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Sweet_Song_ABC_00

ジャンル:終末×ロボ

――西暦2019年5月30日。僕らはたぶん、その日を忘れない。



 初夏の兆しが見え隠れする空にはいっぺんの雲もなく、高く澄んだ空は見上げれば宇宙まで見渡せそうな、そんな快晴の今日。

 東京の空が晴れ上がったのは、じつに3年ぶりだ。

 ここ数年、東京は環境の悪化と地球温暖化の影響で厚い雲に覆われていたため、朝からしきりにテレビで取り上げていた。なかには更なる異常気象の前触れと危惧する気象博士もいたが、正直なところ住民は久方ぶりの日差しを謳歌するものばかりだった。


「平和だな……」


 そんな都内、とある公園。スケッチブックを広げ、ベンチに腰掛けた一人の青年が空を見上げて呟いた。

 快晴の空に一筋の飛行機雲が流れていく。ずっと曇りだと見ることのできない景色で、青年は少しの懐かしさを感じながら、スケッチブックに筆を走らせる。


「よー、志村。はかどっとるかー」


 不意に声をかけられ視線を向けると、体重百キロを超える巨漢がわきに画板を抱え、コーラの瓶を二つ持って立っていた。志村にとっては、知った顔だった。


「竹内、お前もスケッチか?」

「おう。絶好のスケッチ日和やからなあ」


 竹内は、どっこいせと青年の隣に腰を下ろした。コーラを一本押し付けるように志村に寄越すと、さっそく栓を抜いて煽る。志村は小さく「さんきゅ」といい、同様にコーラを煽った。どこからどう見ても体に悪い真っ黒な液体が、たまらなく美味しい。


「で、お前さんは何を描いとんがや」

「空だよ。久しぶりに晴れたからさ、描きとめとこうと思って」

「空か。ええやん、俺もそうしよ」


 竹内もスケッチブックを広げて、快晴の空を見上げた。先ほどまでひとすじだった飛行機雲が、ふたすじに増えていた。


「へー、飛行機っつうのは、こんな飛んどるもんなんやなあ」

「おっ、またひとすじ増えたね」


 なんてことを言いながら二人が筆を走らせつつ空を眺めていると、遥か青空の隅のほうで、何かがきらりと光った。





// Sweet_Song_ABC


[Story__00]





『志村! 馬鹿野郎なにボーっとしてる!! 4時の方向、数2!』


 戦闘指揮車両からがなりつけてくるのをインカムで聞く。志村はとっさに我に返ると、即座に自機の頭部にすえられた砲塔を旋回。取り付けられていたOS用ガトリング砲2門が40mm特殊徹甲弾をばら撒いた。志村機に襲いかかろうとしていた異形の機械は次々と穴を穿たれ、それはきりもみするように地面に倒れると同時に爆発炎上した。


「ハァッ、ハッ……」


 激しく心臓が跳ねる。

 どうやら危機的状況は回避したようだが、まだ気を抜けるような状態ではない。

 しかし、戦闘中に意識が飛ぶとは何事かと志村は自省する。まだあの日々に未練があるということだろうか。それとも、いずれ奪い返さんとする意識の現われか。なんにせよ余計な感情を頭を振って払うと、モニタに意識を落とす。


「僚機健在、ガトリング残弾200発、マガジン2……敵は30か」


 レーダーの赤点、敵をあらわす表示をにらみつける。この数ならば何とかなるだろう。


『援護すっぞ! 一番機、射線から退避せえ!』


 手近な一体に狙いをつけたところで、野太い声の通信がはいる。よく聞き知った声だ。なるほど、見れば敵機はこちらに密集しているようだ。それならば「あいつ」の出番だろう。

 踵のローラーを全速で逆転。ひび割れたアスファルトに轍を刻んで、一気に後退。

 それにぴったり合わせたタイミングで彼方から飛んできた熱量を持った光が、周囲に展開する敵機を数体まとめて貫いた。


「サンキュー!」


 志村はその光が飛んできた方向に一瞬意識を向けて謝辞を述べる。望遠で見なければわからないほどの距離、トレーラー上部に脚部を固定した竹内のOSが、肩部と一体になった大型レーザーキャノンユニットを持ち上げて答礼すると、再び他方の敵機に狙いをつける。

 一方志村は逆進させていた自機を再び前進させると、適当な敵に狙いをつけ背後に回りこむ。ガトリング砲が唸りをあげて、吐き出された弾丸を惜しげもなく叩き込む。前面の敵は防御もままならずにたちまち蜂の巣と化し、爆発四散した。


『志村! 側面だ!』


 指揮車から警告が飛ぶ。カメラを向けると、側面から腕部のドリルアームを猛然と回転させた敵機が迫っていた。躱せる距離ではない。


「ちっ!」


 舌打ちひとつ、とっさに左腕でドリルを受ける。金属同士が擦れ合う異音と装甲板がひしゃげ、ねじ切られる音がコクピットに響く。背筋に冷たい汗が流れた。対T粒子塗装が施された装甲をもってしても、運動エネルギーと回転のエネルギーを一点に集中させた攻撃は防ぎきれない。


「くそっ」


 悪態を一つ吐き捨てて、手早くステータスチェック。左腕はもうだめだ。伝達系が完全に死んで、ただのデッドウェイトに成り下がっている。志村は迷わず左腕の接続を解除するコマンドを打ち込むと、同時に右腕の振動ブレードを展開した。

 左腕を力任せに振り払い、敵のバランスを崩したところをわき腹に当たる部位から逆袈裟に切り上げる。接続が解除された左腕は完成に従って吹っ飛んでいき、周囲にいた敵機の一つを巻き込んで爆発した。左腕のエネルギーパック(増槽)がT粒子対消滅反応を起こしたのだろう。嬉しい誤算ではあるが、敵1体と左腕1本ではいささか釣り合いが取れていないのも事実だ。

 切り払われた敵機を蹴り飛ばすと、切断面にそって真っ二つになりながら爆発四散した。


「っち……またフミに文句言われるな、ったく」


 口汚い整備班長の顔を思い出して、志村は少しばかりげんなりとした気分になった。




『指揮車両から第1小隊各機、当区画の敵殲滅を確認。直ちに撤収作業にあたれ』


 そのおよそ10分後、戦端が開かれてから120分後に戦闘は一応の終息を見た。第1小隊の損害は、志村木の左腕大破のみ。戦果としては上々であるが、志村にとっては至らぬ点の多く感じられた戦闘となった。とはいえ隊員(仲間)全員が全く無傷で戦闘を乗り越えることができたのだから、それだけで良しとしようと志村は無理やり自分を納得させた。


 撤収作業の最中。ふと見回してみれば、あたり一面に広がるのは砕けたアスファルトと倒壊したコンクリートの織り成す灰色の大地。退廃と黄昏だけを感じさせる、かつて新宿と呼ばれたその街に、人の息吹は感じられない。

 そして、無残に散らばったいくつもの鋼色の瓦礫に、それを踏みしめて立つ鋼色のロボット。

 OS(Offence-Striker)と呼ばれるこの三メートル強の巨人は、滅亡へ向かう人類を守る盾であり、人類を救うための最後の剣だ。


 沈みかけの太陽が、この瓦礫だらけの街を、OS達を真っ赤に染め上げる。黄昏の光が西の空に消えていく。まるで人類の今を投影しているかのように、それは力強く儚かった。





 あの日、全てが消えた日から5年。人類という種は風前の灯となった命を、身を寄せ合うことでなんとか存えさせている。

 あの日、栄華の極みにあった人類の文明が一瞬のうちに消え去ったあの日。

 突如として崩れ去った都市。瓦礫の山と灰色の大地に現れた、人類の天敵、異形のマシン軍団。なすすべなく蹂躙された人類は、今や滅亡の淵まで追いやられていた。

 人類はそのもてる英知を集結させて新兵器を産みだし、それによって何とかマシン軍団への反抗を続けていた。


 希望の未来を掴め。栄光の過去をとり戻せ。、


 終わりの見えない戦いは、今日も続いていく……

※続かない

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