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VRまおー様!  作者: 義雄
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第零話 まおー様の初陣

ごろごろしながらのんびりゆる~く楽しんでください。

 人、人、人。

 鋼色の煌めきが峡谷の狭い地を進軍している。

 俺は城のバルコニーからその光景を見下ろしていた。


「くっくっくっくっく……」

「あの、魔王さま?」

「はぁーはっはっはっはっは!!」

「絶望的過ぎて笑うしかないとか?」

「バカ、様式美だ」


 身に着けている感覚がないほど軽い、黒の鎧。

 名前を聞いたこともない生物の皮から造ったらしいマント。

 そして腰には圧倒的存在感を放つ無骨な長剣。

 これらを装備した黒髪黒目の偉大な存在、すなわち俺様だ。


「大口あけて笑ってる場合じゃないと思うんですけど……」


 人が気分よく笑っているのに茶々を入れてくる悪魔らしからぬ悪魔っ子なんぞ無視だ無視。

 悪魔のくせに貧乳とは何事か。


「お前は豊胸体操でもしてろ」

「ひどッ! 気にしてるのに……」


 背中に生えたコウモリの羽根をしょんぼりさせてるが、知ったこっちゃあない。

 なんたって俺は魔王だからだ。


「さて、何人くらいいるものやら」


 五十か百か、ひょっとすると二百人を超えているかもしれない。

 そのくらい城を包囲する軍勢は多く、なるほど律儀に豊胸体操をはじめたへっぽこ悪魔がビビるのも無理はない。


「ガイコツ軍団を正門前に出せ」

「さん、しー。あ、はい」


 だがしかし、俺の率いる軍勢は五千を超える。

 ガイコツ兵どもは折り畳み可能で、さほど大きくない城内にたくさん収納できるのだ。

 無論食事も必要ないので維持費もほとんどかからない、素晴らしい。


 大きな音を立てて堀に跳ね橋がかかる。

 その上を曇天の下でも真っ白な骨々軍団が粛々と行進していく。

 スペース的に千も出せなかったが、十分だ。


「くくくくく、人間どもを見ろ。絶望の表情を」

「……絶望、してますか?」

「え、してないの?」

「してるようには見えませんね」


 一瞬思わず素に戻ってしまった。

 マントから取り出した双眼鏡を覗き込んでみると、確かにまったく絶望していない。

 むしろ目つきがぎらぎらと輝いている。


「いや、戦争は数だ。五倍以上の兵力差を覆せるはずがない」

「あの……それなんですが」

「問答無用! かかれガイコツどもっ!!」


 俺の号令で一斉に骨っ子たちは駆けだした。

 人間どもは動かない。

 戦において衝力は非常に重要だ、と昔本で読んだことがある。

 勢いのついたガイコツ兵と迎え撃つ人間、攻撃力の違いは明らかだった。


―――鎧袖一触―――


 そんな四字熟語が相応しいほど清々しい結果が目の前に広がっている。


「え……?」

「ガイコツは折り畳みできるから衝撃にも弱いんですよ。盾で一発殴られたら頭がい骨が吹っ飛んでそれ拾いにいっちゃいますし」

「なにそれ」

「言ってませんでしたっけ?」

「聞いてない!!」


 この役立たず悪魔にどんなオシオキをしてやろうかと考えている間にもガイコツたちはガスガス盾で殴られていく。

 五倍以上も差があったはずが、もう同じくらいの数しか戦っていない。

 対する人間どもは、あからさまに貧弱そうな装備をしているヤツらだけが消えて、残るは五十くらいといったところ。

 だがそいつらが強い、スリムな骨たちなど相手にならないようだ。

 あっちこっちに転がっていく頭を追いかけるガイコツ達はシュールだった。


「くっそー」

「どうします?」

「犬人間部隊は」

「ガイコツとそんな変わりませんよ」

「じゃあ猫人間!」

「あいつら嬉々として捕獲していきます」

「……切り札の竜人間」

「休暇で故郷に帰ってます」

「なんだそりゃ!」


 どいつもこいつも使えないったらありゃしない。

 ここは一つ、やるしかあるまい。


「俺が出る」

「魔王様……死んじゃいますよ?」

「死ぬかバカ!」

「でもでも、逃げた方が……」


 黒髪の悪魔っ子が寂しそうな目で俺を引き留め、さらには敵前逃亡を促してくきた。

 NPCのくせに、なかなかどうしてぐっと引きつけられるものがある。

 しかし、情にほだされるわけにはいかない。

 月給三十万という破格のバイト代がかかっている。

 それに俺は絶対負けないという確信があった。


「心配するな。魔剣『チート』がある限り俺は無敵だ」


 すらりと鞘から抜き放った魔剣は、無骨を通り越していっそ手抜きといっていいほどシンプルだ。

 最初の村や町で三番目くらいに強い武器として売っていてもおかしくない。

 グラフィックにもっと凝れよとは思うが、逆にこれ以上ない頼もしさを感じさせる。


「とうっ」

「魔王様!」


 高さ二十メートルはあろうかというバルコニーから颯爽と飛び出す。

 軽く飛んだだけなのにぐんぐんと飛距離は伸び、跳ね橋の上に音もなく降り立った。

 ガイコツどもをしばいていた人間の視線が一斉に集中した。


「アレが魔王……」

「見た目は普通だな」

「所詮は過疎狩場の再活性ボスだろ」


 好き勝手ほざいてくれる。

 ざわざわと囁き合うだけで奴らは俺に近づこうとしない。

 『チート』をまっすぐに突きつける。

 良く聞こえるように大きな声で、だが皮肉気に言葉をかけてやろうじゃないか。


「かかってきなチキンハートども」


 挑発してやると反応がガラリと変わった。

 面白いくらいに驚いた顔をしてくれる。


「口、悪ッ!」

「てか喋るボスって初じゃね」

「……誰が声あててるんだ?」


 それでも近づいてこない有象無象を差し置いて、三人の男女が歩み出す。

 一人は褐色の肌に巨大なハンマーを担いだ渋い大男。

 その傍らに体が丸ごと隠れる長方形の盾と、俺の持つ『チート』よりよっぽど装飾にこった剣を持つ金髪イケメン野郎。

 二人の背後には白いフード付きローブに杖を構えた小柄な女。


 この説明だけだといかにもカッコよさげに聞こえるだろう。

 だが違う、眼の色が違う。


「レア武器……」

「新盾……」

「魔法書……」


 亡者の瞳っつーのはこのことか。

 とにかくヤバ気な雰囲気をぷんぷん放っていた。


 じりとイケメン野郎の足が動く。


「どりゃぁっ!」


 でっかい盾など関係ないと言わんばかりの跳躍だった。

 高い、そして速い。

 だが、俺の前ではすべてが無駄!


「まおうさまサンダー!」

「なにッ!?」


 『チート』の剣先から巨大な轟雷が放たれた。

 空中で回避もままならずイケメンは呑みこまれる。

 あとには何も残らなかった。


「い、一発!?」

「盾持ち一撃とか反則だろ!」


 仲間の悲劇に怯えたのか、二人はすぐさま逃げ出そうとする。

 だがしかし、逃しはしない!


「まおうさまファイアー!」

「くっ!?」


 黒髪の巨漢は赤々と燃える炎で包み。


「まおうさまアイス!」

「無理よこれ!」


 白ローブの女は氷山で押しつぶす。

 この間わずか十秒、愚民どもはバカみたいに口を開けて固まっていた。


「ランカー瞬殺って……」

「ムリムリムリ!」


 潮が引くように人間が逃げていく。

 俺は無理に追いかけたりしない。

 なぜなら待ち構えることこそ魔王っぽいからだ。

 理由はもう一つある。このゲーム、死亡時のペナルティとしてその日はもうログインできない。

 ゲーム内に恐怖を振りまくためには生かして帰す必要があるのだ。

 そして、案の定逃げ出す奴らとは逆に突っ込んでくる愚か者もいる。


「デスペナなど恐れぬ!」

「カミカゼアタックじゃ!」


 こんな輩がいるからこそ魔王にも張り合いが出るってもんだ。


「その意気やいさぎよし!!」


 時代がかった言葉も今は恥ずかしくない。

 こいつらの心意気に応えるためにも、一撃でカタをつける!


「まおうさまスラッシュ!」


 奔る銀閃と一瞬の交錯。

 俺の少し後ろで着地した二人は、膝から地面に崩れ落ちた。

 身体は光に包まれ消えて行った。


「こんなところか」


 あたりに誰もいないことを確認してから『チート』を鞘に納める。


「みんな帰るぞー。てかお前らちっとは役に立て!」


 いつの間にやら千体分の頭を回収し終えたガイコツ軍団と一緒に跳ね橋を渡る。

 魔王としての初仕事、そして初の凱旋。

 気分はなかなか上々だ。


「魔王様……」

「おうへっぽこ、蹴散らしてきたぜ」


 城門をくぐると、瞳がうるうるしているショートボブのへたれ悪魔が待ち構えていた。


「魔王様ぁ!!」

「うぉっと」

「よかった、よかったですぅ……」


 抱き着いてきた泣き虫悪魔の頭をぐりぐりとなでてやる。

 これが巨乳美女なら慌てたかもしれんが所詮は貧乳。

 俺の琴線には欠片も触れぬのだよ。


「そろそろ邪魔だへっぽこ、離れろ」

「はい……っていうか名前で呼んでくださいよ!」

「めんどい」


 魔王とは偉大なのだ。

 一々部下の名前を把握しているのは魔王っぽくない。

 どちらかと言えばクラブ活動の部長だとか、それっぽい。


「わたしにはヴァレリアって名前があるんですよ!」

「はいはい、てか「ヴァ」っていうのが言いにくい」

「綺麗に発音してるじゃないですか!?」

「ヴァヴァヴァヴァー」

「なんなんですかそれ!」


 きゃんきゃん犬みたいに騒ぐ悪魔っ子を従えて俺は、間大悟(はざまだいご)はため息をついた。



後書きは魔法の解説にあてていきます。


まおうさまサンダー

エフェクト:車を丸のみにできるほどでっかい雷

対象:イケメンorモテ男

効果:即死

説明:雷を司る下位神レヌスは醜い顔をしていた。天界の神々で彼を嘲笑しないものはほとんどいない。同時期に生まれた神は次々と妻帯していくのに対し、彼はいくら求婚しても女神から鼻で笑われるか、ひどいときには罵声を浴びせられた。しかし、そんな彼に優しくする女神が一人だけいた。さほど美しくはない女神だったが、レヌスは彼女にどんどん心惹かれていく。そして求婚しようと決意を固めた日、彼女に婚約者を紹介された。イケメンだった。レヌスは深く絶望しこの世全てのイケメンを呪いながら命を落とした。そんな哀しい神の慟哭の末生まれた魔法が「まおうさまサンダー」だ。殺意と、その他諸々の負の感情がイケメンとモテ男を死に誘う。女性や平均的な容貌の者には一切効果がない。レヌス基準で容姿に恵まれない者が受けるとレベルが五あがる。

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