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ミジンコが地球を救う話

ジャンル:エセエフ

 「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺がある。風が吹いて埃が散り、目に入って盲が増え、盲が三味線ひきに転職するから猫が消え、猫が消えればネズミが増えるから桶がかじられて桶屋が儲かる。原因と結果を並べるだけでは全く因果関係のないようなことが、往々にして起きることがあるという教えだ。


 さて、ヒロシはごく普通の小学5年生である。彼の居所は日本の中でも田舎に分類される地域であり、近所の田んぼで捕ってきたミジンコを数匹飼っていた。理科の授業で使ったもので、田んぼに帰すにも愛着が湧いたため今もペットボトルで飼っている。最近数が増えた。


 タカシは、ヒロシのクラスメイトだ。彼もまたミジンコを飼っている。ヒロシがミジンコの繁殖に成功したと聞いて、かわいい対抗心を燃やしている。


 タケオは、タカシの兄貴で高校生だ。タカシにミジンコを増やす方法を知らないかと聞かれたが、さすがに知らない。しかし兄としての面目があるので、明日までには調べておいてやるとタカシに胸を張って見せた。


 ヨーコは、高校の図書委員で、図書館の貸し出し受付の当番の日だった。彼女の通う高校の図書館はなかなかの蔵書量を誇ったが、遊び盛りの高校生ばかりであるからして図書館に人はまばらである。彼女のクラスメイトであるタケオに頼み込まれて、図書の貸し出し管理をしているパソコンを少しだけ調べものに貸した。タケオが帰った後に履歴を調べてみると、彼はどうやらミジンコの飼育方法を調べていることがわかった。


 アケミは、大学生である。ヨーコとは、SNSを通じた友人であった。「今日、男子生徒が調べ物をしたいというからパソコンを貸したら、ミジンコの飼育方法を調べていた。変なの」というヨーコの呟きに、とりあえず「なにそれウケる」とリプライを送る。「私も気になったからなんとなく調べてみたんだけど、ミジンコって雌同士で子供を作るんだって」というリプライが帰ってきたので、「なにそれ百合じゃん」とリプライを返した。アケミはいわゆるオタクである。


 ユウタロウは、大学生である。アケミの彼氏だ。付き合ってかれこれ2年になる。卒業論文のテーマ決めに悩んでいた折にアケミから電話が来て、くだらないおしゃべりをした。「知ってる? ミジンコって、雌同士で子供を作るんだって」と、どこで仕入れてきたのかもわからない、どうにも返答に困るネタを振ってきたので「雌同士で子供を作るんじゃなくて、メスが単体で自分のクローンを作るんだよ」と間違いを訂正しておいた。なんとなく彼は、卒論のテーマをミジンコの研究にしようと決めた。


 ハヤサカは、とある大学の研究員で、宇宙開発についての研究を行っていた。年の離れた友人であるユウタロウと飲みに行ったとき、彼が卒論のテーマをミジンコにしたというのを聞いたので、酒の勢いもあって「宇宙空間でミジンコを飼育した場合どうなるかを研究してみたらどうだい」と口走った。幸い、ハヤサカは民間でロケットの打ち上げ実験をしている団体に伝手があった。


 タケウチは、民間宇宙開発団体の代表だ。本業はちいさな機械部品工場の社長である。彼が近隣の弱小企業の工場主たちと結成した宇宙開発団体は、すでに4回のロケット打ち上げに成功している。ハヤサカはタケウチにとっては弟分のような存在であり、ちょうどいい機会だと彼の友人の研究のために5回目のロケットの打ち上げを快諾してくれた。


 カキザキは、タケウチの本業である機械部品工場に頻繁に仕事を発注している、とある大企業の社長である。「5回目のロケット打ち上げ計画の話を聞いた、資金提供をするので是非一枚かませてくれ」との打診があった。毎度のことなので、タケウチも快諾する。カキザキは彼は毎回、自分のポケットマネーでタケウチらに協力している宇宙マニアであった。


 カナコは、カキザキの娘である。結婚をして、今はアメリカで主婦をしている。日本の父から「またロケットを打ち上げるから、そちらの家族を連れて旅行と里帰りがてら観に来てはどうか」という電話があった。「前回の打ち上げはキャシーも楽しんでいたし」とカナコは乗り気であるが、夫のスケジュールが未定だったので保留の返事を返しておいた。カナコは確認のため、夫に電話をかけることにした。ちなみにキャシーとはカナコの娘である。


 エドワードは、カナコの夫である。さる研究機関に勤める科学者だ。彼はとある重大な実験に立ち会うためにハイウェイを運転中だったが、そこでカナコからの電話をとってしまったのを運悪くハイウェイパトロールに見つかって切符を切られる羽目になってしまった。手早く済ませようと車外に出て書類にサインなどをしていたら、後ろから突っ込んできたトラックが彼の車を盛大に跳ね飛ばした。不幸中の幸い、車外に出ていたエドワードもポリスの方々にも怪我はなかったが、彼の車は滅茶苦茶になり、とてもではないが今日の実験には立ち会えない状況となってしまった。彼は研究所に事の顛末を説明する電話を入れた。


 さて、エドワードのかかわっていた重大な実験とは、すなわち粒子加速器を用いたマイクロブラックホールの生成実験である。エドワードが実質的な指揮を執る立場であったため、この日行われるはずだった実験は後日へと持ち越しになった。

 そしてそのまま、実験は中止された。

 それはあまりにいきなりの通達であり、エドワードを含めた科学者は大いに困惑したのだが、いつしか科学者の中で、「マイクロブラックホールが想定通りに蒸発せず、あまつさえ成長を続け、しまいには地球を飲み込んでしまった。そんな"未来からもたらされたメッセージ"に、上は動かされたのではないか」という奇妙奇天烈なうわさが飛び交うようになった。ソースも何もない、あまりにバカバカしい風説である。


 しかしもしそれが本当であったならば、数匹のミジンコが巡り巡って地球を救ったということになるのではないだろうか。


 まあ、あまりにバカバカしい話である。


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