する。


 途端、蘇って来る記憶。

 マズイ。


 これはこねくり回されているんじゃない。

 探られているのだ。


 走馬灯のように流れていく記憶。


 地獄のような訓練や、修行と称した拷問の日々。


 更には、


『うげっ…!アンタ、なんて…体験して……ッ!!?』


 蘇った5年前の地獄。


 陵辱された身体。

 這い回る蛇の鱗の感触。

 何本も打ち込まれた注射器。


 不恰好にも、身体が引き攣った。

 解放されて、首を絞められてもいなかった筈の喉が、不格好に引き攣った。

 しかし、それはオレだけでは無かったようだ。


『うわっ!これ以上は、僕も限界!!』


 と、咄嗟に頭を離したゲイル(inアレクサンダー)。


 それだけには留まらずに、ゲイルの身体から何か灰色の靄のようなものが飛び出した。

 その灰色の靄のようなものが飛び出したゲイルの身体は、途端に糸が切れた人形のようにオレに倒れ込む。

 咄嗟の事で、まともに反応出来なかった。


『いってぇ…ッ!』


 ロッカーと彼に挟み込まれて、またしても、マッスルミルフィーユ。

 三度目の正直で、ロッカーに頭を打ち付け、押し潰された体が悲鳴を上げる。

 ………マジでコイツは後でぶん殴る。


 しかし、そんな事を考えている間にも、その灰色の靄はそのままその場で形を形成していく。

 あっという間に、その靄は頭、腕、脚と身体を作り上げて行き、靄が無くなったかと思えば、その場に現れたのは浅黒い肌の色をした少年だ。


 アレクサンダー。

 お前、そんな顔をしていたんだな。


 灰色にも近いくすんだ黒髪と、真っ赤な瞳。

 アーモンド形の眼の形とか通った鼻筋とか小さめの口。

 どちらかと言えば勝気そうで、活発そうな顔立ちをしている。

 性格そのまんまの顔だったようだが、言うなれば美少年。


 この世界の奴等はまさか、美形がデフォルトなのだろうか。

 ゲイル然り、神官のイーサン然り、オリビア然り。


 そしてお前、一番問題だと思うんだが、全裸で立ち尽くしているとかどうなんだ?


『あれ?体が元に戻ってる!』

『…おう、そりゃ、良かったな…』

『ああ、そっか。アンタの血がとっても美味しかったからだ!

 きっと、オレの力も回復したから体が元に戻ったんだね!ありがとう!』


 そこは、果たして礼を言われるところなのだろうか。

 その礼の真意についてはどっちでも良いとしても、オレは嬉しいともなんとも思えないんだが。


 食い破られた肩の皮膚がずきずきと痛んでいる。

 ついでに、コイツの所為で頭痛が酷い。

 ガンガンと痛む頭に、今にも意識が吹っ飛んで行きそうだ。


『あれ?しかも、いつの間にか変な気配が無くなったね!

 アレの所為で僕、この建物から出られなかったんだ…』

『……って、事は、お前はもう出て行けるって事だな?』

『うん!そうそう!なんか、アンタに助けて貰ったみたいだね!』

『………オレは何もしてないだろうが…』


 いや、そもそも意味が分かってねぇし。


 お前が元はさっきの灰色の靄みたいなもんで、更には可愛らしい少年で、フルチンで、そんでもってアレクサンダーって名前で、フルチンで、吸血鬼ヴァンパイアって事だけしか今のところ分かっていないんだが。

 後、フルチンって事とか。

 フルチン言い過ぎだな。


『ねぇねぇ、お兄さん。僕と戦ったりする?記憶だけ見ると、相当強いんでしょ?』

『…記憶だけ見たんなら、どうなったのかも見たんじゃないのか?』

『うん、二度と見たくないね、あれ』


 ああ、やっぱり。

 おそらく、コイツが取り憑く条件が、こうして記憶を読むとか共有するとかなんだろう。

 そう考えると、納得が出来た。


 しかし、可愛らしい少年の姿とは言え、魔族にまで二度と見たくないとか言われる記憶を持っているオレってどうなんだ。

 納得は出来るが、地味に傷付いたぞ。


『闘わない…だから、とっとと消えてくれ…』

『うん分かった!今度本調子になったら戻ってくるから、その時にはまた血を頂戴ね!』

『誰が遣るか!』


 その挨拶もどうなんだ!


 って、あ゛ッ!

 血で思い出した!!


『待て待て!帰るのは構わないから、ゲイルの解毒?かなんか、せめて胃の中のもの片付けてから行け!』


 コイツ、ゲイルの身体を使ってオレの血を飲んでくれやがったよな。

 下手するとゲイルが死ぬ。

 どうしようか、と思っていた。


『…あー…そっか、人間ってすぐに死んじゃうもんね』


 しかし、駄目元で頼んだというのに、アレクサンダーは苦笑と共に、ちょいちょいと魔法か何かで彼の体の中に残っているだろう毒素を抜いていた。

 詠唱が無かったようだが、魔族というものはそういうものなのだろうか?


『んーと…これで、よし。

 ちょっと残っちゃってるかもしれないけど、死ぬようなもんじゃ無いでしょ?』

『…死ぬようなもんだから、念を押しているんだが…』

『良いじゃん。こいつもアンタの為なら死ねるって思ってたみたいだし、本望でしょ?』


 おい、ゲイル。

 お前はそんな事を思っていたのか。

 ふと友人だというのに、何故か背筋に悪寒が走った。


『まぁ、どうしてもって言うなら、』


 そう言って、アレクサンダーがにやりと笑った。

 フルチンで。

 しかも、オレに近付いて来ている。

 何度も言い過ぎている気がしないでも無いが、フルチンで。


 再三の嫌な予感に、思わず固まった。


『お、おい…!』

『今度は本体こっちで、頂戴ね』


 二度目であった。


 そう言ってアレクサンダーは、あっという間にオレに覆いかぶさると、肩口の皮膚をまたしても食い破り、血を啜って行く。


 なるほど。

 先ほどは、借りたゲイルの体だったから、今度は本体で寄越せと言うことだったのか。

 そうか、そうか。

 ふさけんじゃねぇよ。

 おかげで、オレが貧血だ。


 悪態を吐いた所で、痛みで乾いた息を発するしか出来ないオレには、どうしようもなかった。


『ごちそーさまでした』


 律儀に食後の挨拶をしたアレクサンダーに、イラッとしてしまう。

 だが、ありがたいことに約束を違える事は無かったようで、血を吸って満足したのか、ゲイルに再三の治癒魔法か解毒魔法を施してくれた。

 やっぱり、魔族は治癒魔法か何かを使えるようだ。

 知ったところで、あまり嬉しくない情報だったがな。


『じゃあ、また遊びに来るね、ギンジ!』


 そんなオレの内心などお構いなしに、アレクサンダーは不穏な言葉を残して満足そうに消えて行った。


 おかげで、色んなものに反応が遅れたわ。


 人の事を食料としてみるんじゃない。とか、蝙蝠の羽が背中に生えるのな、とか、結局全裸のままで帰るのか、とか。


 そんな事を考えながらも、オレの体は完全に限界だった。

 頭を打って朦朧としていた意識に、血液不足のダブルパンチだ。


 帰ったら食事を鉄分主体にしよう。


 不本意ながら、二度目の気絶である。

 しかも、大の男を抱えたままとは、どういう拷問だろうか。

 しかし、それ以上を考える事も出来る筈も無く、オレの意識はブラックアウト。

 最悪な寝起きに、最悪な就寝である。



***



 侵入した異界の学校と言うものは、とても不思議なものだと思った。


 建物の構造からして、城と比べる事も出来ない。

 そもそも材質が何で出来ているかも予想が出来ない。

 まずその広さに、驚嘆した。

 ショクインゲンカンと呼ばれる裏口から侵入した時にも感じた違和感。

 その違和感の正体は、その広さだった。


 オレが尋ねた事のある、どの貴族家の屋敷よりも広い。

 眼も眩むような長い長い廊下の奥は、オレの眼を持ってしても見通すことすら出来なかった。

 暗がりの中に沈んだその長い廊下。

 そこは、オレの今まで感じた事の無いような恐怖心を増長させていた。

 不気味としか言いようが無い。


 次に感じたのは、機能性の高さであった。

 廊下の尺は高いようで、低い。

 おそらく、自分が扱っている武器を垂直に立てて、それに少し足せば良いだけだろうが、その実振り回すことは出来ないだろう。

 直槍ランス戦斧アックスなどの重量武器の扱いを、悉く制限される。

 しかし、短剣ダガーや、アーチなどの武器に誂えたような空間だった。


 おそらく、ギンジの独壇場に間違いないだろう。

 彼もナイフか短剣を使うという話を聞いた覚えがあったからだ。


 この空間で対峙した場合、オレとギンジではどちらが勝つのか。

 むくむくと闘争心が内心で溢れていた。


 それも、突入した途端に遭遇した摩訶不思議な体験によって霧散したのだが。


 色付けされた筋肉や内臓の形が露になった人型の魔物。

 後に人体模型と呼ばれるものだと聞いた。

 それが、本来は無機物である事も聞いたのだが、ダークヘイズに操られていると分かるまでは、オレは本気でギンジの世界の魔物か魔族だと思いこんでいた。


 その模型を破壊しようとした彼が持っていた筒のような武器。

 爆音を発するそれに、不覚にも恐怖を覚え、その威力には背筋が凍った。


 人体模型という人形の頭がたった二つの爆音の後に、炸裂した。

 人間で考えれば、即死は免れない。


 それはすなわち、彼は接近する事すらしないままに人間を殺す事が出来るという事。

 その事実が、オレには酷く滑稽に思えてしまった。


 ただ、ギンジは魔物に関しての知識は疎かったようだ。

 『闇の靄』の対処法も知らなかった。


 『聖』属性で弾き出す事が出来る事は、魔物の討伐に携わる者であれば常識だったが、それすらも知らないようだった。

 実演も交えて教えて見せると、感嘆とも言えぬ声で聞き入っていた。

 駆け出しの冒険者や新人への指導を思い出して、ふと懐かしさに苦笑をしてしまった。


 しかし、そのダークヘイズが消えた先に見てしまったモノによって、霧散した。


 黒髪を振り乱した、ギンジの生徒達と同じような制服姿。

 しかし、その眼は眼窩を覗かせ、口は毒々しくも赤い軌跡を描いて笑っていた。


 これには、流石のオレでも本気で恐怖した。

 あれが、本物の怨霊であると本能で理解し、それが野太くも情けない悲鳴に繋がり、更には敵前逃亡と言う不名誉すらも被った。

 咄嗟とは言え、不本意極まりない。


 しかし、次に感じたのは、ギンジへの不信感であった。


 何故、彼はこんなにも冷静にしていられるのか。

 感心するよりも先に苛立ちが勝ってしまい、八つ当たりをしてしまったかもしれない。


 我々屈強な騎士団の男達ですら悲鳴を上げた女生徒とか言う幽霊。

 それを彼は、事も無げに蹴り殺し、見事に頭部を踏み潰していた。


 この時は、感心よりもむしろ恐怖が勝った。

 曰く、彼は加減を間違えたというが、加減を間違われると我々の頭もこうなると暗に言われているような気がして戦慄した。

 ………彼をあまり怒らせない事にしようと決めた。


 だが、彼を怒らせたのは、オレではなかった。

 オレの部下である騎士達だった。

 なんとも情けないことに、彼等は逸れたと思っていれば、いつの間にダークヘイズのような下級魔物に取り憑かれていたようだ。

 そして、あろう事かオレやギンジに向かって攻撃を仕掛けてきた。


 普段は温厚なのだろう、彼もさすがに怒声を張り上げていた。

 この時も、恐怖がオレの脳を占めていた。

 彼等にも、その強靭な脚を繰り出されてしまうのでは無いかと、半ば本気で戦慄し、それだけはどうにか避けたかった。

 出来れば、部下たちには五体満足で帰って欲しかったからだ。


 しかし、オレの部下が魔法を放って来た事で、更に事態は悪転。


 さすがに、こればかりはオレも肝が冷えた。

 詠唱をしていたのでは間に合わない。

 反応が遅れたのもあるが、オレは元々魔力総量が多すぎる嫌いがあるので、正確にイメージをしなければ魔法が失敗する。

 どれもこれも、オレの修行不足であり、嘆いても始まらない。


 せめて彼の盾になれれば、と彼を庇いつつも壁に押し付けた。


 だが、その壁が無くなった。


 オレはギンジを下敷きにする形で無様に倒れこんでしまった。

 咄嗟に床に腕を付いてはみたものの、大して意味は無かったかもしれない。


 だが、彼はオレの謝罪を聞く前にオレを蹴り上げた。

 そして簡単に退かされてしまった。

 地味に蹴り上げられた脇腹が痛かったが、文句は言えない。


 目を疑った。


 オレ達が転がり込んだ先は、隠し扉だった。

 そして、部屋の中には、何の魔法の原理か煌々と付けられた灯りが眼を刺した。


『オレの秘密基地に、ようこそ』


 その部屋の中には、オレが今まで見た事も無い物品が鎮座していた。

 何に使われるのかすら、見当も付かない。

 ギンジの持っていたライトという品にも驚いたものだが、これには更に驚いた。


 実際、彼の身に付けているものは、この世界には有り得ないものが多かった。

 最初に見たのは、小さな火付け石(ライター)、次に小型過ぎる灯り(ライト)、そして、最後に見たのは短筒ピストル

 更には、彼の服装も騎士達の着るような礼服とも違う機能的なものだった事や、生徒達が来ていた制服なるものもまた別物だと認識していた。。


 そして、この部屋の中を見て、今まで感じていた疑問や違和感は確信に変わった。

 彼は、この世界よりも遥かに技術が進歩した世界からの異邦人である事。

 その件に関しては、今まで疑っていた節があったのは認めよう。


 その確信を得る事の出来る、判断理由は一重にこの部屋にあった。


 これを見れば、むしろ知っているのであれば、大抵の事は驚く事も無いだろう。

 それに日常的に囲まれていたのであれば、尚更だ。

 彼が落ち着き払っていた理由が、なんとなくだが理解出来た。


 オレも、これだけ見ればもう驚かないと、確信できた。


 しかし、


『な、なんで裸になるのだ!?』

『着替えてんだよ、馬鹿。しかも男同士なのに、眼を逸らす必要はねぇだろうが…!』


 さすがに目の前で上半身の服を脱がれた時には、ぎょっとしてしまった。


 驚かされたのは当然の事、妙に気恥ずかしい気分になる。

 男の体を見て何を恥ずかしがる必要があるのかと言われ、考えてみても仕方ない。


『…あ、う…すまん。その、お前は…一見すると、口が悪い女にしか…』

『喧嘩売ってるのか、テメェは…』


 済まない。

 別に、不躾な視線で見ていた訳ではなかったのだ。

 喧嘩を売るつもりも無かった。

 だから、その短筒ピストルを頭に押し付けないで欲しい。


 ただ、一度は女と見間違えたという事実は、絶対に秘匿しなければいけないと思っている。

 綺麗な顔立ちをしていると思っていたが、女のようだと、オレも不思議と信じて疑っていなかったのも一理合った。

 無意識の内に庇護欲が沸いていたのかもしれない。


 その実、ギンジは隙が無いように見えて、無防備にも思えたからだ。


 ふと思い出すのは、今日の昼間の事だった。

 オレ達騎士団の前で見せた涙。

 あれは、決して演技ではなかった筈だ。


 そして、彼の背中。

 いつか感じた、勇猛さと儚さが同居した不思議な背中。


 もしや、オレは彼に対して何かよからぬ気持ちを抱いてしまったのだろうか。

 その気持ちが果たして何なのかは分からないまでも、感じた悪寒に背筋が粟立ってしまった。

 打ち払う為にも、無理矢理彼の問いに得意げに胸を張った。


『討伐に来た筈の騎士に襲われたんだが?』

『それは申し訳もない…』


 しかし、すぐに辟易とした様子で呆れられてしまった。

 うむ、それはオレも同感だ。

 そして、本心から申し訳も無いと思う。


 そうして、その後も本心からの申し訳無さは、大きくなっていくばかり。


『逃げるなっ、異教徒め!!』

『殺してくれる!!』

『死ぬわ、ボケェエエエエエエエ!!!』

『殺す気か、貴様等ぁあああ!!』


 その部屋を出てからしばらく、またしても騎士に見つかり、魔法を行使されつつ追いかけ回された。

 この校舎という建物の廊下は、遮蔽物が無い為あっという間に見つかってしまい、逃走には何かと不憫だと感じる。

 その分、あちら側の補足も簡単に出来るのはありがたい事ではあったが、隠密に行動したかった此方としては全くありがたくなかった。


 しかも、彼等は確実にオレ達を殺すつもりで、向かってきていた。


 立て続けに放たれる魔法の詠唱。

 そして立て続けに放たれる炎と水と石と風の猛威。

 その実、オレを殺すつもりなのだろうか、彼等は。

 魔法だけではない。

 これ以上ギンジを怒らせると、オレが明日の日の目を拝めないとしか思えないのだが。


 ギンジは床に伏せた。

 オレも同じく、壁に張り付いて回避する。

 更に、次々と襲い来る魔法を回避し続け、なんとか無事に切り抜けていた。


 頭上や背中を通過していく、必殺の暴風。

 大してこちらとしては魔法が使えない。

 使えたとしても時間が掛かるのでは、どちらにしろ勝機が見えない。

 何よりも、操られているとはいえ、部下に手を上げる事が出来ないのが非常に心苦しかった。


 選べるのは逃走の一手だけ。

 最悪な現状に、冷や汗が止まらなかった。


 更には、


『我が声に応えし、精霊達よ。清流のせせらぎと水神の名の下に、』

『まずい、二文節ツークローズだ!』


 背後で唱えられた魔法の詠唱。

 あれは確か水属性を得意とするエイデンの声だった筈だ。

 しかも、二文節まで使おうとしているとは、背筋が凍るなんてものでは無い。

 魔法の発現に必要な文節は、一分節からで、最高で十三文節まである。

 オレもさすがに、八文節までしか覚えてはいない。

 それ以上を覚えているのは、『太古の魔女』と恐れられていた伝説の森小神族エルフぐらいだった筈。


 しかし、今はそんな事を考えている暇は無い。


 おそらく詠唱から推測して『大津波タイダル・ウェーブ』。

 さすがに、そんな魔法は直撃すれば死ぬばかりか、洒落にもならない。


 魔法の発現には、魔法のイメージを構築し、そこに詠唱を載せて、最後に魔力を乗せるという三段階が必要となる。


『ゲイル!』

『分かっている!

 我が声に応えし、精霊達よ!聖神の権威と守護の力の一端を今此処に示し給え!』


 ギンジの声を聞くか聞かないかの段階で、オレは立ち止まり、既に早口に詠唱を開始していた。

 多少詠唱はおざなりでも魔力の配分とイメージさえ掴めれば、オレの魔法を打ち破れるものはいない。

 それが、オレの騎士団長としての力でもあると理解している。

 イメージは堅牢な盾。

 ギンジには絶対に被弾させる訳にはいかない。

 イメージは完全なる壁として構築されていた。


 二文節に対抗し、二文節を唱えた。

 

 後は、難題である魔力だけだったが、嬉しい事にこの『聖属性(・・・)』の盾は、魔力を込めれば込める程その威力が強くなる。


『『大津波タイダル・ウェーブ』!!』

『『聖なる盾ホーリー・シールド』!!』

 

 ほぼ、同時に唱え終えた詠唱。

 ぶつかり合った濁流と化した大津波を跳ね返すように聖なる盾は、ダメージも圧力も水飛沫の一粒すらも全てを遮断した。


 上手く行った。

 先ほど使えるものがいないと言った『聖』属性を使ってしまったものの。

 内心で、盛大な溜め息を吐いていたのは秘密にしておきたいものだ。


 ついでに、


『お前等、オレ達の校舎を破壊しに来たのか?』

『す、すまん!…そんなつもりでは…!!』


 ギンジの言葉で、ここがどこであったか、思い出したのも秘密である。


 謝罪の仕様も無い。

 廊下のみならず、階段を伝っておそらく階下も水浸しになっただろう。


 しかしやってしまったものは、取り返しがつかない。

 罰の悪さを誤魔化すようにして、ギンジを力任せに引っ張り上げ、地理も分からぬ校舎の中を走り回る。

 正直迷う自信があったオレが、走り回って良い場所では無かっただろう。

 そして、先ほどの大津波の影響で、悲しい事に進めるルートが完全に絞られてしまっていたので、気付いた時には行き止まりのようにも思える一本道へと入ってしまっていた。


 何があるのか、と聞こうと思ったが、それよりも先に彼は扉を蹴り破らんばかりの勢いで開いていた。

 正直、今でもタイイクカンやカクギジョウなる施設の名前を聞いても、いまいちピンと来なかっただろう。

 だが、その施設に踏み込んだ時には、再三の驚嘆と合点が行った。


 遮蔽物の一切無い空間の上に、天井も高い。

 薄暗い中でもしっかりと分かる、その驚異とも思える広さは、城の大広間よりも広いのでは無いだろうか。


 ここがタイイクカンなるものだと分かった時、彼が焦っていた理由が分かった。

 ここでは、遮蔽物が一切存在しない。

 魔法など撃たれ放題となってしまうだろう。


 しかし、そんなオレの驚嘆など知らぬギンジは、突然柵を飛び越えてしまったかと思えば、下方の床へと飛び降りた。

 これには、驚きよりも躊躇いが勝った。

 なんとか飛び降りたは良いが、足がジンジンと痺れる痛みは、どうしても慣れなかった。

 タイイクカンの中を横切り、今度は別の施設の中へと駆け込んでいく。


『こっちだ!』

『…ぐぇ!!…頼むから、髪を引っ張るな!』


 そして、髪を掴まれて方向転換を強いられた。

 地味に怒りを感じたぞ。


 そこはタイイクカンよりも手狭だった。

 しかし、それでも城の大広間と同じぐらいには広い空間であった。

 どれだけの金額が掛かっているのかなど、考えたくもない。

 それを破壊してしまった事に、言い様のない恐怖を覚えたが、眼の前でギンジは何の躊躇いも無く扉を蹴破っているのを見て、考えるのを止めた。


 そこには、休憩所のような形をした共有スペースがあった。

 此処に来てからは驚いてばかりである。

 あのような広さを持った場所に、更にここまでの多目的のスペースを有しているとは到底考え付かなかった。


 そして、ギンジが目指したのは、不可思議な素材で出来た箱が幾つも並んでいる空間であり、一番奥へと招かれた先。


『入れ!』


 再三の驚嘆。

 更にはギンジの行動に正気すらも疑ってしまったが、耳を疑ったオレは悪くないと思う。


 あろうことか、その箱の中に押し込められたのだ。

 まさに詰め込むという表現がぴったりだった様に思う。

 甲冑が引っ掛かってろくに身動きも出来ない。

 武器を仕舞う為に屈まされたのも体勢的には辛かった。

 挙句の果てには真っ暗だ。


 高窓から除いている月明かりのおかげで、少々の光源はあったものの、これでは夜目すら利かない。

 再三感じた恐怖を、またしてもここで体験する事になるとは。


『こ、こんな所に隠れて、どうするのだ…!』

『ハァッ、ハァッ…!やり過ごす、しか…ハァッ、ねぇだろ…!』

『何も考えていないとかでは無いだろうな』

『黙れよ、馬鹿!テメェのせいだろ…!』


 最初に言っておく。

 決してオレは、臆病者では無かった筈だった。

 しかし、今回ばかりは、度重なった心労が、正直悲鳴を上げ続けていた。


 恐怖心を克服する為にギンジに話しかけても、素気無く返されてしまった。

 苛立ちも含まれていたように思えるが、オレの所為と言われてしまえば、黙るしかない。

 しかし、少々理不尽だと感じたオレは、悪くないだろう。


 ギンジも隣の箱の中に滑り込んだようだ。

 もし彼が、この暗さと恐怖心に気付いてくれるのであれば、オレは幾らでも彼の盾になろう。

 こんな恐怖の前であれば、魔法の矢面に立つのも怖いとは感じないかもしれんと、そう思っていた。


 しかし、


『まずは、ハァッ…落ち着け…!…ハァッ、こんな、ハァッ…!こんなところで…ッ』


 どうにも、隣のギンジの様子が可笑しい。 


『お、おい…!どうした、ギンジ!?』

『な、なんでも…ッ!ハァッ…ヒュー…ッ!…カハッ…!』


 息が荒いどころか、可笑しい。


 まるで、危篤状態の老人の呼吸だ。

 か細い癖に自棄に、耳に響く呼吸音。


 今、彼の体は本当に大丈夫なのか?

 いや、大丈夫な訳が無い。

 再三の、別の意味での恐怖心が脳裏を過る。

 オレはもしや、とんでもない所に彼を連れ出してしまったのでは無いか。

 オレは今日だけで、どれだけ寿命が縮まるのだろう。


『おい…!ギンジ!…聞こえているのか!』


 居ても立ってもいられずに箱の壁を叩く。

 本来であれば出て行って、今すぐに彼を抱え上げて連れ帰りたいが、それでは彼の隠れてやり過ごす作戦とやらが瓦解してしまう。

 二の足を踏んでしまう、不甲斐ない状況。


 更には、


『ガチャン!』


 響いた、扉の音。

 聞き覚えのある音だった。

 先ほど、オレ達も蹴破るようにして開いた扉だったからだ。


 途端、オレは一瞬でも、ギンジの事を考えるのを忘れてしまった。

 ただただ恐怖に身が竦んでしまった。

 オレは決して、臆病者では無かった筈だというのに、


『(なんだ、…何なのだ、この圧力は…!

 背筋が凍えるような寒気は…!?)』


 オレがかつて感じた事の無い気配。

 言うなれば、先ほどの事件と酷似していた。


 怖気も走るような、女生徒とか言う幽霊の姿が脳裏を過ぎる。


 ぺたぺたと近付いて来る足音。

 息を潜めているオレと、反対に乱れきった呼吸を催しているギンジ。

 どちらが見付かるかなど、明白だ。


 オレは、意を決した。


 そこには、度重なる蓄積されたギンジへの無礼への釈明もあった。

 彼を助ける為ならば、オレは盾にも壁にもなろう。

 命を賭けてでも彼を守る。

 得体の知れない魔物や魔族、もしくは怨霊の類であろうともせめて一矢を報いようと。


 そう思った。


 そうして、箱の扉を蹴り破ろうとした瞬間、


『(…-------ッ!!?)』 


 オレは、見てしまった。


 箱には隙間が開いていた。

 そこから月明かりと共に、僅かな光源が覗いていた。


 そして、眼が覗いていた。

 真っ赤な眼だ。

 まるで、この世の怨嗟の全てを詰め込んだような禍々しい眼だった。


 充血し切った眼球まで真っ赤な瞳。


 それが、オレを見下ろすようにして箱の隙間から覗いていた。

 オレは声無き悲鳴を上げた。

 そして、情けなくも無様な事に、オレの意識は無くなった。



***



 次に目覚めた時、オレは何故かギンジの胸に頭を預けていた。


 頭がかち割れそうな程に痛かった。

 何か得体の知れない、むせ返るような香りに眉を顰め、次いで胃に感じる不快感が、まるで劇物(・・)でも口にしたかのようだった。


 しかし、そんなオレの事はどうでも良い。


 問題はギンジであった。

 対する彼は、オレの頭を抱え込むように、一見すると苦しそうに眉根をよせていたが、それでも安定した寝息を立てていた。

 息をしている事に、また、先ほどのように酷く荒い呼吸をしていない事に、ただただ安堵した。


 そこで、溜め息とも付かない息を吐き出せば、


『…ん…』

『…気付いたか、ギンジ…!』


 ふと、示し合せたかのように、眼を覚ましたギンジ。

 まどろんだような視線はどこか虚ろで、それでいてふと違和を感じるものだった。


 眼の色が、真白に見えたのだ。

 思わず息を呑み、不謹慎にも眼を奪われた。


 一度ならず見詰め合った時には、彼の眼は海のように深い、濃い群青のような瞳をしていた筈であった。

 それが、どんな光の加減で真白に見えるというのか。


 だが、彼が瞬きをした瞬間に、その眼は元の群青の色に戻っていた。

 暗がりの中では、黒にも見えるそれに、気の所為か。と何故か安心している自分がいた。


『…ギンジ、どうした?』

『…ア、ズマ…?…それとも…ゲイルか…?』


 ふと、呼ばれた名前。

 アズマという名は、彼と出会った当初に聞いたものだった筈だ。

 あの時は、特に何の感慨も浮かばなかった。


 しかし、今は何故か無性に苛立ちが募った。

 少々、顔に出てしまったかもしれない。

 それを、ギンジはどうやら、正確に汲み取ってくれたらしい。


『…ゲイル、だな…。眼が、覚めたか?』

『め、面目も無い…オレは、いつの間にか気絶をしていたようで…』


 そう、喋り始めたと同時。


 背筋に怖気が走った。

 自身が何故、気絶をしていたのかを思い出したのだ。


 脳裏に強く焼きついた、赤い眼。

 オレを見下すようにしてロッカーなる箱の隙間から見下ろしていた瞳が、思い起こされる。

 その赤い眼で人間のような姿をしたそれの根源を探すようにして、弾かれたようにして周囲を見渡した。


 しかし、その根源は少なくとも見当たらない。

 射竦められた時のような、あの圧倒的な威圧感も消えている。 


 ほう、と溜め息を吐いたが、その先に見たものには再三の驚き。

 ぎょっとして、固まってしまった。


 その目線の先には、操られていた筈の騎士達が生きているのか死んでいるのかも分からない状態で、積み上がっていたのである。


『あ、あれは…まさか、ギンジが…?』

『お前に、押し潰されている状況で、何が出来ると?』


 それもそうか、と納得。


 オレが、圧し掛かっていては、さしものギンジとて動けないだろう。

 先ほど、蹴り飛ばされた記憶があったのだが、と思ったのも気のせいにする事にした。


 そして、そこまで考えて、はたと気付いた。


 折れるのでは無いか、と。

 誰が?

 ギンジがだ。


『あ、ああっ!…そ、れは、すまん…!』


 体を起こして、ギンジの体の上から飛び退るようにして退いた。

 押し潰していた事に、何度目かも分からない申し訳無さが浮かぶ。

 それと同時に、疑問も浮かんだ。


『…しかし、何故オレはギンジの上に?』

『ああ、気にすんな。ちょっとした事故だ、事故…』


 そう言って、気だるげに苦笑を零したギンジ。

 彼は事故と簡潔に告げたが、オレが彼に圧し掛かってしまうような事故がどうして起こるのかと疑問に思い、首を傾げた。

 しかし、彼はそれ以上を干渉されたくないような身振りで、手を払っただけである。

 はて、と再度首を傾げる。


 そのギンジの動作一つ一つが、どこかぎこちなく思えた。


 違和感があったのは確かだ。

 その違和感が何によるものかは、すぐに気付く事は出来なかった。


 気付けたのは、彼が上着やシャツを直した瞬間だった。

 暗がりの中でも、容易に見つける事が出来たそれは、真っ赤な傷跡だった。


『そ、の傷は…!?』


 彼の乱れた衣服も驚いたが、肩口に大きく残っている血の痕には嫌が応でも気付かざるを得なかった。

 シャツにも大きな範囲で沁み込んでいるその色は、薄暗い中でも彼の白肌には目立ち過ぎる。

 酷い出血量だ。


 オレは、すぐさま床を這うようにして、彼の横に移動した。


『一体、これはどういう事だ!?…何があった!?』

『…あ、ああ…気にすんな…ちょっと、噛み付かれただけだ…』

『噛み付かれた…!?一体、誰に…!』


 しかし、問い質そうとしたのもつかの間。


 ふと、誰に?と言う単語に、言い様の無い不信感と引っ掛かりを感じた。

 言うなれば、奥歯に何かが挟まったような感覚であった。


 思い返して見て、周りを見渡して、その違和を掴もうと視線を巡らせる。


 視線の先には、騎士達が今もまだ積み上がっていた。

 そして、先ほど逡巡した時には、この部屋には自分達以外は誰もいなかった。


 そこで、ふと思い出したのは、先ほどのギンジとのやり取り。

 彼は、騎士達を無力化したのは、自分だとは一言も言っていない。


 そこで、残る選択肢は、


『……オレ、なのか?』


 ぞくりと、何度目かも分からない怖気が背筋を走った。


 そして、ギンジを見れば、


『………。』


 ぎこちなくも、痛ましいものでも見るような視線で、オレを見ていた。


『…なら、…この香りは、』


 そして、オレの目覚めた時の違和感にも、この時ようやっと思い当たる事が出来た。


 目覚めた時、オレは頭痛と共に、何か得体の知れないむせ返るような香りを嗅ぎ取っていたでは無いか。

 今なら、分かる。

 あれは鉄錆の臭いだ。 

 そして、その香りは今、オレの身体からも発されている香りだった。


 更には、胃には不快感があった。

 まるで、劇物でも口にしたような不快感。

 喉に突っ掛かる異物感とて、どこか血生臭いと感じた。


『…まさか、オレが…、オレがお前に、噛み付いたのか?』


 彼が、ぎこちない違和感が分かった。

 やっと、自覚した現状と、彼のその視線や違和感の意味が理解出来た。


 どうりで彼の動きがぎこちない筈だ。

 オレを恐怖していたのだから。


 しかも、良く良く見てみれば、その首には明らかに締め上げられた痕跡がくっきりと残っていた。

 赤と紫とで斑に残った、痣となったそれは間違いなく手形だった。


『う…ッ、…ぇぐ…っ!』


 それと同時に、オレは耐え兼ねて嘔吐した。

 後ろを向いて吐いたが、ギンジは良い顔をしないだろう。


 そして、その吐瀉物の中には、血が混じっていた。


 脳裏に過ぎる、オレの変貌した姿。


 オレが彼を、床か壁に押し付け、何をしようとしていたのか。

 言われなくても分かる。

 首に残った鬱血痕は、オレが彼の首を絞めたものに他ならない。


 たとえ、意識が無かったとしても、オレは彼を殺そうとしてしまったのだ。


 更にオレは彼の肩口に、歯を食い込ませた。

 まるで、飢えた獣のように、彼を捕食しようと首の肉を噛み切り、その血を嚥下した。


 獣にも劣る、畜生では無いか。


 生理的な涙が溢れた。

 それだけではない、何と呼べば良いのかも分からない感情からの涙も溢れた。


 なんて事をオレはしてしまったのか。


 オレは、彼になんと言って、償えば良いのか。

 これから、どんな顔で接すれば良いのか。


『おい、ゲイル…気にすんな』


 しかし、オレの心情など知らずに、ギンジはオレの背中を擦っていた。

 その行動の意味が、分からない。


 オレは、ボロボロの汚い顔を彼に向けた。

 ギンジは、相変わらず無表情のままだった。


『…とりあえず、病気になられちゃ困る。…全部、吐き出せ…』

『……っ…オレ、は…!』

『大丈夫だ、分かってる。

 …全部、お前がやった事じゃない。…だから、大人しく胃の中のものを吐き出してくれ…』


 何故?という言葉しか、この時のオレには無かった。


『何故、お前は…そんな事が言える?

 …オレに、襲われたのだろう!?…オレに、殺されかけたのだろう!?

 何故そのような言葉を吐ける!?何故怒りをぶつけない…っ!?』


 八つ当たりとしか言えない、怒りの矛先。

 この期に及んで、自分がやった事に対して、考えが及ばない訳も無い。


 なのに、ギンジがそれを何故怒らないのか。

 オレには、まったく理解出来なかった。


『殺されてないからな。

 怒りだって、ぶつけて欲しいならぶつけるけど、…ぶつけようが無いからぶつけないだけ』


 そして、彼の言葉の意味も、今のオレには分からなかった。


 乱れた着衣には、血の痕が転々と残っている。

 首の鬱血痕など、オレが殺そうとした隠しようも無い証左。


『ちゃんと説明する。…だから、今は吐け。

 全部、吐き出して、ゆっくり話をしよう』

『…ギンジ…』


 彼は、オレの背を擦りながら、そう言っていた。


 月明かりの下で見た、その表情は酷く挫傷している。

 目元には、涙の痕も見受けられた。


 オレはそこまで見て、またしても餌付いた。


 表面上だけでもオレを気遣う、心根の優しい彼に合わせる顔も無い。

 結局、オレは全てを吐き散らかした。

 胃がひっくり返りそうな不快感を纏めて吐き出しても、心の奥底に残った罪悪感だけは吐き出せなかった。


 それを、ギンジは黙々と片付けていた。


 その姿が、自棄に手馴れているように見える。

 オレは、それを呆然と見ているだけだった。


 オレは床に蹲ったまま、しばらく動けなかった。



***



 とりあえずは、現状の整理と、説明をしよう。

 そうしないと、頭がこんがらがりそうだからだ。


 心配事や厄介事が、今回ばかりは増え過ぎていて頭が回らないのもある。

 正直、血液不足により貧血とエネルギー不足で、横になったらすぐにでも寝られそうだ。

 これもこれで大昔の拷問方法だって知っているのか?


 そして、問題はオレだけでは無く、ゲイルを含む騎士達も同じこと。


 ゲイルは、先ほどまでげぇげぇと胃の中身をぶちまけていた。

 今では少しだけ回復して、虚ろな目でオレに治癒魔法とやらを行使してくれているのだが、いかんせん顔色がすこぶる悪い。

 本当に大丈夫なのだろうか心配になってはいるが、これ以上はオレにもどうする事も出来ない。

 アレクサンダーが帰り際に施してくれた解毒魔法とやらの効能を信じる他無い。


 騎士達に関しては、死亡者どころか重傷者もおらず、かろうじて昏倒していただけというのは僥倖だった。

 先ほど、ゲイルに殴り起こされて眼を覚ましたのが、唯一の怪我という者までいた。


『我が声に応えし、精霊達よ。癒しの力の一端を、今此処に示し給え。『キュア』』


 と、つらつらと考えている間にも、何度目かも分からないゲイルの治癒魔法が行使される。

 虚ろな瞳と顔色の悪さ、ついでに酷く落ち込んだような低い声が自棄に耳に響いた。

 そして、それが終わるとまた続けて詠唱に入ろうとするが、そろそろやめてくれないだろうか。

 気持ちは分からんでも無いけど、傷が治ったと言うのに、体を何故か重くなって来ているから。

 更には、この騎士団長の様子に、彼の部下である騎士達も、遠巻きに見ている気がするから。


『おい、ゲイル。オレはもう傷も塞がってるし、体調も悪くない』

『しかし、お前に何かあっては、』

『もう何も無いって、大丈夫だからいい加減やめろ』


 そう言って、彼を押し退ける。

 だが、それと同時に、今度は世界の終りでも見たかのような顔をしている所為で、こっちが悪い事をしてしまった気分になる。


 とか言っている間に、嘔吐いた。

 今度は床にぶちまけるではなく、備え付けられたロッカールームへと駆け込んでいった。

 やっぱり、いくら解毒魔法やら何やらで予防しても、胃がムカついているのだろう。

 ついでに、心因性のショックでしばらくは、立ち直れないかもしれない。


 溜息を吐きつつ、彼を追いかけてロッカールームへ。

 入口で彼の背中を探すと、洗面台に突っ伏してよろしくやっていた。


 電力が落ちているので排水装置も止まり水は流せないだろうが、その代わりと言っては何だが、


『と言うわけで、やっちゃって』

『…いや、あの…なんで、騎士団長ごとなんです?まぁ、良いですけど。

 我が声に応えし、精霊達よ。清流のせせらぎの力の一端を、今此処に示し給え。『水の雨アクア・レイン』』


 この世界には水魔法というとっても便利な自然の洗濯機がある。


『ぶはっ…!!』


 胃ごと吐くんじゃないかと言うぐらい嘔吐いていた奴が顔を上げた瞬間、狙い澄ましたかのように冷水が頭から直撃した。

 これで、全身シャワーである。

 綺麗になったことだろう。


 少し頭を冷せ馬鹿野郎。


 そして、エイデンとやら。


『忌避感が薄すぎないか?』

『……あなたがやれって言ったのでしょう?』


 まぁ、その通りですごもっとも。

 ぶっちゃけ、エイデンとやらの、ゲイルへの薄いだろう忠誠心なんてどうでも良い。


 結局、オレのやることは決まっている。


『…まず、騎士ども、お前等オレからも一発受けろよ?

 テメェ等精鋭とか言う奴等の所為で、オレ達は結構な酷い目にあったんだ』

『『『『『面目次第もございません』』』』』


 という訳で、彼等に一人一発づつ蹴りを加えさせてもらった。

 9人いたので、9人分。

 オレの事実上の制裁だ。

 正直、踏んだり蹴ったりの今日は、彼等にとっても厄日だっただろうが、この程度で済むんだから、それで良しとしてくれ。

 彼等を甲冑の上から蹴るオレの足も痛かったがな。


『オレも、蹴ってくれないか?』


 しかし、それだけで済まない男もいた。


 やめてくれ尻を差し出そうとするのは。

 いや、正面から向かってきているけど、こいつが言うと何故か尻を差し出されている気分になる神秘。


『お前は仕方なかったって言っただろ?

 それに、さっきも押し退ける時に蹴ってるんだ。これ以上蹴って死なれたら寝覚めが悪い』

『そんな柔な鍛え方はしていない』


 生理的な嫌悪と、建前上での気遣いだった。

 しかし、どうあっても退く気は無いらしい。

 というか、あんだけ嘔吐いているのは、実質オレの所為なのだから、正直言って安静にしておいて欲しい。


 オレには大して害になっていなくても、オレの血は文字通り毒でしかない。

 その血の所為で彼が死んだなんて事になったら、マジで洒落にならないからオレは彼への制裁を控えているのだが。


 念の為に、二回ほど自分で解毒魔法を唱えさせたが、その後もこうして吐き下している。

 本気で彼が死んでしまわないかどうか、心配である。


『…はいはい。後でな…』

『今が良いのだ…』

『……とりあえず、お前等全員に説明するけど…』

『ギンジ』


 駄目だった。

 後回しにしても、話を逸らしても駄目だった。


 コイツ、変な所で頑固なんだから。

 アズマとそんな所まで似なくて良いっちゅうの。


 騎士団長の変貌ぶりに、騎士達も後ろで戸惑っている。

 だが、何もゲイルはふざけている訳では無い。


『オレがした事は、許される事では無い。

 友人となったお前は恩人であり、忠誠を誓った唯一の男だ!

 そんなお前に対して、オレは取り返しの付かない事をしてしまったのだ!

 実際には、殺されても文句は言えない!』

『殺したら文句も言えないだろうけどな』


 何を当たり前の事を言っているのか。


『殺されるのが生易しいというなら、どんな罰でも引き受けよう!

 だから、どうか罰してくれ!

 でなければ、オレはお前の友人として隣を歩く事すら出来ない!償わせて欲しい!』


 そして、オレの話を聞け。

 ああ、でも分かった。

 殴られたり、蹴られたりとしないと、釈然としない気分ってあるよな。

 それは、オレも経験したことがあるから分かる。


 ただ、聞きたいのは、


『償うって何を?』

『……っ、その…お前に、弓引いた事だ…!』

『…今からその詳細を説明しようとしているんだが…』

『ならば、尚更だ!その前に蹴ってくれ!』


 ちょと、イラッとした。

 話を聞けというに。


 あ、でもコイツもしかして、オレの事イラつかせてわざと蹴られようとしている?

 演技派だったもんな。

 もしかしたら、これもコイツの計算のうちなのか?


『じゃあ、その場で這い蹲って?』

『分かった』


 と言って四つん這いになった彼。

 オレはそれを見下ろして、ふと鼻で笑ってしまった。

 ちょっと優越感。

 とかじゃない、決して。


 オレの行動を見て、ゲイルの部下たちが殺気立ったけど、その後のオレの行動を見て今度は逆に呆気に取られていた。


 そんな彼の背中に、オレは座ったのである。

 人間椅子の出来上がりで、筋肉の隆起が自棄にオレの尻にジャストフィットだが、あんまり嬉しくないし座り心地もよろしくない。


『よし、お前等も座れ。今から説明する』

『ギンジ!違う!こういう叱責は望んでいない!』

『喋るな椅子風情が。これも罰だ』

『ならば潔く受けよう!』


 お前の判断基準何か間違ってねぇ?とは思っても、口には出さなかった。

 誰か、オレを褒めてくれ。


 閑話休題。

 とっても締まらない光景だとは分かっているが、このまま説明を始めさせてもらおう。


『で、だ…。えっと、何から話すべきか。

 とりあえず、………マイケルだっけ?お前どこまで覚えてる?』

『は、ハッ!報告いたします!』


 いや、そんなに畏まるほどのものじゃないんだけど。


『あの幽霊に遭遇してから、逃げ回っているうちに階段から脚を滑らせて転んでしまいました。

 そこから先は残念ながら私も気を失ってしまい…』

『やはり、お前か!』

『こっちは死んだと思ったのだぞ!』


 原因の一端はマイケル、と確定。


『黙れ、騎士ども。今は、結果を断じている訳じゃない』

『ハッ!…申し訳もございません。

 ですが、我等も同じ様な状況でして…階段を踏み外してからは、意識が途絶えております』


 と、いう事らしい。

 ほとんどの騎士がそんな有様だった。


 やっぱり、精鋭だとか言う話は嘘だったのかよ、ゲイル様よ。

 今日からテメェをアビィと呼ぶぞ。


『そ、それだけは辞めてくれ、ギンジ!』

『それも罰だって言ったらどうすんの?』

『それならば甘んじて受けよう!』

『じゃあ、一日限定でアビィな…面倒くさいから呼ばないけど』

『ぎ、ギンジーーッ!』


 面倒臭くなるので、放置しておく事にする。

 筋肉椅子の癖に喋るな。


『そ、その…私は、ちょっと別の理由がありまして…』

『よし、名前は確かダニエルだったか?…報告をしてくれ』

『マシューです』


 名前を間違えた。

 すまん。


『その、気絶する前に、…黒髪の女を見ました』

『…あの幽霊みたいな肉人形か?』

『肉人形か、どうかは分かりませんが…その、真っ赤な眼をしておりました』


 ぞっとした。


 その背筋の悪寒は、オレだけじゃなかった。

 オレの下にいたゲイルも、背筋を震わせていたのが分かる。


 振動を起こすな、筋肉椅子が。


『…それを見た後、どうなった?』

『そ、それが…お恥ずかしい話ですが、さっぱりで…』

『つまり、その女生徒の幽霊らしきものの赤い眼を見た後、気絶した、と?』

『はい』


 真下を見下ろしてみると、ゲイルがオレを見上げて、こくりと頷いた。

 どうやら、彼も同じものを見ているようだった。


 今回ばかりは、動いた事は不問にしておこう。


『…他に見たものはいるか?』


 一応確認を取ってみたが、ダニエル以外は赤い眼をした女生徒は見ていないようだ。


『マシューです』


 また、名前を間違った。

 マニエルで良いか?


 まぁ、話は逸れたが、騎士達が昏倒した理由は分かった。


 精鋭と言う言葉に、クエスチョンマークが付く有様ではあったが、死人が出なかっただけでも良しとしよう。


 そして、話は彼等が昏倒した後に戻る。


 気絶した彼等に、ゲイル曰く前例が無かったようだがダークヘイズが取り憑いて居た事。

 オレ達に攻撃を仕掛けて、追いかけてきた事。

 そして、オレ達がここに逃れた後に、第三者の介入で昏倒されてしまった事。


『とまぁ、騎士達に関しては、これぐらいか…。

 オレも、正直記憶が曖昧だから、前後関係は分からないが…』


 面目ない、と全員がシュンと頭を垂れている。

 しかし、オレは先ほど、この9人には蹴りを入れたのだ。

 弁解する必要も無いし、それほど深く考える事も無いとだけ伝えておいた。


 ら、何故か全員が潤眼でオレを見てきたけど。

 だから、お前等、その目を、辞めろ。

 オレの背筋や腕に鳥肌が立つから。


『うっ、うっ…何故、こんなにもお前は寛大なのだ…っ!』

『動くなっつってんだろ、筋肉椅子が』

『罰ならば甘んじて…!ぐっ…うぅっ』


 嘔吐くなよ、お前。

 再三吐き戻しているから何も出ないとは思うが、ここでは吐くな。

 嘔吐いているんじゃなくて、嗚咽だったらしいけど。


『…んで、さっき言ってた第三者なんだが、魔族だった。

 どうやら何かの影響で、この学校に紛れ込んでいたらしい』

『ま、魔族がいたのですか!?』

『うん。それも、上位種だったらしい。

 ゲイルに取り憑けるぐらいなんだから当然だよな…』

『…取り、憑けた?』


 あ、そういやまだ、ゲイルに関しての詳細は説明していなかったのを思い出した。

 オレの言葉に反応して、呆然とオレを見上げているゲイル。

 苦笑を零して、彼の頭を二度程叩いておいた。


 まぁ、良いや。

 どうせ、最後には説明する事になるんだろうから、並行して話してしまえ。


 アレクサンダーと言う名前の吸血鬼ヴァンパイアの不思議な少年の話だ。

 フルチンでもあった。

 最近言い過ぎている気がしないでもない。


 若干、アイツの話をする度にオレの股間が縮こまるんだが、まぁ、確認の為とはいえ、あれだけ男の急所アレを容赦なく握られたら、軽くトラウマになっても可笑しくないだろう。


 閑話休題それはともかく


 彼がこの学校に紛れ込んでいた事や、彼曰く学校を覆っていた何かの気配の所為で身動きが出来なくなっていた事を、順序を並べて話して行く。

 灰色の靄のようなものに変化したまま、オレ達の言動を見ていた事。

 ゲイルに取り憑いて、オレを殺そうとしてくれた事。

 防弾ベストがまったく役に立たなかった事。

 そして、いつの間にか学校を覆っていた何かの気配が無くなっていたので、そのまま帰還したらしいという事。

 その後は、またオレ達も気絶をしていたので分からないという事。


 という話を、荒唐無稽とは思えながら淡々と話した。

 感情を露にすると、コイツ等の反応が怖いのであくまで淡々と。


 あんまり効果は無かったように思えるがな。


『上位種のヴァンパイアを追い払ったとは…!』

『さすが、石板の予言の騎士様!』

『…騎士団長まで取り憑かれてしまったというのに…!』

『素晴らしいです、ギンジ様!』

『もう辞めて!お前等オレに嫌悪感しか植え付けてないの!分かって!?』

『『『『何故!?』』』』


 やはり効果は無かった。


 思わず再三の鳥肌絶賛増殖中で、挙句には心底からの声が漏れてしまった。

 クールにいこうぜ、クソッ垂れ。


 オレも演技派に転向すべきだろうか?と考えて止めておいた。

 これ以上の職業転向ジョブチェンジは流石に御免被る。


『そうか…オレは、上位種の吸血鬼ヴァンパイアに取り憑かれて…、』

『ああ。だから気にするなと言ったんだ。

 正直、お前とは言動も正確も正反対だったからすぐに分かった。

 お前も半分死に掛けてたんだし、それ以上を責めるつもりはねぇよ』

『…しかし、罰は罰だ…!』


 コイツも凝りねぇな。

 黙れという意味合いも込めて、先ほどと同じく頭をぽんぽんと叩くと、若干、彼の首がかくかくしていた。

 ついでに、乗っているオレの身体もガクガク揺れた。


『ううっ、沁みる…!…ギンジの溢れんばかりの優しさが沁みる…っ!』

『黙れって意味合いだったからな?』


 何を勘違いしたのか、この騎士団長様は。


 結局、ぼたぼたと涙を流して、蹲っているゲイルだったが、嘔吐かれるよりはまだマシなので、放っておこう。


 とはいえ、小刻みに揺れる筋肉椅子のおかげで、オレも視界が揺れて地味に気持ち悪くなっているんだが、いつ気付いてくれるだろうか。


『まぁ、良いや。説明は以上。

 とりあえず、念の為に学校を一巡して問題があるならその都度対処。問題が無ければそのまま解散としよう』

『ハッ!』


 と、ここで緊急の話し合いというか、事後報告は終了した。


 しかし、忘れるなかれ。

 それで、終了とさせてくれないのが、この男だった。


『オレへの罰がまだだ』

『お前、いい加減にしろよ。さっきも言っただろうが』

『それでもだ』


 まだ、オレに罰を強請っているゲイルの事だよ、コノヤロウ。

 そもそも罰を強請るとかなんなんだ、この騎士団長様なんだお前は。

 そしてやっぱり、痴女騎士イザベラと根本的な素質がそっくりだったな。

 ドMだったよ、コイツも。


 頭を抱えたオレを見ても、ゲイルは引く気が無いらしい。


 コイツだって実は今日、オレと同様で酷い体験ばっかりしていて、踏んだり蹴ったりだって気付いていないのだろうか。

 気付いていないんだろうね。

 だからこそ、こうして一歩も退こうとしていないんだから。


 まぁ、仕方ない。

 一発ぐらい、オレも八つ当たりをしても罰は当たらないだろう。

 死なないことを祈る。


『うん、じゃあ仕方ないから、歯を食い縛れ』

『了承した!』


 男らしいというかなんというか、潔く言われた通りに歯を食いしばったゲイル。

 目まで瞑って、オレの叱責を待っている。


 なんだろう、この忠犬。

 そのうち、どっか出かける度に帰りを待っていそうなもんで、ちょっと怖くなったんだけど。


 まぁ、何はともあれ。


『せいっ!』

『おごっ!?』


 とりあえず、欲しいと言われた罰として、その顔面に正拳を叩き込んでやった。

 歯を食いしばった意味が無いとか言わない。


『…よ、よりにもよって、鼻か…っ!』

『懲罰なのに男前にしてやったんだ、感謝しろ』


 うん、鼻血流した男前ってのも、ゲイル程の男前なら有りなのかもしれない。

 オレは遠慮願うけど。

 死んでいないみたいだし、まぁ良いだろう。


 これにて、解決だ。

 ほう、と安堵ともつかない溜息を吐きつつ、騎士達を見渡した。


『…それにしても、良く死亡者が出なかったもんだ』

『そうだな。8人とも、良く生きていてくれた。私はそれだけで嬉しいぞ』

『ハッ!ありがたきお言葉です!』

『………ん?』


 ………8人、だと?


『いや、待て待て待て。…さっき、9人いたぞ?』

『9人?ギンジ、何を言っておるのだ?』

『は?お前こそ何言ってんだ?』


 と、オレはふとここで気付いた。

 そういえば、数も数えていないし、点呼も取っていなかった筈。


 改めて、騎士達を逡巡し、人数を数える。

 ああ、本当に8人(・・)だ。


 呆然としたオレ。

 そこに、ゲイルが訝しげな視線ながらも、補足をしてくれた。


『ショクインゲンカンから突入したのは、お前を含めて10人だ。

…オレを抜いて、8人だぞ』


 まさか、オレも含んでいたとは思わなかった。

 連れ出された怒りで、ちょっとそこまで話を聞いていなかったのかもしれんな。


 しかし、しかしだ。


『オレ、さっき9人(・・)蹴ったけど?』


 オレは先ほど彼等に、叱咤と称して一発ずつ蹴りを入れた。

 確かに、その時は9回蹴りを入れたのである。

 回数を数えながらも蹴っていたので、そこら辺は絶対に間違いはない。


『………そういえば、確かに…』

『一番最後に、蹴られたのは誰だ?』

『……』


 ぞっとした。


 あわや、二回目の背筋に走った悪寒である。

 この学校、マジで何が起きてんの?



***



 その後、彼等は早足で学校の巡回を終わらせた。


 全員が一糸乱れぬ行軍で、巡回していた。

 それをオレは後方で辟易とした顔で見ているしか無い。


 しかし、その9人目は何の為に出て来たのか分からないな。

 しかもオレに蹴られて退場とか。


『本当に、意味が分からんよな…』

『…そうねぇ(・・・・)


 呟いた一言。

 そこに何故か、女性の声(・・・・)が被さった。


 ………オレも、混ぜて。


 オレの声に返答があった事に関しては、彼等には言わないでおいた。

 そして、オレも金輪際忘れる事にした。


 学校には不思議が一杯って事だな、よし。

 そういう事にしておこう。


 そして、今日は間宮あたりに一緒に寝てもらおう、そうしよう。

 別に性的な意味は無い。



***



 その後、夜も遅くなって午前2時を回っていた。

 オレ、夕食も食いっぱぐれたな。


 わぁお、生徒達もじゃねぇか。

 教育上よろしくないが、後で酒場にでも連れて行って好きなだけ食わせてやろう。

 勿論、財布はゲイルに握らせる。


 巡回を終えたオレ達が、一番最後となっていたばかりか、一番酷い有様となっていた。

 オレとゲイルなんて血みどろだもん。


 そして、巡回の結果、校舎は廃墟寸前である事が判明しただけだった。

 電気もほとんどが落ちてしまっているし、シャワールームも予期せず確認できたが水が止まっているのは分かっている。

 

 ただし、校舎が残っているのはありがたい。

 その中に残っている物品を流用していく事を視野に入れて行く事にしておこう。


 だが、


『…学校を覆っていた気配、か。何も感じなかったのだがな…』

『しかし、オレ達が感じなかったからと言って嘘とも言えない気がするんだよな。

 アレクサンダーは一見すると餓鬼臭かったし、そもそもあんなところで嘘を吐くような狡猾さがあるとは思えなかった』

『そうだな。そんな状況で、嘘を吐くメリットが分からん』


 不思議な謎が、幽霊事件意外にも増えてしまった。


 アレクサンダーの言っていた、学校を覆い隠していた気配。

 その所為で、彼はこの校舎に数日とは言え捕らわれていたとの事だった。


 そして次に、肉人形の件。


『本当に、人形なのだな…一見すると、本物のように思えたが…』

『触れもするからな…。

 幽霊とか怨霊ってのは、触れるもんでも無いだろうし…』

『お前も蹴り潰していたしな…』

『そうそう。加減を間違えるとこうなるの…』

『それも、罰ならば…』

『簡単に死のうとしてくれるな、友人よ』


 ゲイルが友人と言う言葉を聞いて、目頭を押さえて泣き出した。

 いちいちそこまで感動するところか?


 話が逸れた。


 回収はして来たが、どうにも気持ち悪い感覚しかしない。


 騎士団の女性数名には、嫌な顔をされてしまった。

 いや、オレも気持ち悪いから安心してよ。


 そして、ちょっとだけ調べた結果、中に詰まっていたのは血液だった。

 それも、動物か何かの血と薬の混じった化合物。

 おかげで、オレの体調的な面の気持ち悪さが助長されただけだった。

 精神面では常に降下し続けている。


 これにダークヘイズが取り憑いていた事は分かっている。

 そして人体模型も然り。


 だが、問題はそこじゃない。

 この人形が大量に並んだ地下室があるという事実。


 この事実は、アレクサンダーから齎されたものであった。

 しかし、嘘と断じるのは早計だ。

 先ほどと同じように、彼が嘘を吐くメリットは何一つ無い。


 更に、最後。


『赤い眼の女生徒も、これとは別物みたいだしな…』

『これには、眼が無かったものな…』

『頭も無くなったけどな…』


 無くしたのはオレだったけど。


 最初に見た時、この肉人形は確かに眼窩を露出したような目玉無しお化けだった。

 それは、オレやゲイルだけでは無く、他数名(ちゃんと8人だったよ!)も確認している。


 だが、どうやらオレとゲイル、マニエルの見た女生徒は赤い眼をしていたようだ。

 目玉無しオバケじゃなかった訳だな。


『マシューです』


 今回はわざと間違えただけだ。

 それをしっかり訂正してくるとは、お前もやるな。


 話を戻すと、どうやら彼女と眼を合わせたのは少なくとも3人。

 全員が漏れなくその直後に気を失っている。

 オレは別の理由もあって気を失っているが、そういう事にしておこう。


 ここには討伐作戦として来た筈が、随分と厄介な問題が増えてしまったようだ。

 武器や防弾ベストを補充できたは良いが、結局使い道が無かった。

 防弾ベストも役に立たなかったしなっ。


 しかし、


『あの、皆様…どちらにいらっしゃったので?』 


 と、オレ達に問うたのは、ゲイル達と同じ『白雷騎士団』の騎士達。

 オレ達とは別に、正面から突入した三部隊である。


 囮の名目でもあった筈が、彼等はほぼ無傷で返って来た。

 むしろ、隠密行動をしようとしていたオレ達がボロボロになっているのは、本末転倒だったかもしれない。


 まぁ、オレ達だから乗り切れたかもしれないという事実もある。

 だって、隠し扉や地理をしっかりはっきり把握していたのは、あの中ではオレだけだったしな。


 まぁ、それは良いとして。


『どういう事だ?』

『あの、真に申し訳ない事ですが、我等『ブロウ部隊』は、皆様とは一度も遭遇できませんでした』

『我等、『フラッシュ部隊』も右に同じく』

『『フォトン部隊』、右に同じくでございます。

 それらしき姿は見ておりますが、はっきりと言葉を掛け合った訳では無く…』


 え?


『どういう事?』

『…よもや、貴殿等…逃げ帰った訳でもあるまいな…?』

『逃げ回ってた癖によく言うよ…』

『うぐっ…!』


 ちょっと騎士団長モードになったゲイルを突いてみる。

 まぁ、現実逃避とさせてくれ。


 だって、オレ、今またしても寒気を感じているから。

 そして、彼等の話を纏めて見るとこうだ。


 正面玄関から入った騎士達は、普通に何事も無く巡回を終えて校舎から出られたと言っていた。

 そして、オレ達が見たような動く人体模型も肉人形も、更にはオレ達の悲鳴すら聞いていないという。

 あんだけドンパチやった筈の音すら聞いていないと?


 しかも、可笑しいことは、それだけに留まらない。


『ただ、途中でピアノのある部屋で、突然音が鳴り出しました。

 異世界のピアノは全てあのように、一人でに鳴り出すのですか?』


 まず一つ目に、例え異世界であっても、ピアノは勝手に鳴り出さない。


『そういえば、誰かが走っていくのは見えました。

 ですが、足だけだったので気のせいと思いまして、放っておいたのです』


 二つ目に、脚だけで歩いている人間がいるのを是が非でも確認して欲しい。


『えっと、確か中央付近の階段が何故か四階までありました。

 外から見ると三階建てなのに不思議ですね』


 三つ目に、三階建ての建物に四階へ行く階段があって堪るものか。


『異世界の肖像画は動くのですね。思わず拍手をしてしまいました。

 こう、眼がきょろきょろとしておりましたぞ!』


 四つ目に、異世界の肖像画もピアノ同様動いたりはしない。


『おそらく手洗いだと思うのですが、か細い声が聞こえたので声を掛けますと声が返って来たので引き返しました。

 どなたかお手洗いをなさっていたのではなかったのですか?』


 五つ目に、オレ達は誰もトイレに行っていないし、そんな余裕も無かった。


『蔵書のたくさんあった部屋がありましたが、ドアが開かなかったので入りませんでした。

 中に何名か人がいたのですが、騎士団長方ではなかったのですか?』


 六つ目に、蔵書があったという事は図書館だろうが、やはりオレ達はどこにも立ち寄っていない。


『スケルトンが徘徊していたようでしたので、此方で討伐しておきました』


 七つ目に、それはスケルトンではなく、おそらく多分ではあるが骨格標本だ。


 以上が、彼等の言い分だった。

 嘘を言っているとも思えない、理路整然とした内容だった。


 オレは、笑うしかなかった。

 ふっと鼻で笑って、遠い目をしてしまったと思う。


 だって、それは違う。


 オレ達は最初から最後まで、走りっぱなしだった筈だし、どこかに立ち寄ったりもしていないし、そもそもそんな余裕は一つもなかった。


 それなのに、遭遇しなかったって?

 まず、オレ達は学校の違和感に気付くよりも、まず先にそこに気づくべきだったのかもしれない。


『ぎ、ギンジ…若干、寒気がしてきたのは、気のせいか?』

『奇遇だな、ゲイル。オレもだよ…』



***



 そして、オレ達は、再三の悲鳴を上げた。


 今度ばかりは、さすがにオレも一緒になって悲鳴を上げた。


 だって、怖すぎる。

 オレも一応教師だったけど、学校にこんな事が起きるなんて知らなかった。


 学校の七不思議って都市伝説があったけど、嘘かよ!?

 現実に起きてんじゃねぇか、コノヤロウ!!

 現実に起きたら都市伝説じゃなくて、本当の学校の怪談だろうが!!


 しかも、最終的に、


『巡回部隊から連絡があったのだ。貴殿等の学校の近くでスケルトンが走り回っているのを…』


 今回上がっていた校舎に魔物か魔族が巣食ったという報告も、七不思議の一部だった。

 これは、後からイザベラに聞いた話で、判明した。


 こっちの世界の人間には確かに魔物に見えるかもしれないけど、無害な骨格標本だからそれ。

 ………いや、動き回っている時点で、もしかしたら無害じゃないかもしれないけどさ。


 こうして、数々の謎を残したまま、オレ達の一回目の校舎探索が終了した。

 結果としては、学校内が夜中になると人外魔境になることしか、判明していなかった。



***

最終的にコミカルに走りたがるのは作者の悪い癖です。


ホラーから始まり、ホラーで終わります。

以前学校の怪談の話をした後に、唐突に見たくなって見返してしまいましたが、なかなかにシュールでした。

やはり、大人になると価値観が変わるのですね。



誤字脱字乱文等失礼致します。

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