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国王視点

走る。

一心不乱に走る。

他の者は何も目に入らない。

ただただ、手放してしまった大切なものを取り戻すために走り続ける。

城下町の質素な家。

ここが彼女の生家。

軽く息を整え、ノックをする。

こんなに緊張するのはいつ振りだろうか。

返事はない。

寝ているのか?

試しにとドアノブを捻れば、軽い音を立ててドアが開いた。

不用心な。

家の中は真っ暗。

人がいる気配はない。

おかしい。

「えええ!?ここここ国王様!?」

後ろで派手な音が聞こえた。

振り返ると、倒れた椅子のそばで男が腰を抜かしていた。

彼女の父だ。

「夜分遅くに失礼します。娘さんはどこに?」

「え?娘はさっきわたしの勤め先に来て、新しい勤め先に行くと…」

「どこに!?」

「へぇえ!?そそれが親戚のところなのですが、わたしは滅法嫌われていまして教えてくれなかったんです。私に教えないというのも雇用契約に入っていたみたいで…」

俺の気迫におびえているのがわかるがこちらも必死なのだ。

しかし彼は本当にわからないらしく、目じりに涙を溜めながら謝罪してくる。

いかん、これでは脅迫だ。

「すまなかった。居場所がわかれば連絡してほしい」

「はい…。あ、あの!」

ドアノブに手を掛けた状態で振り返る。

「娘は一体何を…?」

なるほど。

何かわるいことをして追われていると思ったのか。

国王自らが出張ることもそうそうないしな。

「私が彼女を愛しているだけだ」

「…へ」

王宮への道すがら俺は自分の愚行を思い出し、苦い気分になった。

占いでの伴侶選定。

愚行としか言いようがないが古狸たちの猛反対にあい、いまだに撤廃できていない。

俺自身は伴侶候補ではなく、気の合った貴族の令嬢と結婚したが。

息子の伴侶候補として王宮へやってきたのは、息子より2歳年上の少女。

当時俺は34歳。

2年前に病気で妻を亡くし、以来仕事に生きてきた。

少女はどことなく大人びた子で、子供らしくないなと生意気に思ったりしたものだ。

…あの姿を見るまでは。

それは彼女が王宮に住み始めて1年たった頃。

書類仕事に疲れた俺は息抜きに夜の庭園を散歩していた。

暗くて花は良く見えず、星を見ながら歩いていた。

上を見て歩いていたからか、大分奥まったところまで来てしまった。

手入れはされているようだが花はほとんどなく、茂みばかりの面白みのない場所。

仕事に戻るか…、と興ざめした白けた気持ちでその場を去ろうとしたら小さく声が聞こえた。

この場所のどこかから…声からして泣いているようだ。

若い新入りの侍女が泣いてでもいるのだろうか、と気配を殺し声の方へ近づくと後ろ姿が見えてきた。

こちらには気づいていないようだ。

目を細め、薄闇の中の人物を凝視すると驚くことに息子の伴侶候補の彼女だった。

声を殺そうとはしているようだが、見ているだけで胸が締め付けられるほど痛々しく彼女は泣いている。

衝撃だった。

いつみても気丈で王である俺にさえ臆さない娘が、悲痛に泣いている。

そこには昼間の堂々として大人びた彼女ではなく、ただの弱い一人の少女がいたのだ。

「ごめんなさい……ごめっ…ごめん、なさい……!」

何かに謝り続ける彼女。

慰めることはおろか、話しかけることもできずただそこに居続けた。

それからやけに少女が目に入るようになった。

目つめ続けて気づいたことだが、彼女は笑っているようでも笑っていないことが多い。

控えめに愛想笑いをしているだけ。

心からの笑顔を見てみたいと思っていたころ、望まぬ形でそれを見ることができた。

騎士団副団長の男と話しているときだった。

会話は聞こえなかったが、自然に笑っていたのだ。

たまらなく悔しかった。

その時点でこの気持ちはごまかしようのないものだと気づかされたが、どうしようもなかった。

彼女は息子の伴侶候補で、俺とは年も離れている。

どうしようもないこの気持ちを押さえつけるため、ごまかすため、亡くなった妻の肖像画の前で無心に見つめたり愛してるといってみたりすることが増えた。

だが今は行動しなかった自分を殴ってやりたい。

手の届かないところに行って分かった。

手放すなどできない。

諦めるなんてありえない。

遅すぎるかもしれないが、彼女が欲しい。

好きな男がいようと関係ない。

必ず俺に振り向かせてみせる。

尻切れとんぼで申し訳ない。

この後副団長は娘さんの居場所を隠してたってことでめちゃ怒られます。

娘さんに会いに行った国王様はきっと娘さんの誤解を解くことに必死でしょうね^^

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