122時間目 「社会研修~理由~」2
2016年12月7日初投稿。
続編を投稿させていただきます。
ハッスルし過ぎて、2日連続投稿となりました。
嬉しい悲鳴。
………いや、作者のですけど。
前の話と引き続き、ヴィンセントとゲイルの仲直りをさせる為に奮闘する先生の話を主軸に、フラグを多々ぶっこんだりしてハチャメチャな内容となっております。
作者が自分で言っちゃいけない気がするけども、敢えて言っちゃいます。
122話目です。
***
すっきり爽快な、2日目である。
謎も解けたし、問題も解決出来そうだからこその、すっきり爽快である。
何がと言えば、
「はい、完治。
もう、酒も解禁して良いし、好きなだけ動き回って良いよ」
「おおっ、やっとですか!」
と言うオレ達のやり取りの通りだ。
『ボミット病』患者が完治した事。
若干1名の治療拒否者により患者がゼロになった訳ではないが、大広間に集めていた病床の騎士達は、完治宣言が出来るまでに回復した。
病気も無くなって、ついでに栄養のある飯をたらふくかき込んだ結果だ。
正直、こんなに回復が早いとは思ってもみなかった。
オレ達も、ちょっとだけ驚いた事である。
いや、レオナルドの時にも3日は掛かっていたからさ。
まぁ、衰弱があったので、これから体力をつけ直さなければいけないのは変わりないものの。
それでも、今しがた完治宣言を受けたこの爺さんを始めとする病床にあった騎士達は、きっと言われなくても体力造りに精を出し、職務に復帰していくだろう。
ちなみに、一部は既に復帰済みだったりするしね。
ははは、………逞しい根性である。
オレもゲイルも、見習いたいものだ。
げっそりだ。
閑話休題。
続いて、他にあった問題が、反発する騎士達や労役犯罪者。
要は、オレ達の行使する権限や好き勝手な行動と、ついでに王国から来た幸せ者という偏見から、気に食わないという理由だけで反発していた連中である。
その問題は、今となっては解決方向に向かっている。
一部は尊敬、一部は畏怖によりだ。
尊敬しているのは言わずもがな、仲間を治療してくれたからという現金な理由。
無償での慈善活動である事も、ポイントが高かったらしい。
ついでに、鎮圧の為なら暴力も厭わないながらも、その他での行動が温厚だったのも好意的に取られたようだ。
畏怖については、やはりオレのファーストコンタクト。
それと、その後に発生した一部の騎士達への、容赦ない処罰が効いたらしい。
やり過ぎたとも思わんが、ちょっと反省。
それに、生徒達も慣れない砦での生活であっても、なかなか頑張っている。
当初の1日目がかなりハードだったので、3日目には1人2人ぐらいは脱落するかと思っていたが、それも無かった。
ディランやルーチェも、良く持ち堪えている。
正直、強化訓練も一緒に行っているから、体力が厳しいとは思うけども。
まぁ、それも修行だとオレが言い張っちゃう。
残りの問題は、手が空いた生徒達や騎士達を使って、段々と改善方向へ。
砦全体の大掃除も終わったし、各所に見られた不備の点検や補強も終わった。
前にローガンが言っていた、砦の土台部分に関しても既に補強済。
当初考えていた通り、オレが『探索』を掛けて、間宮とラピスに引っ付いて貰いながら土台は補強。
ついでに、今後似たような浸水被害が出ないように砦の外壁に出来ていた隙間や裂け目等も修復した為、食糧庫がしっかりと使えるようになった。
ちなみに、そちらの食糧庫の清掃も終わったので、食料自体の運び出しが出来た。
食糧庫に久々に運び込まれた食料に対し、騎士達が涙目になって喜んでいたよ。
オレ達も、頑張った甲斐があったと思う。
調理担当の男も、おかげで退職願は出せなくなったようだ。
………修行のし直しは必須だと思うけどな。
そして、そして、砦の騎士達のメンタルに関しても、救済完了と言える。
何がと言えば、『闇』属性を持ち、『ボミット病』発症を恐れていた面々の事。
因子を排出した事で、発症リスクは限りなく少なくなった。
精神的に落ち着いたのか、別の要因で臥せっていた面々が復帰した。
ゲイルと同じような精神疾患の患者が多かったんだわ、実は。
だが、仲間達も病の淵から立ち上がり、回復した様子を見せている。
おかげで、現在の砦はかつてない程、活気に満ち溢れているそうだ。
今では、オレ達が砦を歩いていると、一時停止をしてまで敬礼してくれる騎士達もいるぐらいだ。
これには流石の生徒達も、むず痒そうにしていた。
分かるよ、その気持ち。
………オレも、王城に行く度に、あんな感じだもの。
凄いのは、オレ達じゃなくて薬の効能だ。
まぁ、持ち込んだのはオレ達だけども、それでも影の功労者であるローガンとアンジェさんの手前ね。
そう言っても、彼等は態度を変えなかった。
有り難いと言うべきか、否か。
彼等の気持ちが収まるならそれで良いと、無理に変えようとは思えなかったのもあるけどね。
とはいえ、ここに来てから2日目にして、ようやく仕事の目途が付いた。
ペースとしては、早い。
オレが考えていたのは、1週間が経過観察と砦の検分、残り1週間が問題解決の為の補完期間と思っていた。
その14日のうち、12日を残してほぼ完了だ。
だから、むしろ早すぎる。
それもこれも、生徒達が頑張ってくれた結果もあるだろうか。
ついでに、護衛の騎士達の功労のおかげ。
砦の騎士達が動いてくれたのもあるから、一応の目途が付いたとして酒宴なんかの開催も視野に入れとこうか。
無礼講とまではいかないが、鬱屈した雰囲気を少しでも晴らせるならそれで良い。
それに、これは慈善事業だけではない。
言うなれば、オレ達にとっての私兵とも言える、協力者の量産である。
地理的に離れているとはいえ、使える武力は持っておきたい。
いわば、その布石としている。
それに、この砦に属している騎士のほとんどが『闇』属性。
つまり、オレ達が研究開発している『隠密』を、ほぼ全員が扱えると同義となっている。
これ以上ない程の屈強な騎士団となるだろう。
その為の布石だと割り切れば、オレ達の割いた労力も出費もなんのそのだ。
まぁ、残りの仕事が片付いてくれない事には、どうしようもないけどね。
何を隠そう、ヴィンセントの治療拒否だが。
はぁ、と溜息を零した。
そこで、目の前にいた騎士が、怪訝そうな表情となってしまう。
ああ、ゴメン。
別に、君に対しての溜息では無かったんだけども。
「………お疲れなのでは?」
「『予言の騎士』様も生徒様方も、働き詰めではございませんか」
「お休みになられては?」
「ああ、いや、大丈夫だよ。
疲れている訳じゃないんだ」
そう言って、苦笑を零す。
安定の性別不明問題のおかげで、大半の騎士達が赤面だ。
………まぁ、それは見なかったフリをする事にして。
臭い物には、蓋だ。
問題は、オレ達の疲労ではなく、先ほども言った通りヴィンセントが治療拒否をし続けている事である。
結局、捕まってくれないし、見つけても逃げられる。
『ボミット病』の緩和策が分かったとはいえ、長く続けられる方法ではないだろう。
血中に含まれる因子が無くならなければ、堂々巡りだ。
それに、魔力枯渇を引き起こすのは、最悪生死に関わるリスクを備えている。
何年も繰り返して、体に負荷が掛からないとは言い切れない。
そも、病気の件があるので、あまり無理をさせたくないのが本音。
砦の騎士達の治療も、念頭にはあった。
だが、それもこれも、ヴィンセントの治療を第一条件としていたのだ。
その本人が、治療を受けてくれないのでは、本末転倒である。
再三の辟易とした感情から、溜息が量産されてしまう。
これまた、近くの騎士達が心配そうに騒ぐが、手を振って誤魔化しておいた。
ただし、これを見ていた数名は、何かを察したらしい。
おかげで、この後、吃驚仰天なハプニングが起きる事は、オレ達もまだ知らなかった。
***
ふらり、と足を向けたのは、ゲイルの居室だった。
仕事が一段落し始めたので、進捗情報の報告をしてやろうと思っての事。
ついでに、昨夜のヴィンセントの尾行の結果も知らせてやろうと思っていた。
そうして、護衛の騎士に労いを掛けつつも、彼の部屋へと踏み込んだ。
しかし、そこにいたのは、ゲイルでは無かった。
「………ああ、ギンジか」
「………おいおい」
いや、ゲイルだ。
確かにゲイルではあるんだが、一体どうしたと言うのか。
吃驚した。
一瞬、彼がヴィンセントに見えた。
ぼさぼさの髪に、げっそりとやつれた顔。
ついでに顔色が真っ青で、表情には死相すらも浮いている。
たった2日でここまで老け込むとは思えないが、どうやら体調不良も相俟ってしまったようだ。
昨夜見た時は、夜だった所為で気付かなかったのか。
正直、すまんかった。
シガレット吸わせるよりも、休ませれば良かったな。
ヴィンセントの言う通り、彼よりも先にゲイルの治療の方が先かもしれない。
………とはいっても、精神疾患にはまともな治療方法なんて無いんだが。
「………兄上は?」
「まだ、進展なし」
「………だろうな。
………気難しい人だとは思っていたが、一度決めると曲げない人でもあったらしいから、」
そう言って、泣きそうに顔を歪めたゲイル。
流石に、兄弟2人目からの拒絶は、堪えたようだ。
1度目のヴァルトがかなりのハードモードだったので、軽く考えていた。
だが、2度目のヴィンセントからの言葉の刃とて、彼にとっては拷問にも等しいものだったのだろう。
おかげで、相変わらずの嘔吐のBGMだ。
可哀想過ぎる。
「正直、これ以上は、お前が保たないだろうけど、………どうする?
お前だけ、王国に戻るか?」
「………それは出来ない。
けじめは、付けなきゃ、いけないから…」
と言った矢先に、彼は嘔吐いた。
もう、考えるだけでとか、既に末期。
いやはや、どうしたもんかねぇ。
こればっかりは、オレもどうしようも出来ない。
ヴィンセントの事と言い、ゲイルの事と言い、困ってしまう。
なんか、少しでも出来る事なかったかねぇ。
解決策が欲しい。
切実に。
病人の部屋ではあるが、シガレットを取り出して火を点ける。
煮詰まってしまって、思考が上手い事回らない。
窓は開けたから、大丈夫だと思いたい。
そこで、ふとシガレットケースを抜いた筈の胸元に、違和感。
調べてみると、手紙が出て来た。
思い出す。
………これ、ヴァルトから、いざとなったら兄貴に渡せと託されていたものだ。
あ、いや、いざとなったらで渡されたのは、『雷』の指輪だったな。
これは、兄貴が頑固者だった時の為だったか。
ラピスも似たようなものを貰っていた筈である。
そこで、またしても気付いた。
何やってんの、オレ。
「………あるじゃん、解決策」
「………うん?」
顔を上げたゲイルが、オレの手元にある手紙を見て目を瞬いた。
そして、その蝋印すらも視界に捕らえたのか、これまた目をまん丸にして驚いていた。
ゲイルにも内緒だったんだね、これ。
ヴァルトのちょっとしたシャイな性格が垣間見れた瞬間だった。
***
先程思い出した手紙を携えて、ゲイルの部屋から退出したオレ。
砦の中を歩いて、ヴィンセントがいるであろう執務室へと向かっていた。
しかし、そんなオレの目的地から聞こえたのは、何故か騒音だった。
『どうか、なにとぞ、治療を受けてください!
お願いします、団長!!』
むしろ、大音声。
むさくるしい男達の揃えたような懇願の声だった。
ぶっちゃけ、耳に痛い。
物理的に。
内容も然ることながら、集まった騎士達の人数もまた凄い。
だって、執務室10メートル付近から、屈強な騎士達が溢れ返って通行止め状態だもの。
これ、砦の騎士総出とは言わないけど、大半が集まっていやしないかい?
「これ、どういう状況?」
「あ、『予言の騎士』様…!」
「通行の邪魔をして申し訳ありませんが、これも我等の職務故…」
「いや、別にそれは良いけど、何でこんな風になってんの?」
「団長への懇願の為でございます!」
オレ達の登場に気付いた騎士達が、一斉に跪いた。
いや、ぶつかるから、やめとけ。
密集地帯で何してんのよ?
とはいえ、騎士達の言葉の意味は、ちゃっかりしっかり聞こえていたよ。
懇願の為って、さっき聞こえた声もだけど、もしかして騎士達総出で説得でもしてた訳?
「レオナルドの先導でして、」
「団長が発症しているというのに、治療から逃げられるとの事」
「『予言の騎士』様方も嘆いておられる様子だと、」
「副団長を始め、分隊長各位が決起致しましたので、」
あ、なるほど、そう言う事。
オレが、経過観察の時に溜息を吐いていたのを、正確に汲み取っちゃったんだ。
そういや、あの中にもレオナルドがいたもの。
ついでに、副団長もいたもの。
ああ、納得。
誤算だった。
嬉しい誤算ではあるけど、まさかの大事になっちゃった。
ちょっと反省。
今後は、溜息も出来る限り、自重することにしよう。
とはいえ、これはちょっとだけ、不味い気がする。
ヴィンセントは、自他共に認める頑固者だもの。
「あ、逃げた!」
「追え、追え!」
「団長、待ってください!」
………ほらね?
聞こえた、慌てる騎士達の声に、視線を向ける。
そこには、騎士達の頭上を飛び越える様にして、部屋から抜け出したヴィンセントの姿。
そして、バリケードとなっていた騎士達を踏み台にしつつ、廊下の先へと駆けて行く後ろ姿もオレ達の視界にはしっかりと見えていた。
………マジで、ハリウッド映画俳優並みの動きが出来てやんの。
正直、53歳であの動きとか、彼はジ○ッキー・○ェンか○ム・ク○ーズかよ。
これは、間宮達が追い付けなかったのも納得だわぁ。
って、感心している場合ではないんだけどね。
このハプニング。
完全に、フラグである。
「………このままだと、ヴィンセントは執務室にも寄り付かなくなるだろうね…」
「(十中八九、逃げ遂せようとするでしょうね)」
間宮と揃って、溜息を吐いた。
もう、これは完全なる、彼が行方不明のお知らせだ。
だって、追いかけていた面々がオレ達だけじゃなく、砦の騎士達になった訳だもの。
もう執務室に居付かないのは当たり前として、おそらく南端砦のありとあらゆるところが彼の逃げ場所となるだろう。
リアル鬼ごっこin南端砦の開幕である。
これは、追いかけるのも骨が折れるなら、捕まえるのも一苦労だわ。
「………追うか?」
「(しばらく、放っておいた方がよろしいかと)」
「だよねぇ………」
うん、オレもそう思う。
勝手にヒートアップしている騎士達には悪いけど、オレ達は追わない事にした。
だって、時間の無駄。
それは、オレ達の仕事の合間に、ヴィンセントの尾行をしていた間宮が分かっている。
彼が砦を熟知しているのも、テリトリーを持っているのも知っているから。
逃げ遂せられる訳である。
隠れ場所が数か所ある上に、騎士達では知らない通路も知っているようだ。
ついでに、元が居城と言う事も相俟って、どうやら隠し通路まで存在しているらしい。
その隠し通路の把握をしているのも、ヴィンセントである。
待ち伏せをするのは決定だが、追うことはしない。
体力の無駄遣いだもの。
手紙を渡すのは、彼の深夜の習慣に付き合う時にしよう。
まぁ、1日そこらで死ぬような病でも無し、おそらく彼もそこまで軟弱でもないだろうし。
今度は、騎士達の怒号飛び交う鬼ごっこの声をBGMに、堪え切れなかった溜息が漏れた。
***
さて、聞かなくても分かる総帥兼団長《お兄ちゃん》VS砦の騎士達の鬼ごっこの行方はともかく。
鬼ごっこに参加していない騎士達に断りを入れて、『異世界クラス』の面々だけでやってきたのは砦近くにある浜辺。
昨夜、ヴィンセントが『ボミット病』緩和策の為に、魔力の発散をしていた浜辺である。
ただ、見てみるとどうやら、彼はまたこの浜辺に来ていたようだ。
砂に真新しい1人分の足跡があった。
深夜にしては新し過ぎるし、オレ達が来る前にしては時間が経ち過ぎているように思えるので、おそらく早朝だろう。
どうやら、夜だけでは無く、早朝にも魔力の発散を行っているらしい。
オレ達の早朝訓練の時に、ニアミスしなくて良かった。
心底ほっとして、溜息を吐いた。
深夜と早朝にやっているそれを邪魔すると、ますます溜め込みそうだから。
あの困ったお兄ちゃん、本当に困っちゃう。
閑話休題。
「じゃあ、それぞれで魔法訓練に入って」
『はい!』
オレ達が浜辺にやってきたのは、強化訓練及び魔法訓練の為だ。
前にも言ったけど、砦に遠征したから鈍りましたじゃ話にならないから。
外で行っているのは、いつも通り。
開放的な環境での発現の方が気兼ねが無いのと、万が一の暴走の時の為の対策としてだ。
城の中に設置された修練場も使える様にはなったけど、騎士達の領分。
既に病床の身だった騎士達が、鍛え直しの為に使っていたりもする。
なので、流石にこの大人数で使うのも遠慮して、こうして浜辺に出て来た形だった。
まぁ、元が城と言う事で庭も立派なもんだったが、流石にオレ達の修行風景を砦の騎士達に見せるとどん引かれそうだったから、というしょっぱい理由もあったりなんだり。
(※現に一度参加したレオナルドの言で、どん引かれている経緯もある)
また、話が逸れた。
それぞれと言った通り、浜辺で魔法の訓練を行う生徒達の姿はバラバラだ。
以前、編入試験を行った時と同じである。
シングルの連中は、維持や安定した行使の為の修練。
こちらは、伊野田とエマとソフィアと徳川。
ダブルの連中は、同時行使と維持の為の修練。
こちらは、浅沼と香神と紀乃とシャルとルーチェ。
トリプルの連中も同じ。
こちらは、河南と間宮。
クアドラプルなんてぶっ飛んだ河南も間宮もいるが、『闇』属性は公に扱えないので保留だ。
まぁ、この砦周辺なら大丈夫そうなんだけど。
………ちょっとした懸念があるので遠慮させておいた。
斯く言う『闇』属性のみの連中は、座禅を組んで精神統一。
まぁ、対話も並行して行っている。
こちらは、安定の榊原と永曽根とディラン。
訓練だけで申し訳ないけど。
………魔法講師の1人であるゲイルが使い物にならないからね。
ラピス1人に任せる訳にも、講師が違うだけで落差を付ける訳に行かない為、今回は各自での訓練に切り替えた。
ちなみに、当の本人はこれまた浜辺でダウン中。
付いて来なくても良いと言ったのに、付いて来た結果である。
………何をしに来たのだろうか、彼は………。
そして、もう一つついでに、オレの嫁さん達とアンジェさんは砂浜でバカンス状態だ。
要は、お昼寝である。
アンジェさんは、持ち込んだだろう本を開いて、読書に興じている。
2人揃って、白過ぎる肌を気にして、日焼けをしたがっていたらしい。
シミが増えるぞーとか言ったけど、なんのその。
まぁ、シミどころか傷跡も無いお顔をしているのだから、別に気にしないのかもしれないけど。
思わず、小麦色になった2人を想像して、喉が鳴った。
………小麦色で健康的な肌もまた良い。
またしても、話が逸れた。
嫁さん達のちょっとしたエロトラップが、オレにとっては絶妙にヒットしてくれる。
そんな相変わらず色惚け気味のオレはと言えば、先ほどから『探索』中。
海の中を観察しているのである。
オレに取っての魔法訓練の一環でもあるが、目的はまた別だ。
何を知りたいのか。
それは簡単。
ヴィンセントがしていた『何か』を、探っている。
まぁ、理由は分かっているけども、どういった方法を取っているのか気になった。
聞くよりも見た方が早いと判断して、こうして海の中を覗いている訳だ。
ちなみに、この砦の近くには、魚がいない。
その代わりに、うじゃうじゃと魔物が徘徊している事は分かった。
まぁ、いたとしても、浜辺には上がって来れないようだが。
つまり、ここの浜辺は、安全って事になるな。
地上や森からの襲来はあっても、浜辺から来ないなら大分楽そうだ。
大幅に予定が変更されて時間が余っているので、間引きでもしようかとも検討しているがね。
そんな中、
「ねぇねぇ先生!
ちょっと相談があるんだけど~………」
「耳かっぽじって良く聞くじゃん?」
話しかけて来たのは、杉坂姉妹。
他意は無いだろうが女性特有の声に、意識が一気に浮上させられる。
とはいえ、エマは良い度胸だな。
仮にも、教師に対して耳をかっぽじれとは。
安定の威厳皆無問題。
そもそも、魔法の訓練はどうしたのか。
そして、何故2人揃って、そわそわしているのか。
うん?と思わず小首を傾げてしまう。
だが、
『遊びたい!』
「修練を終わらせてからな?」
堂々とサボり宣言である。
これには、流石のオレも吃驚して開いた口が塞がらなかった。
………いや、一応返答は出来たけども。
どうやら、海を見てほぼ全員の生徒達がテンションマックスだったようだ。
訓練の為に外に出ているとしても、目の前に海があれば遊びたくなる現代人。
海があるのを知っていた彼等は、虎視眈々とタイミングをうかがっていたらしい。
そういや、ご褒美名目も訓練だったな。
(※以前行った乗馬訓練がご褒美だった)
***
どうしたもんか。
報酬と言う名目で、少しは遊ばせてやっても良いのかもしれない。
まぁ、遠征と言う名目があるとはいえ、何も全部が全部訓練やお仕事で終わらせて良い訳でもなさそうだし。
………とはいえ、水着とかどうするの?
そんなもの流石に無いし、作る余裕も無いんだけど。
男子はいらないとか言うし、困ったもんだ。
そう思って、とりあえず今日のところは魔法訓練のみで終了させて、砦へと引き返した。
ブーブー文句を垂れていても、勝手に先走るような生徒はいない。
………というか、そう言った気が起きないぐらいに、魔力枯渇ギリギリまでやらせた。
ほとんど全員がバテバテだっただけである。
我ながら、相変わらずの鬼である。
あれだ、修練の鬼だ。
ちなみに、ラピスとローガンは、ピーピー言っていた。
『日焼け』をしたと言えばしたのだが、ちょっと違って『火焼け』だったようだ。
つまり、赤くなっただけ。
火傷したように皮も捲れていたので、治癒魔法を使って治していたのがちょっと可哀想だった。
体質の説明をするのを忘れていたな。
日焼けの仕方は、人それぞれである。
ただ、安定のお茶目な2人の嫁さんが可愛かったから良い。
………小麦色の2人と楽しい事が出来ないからと、残念がってはいない。
そんなお茶目で可愛い嫁さん達は、ともかく。
堂々巡りだが、どうしたもんか。
海で遊びたいのは、気持ちは分かるっちゃ分かる。
けども、
「でも、何で皆海で遊びたがってるの?」
「魔物もいますし、危険では?」
「ただのしょっぱい水ですよね?」
こちらの世界の住人である生徒達3人からは、三者三様の疑問の声。
勿論、シャルとディランとルーチェからである。
ゴメンね、生徒達とのワールドギャップ。
これにも、オレはちょっと困っている。
海水浴って言葉自体、彼女達は知らなかった。
その代わり、川遊びはした事があるようだ。
それを海でやるようなものと言ったら、彼女達どころか騎士達もドン引きしていた。
………こっちの世界では、むしろ海は危ないから近寄らないって認識があるようだしね。
いや、こっちの世界には魔物なんていなかったもの。
危険なサメやクラゲなんかはいたけど、遊泳出来る場所は整備されていたから、早々遭遇する事も無かったし。
再三の、どうしたもんか。
こればっかりは、勝手に決めちゃダメな気がする。
だって、ここ言うなれば、ヴィンセントのテリトリーだもの。
魔物が滅多に来ないのも、彼のおかげ。
そして、彼にとっては、あの浜辺が魔力発散の為のパーソナルスペースとも言える。
相談無しには、決められない。
と、言う訳で、こちらもヴィンセントを捕まえてからにしようと思う。
どのみち、会うのは決まっているのだから。
………砦に帰ったら、まだ騎士達がヴィンセントを探し回っていたけどね。
そして、ゲイルがまたしてもごみ箱とお友達になった。
良心の呵責にまでも、吐くようになってしまったようだ。
再三の溜息である。
仕事は順調なのに、一番手を焼くのが逃げ回る総帥兼団長とかどうしたら良いのかな?
***
その夜の事だった。
月が中天に差し掛かる真夜中の時間帯。
賑やかだった砦は静まり返り、巡回騎士達の松明の炎と、門の篝火だけが光源となっていた。
その宵闇の中、砦の玄関を押し開いたのは、ヴィンセント。
砦が賑やかだった原因である、疑似的な鬼事の名残か。
疲れ切った表情で、いつも以上に陰鬱な表情をしていた。
だが、その足取りは決して重くはない。
予定と言うよりも、習慣がある。
だからこそ、彼は足を止める事も引き返すこともしなかった。
「ご苦労」
「お疲れ様っす」
「お疲れ様です」
門番の労役犯罪者へと労いの声を掛けつつ、門を抜ける彼。
門番達はいつもの事と慣れている様子で、引き留めるどころか返答と目礼を返すのみだった。
淀みなく、砦から浜辺への小道を歩くヴィンセント。
黒髪を靡かせる風が強い所為か、しかめっ面だった。
そろそろ、嵐が来るかもしれない。
ヴィンセントはそう考えつつも、辟易とした様子で溜息を吐いた。
嵐や台風は、この時期珍しいものではない。
そして、南端である砦には、毎年20を超える嵐と台風がやって来る。
城壁の一部は壊れ、浸水の憂き目にも見舞われてきた。
土嚢の配備をそろそろ開始するべき、と脳内に砦の騎士達への指示出しをメモする。
それに割かれる人数と、今動ける砦の人数を思い返す。
そこで、はたと気付いた。
彼の下へと、報告へ訪れた騎士が、今日は殊更多かった。
それは、『ボミット病』完治の報を携えた、騎士達ばかりだ。
目を疑った。
余命幾ばくかと、考えていた老齢の騎士すらも報告に訪れていたからだ。
以前見た時はからは考えられない程、赤らんだ血色の戻った頬に、ふらつくことの無いしっかりとした足取り。
そも、立ち上がる力すら無かったというのに、どうすればここまで回復するのだろうか。
そうして思い至った、事実。
今、南端砦に遠征の名目で常駐している『予言の騎士』と『教えを受けた子等』。
『異世界クラス』と名乗った、銀次や生徒達、付き添いのラピス達の一行だ。
銀次が言っていた言葉は、嘘では無かった。
事実だった。
『ボミット病』は完治出来る。
報告に訪れた騎士達や、続々と復帰している面々を見れば分かる事だ。
疑っていた効能は、本物だった。
そして、彼等がその治療の為に、この砦に来てくれたのも真実だった。
懐疑的になっていたが、結果を見ればそんなもの疑う余地も無い。
しかも、報告によれば、『闇』属性の家族を持った者にも往診をしてくれたと聞く。
新人で、砦に配属されたばかりの騎士の妹だった筈だが、まさかそこまでしてくれるなどとは思ってもおらず。
更には、砦の状況が日を追うごとに変化していた。
食堂には、新鮮でなおかつ美味なる食事が出されるようになった。
調理場の惨状が改善された事も大きい。
だが、やはりなによりも、半年ぶりの物資が届いた事も影響しているだろう。
ヴィンセントの執務室にも、喜び勇んで騎士達が配膳に来たからこそ知っている。
前は、騎士達が森に狩猟に出ていた。
取れた魔物の肉を持ち寄っていた。
ならず者や盗賊のように庭先で魔物の肉を焼いていた時期が、遠い昔の事のように思える。
環境が変わったのも、大きいだろうか。
使えなかった大広間も修練場も、雨漏りや老朽化を改善された。
更には、見間違う程には清潔にされていた。
今まで、庭先でバラバラに鍛錬をしていたというのに、今では修練場に騎士達が集まって、威勢の良い掛け声を上げながら乱取りや素振りに汗を流している。
その声が聞こえた時、人知れず泣き出しそうになってしまったのは、記憶に新しい。
他にも、物置の整理や、今まで1度も使われていなかった風呂場も生まれ変わったかのように清潔となった。
衛生環境と小うるさく唱えていた『予言の騎士』がいなければ、誰も目もくれなかった設備だ。
おかげで、何10年振りかの風呂で、これまた泣きそうになった。
大袈裟ながら、人間としての尊厳を取り戻したとも錯覚してしまったものである。
しかも彼等は、それだけには飽き足らず、砦の修繕まで行ってくれたらしい。
騎士達の報告を聞いただけではあるが、浸水の被害を受けて腐り傾いていた土台や城壁にまで修繕を施してくれたようだ。
雨漏りの修繕と言い、土台や城壁の修繕と言い、多才で万能な人達だ。
魔法とはいえ、知識やそれを出来るだけの能力が必要になるのは確かなのに。
どれもこれも、全てが与えられた恩恵だった。
それも無償で、ついでに言うなら善意からの恩恵。
『予言の騎士』や『教えを受けた子』等、そして付き添いの面々の協力が無ければ、成し遂げられなかった整備である。
治療を受けた者達とて、恩赦を感じている。
満足な食事や生活を享受し、誰も彼もが活気に満ち足りていた。
斯く言う、彼本人も感謝してもし切れない程の、恩義を感じていた。
今日の鬼事の賑やかしさですら、この砦では今まで1度も有り得なかった事だ。
それもこれも、病気の鎮静化と共に、発症の恐怖から救われたからこそ。
『予言の騎士』と『教えを受けた子等』。
彼等は、本物だ。
その付き添いの面々も然ることながら、これはもう疑いようがない。
そして、それを連れて来た、弟の功績も。
そこで、ヴィンセントははたと足を止めた。
今まで、考え事をしながらも、軽快に動いていた足が止まってしまう。
「………今更、どんな顔をして、会えというのか」
思い至った事実に、歯噛みした。
もう、自分達の道は違えていると、自覚をしている。
認めている。
砦の問題や、病気を解決してくれた実績は、勿論『予言の騎士』達のものだ。
だが、そんな実績のある彼等を連れて来たのは、弟であるゲイル。
そのの実績は、計り知れない。
まぁ、そもそもあれだけの器量を持った銀次なら、誰が頼んでも了承してくれるだろう。
そう、ヴィンセント結論付けた。
だが、付き添いであり先行して来た医者の女性は、時間が無いと言っていた。
だからこそ、わざわざ負の遺産でもある、転移魔法陣を使ったとも。
そんな状況であれば、果たしてどうだっただろうか。
もし、ヴィンセントであれば、断っていたかもしれない。
持ち得る技術や知識があっても、予定が詰まっているならその予定を優先する。
当たり前のことだ。
しかし、それを捻じ曲げてまで、彼等は来た。
自身の弟であるゲイルからの要請と言う理由一つで。
歯噛みした唇から、血が滲む。
口内に広がった鉄錆の味が、いつも以上に苦い。
「(………分かっているのだ。
こんな風に、突っぱね続けたところで、意味は無いと………)」
認めている。
もはや、それは認めなければいけない。
事実だ。
別に矜持がある訳でも、意固地になっている訳でも無い。
素直に認める事が出来る。
ゲイルのおかげで、砦は救われた。
そして、彼自身も、救われている。
だが、それでも、彼にとってはもはや、どうしようも出来ない。
いつの間に、浜辺に立っていた。
歩いてきた道順が、思い出せない。
今までも何度かそういうことはあったが、砦の事を考えている事の方が圧倒的に多かった。
弟や家族の事を考えていた事の方が少ない。
なのに、今はどうだろうか。
弟の、ゲイルの表情を思い出してばかりで、思考がまとまってくれなかった。
「(………あんな顔をさせておいて、今更どんな顔をして会えば良い?
オレの顔を見るだけで、吐いてしまうなんて、思ってもみなかったのに、)」
その理由は、知っている。
何度も言われた。
耳に痛い言葉ばかりだった。
本当は、突っぱねるつもりも、傷つけるつもりも無かった。
ただ、帰って欲しかった。
それだけだったのだ。
「(………笑うなら、笑え。
どうせ、オレは満足に、感情表現の一つも出来ない大馬鹿者だ………)」
構って欲しくなかっただけだった。
自分に構わずに、己の仕事を全うして欲しかっただけだった。
海を眺めていた視界が、歪む。
恥ずかしい事に、未だに人並みの感情は消え去るどころか強まっていく。
涙が零れる日も、少なくはなかった。
今も昔も、それは変わらない。
この砦の実情に嘆いてばかりの毎日に、疲れ切っていたのは確かだ。
そして、家族の事でも、もはや疲れてしまっていた。
ゲイルは、子どもの頃から天才肌だった。
教えられた事はすぐに習得し、いつの間にか応用なり高度な技術なりも勝手に扱うようになる。
正直、羨ましいどころか、妬ましい才能だった。
だが、不思議と憎んではいなかったのだ。
今でこそ、この状態でも。
妬んだ事はあっても、憎んだ事は無かった。
ヴィンセントは、遠い昔のまだ自分が幸せだと思えていた幼少期を思い返す。
小さいながらも、必死で背中を付いて回っていたゲイルの姿。
子どもの頃は、雛鳥のように後ろを付いてきた。
同じくいつも後ろを歩いていたヴァルトが追い払おうが、ヴィッキーが見兼ねて引き剥がそうが。
そして、オレ達を冷遇した父が、叱りつけようが。
次の日には、当たり前のように、背中にくっ付いて来るのだ。
可愛かった。
可愛くない訳が無かった。
憎めるはずが無かった。
今もそれは、変わらない。
「(………遠ざけたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのか………)」
遠ざけたかった。
それだけだったのだ。
今まで、何度も来ていた彼を遠ざけたのも、それが原因だった。
砦1つ満足に運営出来ない、馬鹿な自分の姿を見せたくなかった。
討伐すらも満足に行えない、出来損ないの兄の姿など見て欲しくなかっただけだ。
それが、颯爽と麗しい女性を助ける為に現れて、一撃でサハギンを葬るような頼もしい弟の姿を見た後では、特に。
感謝もしていたし、嬉しかった。
だが、昔から、感情表現が下手くそだった自分は、どうすれば良いのか分からなかった。
吐き捨てるような言葉を、掛けるつもりは無かった。
だが、感情を表に出せない自分自身にも、このような砦に何度も足を運ぶ彼にも苛立ってしまった。
ゲイルのするべき仕事は、もっと別にある。
もっと他に、彼が出来る事やすべき事は、山のようにあるだろう。
なのに、馬鹿で出来損ないで、どうしようもない自分の背中を、いつまでも追いかけている。
意固地になっていた部分がある事は否定できない。
だから、遠ざけようとした。
もう二度と、彼が自分の下へと来ないように。
ヴィンセント自身が、ゲイルの職務を邪魔しないように。
それが、あんな風になるとは思ってもみなかったからだ。
ラピスに怒られて初めて失言に気付いたが、もう遅い。
吐くとは思ってなかった。
それ以上に、そんな精神が弱かったなんて、知らなかった。
知らなかったのは当たり前だ。
知る事が出来る程、近くにいた訳でも一緒にいた訳でも無い。
それこそ、幼少期の数年を、過ごしただけだ。
それも、父の邪魔があって、大した長さではない。
馬鹿で出来損ないだという兄は、選択を間違っただけだ。
その所為で、取り返しが付かなくなった。
海を眺めて、じんわりと滲んだ涙の膜を乾かそうと、視線を凝らす。
だが、無理そうだ。
溢れた滴が、頬を伝いそうになって、目頭を押さえた。
「………済まない、ゲイル」
謝るべき相手は、こんな大海原ではなく、本人だと分かっている。
再三言われたラピスの言葉も、耳に痛いどころではない。
だが、もう自分ではどうしようも出来ない。
なにせ、顔を合わせただけで、吐かれてしまう。
そして、顔を合わせた瞬間に見せる、怯えた視線と血の気を引かせた顔色。
萎縮しきったその姿を見て、何も思わない訳がない。
間違いを正せるなら、今すぐ正したい。
でも、出来ない。
もう、弟には、合わせる顔も無い。
だから、治療もいらないと思っていた。
今までは、部下達がいるから死ねなかった。
でも、もうそれも必要なくなった。
いっそこのまま病魔に侵されて死にたかったが、砦に『予言の騎士』達がいる間は許して貰えそうにも無い。
目頭を押さえながら、今後を考える。
ぐるぐると巡る思考は、どうやって死を迎えようかと、自害の方法ばかりを浮かばせた。
この大海原に、身を投げ出せればどれだけ良いか。
そこまで考えて、それも許されないと悟る。
なにせ、1度目の入水で自分を助けたのが、自分の腹に勝手に巣食った『水』の精霊だったからだ。
銀次に気付かれた時、ぞっとした。
精霊の姿まで、視えているのか、と。
おかげで、これまた逃げて誤魔化す以外の方法が無かった。
………正直、知られたくなかった。
何故、知られたくなかったのかは、あまり分からないまでも。
どうすれば良いのか、分からない。
いつの間にか、どっかりと砂浜に座ったまま、膝を抱えていた。
咽び泣くような気力も無く、かと言って平然としていられる筈も無い。
疲れてしまった。
どうすれば良いのかも分からずに、涙を零し続ける。
相談する?
誰に?
砦の騎士達には、弱みは見られない。
かと言って、関係の無い他人にも、曝け出せはしない。
ただ、1人だけなら、大丈夫かと思った。
ラピスだ。
彼女なら、彼は相談できるかもしれない、と勝手に考えていた。
彼女が、母に似ていたからだ。
ヴィンセントの母親は、早世している。
ヴァルトとヴィッキーも同じ腹の子であるが、ヴィッキーが産まれてすぐに産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。
彼も数年を過ごした記憶しかなかった。
その母に、ラピスは似ていた。
姿形は違っても、強かで叡智に満ちた女性だったからだ。
だが、そこまで考えて、無理だと頭を垂れた。
彼女は『予言の騎士』である銀次の付き添いで来ただけの、医者。
銀次に知られるのも、嫌だ。
嫌と言うよりは、曝け出すのが恥ずかしいと考えている。
この砦での遠征を終えれば、王国に戻るだろう。
王国に戻った先で、ヴァルトやヴィッキーの耳に入る可能性すらある。
これ以上、弟も妹も心配をさせたくなかった。
………一番可愛いと思っていた弟を傷付けて置いて。
堂々巡りで、結局行き着いたのは、どうしようも出来ない事実。
「………本当に、馬鹿な兄で、済まない………」
これまた意味も無く、大海原に向けた謝罪。
潮風に嬲られた頬が痛い。
涙の痕が、痛かった。
そして、涙を零す要因ともなった、彼自身の心の傷も痛かった。
しかし、
「………謝るべきは、そっちじゃないだろ?」
独り言だった筈の言葉に、返答が齎された。
驚きの余り、振り返る。
頬を伝う涙もそのままに、振り返った先にいたのは、
「………何で、そんな顔で海眺めてんの、アンタ」
黒髪の女性とも見間違う端正な顔だった。
銀次だ。
そして、その背後には赤い髪をした少年の姿も見受けられる。
『予言の騎士』である彼に、このような失態を見られた。
恥ずかしくも、年甲斐も無く隠れて泣く姿を見られた。
ヴィンセントの顔から、血の気が引いた。
***
吃驚したんだけど、マジで。
いや、何がって、ヴィンセントの事なんだけど。
だって、昨夜と同じく尾行して浜辺にくっ付いて来たは良いけど、何をするでもなく座り込んで膝抱えちゃうし、挙句の果てには泣いちゃってるし。
海に向かって、懺悔?
何度も謝罪をしているのは別に構わないが、言うべき相手どころか場所が違う。
しかも、その背中には、ただただ悲壮が漂っていた。
このままだと、死に兼ねない。
………いや、割とガチだったよね。
流石に目の前で、海に身投げなんて勘弁して欲しい。
思わず種明かしも頭から吹っ飛んで、声を掛けてしまっていた。
しかし、声を掛けた途端、今度はヴィンセントが吃驚したようだ。
悲壮を残した涙ながらの表情で勢い良く振り返った。
涙が散った。
しかも、唇に血が滲んでいる。
潮風に紛れて微かに血の匂いもしていたから、唇を噛んでしまったのか。
でも、何でそんな顔してんの。
正直、その表情は、ゲイルがすべきものだと思うんだけど。
………いや、もうしちゃってるけど。
「………何故、ここに…ッ?」
「尾行したの。
アンタ、昨夜も早朝にも、ここに来てただろ?」
そう言って、当たり前のように言い切ってやる。
別に言い逃れはしないよ。
尾行したのも、昨夜も見かけて追いかけたのも全部本当のことだったから。
「………ッ、昨夜のは、やはり…」
「うん、オレ達。
気付かれるとは思ってなかったけど、あそこにいたのは偶然ね」
そして、思い至ったのか、昨夜の異変についても察知されたようだ。
まぁ、それも正解だから、これまた言い逃れはしない。
ただ一応粗略が無いように、かくかくしかじか。
これでゲイルがまたしても、罵詈雑言を吐きかけられても困る。
これ以上は、アイツが身投げしかねんと思うんだ。
………げっそりする。
そんなオレの内心は、さておき。
「………海に向けて懺悔するより、本人に直接言ってやったら?」
「………。」
険しい表情で、だんまりの彼。
ハンカチを取り出して、投げ付けておく。
受け取ったは良いが、見下ろしただけ。
涙の痕、隠せてなかったから渡しただけで、他意は無いのに。
そのついでに、シガレットを取り出した。
いやはや、やっと吸える。
昨日の反省も踏まえて、今日は尾行前からずっと我慢してたからね。
シガレットの煙を吐き出して、さて1、2、3。
改めてヴィンセントを見ると、彼は放心した様子でオレの顔を見ているだけだった。
なんか、言いたいことは分かって来たかも。
っつか、この人、もしかして、感情表現下手くそなだけなんじゃないかと思い始めて来ちゃったよ。
だって、もうこの状況見たら、そう思うしかない。
「意固地になってるんじゃないの?」
「………。」
「それとも、怖いの?
また、ゲイルを傷付けるかもしれないって、怖がってる?」
「………ッ」
「もしくは、自分が傷付くから、逃げてるだけ?」
「………辞めてくれ!」
慟哭のような声を上げて、オレの言葉を制止したヴィンセント。
その眼に、憤怒は無い。
あるのは、ただただ寂寥。
そして、まるで親に怒られるのを恐れるような、畏怖。
「何で?」
「………な、なんでって…」
意地悪だとは思うが、そのまま質問を重ねる。
彼が、どのような言い訳をするのかとても気になってしまったから。
案の定、言い淀んだヴィンセント。
口調も元に戻っている事から、おそらく今までのもわざとだった。
オレの追求を、避けたい為に。
「オレには、アンタがもう癇癪持ちの子どもとしか思えない。
後ろめたい事があるから言わない。
言えない事が後ろめたいから、話さない。
怒られるのが怖いから、また言わない。
………典型的な子どもの自己中心的な考えでしか無いじゃないか」
「………言えない事等、」
「無いって言える?
今でも、散々逃げ回ってるのに…?」
「………ッ」
ほら、黙る。
だんまりを決め込むのは構わないが、それならそれで全部オレがぶちまけてやろうか。
………正直、オレも踏み込み過ぎだとは思っているけども。
「………アンタ、本当はゲイルの事、憎んでもいないんだろ?」
「………あの態度を見て、それを、」
「言うね。
憎しみよりも、気不味いって雰囲気だけ垂れ流してる」
「そんなこと、貴方に分かる訳が、」
「分かっちゃうんだよ、それが。
………オレだって元は、軍人なんだから」
「………ッ」
話してなかった?
オレは元軍人。
正確には、裏社会のアサシンだった訳だが、それはさておき。
左腕麻痺で動かない事を告げた時、それとなく話していた筈だ。
そして、今この場では、その嘘とも真実とも言える事実が、オレに取っての切り札となる。
「色んな人間見て来たけど、アンタみたいに馬鹿真面目な人間は擦れ易い。
なのに、アンタひねくれてはいるし、ちょっと人よりも感情表現は下手っぴだけど、憤怒も憎悪も感じられなかった」
感情の変化は、割と気付き易い。
表情だったり雰囲気だったり、それこそ口調の変化でも分かる。
オレも、そう言う心理を読み取れるような訓練を受けて来た。
けど、彼からは憤怒やら憎悪やらの、悪い感情がここに来てから1度も感じられない。
勿論、ゲイルを前にしていたとしても。
「そもそも、アンタ今更だと思わない?
こんな夜中に浜辺に来て膝を抱えて泣いてる人間が、謝罪までしたってのに、」
「………誰に向かっての事など、」
「分かるね。
アンタは、ゲイルに対してしか、その眼は向けてない…」
そう言って、指摘した瞳。
何を言われているか、分からない顔をしているヴィンセント。
でもね、もう遅いの。
彼が今、寂寥どころか悲壮すら浮かばせた瞳は、いつもたった一人に向けられていた。
目を向けないようにしていた時も、瞳は揺れ続けていた。
「………悪いと思ってるから、隠れて謝罪なんてしたんだろ?」
ゲイルを憎んでいるなら、謝罪なんてしない。
例え相手が本人じゃなくて、夜の海だとしても。
良心を痛ませて、涙だって流さなくて良い。
そんなもの、罵詈雑言と共に吐き出してやれば済む事だもの。
でもそれはしていない。
そして、浜辺でこうして膝を抱えて、背中に悲壮感漂わせて、今にも死にそうな顔になっている。
完全に、子どもじゃん。
耳を塞いで、逃げて、塞ぎ込む事しか出来ない子どもだ。
嫌でも分かったよ。
この人、きっと内面では、ゲイルを嫌ってない。
表面上も、そう見せないようにしている。
オレ達は、先入観があったからそう見えちゃっただけ。
オレも、最初はそう見えてた。
だけど、違う。
態度がそう見えちゃうだけで、きっと思っている以上にこの人は優しくて真面目なんだよ。
砦の奴等もそれが分かっているから、あんなに慕っていたんだ。
勘違いされ易い、典型的な顔や態度で損する人。
でも、それは、実はゲイルやヴァルトも一緒だったりする。
根は真面目で優しくて、責任感も強くて面倒見も良いんだよ。
ただ、それを表現するのが下手くそなだけであって、そしてそうして表現をする事を環境が許さなかったから、感情を表に出せなくなってしまっただけだろう。
「家族揃って、顔芸が得意じゃないんだろ?
ゲイルもそうだし、ヴァルトもそうだった。
流石に、ヴィッキーさんとは面識が少ないからあまり良く分からないけども、」
「………。」
これまた黙り込んだヴィンセントだが。
きっと、彼は必至で弁解を考えているのだろう。
浮かばない所為か、焦燥感すらも感じられた。
とはいえ、そうと分かればやる事は決まっている。
関わり過ぎているのは分かっているけど、関わらない事には進展しない問題だから。
じゃないと、どっちかが死ぬまで続いちゃう。
冷戦とまでは行かないけども、このままじゃ過労か病気かで、最悪の結末を迎えてしまう。
そんなの、オレ達だって、不本意だ。
「オレ、言ったよね?
ゲイルもヴァルトもヴィッキーさんも悲しむから、命を粗末にするなって、」
「………ああ」
「今の現状、ちゃんとその言葉が守れていると言える?」
「………。」
「自分の体、大事にしようとしている?
オレには、そうは見えないけど、」
「オレの体だ。
………どうしようが、オレの勝手だ」
「それ、ゲイルにもヴァルトにも、ヴィッキーさんにも、直接面と向かって言える?」
「………ああ」
だんまりかと思えば、ややあって返答したヴィンセント。
でも、嘘だとすぐに分かる。
そんなところまで、ゲイルと一緒なんて皮肉なもんだ。
「………なんで、砦の騎士達は大事に出来て、自分の事は蔑ろな訳?」
少しだけ、苛立った。
強情な事だ。
頑固者だとは分かっていたが、これまた骨が折れる。
少しだけ、アプローチの方向を変えてやろう。
そう思って視線を、彼がバックにしている大海原へと向けた。
オレの言葉と、その視線の先と。
ヴィンセントは気付いたようで、俄かに表情が固くなった。
「昨夜も尾行していたって、言った筈だ」
そう言って、オレも彼に並ぶようにして波打ち際へ。
今日もまた波が高いし、浜辺に打ち付ける白波も強くなっている気がする。
風が強いから、明日明後日辺りで、天候が崩れるかもしれない。
それはともかく。
「浜辺に面してる海岸線一帯に、『闇』魔法で防壁を張るとは考えたもんだ」
勿体ぶる事はせず、核心に触れる。
ヴィンセントの肩が震えた。
何をしていたのかなんて、もう昼間の段階で調べは付いている。
生徒達の魔法訓練の時に、オレが探っていたのはこれだ。
『探索』は、闇がある場所ならどこでも覗ける。
それが例え、人体であっても砦の土台であっても、ましてや海中であってもだ。
で、分かったことはこれまた簡単な事。
やはり、彼は詠唱の文言の通り、『盾』を作っていた訳だ。
『探索』した視界の先で視えるのは、格子状となった『闇』の壁。
しかも、格子状になっている部分にすら魔力が通っているらしい。
かなり精密でいて、物凄い技術だ。
オレでもアグラヴェインの協力無しでは、ここまでの代物は作り出せないと思っている。
彼は、『闇』属性の魔力発散と並行し、海の中へと『盾』を作り、魔法で障壁のような防波堤を作っていたのである。
防波堤は、海底から海面までの約50メートル近くをカバーし、また海に面している浜辺一帯に掛けられていた。
これによって、魔物が浜辺に上がって来れないらしい。
『探索』の視界に映った海中を徘徊している魔物達と目が合うものの、どいつもこいつも口惜しそうに防波堤から遠ざかっていた。
そして、この防波堤が必要な理由もすぐに分かる。
それは、この海域に発生している魔物の分布が要因だ。
砦の騎士達、引いてはヴィンセントの腹心である副団長から聞いている。
「ここ、CランクBランクもざらに出て来る海域なんだってな」
「………。」
「しかも、魔物達の土俵である水辺の上に、足場の悪い浜辺だから、かなりの苦戦が予想される。
そんなもの、今の騎士団でも冒険者ギルドでも、少数での討伐が難しいランクだ」
こっちだって、伊達に騎士の肩書きも冒険者SSランクの肩書きも持っていない。
事前情報としては、知っている。
Cランク以上の魔物の掃討は、パーティーが必要だ。
しかも、そのパーティーも平均ランクがCよりも上じゃないと、引き受けることが難しい。
だから、パーティーよりも更に上の、レイドと言う固定パーティーを複数組み合わせた中隊規模で、掃討作戦を行わなければいけない。
冒険者ギルドでは、定期的にAランクパーティーを派遣している。
レト達や、ベテラン勢のパーティーで、生徒達も参加した事もあるようだが、それでも人数が多く必要だ。
しかも、この海域に出るのは、BランクのサハギンやCランクのハンマーフィッシュ。
お目見えしたのは海中だけだが、オレだって無理。
だって、蛇の頭とか魚の頭とか、進化形態が狂っているとしか言いようがない。
サハギンなんて、それこそ大っ嫌いな蛇とか爬虫類の魔物だもの。
………これぞ、ファンタジー、怖気が走るわ。
それを、この砦の騎士達は、小隊規模で行っていた。
30名程度だったらしい。
中隊は、50名規模。
明らかに少ない。
そちらも、ラピス達から触りだけを聞いていたが、だとすると疑問が残る。
間引きしていたのは、どうして?
ついでに、どうやって?
そして、討伐の時の怪我人や殉職騎士は出ているのに、それ以外での報告が無いのは………?
その答えが、この魔法で発現した防波堤だった。
「砦の騎士達を守る為には、この防波堤は必須だっただろう。
じゃないと、繁殖期間が短い爬虫類系や魚類系の魔物が、砦に雪崩れ込んでくるのが分かり切っている」
だからこそ、彼もまた『ボミット病』の脅威を避けられていた。
防波堤に使われている魔力は、それこそ膨大なものだ。
オレだって、3分の1ぐらいは使うかもしれないとは、アグラヴェインの談だ。
………それでも、3割かよとは言わないでおこう。
だが、ヴィンセントはオレやゲイルのように、魔力お化けでも無ければ魔力タンクでも無い。
その魔力を補う為に、魔力を温存する必要があった。
溜め込む必要もあった。
だからこそ、『闇』魔法『魔力吸収』で病気の為に魔力を溜め込んだ騎士達から、魔力を補給していた。
砦の騎士達の発症数に対して、死亡者が少ないのもこれが答え。
「でも、もうそれも、必要は無くなった。
騎士達の『ボミット病』は完治したし、発症リスクも限りなくゼロに近くなった」
「………発症するかもしれない」
「しないよ。
それは、オレ達が保証するし、証拠も無いのにそんな無責任な事言う訳無いだろ」
血液サンプル調べた結果で判断しているんだから、当たり前だろ?
もう、発症した騎士達の体の中には、魔力を吸着する因子は無い。
医療担当の常盤兄弟が調べてくれた結果で、それはもう明らかになっている。
だからこそ、言い切れる。
新しく配属されて来る騎士はどうか分からんが、丁度1期採用試験が終わった時期だったから丁度良かった。
ケネディ君とか若い獣人の騎士達とか、全員新人だったからね。
2期採用試験の時にも、もう1度薬を持って砦に遠征でもすれば、全く問題は無い。
報告さえくれれば、オレ達だって飛んでこれる。
だからもう、大丈夫。
「もう、病気で命が脅かされる事も、アンタがそれを背負い込んで隠し通す必要もなくなった」
「………。」
「意地を張る必要、もう無いよ?
これ以上は、ゲイルもアンタも、疲れちゃうし、壊れちゃうだけだろ?」
「………。」
「………何を意固地になってんだか知らないけど、素直になってみたら?」
ゲイルにも言った事がある。
意固地になるよりも先に、自分のやるべきことを探せと。
そして、やるべきことが分からないなら、相談しろとも言った。
まぁ、彼に当てはまるかどうかは別だけども。
ヴィンセントにとっては、相談相手が誰になるのかは分からない。
オレが相談を受けても良いが、彼がそれをオレに対して求めるとも思えなかった。
種明かしも済んだし、彼の気持ちは分かった。
どのみち、彼の行動次第だから、後はオレ達にもどうしようもない。
説得はした。
返答はない。
それでも、背中は押した。
そして、もう一つの用事を消化しておこう。
「これ、………ヴァルトから。
ルルリアも持ってる筈だけど、まだ渡して貰ってないんだろ?」
「………あ、」
分かり易いぐらいに揺れた、ヴィンセントの瞳。
悲し気でいて、寂寥に満ちたその瞳が、オレの持った手紙を前にして光を取り戻す。
「………オレ達も見てないから、何が書いてあるのかは分からない。
けど、これでオレ達の言葉も、ちょっとは信じられたでしょ?」
ヴァルトだって、心配してたよ。
嘘は言っていないし、ちゃんと彼からも託されている。
勿論、ヴィッキーさんだって、こう言ってた。
「『私達も、年を取って、大人になったわ。
今度は、王国で一番のお酒を、皆で回し飲みしましょうね?』だって」
オレが言うと間抜けに聞こえるが、ヴィッキーさんの本心が込められた言葉だった。
きっと、子どもの頃に隠れて酒を回し飲みしていたのだろう。
彼等のやんちゃぶりも、仲良しぶりも、垣間見える(※聞ける?)エピソードだった。
でも、これには、続きがある。
「『出来れば、ゲイルも交えて、絶対に潰してやりましょうね』なんてことも言ってたよ」
思わず、苦笑。
流石、兄妹随一の肝っ玉で、実はうわばみなお姉さんである。
今度こそ、ヴィンセントの視線が、ゆっくりとオレへと向けられる。
そしてクシャリと歪められた時、
「………感謝します」
彼は、オレの差し出した手紙を受け取った。
いつか見たゲイルと似たような、ぐしゃぐしゃで情けない顔をオレの渡したハンカチに埋めて。
手紙を胸に抱いて嗚咽を漏らして、砂浜に跪いて。
背中を擦ってやると、もっと泣いた。
困った兄弟は、こんなところまでそっくりだ。
苦笑しか出て来ないけど、オレで良ければいくらでも付き合おう。
本当は、ゲイルがいるべきだろう。
けど、今は無理だ。
少しの間だけでも、オレが代わりになるぐらいは良い。
春先の浜辺は、寒々しい。
それでも、月は綺麗に燦然と輝いている。
打ち寄せる波の音と嗚咽を、偉大なる大海原は飲み込んではかき消していた。
***
要は、彼は怖かっただけなんだ。
気に掛けてくれているのも、気遣ってくれているのも分かっていた。
けど、幼少の頃から刷り込まれた立場の違いが、認める事も正す事も許さなかった。
ヴィンセントは、別に悪い人間では無い。
人並みには、弟達の妹の事も大事に思っている。
けど、感情表現が大の苦手。
それこそ、言葉が足りなかっただけだ。
最初にゲイルに向けて吐き捨てたのも、実は構って欲しくなかっただけだった。
自分に構うよりも、戦果や実績を上げ、職務を全うして欲しかったようだ。
遠ざけたかった、と言うのは本当だった。
それに、騎士団長であるゲイルと、南端砦という僻地での団長と言う地位もそれを邪魔した。
自分は、その職務すらも全うできない。
だから、そんな自分を見て欲しくなかったとの事。
いや、半数以上も『ボミット病』に侵されていながら、不備はあっても事故は無かったのだから十分誇って良いと思うんだが。
ついでに、討伐や事故での死亡数なんて、王国騎士団より少ないぐらいだ。
そもそも数が違うから比較対象にはならないとしても、それもまた立派な実績だ。
実直な運営と維持作業、ついでに騎士達の忠誠心の高さ。
それらを鑑みても、ヴィンセントはかなりの辣腕家だっただろう。
それを正当に評価しなかった、王国が悪いだけだ。
言うなれば、親父さんが悪い。
まぁ、それに関しては訴追するから別にしておくとして。
親父さんが失脚目前で、実家に引きこもっていると伝えた時のヴィンセントの顔と言ったら、無かったよ。
半分驚きで、残り半分はなんだっただろう?
今となっては歓喜というよりも、安堵と言った方がしっくり来る。
うん、ゲイルと同じような顔だったから、なんだか親近感すらも沸いてしまった。
治療を拒んでいた理由も、分かった。
死にたかったとか言われても、吃驚だったがね。
おいおい、命を粗末にするなと言ったばかりだろうが。
思わず張り倒したオレは、悪くない。
防波堤に関しては、もう砦の騎士達から魔力を貰わなくても良いぐらいにはあったらしいが、緩和策として講じていた所為もあって理由としては関係なかったようだ。
今後も続けては行くようだが、それも然もあり。
じゃないと、砦が危ないからな。
ただ、魔力枯渇ギリギリとか言う危険な領域に行くまではやらないという言質は取った。
これで、彼の死相の浮いた表情が、改善されれば文句も無い。
そして、ヴァルトからの手紙は、浜辺ではなく砦に戻ってからゆっくりと読んだらしい。
翌日になって、出て来た彼の表情は満ち足りていた。
すっきりしたのもあるだろう。
目元は腫れぼったかったが、目の下の隈が薄くなっていた。
そして、開口一番。
「………薬をいただけますでしょうか?」
「口調を戻したらな」
こんな感じである。
口元には、穏やかな笑みが浮いていた。
オレの言葉に対しても、目を揺らすような素振りはない。
口調に関しては絶対わざとだろうが、そんな茶目っ気を出せるぐらいには、精神的に安定しているのだろう。
今日も鬼事をするのかと構えていた騎士達が執務室に行くと、彼は抵抗するでも無く連行された。
………いやはや、胴上げのように彼がホールに連れて来られた時には、一体何事かと思ったよ。
噴き出したのは、悪いとは思わない。
だって、ヴィンセントも満更では無さそうだったからだ。
「世話になった。
貴方には、一生足を向けて寝られないかもしれない、」
「………大袈裟なこった」
ゲイルを彷彿とさせる軽い掛け合い。
それと共に薬と水を手渡せば、彼はそれを不味そうにしながらも飲み干した。
そんな表情もゲイルと一緒だな。
彼も『闇』属性を持っていたのは知っていたので、念の為に砦に来る前に飲ませて置いたが、同じような顔をしていたものだ。
閑話休題。
ヴィンセントが薬を飲んだ途端、大歓声が上がった。
一瞬、爆発でも起きたのかと思う程の大音声。
昨日と同じく、むさくるしい男達の揃いも揃った大歓声であった。
騎士達がどいつもこいつも、小躍りをしてホール内が阿鼻叫喚。
これまた、良い意味で。
そして、これまたヴィンセントも満更でも無い表情をしていた。
………現金なこった。
彼もまた、『ボミット病』の患者だったが、これでやっと南端砦の病人の治療が完了したという事である。
経過観察は残っているが、薬を飲んでくれたからにはもう大丈夫だろう。
おかげで、ここに来て3日目にして、当初考えていた予定は消化出来た。
オレ達も、素直にそれを喜ぶことにしよう。
***
そして、もう一つ。
喜ばしい事は、重なってくれる事もある。
「………済まなかった、ゲイル」
「…あ、…兄上…?」
ホールの阿鼻叫喚を抜け出して、ヴィンセントに引っ張って来られた先。
そこは、ゲイルが休んでいる部屋だった。
今日も朝から体調が優れないのか、顔色は悪い。
ヴィンセントが一緒だと分かると、途端に嘔吐く。
緊張と恐れと、怯えを含んだ彼の表情に、ヴィンセントの表情も強張った。
ただ、今回は仕方ないと割り切れない。
オレも、慰める事はせず、部屋に同席はするが会話に割り込むつもりは無かった。
しばし、お互いが無言の時間を過ごした。
ゲイルの助けを求める視線を感じるも、オレは無視を決め込んでおく。
じゃないと、それが当たり前になってしまう。
………助けて貰って当たり前では、もうダメなんだよ、困った弟くん。
そこで、これまた開口一番に切り出したヴィンセントの台詞。
それが、冒頭の言葉だった。
「私は、お前にとって、立派な兄でいたかった………。
………胸を張り、昔のように背中を追いかけてくれる、そんな兄でいたかった」
少しずつ、語り始めた言葉。
ゲイルは、目を丸めてヴィンセントを見上げていた。
………手に持ったままのごみ箱が、シュールだ。
「だが、砦の実情と、討伐での失態。
オレにはお前に、誇って貰えるような実績も功績も無いと、………見下されるのが怖かった」
だから、遠ざけようとしてしまった。と、そう言って、改めて謝罪を述べ、頭を下げたヴィンセント。
素直になった事で、感情の箍が外れやすくなっているのか。
頭を上げた時、ヴィンセントの目は涙で潤んでいた。
それに、更に目を丸めているゲイル。
呆けた顔が、子どものようにも見えてしまう。
それは、ヴィンセントも思ったのか、柔らかく苦笑のような微笑みを見せて、
「………許せとは、言わない。
むしろ、ここまでお前を傷付けておいて、許せなどとは言えないと思っている」
それでも、と一度言葉を区切った彼。
目線は、オレへと向けられた。
オレは、頷くだけ。
その背中を押すだけで良い。
オレの頷きに大して、意を決したようにヴィンセントも唇を引き絞めた。
そして、
「………遠ざけたかっただけだったんだ。
お前はオレに構っている暇もない程に、必要とされる男だったから、」
そうして、語り始めた理由。
彼に暴言とも取れる言葉を吐き捨てて、遠ざけようとした事。
子どもの頃から、妬んだ事はあれども、憎んだ事は一度も無い事。
そして、同じように託された、兄からの想い。
「ヴァルトの手紙に、お前がどれだけオレ達の事で、気持ちを抱え込んでいたのか良く分かった。
それなのに、オレはお前を身勝手に遠ざけようとしてばかりで、見て見ぬふりすらも、」
そう言って、悔しげに表情を歪ませたヴィンセント。
しかし、それは、ゲイルも同じ。
兄弟揃って、似たような表情をしていた。
「だが、もう、そんな事はしたくない。
出来る事なら、………まだオレを兄と慕ってくれるなら、」
「………兄上」
震えた吐息。
ヴィンセントは、何かを堪える様に唇を震わせる。
ゲイルもまた、涙を堪えていた。
彼の腕に抱きしめられたままのごみ箱が、軋んだ音を立てた。
「済まなかった。
………もう一度、やり直させてくれ」
「………ッ」
ヴィンセントの言葉に、ゲイルの頬から堪え切れなかった涙がころりと落ちる。
こちらも唇を震わせて、言葉を探しているようだった。
だが、口元に浮いた微笑みで、答えは一目瞭然だろう。
きっと、この2人も、もう大丈夫。
お互いがお互いに、大事に思っていたのに、すれ違っていただけである。
そもそも、この兄弟は早とちりと擦れ違いが多すぎると思うんだ。
ちなみに、ヴィンセントも遠ざける為とは言え、言い過ぎだった。
そして、ゲイルも構え過ぎた。
ブラコン兄弟の愛情が、上手く噛み合っていなかった。
だが、その空回りしていた歯車も、今、噛み合った。
オレが中に入る形になったのは、いかんともしがたいとはいえ、これできっと大丈夫。
だが、
「おぇええ…ッ!」
「………何故、吐く」
「あちゃー………」
そう思った矢先に、ゲイルが吐いた。
流石にこれには、ヴィンセントも傷付いた表情をしている。
オレも思わず、頭を抱えてしまった。
感極まっても吐くとか、既に病気を疑うレベル。
いや、精神疾患ではあるけども。
………タイミングが悪い。
「すまな…ッ、ずびばぜ…んぉえ…ッ」
オレ達の呆れた視線を受けながら、結局嘔吐したゲイル。
もはや、これは一種の刷り込みに近い。
………間抜けなのか可哀想なのか、判断に困ってしまった。
いやはや、兄弟の仲直りと関係修復の道は、まだまだ遠そうだ。
***
時間は少し、遡る。
空気が澄んで星空までもが良く見える、月夜の事だ。
そこには、ごつごつとした岩場が、多数存在していた。
海が近いのか、微かに波の音がする。
一見すると洞窟のような場所だが、大きく開けた広場には燦然と輝く月明かりが差し込んでいた。
満点の星空を臨む事の出来る空の下、地面に寝転がっていた男。
丸めた寝袋を枕代わりに、人間の頭と同じぐらいの石に足を乗せ、傍らには酒の瓶を置いて月見酒と洒落込んでいるらしい。
すっぽりとフードまで被った外套姿だが、その外套の上からでも見事に引き締まった肉体を持っている事が分かる。
そんな男の下へと、軽い足音が駆け込んで来る。
「やっと見つけました」
そう言って、その男の傍らにしゃがみ込むのは、黒にも似た藍の髪を持った少女。
年の頃は、12・3歳の、まだあどけなさの残った顔立ちをしている。
今は、そのあどけない顔立ちにも影が差し、口元が膨らまされてしまっていた。
先程の言葉通り、彼女はこの男を探し回っていたようだ。
そんな少々ご立腹の彼女に対して、男はにやりと口元を歪ませた。
「意外と早かったなぁ。
お前なら、もうちょっと時間が掛かるとは思っていたんだが、」
「私だって、もう12です。
そろそろ、師匠の行動パターンだって、分かってきます」
「そうかいそうかい。
んじゃ、オレが次に何をしたいのか、もう分かっているよな?」
「お酌でしょう?」
「………残念、ハズレだ」
少女の回答を残念そうにしながら、起き上がった男。
少しだけズレたフードの下には、頬から耳までの刀傷が走っていた。
酒の瓶の隣には、湾曲した刀身を持ったカトラスも一緒に置かれている。
それを、腰に差したと同時に、男は振り返る。
少女は、がらりと変わった男の雰囲気に戸惑う事なく、彼が持たなかった丸めた寝袋や酒の瓶を手に取った。
単純に慣れているから。
彼女には怯えは無い。
だが、頬に傷のあるフードを目深にかぶった男には、覇気とも断じれる威があった。
見る人が見れば、殺気や怨念とも受け取ったかもしれない。
だが、幸いにして、ここには彼等だけしかいない。
「………砦からの連絡があったんだろう?」
「ええ、その通りです。
だから、師匠を探していたのですから」
「来てるって?」
「ええ、ご推察の通りです」
岩場の続く、開けた広場を淡々と歩く男に、付き従う少女。
交わす会話には、何かしらの主語が抜けてしまっているというのに、成立していた。
それもまた、お互いがお互いに慣れている証拠だっただろうか。
そして、その欠いた主語の意味が分かるのは、当の本人達。
月明かりに照らされた後ろ姿が、広場から洞窟のような岩の裂け目へと消えていく。
その先には、蝋燭の明かりが灯されていた。
潮の香りが充満している。
地下水でも湧き出ているのか、水が滴る音も聞こえた。
「結局、オレ達が直接出張るだけになるとはね、」
「………予想外でしたか?」
「………予想はしていたが、もうちょっと楽しみたかったんだよ。
じわじわと外側から、真綿で首を絞める様に、外堀を埋めながら追い詰めてやりたかった。
アイツには、苦しんで苦しんで、生まれて来た事も後悔して死んで行って貰いたくてねぇ…」
「心中、お察しします」
物騒な事を話しながら、男と少女は洞窟を進み続ける。
そのうち、等間隔で置かれていた蝋燭の明かりが途絶えた時、洞窟内でもまた開けた場所に出た。
蝋燭どころか、カンテラのような魔法具の明かりに照らし出されたそこには、これまた寝袋や酒の瓶、そして食べ掛けであろう食事の類が散乱してた。
岩場ばかりの洞窟内であるにも関わらず、生活感の溢れる空間が広がっている。
そして、彼等以外の先客がいた。
「ありゃまぁ、やっと君の先生、見つかったの?」
「ええ、見つかりました」
これまた外套姿でフードを被った人影が、当たり前のように岩場に腰掛けている。
その右手には、大ぶりのナイフが弄ばれていたが、左手には分厚い肉が乗っけられた皿があった。
ナイフはその肉を突き刺して使っていたらしく、油に濡れて照り返している。
唇の薄い、むしろ唇が無いとも思える口元に浮かぶ笑み。
爬虫類を思わせる長い舌が、ちろりと覗く。
肌の色も人間と違った青白さがある為、魔族である事が一目で伺える、そんな男であった。
「こっちはもう準備が出来てる。
発起人のアンタがいなくちゃ、困るだろうに、」
そう言ったのは、その魔族の男の対面に座っていた青年だった。
同じく外套姿ではあるが、ローブとも言える装束を纏っている為、魔術師である事が伺える。
呆れたような視線を少女に探し回られていた男性に向けて、溜息を一つ。
その青年の手には、今しがたインクが乾いたらしく、魔法陣を描いた布が丸められようとしていた。
「これだけ酒が美味そうな、見事な月が出てるんだ。
洞窟の中に篭ってちゃ、勿体ねぇだろうが、」
「アンタは、年がら年中酒浸りだろう」
男性のお粗末な理由に、これまた溜息を吐いた魔術師の男。
指摘通りではあるが、少し口元を歪めて嗤っただけに留めた酒好きの男性は、そのまま視線を横へとずらす。
そこにもまた、外套とフードをすっぽりと被った人影があった。
見ただけでは性別が判断出来ないまでも、その長身と体付きは相当な屈強さ体現している。
「今回は、アンタも参加すんのかい?」
「………必要であればな」
「そうかいそうかい。
必要が無ければ、帰って良いぜ」
問いかけに答えた声は、篭っている。
しかし、男らしく野太い声に、男性と言うのははっきりとした。
しかし、それ以上の会話は無い。
無口であり、不愛想なこの協力者は、男性たちにとってももう慣れたものだ。
「………。」
更に無口な人間もいるのだから。
返事もしなければ、反応すらもしないのは、膝を抱えた小柄な人影。
これまた外套を羽織り、フードを目深にかぶって表情すらも伺えない人影は、背格好からして少女のようだ。
だが、この世界の少女にしては珍しく、足を露出したり、見慣れない履物を履いていた。
擦り切れて土や汚れで、ボロボロとなっている。
勿論、ボロボロなのは全体的になので、然して気になる要素でも無かったものの、少女からは憔悴とも諦念とも言える感情が滲み出していた。
「………。」
そして、もう一人。
こちらも膝を抱えているが、その下半身は異形であり、魚の尾ひれのようにも見える。
そして、その尾ひれにも似た下半身は、水に浸かったままであった。
湧き水か、それとも近くの海水が染み出しているのか、否か。
岩場の奥にある小さな泉のような場所で、膝を抱える様にして尾ひれを折りたたんだその姿は、お伽噺の人魚を連想させた。
骨格からして、女性であろう。
膝を抱えた腕に頭を埋め、碧とも緑とも言えない髪で表情は伺い知れない。
ただ、先ほどの無口な少女同様に憔悴した様子だというのは、言わずもがな。
この洞窟内には、総勢で7人がいた。
頬に傷のある男。
頬に傷のある男を、師匠と呼ぶ少女。
魔族であろう男。
魔術師の青年。
正体不明の男。
フードを被った少女。
膝を抱える人魚のような女性。
その7名を軽く睥睨した頬に傷のある男が、にやりと口元を歪ませた。
「始めるとするか。
当日は、楽しい夜になりそうだぜ?」
その言葉が、合図ともなっていた。
動き出す。
闇に蠢く、陰謀や策謀が、宵闇に紛れて動き出す。
そこに、慈悲も容赦も、情けも無い。
見つめているのは、夜空にぽっかりと浮かぶ独りぼっちの月だけだ。
そして、その月明かりは、雲に隠されてしばらくは顔を見せる事すら叶わないだろう。
嵐が、近付いていた。
***
相変わらず作者は、男が泣く描写が大好きなようです。
ドSなのでしょうか、………でしょうね。
そして、男の友情もバッチ来いですが、前々から言ってますがロマンスに発展する事はありませんのでご安心を。
怪しいとか、妖しいとか言うのは言われていても、大丈夫。
男同士は、ぶっちゃけハル君だけで十分ですからッ!
今回は、男同士の友情と共に、兄弟の涙涙の感動ドキュメントもお送りしたいと思います。
続きは、またまた明日か明後日辺りに、更新できるかもです。
まとめて休みが貰えたので、きゅっふー!とハッスルする予定です。
………馬鹿な脳内丸出しな作者が通ります。
誤字脱字乱文等失礼致します。
 




