キス
「ね ここ いいんじゃないかしら?」
比較的並んでなさそうな 店を選び2~30分待って 入店
「日焼けが気になるだろう? 俺はこっちに座るから 君達はそっちに座るといい。」
「ありがとう 坂本くん。」
パスタやピザなどや飲み物を頼んだところで
「ちょっと失礼します。」
妹は トイレに席を立った。
「・・・かわいい子ね。 美幸ちゃん。」
千秋がその後姿を目で追いながら呟く
「そう?ありがとう。」
「そう・・・ですって? ちらちら 心配そうにずっと目で追ってるくせに。
そんなに 妹さんが心配?」
苦笑しながら 千秋がこちらを睨む。
「いや だって・・・ まだ高校生だし 今日はあんな 足を出してるし・・・」
(そ そんなに 俺 美幸のこと目で追っていたかな・・・汗)
「足を出してるのは 私だってそうよ。
わたしは 心配じゃないの?」
少し 千秋が口を尖らせる。
「え・・・?」
「クスッ イヤだな~もう 冗談よ。 でも あんまり妹さんを 過保護にしてると 煩がられるわよ。」
千秋は いたずらっぽく おかしそうにそう言った。
「そ そういうものかな?」
ちょっと ドキッとしてしまう。
「美幸ちゃんはそんなことなさそうだけどね。ふふふ。」
「本当に そうだといいけど・・・俺 男だし 歳が離れているし
美幸が 本当はどうしてほしいか どうされるのが嫌なのか
よくわかってないじゃないかって 時々不安になるんだ。」
「嫌だったら あなたのアパートになんか 絶対に 来ないわよ。」
「だよな・・・」
「わたしも 美幸ちゃんに会ってみたいって 理由つけて 坂本くんとデートできて嬉しかったわ。」
「ゴホッゴホッ! な 何言って・・・ゴホッ」
飲んでいた水が変なところに入って ひどく咳き込んでしまった。
「大丈夫?」
千秋は立ち上がって テーブルをまわりこみ 背中をさすってくれた。
「はい お絞り。」
「ごほっ あ ありがとう。」
「んん・・・ゴホッ」
千秋から 手渡された お絞りで口を押さえた。
千秋は さらに背中を撫でてくれたため
まもなく 咳は おさまった。
「・・・ありがと。ふう・・・」
「クスッ 大丈夫?」
千秋の顔がすぐ近くに迫り 俺を覗き込む。
「ああ だいじょ・・・」
やわらかな 唇が一瞬 俺の口を塞いだ
「ふふっ 坂本君 また 今度は二人っきりで来よう。」
と言って笑った。
「・・・千秋。」
きっと その時の俺はトマトよりも赤く
笑えるくらい 固まっていたことだと思う
だから 妹が戻ってきて 少し様子がおかしかったことも
気づけなかったんだ。
「・・・ただいま。」
妹は そう言って 席に着いた。
「おかえりなさい トイレも混んでたの?」
たしかに少し戻ってくるまでに時間がかかっていたような気がした。
「ええ 中で並んでいました。 もし 行かれるなら 早めに行った方がいいみたい。」
「そうね これだけ混んでるし まだまだピザきそうになさそうね。私も 行ってくるわ。」
今度は 千秋が席を立って おれと美幸二人が残される。
「疲れただろ? 朝早かったし。」
「・・・ううん 大丈夫。」
妹は ちらりと俺を見たきり 視線を窓の外に移す。
自然 俺も 外に視線を移し 家族連れや 恋人達を眺めていた。
「・・・私 食べたら 先に帰った方がいいですか?」
ぽつりと 美幸がそう言い出したので一瞬何を言われたのか わからず
「え 先にどうしたって?」
と聞き返す俺。
「兄さんと 千秋さんのデートのお邪魔しちゃ 悪いし 私この後 帰ります。」
「ど どうして!?」
俺は慌てて 立ち上がりかけたが
「どうしてって・・・ 毎回 私と千秋さんのどちらが兄さんの隣に座るかなんて・・・なんだか 千秋さんにもうしわけないもの
私 宿題もあるし 先に戻ってます。」
と俺を制するように腕を掴んで 席に戻るよう促した。
「美幸・・・」
この喪失感は なんなのか・・・?
俺は 千秋にキスされて 舞い上がり戸惑ったこと以上に 妹の美幸が一人 帰ると言った事に ひどいショックを受けている。
「じゃあ 俺も 帰る。」
「え・・・!? 何を言ってるの・・・兄さん。だめだよ 千秋さん がっかりしちゃうでしょ。」
美幸は俺をキッと睨みつけ
「ね? せっかく来たんだもん もう少し 楽しんできてよ。」
と言って 笑った。
キュン・・・
いつから 俺は 胸の奥に 子犬を飼っていたんだろうか・・・?
美幸・・・ お前の笑顔が 今 とても切ない・・・