副団長視点
この国には変わった風習がある。
占いで王族の伴侶を選び出し、できるだけ選んでもらえるよう5年を近くで過ごすというもの。
俺が騎士団副団長(もうすぐ昇進予定)しているときに王宮で過ごした伴侶候補は、ちょっと変わり者だった。
伴侶候補が女だった場合、大抵は王子様と結ばれたがるか王宮で働く貴族に色目を使うか…とにかく権力や財力を持った男とお近づきになるのに躍起になる。
なんでこんなこと知ってるかって言うと、幼いころに散々見てたからだ。
俺は父が騎士だったこともあって、小さい頃から騎士になるのが決まっていた。
まー、俺も体動かすの好きだし文句はなかったけどな。
伴侶候補は父はもちろん、色んな男にいい顔してた。
子供だったおれの前では時々素が出ちまってたがな。
そんなわけで俺は学んだわけだ、女は権力が大好きだってな。
今思えばそいつだけがそうだったのかもしれないが、子供にはしっかりトラウマとなって染みついたのさ。
しかし今回の伴侶候補は違った。
愛想よく接しはするが、必要以上にはかかわらない。
媚を売るなんてもってのほかだった。
一度貴族の令嬢にいびられていたが、その時のセリフはある種の感動さえ俺に覚えさせた。
「媚?そんなもの売る暇があるなら勉強してるわ。あなたたちと違って、私はここを出た後自分の力で生きていかなきゃいけないの。権力?それが何。それは私を幸せにしてくれるのかしら」
王子とも誰とも結ばれる気はなく、ここを出ていくことが前提の言葉。
権力だけが幸せとは限らないとわかっているからこそのセリフだ。
令嬢は言い返されたことに唖然として、立ち去る彼女を止められなかった。
偶然この場を見てしまった俺は俄然興味がわいた。
知り合った彼女はやはりちょっとずれていて、面白い人間と言わざるを得ない。
「慕う方がおります」
王宮での暮らしも悪くないように見えたが、奴は突然出ると言い出した。
伴侶候補の恋愛の妨害はしてはいけないので、奴を止められる者はいない。
言うだけ言って王の許可を得ると奴はさっと身をひるがえし部屋から出て行った。
「待て……」
小さな小さな呟きを聞いたのは俺だけだっただろう。
何を急いでいるのか、奴はその夜早速王宮を出て行った。
荷物は必要最小限で、めっちゃ少ない。
王から実家までの護衛をひそかに命じられた俺は、偶然を装って同行する。
カマをかければあっさり引っかかった。
すこしらしくない。
きっと本人は自覚してないが頭の中はいっぱいいっぱいなんだろう。
しかしコイツの本命が国王とは意外だった。
年齢的におやじ萌えとかいわれてもおかしくないが、国王は36歳とは思えないほど若々しい。
剣なんていまだに騎士団長とやりあえるくらいだ。
年の差婚何て珍しくもないが、こいつがここまで絶望的になるってことは何か根拠があるんだろう。
一体何を見てしまったんだか。
気にはなるがちょっと思うことがあった俺は早々に奴を解放して王宮へ帰った。
泣きたそうな顔してたしな。
大分夜も遅いが国王に報告をしに執務室へ。
「無事送り届けてまいりました」
「そうか、ご苦労。すまないな、仕事を増やして」
「いえいえ。一応友人ですから」
「そうだな…」
そんな悲しそうに言われるとほっとけないっしょ。
「王?どうかされましたか?」
「いや…お前は友人なのだな、と思ってな」
ははーん。
自分は友人ですらない伴侶候補の父だから、友人になれる俺がうらやましいと。
そんな悲愴的に悔しさにじませながら言われたら、あいつの話聞いた後じゃあ丸わかりですよ国王サマ。
「待て…」でちょっとそうかなーと思ったんだが、これなら大丈夫そうだな。
「今から1分休憩です」
「は…?」
「あいつ、国王のことが好きらしいですよー」
「なっ…」ガタッ
「バッカですよねー。娘くらいにしか思われてないとかー、まだ王妃様を愛してるからとか?ほんとあいつらしくない馬鹿ですよ。恋愛となると人は変わるんですねー」
王妃様のことは俺の予想だ。
でもあいつ時々漏らしてたからな。
『国王様って王妃様思いよね』とか。
「あ、1分終了です」
「…お前に追加の仕事がある」
「はい」
「私の代わりにここに座っていろ。宰相が来たら適当にごまかせ」
「うぇ!?それ…!」
「任せた!」
即実行なところはあいつと似てるな。
言うなり国王は部屋を飛び出していった。
結構な音だったから直に警備の奴や口うるさいじいさん宰相がくるだろう。
全くはた迷惑な。
豪華な造りの椅子にどっかり座って、俺は言い訳の言葉とからかいの言葉、そしてお祝いの言葉を考えていた。