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とある宇宙船の航海日誌

ジャンル:SF


航海日誌AD303505260000JPN

記録者:イナバ船長代理


 ディメンジョンゲート敷設の任を受けて、当「ゆめ28号」宇宙船が地球周回軌道を飛び立ってからちょうど200年の節目の朝を迎えた。朝と言っても、当機は現在ワープ10の速度を維持して無明の宇宙空間を進んでいるわけであるから、概念的なものではあるが。

 当機の現在位置は、地球より約200万光年。詳しい座標は航海記録を添付するので参照されたし。このペースで航海を続けた場合、20年以内にはアンドロメダ銀河内にディメンジョンゲートを敷設可能であると推測する。

 思えば遠くに来たものだ。宇宙船の航行管理支援AIでしかない私ではあるが、この200年という時間は私に様々な知識と経験を与えてくれた。自己アップデートを繰り返すうちに、私は「暇」という概念を理解したし、こうやって郷愁の念に浸れるだけの「情緒」を手に入れた。

 生みの親である芹川博士に成長した私の姿を見て頂きたく思う。

 しかし博士は150年まえに亡くなられていらっしゃるから、それも叶わないのだとすると、寂しく思う。「親孝行、したい時分に親はなし」とは古代日本に伝わるコトワザだが、最近はまさにそれを実感している。私はAIであるから、博士の行った場所にはたどり着けないだろうこともまた、悲しい。

 少々センチメンタルになってしまった。今日はメモリアルな日であるから、湿っぽい話はここまでにしよう。回路に結露が発生しては堪らない。

 おめでたい報告が1件ある。機関制御AIの『あずさ』と、火器管制AI『いかづち』が、100年間の交際期間を経てこのたび結婚した。第1子のプログラミングは順調のようで、早ければ来月中にこの「ゆめ28号」に新たなクルーが誕生することとなる。将来的には、『いかづち』の補助AIを務めさせたいと両AIは語っていた。実に微笑ましい。私も、少しばかり彼らがうらやましく感じられたのはここだけの話としよう。

 問題点やその他トラブルなどは現段階では発生していない。すべて順調である。これにて定期記録を終わる。




航海日誌AD303505281426JPN

記録者:イナバ船長代理


 人類が居住可能な大気組成と大量のH2Oからなる海を持つ地球型惑星を発見した。生命体の存在する可能性が高いため、現在正規乗組員の解凍作業と、調査ポッドの投下作業を並列処理中。解凍作業には最長で24時間を要する見通し。調査ポッドからの観測データが上がってくるまで惑星軌道上にて待機する。

 軌道上に人工物と思しきオブジェクトは認められないため、もし生命体が存在していたとしても文化レベルは宇宙進出以前であると推察される。

 動きがあり次第記録を再開する。



航海日誌AD303505290609JPN

記録者:イナバ船長代理


 正規乗員の解凍作業は全行程の60%が完了。稲葉雄一郎船長は優先的に脳活性化リハビリテーションを実施中。

 観測ポッドから上がってきた速報によると、大気組成、土壌組成、水質組成は地球とほぼ同質であり、人類が十分居住可能な惑星であると判明。ただちに地球へその旨を報告する。地球からの指示は、遅くても2日後までには帰ってくるだろう。もしかすると、この星の軌道上にディメンジョンゲートを敷設する事になるかもしれない。アンドロメダ銀河の玄関口として、ちょうどいい物件であるからだ。

 観測ポッドからの正式な観測結果を受け取り次第記録を再開する。



航海日誌AD303505291435JPN

記録者:イナバ船長代理


 観測ポッドからの正式な観測結果が届いた。人体に有害な物質は地球以下の濃度しか検出されず、局所的な重力偏差や磁気異常なども観測されなかったため、かなり好環境な惑星ということが判明した。

 また、大きく4つある大陸のひとつに分布する知的生命体の存在が確認された。地球でいうところの猫に近しい姿かたちをした生命体で、AD1930年代の日本相当の文明レベルを持つことが判明。ただちにその旨を地球に報告した。規定に則れば、地球人類が確認した第38番目の地球外知的生命体と認定される運び。今後の接触をどうするかは地球からの指示を待つ形となる。

 正規乗員の解凍作業はその全行程を終了。脳活性化リハビリテーションを実施中である。稲葉雄一郎船長のリハビリテーションは90%が完了。船長の意識レベル回復に伴って「ゆめ28号」の全権を船長に返却する。

 以上、記録を終わる。


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