没後七日目
コツコツと薄暗い夜道を自宅へと向かう
ハンドバッグから鍵を取り出し、夜だからなるべく音をたてないよう、そっと滑り込むように帰宅する
暗闇の中、壁をなでるようにスイッチを探り
ぱちん、と明かりをつければ、口からは頭よりも身体で覚えてしまった言葉が出る
「…ただいま」
ばんっ!
「ひっ、」
ばんっばばんっばんばんばん!!!
玄関から続く、廊下の白い壁に血の手形が叩きつけられるように浮き出てくる
「も、こ、こわいんだからそっと迎えてよ!!」
" お か え り "
手形の連続した軌跡を辿れば、それはおかえりと読める
迎えてくれたのは七日前に事故で亡くなった両親だった
しかし、両親にも派手な出迎えには理由がある
おかえりの血痕は、すぅっと消え、次のメッセージが叩きつけられる
ばんっばんっばんばんばんっ!!
" ごめんね まだこまかいうごきも そっとうごくのもできないのよ "
" もうちょっとなれたら ゆびでちもじをかけるとおもう がまんしろ "
「が、がまんっていったって、あたし怖いのダメって言ってるのに!!」
" がまんしなさい "
「…はい」
両親が事故で亡くなったと連絡を受けて、気絶したあたしは
夢枕に立った両親の姿に涙を止められなかった
けれど、二人は葬儀の手順を冷静にあたしに伝え、力を高めるためにお供えものの指定をしてきた
神社仏閣御用達の高級日本酒に果物、穀物
手間隙掛けて手作り精製した塩、味噌、醤油の数々
財布にはじわじわと大打撃だけど、最初 夢枕にしか立つことの出来なかった両親は
次の日には近所の犬猫がじっと見つめてくるようになり、その次の日にはラップ音を出せるほどになり
そして昨日から、こうして手形を付けられるようになった
オーバーアクションでなく、小さい血文字を書けるようになる日も、きっと近い
嬉しいけど、…複雑




