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作者の恋  作者: 望月宵花
1.日常
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(2)

 香南は学校に残って先生に質問するという理絵と別れ、図書館に向かった。学校は小高い丘の上に建てられており、帰りは楽だが行きがきつい。特に朝、遅刻しそうな日は大変だ。

すっかり通い慣れたこの道を通るのもあと二月程で終わりかと思うと、何となく感慨深くなる。


 学校への大きい一本道の両脇に並ぶ街路樹は全て桜で、今はもの寂しい木々が並ぶ風景も、春になると見事に咲き誇る桜で埋め尽くされる。上園西高校の名物だ。その光景はとにかく美しく、圧倒される。誰が言い出したのか、安易に『桜大路』とも呼ばれている。


 そんな通称・桜大路を抜けた先に、上園市立図書館はある。


 香南はこの図書館が幼い頃からとても好きだった。

丸く高いフォルムの屋根に、少しくすんだ灰色の壁の建物は、よくある一般的な町の図書館となんら変わらない。図書館の規模としてもそう大きい方ではない。

中に入ると年季の入った床が迎えてくれる。外装は何度も塗装し直していてそこそこの美しさを保っているが、内装はあまり手を加えていないため、古めかしい。しかし、手入れが行き届いているため、古臭さより歴史を感じる暖かな雰囲気を纏っている。


 館内は、冬も深まっているこの季節、暖房が程よく効いていて、暑すぎず寒すぎない絶妙な温度に保たれる。職員により常にきちんと整頓されている棚には、種類別に分類された本がぎっしりと詰まっている。数多く並ぶ本のさらに奥に、閲覧スペースが設けられている。毎年受験シーズンは近隣校、つまり上園西高校の受験生で溢れかえっていたが、数年前に高校の図書館が新築されたため、最近は使用者がめっきり減っていた。


 香南は閲覧スペースの一番奥の右端の席に座った。窓際の日当たりのよいこの席が、香南の一番のお気に入りの席だった。使用者が減ったお陰で、香南はいつもこの特等席を確保できることが有難かった。

 学校指定の鞄を置き、席を確保してから厚手のコートを脱ぎ、椅子にかける。

 荷物を置けば、まずは新刊の本棚を物色する。つい三日前に来たところなので、新しい本が入っているとは考えにくい。しかし、香南は図書館に来ると、いつも最初にチェックするのはこの棚だ。新刊の棚はカウンター近くに設置されており、中の様子が見渡せる。

 棚を見ながら、香南は見知った顔を探す。

まだ比較的早い時間だからか、香南の他に利用者は小学校の高学年ぐらいの女の子二人組と香南と同じく常連の山口がいる程度だった。


「こんにちは、山口さん。今日は寒いですね」

香南が声をかけると、山口もこちらに気付き、会釈を返した。山口は小柄な男性だ。すでに、齢八十を過ぎているにも関わらず、若々しい。週に三、四回は散歩がてら図書館に通っているそうだ。香南は丁寧で穏やかな物腰の山口が好きだった。

「これは、森川さん。こんにちは。本当、こう日々寒くてはかないませんね」

そんな世間話を少しした後、山口は別れの挨拶をしてから帰った。


 山口と別れてから、香南はめぼしい本を探して回った。

全体を見回って、前から読みたかった二冊と興味を惹かれた一冊の合計三冊を手に、閲覧スペースへ戻る。鞄の中から別の三冊の本を取り出し、カウンターへと向かった。

「すみません、返却と貸し出し、お願いします」

「はい。少しお待ちくださいね」

香南が言うと、カウンター内で別の作業をしていた司書がやって来て、にこやかに笑って手続きをしてくれた。お互い顔を知っているので慣れたものだ。いつも通り返却日などの注意を聞き、香南は礼を言って軽く頭を下げた。そして、荷物のある閲覧スペースに戻る。


 すると、香南の席の左横の席に一人の少年が座っていた。

香南はその後姿を見止めると、話しかけた。

「塚原君、久しぶりね」

少年は読んでいた本から顔を上げ、声の主を見定めた。

「森川。久しぶり。荷物があるから来ているだろうと、待っていた」

 塚原尚人。香南と同じ上園西高校の三年である。長身で容姿端麗、その上学年一の秀才である彼は、女生徒にとても人気がある。しかし、無口で必要以上話をせず、学校ではほとんど独りでいるため、何を考えているかが分からず、不気味だという者も多い。よくも悪くも目立つ存在で、学校一有名な人間の一人である。


 では、そんな尚人と香南がどうやって出会ったかというと、ただの偶然でしかない。


ご拝読ありがとうございます。

ご感想・ご指摘等々、いただけましたら、大変嬉しいです。

よろしくお願いします。

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