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異世界クラスのアサシン・クリード~ただし、引退しました~  作者: 瑠璃色唐辛子
異世界クラス、新学期編
143/179

135時間目 「道徳~春の始まり~」

2017年2月8日初投稿。


続編を投稿させていただきます。

今回は、割と早めに仕上がってくれました。


タイトル通り、4月になりました。

生徒達も新たな面々を加えて、新学期がスタートします。


135話目です。

***



 『夢渡り』の時は、白い世界だ。


 そこに、今回は笑い声が響いている。


 夢の中の少年は、何が面白いのかケタケタと笑っていた。

 オレは、罰が悪く、俯くだけだ。


『まさか、赤ん坊の泣き声が、お兄さんの弱点なんてね!

 きっと、世界中の人達がおどろいちゃうんじゃない?』

「言わないでくれよ、恥ずかしい」

『ふふっ、仕方ないとは思っても、面白いんだもの』


 そう言って、またクスクスけたけたと笑う少年。


 いやはや、この子この間初めて会った時は、結構真摯だった筈なのに。

 二度目にして、この砕け様。

 一体、何があったのか?


『特に何も無いよ。

 でも、しいていうなら、お兄さんにもう一度会えてうれしくて、『てんしょん』があがってるみたい?』

「………アゲアゲしなくて良いから、落ち着いてくれよ」


 何だよ、最近。

 皆して、オレに会うとテンションが上がるのな。

 唐突に泣き出した、キャメロンとジュリアンもそうだけどね。


 ………ボルテージも上がるから、例の田所青年とか白髪の青年が噛みついてきやがるのか?

 あの頬に傷のある男達が、襲いに来たのもその所為か?


 ………。

 ………そう考えると、ただの迷惑なんだが。


『クスクス。

 お兄さんは、色々な人からモテるから、シットしてるだけだと思うよ?』

「………その嫉妬も迷惑だわぁ」

『ふふっ、おかしいね』


 そう言って、『夢渡り』の少年はまた笑い出した。

 前よりも、どこか感情豊かになっていると感じるのはオレだけなのか。


 前の舌っ足らずな口調が無くなり、今はどちらかといえば流暢だ。

 可愛いと言えば可愛い。


『ふふっ、ありがとう。

 お兄さんと夢で『渡る』から、言葉をおぼえやすいみたい』

「いくらでも教えてあげよう」


 その回答もどうなんだろうか。

 喜んでいいものか、判断に迷ってしまう。


『ふふっ、あははっ!

 こんなに楽しいの久しぶりだから、ちょっとつかれちゃった』


 それはゴメン。


『ううん、良いの。

 きっと、僕の現実の体が、目覚めそうなんだよ』

「………まぁ、何か、大変そうだな」

『そうでも無いよ?

 こうして、『夢』を『渡る』とまた違う世界が見えるから楽しみだしね』


 なんか、意味がよく分からない。

 ただ、『夢』を『渡る』と記憶が読めるようなことは、前の時にも聞いたが。


『うんうん、そうなんだよね。

 お兄さんが、感じた事とか見たものとか、僕の記憶の中に入って来るの。

 お兄さん、不思議な体験ばっかりしてるから、物語を見ている気分で楽しいんだ』

「そりゃ、良かった」

『今回も大変だったみたいだね』


 僕までハラハラしちゃった。

 とは、面白そうながらも、苦笑を零した少年の談。

 二度目ましてとなってからは、輪郭だけがうすぼんやりと見えている為、表情も分かりやすくなっている。


 まぁ、鏡写しのようで、オレと良く似た少年だったのが怖いのだが。


 そうして、一通り笑っていた『夢渡り』の少年だったが。


 ふと、笑いの発作が収まったと同時に、微笑んだ。


『ありがとうね。

 僕の『-----』を殺さないでいてくれて』

「…えっ、何?」

『あ、また、聞こえない?

 可笑しいな、今度はぴったり調節出来てたと思ったのに…』


 ノイズ混じりは、相変わらずか。

 なんだか、大事なところばかりが聞こえずに、損した気分となってしまう。


 ただ、何度か繰り返した後に、結局諦めたらしい。

 大事な部分は、聞けず仕舞いとなった。


 しかし、殺さないでくれて、とは随分と物騒な単語を使うものだ。

 とはいえ、殺し合いをした相手なんて限られているから、この『夢渡り』の少年が近親者と分かると、何とはなしに不味いと思うのだが。


 少しだけ、警戒をした方が良いのだろうか?

 今更のように思い始めたが、


『ああ、ダメダメ!

 僕の事警戒しないでよ、お兄さんの味方なんだから!』

「うーん、信用できないんだけどなぁ」

『そんな事言って、からかわないでよね!

 お兄さん、最初の時から、警戒なんてして無かったくせに…ッ』

「そうだね」

『んもうっ!』


 そうなんだよね。

 結局、オレ、警戒心なんて皆無なんだわ。


 そもそも、この子みたいな子どもに何を警戒するのか、って話。

 夢の中で会うだけの、他人だから。

 話をするのも、他愛ない世間話か愚痴みたいなもんだし。


 って、そう言えば。


「今回は、何か用事があった訳じゃないのか?」

『ううん、今回はたまたまマッチしたから、遊びに来ただけなの。

 そしたら、また大変な目に合って、気絶しちゃったみたいだから、ちょっと可笑しくて…』

「人の不幸を笑うんじゃない」

『だ、だって、………強くて格好いいのに、弱点が赤ちゃんって…』

「………言うなよ、虚しくなるから」


 虚しいよ、本当に。

 理由は察してくれているから追及はしないでいてくれるようだが、何が悲しくてこんな少年に暴露してんだかね。


『でも、ゴメンね。

 お兄さんだって、好きで、苦手になった訳じゃないもんね』


 それでも、ちゃんと謝れるこの子は、とても素直で良い子だ。

 怒る気力は薄れるよ。


 そこで、ふと。


『あ、ほんかくてきに、目が覚めるみたい。

 また、今度ね、お兄さん』

「ああ、またな」

『うんっ!

 こんどは、僕の名前、聞こえるようになるとうれしいね!』

「オレも頑張るけど、君も頑張ってくれ」


 現れるのも唐突だったが、帰るのも唐突か。

 まぁ、現れるとか帰るとか表現するのも、何か違う気がするが、そこは置いといて。


 輪郭だけの少年が手を振って、消えた。

 そこで、オレもまた目を閉じる。


 真っ白い世界から、落ちるような気分で、意識が途切れた。



***



 気付けば、ベッドの上だった。

 視界の先には、見慣れたかどうかは分からないが、校舎の自室。


「………っと?」

「んぅ…ッ」


 寝起きの所為か、耳に掛かった吐息に驚いた。


 傍らには、ローガンがいた。

 オレを抱きかかえるようにして、添い寝をしてくれていたらしい。


 耳に掛かったのは、彼女の吐息か。

 驚いた。


 そう言えば、ローガンに突進して、そのまま気絶したんだっけ。

 詳細を思い出せない。


 随分と長い事眠っていたのか、頭がガンガンと痛んでいた。

 って、長い事眠ってた訳だよ。

 窓の外が、白いもん。


 彼女の腕を退かせるようにして、起き上がる。

 サイドテーブル代わりとなっていた執務机の上に置かれていた懐中時計を開けば、時刻は朝の4時半。

 ………夕方6時頃から寝こけて、この時間て。


 呆れてしまう。

 寝すぎだよ、オレ。

 溜息が止まらなかった。


「………はぁ。

 ………これからの生活、大丈夫かなぁ…」


 ぼそりと、呟いた。

 もう、大丈夫じゃない予感しかしないのに。


「何がだ?」

「…あ、起きちゃった?」


 独り言に返事が戻って来て、ちょっとだけ吃驚。

 気配しなかったけど、寝起きの所為で鈍ってる?


 傍らに眠っていたローガンが、起き上がってオレの肩にしなだれかかった。

 わぁお、朝から大胆ね。


「………お前こそ」

「オレは寝すぎ。

 ローガンは、大丈夫か?」

「私も寝すぎた」


 そう言って、小さく欠伸を零した彼女。


 聞けば、オレが気絶をしてから部屋に運び込んでくれた折、うっかり掴んだ彼女の衣服からオレの手が離れなかったそうだ。


 ………おい、6歳児じゃあるまいし。

 たまに、オリビアもやってたりするけど、まさかオレがやるとは思ってもみなかった。


 とはいえ、彼女は嬉しそうだった。

 可愛いんだから。


 気だるそうな表情がちょっとエロくて、ついつい悪いと思っていながらも口付けを送る。

 寝起きなのに、ゴメン。


「こら、突然、何をする?」

「おはようのチュー」

「………っ、可愛い事ばかり言って、誤魔化されんぞ」

「何を?」


 なんか怒られた。

 けどまぁ、怒られる理由は多々あるから、それ以上は追求しない方向で。


 可愛いのは、お前だ女蛮勇族アマゾネス

 オレじゃない。


 さて、朝からそこはかとなくムラムラ来てしまったが、それはともかく。


「………あの後、どうなった?」


 オレの言葉に、途端に唇を尖らせたローガン。

 話をはぐらかしたからな。


 しかし、これまた可愛い。

 キスをしようとしたが、今度こそ誤魔化されてはくれずに押し退けられた。


 とりあえず、経過だけは聞いておこう。

 ベッドから降りて身支度を整えながら、彼女から簡潔に報告を聞いた。



***



 ローガンから経過を聞いて、ほっと一安心。

 安心出来ないのは、オレの精神面だがそこは敢えて見なかったフリで。


 飛鳥は無事。

 ラピスの診察でも、母子ともに健康との事。


 昨日は色々あったので、そのままヘンデルともどもお泊りと相成ったらしい。

 本当に、校舎を改築して置いて良かった。


 そんな朝。

 シガレット片手に、ダイニングで手紙とにらめっこ。


 悔しいが、今日の訓練は中止だ。

 オレが今日、忙し過ぎる。


 目の前にある手紙の束に、辟易とした溜息が漏れる。

 傍らでコーヒーを出してくれた間宮が、心無しか痛ましそうな視線を向けて来る。


 折角の新学期だったのに、散々な一日となりそうだな。


 まず、王城から、手紙が来てしまった。

 例の『予言の騎士』一行とオレ達の顔合わせを至急実施したいとの事で。

 予定の調整をすると言ったのは、どの口だったかな?

 ゲイルと言わず、直接責め立ててやっても良いのだが、まぁ、そこはそれ。


 多分、各所貴族達の突き上げで、あっちも折衝が多いのだろう。

 仕方ない。


 次に、冒険者ギルドからの手紙。

 昨日は伝言だったが、先ほど正式な文書で通達が届いた。

 落ち着いたら連絡寄越せと言われていたのに、またしても連絡するのを忘れていたからだ。

 二度目の正直。

 マジでチビるかと思うぐらいの達筆な文字で、『次の殺し合い(タイマン)はいつにする?』という内容で、これまた漏れるかと思った。

 小も大も行くかと思った。

 朝からお下品だが。


 それはともかくとして。


 他にも、各所からの書面が届いていたので、頭が痛い。

 商業ギルドから、武器商人の繋がりから、更にはヴィッキーさん率いるセフィロト商会からも。


 商業ギルドは、前にも言われた新事業の立ち上げに一枚噛ませて欲しいと言う通達。


 武器商人の繋がりでは、おそらく武器の売買の件だろう。

 ヴァルトこと武器商人の方のシュヴァルツ・ローランに直接発注したと思っていたが、ちょっとした行き違いがあったのかもしれない。

 校舎で使う武器各種、別で揃えられるか聞いていたから間違いなくそれ。


 ヴィッキーさんの方は、ヴァルトやヴィンセントも含んだ兄弟関係の関係修復に関して、お礼の手紙と何かのチケット。

 多分、歌劇か何かだと思うんだけど、よく分からなかった。

 とはいえ、そんなもんオレ達も必要だと感じたから首を突っ込んだだけで、お礼なんて言いのに。


 まぁ、千客万来の次は、手紙でのラブコールが相次いだわけだ。

 ………若干、一名は本気と書いてマジの果たし状(ラブコール)だがなッ!


 ついでに、忘れていた問題が一つ。

 オレ、後で読もうと思っていた『天龍族』の手紙の存在を、すっかり忘れていた。


 今、オレがにらめっこしているのも、この手紙。

 読んだら、再起不能だ。

 そうなると、午後から予定していた、彼女達が滞在中の宿への訪問が間に合わない。

 いや、それまでに回復出来れば良いとは思う。

 だが、そんな保証はどこにもない。

 今度こそぶっ倒れるかもしれない。


 だから怖くて開けないまま、かれこれ数10分。


 ううっ。

 長引けば長引く程、不味いと思っているのに、踏ん切りがつかないです。


「(………もし何かあれば、時間までには起こしますが?)」

「目覚める確証が無いのがツライ…ッ」

「(オレも確約が出来ません)」


 師弟揃って、この調子だ。

 時間ばかりが過ぎていく。


「うにゅぅ、おはよう、馬鹿騎士」

「ちょっ、ちょっと、キャミ。

 ………お兄さんに、失礼だよ?」

「ああ、おはよう、2人とも。

 昨日は放ったらかしにしちゃって、ゴメンな?」


 そこに、キャメロンとジュリアンが突進して来た。


 昨日は、それこそ相手に出来なかったのもあって、そのままウチにお泊りして行ったようだ。

 小さな女の子組で集まって、就寝したらしい。

 伊野田とかシャルとかオリビアとか。

 見たかったなぁ。

 癒されたかった。


「ふん!

 かふぇおれで許してやる!」

「もうっ、キャミったら。

 ………でも、ぼ、僕も、かふぇおれが飲みたいです」

「間宮、頼む」

「(はい)」


 いやはや、舌っ足らずが可愛いです。


 ちなみに、今はまだ朝の6時半。

 この子達が起き出すのは、結構早め。


 まぁ、寝たのはオレよりも早かったから、起きちゃうのは仕方ないのかもしれないけど。


「ん~?それって、もしかして、あのおっかない『天龍族』から受け取ってた手紙か?」

「ああ、うん。

 魔法陣が組み込まれてるみたいで、開けるのに躊躇してる」

「ちょっと待てよ、調べてやる」


 そう言えば、彼女こんななりでも、魔術ギルドの現ギルドマスターだったね。

 可愛すぎて、忘れてた。


 キャメロンが手紙を受け取り、封を切らずにためすがえす。

 そこから、何やらぶつぶつと文言を唱えると、魔法陣が浮き上がり手紙ごと宙に浮かんだ。

 幾何模様が何重にもなって浮かぶ姿は、幻想的だ。

 何度見ても、飽きない光景である。


 斯く言うオレが一番好きなのは、勿論ラピスが魔法陣を描いた時の、あの幻想的な光景なんだが。


「うん、確かに『魔法陣』が組み込まれてる。

 1つは『開封』をギンジに限定したものだけど、もう一つが分からねぇな。

 オレが知らないって事は、多分、『天龍族』の固有魔法(ワンズソーサリー)だ」

「って事は、解読不明?

 前の時は、記憶に直接刻み付ける魔術が掛けられてたんだけど…」

「それも、固有魔法(ワンズソーサリー)だろうな。

 正直、オレもそんな魔法は聞いた事が無いし、あったらとっくの昔に魔術師連中が本を捨ててらぁ」


 あ、そういうもんですか。


「でも、何で躊躇するんだ?

 大事な手紙だから、わざわざ魔法陣組み込んだり、使者が直接届けに来たんじゃねぇの?」

「………前の時は、数時間は吐き気が止まらなかった」

「………危険物かよ」


 全く持って、キャメロンの言う通り。


 オレに同調してくれた彼女は、そのまま、間宮お手製のカフェオレに夢中になって、オレの足下から離れてしまったが。

 癒しが喪失したな。

 ………なんだろう、この空虚感。


 でもまぁ、大事な手紙だからこそ、と言うのは分かっている。

 だからこそ、使者が届けている。

 そして、絶対にオレに見て欲しいからこそ、魔法陣まで刻み込まれているのだ。


 それに、もうこうして唸っている時間は少ない。

 タイムリミットは今日の午後。

 これ以上、『天龍族』の心象を悪くして、良い結果が得られるとも思っていない。


 意を決して、開く事にした。

 今回も大丈夫だと思い込む。

 ソファーに座っているし、多分倒れても大丈夫。

 そう思い込むだけしか出来ないのが、辛いけど。


 深呼吸。

 手紙の封を切る。


 びりり、と紙を裂いただけの音が何故か、ダイニングに響いた気がした。


 そして、前の時と同じく、魔法陣が起動した。

 瞬間、ぶつり。


 意識が飛んだ。



***



「どうも、お久しぶりです。

 『予言の騎士』ギンジ・クロガネ様。

 お待ちしておりました」

「………へぇッ!?」


 意識が途切れたと思った瞬間、眼を開けたらそこには、淡い青い髪をした端正な顔立ちの男性が腰掛けていた。


涼惇りょうとんさん!?」

「そこまで驚かないでください。

 貴方の驚く表情は痛快ですが、私も幽霊ではありませんので傷付きます」


 目の前には、涼惇さん。

 周りは、なんとも言い難いものの、中華様式の部屋の中。


 対面式の椅子の横には、サイドテーブルの様な猫脚の机が置かれ。

 その上には、湯気を立てた急須の様な形をした陶器や小さな湯飲みの様な茶器もある。

 お茶菓子まで見受けられて、呆然だ。


 なんか、テレビで見る首脳陣の会談の時の様な机と椅子の配置みたい。

 もしくは、テレビ番組とかでよく見るインタビューみたいなの。


 ご丁寧に、オレまで一緒に腰掛けている。

 何が何やら、分からない。


 驚いた。

 おいおい、どうなった?

 最近、こんなのばっか!


 オレは、校舎のダイニングのソファーにいたのに、いつの間にかこんな中華様式のお部屋の中に紛れ込んだのか。


 見れば見る程、部屋の内装も調度品も、格式の高そうなものばかり。

 金や銀がふんだんに使われているが良く分かる。

 しかし、落ち着いた色も一緒に使っているからか、下品な感じはせず、それぞれが素晴らしい一級品だと分かる。


「そう、まじまじと見ないでください。

 私の趣味で誂えたものばかりではないので、少々気恥ずかしいのです」

「………って、ここ、涼惇さんの部屋ですか?」

「ええ、そうですとも。

 まぁ、人間の方どころか、知己でも招いた事は少ないのですがね…」


 えええええええッ!?

 なんで、オレそんな場所に、いきなり瞬間移動しちゃってんの!?


 思い出せ。

 オレは、何をしていた?


 確か、手紙を開けただけだった筈だ。

 意味わかんないッ!


 ………もしかして、『夢渡り』の少年の力の影響で、オレも渡っちゃった!?

 オレまで、能力目覚めちゃった!?


「ああ、落ち着いてくださいね。

 別に、貴方が勝手に移動したのではなく、私がお呼びしただけですから」


 そう言って、穏やかそうに笑った涼惇さん。


 ………なるほど。

 色々突っ込みどころは満載だが、オレが勝手に移動した訳では無い。

 そして、怒られる事は無いらしい。


 おかげで、肩の力が抜けた。

 安堵の所為か、下品な話、またしても小も大も漏れるかと思った。


「とはいえ、まさか、朝方になるとは思ってもみませんで。

 お忙しいとは聞き及んでおりましたので、おそらくは夜だと待ち構えていたのですが、待ちぼうけを食らってしまいました」


 ガ ッ デ ム!!


 うわぁああああああああッ!!

 ゴメンなさい、ゴメンナサイ!

 こちらにも、待ちぼうけを食らわせてしまった方が一人ぃいいいいッ!


 ………ちょっとチビったかもしんない。

 内心で悲鳴を上げながら、オロオロと。


 平謝りをするしか無く、立ち上がった。


「すみませんでした…ッ、その、オレ…ッ!

 いやもう、本当にすみません!!」

「いえいえ、お気になさらず。

 元々、時間の事は気にしておりませんでしたし、見越して予定は明けておいたので大丈夫ですよ」


 これまた、穏やかに微笑む涼惇さん。

 正直言って、謝って済む問題じゃない気がするのに、笑って許してくれた。


 そして、座るように促してくれた。

 いやはや、本当に申し訳ない。


 ところで、


「何故、呼び出しを?

 というか、もしかして、あの手紙にそう言う魔術が掛かってました?」

「ええ、その通り。

 『天龍族』の固有魔法で、『空間同調チューン』と言うんですが、人間の方々には馴染みの無い魔法でしょうね。

 斯く言う私も、人間にこの魔法を使ったのは、初めての事でございます」


 なんて説明を受けたけど、素直に吃驚だ。


 まさか、部屋に呼び出されたのも初めてなら、使われた魔法も初めてだなんて。


 驚いた。

 オレってもしかして、果報者?

 しかも、結構良い所と言うか良い役職の方に、お茶まで淹れて貰っちゃって。


 差し出された、ホクホクと湯気を立てた茶器。

 中には、半透明な液体が入っていた。

 香りからして、お茶だ。

 多分、烏龍茶みたいな感じだろうけど、こんなところまで中華式?


「お口に合うかどうかは分かりませんが、『暗黒大陸』のとある場所に生息する魔族が、栽培している特別な茶葉を使っております。

 まろやかな甘みと爽やかな後味が特徴で、若干下に残る苦みがあります。

 『天龍宮』では良く飲まれているのです」


 そう言って、彼もまた茶器を口付けた。

 所作が様になっております。


 って、先に口を付けたのは、もしかしなくても毒見目的?

 もしくは、どうぞお気を沈めてと言う意思表示か。


 ………気を使わせてしまって申し訳ない。


「いただきます」


 どうやら、茶器は茶托を持ち上げずにいただくスタイルのようだ。

 口を付けると熱さが来るが、彼の言っていた通り、まろやかな甘みと爽やかな後味が、すうと口の中に広がって胃の腑に落ちた。


 ああ~、これ本気で烏龍茶だわ。

 冷やしても絶対美味しい。

 『暗黒大陸』とは言っていたけど、ぜひとも欲しい。

 『天龍族』経由で、茶葉卸してくれないかな?

 その代わり、コーヒーをいくらでも融通しますので。


 とはいえ、烏龍茶の所為で落ち着いたからか。

 ふう、と溜息混じりにほっこりとしてしまう。


 やっぱり、日本人だから、お茶は好き。

 この際、緑茶だろうが烏龍茶だろうが関係ないし。

 茶葉は同じだ。

 文句は聞かない。


「お茶菓子もいかがですか?

 お時間の事を考えますと、食事もまだでしょうから」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」


 そういや、まだ朝の6時半だった。

 生徒達も半数が起き出していなかったから、飯の準備は途中だった筈だ。


 茶請けに出されたのは、月餅の様な形の最中だった。

 ようなもの、としか言えないけどね。

 この世界、似たような形をしていながら、呼び名が違ったりするものが多々あるから。


 とはいえ、いただいたので、素直に頬張る。

 夕食も食いっぱぐれていたので、ありがたかった。


 中にはもちもちとした何かが入っていて、餡の様な何かも一緒にくるまれている。

 正直、美味いし甘いとしか言いようがない。

 そういや、似たようなものとはいえ、和菓子って久々かも。


「嗜まれた事があるのですか?

 我等の居城では珍しくもありませんが、外から来た来客に出すと手を付けない方が多いのですが?」

「故郷に、似たようなお菓子がありました。

 とても懐かしくて、ついつい手が進んでしまいまして…」

「ああ、そうだったのですね」


 では、此方もどうですか?と差し出されたのは、羊羹の様な何か。

 お菓子にも見えるが、香りはどこか醤油っぽい。

 ………醤油あるの?


 こて?と首を傾げると、その羊羹のようなものを楊枝で切って口に運んだ彼が、苦笑を零した。

 頬が膨れていても美男イケメンですね。

 (※ちなみに、オレは可愛らしかったと苦笑を零されていたらしいが)


 とりあえず、此方もいただいたので、遠慮せずに同じくパクリ。

 ちゃんと楊枝で一口大に切り分けた。


 やはり、ベースは醤油っぽい味だが、後味が何やら甘すぎる。

 ちょっとくどいか。

 あ、でも烏龍茶と合わせて嗜むなら、丁度良いのかも。


「美味しいです」

「それはようございました。

 正直、人間の方で、これを素直に召し上がられたのは、貴方が初めてですが」

「………これも、故郷に似たようなものがありましたので」


 見た目、角切りのウ●コだもんな。

 日本の文化、恐るべし。

 ………仕方ないとは思うけど。


 口の中の羊羹の味がおかしなことになり始めたので、とっとと飲み込んで意識を切り替えておいた。


 まぁ、それはさておいて。


「ふふっ、可愛らしい方なので、ついつい意地悪を」

「意地悪?」

「我等は良く食べますが、お客人には滅多に出しませんよ。

 試すような事をしてしまい、申し訳ありません」

「………何を試されたんです?」


 ちょっと、絶句した。

 この人、人の良さそうな顔をしておいて、平気で嘘を吐いたな。


 騙されたオレも悪いか。

 正直、お茶菓子に夢中で見ていなかったのも悪い。


 げしょ。


「警戒心が強すぎる傾向があるようでしたので、どこまでのものかを判断しました。

 まぁ、結果は、私の惨敗としか言えませんが」

「………飲むか、食べるか、もしくはその両方ですか?」

「ええ。

 あなたぐらい警戒心の強い方なら、まず飲まないし食べないだろうと思っておりまして」


 そ、それは酷いよ~。

 某リアクション芸人の大御所達の様な呟きが脳裏を過った。


 何とも言えない脱力感を感じて、ふらりと椅子にもたれかかる。


 まぁ、毒が入っていた訳でも無ければ良いんだけど。

 ………入ってないよね?


「勿論、毒を入れた訳ではありませんよ。

 試しただけで。

 そのような真似をすれば、人間達がこぞって我等の敵になってしまいます」


 そう冗談めかして笑う涼惇さん。

 流石に、これには苦笑いだ。


 言ってることが物騒過ぎるのに、言い方が軽過ぎる。

 正直、怖いです。


 ただし、その表情も、茶器を取って飲み干したと同時に、真面目な物へと切り替わった。


 来た。


「お呼びしたのは、他でもありません。

 大事なお話を、貴方と私の2人だけで、しっかりとしておきたかったからでございます」


 朗々と告げられた声音。

 戸惑いつつも、表情から雰囲気からがらりと変わった涼惇へと、改めて姿勢を正して向き合った。


「以前、手紙でも話した通り、現在『天龍族』には、象徴たる『龍王』が不在となっています」


 どくり、と心臓が異音を発した。

 触れて欲しくない話題だったが、避けては通れなかったか。


 反応してしまいそうになった体に、気を引き締めた。

 涼惇の怜悧な視線が、そんなオレを射抜く。


「単刀直入にお聞きします。

 貴方は、『天龍族』の血を浴びた事がございますね?」


 問いかけは、確証を持った確認口調だった。

 答えようとした喉が、引き攣った。



***



『………さてさて、随分と面白い事になりそうだなぁ』

「何がです?」


 白銀が、喉奥を震わせるように嗤う。

 それを見上げた、端正な顔の青年が訝し気に肩眉を下げた。


 床に座り込み、書簡を広げた姿は仕事をしている様にも見える。

 実際には、そうだ。

 しかし、この場所は彼が本来、仕事をする場所ではない。

 彼の執務室は別にある。


 だが、この場所で敢えてこうして、仕事をしているのは偏にこの場所が静かで、なおかつ落ち着くが為。


 煩わしい同族達の足の引っ張り合い等御免だ。

 最近では、まずまず権力争いやお家騒動が増えてきている。

 迷惑を被る前に、こうして退避した先がこの部屋であり、こうでもしないと書簡が溜まる一方だと分かっているからこそ、大量の書簡の持ち込みであった。


 それを見下ろしている白銀の部屋の主。

 しかし、咎め立てるような様子も無ければ、面白い事をするとこれまた喉奥を震わせて笑うだけ。

 温厚な様だ。

 

 実際には、温厚と言うよりも興味関心が薄いとも言うべきか。

 部屋の主は、頓着しないだけだ。


『いや、なに、………我が相対するべきは、どちらの御子かとな』

「………ああ、『予言の騎士』ですか。

 同時期に、2人も擁立されるとは、馬鹿馬鹿しい事この上ない」


 そう言って、会話の内容に興味を失って、書簡へと視線を戻した青年。

 その頭上から、白銀の主が更に声を掛ける。


『大陸の端と端、性格も正反対。

 生まれも育ちも、ましてや考え方すらも真逆の御子だ』

「………これまた、誂えたかのような偶然ですね」

『………偶然か必然か。

 しかし、それを決めるのは、我等では無く『輪廻』と『女神ソフィア』の気まぐれよな』

「………私は、正直どちらでも構いませぬ。

 世界の終焉等、訪れる時は訪れるのだから………。

 足掻いた所で、所詮は『運命さだめ』。

 命あるものは等しく消え去るのみ」

『………果たして、そうかな?』


 白銀の主が、これまた銀色の瞳で見下ろす眼下。

 真向から見下ろされた青年が、もう一度書簡から視線を外し、銀色の主を振り仰ぐ。


「どういうことです?」

『………何、老いぼれの戯れ言よ』

「意味深な事で。

 ………ちなみに、貴方としては、どちらを支援すべきか決めているのですか?」

『見てからではないと分からぬな』

「………では、私とて同じ意見です。

 そも、そこまで正反対の人物像を持ち得るのであれば、好き嫌いでも分かれるでしょう」


 そう言って、今度こそ集中して書簡へと向き合った青年。

 その部屋には、会話は消えた。


 かと思えた。


『………片方の御子は、既にお主の周りを染め始めておるようだがな』

「………どういう意味です?」


 これまた、意味深な言葉。

 それに、反応した青年は、煩わしそうな表情を見せながらも、もう一度振り仰いだ。


 しかし、白銀の主は、いつものように台座に寝そべるようにして体を横たえた。


 いつもの事。

 話をするのにも飽きれば、こうして彼は眠るようにとぐろを巻く(・・・・・・)


 これ以上、問いかけても返答はない。

 知っている。


 しかし、聞かずにはいられなかった。


「それは、私だけでなく、………周囲を変えると言う『運命さだめ』の事を言っているのですか?」

『………さて、なぁ』


 珍しく返答があった。

 しかし、その返答は、答えとは程遠いはぐらかし。


 一抹の不満と不安が、胸に残った。

 青年は少々撫すくれながらも、溜息混じりに今度こそ執務に没頭した。



***



「先生ってば、何をボーとしてるの?」

「えっ、あ、………うん、と?」


 所変わって、教室である。


 目の前には、榊原が手をぶらぶらとオレの前で振っていた。

 突然のことに、肩が震えた。


 あ、あれ?

 オレ、考え込んでた?


 気付けば、生徒達がオレを見て、不思議そう。

 うち数名は、心配そうにして眺めていた。


 ………申し訳ない。

 ボーっとし過ぎていたようだ。


「えっと………何してたっけ?」

「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

「どっか、頭打った?」

「いや、砦の襲撃の時は、あんだけガンガンぶつけてたし、脳みそやられてたんだじゃ!?」

「あーっ!ちょ、ちょっと落ち着け!

 大丈夫だから、思い出したから!」


 俄かに騒然となり、次々と立ち上がり始めた生徒達。

 新たに加わった藤本ゆなが不思議そうな顔をしていたが、どうやら心配を掛けさせ過ぎてしまったようだ。


 先程も言った通り、所変わって教室である。

 時刻は、9時過ぎだ。

 現在は、ホームルーム中だったが、新学期を迎えるという事で、生徒達全員に自己紹介や今後の抱負などを、英語と日本語、もしくは通訳を交えて行っていた矢先の事。


 丁度、榊原が自己紹介を始めた辺りから、記憶がない。

 しまった。

 自己紹介はともかく、全員の抱負ぐらいは聞いておきたかったのに。


 後で、間宮にでも聞こう。

 そんな間宮はオレの足下でオロオロとしていたがな。

 正直言って、すまんかった。


 『天龍族』からの、はっきり言ってしまえば、涼惇からの手紙を読んだ時。

 むしろ、あの手紙がキーとなって、『空間同調チューン』なる魔法で、呼び出しを受けた形。

 実際には、訪問という事になるのだろうか。


 気付けば、『天龍族』の居城、『天龍宮』の涼惇の私室に案内されていたオレは、それこそ涼惇から根掘り葉掘りと聞かれた。

 正直に言おう。

 怖かった。


 なんとか誤魔化そうとしても、彼は同じ質問を繰り返す。

 それこそ、壊れた人形かと思うぐらいに繰り返し、遂には眼が笑っていない状態でにっこりと微笑み出す。


 意識が飛ぶかと思った。

 飛んだ結果が、お呼び出しだった訳だがな。

 逃げ場が無かった。


 エライ目に合った、としか言えないものだ。

 さて、それはともかく。


 頭を振って、意識を切り替える。


「………まだ、眠いの?

 体調、悪いわけなんじゃ、ねぇよな?」

「ああ、一応は平気だ。

 ちょっと、考え事してただけだ」


 そんなオレを見て、心配そうに問いかけて来た徳川。

 眼は口ほどに物を言うが、今にも泣きそうになっているその表情までもが饒舌だな。


 徳川から心配されて、ふとくすぐったく思ってしまう。

 人の事を心配出来るようになったとは、コイツも随分と成長したものである。


 昨日の田所青年の事がある所為か、余計に誇らしくなった。


「ぐえっ…」


 頭を撫でておいたら、ぐきっと音がした。

 ………済まん。

 加減を間違えたらしい。


「………さて、気を取り直して行こうか。

 今期から、2年生となった諸君も、編入の結果である諸君も、今後はかなり忙しい事になるのはしっかりと肝に応じておいてくれ」


 そう言って、一応のスケジュール確認。


 今月に入ってから、大きな予定は4つ。


 1つ目は、『聖王教会』でのボランティア。

 これは4月の1週で、後5日後の事だ。


 2つ目は、例の『天龍族』居城への訪問である。

 これも、既に1週間後と言うのが決定しても同然であるが、まぁ日程の調整次第と言う形だろうか。


 3つ目は、王城で開かれるパーティーへの出席。

 これは、4月の末に予定されている為、『天龍族』居城への訪問さえ長引かなければ、大丈夫。

 最悪、長引くようなら、一時帰宅を頼む事にしよう。

 ………出来なくはない筈だ。


 そして、4つ目が、各自の技能検査の結果次第で、扱わせる武器の選択及び発注である。

 これは、今月を通して行う、各自の目標としている。

 『闇』属性の連中は、『隠密ハイデン』を扱うのは決定事項。

 しかし、物には向き不向きもあるので、なるべくなら『闇』属性にこだわらずに、扱える武器を選定しておきたい。


 それに、新しく加わる藤本が、実はクレー射撃の特待生として、高校に入学していた事が発覚している。

 ちなみに、彼女遠くが見えすぎて、近くが見えない遠視。

 しかも、若年性の強度遠視なの。

 良く弱視にならなかったものだけど、親が揃ってクレー射撃をやっていたからこそ、重宝したようだ。

 元は眼鏡っ子だったけど、こっちに来て失くしてからそのままだったらしい。


 『闇』属性は持っていないが、もし扱えるならオレのライフルを使わせてやりたい。

 ナイフや別の武器に転向する事も可能だが、遠視ならどう考えても近接はちょっと厳しいだろう。

 他の生徒でも、怪力とか逆に力が弱いとかがあるので、判断基準が乏しい。

 それを補う為に武器は慎重に選ばせてやりたかった。


 だが、来月からはもっと大きなイベントが待っている。

 それが、『聖王教会』の巡礼。

 最初は、『赤竜国』の『聖王教会』支部へと向かう事になっているので、片道でも1ヶ月の道中。

 短縮する手段は持っているが、それでも然るべき準備は怠る事は出来ない。


「ちなみに、これには『聖王教会』の司祭イーサンが、同行する事になっている。

 現在の状況では、ゲイルが付いて来れるとは思えないから、おそらくオレ達が護衛の要となる可能性も高いから、各自訓練を怠らないように」

「………王国の騎士さん達の護衛も無理かもしれないって事?」

「いや、護衛自体は就くんだが、おそらく『白雷ライトニング騎士団』は動かせないだろう。

 国防が疎かになっても困るからな」


 ゲイルは、現状動かせないかもしれない。

 何がって、オレ達の護衛として、『赤竜国』への随伴である。

 余り思い出したくはないものの、新生ダーク・ウォール王国擁立の『予言の騎士』一行には、王国魔術師部隊の2個小隊が随伴で護衛に付いていた。

 オレ達も、それ相応の体裁は必要だと思う。


 しかし、ゲイルは駄目だ。

 何せ、国防の要ともなっている騎士団長様。

 期待をしておくよりも、最初から諦めて自分達で何とかする方向で考えておいた方が良い。

 いつまで経っても、おんぶに抱っこじゃいられないからな。


「………そう思うなら、もっと甘えてくれないか?」


 そう言ったら、ゲイルの本気の泣きが入りそうになった。

 涙腺が緩い35歳め。

 とはいえ、その言葉には、同意も出来ないが否定も出来ずに、敢えて言葉を濁しておいた。


 ………護衛のし甲斐が無いクラスだとは思っているよ。

 オレも含めてな。


 さて、それはさておいて。


「今回、新たに加わったディラン、ルーチェ、藤本、佐藤の4人は特にスパルタで行くからな。

 ただし、藤本と飛鳥については、しばらく非戦闘員として、校舎での生活に慣れる方向で教育に専念して貰うのでそのつもりで」

「言葉が喋れないもんね」

「飛鳥ちゃんなんて、ママになっちゃったしね」


 話は変わって、今後の生徒達の役割分担と言うべき事だろうか。


 結那こと藤本 結那は、まずは体調を戻す事と、ついでに英語の習得が急務。

 それに、飛鳥ちゃんこと、佐藤 飛鳥は昨日ママになったばかりと言う事で論外である。

 言い方は悪いが、まずは体調と育児に専念して貰わないと。

 並行して、英語の習得は急務として貰うものの、こればっかりは降って湧いたおめでたい事だと思って、仕方ないと割り切っておく。 


 さっきも言った通り、藤本はクレー射撃の特待生。

 腕前はまだ見ていないが、もし可能ならすぐにでも訓練に入れるかもしれないまでも、あくまで希望観測。

 2人については、保留だな。


「それから、オレ達もしばらく教育関連が遠退いていたと言う事で、もう一度改めて授業を組み込む事にする。

 この世界でいう算術や歴史、地理もそうだが、出来ればお前達にも英語以外の言語を取得して貰いたいと思っている」

『え~~~ッ、また言葉を覚えるの!?』


 オレが、そう言った途端に、ほとんどの生徒達からブーイングが起きた。

 静かなのは、意味が分かっていない藤本と、別にどうでも良い香神、永曽根、間宮ぐらいか。


「まぁ、希望は通そうとは思うが、魔族語なんて新しい言語の存在が発覚しちゃったから…」


 そうそう、これが問題なんです。

 実は、大陸間では人間語(※英語)で通るとはいえ、暗黒大陸の向こう側で使われている言語の主流は、魔族語。

 ローガンやラピスが使える。

 ラピスの研究論文なんかが、魔族語で読めなかったなんてしょっぱい理由もあったが、今後の活動の為に必要と思っての事だった。


『ちなみに、藤本と佐藤は、英語の習得が急務だから、そのつもりでね?』

『は、はいっ!』


 こっちはこっちで、英語の習得だ。

 文句は言わせない。


「それから、シャルとディランとルーチェも、希望するなら日本語を教えるよ。

 咄嗟の時に、生徒達と意思疎通が出来る言語がもう一つぐらいあっても、多分困る事は無いと思うからな」

「本当!?なら、教えて!?」

「僕も、お願いします!」

「私も希望します」


 そう言ったら、全員が即座に希望した。

 何だろう、この感無量。


「………お前等、彼女達を見習え、この野郎」

『ぶーーーーーっ!』


 無理にとは言わないが、出来ればもう少し真摯に向き合って欲しい。

 ………特に徳川。


 しかし、ここで何を思ったのか、挙手をしたのがもう1人。

 教室の後ろに当たり前のように立っていた、ゲイルだった。


「オレも、希望したいのだが…」

「私も頼みたい」


 ないし2人。

 ゲイルに続いて、同じように教室の本棚に寄りかかっていたローガンも挙手。

 ちょっと、吃驚した。


「それに、ラピスもどうやら、日本語に興味があるようだったから、多分彼女も希望を聞けば頷くと思う」


 とは、ローガンの言。

 という事で、希望したのは、結局ラピスも含めた3人か。

 勉強熱心と言うか、生真面目と言うか。


「………ほら、お前達も、彼女達を見習え」

『うーーーーっ!』


 唸り声を上げんなよ、平均19歳。

 勿論、シャルの58歳を抜いての換算ではあるが、テメェ等だって四捨五入したら20歳になるんだから、少しは真面目に取り組め。

 こと勉学となると、やっぱり子どもになるんだから。


「………ちなみに、向こうの『予言の騎士(ニセモノ)』一行は、語学力がほとんどない連中だったが、それと同じに見られたいか?」

『やります!!』

「………よろしい」


 現金なこった。

 オレの鶴の一声で、生徒達全員がやる気を漲らせた。


 ………ライバルがいるってのは、モチベーションが違うらしい。

 まぁ、オレはあんなライバルいらないけど。

 同じに見られるのが嫌っての言う理由は不純だが、気付かないふりをしておいてやろう。


「お前達だけじゃなくて、オレだって勉強する予定なんだから、少しは我慢してくれ」

「あ、先生も、魔族語習うんだ」

「そう言う事。

 ちなみに、講師はラピスとローガンとアンジェさん」


 有り難いことに、講師となれる人材が3人もいてくれるので、助かる限りだ。

 その代わり、日本語に関しても、現代から来た生徒達なら十分講師になれる人材がいる。


 それに、オレは早急に覚えた方が良い事案。

 だって、ほら………。

 ねぇ………。

 ………ラピスはともかく、ローガンのご実家に挨拶に行くのに、通訳付きってのは恥ずかしいじゃん。


 それに、暗黒大陸に行く予定が、少なくとも2回はある。

 あ、間違った。

 人魚であるビルベルの件もあるから、3回だ。


 その時までには、自分で何とか出来るレベルには習得しておきたい。


 まぁ、そんなオレの内心もさておいて。


「改めて、新学期を迎えられて、おめでとう。

 それから、誰一人欠ける事無く、こうして1年を迎えられた事もありがとう」


 そう言って、頭を下げた。

 これには、生徒達が驚いたのか、絶句していた。


 ………そんなに驚かなくても良いと思うんだがな。


 顔を上げると、呆然とした生徒達。

 今更に気付いたのか、1年もこうして顔を突き合わせていたんだよ、実は。

 転入生だった数名はまだ1年未満ではあるが、大して変わらない。


「それから、南端砦では、本当に頑張ってくれた。

 全員が、それぞれの役割を分担し、時には励まし支え合い、誰一人悲観することも無く、踏ん張ってくれた事はちゃとオレの耳にも入っている。

 改めて、ありがとう」


 微笑んで、それから騎士達へと目配せ。

 ゲイルを始めとした面々が微笑み返してくれた上に、積み上がっていたコンテナを開け始めてくれた。

 生徒達が何事かと、背後を振り返る。

 オレも教壇から降りて、騎士達のコンテナの解放作業を手伝う事にした。


 新品の布の匂いが、教室内に漂い始めている。


「これは、前々から話していた通り、新規の学生服だ。

 届いていたんだが、開封のタイミングが無くて、結局新学期に間に合わなかったが、許して欲しい」


 そう。

 前に言っていた、新規の学生服。


 今まで使っていた学生服は、もう擦り切れてしまってボロボロな生徒が多い。

 それに、鍛錬の成果が合って、ぶかぶかだったりパツパツだったり。

 浅沼と香神なんて、特に顕著だ。

 女子も、スカートが擦り切れてしまって、パンチラインが危ない。


 ごほん。

 脱線事故。


 それに、生徒が増える事で、疎外感を感じるのはいけない。

 だからこそ、新しく学生服を新調した。


 その上で、


「改めて、ありがとう。

 これからも、またよろしく頼むよ」


 オレは、もう一度、生徒達に頭を下げた。

 生徒達からは、拍手が返される。


 ちょっと、照れ臭い。

 けど、何だか、やっぱり、このクラスがオレの担当の生徒達で、本当に良かったと、心から思えた。

 誇りに、思えたんだ。



***



 新しい学生服に身を包んだ、生徒達が教室に戻って来た。


 前とほとんど変わらないデザインではあるが、やはり新しいと感じるだけで違うのか。

 全員が、どこか誇らしげに、


 女子は、相変わらずブレザーであるが、低身長の伊野田やシャルを考慮してジャケットは短めの丈にした。

 その代わり、プリーツスカートがこちらの世界では再現できなかった。

 なので、違和感が無いように、ワンピースタイプに切り替えた。

 こちらも丈は短めだが、ソフィアのように勝手に調整されるよりはマシ。

 ………ギャル(アイツ)なら縫い合わせてでも調整しそうなのが、怖いところか。


 男子は、変わらず学ランにこだわった。

 しかし、やはり詰襟等の技術はこちらで再現出来なかった為、多少首回りがラフな状態となった似たような学生服。

 その代わり、調節用のボタンが付いているから、見た目的には男子達も満足そうだ。

 ちょっとこだわったのが、留め具なんだが気付いた奴はもう気付いた。


「あっ、この留め具、『聖王教会』の紋章が掘られてる!」

「オレ達が『予言の騎士』と『その教えを受けた子等』だと分かりやすいようにな…」


 そう言う事。

 職人に無理を言って、『聖王教会』の紋章を彫り込んで貰った。

 元々、そう言う技術はあったが、時間が掛かるという事で、結局学生服の新調を言い出してから、2ヶ月近く掛かってしまったと言う裏事情もあったけど。


 それでも、こだわった甲斐もあって、見事なものだ。

 オレが学生だったら、一度は着てみたい。

 ………まぁ、それに関しては、オレも礼服を発注してあるけども。


 ちなみに、予備として2枚ずつ。

 ついでに、他に生徒達が増えた時の為、と合計20着分を発注していたので藤本と佐藤の分もある。

 これには、彼女も喜んでいた。


「ふふっ、どう?似合う?」

「ああ、可愛いよ。

 良く似合ってるし、丈も丁度良かったみたいだな」


 中でも、一番うれしそうにしていたのは、シャルであった。

 彼女は、ここに来てからずっとジャージか、ふんわりとしたシャツ系の私服ばかりだったので、一番疎外感を感じていた事だろう。

 制服は規律や結束を強めるから、然もありなん。


 と、若干興奮冷めやらぬ教室の中ではあるが、改めて再度HRを続けさせて貰う事にした。


「続いては、今日のスケジュールを発表します。

 まず、生徒達は校舎のメンテナンスと清掃で、午前中は動いて欲しい。

 午後からは出かける予定が出来てしまったので、訓練に関しては全てが終わった後、夜に行う事とする」

「予定って?」

「午前中は、先生はどうするの?」


 質問が飛ぶが、慌てなくても良いと思うんだ。

 これから、ちゃんと発表するよ。


 勿論、オレだって新学期早々、寝こけている訳にはいかない。


「オレは、冒険者ギルドから呼び出しを受けているから、午前中はそっち。

 それから、午後からは『天龍族』の滞在している宿に行って、用事を済ませて来るから、午後まで別行動となる」

「………忙しいね」

「体調、大丈夫なの?」

「それに関しては、なんとか折り合いを付けておくよ。

 それに、佐藤の赤ちゃん達の用品を購入して来なきゃいけないし、キャメロンとジュリアンも送り届けなきゃいけないから」


 心配の声は上がったが、苦笑で誤魔化しておく。

 実際、仕事が詰まっているのは、いつもの事。

 今回は、またしても大量に重なってしまったが、これも仕方ないと割り切るしかない。


 そもそも、南端砦に行くと決めた時から、後々に仕事が山積みになるのは分かり切っていた事だったからな。

 一応は、仕事が少なくなる様、スケジュールを調節していたから、まだマシなレベル。


「と言う訳で、以上。

 解散。

 各自の分担の割り振りについては任せるから、午前中は皆いつも通りにな?」

『はーい!』


 素直な返事を貰って、ほっと一安心。

 メンテナンスや訓練に関しては、文句を言う生徒がいないから楽ちんである。


 さてさて、今日も忙しい一日の始まりである。

 まずは、例のジャッキーからの『果たし状(ラブコール)』をなんとしてでも、撤回して貰わなきゃね。


 まぁ、その前に必要な人物を呼びに行かなきゃいけないけど。



***



 所変わって、冒険者ギルド。

 HRの後、生徒達にメンテナンスや清掃を申し付けてから、間宮やゲイルを伴って出向いた先。


 キャメロンとジュリアン、ガハラの3人は、ちょっと遠回りをして先に魔術ギルドへと送り届けた。

 彼女達も仕事があって、ウチに来ていた訳だが、その仕事の内容が不味かった。

 例のオレを見分けるとか言う魔法具だ。

 その魔法具の量産が完了したので、血の認証をしたかったんだと。


 しかし、これにはラピスのドクターストップが掛かった。

 まぁ、オレ自身も分かっているから、無理だって。

 南端砦での大量失血で、一度は死にかけている。

 まだ、1週間も経っていないうちは駄目だと、オレが叱られた。

 ここ、ポイント。

 テストに出ると思いまーす。

 ………オレが、叱られました。

 ………ぐすん。


 と言う訳で、彼女達の仕事に関しては、『天龍宮』への訪問が終わってから。

 彼女達も快く了承してくれたので、そのまま和やかに別れた。

 間宮特製のカフェオレが効いたらしい。


 もし貰えたら、お土産でも持ってってやろう。


 そんな道中を終えての、冒険者ギルド前であった。


 傍らには、ヘンデルも一緒にいた

 昨日、突然二児の父となった、彼だ。


 実は、彼と佐藤がHR中にいなかったのは、ラピスから育児のレクチャーを受けていたから。

 彼女も育児に関しては、医者としての経験や知識をまとめれば豊富だ。

 抱っこの仕方から、母乳のあげ方から、おしめの替え方から様々な事を佐藤ともども、教えてくれていたと言う事。

 言葉は通じなくても、ボディランゲージは有効だ。


 更に、ヘンデルは、落第生なパパだ。

 ラピスから口酸っぱく、ママと赤ちゃんとの接し方をレクチャーされたのか、若干げっそりしていた。

 まぁ、弱音を吐くようなら、容赦なくぶん殴る。


「………それで、ちゃんと決めたのか?」

「ああ。

 青い眼の子がイリーナで、茶色の眼の子がリンカだ」

「イリーナと、リンカね。

 可愛い名前じゃないか………、じゃなくて!」


 名前が決まったのは僥倖な事だが、オレが聞きたいのはそっちじゃない。

 戯れ程度で、殴っておいた。

 快音が響く。


「お前が、今後どうするのかを決めたかどうかを聞いたんだよ」

「………ああ」

「はっきり言ってくれ。

 これから、ジャッキーにも報告しなきゃいけないんだから、ちゃんとお前の口から返答を聞かなきゃいけない」


 まだ、許した訳では無い。

 言わなかった事、黙っていた事。


 保身に走って、彼女達の精神を追い詰めた事。

 勿論、全部が全部、彼が悪いとは思っていないものの、言う機会はいくらでもあった。

 その機会を無碍にして、結局最悪の事態を招くことになったのは彼の所為だ。


 だからこそ、コイツに対しては強かに接することを決めた。

 何も、嫌いな訳では無い。

 だが、パパになったからには、甘えてばかりでも困るだけ。


 分かっているからか、ゲイルも何も言わない。


「正式に、オレを雇って欲しい。

 護衛をしながら、飛鳥の事も子ども達の事も守ってやりたい」

「………給金は出すし、衣食住は任せて良い。

 だが、今までの生活のほとんどを捨てる事になるが、良いのか?」

「飛鳥と子ども達の為だ。

 それに、お前には、一生掛かっても返しきれない恩が出来た」


 贖罪も含めて、冒険者としての名誉や称号も捨てて、ウチの専属護衛になる。

 良いことだ。

 飛鳥の為にもなるし、子ども達と引き離される事も無い。


「分かった」

「………お前は、それで良いのか?」

「反対して欲しいのか?」

「いや、そうじゃねぇけど………」


 なんだよ、歯切れが悪いな。

 もう、冒険者ギルドの前にいるんだから、話は早めに切り上げたいの。


「まだ、オレの事は、許しちゃくれねぇだろ?」

「今後次第だな」

「………だから、受け入れるって?」

「ああ。

 何か文句ある?」


 つっけんどんな物言いではあるが、そう言って会話を打ち切った。

 いちゃもんを付ける気はない。

 決めた事なら、決めた事。

 オレは、それを受け入れて、彼の今後の行動を見定めて、見極めるだけ。


 大仰な事は言っているが、覚悟を見せて欲しかっただけだ。

 だから、オレからこれ以上、言う事は無い。


「あっ、いらっしゃいませ、ギンジ様!

 マスターが、首を長くしてお待ちになっておりましたよ!」

「おはよう、クロエ。

 げっそりするような内容を、どうもありがとう」

「ええっ?」


 冒険者ギルドに入ると、途端に受付のクロエが微笑んだ。

 輝かんばかりの笑顔で迎え入れてくれる。


 接客中だったかそれとも、口説かれている最中だったか。

 受付に屯していた冒険者達には、敵意の様な視線を向けられたが無視をしておいた。


 しかし、


「誰がげっそりするってぇ?」


 こっちは、無視出来ない声だった。


「うげぇっ!ジャッキー、そっちにいたの!?」

「オレが自分の経営する酒場に居ちゃ悪ぃかぁ?」


 見れば、酒場の奥のボックス席に、首を長くして待ち構えていたマスターこと、ジャッキーがいた。

 確実に、今のオレの呟きは聞こえていただろう。

 気配察知を怠ったオレが悪い。


「はははっ…、久しぶり」

「おう、久しぶりだなぁ。

 おかげで、こっちも、しっかりとウォーミングアップは出来てんぞ?」

「………お手柔らかに」


 こりゃ、『果たし状(ラブコール)』のキャンセルは無理そうか。

 しっかりと、眼が据わってしまっているジャッキーに、近寄るのさえ怖くて足が竦んでしまったよ。


「………おい、なにやったんだお前」

「お前の所為で、ジャッキーの連絡を総無視する結果になっただけ」

「………マジかよ」


 背後から、ヘンデルがこそっと耳打ちして来た。

 けど、多分、ジャッキーの地獄耳には届いているだろうから、無駄だろうね。

 普通の音量で、返した。

 ら、オレの一言に、ヘンデルが真っ青になった。


 まぁ、別にヘンデルの所為とは言ったが、オレも報せを走らせなかったのが悪いので、全部ではないのだが。

 彼がどこまで寛容に話を聞いてくれるか、だな。

 げっそりとしてしまう。


 ただし、


「ほう、アイツがそうか!」

「いよっ、ダドルアード初のSSランク冒険者!」

「おやまぁ、随分と優男なのじゃのう?」


 ジャッキーの対面と、奥の席には先客がいた。


 厳つい偉丈夫が1人と、少し痩せぎすのシーフの様な男が1人。

 そして、ジャッキーの影に隠れて見えないが、女性らしき声も聞こえた。


 行きたくないけど、行かなきゃならない。

 カウンターや依頼掲示板を通り過ぎ、彼等の下へと向かった。


 しかし、流石にでかい声で騒がれたのが不味かった。

 例のSSランク冒険者の一言だ。

 依頼を見繕っていた冒険者各位が、次々に青い顔をして道を開けていく。

 クロエを口説いていただろう冒険者達は、こぞって逃げ出していた。


 ………そんなに恐れなくても、喧嘩を売ったりはしないのに。

 心が折れそうになったよ。


「おう、紹介するから、そっち座れや」

「えっと、邪魔しちゃって良いの?」

「構いやしねぇよ。

 どのみち、紹介しなきゃ始まんねぇから座れ」


 有無を言わさず。

 ジャッキーの眼力にやられて、彼等のいるボックス席の向かい側に座らされる。


「珍しい組み合わせだな?」

「ちょっと、事情があってね。

 後で、説明するよ」

「………お、おう」


 ヘンデルと一緒に来た事で、ちょっと訝し気にされたけど、話題はそのまま彼等の紹介へと移った。

 ハンナさんが、紅茶を出してくれる。

 緊張で喉が張り付いていたので、素直に有り難くいただいておく。


「先にこっちから、紹介させて貰うぜ。

 こっちのでかいのが、引退した元Sランク冒険者のスレイブ。

 大剣使いで、タンクが主な仕事だったな」

「よろしくなッ」

「で、こっちのなよっちいのが、同じく引退した元Sランク冒険者のラック・ラット。

 コイツは斥候とか、その他攪乱が得意だった」

「へへっ、しがないシーフさ」

「んでもって、こっちのチビ婆も、引退した元Sランク冒険者でべリルだ。

 弓の名手で、遠距離と中堅のアタッカーでもあった。

 皆、オレの元パーティメンバーだ」

「誰が、チビ婆じゃ!」


 素直に驚いた。


 そうは見えなかったが、この人達全員元Sランクの冒険者。

 そして、ジャッキーの元パーティーメンバー。


 オレだけでは無く、間宮やゲイル、ヘンデルも驚いている。

 ソロではないと言っていたからいるとは思っていたが、ほとんどが引退していたとは知らなかった。


「まぁ、他にも後2人いたんだが、病気と事故で死んじまった。

 残っているのは、このメンバーだけって事になるな」

「そう、か。

 お悔み申し上げます」

「………そりゃ、お前のところの挨拶か何かか?」

「死者と遺族に敬意を表す、謝辞だよ。

 気に障ったなら、ゴメン」

「いや、ありがとうよ。

 こっちじゃ、そう言う事は言わねぇから…」


 遠い目をしたジャッキーには、ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。

 他のメンバー達は、オレの一挙手一投足に何故か興味津々で、ちょっとだけ居た堪れない感じがするんだが。

 さて、それはともかく。


「知っての通り、コイツが現SSランク冒険者で、『予言の騎士』ギンジ・クロガネだ。

 こんな顔と成りはしてやがるが、オレを負かせた男だよ」

「ほほぅ、ますます面白いな!」


 その紹介の仕方、辞めて。

 ジャッキー、お願いだから、『予言の騎士』はまだしも、SSランクを強調するのを辞めて。

 出来れば、隠しておきたいことなの。


「………そりゃ無理だ、ギンジ」

「えっ、なんで?」

「ほれ」


 ヘンデルに指摘されて、素っ頓狂な声を出した。

 指を指された先には、額縁が大量に並んでいる壁。

 その1つが、見るからに真新しく、ついでに金色の額縁で大層下品な有様となっていた。


『SSランク冒険者ギンジ・クロガネの偉業を称えて』


 と書かれたその内容に、眼が点になった。


「ジャッキィイイイーーーーッ!!」

「オレじゃねぇよ、ダグラスだ!

 アイツが『本部』に直接掛け合って、あんな大層なもん贈り付けて来たんだよ!」


 ダグラス氏ぃいいいいッ!?

 アイツ、次会った時には、手合わせと称してギッチョンギチョンにしてやる!


 ってか、それを飾ったお前も駄目だと思うんだ!

 すっかり怒りの矛先変えられそうになったけどッ!


「飾るな!仕舞え!

 今すぐ、あれを廃棄しろ!!」

「嫌なこった!

 あれのおかげで、こっちも儲けさせて貰ってんだよ!」


 人の汚点を、金儲けにすんじゃねぇよぉお!!

 いや、汚点ではない。

 汚点では無い物の、恥ずかしいからお願い辞めて!!


 と言う、オレの切実な願いは、棄却された。

 なんか、あれのおかげで、Aランク、Bランクの奴等も奮起するし、新規の冒険者も増えているとかなんとか。

 だからって、オレが恥ずかしいわッ!


 今度、本気で潜入して、額縁粉砕しておいてやろうかしら。

 ………駄目だ、ジャッキーの鼻を誤魔化せる自信がない。

 そして、見つかったらその場で、果たし合い(めいく・らぶ)だ。

 死んじゃう未来しか浮かばない。


「はははっ、愉快な兄ちゃんだな。

 可愛い顔してんのに、ジャッキーに噛みつけるとか、剛毅なもんだ!」

「ひぃーーーーーっ!!

 ひひひひひひっ………ゲホゲホッ!」

「ほほほ、顔に似合わず、苛烈苛烈!」


 そして、此方には大爆笑を返された。

 あーもう、今日もまた、笑いものにされるって事かよ、畜生め。


 ただし、


「ぶっ………くっくっく!」

「テメェ、解雇すんぞコラ」

「ぶっは!辞めてくれ、悪かった!」

「間宮も、破門な」

「(ガビンッ!?)」


 まだ、ゲイルが笑っているのは許す。

 コイツは言っても無駄だ。

 だが、ヘンデルと間宮は許さん。

 今は既に、オレもコイツの雇い主だから、全然強かに行ける。

 間宮に関しては………、久しぶりにそのガビン!?って反応を聞いたので、ほっこりして置いた。

 

 閑話休題それはともかく

 かなり、話が逸れまくってしまったが、どうしたもんか。


「えっと、呼び出しの内容って、もしかして顔合わせ?」

「そう言うこった。

 …それなのに、無視しやがって、この野郎」

「それは申し訳も無かった。

 ただ、言わせて貰うなら、こっちもてんやわんやだったから、出来れば事情を察してくれると嬉しい」

「………また、何か問題があったのか?」

「………色々ね」


 全部話すと、長くなる。

 それに、お客さんがいると分かっている時点では、余り話す内容ではないから黙っておこう。


 しかし、そう思っていた矢先。


「悪かった、ジャッキー。

 今回の事は、オレの所為なんだ」

「あん?」

「………おい、コラ、黙れヘンデル」

「いや、黙らない!

 今回の説明は、オレに全部やらせてくれ!」


 ………何、やる気を漲らせているの、この人。

 辞めて、辞めて!

 オレがちゃんと言葉を選んで、駆け引きしようとしているのにッ!


 じゃないと、『果たし状(ラブコール)』が無効にならないの!

 お願い辞めて!


 しかし、オレの内心は通じず。

 まるっとすりっとごりっと、全部ヘンデルがぶちまけてくれやがった。


「おかげで、オレは子どもも出来た!

 妻になる女、アスカも助けて貰った!

 だから、コイツは何も悪くなくて、全部オレの所為なんだ!!」


 そう言って、締めくくったヘンデルが涙混じりにジャッキーへと、低頭し床に跪いた。

 土下座だ。


「許してやってくれ!」


 頭を抱えた。

 オレが惨めになった。


「お前、ヘンデルにここまでやらせて、何を企んでやがる」


 そして、ジャッキーからは欺瞞に満ちた視線を受け取った。

 誤解だ。



***



 一応の『オハナシ』の結果。


 てんやわんやの理由は悪くないけど、報せを出さなかったのはオレが悪い。


 と言う、ジャッキーからのキツめの一言。


 ついでに、オレが頭を抱えていたことで、何かしら含みがあった事がバレた。

 出来れば、気付いて欲しくなかった。

 しかし、流石は歴戦の強者。

 結局、根掘り葉掘りと尋問の真似事までさせられる事になった。


 素直に白状ゲロった。

 だって、果し合い(めいく・らぶ)よりも怖い状況になりそうだったんだもん。


 しかも、ゲイルにまで飛び火して、南端砦でのあれこれも白状させられていた。

 襲撃され-の、火竜が現れ-の、死にかけ-のだ。

 これには、ヘンデルまで真っ青。

 元パーティーメンバーの面々も騒然としていた。

 まさかそれだけの大事件を終えた後に、佐藤の自殺未遂やら出産騒動だったから余計に罪悪感を感じてしまったようだ。


 元々火竜の件は、素材を売ったり加工したりしたかったから話すつもりであったけども、せめて場所を考えて欲しかった。


 おかげで、周囲の視線が更に戦々恐々。

 げしょ。


「テメェも、まぁ、行く先々で問題ばかり起きるなぁ?

 しかも、また死にかけたってのが、本当に運がねぇのか悪運が強ぇのか…」

「好きで問題起こしてるわけじゃねぇやい」


 半泣きで、紅茶を一気飲みだ。

 冷たかった。

 それだけの時間を、尋問に費やされていたという事である。


 ハンナさんは、優しくお代わりを持って来てくれた。

 唯一の癒し。


「んで?

 アスカって子、無事なんだよな?」

「ああ、母子ともに健康そのものだ」

「なら良い。

 しっかし、死にかけの患者も治療しちまうとはねぇ」

「治療したのはオレじゃなくて、オリビアと嫁さんだよ」

「回復させたのは、お前の能力ちからだろ?」


 言い訳してみるけど、駄目だった。

 頼むから、そう言う噂は流さないでくれると、助かるなぁ。

 患者に駆けこまれてからじゃ、遅いから。

 今回も、運が良かっただけだし。


「つまり、お主は教師でありながら、医者でもあり、また『予言の騎士』やらSSランク冒険者の肩書きを背負っていると言う事になるのう」


 ラピスの様な喋り方で、会話に加わったのはべリルさん。

 ジャッキーの言っていたチビ婆と言う愛称(※?)の通り、成人女性にしては小さく御年80歳を超えているが、見た目は20代と言うなんとも不思議な女性。

 浅沼曰くの、リアルロリババアって奴か。


 その視線は、訝し気。

 胡乱気と言い換えた方が良いかもしれない。


 言いたいことは、ごもっとも。

 オレも、この肩書きは、素直に可笑しいと思うから。


「胡散臭いねぇ」

「でもまぁ、ヘンデルの言ってる事は、嘘って感じはしねぇがな」


 便乗してしまったのは、スレイブさんとラックさん。

 警戒されてしまったようなので、もう恥も外聞も無く頭を抱えたままで机に突っ伏した。


 マジで心が折れそう。

 MKO。

 ………なんか、そんな歌無かった?


 現実逃避である。

 要件に戻ろうよ、そろそろ。


「まぁ、あれだ。

 コイツ等、こっちに移住することに決めたらしいから、挨拶させようと思ってな。

 ついでに、北の森の討伐に付き合ってくれるって言うから、オレも久々に依頼の消化だ。

 お前も参加しねぇか?」


 という事だったらしい。

 顔合わせは良いとして、呼び出しまでする用事じゃない気がする。

 でも、口に出せません、怖過ぎて。


「………え~っと、いつ頃?」

「出来れば、2・3日中にだな。

 無理そうなら、オレ達だけで行くだけのこった」


 そう言われても、きっと決定事項。

 じゃないと、ラブコールが消化されないし、彼等の心証も悪いままになる。


 予定表をめくるまでも無く、スケジュールは空けておく。

 むしろ、キャンセルしてでも空ける。


「良いよ、行こう。

 今日は、この後用事があるから無理だけど、明日と明後日なら出られる」

「おおっ、お前も話が分かる男になって来たじゃねぇか!」


 ジャッキーは嬉しそうにしてくれた。

 肩をバンバン叩かれて、脱臼するかと思った。


 他の数名は、余り表情が変わらなかったけど。

 付いて来るな、とか言われなくて良かったのかも。


 電撃的に用事が埋まってしまったが、結局討伐依頼を消化するのは、2日後の4月3日となった。


 ここに来ると、何かと予定が埋まっちゃうよね。

 しかも、前置き無しで。


「ちなみに、ヘンデルはどうすんだ?」

「オレぁ、校舎で留守番してるよ。

 オレが護衛を受けるのは、あくまで校舎であって、アスカの為だからな」

「そうですか」


 生贄をもう一人増やそうと思ったが、無駄だった。

 そもそも、子どもが産まれたばかりの男には、酷な話である。


 ………はぁ。

 溜息が止まらなかった。



***



 そして、午後。


 冒険者ギルドから、直接明統(めいとう)達の泊まっている宿に向かう。


 ヘンデルは、冒険者ギルドで分かれた。

 お金は持たせたし、余計な真似したら解雇するという脅しも付けたので、大人しく赤ちゃん用品を買い漁って、校舎に帰るだろう。

 お金渡さなくても、立て替えで良かったと思い出しても後の祭り。


 飯は、途中の飲食店で取って来たけど、思えば酒場でハンナさんの手料理を食わせて貰えば良かった、とマジで後悔した。

 こちらも後の祭り。


 しかも、ヘンデルに財布ごと渡しちゃったから、ゲイルに奢らせちゃったし。

 げしょ。

 甘えるのは甘えるでも、金銭的な部分では甘えたくなかった。


 さて、それはともかく。


「おおっ、待っていたぞ」

「ごきげんよう。

 お食事は済ませておいででしたか?」


 出迎えてくれた明統めいとう伯垂はくすいは、宿の裏手にある広大な庭にいた。

 例の、馬でも走り回れる敷地の中だ。


 伯垂は、備え付けられていたテラス席で優雅にお茶。

 コーヒーだったけど、お茶と言い張る。

 そして、明統は庭で侍従らしき男性2人を相手に、鍛錬を行っていた。


 上着を脱いだ、女性用肌着だけの状態。

 がっつりと噛み付けば美味そうなぐらいに付いた背筋や上腕二頭筋やらの羨ましい筋肉を晒して、以前もお目に掛かった多節棍を振り回している。

 見事なものだ。

 鍛え上げられた筋肉も、それに準じた長身痩躯な整った体も、多節棍を操る妙技も。


 催涙ガスとブルドックが無かったら、オレ達死んでたな。

 と、今更過ぎる、命の危機を感じて身震いをして。


 こほん。

 脱線はここまでにしておいて、視線を引き剥がす。

 マジで、彼女の筋肉がスペアリブに見えて来たからな。


「食事は、ここに来る前に済ませて参りました。

 お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」

「いえいえ、明統は落ち着きが無いだけでしたので、お構いなく」

「ばっ…!?馬鹿を言うな!

 そう言うお前だって、張り切ってお茶の準備をしていたでは無いか!」

「私が飲みたかっただけですもの」


 なんだか微笑ましい会話だ。


 明統は武器を片手にしているから、怖いけども。

 澄ました顔で受け流している伯垂は、若干耳が赤いけども。

 そして、相変わらず侍従の男性2人は、オレ達に懐疑的な視線を向けているけども。


 ………まぁ、良いか。


「このような恰好で済まないな」

「いえ、お構いなく。

 お邪魔してしまって、すみません」

「気にするな。

 なんだったら、貴殿も一献、手合わせを…」

「っ、いえ、この後も予定がありますので…」


 やばいやばい。

 ここにも、戦闘狂バトルジャンキーがいたよ。


 ジャッキーと別れた後だから、もう大丈夫と油断していたよ。

 吃驚した~。


 なんとか回避して、辞退して置いた。

 予定があるのは本当の事だし、礼服もシャツも新調したばかりだったから汚したくない。

 明統には残念そうに、侍従2人は訝し気にされた。

 ………ううっ、ここでも心が折れそうだ。


「おかけになってくださいな。

 立ち話もなんですし、」

「では、遠慮なく」

「貴殿からいただいたコーヒーは良いな!

 冷たいと苦みと酸味が増すのが難点だが、お茶菓子に良く合う!」

「それは、良うございました」

『………。』


 その他は、当たり障りなくと、素直に応じておいた。

 何事も、出来れば波風を立てない方が無難の方向。


 今朝がたの、彼等の上司との突然の対面の件もあったしね。


 快く、オレや間宮、ゲイルまで歓待してくれる彼女達には悪いけども、余り接点は持たない方が良いと思い始めているから。


 しかし、突然、2人が無言になった。


「………何かあったのか?」

「唇が引きつっておられますの」

「えっ、…あ、いや…特に何も無かったのですが…」


 どうやら、心配をさせてしまったらしい。


 表情筋が引き攣るとか、ちょっと今日は調子が悪いのかな?

 ………いや、元々オレの表情筋は、上下に動くのが精いっぱいだったけども。


「怒っている様にも見えるのだ。

 本当に、何も無かったのだよな?」

「ええ、本当に、特に何もございません」


 一応は、ね。

 この話は、上司である涼惇とオレの決め事みたいなもの(・・・・・・・・・)だから。


「それよりも、早速ですが手紙の返答をよろしいでしょうか?」

「ええ、構いません」

「せ、せっかちだな。

 ………ほら、お茶も菓子もあるのだから、好きなだけ食べて行け?」


 何故か、明統には渋られたが。

 伯垂は仕事熱心なようで、即座に居住まいを正して、応じる体勢を見せてくれた。


 正反対な2人の態度に、ちょっとだけ苦笑。


「ご訪問の期日は、昨日お伝えした通り、1週間後で構いません。

 それから、涼惇殿からは、訪問を待つ旨と、人数は男子のみ(・・・・)10人までと言う要請を受けましたので、参加するのは私と間宮、他生徒数名とせていただきます」

「了承致しました。

 では、そのように、手配をさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 形式上の返答は、これで十分だろう。

 後は、時間一杯までであれば、彼女達の話に付き合うだけで良いのだが。


「………本当にそれだけか?」


 明統が、ふと口調を正した。

 と言うよりも、言葉が固くなったと思えた。


 それに対して、オレは下げていた視線を上げるだけだ。


 オレを見ている明統の眼が、自棄にキツイ。

 伯垂はどこか物憂げながらも、明統を咎める理由は無さそうだ。


 理由は、押して察しろ。

 と言うか、オレも覚悟を決めなきゃならないのは、知っていた。


 けど、酷いよ。

 言ってくれれば良かったのに。


 そんな意味合いを込めて、少々オレも口調が粗雑になる。


「知ってたんじゃないんですか?

 オレが、既に『昇華』を始めた、『龍王』候補の1人だって…」


 だって、気付いていたって言われた。

 知ってたけど、知らないふりをしていたと言われたんだ。


 何を隠そう、涼惇に。


 そして、明統も伯垂も、朱蒙だって気付いてたって、オレは今更知らされた。

 こうして、当たり前のように卓を囲んだ人達が、全員が敵だったなんて知らなかったのに。



***

誤字脱字乱文等失礼致します。

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